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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第68話 ジオの町の異変

 
前書き
~一言~


 この二次(三次)小説を見てくださって、ありがとうございます。
 この話をもって、ハーメルン様にて投稿していた最後の話になります。なので、ここからの更新速度が遅くなってしまう可能性がとても高いので、ご周知しておきます。

 ですが、なるべく早く投稿できるように、これからも、頑張ります! ありがとうございました!



                                       じーくw 

 

 何も見えない。何も聞こえない。……まるでここは闇の中。

「(サテラ、サテラ、こんな所で終わりたくないっ…… ま、まだ やりたいこと、たくさん、たくさんあるのにっ……)」

 サテラは、思わず涙を流した。
 涙を流すなんて一体いつ以来だが、判らない。人間の世界に来て、こんな事になるなんて思いもしなかったんだ。

 電磁波による雷撃が全身を、……自分の全てを包み込む。

 泣けども泣けども、その苦しみから逃れる事が出来ない。そんな中で、頭に過ぎったのは親友であるホーネットと……そして、彼の事だった。

『やれやれ、だな……』
「(っ……!)」

 声が、聞こえてきた。それは聞き覚えのある声だ。

『魔の者が、第三世代に……、人に助けを乞う、か。あまり見ない光景だ。これまでも、そしてこれからも無いであろう光景だ。……だが、何故かな。……悪い気はしない』

 声だけが聞こえてくる。
 そして、いつの間にか……痛みも苦しみも無くなっている事に気づいた。何も見えていなかった筈なのに、今ははっきりと見えている。


――だけど、世界が止まっていた。


 全てが止まっている。可視化された電磁波の奔流でさえ、空中で止まっており、見える範囲内だが自分周辺にいる人間達も、表情がそのままに固まっている。

『……随分と人を侮っていたのではないか? 人間を舐めすぎだ。魔の者よ』
「(さ、サテラは! ちょっと油断しただけだ!)」
『それが侮る、と言う事だ。それ故に、お前は消滅しかかっているのではないのか? ……消えてしまったら、全てが無意味だぞ』
「(うぐっ……)」

 不思議と、サテラはこの相手とは普通に話せる。相手が誰か判っていて、そして普通に話す事が出来た。

「(……あの時の、あの男、だな)」
『ふふ……』

 明確な返事はない。だけど、間違いない。この荘厳さ、そして威圧感もあり、且つ自分を縛っている力。それらが指し示す解は1つしかない。

 あの時戦った相手だと言う事。手も足も出なかった。あの相手。いや、戦った……とは言えない。それ程の内容だった。
 
 圧倒、されたのだから。

「(サテラを、サテラをっ! 侮辱しに来たのかっ! 憐れみでも向けに来たのかっ!!)」

 サテラは、思わずそう言った。厳密には、叫べた訳ではない。心の中で、強くそう思ったのだ。

『いや、そう言う訳ではない。……言ったであろう? 我は 《珍しい物が見れた》 と。そして悪い気はしない、と。……寧ろ心地よいと言うべきものだ』

 魔人と人は相容れない存在だ。
 故に、争いが絶えず、それが奴等への貢ぎ物になっているのだ。それを根底から覆すには、こう言った光景が必要だろうから。

「(なら、なら何しに来たんだよっ!!)」

 サテラは更にそう言う。
 実を言うと、サテラはユーリとこの男? を同一人物には見ていない。あの時はユーリ自身だと思ったけれど、圧倒され、地に伏され、そして情けをかけられて見逃された。最初に戦ったユーリとは似ても似つかない実力差だったからだ。

『お前は、ホーネット側の魔の者だ。……ここで失うのは惜しい』
「(な、なに……?)」
『が、一部とは言え あれ(・・)の力をで縛られたのだ。もう、お前は 五体満足とはゆかないだろうが、消滅よりは良いだろう』

 そう言うと、停止した世界に光が生まれた。電磁波の煌きではなく、更に眩い光。



『……ホーネットの、あの娘の元へ還れ。あの娘には 支えがいる』



 そう聞こえたのが最後だった。

 現れた光が更に広がり部屋を覆い尽くし、目の前が真っ白になったのだ。



――そして、再び世界は時を刻んだ。



「きゃあっっ!!」
「っっ……!」

 光りが部屋中に輝いたと同時だ。

 魔封印結界で使用していた部屋の四隅に設置された結界志木が砕けたのだ。その反動が術者であるクルックーとセルに直接やってきたのか、彼女達は倒れ込んでしまっていた。

「んが! なんなのだ! この光は!」
「くっ!」
「目晦まし!」

 ランスも突然の事に流石に驚きを隠せず喚く。リック、清十郎も同様だ。突如強烈な光が生まれる事に想定出来ていなかった様だ。

「目が……っ」
「んっ!」
「眩しいですかねーー!!」

 かなみと志津香、トマトも思わず目を覆った。
 魔人を前にして、それは愚行だと思えたが、本能的にそう行動してしまったのだから無理もない。


 そして……。


「うぐっ……ぁ、はぁ……はぁ……」

 まだ苦しそうだが、明らかに先ほどの様な悲鳴はあげていない声が光の中から聞こえてきた。そう、サテラの物が。

 光が収まり、そしてサテラの姿がはっきりと見えてきた。膝をついているが、封印されることなく、その場にいた。

 そして、更に状況は悪くなる。

「サテラサマ!!」
「……ッ!」

 異常に気づいたのだろうか、ガーディアンの2体が部屋に乗り込んできたのだ。イシスとシーザーは、部屋を見渡し、そしてサテラを見た。他の侵入者達には目もくれず、素早くサテラの元へと向かう。

「シー、ザー……、イシ、ス……」

 その消耗具合は直ぐに判った。

「がははは!! 抵抗する力も逃げる力も残ってないだろう。消滅はさせられなかった様だが、次はそうはいかん! 捕まえて、さんざん遊んでから消滅させてやろう!」

 ランスは、ニヤニヤと笑いながら、サテラの元へと向かった。正直な話、2体のガーディアンを相手にするのも大変な事なのだが……、それもおかまいなしだ。

「……これじゃ、どっちが悪なのか……」

 かなみも、魔人を前にしているとは言え、そうつぶやいてしまっていた。リーザスを潰した仇敵だと言うのに、それでも同情してしまうのは流石ランスといった所だろう。

「そんなの、決まってるじゃない。アイツよアイツ」

 考えるまでもなく、そう答えるのは志津香だった。

「誰がだ、コラ!!」

 勿論、ランスにも聞こえている声で。そして、それを見て聞いていたシィルが慌てて言う。

「で、でも、ランス様、サテラさんは兎も角、あのガーディアン達はとても強いです。解放軍の人たち皆で戦うなら、安心ですが、今はいませんし、退いてくれるなら……」

 チューリップ3号等の兵器をまだ内包している解放軍が相手であれば勝機も十分だろう。だけど、今は9人しかいないのだから不安なのだろう。

「がははは! このランス様に不可能などないのだ! それにこの頭脳明晰な頭でしっかりと考えている!」

 大笑いをしながら、シーザー、イシスを指さして。

「このデカブツ共は、オレ様の下僕と男共が相手をし、その間にオレ様がサテラをお仕置きする。それで万事OKだ!」
「……楽し過ぎだし、最低ね」

 サテラは如何に魔人とは言え、その消耗度は甚大だと言う事は見て判る。そんなランスの作戦を聴いて、速攻で返すのは志津香だ。他の女性陣も同じ気持ちで見ていたが、ランスは変わらない。

「バカ言え、3人で十分に戦えていたのであれば、それ以上の戦力をかける必要はない。無駄の無い配置なのだ! サテラを抑える事が出来れば、更に戦況は良くなるだろ」

 最もな考えだが……、ランスが言う事だ。だけど、リックは違った。

「流石ですね。……確かに、現時点で最大の驚異は魔人。魔人を抑える事が出来れば、一気に覆す事ができます」

 感心している様子だ。……根っからの武人であり、トップには敬意を示すのが彼だから。

「オレは強者と戦えればそれでいい。……楽しむとしよう」

 清十郎は、ランスの考えについては大体わかっている……が、それよりも戦闘の事を考えたかった為、対してツッコミ等は入れないし、考えない。判りきった事だがつまりは、戦闘バカだと言う事。

「がははは! あーんな大見え切っておいて、まさか逃げるなどとはしないよな? サテラ!」

 これも見え透いたランス・挑発! なのだが。サテラには『効果はバツグンだ』であり。

「ぐっ……! し、シーザー! イシスっ! さ、サテラはいい アイツを、こいつらを叩きのめしてっ!」

 逃げると言う選択肢を挑発で消されてしまった為、サテラはそう命じた。だけど……。

「サテラサマ タイヘン ショウモウシテイマス。 キュウソクガ ヒツヨウデス」

 主に従うのがガーディアンなのだが、この時シーザーは違った。主の指示より、主の命を優先したのだ。

「………」

 イシスも同じ気持ちの様で、無言だが頷いた。

「さ、サテラはいいっ! あそこまで、いわれて……っ 引き、下がれるか……っ!」

 あの電磁波の痛みに時折表情を歪めつつも、逃げる様な事はしなかった。

 そして、ここに留まっている理由はまだある。人間達の殲滅もそうだし、聖武具もそう。……そして。

「(そ、それに ゆ、ユーリも、つれて帰らなきゃいけないんだっ……)」

 小声でぼそっと呟くサテラ。
 勿論、それは室内だったからか、或いは彼女達独自のセンサー? でも働いたのか、3人の乙女達には気づかれており、ユーリの前で身体をはる様に立ちふさがった。連れて行かせない! と言わんばかりに。

「ぐぅ……!!」

 サテラはそれを見て、悔しそうに更に表情を歪めた。そして、ユーリの顔を、目を見る。今まで何も言わなかったユーリ。

 サテラと目があったその時。


『……去れ。あの娘の元に』


 その声が頭の中に響いてきた。ユーリのものではない、あの男のものが。

「っ……!!」

 そして、ユーリは笑っている様に見えた。あの声が言った逃げるのを催促するかの様に。

「がははは! 生意気な事を言いやがって、木偶の坊のガーディアンと共に倒してくれるわ!」
「お、お前なんか、大したことないんだ! シーザーとイシスが本気になればっ……うぐっ」

 ランスの声に反応して言い返すサテラ。だが、顔色はどうしても優れず、時折ふらついている。

「サテラサマ、 ヤハリ ショウモウシテイマス。ココハ テッタイ シタホウガイイデス」
「なにをっ! さ、サテラは……っ」

 まだ、サテラは首を縦に振らない。
 精神的にも体力的にも消耗し尽くしている筈なのに、意地だけで立っている様だった。だが。


『身の程を知れ。……魔の者よ』
「っ……!!」


 再び、あの声が聞こえてきた。


『好感を持ったとは言え、これは気まぐれと知れ。……我の気まぐれなど、長くは続かん。……その身体で この場をどうにか出来ると。……そして、我をどうにか出来るなどと、本当に思っているのか? 魔の者よ。それに、あの時、言っただろう 我と貴様らとでは次元が違う。……去れ』


 それは、明確な力の差を思い出すのには十分過ぎる声だった。イシスやシーザーにもその声は届いており、素早くサテラの身体を抱えた。

「な! おいコラ! 逃げる気か!」

 その行動を見て、ランスは叫んだ。倒れていたセルとクルックーも起き上がってきて。

「ランスさん、みなさん、魔の者達を逃がしてはなりません。ここで倒さないと……!」
「ええ、そうですね。魔人が消耗しているという機会はなかなかありません」

 そう言っていた。

「逃げるな!! 卑怯者!」

 どっちがだ! とツッコミたいが、それは今はしない。ランスは跳躍すると、纏めて吹き飛ばそうとしたのだろうか。

「ランスあたたたぁぁぁっく!!」

 剣を跳躍しながら振り下ろし、衝撃波を生む。

「清十郎殿!」
「ああ!」

 リックと清十郎も衝撃の余波を躱しつつ突っ込んでいく、が。晴れたその先には何も無かった。あの巨体ガーディアンの影も形もなくなっていた。

「……逃げられたな」

 ユーリは、動いていなかった。
 あの衝撃波がサテラ達を包み込む前に、シーザーが恐るべき速度で駆け出していったのを確かに見たのだ。そして、如何に魔人であっても、死ぬ寸前、厳密には封印だが魔人にとってはそれは死も同義だ。そんな時、自分の名を呼んだのだ。……敵と言えども、あのまま死なせるのは目覚めが悪い。……滅茶苦茶な奴で、ラークとノアを痛めつけた礼もあるが、あの結界の一撃で一応チャラにする事にした。

 そして、サテラが最後まで、名残惜しそうにユーリの方を見ていたのは、気のせいではないだろう。

「ぐぐ、逃げられたか!」
「不覚、ですね」
「……移動が早すぎる。恐らくは魔法に似た力なのだろう」

 剣に手応えがなく、突っ込んだ2人も帰ってきた。
 ランスが不機嫌だったのは言うまでもない。自分の必殺技を躱された上に、逃げられたのだから仕方ないだろう。

「……もう一息、だったのに」
「……うん」
「トマトとしては、ガーディアンの2人とは会いたくないですがー、あのサテラとは決着つけなきゃですかね!」
「はぁ、馬鹿な事言わないの」
「……ぁぅ」

 志津香とかなみもそう呟き。トマトはサテラを更に意識していた。
 ……魔人が其々の想い人を狙っているのだから仕方ないだろう。トマトの言葉に苦言を呈するのは志津香だが、完全に自分の事を棚に上げてるのも言うまでもない。……かなみはかなみで、複雑そうな想いだった。あそこまではっきりと言えるトマトが羨ましくも思えるから。

 何はともあれ、サテラが消滅しかけた時は色々と複雑な想いを持っていた3人だったが、今は、皆無事であり、シィルは勿論、聖武具も無事、そして何よりも……盗られなかった事で、色々言ってはいるものの、安心の様なものも当然生まれていた。

「魔の者を封印できる絶好の機会でしたが……」
「確かにそうですね。ですが、次のチャンスもあります。その時に頑張りましょう」
「あ、はい。クルックーさん。がんばります!」

 セルは、残念そうに、俯いていたが、クルックーが励ました。淡々と言う言葉だったけれど、セルにとっては、自分よりも遥かに上の存在であるクルックーの言葉だから、くるものがあるのだろう。


「ぐむ、ムカつく最後だったが、兎も角、オレ様のモノを取り返した事実は変わらんからな。一先ずは許してやろう! 下僕!」


 ランスはユーリの方を見ながらそう言う。多少の悪態については十分予想していた事でもあり、軽く流そう……としていたのだけど、反応するのは自分自身ではなく、女性陣。

「ランスは何もしてないじゃない!」
「……此処の悪をなんとかしなきゃって思うのは私だけかしら?」

 先頭に立っていうのは志津香とかなみ。いつも通り。

「馬鹿者! オレ様のスーパーな必殺技をかましただろうが!」
「あっさり躱されたくせにっ!!」
「盛大にした割に、ほんと格好悪いし」

 ぎゃいぎゃい!と言い合っているランス達。ほんといつも通り。

「やれやれ……、もういいだろ? とりあえず戻ろう。ここにはもう用はない」

 ユーリもいつも通りに苦言とため息を吐きながらそう言う。

 暫くランスと言い争っていたかなみだけど、聖武具シリーズが全て揃った事実を噛み締めた様で。

「ああ……、これでリーザスに行ける」

 漸くここまでこれた事に、安堵しつつ、これからの事に気を引き締め直していた。そんなかなみの肩に手を置くのは志津香。

「ええ。……話によればこれがあればカオスを手に入れれるのね。頑張ろう、かなみ」
「うん。ありがとう……志津香」

 かなみはわずかに滲んだ目元を拭いながら笑っていた。

「がははは! これでオレ様のエロティカルハイパー兵器 カオスが手に入るのだな!」

 ランスもどうやら話を聞いていた様で、そう言って笑っていた。……勿論。

「何わけのわからない事言ってんのよ」
「ランスのモノじゃ無い!!」
「ネーミングセンス、ぜんぜん無いですかねー」

 全員から口撃を受ける事になるのだった。

 もう、何言っても少しばかり続きそうだったから その間、ユーリは他の男性陣のもとへと向かった。

「清、リック。お疲れ様、だ。ありがとう」
「何を……礼をいうのは私の方です。ユーリ殿」
「それに、オレとしては戦い足りない気はするな。ガーディアンとも魔人とも手合わせする事が無かったからな」

 ユーリの言葉を聴いて其々が返す。
 口々にそう言う皆の表情はやはり安堵感は出ていた。まだ山は多いだろうが、これまでで一番の山場を無事超えられたのだから。

「清、バグ達を倒すのも結構タイヘンだっただろ?」
「……まぁ、な。オレの知るバグとは似ても似つかんものだったから」

 清十郎は珍しく苦笑いをしていた。

 異世界のバグはどんなものなのか……、少なからず興味がわいたユーリだった。













~ハイパービル前~


 イシス、シーザー達のおかげでサテラはどうにか脱出する事が出来ていた。だが、どうしても不快感は拭えない。自分よりも遥かに弱い人間達にここまで追い詰められたのだから。

「ぐぅ……!!」
「サテラサマ ダイジョウブデスカ?」
「だ、大丈夫だっ! こ、このサテラが……、人間なんかにぃ……」

 ぎりぎりと、拳を握り締めるが、どうしても力が入らない。魔封印結界は、サテラの力を限界ギリギリまで奪っていた様だ。

「ヒトマズ、キョテンヘモドリマショウ」
「………」

 シーザーが、サテラを抱き抱え、そして イシスが周囲を確認、護衛に回る。
 転移の魔法だが、そう何度も使えないのだろうか? 或いはサテラの力が必要なのだろうか? それは判らないが、3人は徒歩で帰っていく様だ。徒歩~とは言っても人とは比べ物にならない程の速さ。

「……ぅぅ」

 サテラは、どこか悲しそうな表情でハイパービルの方を見ていた。

 もう、一体いつ頃だったか判らない。



――本当は、女の子らしく、振舞って……、そして恋したかった。



 そう想い馳せていたのは一体いつ頃だったのだろうか。
 だけど、サテラは魔人であり、誰も男の子など近寄りもしなかった。……魔人なりたての頃は、本当に寂しかったし、辛かったサテラ。幼馴染役、遊び相手としてホーネットと一緒に育ってきたから、本当の意味で孤独だった訳ではない。だけど、女の子としては、どうしても……。それはどこかの忍者の彼女がすごく共感出来る境遇なのだった。

「……そんな時に、ユーリに出会ったのに」

 そう、あれ程までに強い人間は見た事がない。……あの妙な力は別モノだとしても、ユーリ自身の強さは人間の限界を超えているとさえ思えるのだ。

 魔人である自分に、そこまで近づける男の子に出会えた事が……本当に幸運だったのに。

「サテラサマ。ドウシマシタ? ダイジョウブデスカ??」

 サテラの独り言が耳に入った様で、シーザーがサテラの顔を見ながらそう聞くが。

「っっ!! な、何でもないぞ!」

 シーザーと目? が合ったサテラは、ぱっ!と手を上げながら慌ててそう返した。

 そして、思う。

「(……まだ、まだ終わった訳じゃない。終わったわけじゃないんだっ!)」

 そう心の中で呟くと(口に出すと、シーザーに気づかれる)。

「次こそはだっ!! 待ってろよーーーっっ!!」

 ハイパービルに向かって乙女の雄叫びを上げるのだった。その単語からは、色んな意味として取れる。だから、シーザーは。

「ハイ。ツギコソハ……ワレワレモ ゼンシンゼンレイデ、タタカイマス アノオトコガアイテデモ!」
「……!!」

 サテラと同じ様に気合を入れ直す。イシスは喋る事が出来ないが その仕草から、シーザーの様に気合を入れ直している様だ。……サテラの言葉の意味合いは違うと思えるが、ガーディアンとは思えない熱血ぶりを発揮するのだった。


 そして、まだハイパービル内にいる人達に、悪寒が走るのだった。












 そして、サテラ達が完全にこの一帯から離れた数十分後。

「さぁて…… 漸くこのビルから出れた」

 ランスは、陽の光を浴びながら……軽く深呼吸をした。
 そして、皆の方を見ると、何やら気合を入れている様だ。……普通に考えたら、これで聖武具が手に入った事だし、戦争も佳境、その戦いを思い気を引き締め直そう……、と言う仕草なのだと思えるが、そこはランス。

「よしっ! ヤルぞ、シィル! サテラの奴をお仕置きプレイで、あへあへにしてやるつもりだったから、溜まりに溜まっているのだ!」

 青空の下、何を思ったのか……というかランスだから、仕方がないだろう。

「え、ええ! で、でも、皆さんの前では……」

 流石のシィルも首と手を盛大に振りながらそう言った。
 こう言った野外プレイ、所謂 青◎は勿論経験有りなシィル。……と言うより、ランスの鬼畜っぷりを考えたら大体の事を経験させられている。でも、何度経験したとしても、恥ずかしいのには抵抗が勿論あるのだ。……見られてしまうと言う恥ずかしさが一番。

「がははは! オレ様は構わない! 今ヤりたいのだ!」
「バカっ! やめてよね! こんな公衆の面前で!」

 シィルの隣にいたかなみが盛大にツッコミを入れた。当然だ、見せられる身にもなってもらいたい、と言うものだ。

「おお、ならかなみもどうだ! 志津香とトマトも入れて5Pだ! がははは!!」
「誰がするか!」
「……はぁ。ランスさんは いったい何度言えば判るんですかねー?」
「ぐむ!! トマト!お前に呆れられるのは無性に腹が立つぞ!」
「気のせいじゃないですかねー?」

 トマトや志津香ともやりあっている様だ。……因みに、セルを入れなかったのは説教が待っているからだろうか?

「はぁ……、ランスさんは本当に一度はしっかりと神の教えと言うものを聞いていただかねばなりませんね」
「そうですね。快楽に溺れることはAL教でも禁じられている事です」
 
 ……セルを呼ばなくても、後で説教が待ってそうだ。クルックーも流石に教団の見習いとは言え司教だからか、セルに賛同していた。


 
 一山越えたから、テンション上がっているのか、シィルが無事だったからテンション上がったのか……、絶対後者だろう。

「シィルちゃんが無事で嬉しいのは判るが、帰るまで我慢しろって」

 後者だ、と完全に思ったユーリはそうツッコンだ。思った、と言うよりは間違いない、と言う確信だろう。何せ、シィルがいない時のランスといる時のランスは、全然違うから。……水を得た魚の様に、活力、精力に溢れているし、元気が有り余っているから。

「馬鹿者!! 何度言えば判る! コイツはオレ様の奴隷なのだ! そんなのではないっ!!」

 がーーっと言うが、全然説得力がない。でも、あまり責めすぎると後々厄介な事になりかねないから、一先ずこの位にしておいた方が無難だ。ユーリもそろそろ長い付き合いだから判る、というものだ。

 何も言わず手を上げるだけに留めると、志津香やトマト、そして かなみもどことなくからかう素振りを見せた。バツが悪くなってしまったランスは。

「えぇい! さっさと帰るぞ!」

 大股で、ずんずんと歩いて行ってしまった。

「ほら、シィルちゃん」
「あ、はいっ!」

 シィルも、ユーリに諭されて、パタパタと、足音を立てながらランスの方へと追いかけていった。ランスが黙っていれば本当にお似合いのカップルなのだが、それは有り得ない。この世界全体が平和になる事位難しいかもしれない。即ち、争いがなく……、あいつらの凶行も無くなる世界になる事位。

「……それが最終目標だったら、道中は本当に楽しそうだな。……苦労もするだろうが」

 ユーリは苦笑いをしていた。

「ユーリ殿、ここから帰りの道中のモンスター達は自分達にお任せ下さい」
「……ん? どうしたんだ、突然」

 苦笑いを知ていた所にリックがやってきて、そう提案をしていた。直横には清十郎もいる。

「これはオレからの提案、だ。……肩透かしが多かったのでな、鬱憤を道中のモンスター共で晴らしたい」

 清十郎が口を開いた。

「……成る程、な。清はある意味楽しみにしてるフシがあったし。だけど、その辺のモンスター達には期待は出来ないと思うが」
「ふん」
「大丈夫です。肩ならし、ですし、晴らすのには丁度良いかと」
「はいはい。了解」

 ユーリは苦笑いをしながら納得していた。
 あのかなり強かったガーディアン達とは一応戦ったとは言え、魔人とはまだだから。ガーディアンの強さも異常と思えるが、あのサテラが自らの使徒(と、思ってる)よりは弱いとは思えないし、何より無敵結界と言う堅牢、と言う言葉すら生易しい力も保有しているから、緊張感は更にますだろう。

「お言葉に甘えて、楽をさせてもらうよ。ランスにバレない程度に」

 ユーリは手を上げてそういった。
 サテラ達と対峙する前、皆には平静を保っている様にしていたが、やはりそれなりに精神力は削られた。結果を見れば、毒気抜かれた思いだけど。

 
 とりあえず、前衛にランス、リック、清十郎。中間にユーリ、トマト、後衛に志津香、かなみ、セル、クルックーの陣形で戻る事にした。


 そして、その道中の事。

「はぁ、……なんで、睨んでいるんだ?」

 ユーリは背後から視線をすごく感じていた。
 そのまるで、背中に突き刺さるかの様な視線は、気配を探るまでもない。……だって隠そうとなんて、まるでしていない様子だったから。

 勿論、その根源は志津香だ。

「……あら。一体なんのことかしら?」

 しらを切っている様子だけど、全然説得力がない。視線を切ってもその雰囲気は全く消えていないから。

「幾ら何でも わざとらしすぎるぞ……」

 苦言を呈するユーリ。ここまであからさま過ぎたら意味ないだろう。

「……こっちが、バグやら モンスターやら、と相手してて、忙しい時に、あの魔人の女の子と楽しそうにしていて、やっぱり いい身分よね? と改めて思い出していただけよ」

 志津香が言っているのは、ハイパービル201Fの事。
 確かに、囮、時間稼ぎと言う事でユーリ1人で向かっていたが、彼にとってもサテラとの絡みは想定外だし、これでは、過ぎた事を……、と思ってしまっても無理はないだろう。

 だけど、ユーリはそんな風には思ってなかった。

「はぁ? って、おい。肩透かしがあったとは言え、相手は魔人だったんだぞ?……サテラ相手に いくらなんでも其れはないだろ。後、サテラの様子がおかしかったのはオレも認めるが、原因は知らん」

 エロヤックの要求はそれなりに大変だったのは聞いている。
 だけど、魔人を相手にすることに比べたら、絶対に難易度は格段に下がるだろう。結果を見れば、サテラがよく判らない状態だったから(ユーリの眼にはそう見える)、苦労といえる苦労はそこまでは無かった。……原因が判らないのは勿論ユーリ仕様(技能 鈍感Lv3)。

「……ふぅん」
「だから怖いって。それに、当たり前の様に足に魔力を貯めるな」

 今にも攻撃してきそうな志津香を見て、もう恒例だとは思える足技を、とりあえず止めるユーリ。直接攻撃は、最近大分減ってきた(ヒトミ効果)? と思ったが、どうやら勘違いだったようだ。

「あ、あははは。し、志津香。その辺にしといた方が良いと思うけど……」
「あからさま過ぎですかねー」
「っ……! ふんっ!」

 志津香は、かなみやトマトに言われたから、ぷいっ! とユーリから顔を背けた。

 因みに、志津香が言わなかったら、トマトが聞いていて、そして 志津香やトマト程積極的じゃないにしろ、かなみもあのサテラとの会話の内容を聞いていた。つまり、早い者勝ちであり、志津香が一番早かった、と言う事。

「……モンスターも道中では出るんだ。後衛組も警戒をしておけよ

 女性陣達が、きゃいきゃいと言い合っている(はしゃいでる??)のを見たユーリは再び苦言を呈するのだった。



 そんな風に言ってくるユーリを見て、更にガクッ! と肩を落としてしまう(様に見える)3人。

「はぁ……」
「むむむむ、負けたくないですが、これは無理げーと言う奴じゃないですかねー……? 先が長く感じますです」
「ぁぅ……」

 志津香とかなみは、トマトの様に言葉を発した訳じゃないが、気持ちは同じだろう。っと言うか、何度も思っていることだから。

「ほんっとにもう、あの超鈍感(ユーリ)は」
「あはは………」

 志津香が、『超鈍感』とかいてバカと読む彼の本名は『ユーリ』。そう言っているものの、志津香の顔はどこか晴れやかな部分が出ている様だ。

「(……ほんと、良かった。無事で……)」

 結果的には、またまた相手が増えた……という感じになってしまったが、人外との全面戦争に比べたら、まだ良い方だ。いくらユーリが強くたって、人間なのだ。無事じゃ済まない事もあり得る。



――ユーリが、今前を歩いている彼の背中が見えなくなってしまう、見れなくなってしまう様な事に比べたら。断然良い。



「……うん」

 かなみも、同感の様子で頷き、笑っていた。

「がんばるですよー!!」

 トマトは、険しい道のりと理解しつつも、全~然っ諦める様子もなく ただ気合を入れていたのだった。











~レッドの町~


 日もすっかりと陰り、辺りを黄金色から、闇に染める空になったが、一行はハイパービルからレッドの町まで無事に帰還する事が出来た。帰りの道中、それなりにモンスターは出たものの、肩透かしをくらい、疼いてしまってる戦闘狂やリーザスの死神と言うオーバースペックも良い所の布陣で、全くと言っていいほど、中間、後衛には出番が無かった。何処か呆れたり、苦笑いしたりと、色々な感想がある様だが、その詳細は割愛する事にする。

 それよりも、今はジオの町についてだ。
 
「……こんな短期間で、それ程の兵士達が集められたと言うのか? ジオに」

 戻った所、リーザス解放軍の司令本部で強ばった表情を見せるのはユーリだ。
 ジオの町の攻略に関しては何処まで進んでいるのかの確認と、無事に聖武具を揃える事が出来た事の報告をする為に来たのだが、想定外の事態だった。

「ええ。……密偵の話ですが、信頼性はあります。本日の夕刻より、『ジオの町にヘルマン占領軍のほぼ全兵力が揃いつつある』、と」

 ユーリの言葉に返すのはエクスだ。情報戦を得意とする彼の情報だ。信憑性はかなり高い。そして、その場にいた真知子と優希も表情を険しくさせながらも頷く。

「その通りです。……確かに、ユーリさん達がハイパービルに向かった事で戦力ダウンはしましたが、このレッドの町にはリーザス軍の主力である将軍様達が揃っております。……マリアさんのチューリップ3号に然り。それを踏まえて、様々なシミュレートを重ねても、負ける要素はほとんど無かったのですが……」

 カスタム防衛戦を支え続けた真知子のシミュレートだ。エクスにも負けない程に信頼出来るし、更に優希が揃った事で、向上もしている。なのに、その上をいったと言う事は……。

「……敵側に何かがあった、と言う事か」

 ユーリはそう結論付けた。
 幾らなんでも早すぎる。何かが起きてから、敗戦してから、結集では到底間に合わないだろう。

「あまり、聴きたく無い事だが、ここの情報が漏れている、と言う可能性はあるか?」

 ユーリはそう聞いた。
 情報が漏れているとすれば、どんな先手を打とうが飛んで火にいる夏の虫だ。情報を扱う者が優れていれば優れている程に、かなり痛手になる。それに、仲間を疑う事にもなるから、ユーリは『あまり、聴きたく無い事』といったのだ。

 だけど、そこは直ぐ横にいたメナド、ハウレーンが口を揃えていった。『それはない』と。

「僕は、解放軍の皆を信じてるから。……勿論感情論だけじゃないよ。これまで人事を司って来たし、町から出ようとする者は勿論、ただの一通の手紙でさえ監査をしてるから」
「はい。私とメナドの2人で最終チェックもしていました。……抜けはありません」

 2人の話を聞いて、皆が頷いた。……本当に信頼出来る仲間なのだという事はよく分かる。
 それに、感情論にはなるがリーザスを、祖国を救おうとしているのに、敵側であるヘルマンに寝返る様な忠誠心の欠片も無い軍人は有り得ないだろう。

「そうか。……2人がそう言ってくれるなら、安心だ。……悪かったな。疑って」

 ユーリは、表情をゆるめつつ、謝罪をいった。聴きたくない、とは言っても実際に聴いたし、少しでも疑ったと言う事なのだから。

「い、いやっ! ユーリの考えも大切だよっっ! だ、だって 本当にこっちにとって致命的な事になるんだからっ!」

 メナドは、慌ててそう言う。ちょっぴり顔を赤くさせながら。

「メナド。軍人が使う言葉ではないぞ」

 慌てつつ、そしていつの間にか、ユーリと話す口調が素に戻ってしまってるメナドを見て総大将であるバレスが苦言をいっていた。

「あっ……、その……すみません」

 メナドは、はっ!としながらも、最後は、ちゃんとした軍式謝罪をした。だけど、ユーリがバレスの方を向いて首と手を振る。

「それについては、オレに非がある。悪かった。オレから頼んだんだ。……バレスやハウレーン、エクス、リックには何度言っても聞いちゃくれなかったから諦めたけど。あまり畏まられるのは得意じゃなくてね。オレは ただの冒険者だから」
「むぅ……それは申し訳ない。これは性分でして」
「僕も同様です」
「自分もそうですね」
「もも、申し訳……」

 口々にそう謝罪をもらうが、それ程のものではない。

「いやいや、構わないよ。心構えの問題だし。だから、メナドの事も…… ああ、そうだな」

 ユーリは、メナドの方を向いた。

「こう言う場で以外なら、良いよ。……ああ、勿論だが、メナドも無理してるというなら、それも別だ」
「あ、そ、そんな! 無理なんかしてないよっ!……判った! いや 判りました。ユーリ殿っ!」
「ん。OK」

 メナドは弾けんばかりの笑顔でそう答えていた。

「(……志津香さん達がいなくて良かったかもしれませんね。つかれている上に、こんな光景を見せられたら)」

 真知子は、メナドを見ながら、そして恐らくはメナド程ではないが、好感を持っているであろう、ハウレーンを見ながらそう思っていた。

 因みにハイパービル組で、ここに参加しているのはリックのみ。
 清十郎は、町の警備に言っていて、女性陣は休息。ランスは……シィルと、とまで言っておこう。夜も遅いと言う事で小人数で報告には来ていたのだ。

「(ぅぅ……、ふ、増えていくよぉ……)」

 やや、目を潤わせてるのは優希。いつか真知子がしてくれた占いが此処まで的中してしまった事で、かなり悄気てしまっている様だ。……新たに占ってもらおう、もしくは占おうと思ったが、所謂パンドラの箱に手をかける様で、出せなかった。
 
 優希のその直感は正しかった。



――……この後の数年間。彼には様々な出会いと、そして多くの想いが待っているのだから。

























〜技能?紹介〜



□ 鈍感
習得者 ユーリ(現時点のみ)

その名の通り、他人の好意(恋する女性限定)に ま〜〜ったく気づいていない様子の事。

ユーリの場合はロゼの影響……と言う事もあるが、……まぁ 身も蓋もないが、所謂 主人公の特権みたいなものである。

因みに、鈍感の後ろに《超》がつく事も多々有り。

という訳で、その技能はLv.3である。





 
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