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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第七章~おつかいを頼まれて~
  第三十三話

 竹中さんに手紙を託されて、中国地方にやって来ました。目指すは毛利元就が支配する安芸の国。
無双だと何かやる気の無い優秀なお兄さんだったけど、こっちはどうかなぁ……一説じゃ、オクラって話も聞いたけど。
つか、オクラが武将って意味分かんないし。

 何か不安になる文を持って安芸に入り、とりあえず毛利の居城は何処かなと考えていたところで
突然兵に取り囲まれてしまった。

 「いたな!? この間者め!!」

 「か、間者!?」

 「貴様、長曾我部の間者であろう!」

 違うってば! ちょーそかべとか不思議な苗字の手の者じゃないってば! つか、長曾我部って誰よ。

 必死に違うと訴えたものの私の反論を聞く間もなく、あっという間に捕縛されて連行されてしまった。
一体何がどうなってこうなったのか、誰か教えてくれたっていいじゃないの。
そう思うけれど私を捉えた兵は無駄口一つ叩かずに実に作業的に連行してくれる。
これは聞くのも無理そうだ、そう思って諦めて連行されることにした。

 とりあえずどうにか毛利の居城である吉田郡山城に来ることは出来た。地下牢に放り込まれたけど。

 ……でもこれからどうしよう。兵は揃って聞く耳持たないし、かといって脱獄するわけにも行かないし。
とりあえず奪われた刀を取り戻してから逃げないと。

 とは言ってもちょっと問題があって……

 「ねー、とりあえず一体何がどうなってここに入れられてるのかくらい、説明してくれても良いんじゃないのー?」

 「煩い、静かにしろ! 出なければ元就様のお怒りを買うぞ」

 そう、話しかけてもこの一点張りでまともに会話がかみ合わないんだ。これがまた。
さっきも話をするだけ無駄だからと思って連行されたんだけどもさぁ、城の中までこんな状態じゃ私も困っちゃってね。
城の中に入れば少しは話の通じる人間もいるかと思ったんだけど、大誤算。
これなら騒ぎを起こしてでも逃げるべきだったわ。

 何かこのまま大人しく掴まってても埒が明かないし、ここはさっさと逃げ出して手紙置いて立ち去った方が
話がややこしくならなくて良いかもしれない。

 それがいい。てか、そうしよう。

 ゆっくりと立ち上がって私は牢に向かって手を翳す。
圧力を掛けて牢を破壊しようとしたところで、不意に複数の足音が聞こえて私は手を下ろした。

 硬直したように固まる牢番に目もくれずに現れたのは、全身を緑の鎧と着物で固めた目つきの鋭い男の人だった。
竹中さんとは違った意味で、また美しい人だなぁなんて思ったけれど、
その人が被っている兜に目が行ってしまい、どうにも顔を集中して見れない。

 ……オクラって言うのは、アレか? ひょっとして。

 濃い緑色に緩くカールする大きな兜。アレをオクラと表現しているのならば、全て納得出来る。
確かにオクラだ。間違いない。

 「……その方が長曾我部の間者か?」

 「違います。私は毛利元就様に書状を預かってきた者です」

 「我に書状だと?」

 やっぱりこの人がオクラ……じゃなかった、毛利元就か。

 私は懐に入れていた書状を取り出して毛利に差し出した。それを兵がすかさず取って毛利に渡している。

 一通り書状に目を通した毛利は、特に何も言うことなく私を解放するようにと指示をした。

 「……使者殿、こちらの手違いによる捕縛であった非礼を詫びよう。書状の内容は分かっておるか?」

 「いえ、中を改めるなとのことでしたので」

 「であろうな。この書状の中身を知っておったら、わざわざここへは来なかったであろう」

 ……それって、どういう意味ですか?

 読めと言われて差し出された書状を手に取り、一通り目を通してみる。
そこには織田信長が討たれた後、豊臣は安芸との同盟を締結したい旨が書かれている。
それだけならば良いんだけど、最近毛利家が頭を悩ませているという問題を解決するための
助っ人を送るということもしっかりと書かれていた。

 助っ人って……どう考えても私のことだよねぇ……。

 あの野郎、私を駒にしやがったな?
キスされてラッキーとか思った私が純粋に馬鹿だった……畜生、二度と策士に揺らぐもんか。
っていうか、手紙届けるだけなのに嫌に気前が良いなって思ったのはこの為だったわけね。
くそ、嵌められた……。

 いやいや、ちょっと待ってよ。それよりもいろいろと辻褄が合わないでしょうが。
だってこの書状を持たされた時、竹中さんは秀吉と出会ったばかりだったんだし。
それに豊臣秀吉じゃなくて“羽柴”秀吉って名乗ってたわけだし……豊臣と組みたいってのはどう考えてもおかしい。

 ……ん? 待てよ? もしかして、私が知らなかっただけで裏で何かしらのやり取りがあったってこと?
そうだよ、考えてもみればいきなり現れた人間に誘われたからってホイホイ付いて行くような人じゃないじゃん。
結構慎重な人だったし、実際に現れるまでの間に何らかのやり取りがあって、
稲葉山城を落としたところで迎えに行く手筈になっていたとしたら、予めこの書状は用意されていたということ……?
しかも羽柴から豊臣に変わることを知った上で書いているってことは、相当な情報を得ているってことよね。

 それに行き当たった瞬間、何だか酷く疲れたような気がしてならなかった。
使者を送ることは決定事項で、実際に送る手駒を誰にするかを決めかねていたところだったんだろう。
そこに私のようなお人よしが現れて、こうして手紙を届けるだろうって分かっていたから利用しようとしたわけだ。
私なんか豊臣にとって縁もゆかりもないわけだし、捨て駒にするには丁度いいし。
……キスくらいで絆されたのが癪に障るわ。押し倒すくらいしてやれば良かった、畜生。

 「稲葉山城の件は聞き及んでおる。たった十六人で城を攻め落としたとか。その中に女子もいたとか」

 あー……そこまで噂になってんのか。こりゃやっぱ、しばらく帰れないわ。

 「前置きは良いです。私は一体何をすればいいのですか」

 「詳細を話す前に、そなたが本当に使い物になるかどうかを試させてもらう。
誰ぞ、使者殿から奪った武器を持って参れ」

 その言葉に瞬時に動いた足軽さんを見て、私は何だか軍隊のど真ん中に来たようなそんな気持ちになった。
何ていうか、凄く違和感があるのよね。この人が現れてから。兵達も誰も口を開かないし、主の言葉があるまでは眉一つ動かそうともしない。
動けば静々と着いて行くけれど、それ以外は動きもしないし。

 伊達を基準に物事考えるから良くないのかもしれないけれど、どうも違和感が抜けないというか。
この違和感が何なのかがいまひとつ分からないんだけども。

 ややあって武器を持ってきた足軽に合わせて、牢番が鍵を開ける。毛利に出るようにと促されて、武器をしっかりと渡された。

 もしかして、戦って実力を見るとかそういうアレ?
何かこういう展開、デジャ・ヴ過ぎてもうお腹いっぱいなんだけど……。

 「では、町に行くぞ」

 「は? はい」

 あれ、戦うんじゃないんだ。
何となく毒気を抜かれてしまったような思いを抱きつつ、とりあえず毛利の後を付いて町へと向かうことになった。 
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