| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

茂みの声

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

3部分:第三章


第三章

「入ってると思うか?」
「さあな」
 当然ながら天野と原田もいる。原田は天野の問いに腕を組んだうえで応える。もう皆椅子に座ってそのうえで録音を聴く姿勢に入っていた。
「精々虫の鳴き声が何かだろ」
「それは流石に放送できないか」
「キリギリスとかウマオイならいいんだがな」
 どうやら原田は秋の虫の声が好きらしい。最初に出たのはそれだった。
「まあ期待しないで待つか」
「期待しろ。じゃあかけるぞ」
「ああ」
 何はともあれこうして録音をチェックするのだった。最初は何も聴こえない。しかしやがて。聴きなれない声が聴こえてきたのだった。
「!?おかしいわね」
 最初にそれに気付いたのは福田だった。
「何か聴こえない?」
「何か!?」
「そう。録音の中に人の声が聴こえるわ」
 彼女は耳をすませ目を顰めさせながら言ってきた。
「功成君のでもないし純君のものでもない」
「大体俺は録音はじめてからすぐにいなくなった」
「俺もだ」
「ええ、それはわかっているわ」
 これは福田が最もよく知っていた。二人は去る時に録音をスタートさせた。録音の最初にその音が入っている。福田の声も入っていた。だからこれは彼女もよくわかっているのだ。
「それに。この声って」
「!?これは」
 次に気付いたのは天野だった。
「この声あれじゃないのか。大人の男の人の声だ」
「そうだな、間違いない」
 そして原田もまた。彼等の他の部員達も気付いていった。
「おい、この声って」
「そうだよな。何か言ってるぞ」
「この声だけ大きくできる?」
 原田は怪訝な、明らかに何かを探る顔で原田に声をかけた。
「変なこと言ってるみたいよ」
「変なこと!?」
「ええ、何かしら」 
 その怪訝な顔で述べる。
「それ聴きたいんだけれど」
「わかった。それじゃあ」
 原田は福田のその言葉に応えた。そうしてすぐにその声だけを大きくさせた。複数のボリュームのスイッチのうちある部分だけを動かして調整したのである。そしてそれからまた聞いてみると。
「・・・・・・ここでいいか?」
 福田は声を聴いて呟いた。
「そう言ってない?」
「ああ、言ったな」
「間違いないな」
 天野も原田も聴いた。真剣な顔で頷く。
「ここならばれない、ね」
「言っている」
「後は埋めるだけだってな」
 三人は次にシャベルで地面を掘る音を聴いた。それは結構長い時間続きそれが終わってから。今度は何か水分の多い重いものが落とされる音を聴いた。ドサリ、と。それから土をかけていく音が。それが聴こえてきたのだった。
「・・・・・・まさかと思うけれどさ」
 福田はその土がかけられる音を聴きながら皆に対して言ってきた。
「麻奈達今とんでもないの聴いてない?」
「ひょっとしたらこれは」
 天野も強張った顔で言う。
「まさかな。これは」
「死体を埋めているのか?」
 今度言ったのは原田だった。
「ひょっとして」
「ねえ、場所はわかってるわね」
 福田はまた怪訝な顔で皆に言うのだった。
「少し皆で調べてみない?これってとんでもないことみたいよ」
「そうだな」
 天野が最初に福田の言葉に頷いた。
「皆で行ってみるか。シャベルを用意してな」
「掘り返すか」
 原田も言う。
「ひょっとしたら出て来るのはな」
「ただ。出て来たもの次第ではすぐに」
 また福田が言葉を出した。
「警察に連絡ね」
「ああ」
 こうして三人だけでなく放送部の皆で録音機を置いたその場所に向かいそこを掘り起こしてみた。場所はやはりそのそこだけ草が生えていない場所だ。そして実際に掘り起こしてみると。
「・・・・・・まさかとは思ったけれどね」
「ああ」
 シャベルを肩に担いだ天野が福田の言葉に頷いていた。そのうえで足元を見ている。足元は既にかなりの深さまで掘られておりそこから青いビニールが見えていた。そしそこから出ている何か白いものも。
「出て来たな」
「これって何だと思う?」
 福田もまたそのビニールと青いものを見ていた。そのうえで皆に問うていた。
「麻奈、一つしか思い浮かばないけれど」
「俺もだ」
 答える原田の声は強張ったものだった。
「これは。やっぱりな」
「死体だな」
 天野も言う。
「これは間違いなくな」
「そうよね。それでどうするの?」
 福田は強張った顔で二人に対して尋ねる。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧