家に帰ると
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第二章
「負ける分だけあっちに行けよ」
「それで勝つ分はか」
「甲子園に残れよ、けれど今日は勝ったからな」
「よかったな」
「じゃあ今からな」
「御前の家でだな」
「乾杯だ、それで何飲む?」
「ビールだ」
太洸は冷静な声で俊介に答えた、見れば二人の手にはそれぞれ色々とはいっているビニール袋がある。
「御前と同じだ」
「結構買ったな、ビール」
「お互いにな」
「つまみはあるからな」
俊介の家にだ。
「ソーセージとかピーナッツとかな」
「それを食ってか」
「ビールで祝おうな」
「何はともあれ阪神は勝った」
「それも巨人にな」
その戦後日本の忌まわしい病理の象徴であるチームにだ。
「巨人は五位と十ゲーム差の最下位か」
「今年も這い上がれそうにないな」
「五年連続最下位は確定だな」
「いいことだな」
「全くだ、そして阪神は首位」
「横浜や中日が怖いけれどな」
「それでもだ」
「ああ、まだ首位だ」
勝ってその座を維持しているというのだ。
「このまま優勝したいな」
「今年もな」
そんな話をしながらだ、二人で俊介の家まで来た。家は普通の一軒家だ。
その玄関をくぐるまでは普通だった、しかし。
扉のドアに手を当ててだ、俊介は急にだった。
顔を強張らせてだ、太洸に言った。
「鍵がかかってるな」
「何でだ?」
「おかしいな、この時間はいつもな」
それこそというのだ。
「誰かいるのにな」
「お袋さんいるよな」
「それか妹がな」
家にいるというのだ。
「親父はまだ帰って来てないけれどな」
「そうなんだな」
「その筈なんだよ、けれどな」
それでもとだ、俊介は言ってだった。
まずはドアを開いてだ、それでだった。
家の中に入った、しかし。
家の中は静まり返っていた、気配一つしない。
それでだ、太洸に言った。
「おかしい、本当にな」
「誰もいないな」
「どういうことなんだ?」
「携帯に連絡はつくか」
すぐにだ、太洸は俊介にこう問うた。
「そちらは」
「ああ、携帯か」
「連絡取ってみろ」
「そうだな、じゃあな」
俊介はすぐにだった、自分の携帯を出して。
そのうえで両親と妹に立て続けに連絡を取った、だが。
誰も出なかった、電波の届いていない場所か電源が入っていないだった。これには俊介はさらに狼狽した。
それでだ、太洸にこう言った。
「こんなことはないんだよ」
「コンサートとかに言ってるんじゃないのか?」
「それだったら事前に連絡があるだろ」
こう必死の顔で言う。
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