エターナルトラベラー
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第六十七話
前書き
ここまでがにじファンからの転載分になります。
その日、アインクラッドにまたも衝撃が走る。
第七十四層のボス部屋が結晶無効化空間でその攻略で久しぶりに犠牲者が出たという言う話が瞬く間に駆け巡った。
結晶無効化空間では転移結晶は使用できず、緊急時の脱出が不可能になってしまう。
これは七十四層以降も実施されているのでは?との噂がひっきりなしに聞こえる。
今日もアスナにメールで呼び出された俺は、シリカを連れてもはやお馴染みの第十八層主街区にあるレストランへと来ている。
「新しいユニークスキル『二刀流』、『神聖剣』に敗れるですって」
シリカは最近配られた有志で編纂しているアインクラッドの情報を集めた新聞を眺めてそう言った。
「二刀流ってあったんですね」
「びっくりだな。しかしユニークと言われているようだし、派生条件が分かってないんだろう」
カランカラン
そんな感じの話をしていると、レストランのドアが来客を告げるベルを鳴らした。
「お待たせ、アオ、シリカ」
座っていた俺達からは見上げる形にアスナを確認すると、その隣に一人、黒衣に身を包んだ男性プレイヤーが居る。
「あ、アスナさん。今どきますね」
そう言ってシリカは四人がけのボックス席で俺の対面に座っていたのだが、アスナと隣のプレイヤーの事情を汲んでか、直ぐに俺の横へと移動した。
「ごめんなさいね」
そう、アスナがお礼を言うと、俺とシリカの対面に座る。
男性も一緒だ。
「こっちの人はキリト君て言うの。キリト君も挨拶して」
「キリトです」
それは知ってる。ある意味今は時の人である『二刀流』の使い手だ。
「あのね、今わたしが生きているのも、アオ君に助けて貰って、剣術をおしえてもらったから。言わば命の恩人のような人だから今日は報告に来たの」
何の報告だよ?隣のキリトが関係するのか?
「わたし、キリト君とその…け、…けっ…」
け?
「俺とアスナ、結婚したんだ」
しれ、っとキリトがなんでもないように言った。
「ば、バカーーーー。わたしが言わなきゃダメだったのにっ!キリト君のバカー」
「アスナ、あのままだったら多分言えなかっただろ?」
「大丈夫よ!絶対に言えてたわ」
「そうか?」
「そうよ!」
赤面しながら反論し、言い争いをしているが、端から見ていると痴話喧嘩と言うか、もはや夫婦喧嘩だな。
「アスナさん結婚したんですか!?」
シリカが驚いて声のボリュームが上がる。
「そ、そうなの…」
「それはおめでとうございます!」
「おめでとう」
このSAOの世界でいくら仲がよいからと言って結婚までに行くのは稀だ。
それが未成年と成るとなお更だ。
「その報告のためにわざわざ?」
報告してきてくれたのは嬉しいが、それだけだったら別にアスナ一人でも良かったんじゃないかな。
「ううん、それだけじゃなくて、お願いがあるの」
◇
キリト君がユニークスキル『二刀流』を打ち明けて、わたしが自分の恋心に正直になってから数日。
オープンになった二刀流のソードスキルを見せて貰っていた時の、それはほんの些細な会話だった。
「キリト君はうまいね。アオ君と戦ったらどうなるんだろう」
「アオ?」
キリト君は私の口から出た男の名前に怪訝な表情を浮かべた。
「キリト君が想像しているような相手じゃないよ。…それにアオ君にはシリカが居るし」
シリカはまだ自分の恋心を認識していないと思うけど、端から見るとアオ君の隣を独占したがっているのはみえみえ。
わたしがアオ君に話しかけると必ず間に入ってくるもの。
「アオ君はね…そうだなぁ、わたしのお師匠さまで、多分アインクラッドで一番強いんじゃないかな?」
ステータスや、レベルなんかでは現在確実にトップであるキリト君には敵わないかもしれないけれど、戦うとなったらキリト君が勝てるヴィジョンが浮かばないよ。
「わたしも何度も街中で模擬戦しているけれど、未だに勝てたことはないなぁ…最近じゃシリカにすら勝てないし…」
彼女の強さはアオ君が付きっ切りで教えたためか、それこそありえないくらいに強くなっている。
ステータスと言う意味ではないけれどね。
「大丈夫だ、アスナ。俺はもう、絶対に誰にも負けない」
「そう?期待している」
「疑ってるな?なんならそのアオって奴を紹介しろよ。俺が絶対勝って見せるから」
「はいはい」
軽く流したのがいけなかったのか、キリト君はアオ君と勝負させてくれとしつこいの何の。
断りきれなくなったわたしは、結婚報告とともにキリト君を紹介することにした。
その後キリト君の暴走で2人が戦うことになろうとはその時は考えもしなかった。
◇
第十八層はすでに攻略してからかなりの時間がたっており、街を行きかうのはNPCくらいな物だ。
石畳の広場で俺とキリトは5メートルほど距離を開けて対峙している。
今回のこれはデュエルシステムを行使しない安全な決闘だ。
システムを使うと、どうしても街中での安全は双方のプレイヤーに限り無効になってしまう。
初撃決着モードならば比較的に安全とは言え、高レベル差ならばその一撃でHPを全損させることも訳が無いために、このような場合には使用はしない。
シリカとアスナは見届け人だ。
2人は俺達の中心から横に五メートルの位置で開始を待っている。
キリトが構えるのはそれぞれ白と黒の二本の直剣。
対する俺は脇に携えたままの二本のカタナ。
「…カタナを二本もつるして、なんか意味でもあんのか?」
「まあね」
俺は本来二刀流剣術使いだからね。
「それにしても、キリトさんってもしかしてアーチャーのファンなんですか?」
シリカが決闘の場なのに、そんな疑問を口にする。
「くすくす。わたしもそう思ってキリト君に聞いたんだけど。彼、知らないそうよ?」
そう、アスナが答えた。
「アーチャーって何だよ!?聞かれても分からないんだよなぁ」
「アスナさんも出ている映画なんですが、本当に知らないんですか?」
「わーわーっ!キリト君、何でもないから!」
「映画?もしかして一年ほど前から作られ始めた映画の事か?」
映画と言う単語で正解を引き当てたキリト。
「そうですよ。アスナさん、かっこよかったんですから。今着ている白い防具もその映画のキャラ…」
「シリカ、それ以上はダメー!」
一生懸命シリカの口を押さえたアスナ。
そう言えば、今アスナが着ている防具ってセイバー防具のバリエーションだっけ?
SOS団がセイバーリリーって言っていたな。
確かにのフレアスカートの形が上から見るとユリ(リリー)に見えなくも無い。
「くそっ!マジか!見逃した…」
その映画公開後、映像結晶はコピーされて販売されたが、今は絶版だし、その映像結晶も何故かプレミアが付いて高額で取引されている。
その映像結晶は出演者全員には無償で送られてきた記憶がある。
「アスナさんも持っているはずですが…」
アスナのシリカを拘束する手に力が篭る。
シリカ…そろそろ口をマジで閉じないとアスナにやられるぞ…
「マジかっ!アスナ、後で絶対見せてくれよ!」
「うーうー、ダメ、恥ずかしいもの…」
「じゃあ、アイツに勝ったら見せてくれ。それくらいのご褒美はいいだろう?」
お前が吹っかけてきた喧嘩だがな。
「ああ、じゃあ安心。キリト君じゃ多分勝てないもの」
「な!?ぜってーぶっ倒すっ!」
まてまて、そう熱くなるなよ…
ジャリッ
キリトの石畳を踏みしめる音が聞こえる。
「それじゃ、はじめっ!」
どうにかアスナの拘束から逃れたシリカが決闘の開始を宣言する。
ルールは初撃決着。最初の一撃を入れたほうが勝ちだ。
キリトが先ず距離を詰め、右手に持った直刀を振り下ろす。
その一撃を俺は右手で抜いた刀を抜刀して弾き飛ばす。
「なっ!」
次に繰り出すはずの左での一撃を前に弾き飛ばされたキリトが驚愕の表情でこちらを睨む。
キリトの気配が変わった。
戦闘をするもののソレだ。
キリトは再度踏み込むように切り付けると、今度は抜刀によるカウンターは出来ないのでその剣を受け止めることにする。
キィンキィン
両の腕から繰り出される斬撃。
弾いて距離を取った俺に、チャンスとばかりキリトがソードスキルを立ち上げるのが見える。
「おおおおおっ!」
雄たけびと共に繰り出される攻撃はシステムアシストも有り、速く、重い。
スターバースト・ストリームと言うらしい。
繰り出された十六にも及ぶ剣戟。
一撃目を返す刀で受け、二撃目を体を捻ってかわし、三撃目は捻った体を戻しながらその刀で受け止めたが、九撃目でかわすも受けるも一刀では不可能になってしまった。
キリトを見れば、勝ったと言った表情を浮かべているのが見えた。
しかし俺は左手で脇に射していた二本目を取り出す。
キィン
キリトは「え?」という表情をしているが、システムアシストにより、剣技は最後まで繰り出された。
十六にもなる連撃を全て受け止められたキリトは俺の反撃を恐れて敏捷度の上限ギリギリの速度で後ろへと飛んだ。
「…なんだ?それは…、あんたも二刀流が使えるのか?」
「いや、俺は『二刀流』なんてスキルは持ってない」
俺の答えにさらに驚愕するキリト。
「あれ?キリトさんには教えてなかったんですか?」
「てへ?」
シリカの疑問にかわいく誤魔化すアスナだが、キリトはかなり動揺しているようだ。
その眼はどうやったんだと言っている。
「システム外スキル、と言うほどのことも無いよ。武器は手に持つ事は出来るだろう?それを装備しないで斬り付けたらダメージが変わらなかったんでね。熟練者なら、ソードスキルに頼らずとも…」
俺は今度はこちらの番と二刀を構えて前進する。
「こんな事が出来るわけだ」
左右に持った刀でキリトを攻撃する。
当然、キリトはその白と黒の剣で受け止める。
「くっ…」
俺の攻撃を何とか凌いでいるキリト。
「こらー、アオ君!さっさと決めちゃってよ!」
「アスナ!君はどっちの味方なんだよ!?」
たまらずキリトが吼える。
「今はアオ君。…だってやっぱりキリト君に見られるのは恥ずかしいもの…」
のろけはよそでやってくれ…
「っ…」
ギィン
キリトは乾坤一擲と俺の攻撃を弾き、ソードスキルを発動するまでの時間を稼いだ。
ライトエフェクトがキリトの持つ直剣に走り…
システムアシストに乗った目にも留まらぬと表現できるような速度で攻撃を繰り出すキリト。
ジ・イクリプス
SAO内で最多の攻撃回数を伴う、二刀流の最上級スキルだった。
迫り来るそれを俺は左手で持った刀でキリトの右手による攻撃を受け止め、左手による攻撃が繰り出される前に、右手の刀をキリトの攻撃の隙を付いて渾身の力をこめてキリトの胸元へと突き刺した。
「っな!?」
その衝撃にソードスキルをキャンセルされてキリトの体が吹き飛んでいく。
御神流 『貫』
本来ならば相手の防御の癖を読み取り、その隙を突いてあたかもすり抜けたかのように相手を切りつける技だが、ソードスキルは所詮はシステムによって規定された攻撃だ。
その攻撃を予想することは難しくなく、今回のような事も対人戦ならば可能だった。
ザザーーーーッ
「まけ…た?」
砂煙を上げて転がったあと、キリトは放心状態で呟いた。
「アオさんの勝ちです」
シリカのウィナー宣言。
「ほら、言ったとおりでしょ?キリト君なんて手も足もでないって」
「…そこまでは言ってなかったじゃん」
キリトが声をしぼませながら反論する。
「いやー、キリトはうまかったね。二刀流の扱いも様になってたよ」
俺は今しがた決闘したキリトを助け起こすと、先ほどの決闘を労った。
「…また『うまい』だ」
うん?
「アスナも俺の事を『うまい』って言ったんだ」
ああ、そう言う事か。
「一体どういう事なんだ?普通『強い』だろ」
「その問いに答えても良いのか?」
「ああ、俺はその意味を知りたい」
「このゲームではソードスキルありきで皆戦闘をしてきただろう?」
「ああ、それは当然だろう。システムアシストにより通常の攻撃よりもダメージは上がるし、使い勝手が良いからな」
そうだね。通常攻撃メインの俺じゃ確かにソードスキルを使用したプレイヤーの七割しかダメージを与えられないだろう。
「だから、敵の攻撃を弾き、ソードスキルのモーションを立ち上げる時間を稼ぎ、そのシステムアシストによって相手を叩きのめす。そんな行動が染み付いている。君はそれが人一倍『うまい』ね」
「………」
彼の強さはシステムサポートによる強さだ。
「まあ、この世界なら『うまい』=『強さ』なんだから何の問題も無いけどね」
キリトの表情はさらに険しいものになる。
「今の言葉を聞くと俺は通常攻撃ではどうやってもあんたに勝てないって言ってるように聞こえるけど?」
「ただの斬り合いならば、それは経験や、たゆまぬ反復練習による努力が表に出てくる。俺は3歳から剣術をやっているんだ、独学でたった二年、剣を振るっただけの人たちに負けてあげれるような努力はしていないつもりだ」
「努力と経験…だが、初見のソードスキルをカウンター出来た事はどうなんだ?」
「それはだから経験だね。ソードスキルは所詮システム的な連撃。先を読むことは容易い」
「そうか…」
今度こそキリトは完全に黙り込んだ。
「今日はありがとう、それとごめんね。キリト君のわがままに付き合ってもらって。彼にこんな子供っぽいところが有るなんてね」
「そんな所も好きになんだろう?」
その俺の問いかけにアスナは赤面して押し黙った。
赤面したアスナはキリトを連れて第十八層主街区を逃げるように帰って行った。
第七十五層の攻略は七十四層の出来事からその速度は今までに比べて大幅に遅れていた。
結晶無効化空間。
これがボス部屋に配置された事に対する衝撃は凄かったからだ。
そんな状況を打破するべく、俺とシリカも、最近攻略組みと遜色ないほどに実力をつけた団長、フェイト、ゼノン、それと数人のSOS団のメンバーと一緒に迷宮区のマッピングを行なっている。
目の前に群がるスケルトンロードを前にフェイトがスキルを発動する。
「ジェットザンバーーーーーっ」
ソードスキルによりまず一撃目が敵の防御を崩し、二撃目が相手を吹き飛ばす。
技名はまったく違うのだが、彼らはネタに乗っている方が強い。
…強いから突っ込めないのである。
「ゼノンウィンザードっ!」
吹き飛ばした所にゼノンが止めとばかりにソードスキルを叩き込む。
俺やシリカ、そして彼らSOS団の武器防具は、今現在の在野にあるそれよりも一段も二段も上だ。
理由はヴィータのスキルスロットにいつの間にか現れたエクストラスキル『錬金』だ。
このスキルは集めた鉱石から新しい鉱石を作り出すスキルである。
上層に行けばドロップするアイテムも、低層により集めた素材で作り出せるスキルだった。
つまり、上層で集めた鉱石を使えば未踏破階層の鉱石すら作り出せると言う、ある意味バランスブレイクなスキルだったのだ。
これにより俺達の武具は強化され、いつの間にかSOS団が最前線へと赴けるレベルまでになっていた。
攻略を進めると、おどろおどろしい巨大な扉が見えてくる。
「ここがこの階層のボス部屋か?」
そうと呟いたのはルイだ。
ボス部屋にたどり着いたという情報は聞かないし、戻ってくるプレイヤーも居ない。
おそらく俺達が一番乗りだろう。
「だろうな。他の階層のもこんなんだったしね」
経験からここがそうだと皆分かっている。
「どうする?覗いていくか?」
そう言ったのはゼノンだ。
「斥候か?だが、中は結晶無力化空間である可能性が高い分かってるのか?」
ルイが問いかける。
「ああ、誰かがやらなければならないのだろう?」
それは、ね…
「俺達以上に武具のそろっている奴なんて早々居ないだろう。レベル的にも攻略組とそう変わらない。俺達がダメージを受け止めれないのならば、もはやこのゲームのクリアは困難だ、違うか?」
ゼノンがそう持論を纏めた。
「だが、危険だ…」
俺が彼らの意見を否定する。
「そうですよ、七十四層の事件は聞いているはずですよね?」
シリカが追随する。
結晶無効化空間での所為で久しぶりに最前線の攻略へと出張ってきた『軍』の精鋭から多数の犠牲者が出たのだ。
「それに、二十五層、五十層とクォーターポイント毎のボスは強力だった。今回もその例に漏れないかもしれない」
俺が今までの情報から推察する。
意見を出し合い、吟味した結果、彼らは偵察に行く事に決めたらしい。
それでも無理はせずにいつでもボス部屋から逃げれるように細心の注意を払ってのことだが。
「アオ達はどうする?一緒に行ってくれると心強いのだが…」
団長がそう尻すぼみに問いかけた。
「あーーーっ!くそっ!行くよ。ただし、おっかなびっくりあんたらの直線帰還距離を確保しながらな!ただし、ぜったい無茶はするなよ!」
こいつらの付き合いも長いし、やはり情が移ってしまったか?
「助かる…」
と、団長。
「それで、シリカはここで…」
「一緒に行きます!」
俺の言葉にかぶせるように宣言したシリカ。
そう言ったシリカをいかなる言葉を使っても説得は難しく、結局俺と同じく後方での帰還支援として付いていくことになった。
この選択がまさか、結果的に見れば俺達を救う事になるとはシリカの決断には感謝してもしきれないだろう。
開かれた扉を、ゼノンが先頭で潜り抜ける。
ゼノンはいつもの長剣では無く、重厚な盾を装備していた。
そんな彼を皮切りにSOS団のメンバーが入り、最後に俺とシリカが入ったとき、バタンと音を立ててボス部屋唯一の出入り口が閉まった。
「な!?」
「なんで!?」
混乱する思考を瞬時に追いやり、背後の扉を確認するが、押しても引いてもビクともしない。
「な!?」
「何だよこれは!?」
余りの衝撃的事態に混乱するSOS団のメンバー。
最悪の事態だ。
まさかの密室だった。
ボスはボス部屋からは出てこないのが今までの常識で、扉を潜ってしまえばボスは追ってこない。
今まで閉じ込められたことは無いというデータが、そんな事には成らないと決め付けてしまっていたのだ。
「フカーーーッ!」
突然クゥが天井を睨み威嚇する。
その豹変に俺も急いで視線の先を追うと…
「っ!やばい、上だっ!」
ザ・スカルリーパー
巨大な骸骨の頭部と全身骨で出来ているがムカデを思わせる下半身。
さらに蟷螂のような鎌が付いている。
「よけてーーーーーーっ!」
シリカの絶叫。それに合わせるかのようにスカルリーパーは天井から剥がれ落ち、空中回転しながら反転し着地。
その衝撃でルイとフェイトがたたらを踏み、倒れ込んだ。
それを見逃さずにスカルリーパーはその巨大な鎌を振り下ろした。
まずい!やられる!と思ったときに雄たけびと共にその鎌の前に立ちはだかったのはゼノンだった。
「うおおおおおおおおおっ!クラウンシーーールド!」
その見た目よりも頑丈な盾で2人をかばうゼノン。
「はやくっ!こっちだっ!急げ!」
そう、先ず戸惑って混乱している残りのSOS団をこちらに呼ぶ。
彼らは一度転移結晶を試してみたようだが、やはりここは結晶無効化空間だったようで、その手に虚しく結晶が握られていた。
「シリカっ!」
「はいっ!」
以心伝心。
もしもの時には使えるかもしれないと実験しておいたシステム外スキル。
その行使だ。
俺は右手の人差し指を振り下げ、アイテムウインドウを開くと、待機状態で駆ける。
「ルイ、フェイト、下がれ!ゼノンはもう少しだけ踏ん張ってくれ」
「くっ…」
いくら強固なクラウンシールドとは言え、ボスの攻撃をそう何度も防御できないだろう。
俺の言葉に直ぐにルイとフェイトが下がる。
「ゼノンっ!盾を捨てて避けろっ!」
「!!」
俺の言葉に従ったゼノンの奥に俺はアイテムストレージから取り出した大斧をジャンプした勢いも加味させて突き刺し、そのまま地面を転がった。
スカルリーパーの攻撃は大斧に阻まれてさえぎられ、俺は転がるままに相手の足元へと避けた。
「クゥ!煙幕っ!」
「なう!」
俺の指示を聞いたクゥがスカルリーパーに向かって煙幕を吐く。
隠蔽スキルも駆使して俺は相手のターゲットを外すとその足を避けるように距離を取った。
…
…
…
…
「それで?なんでおめぇらはそんな所に居るんだ?」
「ははは」
と、俺やシリカの乾いた笑い声が響く。
黒鉄宮の監獄エリアでメールを打ち、事情を話して出して貰おうと思ってクラインを呼び出したのだ。
「いやぁ、流石に死ぬかと思いました」
「はあ?」
何がなんだかさっぱり分からないと言うクラインに説明する。
「七十五層のボス部屋の中に入ってきたんですがね…」
「なんだって?どうしてそんな無茶を…だが、それがそこに居る理由と結びつかなねぇんだが…」
「まあ、それがボス部屋に入るといきなり扉が閉まっちゃいまして…閉じ込められちゃいました」
「何!?だが、今おめぇらはそこに居るんだから何とかして帰還したんだろ?」
あの時、俺もSOS団も生き残ることに必死だった。
転移結晶は使えない結晶無効化空間であり、さらに扉が締まってしまった脱出不可能な密室でどうやって脱出できたのか。
「シリカに抱きつけっ!速くっ!」
俺はスカルリーパーの後方から叫ぶ。
「は?」
「何を!?」
戸惑うSOS団をさらに叱咤する。
「速くっ!」
「っ!よく分からんが…役得じゃぁあああああああ」
「きゃーーーーっ!」
こんなときでもSOS団はSOS団かよっ!
と、そんな場合でもシリカはきっちりと自分の仕事をこなした。
「!?どこに消えた」
「速く、次っ!」
俺は煙幕の切れる前にシリカへ向かって走り出した。
「わ、分かった!」
次々にシリカに抱きつくとその存在をこのエリアからそのアバターを消失させていくSOS団。
俺もクゥを回収してシリカの所まで戻るとどうやら俺が最後のようだった。
「アオさんっ!」
「ああっ!」
後ろを振り返ると煙幕が晴れ、スカルリーパーはしっかりと俺達をターゲットしたようだった。
俺はシリカに近寄ると…シリカは思いっきり俺の股間を蹴り上げた。
「ぐぅっ……」
強烈な痛みをこらえ、俺はシリカに抱きつくと、合図を送る。
「3、2、1、今」
「はいっ!」
俺とシリカは同時にウィンドウを操作して、一瞬後俺達が消え去った後にスカルリーパーの鎌が振り下ろされたのだった。
「つまり何か?おめぇらはハラスメント行為の強制転送を利用してここに飛んできたと?」
「はい」
いやぁ、アンチクリミナルコードまで無効になって無くてよかったよ。
これが無効だったら全滅してたかもしれない。
以前ドラゴンゾンビ戦で閉じ込められて以降、何とかならないものかと試行を重ねた結果思いついたのが今回のこの裏業だ。
「だが、それだと最後の一人はどうやって飛んできたんだ?」
「キンテキってハラスメント警告の表示に時間的猶予が有るって知ってました?」
キンテキは蹴られた後十秒ほど警告時間が続くのだ。
「いや…知らねぇな。つかシリカ…蹴ったのか?」
「きっ!緊急時でしたしっ!仕方が無かったんですっ!」
表情エフェクトの限界まで赤くなるシリカ。
「まあ、その猶予を使って一緒にハラスメント行為による強制転送にYesをクリックしたと言う訳ですね」
「そんな事が…、わぁった。すぐにここから出られるようにしてやる。…ボスの情報は掴んできたんだろう?」
「さわり程度ですが、ね。それととても重要な脱出不可能と言う情報と、システムの裏をかいた緊急脱出手段まで実行してきました。ぶっちゃけもう精神的にはこの層のボスには関わりたく無いですね…」
「十分さ、後はオレらの仕事だぜ」
その後、監獄エリアを出た俺達は、オレンジネーム(犯罪者)を解除するために面倒くさいクエストを受けることになり、そのクエストを受けている最中でこのゲームがクリアされたと言うシステムアナウンスを聞くことになる。
後書き
七十五層での空中分解。
…まあ、原作どおりと言えばそうですね。
もし、これを変えるとなると、もう半年ほど攻略が遅れることになり、フェアリーダンス編の昏睡状態のアスナに似た写真を撮られる事も無く、キリトさんが助けに行けずにバッドエンド一直線ですからねぇ。
そうなればオリ主が関わった弊害と言う事になりますが…そうなるとフェアリーダンス編以降全て無いと言う結果になりますね。
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