東方喪戦苦【狂】
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
弐話 再び踏み出した男
あれから、五年。
懐かしい友人との会話を、ゆったりと座り、狂夜は話に没頭する。
「あの事件からあっちでは5年の歳月が経ちました。
オーダーは壊滅、その後、全ての処理をエイジスが担ってくれました。それに俺や、俺の半身でもある八千代の住まいも用意してくれたんです」
聞きなれない単語に思わず首を傾ける
「半身····?」
「あぁ、そこも話すと長くなるんで止めときますね、それに事件の後で色々な人や物事が変わりました。
白夜は兄さんの意思を継いでエイジスの最高幹部になり、鬼隆は自分の“罪”を償うためにエイジスに入ったり、菜々はあのときにショックで喋ることは愚か、歩くことさえ出来なくなってしまったんです」
狂夜は彼らの事を一人、一人、と思い出しながら静かに聞く。
その会話の中に、どこか、骸の瞳に、寂しさを見出してしまった。
「そんな暗いニュースより、お前の事が聞きてぇな、骸」
狂夜が気を回したのに察したのか、骸は微笑し、話を進める。
「は、はい、そうっすね、俺の事と言いますと、友人が出来た事、位ですかね」
「へぇ、名前は?」
「瀬賀 風鈴って名前で、彼も能力····というか、俺達の持っている能力とは違う、『ある一つの事に逸脱した能力』って言うのを持っているんです。5年後のあっちでは、その」
その友人の会話の途中、突然口籠った骸に疑問を抱き狂夜はゆっくり問う。
「その、なんだ?」
重い口ぶりで、骸は話す。
「オーダーから回収したある資料に、人為的に狂夜の人外的な力、俺の並外れた生命力を作るっていう計画が進められてたみたいで、その第一号が、何を隠そう白夜だったんです···。それに口籠った訳じゃなくって、問題はここからなんです。エイジスの誰かがこれを完成させようと研究を開始しました。元々完成に近い物だったので、完成させるのに時間はかからなかったみたいです。
そして、その研究員はエイジスの事情聴取を口実に民間人を7人実験に使いました。実験は成功、実験台は期待以上の力を発揮したのですが、翌日、全員半液状の状態で死体で発見されました···その首謀者は行方を眩ましています。」
狂夜はまるで頭が痛いと言うように頭を抑え、「やれやれ」と呆れたように顔を顰めながら言った。
「おいおい、今のエイジスはどうなってやがんだ····」
「ちなみに、俺らのように特別な超能力を旧型と呼び、新しいのを新型、その新型にも自然に身に付く、天然型と人為型がいます。風鈴は天然型らしいですよ。あっ、そうそう、人里の方に芸者とか花魁が彷徨き始めましてね、これがまた、堪らないんですよ。あんまり見てると八千代に睨まれますんであまりみれないんですけど、やっぱり花魁は違いますねぇ」
「お前もおっさんになったなぁ」と狂夜は苦笑する。
真面目な話から一転、たわいない話。
しかし、思い出話もろくにさせてくれないのか、
どこからか流れてくるスピーカーの少し割れたような音が「ピンポンパンポン」と古典的な音を鳴らした後、ゆったりと喋る。
「えー、この度は獄の湯、大焼炙店をご利用頂き誠に、ありがとうございます。えー、お客様にお呼び出しを申し上げます。黒崎 骸様、黒崎 骸様、獄王様がお待ちです。只今扉を開きますので、それを通り、獄王様の元に足を運ばれますよう、お願い申し上げます」
もう一度古典的な音が鳴り、どうやら放送は終わったようだ。
きょとんと骸が首をかしげる。
「···?」
「お前有名だな」
狂夜は茶化すように微笑し、呟く。
瞬間、目の前に人かま一人通れる程度の青白く光る扉が現れた。
「ちょっと兄さん行ってみて下さい」
そう言って、骸は扉に向かって疑問符を浮かべて扉を見ていた狂夜を、脈略もなく突き飛ばす。
「は!?ってあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
束の間の浮遊感、何が起こったのかわからず、いつの間に次元が歪んだようなおかしな空間に立っていた。
後から現れた骸を、口を尖らせて睨んだ。
「何故突き飛ばした」
「いや、いつかのお返しですよ。そんな事よりなんか居ますよ」
骸は少しイタズラっぽく笑うが、そんなことも束の間、目の前にいた、かなり巨大な筋肉隆々の二人の男に視線が釘付けになる。
「お主達が骸!」
片方が低い声で叫ぶ
「阿形よ!、骸は一人だぞ!」
もう片方が同じく低い声でツッコミを入れる。
どうやら阿形と言われた方は頭が悪いようだ。
「そうであったな!吽形。骸、この先に獄王が居る、通してほしくば、我々を退けてみせよ!」
阿形と呼ばれていた方の大男がそう言うと、巨大な門が現れた。
「我は全ての始まり、阿形!」
赤い身体、黒い目の大男が叫ぶ
それに続き、
「我は全ての終わり、吽形!」
黒い身体、青い目の大男も反復するように叫ぶ。
大男は二人揃って低い、大きな声で喋る。
狂夜は顔を顰めて耳に指を突っ込んで塞いでいたが状況を読み込んだように耳から指を離す。
「丁度、二対二相手に取って不足はない!」
吽形と名乗る方が二人を凝視し、叫ぶ。
「ですってよ、兄さん」
骸はイタズラっぽい顔を消してはいなかったようだ。
狂夜は軽く笑って言った。
「おう、久々に暴れるか!お前と一緒にな!」
「吽形よ、我が骸と相手致す、お主はそこの男と対峙せい!」
阿形が骸の前に立ち塞がり言うと吽形は狂夜の前に立ち塞がり青い目を狂夜に睨ませて言った。
「承知致した!」
利害が一致したようで狂夜は吽形を標的とし、新月家特有の紅い目で睨み返す。
「む!汝っ!わかる…わかるぞ…!貴様強いな!」
狂夜はため息を隠さずに大きく吐いた。
(戦闘狂かよ…)
「ドーモ、モンバン=サン。新月狂夜です。」
先程までのやる気は何処に消えたのか、狂夜はだるそうに首を動かす。
「うぅむ、ここでは汝も本気を出せまい、どうだ、広い場所に出て闘わんか?」
吽形の提案した言葉に狂夜はいつの間にか持っていたロケットランチャーを構えて答えた。
「OK」
返事と共に大きく銃声がなる。
吽形は突然のロケットランチャーに反応しきれずに被弾してしまった。
「効かんぞ!小童ァ!」
吽形が煙を払い、叫ぶと見渡す景色、360°全てが変わっていた。
「ぬぅ!?」
吽形は叫び、周りを見渡す。
しかし、景色が変わったことに驚いたのではないらしく、
いつの間にか吽形の前から新月狂夜が消えていた。
「お前が今までどんな相手と闘ってきたのかは知らんが…」
狂夜はいつの間にか吽形の後ろを取っていた。
「他の奴らと同じだと思ったのか?」
反射、弾かれるように吽形が腕を振るい、狂夜に拳を与える、
当然、狂夜は既に後ろにもいなく、消えていた。
「出直してくるんだな」
その声と共にいつの間にか大男の下に、狂夜はいた。
吽形が反応した時には遅かった。
脚力で地面を蹴り、下から上に拳を振るう。
当たった拳は吽形の顎から、持ち上げるように勢いよく弾かれる。
吽形は開いていた口を勢いよく閉められ、目を白く剥き、何本もの尖った歯が飛ぶ。
だが吽形は白目を剥いたまま、所々折れた歯をギリっと噛みしめニッと笑う。
狂夜は顔を見た瞬間、とっさに後ろへと下がった。
吽形は前進してその大きな拳を狂夜に振るう。
顔にあたり、何処か骨が砕ける感覚があった。
「ぐっ…」
いつにも無く低い声で狂夜は顔を顰めた。
「やはり人間…圧倒的な力の前にはたわいないものよ…」
そう言って吽形は再び拳を握りしめ、
一発、一発、殺意を込めて乱打する。
しかし吽形は途中で拳を止めた。
何故か?
殴っていたのは新月狂夜ではなかった。
『見えていた』周りの景色が全て元に戻った。
「あ〜あ、自分の仲間を傷つけるなんて最低だな…」
吽形が殴っていたのは阿形だった。
阿形は骸との闘いもあってか、ボロボロで気を失っていた。
吽形はもう白目を剥いている阿形を少し凝視し、声のする方向に首だけを動かした。
「うぅぅ…うぉぉぉぉぉっ!」
吽形は狂夜へと今までになく力を込め、拳を振るう。
拳の大きさは変形し、狂夜を握りつぶす程の大きさはあった。
狂夜もその攻撃に合わせるように、拳を振るう。
ドゴォッと大きな音がなり、吽形が笑う
「…見事」
狂夜も笑ってそのまま拳を押し切った。
「ま、なかなか面白かったぜ、お前」
そして、吽形の腕がバキバキと大きな音を立ててへし折れ、吽形も倒れた
狂夜は葉巻のようなものを口に含み、指から出した炎で火をつける。
「終わりましたね、しかし…この2体気絶してるんですが…」
骸が狂夜に近づいて呆れ顔で言う。
「んーそうだな」
狂夜は「よっこいせ」と腰を上げて服を叩くと扉から距離をとる。
「ちょっと退いてろよ、骸」
瞬間、強風が突き抜けたと錯覚するほどのスピードで狂夜は走った。
「邪魔だァァァァァ!!」
跳躍、空中で蹴りの体制を取り、巨大な扉を蹴破る。
扉はあっけなくドゴンと音を立てて前方に吹っ飛んだ。
「さて、行くぞ、骸」
狂夜は葉巻を加えて扉を踏んで中へと進む。
「なんか…前より滅茶苦茶になってません…?」
骸は頭が痛いと言うように顔を顰めて、続いて扉の向こうへと歩いて行った。
後書き
理由のない吽形の拳が阿形を襲う!
このあと無茶苦茶、扉破った
ページ上へ戻る