普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
107 あまり楽しくないおしゃべり
SIDE 《Teach》
年月は2023年。現在の最前線は、このゲームの全体4分の1が踏破された事になる26層。25層ボス──やたら強壮なボスを討伐したばかりの今日この頃。
現在地は25層に在る、〝まず人が入って来なさそう〟とすら思える程閑散としているレストラン。俺はそこに〝とある人物〟──25層フロアボスを相手に〝鬼神の如く〟な働きを見せた人物を呼びつけていた。
「待たせたね、ティーチ君。……この鋼鉄の城からの脱出を希う同士として、君とは一度、胸襟を開いて話してみたかった」
「……わざわざ来てもらって悪いなヒースクリフ。……むしろ来れないとも思ってたからな」
俺がこんな主街区のメインストリートから1本外れた店に呼んだのは、白髪とも銀髪とれる長髪に──その切れ目の向こうには〝怜悧〟と云えば聞こえは良いが、俺からしたら〝人を〝人〟として見ていない様な双眸〟を宿す長身の男性──ヒースクリフである。
「いや、私も君と話して見たかったから気にする事は無い。それに私のギルドだって君のギルドに負けず劣らず精強だからね、私が小一時間抜けても損失にはならないさ。……ところで、話は変わるが──この店をセレクトしたのは君かね?」
「それは重畳。万が一損失が出てたらそちらのギルドにどれだけ睨まれる事か。……ああ、この店は俺の選択だ。この層が解放された日に何と無しに入った時、なんだか雰囲気が気に入った。……さて──」
軽口の投げ合いも酣として、俺は本題をヒースクリフへと投げ掛ける。
「さて〝茅場さん〟。軽口も酣にして本題に移ろうか」
ジャブと見せ掛け、いきなりストレートをぶち込む。……俺はヒースクリフを15層のボス攻略で初めて見た瞬間、〝ヒースクリフ=茅場さん〟の等式を無意識に直感した。
……〝その直感が外れていない〟と──更に直感した俺は、あまり使いたくなかった手段だったがスキルで──答えを知るスキル…“模範記憶”にて確認。……その結果は〝是〟だった。
「……ティーチ君が、私をどの〝茅場〟だと言いたいのは判らないが…」
「自分の名前を〝茅場じゃない〟とは言わないんだな。……言っただろう? この店は〝俺の選択〟だって。……わざわざお金をはたいてまでこの店を一時的に独占してるんだ。……だから〝建前〟は要らないよ。茅場さん」
独占した方法を詳しく云えば、ヒースクリフが入店した後、ギルドメンバーに店の出入口を──俺がメッセージを送るまでの間を、塞いでもらっただけである。出入口を塞いでいるメンバーはエギルで、エギルは〝ワケ有り〟察してくれたのか、すんなりと承けてくれた。
……ちなみ〝お金をはたいた〟と云うのは、〝聞き分けの無いヤツ〟のための最終手段で、余ったお金はエギルの懐に入る事になっていたりする。強面なエギルにとっては面目躍如だろう。
閑話休題。
「私は──いや、もう認めようか。……確かに私の名前は茅場 晶彦だよ、ティーチ君──いや、〝升田 真人君〟。……まずは、よければ私の正体を見破った方法を教えてくれないかね?」
ヒースクリフ──茅場さんは俺の問いに、取り繕うのを止めたらしく〝素の茅場 晶彦〟な一面を──わりと見慣れていた顔を見せる。ついでに俺のリアルネームを引っ張りだす。……俺のリアルネームを出したのは溜飲を下げるためか。
「……実を言うと、初めて見た時からかな…。こう見えても〝茅場 晶彦〟と云う人物は観察してきたつもりだからな。……後は、何故かは判らないけど、俺は人の〝質〟を視ることが出来るんだ。……つまり、俺は見知った相手なら、相手が変装とかしてても簡単に見破れる」
「……ふむ、聊か信じがたい事ではあるが、実際に私の正体を看破したの確か。ちなみに〝茅場 晶彦〟が〝ヒースクリフ(わたし)〟であるのを否定されていたらティーチ君はどうしのかね?」
ヒースクリフは幾らか思案して、俺の〝人を視る目〟について軽く結論付ける。……ヒースクリフは俺に対して疑問に思ったらしい事を問い質してきた。
「それはさっきも言っただろう? 〝こう見えても〝茅場 晶彦〟と云う人物は観察してきたつもりだからな〟──と。……ヒースクリフが──茅場さんが俺をどうこうしようとするとも思ってないし。……そういう意味では、〝茅場 晶彦という人物〟を信頼していると言っても良いかな」
「……いやはや、〝真人君〟からそこまで絶大な信頼を獲ているとはね…」
かなり珍しい──〝茅場 晶彦〟の〝呆れ〟やら〝驚愕〟やら〝喜悦〟などが微妙なバランスで綯い混ぜされている様な、複雑な感情が入り乱れた顔から一変。……一度溜めを作ったかと思えば、ヒースクリフは言葉を発する。
「……さて、それではティーチ君にラスボスを看破した褒美を獲らせようか。……ティーチ君は私に何を望む? この城──アイクラッドからの脱却かね? もし私に挑戦して、私に勝った暁には君だけを解放しよう。……尤も、その場合は私が敗れたとしても、私は100層で君以外の皆を待つことになるだけだがね」
「HPがゼロになったら大人しく死んでくれよ。……それと、〝俺だけ〟なら意味が無い。却下。〝茅場さん(グランドボス)〟を倒したのに、それじゃあ報酬と依頼が不釣り合いだ。そこは全プレイヤーを解放してくれよ」
ヒースクリフからの、慮外の提案。……だが、そこは一刀両断。
ヒースクリフはこのゲームを──【ソードアート・オンライン】を知悉している人間である。……俺のレベル欄に在る、[51]と云う──他者よりは幾らか高いだろう数字を鑑みても、〝ラスボスとしてのヒースクリフ〟にすら、勝つのは不可能と云っても良い。
……何しろ、ヒースクリフ──茅場さんがこのゲームを作成したのだ。このゲームの特徴であるソードスキルに対して、某かの対策をしているのだと考えるべきだ。
寧ろこれまでのこのデスゲームの悪辣さを考慮するなら、〝ソードスキルが通じないのにソードスキルで戦うしかない〟──そんなルールすらありそうな気がする。……もちろん、ただの想像でしか無いが…。
閑話休題。
「いや、私を倒した場合でも解放されるのは君だけだ。……ゲーム初日に〝目標は達成した〟とは宣ったものの、意外にも自分で作ったゲームなのも有ってか、愛着の様なものが沸いてしまっているのだよ」
一拍置き、ヒースクリフは更に語る。
「君は〝私〟を見つけるのが早すぎた。……全体の半分である50層を越えてからだったら、全プレイヤーの〝この城〟からの解放を考えたのだがね」
本当に〝残念だ〟──とでも言いた気にヒースクリフは締める。……ヒースクリフはそう語りたそうにしているのだろうが、〝俺の狙い〟は別なのである。
「……それで、私の正体の看破についての報酬は、どうするのかね?」
「そんなに話を急がないでくれ。まだヒースクリフから幾つか話が聞きたいんだ。……例えば、25層ボスの猛攻を耐え凌げた方法とかな」
そう、俺が聞きたかったのはそれである。25層ボス攻略では〝軍〟──≪アイクラッド解放軍≫が大きな損失を出し、一時ではあるが戦線が崩壊しかけた。……そこで、攻略隊が立て直すまで十数分もボスのタゲ取りをしていたのがヒースクリフだった。
確かに茅場さんは──ヒースクリフはこのゲームを熟知しているのも有ってかは判らないが、それはそれは卓越した技能を持っている。……しかし、〝一度もイエローに落ちない〟なんて事はあり得ないのだ。……それこそ、ヒースクリフが〝何らかの手段〟を講じていない限りは。
「……ふむ、では報酬は〝あのスキルについての情報〟だけでいいのかね?」
「だいたいそんな感じかな。……あ、後〝在るなら〟の話だけど、〝他の似たようなスキルの解放〟も付け加えておこうか」
註釈とばかりに付け加える。……〝あのスキルに似たようなスキル〟は俺は存在していると考慮しての事で、更には〝そう云うスキル〟の存在はほぼ確定していると考えている。……〝茅場さん(ヒースクリフ)だけが使えるスキル〟──なんてものが在ったら、それはあまりにも〝公平〟じゃないからだ。
……〝公平さ(フェアネス)〟に関しては、それなりに気を配っている茅場さんの事である。〝似たようなスキル〟が在ってもおかしくは無い。
「まず、私が25層ボスを十数分間も抑える事に成功したスキルは“神聖剣”と呼ばれるスキルで、分類としてはエクストラスキルで、〝他に類を見ない〟と云う意味での〝ユニークスキル〟と云うものだ」
「ユニーク、スキル…」
噛み締める様にその言葉を反芻する。
「そして、後者から説明しようか。〝他の似たようなスキルの解放〟──だったかな? ……まず先に〝断る〟と答えておこうか」
「……理由を聞いても良いか?」
「元々ユニークスキルは90層で解放するつもりだからさ──と云うのが、当初の予定だったのだがね。……少々予定を変更して〝25層毎に1つずつ〟と云う事にさせてもらったよ」
「……っ…!」
淡々と語るヒースクリフ。正直な話、その言葉を聞いた時、俺はヒースクリフに掴み掛かりそうになった。……自分で決めたルールを自分で破る…。それは茅場さんにあるまじき行為で──そして、〝あまりに稚拙過ぎる〟と思ったから。
……しかし、それは〝茅場さん〟に勝手な理想を押し付けていたにしか過ぎない無いため、〝茅場さん=ヒースクリフ〟の等式を〝茅場さん≠ヒースクリフ〟とな非等式にして、寸でのところで一時的にだけでも自制する。
(……〝また〟か…っ)
……以前にも軽く述懐したが──実を言えば、このゲーム内でも〝いくつか〝異常〟や〝過負荷〟となスキル〟は使用可能だったりする。……なのでスキルで茅場さんに干渉しようとしたが、〝〝それ〟をしたい〟とは思えなかった。
(……だったら俺にも考えが有るぞ…)
「……さて、俺からヒースクリフに聞きたかった〝本音〟に関する問答は終わりだよ。……これからは〝建前〟の話だ」
「ほぅ?」
「ヒースクリフ──いや、≪血盟騎士団≫団長殿に、我がギルド──≪異界竜騎士団≫との同盟を持ち掛けに来た」
訝んでいるヒースクリフに、ヒースクリフをこの店に呼んだ〝本来の理由〟を突き付けてやった。……当然(?)ヒースクリフは驚愕して、俺はそのヒースクリフ顔を見て溜飲を下げたのだった。
そしてヒースクリフと2、3の問答の後、同盟を結ぶ事には成功した。
SIDE END
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