愉悦神父の息子のSAO
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一層ボス戦 vs《イルファング・ザ・コボルドロード》
前書き
ボス戦です。
今回はボス戦を二回に分けて投稿します。
それではどうぞ‼︎
昨日攻略会議を行った広場に再びプレイヤー達が集まっていた。
広場の中央には青髪の騎士ディアベルが聞きなれた美声を発した。
「みんな、ありがとう!全パーティー総員四十五人が集まった‼︎
実は今日、誰か一人でも来なかったら中止しようと思ってたけど、杞憂だったみたいだ」
広場が昨日と同じように歓声に包まれる。
「みんな、俺が言うことは一つ。……勝とうぜ‼︎」
ディアベルの掛け声と同時に巨大な叫び声がトールバーナの町を揺らした。
だが俺は、この時……一ヶ月前——はじまりの街の中央広場での不安と同じものを感じていた。
◇◆◇◆◇
トールバーナを出発して少し経った時、キリトが思い出したように声をかけてきた。
「そういえばコトミネ、お前武器は何を使ってるんだ?」
「ん?ああ、話してなかったか。俺が今使ってるのは短剣だな」
「短剣?なんでまたそんなものを」
「ああ、片手剣はなんかしっくりこなくてな。自分に合うものを探してたらこれになった」
そう言って俺は自分の右腰にあるホルスターから、刃の中心に赤い線が通っている以外に特徴のない短剣を取り出した。
その短剣を手の中で遊んでいると、今まで黙っていたアスナか、口を開いた。
「でも……なんで反対側にもう一本持ってるの?」
俺の左腰には、今アスナが指摘したとおり、同じものを装備している。
「ソードスキルが合わなくてな。片手装備だとモーションを作るとソードスキルが発動するからな。
両手装備ならどれだけモーションを起こしてもソードスキルは発動しないから、都合がいいんだよ」
「どんなふうに戦うのか想像がつかないな」
「ま、このボス戦で確かめればいいさ」
その後はキリトがアスナに戦闘の基本などを教えたりしていた。
◇◆◇◆◇
二時間ほどかけて、レイドパーティーは迷宮区最上階最奥にあるボス部屋の前に到着した。
ディアベルは黙ってパーティーごとに並ばせていった。モンスターが声に反応するかもしれないからだ。
パーティーを並べ終えるとディアベルはプレイヤー全員を見渡して剣を上に掲げた。
「……行くぞ!!」
ディアベルはボス部屋の大扉を開け放った。
広い。
横幅がおよそ二十メートル、縦幅はゆうに百メートルになるほどだ。
部屋の一番奥に巨大な玉座があり、何かがそこにいる。
ディアベルが剣を前に降り下ろし、攻略組レイドパーティーがボス部屋に走り込んだ。
レイドパーティーの先頭が玉座に近付いた時、そこに座っていた何かが飛び上がった。
地響きとともに着地した、赤い巨体。
獣人、コボルドの王、《イルファング・ザ・コボルドロード》。
「グルルラアアァァァァッ!!」
二メートル超えの巨躯に、右手には骨斧、左手にはバックラーを携えて、後ろ腰には差し渡し一メートル半もある湾刀を装備している。
コボルドロードの咆哮を合図にして壁の穴から取り巻きである《ルインコボルド・センチネル》が飛び出してくる。
三体のうち一体はキバオウのE隊、もう一体はその支援のG隊がタゲを取ったので、こぼれた一体に狙いを定めて走り出す。
今、アインクラッド初めてのフロアボス戦の火蓋が切って落とされた。
《ルインコボルド・センチネル》は全身を鎧に包まれている。高火力の武器なら鎧ごと攻撃してもダメージは通るが、短剣ではそんなことはできない。
なら——
(鎧に包まれていないところを斬る!)
「キリト!初撃はもらうぞ!」
右手に短剣を持ち、最高速度でセンチネルに突っ込む。
降り下ろされる長斧を紙一重で右に避け、左手で長い柄を掴み引っ張り、センチネルの装甲の薄い肘の裏を斬り裂く。
体勢を崩したセンチネルの弱点である喉元に短剣を突き刺し、そのまま背負い投げの要領で投げ、地面に叩きつける。
地面は破壊不能オブジェクトほどではないが堅い。そのため地面に叩きつければそれなりのダメージを与えることができる。
そのうえ弱点の喉に短剣を突き刺したまま投げたのだ、ダメージはかなり大きいだろう。
だが雑魚とはいえボスの取り巻き、HPを完全に削りきれなかった。
倒れた状態でも長斧を振り回してきたので、後ろに飛び退くことで回避する。その間にセンチネルは起き上がり、突進してくる。
左手にも短剣を握り、振るわれた長斧を受け流して胴体にけりを入れてひるませる。
「スイッチ!」
追い付いてきたキリト、アスナと入れ替わる。
◇
sideアスナ
あのコトミネっていう人は何者なの?
私はあの人を見てそう思わずにはいられなかった。
ボス部屋までの道中でも短剣を二本装備していることから疑問に思っていたけど、彼の戦闘の様子を見て何度も驚かされた。
まず速い。
自分はステータスを敏捷寄りにしているが、そんな自分よりも数段速い。レベルがかなり高いのだろう、それだけでも彼の強さが窺える。
さらに攻撃、的確に鎧と鎧の隙間を狙える正確さ、敵の攻撃に臆することなく懐に飛び込む思い切りの良さ。
しまいには鎧を着込んでいてかなりの重量になっているであろうセンチネルをいとも容易く投げ飛ばしたのだ。
彼と知り合いであるはずの隣の剣士に質問する。
「ねぇ、あなたってあのコトミネって人と一緒にいたのよね?
いつもあんな戦い方をしてたの?」
「いや、俺はコトミネとは一ヶ月前のチュートリアルが終わってから一週間、あいつに戦い方とかを教えていたんだけど、あんなモンスターを投げるようなことはしてなかったな。
武術をやっているって言ってたから、俺と別れたあとにあの方法を見出だしたんだろう」
「……そう」
「さて、俺らも行こう。あいつだけにまかせてられない」
「ええ!」
同じパーティーの彼ら、私よりはるかに強い彼らを見ていれば、私に足りないものが分かるかもしれない。
そう思い隣の剣士とともに走り出した。
◇
スイッチして、コボルドロードと戦っているレイド本隊の方を見る。
ディアベルの的確な指示によって順調に進んでいた。HPが危険域までいったものもおらず心配はなさそうだ。
次にコボルドロードを見る。四段あるHPバーの最初の一段の残りも四分の一ほど、残りを削りきれば新たにセンチネルが三体出現する仕組みになっている。
コボルドロードが背中をこちらに向けたとき、
「ん?」
何が違和感を感じる。
違和感の正体を探ろうとしたとき、キリトとアスナの方からガラスが割れるような音がした。
そちらを向くとキリトとアスナか歩いてきた。
「本隊の方はどうだ、コトミネ」
「順調そうだ。このままいけば死者も出さずにすむだろう」
その時コボルドロードのHPバーの最初の一段が消え、壁から新たなセンチネルが飛び出してきた。
「さてと、雑魚狩り再開だな」
新たに出現したセンチネルに向かって走り出した。
◇
その後もボス戦は順調すぎるほどに進んでいた。
イルファングもHPバーが二本消え、三段目ももうじき削りきれる。
三段目が消えれば湾刀に持ちかえてバーサク状態となる。
また現れたセンチネルを倒して次の出現を待っていると、キリトとキバオウが話していた。
なんだか険悪な雰囲気だ。俺が近付いたときに話は終わったのかキバオウが離れていく。
「グルルオオオオラアアアアアア——————‼︎」
イルファングが今までで一番の咆哮を上げる。
骨斧とバックラーを捨てたとき、最後のセンチネルが飛び出す。
「大丈夫か、キリト」
「ああ、大丈夫だ。センチネルを倒そう」
キリトの様子を不思議に思ったが、本人が大丈夫と言っているので追求しない。
向かってくるセンチネルを足をかけて転ばし、うなじの部分を突き刺す。
その場をすばやく退き、キリトとアスナに任せる。
ちょうどそのときイルファングが腰から湾刀を引き抜いていた。
再び違和感を覚える。
あの武器、何度かタルワールを見たが少し細く長い。
そのとき、俺の記憶が刺激された。
あの形、あの長さ、イルファング用に巨大化したそれは現実でも何度が見たことがある。
あれは————刀、太刀だ。
「おい待て、止ま——」
「だめだ、下がれ‼︎全力で後ろに跳べ————‼︎」
キリトの絶叫が俺の声をかき消した。
後書き
読んでくださりありがとうございます。
感想・批評よろしくお願いします。
次回もお楽しみに‼︎
ページ上へ戻る