醜い女
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1部分:第一章
第一章
醜い女
遠山信和はその日運がなかった。よりによって朝の満員電車に乗っている時だった。
「ちょっと、何してるのよ」
「えっ!?」
いきなり側にいた女の怒った声をかけられた。似合わない黄色か茶色かわからないような色に染めて異様に太ってそのうえ目つきは以上に悪く口はひしゃげていて鼻は潰れていて顔には一面のニキビの潰した跡や何かのできものやそういったもので荒れ放題のとにかく不細工な女にである。
「痴漢ね。警察呼ぶわよ」
「えっ、俺が痴漢!?」
信和はまずそう言われたことに驚かされた。
「ちょっと待てよ、何で俺が」
「あんたに決まってるわよ」
女は安物の化粧品の匂いを撒き散らしつつその低く何か犀やそういった動物園にいる動物が呻くような声でさらに言うのだった。
「あんたしかいないじゃない」
「何で俺しかってことになるんだよ」
彼にとっては冗談ではなかった。何で自分が痴漢なぞしなくてはいけないのかと言いたかったし実際に言いかけていた。そもそも女の顔を見ればだ。
(誰が御前みたいなブス)
こう思うのだった。しかしそれは流石に言わずあえて真面目に反論しようとした。ところがであった。
「げっ、またあの女かよ」
「またやってんのかよ」
「いい加減にしろよ」
周りから次々にうんざりとしたような声があがってきたのだった。しかもそれは彼を攻撃するものではなく被害者だと自称する女を攻撃するものであった。
「あのな、あんたな」
「そうやっていつも誰かに言ってるじゃないか」
早速背広の男数人が女に対して言ってきた。満員電車の中は騒然となりだした。
「いい加減わかれよ。つっかかっても何にもならないんだよ」
「っていうか人の迷惑考えろ」
口々に女を批判していた。
「それで誰も痴漢なんてされたことないだろ?」
「いないんだよ、あんたに痴漢する奴なんてな」
「何ですって!?」
女は周りの声を聞いてまたしても怒りの声をあげるのだった。
「私が嘘をついてるんですって!?」
「嘘じゃなければ勘違いだろ」
周りの人間は誰もがこう言うのだった。
「全く。そうやって迷惑かけてな」
「何やってるんだよ」
とにかく彼等は女の言うことを信じようとはしなかった。そのうえ信和に対しても言うのである。
「あんたも災難だな」
「この女は誰かにいつも痴漢だのそんなの言うんだよ」
「いつもですか」
話を聞いてキョトンとした顔で彼等に問い返すのだった。
「あの、痴漢だのって」
「だからな。いつもだから」
「気にするなよ」
「はあ」
とりあえず彼等の話を聞くのだった。
「そうだったんですか」
「ああ。全く、そんな顔でよ」
「誰も触る筈ねえだろ」
「そうだそうだ」
彼等はまた口々に女を批判した。しかも信和が言えなかったことを平然と言う。どうやらこの女をかなり嫌っているようだ。
「もう出て行けよ」
「次の駅で降りろよ」
「次の駅で降りたら会社に遅れるじゃない」
女はムキになった顔で言い返す。
「私に遅刻しろっていうの!?」
「その前に御前は他人の迷惑考えろよ」
「毎回毎回騒ぎやがって」
サラリーマンだけでなく制服姿の者もいる。今はラッシュ時で電車の中には信和と同じサラリーマンだけでなく学生達もいる。その彼等も女を批判していた。
「ったくよ、迷惑だからよ」
「降りろ」
こう言って本当に女を次の駅で強引に降ろした。とりあえずその日の不運はこれで終わった。だが次の日勤め先の会社で上司に問われたのだった。
「昨日電車の中で痴漢に間違えられたそうだね」
「あれ、何で御存知なんですか?」
「女の子達が話しているよ」
それでなのだった。
「女の子達がね」
「何処からそんな話が出たんですか?」
「ひょっとしてその痴漢だと騒いだのはやけに太っていて不細工な女なんじゃないかい?」
「何でわかったんですか?」
彼は上司がそのものズバリで言ってきたので思わず声をあげた。
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