浪速女

　そしてだ、笑顔で言った。
「親戚の娘やったな」
「なっ、そういう娘やったやろ」
「浮気でもなかったわ」
「当たり前や」
　望はそのことを安心して言葉を返した。
「それはな」
「そやな、けどな」
「けど？」
「ほんま驚いたわ」
　実際にだ、千恵美は胸を撫で下ろす顔で答えた。
「まさか真ちゃんが浮気って」
「あんたも浮気はあかんか」
「あかんわ」
　一言でだ、千恵美は言い切った。
「そんなことは」
「そやな、うちもな」
「うちもやで」
　望に続いて亜沙美も言った。
「浮気は御法度や」
「彼氏の浮気なんてな」
「自分もそやけど」
「それはアウトやで」
「やっぱり一途でないとな」
　そこは絶対にとだ、千恵美はまた言った。
「あかんわ」
「そういうことやな」
「そこは」
　二人も千恵美の言葉に頷く、だが。
　ここでだ、望はふとだった。千恵美にこう問うたのだった。
「ただ千恵美ちゃんこの前」
「この前って？」
「炭高の子と会ってへんかった？」
「ああ、あれ」
「あれどないしたん？」
「告白受けたんや」
　千恵美は望にその時のことをありのまま話した。
「付き合って欲しいって」
「そうなん、それで」
「断ったで」
　即座にだ、千恵美は答えた。
「それは」
「糸やんおるからか」
「そやから浮気は御法度やろ」
「一度付き合ったらやな」
「その相手だけや」
　千恵美はここでもはっきりと言い切った。
「絶対にな」
「そういうことやな、うちもそれ聞いて安心したわ」
「相手に一途でおらな」
「あかんな」
「ほなまた一緒にデート行くんやな」
　亜沙美はここで千恵美にこの質問をした。
「そやねんな」
「ああ、今度は食べに行こと思てんねん」
「何食べに行くねん」
「難波やな、また」
　行く場所はそこだというのだ。
「自由軒に蓬莱やな」
「ああ、あそこ行くんやな」
「カレー食べて豚まん食べてついでに北極のアイスキャンデーやな」
「たこ焼きもやな」
「それも忘れたらあかんな」
　たこ焼きと聞いてだ、千恵美は笑って返した。
「やっぱりデートはたこ焼きや」
「青海苔歯についてのキスは気をつけるんやで」
「いや、キスはちょっとな」
　それについてはだ、千恵美は頬を赤らめさせた。一途でもそれでもだ、そうしたことはまだ苦手な様だった。
　それでだ、亜沙美と望にこう言ったのだ。
「もうちょっと先やな」
「何や、それはかいな」
「まだかいな」
「もうちょっとだけな」
　顔を赤くさせての言葉だった、だが何はともあれだった。
　真矢にはあくまで一途だった、一途に彼とのことを考えていた。そして次のデートのことも楽しく考えていた。


浪速女　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１５・３・２６