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キル=ユー

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4部分:第四章


第四章

 顔は昨日調べてわかっている。俺は遠くに止めてある車に隠れて探していた。今日中古で買ったどうでもいい車だ。仕事が終わったら足を消す為にすぐに海に捨てるつもりだ。当然買う時も偽名と出鱈目の経歴を使った。一千万ドルの前じゃ中古の車の一台や二台惜しくもなかった。
 それから暫くしてまた人が出て来た。やけに周囲がものものしい。
「あれか?」
 ファミリーの重役ともなればその警護はかなりのものだ。俺はそれを見てあれか、と思った。
 それは直感から判断したが見事にあたった。本当にザリアーノの家の奴だった。
「間違いないな」
 顔を確かめて呟く。整った精力的な顔とそれに似合わない剣呑な光の目。こっちの世界の人間の特徴だった。
 俺はライフルを構えた。そして狙いを定める。ターゲットは木の前に来た。
「よし」
 そこで引き金を引く。銃の衝撃が腕から身体全体に伝わった。
 それが終わった時だった。ターゲットは倒れていた。周りは一瞬時が止まっていた。
 ターゲットが撃たれた時照準には奴が今までその前にいた木が映っていた。白い大きな木だった。
「!?」
 その木を見て俺はふと思った。木、その白い幹がある文字に似ていることを。
「アイ・・・・・・」
 そうだった。それは間違いなくアイだった。アルファベットだ。
 だが今はあれこれと考えている暇はない。俺はすぐに車を出してその場から逃げ出した。仕事をやった後で長い間そこに留まる馬鹿はいない。俺はすぐに逃げることにした。
 追手は来ない。どうやら気付かれなかったようだ。だが証拠は消しておかなくちゃいけない。俺は予定通り車をマンハッタンの海に沈めた。
「これでよしだな」 
 ライフルだけは持っている。バイオリンのケースに入れてカモフラージュはしている。俺は夜の海に沈んでいく一時の愛車を眺めながら仕事が終わったことを感じていた。
「これで一千万ドルか」
 悪い仕事じゃないと思った。これで足がつかなきゃ最高だ。とりあえずは明日金のことで斡旋屋に話をしに行く。とりあえず今のところはこれでお休みだ。俺はタクシーを捕まえて自分の部屋に戻った。
 次の日。俺は目が覚めてトレーニングを終えると斡旋屋に電話をかけた。
 すぐに本人が出て来た。機嫌のいい声だった。
「グッモーニング」
「どうした、今日は機嫌がいいみたいだな」
 俺はその声を聞いて言ってやった。
「昨日何かいいことがあったのかい?」
「おいおい、あんたのことを祝ってやってるんだぜ」
 斡旋屋は笑ってこう返してきた。
「俺のことか」
「仕事のことさ。成功したんだってな」
「もう知ってるのかよ」
「知ってるも何もテレビでやってるじゃないか」
「へえ」
「依頼があったあの旦那がメトロポリタン歌劇場の前で死んだってな」
「ああ」
「こめかみを撃ち抜かれて。現場は大騒ぎだったそうだぜ」
「まあそうだろうな」
 俺はここではあえてとぼけた。
「ファミリーの重鎮が死んだとなっちゃ。当然だろうな」
「それも場所が場所なだけにな」
 このニューヨークでも華やかな場所にあの歌劇場はある。オペラ好きのイタリアン=マフィアの人間にとってみればそこで死ぬのは絵になるものだ。
「大騒ぎだぜ。抗争が原因かってな」
「表の世界にもそれはわかるんだな」
「しかし殺ったのは誰かはわかっちゃいない」
「絶対にわからないだろうな」
 そんなへまはしない。裏の世界はどうあれ表の世界にまで名前が漏れるような無様なことはしないつもりだ。
「誰がやったのかなんてな」
「見事だ。相変わらずの凄腕だな」
「で、その凄腕様にまだ言うことがあるんじゃないのかい?」
「何がだい?」
「とぼけたら今度はあんたのこめかみに穴があくぜ」
「わかってるって。報酬だろ」
「そうさ」
 俺は言ってやった。
「一千万ドルだったな」
「ああ」
「俺の口座に振り込んでくれるんだろ?」
「いつも通りな。それでいいか?」
「ああ、構わないぜ」
 じかにもらうよりそっちの方がいい。いきなりアタッシュケースに大金なんぞ持っていたらそれだけで怪しいことこのうえない。それから俺がやったってことがばれる可能性もある。
「後で銀行に行くからよ」
「今振り込むな」
「早いこと頼むぜ」
 俺は急かした。
「今日はたっぷりと遊ぶつもりだからな」
「何ならこっちに来るかい?」
「その可愛い娘ちゃんだな」
「とびきりのが一人いるんだ」
 ちなみにこいつはポン引きもやっている。まあ斡旋にしろポン引きにしろこっちの世界じゃなくてはならない仕事だ。ハーレムの裏社会では名の知れた奴だ。
「どんな娘だい?」
「チョコレートの肌でな」
「まあそうだろうな」
 ハーレムだからそれは当然だ。
「あんたチョコレートは好きだったよな」
「バニラもピーチもチョコレートも好きだぜ」
 俺は言ってやった。バニラは白人、ピーチは黄色人だ。アジア系の肌は黄色というよりは桃の色に近いと思う。肌触りもだ。結構白人の女は胸こそでかいが肌はザラザラしてて鮫肌の女が多い。けれどアジア系の女は違う。抱いたのは中国系とベトナム系の女だけだが肌が違った。滑らかで柔らかい肌だったのを覚えている。
 残念だがアメリカのアフリカ系の女の肌はどっちかって言うと白人の肌に近い。混血のせいだ。ザラザラしている女が多い。だが白人の女程きつくはないし背も高いし胸もある。その点小柄で胸もないのが多いアジア系の女よりはよかった。まあこれは俺の個人的な好みだ。
「何ならミックスでもな」
「元気だな、今日は」
「金があるんでな」
「しかしお勧めのアイスクリームは今日はそれだけだな」
「そうか」
「どうだい?そのチョコレートを頂くかい?」
「そうさせてもらうよ」
 俺はそれに頷いた。
「今日はそのチョコレートだけをたっぷりと味あわさせてもらうとするぜ」
「毎度あり。じゃあこっちに来てくれ」
「ああ」
「場所は。何処がいい?」
「ハーレムだよな」
「そうさ。出張させることもできるけどな」
「いや、そっちに行かせてもらうよ。ホテルはこっちでとらせてもらうがな」
「わかったよ。じゃあホテルに入ったら連絡してくれ」
「ああ、わかった」
 それで電話を切った。俺はすぐに身だしなみを整えて部屋を出た。そして自分の車でハーレムに向かった。
 
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