英雄は誰がために立つ
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Life17 再会の野良猫
此処は禍の団の隠れ家である西洋風の屋敷の一室。
そこにはとある4人がいた。
1人は掟としがらみからの解放を求めた猿の妖怪、闘戦勝仏こと孫悟空の末裔である美猴。
1人は幼き身で自分たちの今後を考えた上で悪魔へと転生・・・・・・しかし、主が下種だったため妹を守るために殺し、1人汚名を被り再び野良に返った猫魈兼転生悪魔(SS級はぐれ悪魔)の黒歌。
1人は『最強の聖剣使い』への渇望及び強者との戦いを望みつつ、裏では従者との恋仲を父親に悟られないためと言う理由から修羅の道に踏み込んだ青年。
ブリテンの騎士王の末裔であり、名前すらも受け継いだ天才剣士、アーサー・ペンドラゴン。
そして最後の1人は魔王ルシファーの末裔であり、人間の血も引いている理由から白龍皇が宿る神器を使いこなす現白龍皇のヴァ―リ・ルシファー。
禍の団には複数の派閥があるのだが、現在の彼ら4人はどの派閥にも属さずにいるために、彼らを知る者達はヴァ―リチームと呼んでいた。
そんな4人が怪しげな屋敷で集まって、平和維持活動などについて話し合っている筈も無い。
「なぁ、ヴァ―リ。ホントに行くのかよ?少し前位に『伏羲』の連中が冥界で大暴れしたんだろ?」
「何だ?臆したのか、美猴」
「んなわけあるか!・・・・・・って言いてぇけどよ、着いた途端に魔王連中やそれと同等クラスに囲まれて、拘束されてから孫悟空に引き渡されるなんて、俺はごめんだよい」
「安心してください、美猴。今回の目的地はあくまでも、冥界付近の次元の狭間の一角です。着地地点は確かに冥界ではありますが、魔王たちの動向は一応確認は取れていますからね」
美猴の疑問にはヴァ―リでは無く、アーサーが答えた。
「だったら早く行かない?一応の保険もあるんだし、何時までもぐずぐずしていないでね」
「解っている」
黒歌に促されたヴァ―リたちは、瞬時にその場を後にした。
-Interlude-
その頃一誠達はソーナたちと合流した後にタンニーンの提案により、彼とその眷属たちの背の上に乗ってパーティー会場へ向かっていた。
『まったく、信じられないわ!』
そんな彼らの内、一誠にリアス、朱乃に祐斗は腹を立てており、それに僅かだがアーシアと小猫、そして珍しくギャスパーも憤りを見せていた。
理由はゼノヴィアを自死の思いにまで追い詰めたモードについてだった。
『あそこまでゼノヴィアさんを追い詰めるなんて・・・・・・士郎君の知り合いだからと言って、限度がありますわ!』
リアスは愛情深いグレモリー一族の末裔のために、眷属たちと同様に全体の繋がり――――絆が非常に強い。修羅場もいくつか乗り越えてより強固となっているため、1人の問題は全員の問題として捉えてる傾向となり感情の起伏も激しくなっていた。
因みに先程から彼らは背中の上に展開されている結界の中に居る為、念話に近い会話で議論・・・・・・と言うよりうっぷんを晴らすように荒れていた。
『報告だけで聞いていたけれど、その娘はそんなに強かったのかしら、リアス?』
そんな時、あくまで情報でしか知らないソーナがモードについて尋ねた。
『・・・・・・・・・まぁ、それなりには強いと思うけど・・・』
『ふむ・・・ゼノヴィアさんは如何でしょう?』
『え、あ・・・・・・まぁ、強いですよ。実際にグレイフィア殿と渡り合っていた敵を退けましたし、私も苦戦していた敵をも一蹴しましたからね。“あの日”から残りの大半はあの人の指導の下で稽古付けて貰ったりしましたが、私など足元にも及ばない位の手練れでしたよ』
『・・・・・・ッ!?』
ゼノヴィアの感想にソーナはなるほどと呟き、興味を持っている様だった。
それに比べてリアス達は、自分を追いつめた相手を褒める必要なんて無いんじゃないかと露骨に或いは分かりにくいようにと別々だが、全員ムッとした。
『そこまで褒める程だったかしら?』
その全員を代表して主人であるリアスが嫌味のように、ゼノヴィアの感想を批評する。
残念ながら嫌味を言い付けたい相手のモードは此処には居ない上、所詮は負け犬たちの遠吠えと、恐らく彼女は気にしないだろう。
しかしゼノヴィアはそんな仲間の気持ちにも気づかずに続ける。
『それ程だよ、部長。それに士郎さん曰く――――剣士としては何もかもすべてがモードの方が格上であり、もし真剣の殺し合いになって剣技のみと言う状況に追い込まれれば、良くても時間稼ぎ程度で最後までやれば殺されるのは確実に自分である――――だろうといっていたよ・・・』
『士郎君がそこまで褒めるとは、実力は確かなようですね?会長』
『ええ・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・!』
如何いう意味で興味を示しているかは謎だが、モードに対するソーナの興味心は深くなっていた。
もしかすれば自らの眷属に誘おうと考えているのかもしれない。
そして矢張りまた、リアス達はムッとしていた。
彼らからすれば士郎は既に頼れる存在になっていた。
そんな人間が、自分達に気に入る事の出来ない存在を高評価するのが面白くない様だ。
因みに、ゼノヴィアを追い詰めたことに腹を立ててモードに詰め寄った彼らとの仲裁をしたのが士郎であり、その時もモードを庇っていたのも快く思ってはいなかった。
まぁ実際には、やり過ぎだと士郎はモードを注意していたのだが、彼らには自分たちの都合のいいようにしか映っていなかったようだ。
『そう言えば、当の士郎とモードは何所へ?』
空気を変えようと言う狙いかは判らないが、椿姫がリアス達に話を少しづつ、ズらす様に聞く。
『2人とも会場警備で一足先に行っている。士郎さんは悪魔の社交界の場に人間が出るべきではないと言って、警備側に逃げた。もう1人のモードはこれが終わったら帰るらしい』
ゼノヴィアの説明にソーナたちは成程とまた頷いた。
そしてリアス達は知っていた事実だが、全員とも同じようにさっさと帰れと強い嫌悪感を心の中で露わにしていた。
因みに、士郎に反骨精神を持っている元士郎は、出発前の一誠の会話が原因で今も深く落ち込んでおり、彼に好意を寄せている他の眷属たちが慰めていた。
そんな風に彼らはパーティー会場に向かっていった。
-Interlude-
「そろそろ来る頃か」
海上警備中の士郎はそうやって呟いた。
「心配しなくても、そう連続で敵も襲って来ねぇだろ?相変わらず心配性だな」
その呟きに反応したのはモードだ。
「一応ということもあるだろ?気を緩めるべきじゃない」
「おー、そうかよ」
士郎の慎重すぎる態度に、モードは呆れて来て棒読み口調だ。
そんなこんなで警備を真面目と不真面目に続けていく2人だった。
-Interlude-
一誠は、パーティー会場に到達してからリアスと共にあいさつ回りをした後にレイヴェルと出くわしていた。
「レイヴェル・フェニックスだと申していたはずです!まったく、これだから下級悪魔は!」
一誠が出くわした時の開口一番の言葉が『焼き鳥野郎の妹』だったことに、レイヴェルを怒らせてしまっているのであった。
「悪かったよ。それで兄貴――――ライザーは元気か?」
「マーブルマーダー――――幻想殺しと名乗っていたあの方からの大敗から、お兄様ったらずっと塞ぎ込んでいますのよ。それに赤い死神と赤い龍が夢に出て、襲ってくると泣き叫んでいるんですのよ」
「ハハハハハ・・・・・・・・・ん?赤い龍?」
苦く、乾いた笑いをする一誠の頭の中で疑問が浮かぶ。
ライザーをぼこぼこにしたのは士郎さんの筈なのに、なぜ自分まで悪夢に出てうなさせる原因になっているのか解らなかったのだ。
一誠は、その疑問をレイヴェルにぶつける。
「疑問に思うのも尤もだと思いますわ。ですが一応、理由はあるのです」
――――理由?
「はい。知っての通り、お兄様はあの日、幻想殺し殿に敗れましたわ。その時の一方的な攻防があまりだった物ですから、気が付いた後は記憶の混乱が見られまして・・・・・・唯一憶えていたのが“赤い”何かに一方的に攻められて負けたという位しこ憶えていなかったのです」
「だけど時間が経てば思い出すんじゃないのか?記憶喪失にでもなったのなら別だけど・・・」
「仰る通りですわ。確かにお兄様は、レーティングゲーム中の事を記憶にある限りの全ての事を思い出しました。ですがその後も、毎日ではありませんが同じような悪夢を見続けていきました。そしてあなたの武勇伝を耳に入れてからは、部屋から一歩たりとも出て来なくなってしまったのです」
ライザーの耳に入れた一誠の武勇伝とは、会談襲撃の日の白龍皇撃退のことである。
それを耳に入れたライザーは、あんなに一誠をぼこぼこにした自分に復讐する日が来るんじゃないかと言う勝手な妄想に囚われてしまい、完全なる引きこもりと化したと言うわけだった。
それを聞き終えた一誠は溜息を吐いた。
「確かに、俺は部長を悲しませる原因だと思ったライザーを許せなかったが、もう俺達にとっては終わった事なんだ。だからそんなこと俺はしないぞ!?」
「承知していますわ。今のお兄様の状態は完全な被害妄想ですから。ですが今回のはいい薬です。才能に頼り切って調子に乗っているところもありましたから、十分懲りる事でしょう」
手厳しいなぁと感じる一誠は、レイヴェルとその後もいくつか話をして同じくライザーの眷属であるイザベラと入れ替わる様に離れて行った。
そのイザベラとも話し終えた時に、焦る様に急いで会場を出ようとしている小猫の姿が視界に入った。
――――小猫ちゃん!?
その姿が気になった一誠は、近くに居たアーシアとゼノヴィアに一声かけてから小猫の後を追った。
その後に、エレベーターでリアスと合流?を果たした一誠は、2人で小猫の後を追い駆けて行くのだった。
-Interlude-
「ん?」
一誠達が小猫の追跡をしてから暫く経過している時、士郎と共に警備にあたっているモードが『直感』によりある違和感に気付いた。
「如何した?」
「・・・・・・何か、妨害かなんか掛かってねぇか?」
「何・・・・・って、それはモードレッドの直感によるモノだろ?俺には分かる筈も無って、おい!!?」
士郎が言い返しきる前にモードは偶然・・・・・・いや『直感』による必然性により、小猫が向かった先に瞬動で走り去っていく。
止めるにしてもまずは追いつかなければと悪態を突きながら、士郎は後を追うのだった。
-Interlude-
士郎はモードに何とか追いついた――――いや、止まっていた。
何故ならここが歪みの終着地点だからだ。
「結界か・・・」
「破れそうか?」
「任せろ。投影、開始」
結界前で立ち止まったにも拘らず、まるで鮮血に染まった赤い投擲型によく用いられる槍を投影した後にその場から瞬時に偉く後方まで離れた。
そして、まるで地を這う獣の様な姿勢のまま朱き長槍を構えた。
その場から駆けだしてから瞬動による助けもあって一気に高く跳躍する。
そして今の士郎の姿勢は投擲のそれだった。
「突き穿つ――――」
そしてその槍からは、禍々しいまでの赤いオーラが炎のように煌めきながら噴出していた。
その様はまるで、敵と見做した万物の喉笛を噛みちぎらんとする猛獣の咢の如くに。
「――――死翔の槍!!」
士郎の手から放たれた長槍は、周りの大気から幾層も悲鳴を木霊させながら結界の中心位置と思われる部分に向かって行った。
そして当然の如くど真ん中に命中した長槍は、結界を完全に破壊しながらもその下の地面を抉っていった。
その光景を見ていたモードは実に愉快そうに笑っていた。
「流石は今のオレのマスターだぜ」
本当に愉快そうに笑っているのだった。
-Interlude-
『!!?』
『!!?』
突然の轟音に、その結界内に居た誰もが驚いていた。
「何だぁ!!?」
「結界が破られたわ!一体、誰が・・・・・・!?」
自分の結界を破られた事にショックを感じていた黒歌の視界内に、轟音と共に大地を抉りクレーターを作った何かが降って来た。
「槍・・・・・・?まさか、こんな槍で結界を壊したっていうの!?」
「この槍はまさか・・・」
「俺のだよ、小猫」
小猫の思い当たる人物が、空から降って来た。
「士郎、さん・・・」
「士郎さん!」
「士郎!」
自分たちにとってある意味では誰よりも頼りになる存在が、まるで遅れてきたヒーローさながらのように登場してきたことに、士気を高める。
「士郎かっ!?」
そして、今では愛称を呼び捨てにするタンニーンも反応する。
「アイツは・・・?」
そして、マーブルマーダー――――幻想殺しの素顔を知らない美猴は怪訝な顔をして士郎を見やった。
気の流れにより人間だと分かったが、何故ここに人間がいるとかどうかと言う無駄な考えをすぐに捨てた。
自分の近くにも人間の身で強い奴がいるのもあるが、一誠達の士気の上がり具合から警戒を強めた方が良いと瞬時に判断出来るからだった。
その一方で美猴とは別に黒歌は虚を突かれた、或いは放心状態になっていた。
何故なら目の前の状況が、信じがたいモノだったからだ。
(ご・・・・・・)
「一誠、禁手化出来たのか?タンニーンもいるし、こりゃ俺は要らなかったかな?」
「そんな事ないですよ!」
「そうよ!確かにイッセーが強く頼もしく成れたけど、貴方がいるだけでさらに安心できるわ!」
リアスと一誠は、本当に思った事を口にした。
因みに、士郎のタンニーンへの呼び捨ては、タンニーン自身が許可したからだった。
如何やら気に入られたらしい。
ただこれをサーゼクスにばれると、またまた面倒臭そうだと言うのが士郎が最初に思った事だった。
(ご主・・・・・・)
「オレもいるんだけどな」
「なっ!?」
「如何して!?」
後から出て来たモードに対して、驚きながらあからさまに嫌そうなリアスと一誠。
「この異変に最初に気付いたのはモードなんだ」
「むっ」
「如何して士郎が気づいてくれなかったのよ!」
「無茶な・・・」
モードと遭遇したくなかった2人は、露骨なまでに嫌がる。
(ご主人・・・・・・)
「別に感謝してほしくて駆けつけて来たわけじゃねぇから、安心しろよ?」
「クッ!」
「この~!」
「またそんな事を・・・・・・・ん?」
士郎は一誠達と戦っていたと思われる者が、自分に視線を向けていることに気付いた。
そして――――。
「ご・・・主人・・・さま・・・?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』
黒歌の言葉に、美猴と戦っているタンニーン以外の5人が虚を突かれるように固まるのであった。
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