普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
104 これまでの話、これからの話
SIDE 《Teach》
(ん…?)
頭に柔らかい感触を覚えながら意識を表層へと浮上させる。《イルファング・ザ・コボルド・ロード》を〝RISE(ライズ)〟の〝STRENGTH(ストレングス)〟で無理矢理──無意識に身体能力を〝強化〟して討伐したのを思い出した。
(……あ。それと、ディアベル達に説明して第2層の〝解放〟を任せたんだったな…。……てか〝PSY(サイ)〟って、〝この世界〟でも使えたのか)
脳内で〝二度と〝PSY〟なんて使いたくねぇ〟と締めくくり、これまでの事を何とか思い出し、目を開けながら手をグーパーさせ、身体の感触を確かめる。
「あ、起きた?」
「……ん…リーファか…。……俺、どれくらい寝てた? てか、そのまま置いといても良かったんだけどな」
「駄目だよ。私、よく判らないけど、ティーチ兄ぃ大分無茶したんでしょ? だったら少しでも楽になれるようにしたかったの。……寝てたのは、だいたい30分くらいかな」
目を覚ませば、目の前にはリーファの瞳があり──リーファがまじまじと俺の顔を覗き込んでいた。……位置関係からしてリーファに膝枕をされていたのが判り──それを柔らかく咎めれたが、リーファの意思だったのでこれ以上追及するのを止めた。
「よっと。……あれ? なんで皆居るの? ……もしかして心配掛けちゃったかね?」
起き上がり〝元・ボス部屋〟を見渡せば、レイドの皆は先に行った様で〝打倒ボス〟の熱気もすっかり冷めていて、キリトとリーファが居るのは除き、辺りは閑散としている──はずだった。……俺が組んでいたパーティーの皆が居たのには軽く驚いた。
……キリトやリーファは居るとは思っていたが、フードを脱いだユーノ、アスナ──そして、エギルが未だに第2層へ進んでおらず、ボス部屋に留まっているのが判った。……十中八九、俺が待たせてしまったのだろう──と云う事は判った。
「むしろいきなり倒れて〝心配するな〟──って言う方が酷だと、ボクは思うけどね」
「そうだよ、ティーチ君。私達──特にお姉ちゃんはすっごく心配してたんだから」
「そうだぜ、ボスのタゲ取りをお前に任せちまったってカタチになっちまったんだ。……せめてお前さんが起きるまで待つくらいの事はさせろ」
おずおずとした俺の確認に、ユーノの正論と、〝私も心配したんだからね〟と言外に語るのはアスナ。……そしてやたら〝様〟でいて──やたらカッコいい声音でエギルが締める。
「……ありがたい。キリトもリーファもありがとう」
そう礼を言えば、大して気にしてないのだろう。皆して〝なんの事やら〟と、わざとらしいアクションをとる。
「……あ、そう言えばキリト、〝ラストアタックボーナス〟って、そのまんま──〝最後に攻撃を当てて、トドメを刺した奴に貰えるボーナス〟って認識で良いんだよな」
「ああ。……あ、ちなみに、そういうアイテムは大抵の場合一点モノ──所謂ユニークアイテムだよ」
キリトの言葉に、〝へぇー〟等と適当に相槌を打ちながら、今は懐かしくすらある第1層のボス──《イルファング・ザ・コボルド・ロード》からのラストアタックボーナスを、皆に見せびらかす様にオブジェクト化してみる。……黒いコート──《コート・オブ・ミッドナイト》がオブジェクト化される。
「《コート・オブ・ミッドナイト》…。俺の趣味は〝赤色〟なんだがな…。……確かキリトって黒い色好きだったよな。ほい、キリト」
「ちょっ──LAボーナスだぞ!?」
《コート・オブ・ミッドナイト》をストレージにしまい、トレードでキリトにアイテムを送ろうするが、キリトは驚いた様な顔で俺を諌める。……どうにも、普通のアイテムなまだしも──レアドロップ品をタダで貰うとなると気を咎めるらしい。
「……じゃあ〝貸し〟って事にしておいてくれ」
「……判った」
俺が〝無料じゃないぞ〟と──最早タダ同然、〝貸し〟と云う白紙の小切手を切りながら押し付けると、キリトは漸く受け取る決意をしてくれて──トレード承認の承諾ボタンをおした様で、俺のストレージから《コート・オブ・ミッドナイト》がキリトに移ったのが判った。
「……おお…」
「やっぱりキリトは黒が──と云うよりはグレーとかの落ち着いた色が似合うな」
と、他意無く思った様に褒めてみれば、恥ずかしかったのかキリトは顔を背ける。……ここに居る皆──キリト、リーファ、ユーノ、アスナ、エギルを見ていると、ふと──〝とある事を〟思い付いた。
「なぁ皆、ちょっと良いか? ……俺さ、ギルドを作れる様になったらギルドを作ろうと思うんだ」
「「「「「……ギルド…?」」」」」
俺の突然の発言にやはりと云うべきか。……俺を除く5人から、異口同音におうむ返しが返ってきた。
SIDE END
SIDE 《Yuhno》
「なぁ皆、ちょっと良いか? ……俺さ、ギルドを作れる様になったらギルドを作ろうと思うんだ」
「「「「「……ギルド…?」」」」」
いきなりのティーチ君からの提案(?)にティーチ君を除いた皆でおうむ返しにしてしまう。……取り敢えずはおうむ返しをしてみたものの、ボクはなんとなく話が見えてきた気がする。……なので、探り探り──ティーチ君が〝話〟を進めやすい様に誘導する。
「……ちょっと待って、ティーチ君。〝過程〟がごっそりと抜けてない?」
「……それもそうだな。……俺がしたいのは〝青田買い〟──先立ってのスカウトだよ。キリト、リーファ、、アスナ、エギル、そしてユーノ。……あくまでも〝勘〟でしかないが──君達はこれからの攻略に欠かせない人物になる気がしたんだ」
〝そして〟──と、エギルの後に置かれたのは些か驚いたが──それよりも更に、ティーチ君の観察眼(?)──人選眼(?)に前者の1.5倍増しくらいで驚かされた。
……何しろ、ボクを除く皆──リーファは多少事情が違ったりするが、ボクを除く皆が〝原作キャラ〟だったから〝驚くな〟と云われたとしても驚いてやる。……そう考えるのなら、ボクが最後に──おまけ感覚に付け加えられた理由が判った気がする。
(……ボクが〝転生者〟だからか…。そういえば、ティーチ君も先ほどの自分の言葉の中に、〝自分〟が──ティーチ君自身が入っていなかったっけ…)
それは兎も角として、ティーチ君の話に更に耳を傾ける。
「……まだまだ〝先〟の話になるが、攻略がダレる──停滞する様になるのは間違い無いと思っている。……俺の予想じゃあ、半分の半分を超えたあたり──75層を超えたあたりペースががくり、と落ちる」
「「「「……?」」」」
「……っ!!?」
いきなりのティーチ君の予言擬きにキリト達──ボクと発言者であるティーチ君以外が、頭上でクエスチョンマークを踊らせているのが顔を見たら手に取る様に判った。……ボクはティーチ君の〝未来視〟に近い眼力に面を喰らってしまった。
(ティーチ君──真人君って【SAO】知らなかったよね…? ……真人君はジャンプ、サンデー、マガジンとかしか読んでなかったはず…)
そう疑ってしまった。確かに〝原作〟では〝75層〟で終わってしまったが、70層を超えたあたりで〝アスナ〟が今ティーチ君が語った様な事を語っていた。……曰く〝馴染む〟──と。……それをティーチ君は1層が終わった今現在──序々盤で推測している。
故に〝知識〟が在るのかも──と疑ってしまった。……そんな──他の4人とは明らかに毛色の違うボクの反応を見たティーチ君は1つ鷹揚に頷いて続ける。
「……ユーノも〝そこ〟に思い至ったか。……もちろん、あくまでも〝予想〟に過ぎないし──〝75層〟と云うのも言い過ぎで〝もう少し後〟かもしれない」
と、保険を掛けるみたいに言うティーチ君に代表してエギルがこう質問した。
「……なんで攻略が滞ると思ったんだ?」
「……エギルはさ──いや皆に聞こうか。……〝出来ないやつ〟の気持ちって判るか? ……一先ず〝勉強〟を例にしてアスナに聞いてみようか。勉強で解らないところ──解けない問題が有ったらアスナはどうする? あくまでも〝例えば〟の話だがら気楽に答えてくれ」
「私? ……勉強で解らないところ…。私は参考書とか開きながら〝解る様になるまで〟机にかじりついてるかな」
ティーチ君の問いにアスナは答える。アスナのその答えを聞いたティーチは軽く頷き、更に続ける。
「答えてくれてありがとう。……アスナは〝解るまで頑張れる〟みたいだけど──でもさ、〝今は解らなくてもいいや〟〝どうせ解けなくてもテストでは違うところで点を取ればいいや〟って考えるやつも居るんだよ。……それも大多数」
「そんなの──文字通りの[現実逃避][問題の先送り]じゃない…」
「〝現実逃避〟、アスナは上手い事を言う。……〝この世界〟も一緒だよ──いや、ある意味では〝この世界〟──VRMMOの方が酷いか。……だって〝頑張れば強くなれる〟んだから。〝弱いMobを倒すだけでお金には困らない〟んだから」
……ティーチ君は、そこで「〝出来なかったやつ〟にとっては〝この世界〟…〝出来る様になる方法が確立している世界〟は生き易いだろうな」──と、更に付け加えた。
「判らないよ…っ! だってHPがゼロになったら死んじゃうんだよ!? ……それが〝生き易い〟…っ!? ……判らないよ…っ!」
「リードの切れた犬を助けようとしてそれに失敗したり、通り魔に遭ったりで──不慮の事故で人は簡単に死ぬのは〝現実〟でも一緒だろう? ……むしろ〝HPバーがゼロじゃない限りは大丈夫〟とでも思うかも」
「……っ!」
もはや地面にへたり込むアスナ。
「……でも俺はこのゲームに囚われたままでいるつもりは無い。……〝現実世界〟に帰りたい。家族を安心させたい。……そのためにはこのゲームをクリアしなければならない──だから、皆の力を借りたい」
そう差し出されたティーチ君の手。そこに「水臭いぜ」と、キリト。「私も頑張る」と、リーファ。「あんたらに付いていた方が稼げそうだな」と、エギル。「ボクもティーチ君に賛成」と、ボク。そして──「私も〝現実〟に帰りたい」と、アスナの手が重なっていく。
ティーチ君の作るギルドに参加する事が決定した。……そのギルドは後に≪DDD≫──≪異界竜騎士団≫と名付けられ、十把一絡げ──鎧袖一触の働きを見せるのだが、今は関係ない話である。
SIDE END
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