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エターナルトラベラー

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外伝 シンフォギア編 その2

それからミライは特異災害対策二課に入り浸り…

「いやぁ…欲しいものが手に入るってのはいいね」

シンフォギアの運用の為に実験機材また資材は多い。

「あったかいもの、どうぞ」

「あ。あったかいもの、どうも。あおいさん」

いつの間にかコンソール一つを占領してしまっていた。

「何をしているの?」

コンソールのそこに並ぶのは文字の羅列だ。

「何に見えますか?」

「それが分らないから聞いているのよ」

「了子くんなら分るか?」

更に後ろから覗いていた弦十郎が振り返りざまに聞いた。

「さあ?この私でも門外漢よ。しいて言えばパソコンのOSに似ているって所くらいかしらね」

「残念、ハズレですよ」

「そうよねぇ。そもそも私も結構言語には通じているつもりなのだけれど、そこに使われている文字すら私には初見なのよ」

まずミライがやったことは新しい文字の創造。それをキーボードに割り振り、未知の言語で綴られている。

「そもそも、それ発音できる言葉になっているの?」

「さて、どうでしょうね?」

とはぐらかしながらも叩く手を止めない。

ビーッビーッ

「あら、ノイズか…最近多くないですか?」

「そうだな。だが…翼と響くんに出動要請。ミライくんは…」

「行ってもいいですけど、避難誘導は完了しているようですし、二人に任せた方が…」

「もう一月経つのにかみ合わんか…」

「ですねぇ…」

翼と響の不和が目に見える様。

「まぁだいたい響のおせっかいが翼の気に触ったんでしょう。後で両方のグチを聞いておきますよ」

「すまない、助かる」

「とは言え、翼もわたしに関してどこかよそよそしいんですがね」

「既知であった君がシンフォギア装者であると分ったのだ。その内情はおもんばかるばかりだ」

「私が皆を守っていて、その中にわたしも居なければいけない、って思ってそうですね」

「おまえ…分ってるなら…」

「いえ、実はなかなか取り付く島がなくてですね…取り付く島も響がぶっ壊してしまったようなので、そっちの修復が先かな、と」

「なるほど」


「ノイズは二人で何とかなりましたね」

「ああ。だがいまだ不和は直らず」

しかし、モニターの先で取っ組み合いに発展しそうなそこに乱入者が現われる。

ビーッビーッと警報が鳴る。

「ネフシュタンだとっ!?」

弦十郎の絶叫。

「ネフシュタン?」

「二年前奪われた完全聖遺物よ」

と了子さんが説明する。

「ミライくんっ!」

弦十郎がそう叫んだ後、視線は再びモニターヘ向ける。

「あー、はいはい。わたしも出撃します」

「頼んだっ…て、ミライくんは…?」

「先ほどまでそこに…」

しかし再び視線をモニターに向けた弦十郎は驚きに表情を崩す。

「なっ…」

そこには既に乱入したミライの姿があったからだ。

「Aeternus Naglfar tron」

空中から落下するように戦場へと乱入すると着地する前にギアを発動。


翼の歌が聞こえた。それはとても悲しい歌声だった。

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

絶唱…それは自身の体への負荷を度外視した力の発露。


「ちょぉっとごめんよっ!」

手に持ったネギでネフシュタンの鎧を纏う少女の棘縄を弾きながら翼との間に割ってはいる。

「ミライっ!」

「ミライちゃんっ」

見ればダメージを受けている翼とノイズの蜘蛛の糸のようなものに捕まっている響。

「てめぇ…」

「あれ?誰かと思えばいつかのイチイバルの少女じゃないですか」

やだーとミライ。

「イチイバル…だと?何故その名前がここで出てくる」

「せっかく可愛いのに、その鎧は無いんじゃないかな?趣味悪いよ?」

「かわっ…!?」

鎧の向こうで赤面するネフシュタンの少女。

「それと、絶唱なんて使う場面じゃぁ無い」

デコピン一発。

「何を…あぅ…」

翼のギアが解除されたたらを踏んだ。

「ギアが…解除されただと…?」

「それでも中途半端に発揮した絶唱を完全にキャンセルできたわけじゃないからね」

「かはっ…」

血涙が流れ、吐血する翼。

崩れ落ちる翼の体を抱き上げると跳躍。響の下へと移動する。

響を拘束していたノイズを手に持ったネギで両断すると翼を預けた。

「翼さんっ」

「響が守ってやって」

「ミライちゃんはっ!?」

「わたしはアレの相手をしないとね」

そう言ってネフシュタンの少女と対峙する。

「こんのぉっ」

バシュウバシュウと少女は手に持った光線銃のようなものから放たれたビーム。そこから現われるのは無数のノイズだ。

キュイーンバシュー

(やばい…出力が…)

直ぐにギアが旋律をつむぎ出す。

「この数のノイズにお前はどう立ち向かうんだよっ!なぁ?」

両手にネギを持ってノイズを屠る屠る屠る。

「ネギなんかでーーーっ!」

「それじゃこんなのでっ!悪霊退散っ」

I・C・B・M

腰のギアが巨大化すると巨大なミサイルが現われた。

「いいっ!?」

堪らずとネフシュタンで鞭を振るう少女。

軌道はそれたが爆風がノイズを直撃、炭となって消えた。

「これでっ」

「バカにしてーっ!」

ネフシュタンの少女は更に多数のノイズを繰り出し、ついでとばかりに鞭に巨大なエネルギーが集束」していく。

ノイズによる攻撃、少女の鞭をジャンプしてかわす。

「うえかっ!」

いつの間にかネギが変形して二丁銃になっていた。

カチッ

引き金が引き絞られると収束したエネルギーは拡散して発射され、流星の如くノイズを屠った。

すっすちゃと着地する。

ネフシュタンの少女は健在だがノイズは全滅していた。

「何だよそれはっ!あたしへのあてつけかってんだよっ!」

お株を奪われたと激昂する少女。

「そんなつもりは無いけど、ここらで互いに引こう?」

「それはできねぇ相談だ」

「そんな状態でよく言う」

フルバーストの光線銃を浴びてネフシュタンの鎧はすでにボロボロだ。

「こっちも翼を速く医者に見せないとだしね」

「くそっ」

悪態をつくとネフシュタンの少女は飛んで逃げる。

「この勝負、預けたからなっ!」

キキーッ

少女が去るのと時を同じくして後ろから車が止まった。

「大丈夫か、翼」

「はい…この程度で折れる剣では…ありません」

「もう喋るな」

と車から降りた弦十郎が翼を抱き上げて車に乗り込んだ。

一瞬、運転手をしていた櫻井了子の視線がきつくミライを見つめていた気がしたが、すぐさま翼の搬送に付き合った。

「ミライちゃん、わたし…わたしにも守りたいものはあるのに…でも…」

と、泣き笑う響。

「戦う理由なんて人それぞれだよ。それの大小を他人に否定されるものではない」

「ミライちゃん…」

感極まってミライに抱きつく響。

「うっ…くぅ…わたし、わたしは…」

ミライは、ぽんぽんと響の頭をなでながらただ泣き止むのを待っていた。


結局翼は絶唱による負荷が甚大でしばらく入院となったようだ。

プルルー

いつもの様に二課のコンソールを弄っていると携帯の着信音が流れる。

「未来?」


待ち合わせはなぜかお好み焼きショップ。

ジューと店主がお好み焼きを焼く音をBGMに思いつめた顔をしている未来。

「最近どうなの?」

「正義の魔法使いとして悪者と戦う日々。なかなか癒しの時間が…特にだらけた時間が作れなくて困っている」

「そうなんだ…電話で聞いてはいたけれど、あの黒い人達に連れて行かれてから心配したんだからね」

聞いてる会話はチュウニビョウ発症者の様だが、実際は隠語だ。

「ごめんね未来。そして、ありがとう」

「い、いいのっ!友達を心配するのは普通のことだから」

それと、と続ける。

「ミライは本当の事を言っていたのに、信じなくてごめん」

「何が?」

「ミライは初対面で、ちゃんと自分を魔法使いだって言っていたなって」

「そうだったけ?」

「そうだよ」

「それで、わたしを呼び出した理由は?」

「う…」

じー、と見つめる。

すると観念したように話し始めた。

「最近響とすれ違ってるような気がするんだ」

「響と?」

コクリと未来は頷くとうつむいてしまった。

「二人の間に隠し事はしないって言っていたのに…」

「ふむ…隠し事の無い人間はいないよ」

「ミライ?」

「たとえば未来がわたしの途轍もない秘密を知ってしまったとして」

「魔法使いだと言うみたいな?」

「うん、そう。それを聞かれたからと誰かに言うかな?」

「それは…でも…」

「響も同じなんじゃないかな。未来に隠し事はしたくない。でもどうしても言えない事もある。それでもその全てを打ちあけろと言うのはとても残酷だと、わたしは思う」

「ミライ…」

「まぁ、二年しか生きていないようなわたしが言う言葉なんてどこまで意味の有る言葉かなんて分からないけれどね」

なんて話していると焼きあがったのかお好み焼きが二枚ズイと二人の前にスライドされた。

「…ううん、ありがとう」

小さいけれど、未来の感謝の言葉が確かに聞こえた。

「それにしても、響が修行と言ってるんだけど、いったい何の修行なのやら」

「修行?」


未来とのお好み焼きデートを終えると響の様子を見に出かけた。

「何…あれ…本当に修行だわ」

弦十郎と響が二人で体力作りから始まる修行をしていた。

しかし、その特訓に一貫性はなく、どちらかと言えば思いつきと言うよりもどこか映画か何かの特訓の様。

つまり、修行と言う言葉が一番しっくり来るのだ。

「っぁっはぁー…つかれたー」

ばたりと行儀悪く地面に倒れこむ響。

「お疲れー」

「わっひゃぁ!?」

ピトリと冷たい清涼飲料水の缶を響に押し当てると間抜けな声が響いた。

「差し入れ」

「み、ミライちゃん、ひどいよぉ~」

見ればコスプレとばかりの胴着を着込んでいた。弦十郎を見ればなんと言うかゲームの悪役キャラだ。

「どうだ、ミライもやってみるか?」

と弦十郎。

「そう言えば、ミライは発勁が使えるんだったか」

「はっけいって何ですか?師匠」

いつの間にか弦十郎は響の師匠になっていたらしい。

「中国気孔の一種だな。体内で高めた気を操るアレだ」

「おおっ!アレですね」

何やら納得した響。しばらく見ないうちにキャラが変わってないかしら…

「どうだ、一戦」

ちょっとそこまでと言う感覚で誘うのはやめて欲しいが…

「あまり無手は得意じゃないんですけどね」

響から予備の胴着を受け取ると茂みで着替えると弦十郎と対峙した。

「がんばれーミライちゃんっ!」

響の応援が聞こえる。

「それじゃぁっ!ぬぅんっ」

地面を蹴ってその大きい拳が振るわれる。

「はっ!」

ドウンと衝撃波が周囲に駆ける。

腕をクロスして迎え撃つミライはジリっと後ろに下がりながらも何とか受け止める事ができた。

「ほぅ…」

何やら得心がいった様な顔をする弦十郎。

上体を少しそらせるとそのまま右足を抜き放つ。

それを弦十郎も上体をそらしてかわしたそれをミライは追撃。

「木ノ葉旋風っ!」

距離を置いた弦十郎に向かって高速の回し蹴り。

弦十郎はバック転で回避すると更に距離が開いた。

「なかなかのクンフーだな」

「ええ。そちらはとても綺麗な纏ですね」

「テン…なるほど、纏か。確かに気を纏っているからな」

さて、それじゃあと弦十郎。

「ギアを上げるとしよう」

ゴウと立ち上るオーラの量が増えた。

「練まで」

「レン…練、か。なるほど」

と一考したあと地面を踏み抜く。

「行くぞっ!」

地面がえぐれるような脚力で突進。そして拳を突き出す。

ミライも練をすると右手に60%のオーラを移動させ弦十郎の突き出した右腕を弾いた。

パァン

「なにっ!?」

さらに身を屈めると肩から突進。

インパクトの瞬間に左肩のオーラ量を増やした。

「ぬんっ!」

吹き飛ばされる瞬間、弦十郎は胸筋にオーラを込めた。

ズザザーと煙を上げながら制動。再び距離が開く。

「流…」

「ぶっつけ本番だったがな、ミライが右手に気を集めたのが見えたからそう言う使い方もあるのだな、と」

「うわぁ…その歳でさらに強くなるとか…もうやだ、この大人…」

「はっはっは、そう言うな。これも日ごろの鍛錬の賜物だっ」

「映画みて、メシ食って、寝てるのがどこが修行だっ!」

「はっはっはっ」

おそらく弦十郎は天才だ。努力はしただろう。だが、それよりも上回るセンス。

「じゃぁこう言うのは…どうですかっ!」

ミライは隠で気配を消すと瞬身の術で弦十郎の背後へと回る。

「ぬんっ」

弦十郎はオーラを爆発させると地面を踏み砕いた。

すると爆発したオーラが周囲に拡散、ミライを襲う。

「くっ…」

堪らずと隠を解除、堅をしてガードする。

「はっ!」

気配の現われたミライに放たれる弦十郎の回し蹴り。

左肘と右足に硬でオーラを集めると弦十郎の岩をも砕きそうなその一撃をしっかりと受け止めた。

「なにぃ!?」

受け止めるとそのままミライは廻し蹴り。

その蹴りには確実に弦十郎を吹き飛ばすだけの威力があった。

が、しかし。

バシン。

弦十郎に上げた左腕で止められてしまった。

それならとミライはその腕に足を掛けて蹴り距離を取る。

「硬まで…」

「硬、か…確かに硬いな」

ぬうんと振るわれう拳。

「もうやだ…この大人…戦えば戦うほど強くなっているんですけど…」

わたしの努力を返せとばかりにミライが吠える。

「だが、こちらの攻撃が当たらないのはなぜだっ!」

「中国武術くらいわたしも嗜んでいるので」

「なるほど、なっ!」

拳をいなし、振るい、またいなす。

拳の乱打。打ち、かわし、また打つ。

裂帛の気合と共に放たれる拳の数々は互いを高めあっていく。

「これだから純粋なまでの強化系は面倒なんだっ!」

「また知らん言葉が出たな。興味深いが…」

豪拳同士のぶつかり合いはすでにクレーターを幾つも作り上げていた。

「そろそろ決着をつけようか」

「望む所っ!」

血湧く展開にミライの(たが)が外れた。

半身を引き、構えると背後に曼荼羅が浮かび上がる。

無意識にミライが輝力を合成していた。

「はああああああぁっ!」

「はあああああああああっ!」

「「はあっ!」」

「うわわっ!?きゃああああああっ!」

ミライと弦十郎。その互いの渾身のストレートに堪らず響が吹き飛んでいく。

木々をなぎ倒し、二人祖中心に一際大きなクレーターが出来た。

二人の拳が合わさった形で静止する二人。

先に拳を引いたのはミライ。

「化け物…ですね」

「お互い様だ」

「ふふっ」

「ははっ」

「「あっはっはっはっ!」」

大笑いするミライと弦十郎。

「ぺっぺ、口の中がじゃりじゃりだよぉ…」

何とか立ち上がった響はそんな弱々しい声を上げていた。

「うぅうううわわはっ!?何このクレーターはぁっ!?」

そう驚きの絶叫をあげる響。

「シンフォギアすらなくこの被害…二人っていったい…」

二人の技量の高みが高すぎて響は理解するのをやめた。


度重なるノイズの襲撃。その頻度と経路を計算すると、どうやら何ものかに操られているらしいノイズの目的と言うものに目途がたつ。

リディアン音楽院の地下深くに安置されている完全聖遺物、デュランダル。これが目的だろう、と。

目標物を置いていく事に危険と判断したのか、上の意向でデュランダルを移送する事になった。

翼はまだ負傷から回復していない。この任務はミライと響の二人で負う事になったのだった。



障壁の先、ミライとしては初めての、しかし知識としてはたしかに存在するソレがあった。

「宝具、デュランダル」

呟くミライ。

「デュランダルってなんなんでしょうね」

と響。

「シャルルマーニュ伝説に出てくるローランの持つ聖剣」

「ミライちゃん?」

「中世ヨーロッパの英雄と考えるとこれはガングニールや天羽々斬などの神具とは違い宝具と分類する方が適当かもしれない。とは言えその出自はやはり伝承に有るとおり神具の系譜であろうと考えられる。敵の手に渡る事を恐れたローランが折ろうと岩に叩きつけても折れず岩を裂くだけだったと言うエピソードは有名。ローランの死後も数々の人の手を渡り歩いたらしいけれど…そのためにここまで完全なままに保存されているという事なんだろうね」

「詳しいのね?記憶喪失なのに」

と了子が問う。

「あはは…そうみたいですね」

笑って誤魔化すミライ。

デュランダルはケースに入れられて移送される事になった。

移送には陸路を用し、その護衛に響が付く。護衛のヘリコプターにミライが乗り込み空からの警鐘に当たる。

パラパラパラとローター音を響かせるヘリの中から地上を見下ろすと、地上には人っ子一人見当たらず。

どうやら移送に対して非常事態宣言で住民の避難が行われたらしい。

そしてやはりこの移送は万事無事と言うわけには行かないようだ。

「ノイズかっ!」

空を覆う非行型のノイズの群れ。

「こちらの戦力を分断するつもりかっ」

と弦十郎。

「ミライくんっ」

「はいはい、了解しましたよ」

そう言うと座席のシートから立ち上がると開け放たれたドアに近づいた。

「Aeternus Naglfar tron」

聖詠に反応してギアが形成されていく。

「行って来ます」

空中に躍り出てノイズを殲滅するが、響たちに近づけず。あちらはあちらでノイズの襲撃にあっていた。

両手に持ったネギが光線銃に変形すると一斉射。

ノズルが開きバシューと排気されるフォニックゲイン。

「響はっ!」

ようやく殲滅して響を見ればなぜか危険物を扱う工場の方でノイズと、それとネフシュタンの鎧を纏った少女と交戦していた。

しかも響は交戦途中でなぜか共鳴したデュランダルを完全起動させて工場めがけてぶっ放す始末だ。

「響っ」

心配になり空を駆けて響の元へと降り立った。

「グルルルルルルッ…」

手に持つデュランダルに犯されるように黒く染まった響。理性まで侵食されてまるで獣のよう。

火の上がる工場の瓦礫の上でミライは響と対峙した。

「響…」

「がぁっ!」

動くもの、近づくものは敵とでも言うかのように響は地面を蹴って跳躍してミライを襲った。

「くっ…」

咄嗟にネギをクロスさせてデュランダルを受けるが、流石に切れ味はデュランダルに勝るものなしと謳われる聖剣。オーラで強化したそれすら両断した。

デュランダルに袈裟切りに切り裂かれ、ギアが綻び鮮血が舞う。

ズザザーと砂埃を上げて後退し、止まるが響の攻撃は止まない。

それをどうにかいなして距離を取ったミライだが…

ドクンッ

「がっ!」

体の変異でうずくまるミライ。

胸の中心から黒いオーラが噴出してミライにまとわり付く。

「くっ…でもっ!」

バイタルの低下からのシンフォギアの暴走か、それとも…

「うぅううううぅっ…ああああっ!」

ミライの放つプレシャーに怯んだのか響の攻撃が一瞬止まった。

黒く染まったミライ。その腰に有るブースターが突如として巨大化、蓮の花を思わせる節が幾つもある機械的なフォルムの尻尾へと変わる。

両腕を地面に付けば爪が生えているようなまがまがしいオーラを纏っている。

目は真っ赤に染まり、万華鏡写輪眼が浮かぶ。

尻尾が四本目が生えてきたと思ったときミライが吠えた。

「なめるなーーーーっ!」

気合で黒いオーラを制御すると反転。

胸の出血は止まっていた。色彩は元に戻ったがその動物的なフォルムは戻っていない。それどころか砕けた胸元まで新しく動物的なフォルムのギアに覆われていた。

目は万華鏡のままだが、暴走している風ではない。

「グルルルルッ」

響を見れば手に持つデュランダルが響の右手のギアと同化していた。

手甲の上腕部から刀身が突き抜けて出ている感じだろうか。

「キャットファイトと行こうか、響ーっ」

両者とも四肢を屈めた上体で地面を掴み、跳躍。

空中で反転すると尻尾の様になったギアを叩きつけるミライ。

黒く染まった響はデュランダルで迎え撃つ。

一本、二本と切り裂かれるが三本目より先にミライの拳が響を捉える。

派手に吹き飛び地面をえぐりってようやく止まったかと思うとすぐさま跳躍してくる響。

「うううっがああああっ!」

その攻撃に響が今まで一生懸命訓練してきた武術は介在していない。

「そんな攻撃でっ!わたしを倒せると、思うなっ!」

響の攻撃は乱雑で、まさに獣。獣のしなやかさからくる強さと言う事ではなく、ただの暴力。

「視えるっ」

万華鏡写輪眼・桜守姫(おうすき)から来る近未来視。それは本当コンマ何秒かの先読みだが、ミライには有利に働いた。

振るった響の右腕を完全に見切りミライは左手でその手首を掴むと左手も右手で押さえつけ尻尾を使って響の体を拘束すると二人で地面に転がった。

「うううっがあぁああああっ!」

丁度馬乗りになるようにミライが上から暴れる響を押さえつけた。

左腕で響に融合しているデュランダルの制御を掌握すべく侵食を開始する。

右手は暴れる左手を押さえつけている為に塞がっている。

暴走する響を元に戻すには手っ取り早くミライの権能を響に送り込む事だが…さて…

両手両足ともに塞がりあいているのは口くらい。

「しょうがない。女の子だしノーカンって事で」

「ううっがぅ!んっ…!?」

暴れる響の口をミライのそれで塞ぐ。

「うんっ!?…噛み付きやがった…」

血が滴り落ちるのも構わずにミライはキスで響の内側に干渉し、ガングニールの力を掌握、弱める事に成功。ようやく響の暴走も終わりを見せた。

シンフォギアが解除され、デュランダルもカランと音を立て地面に落ちる。

「なんとかなった…かな?」

気絶した響を確認するとようやく一息つくミライ。

「つ、つかれた…」

へたりと響の上に重なるようにミライは気絶する。

「こくっ…」

唾でなく、響がミライの生き血を飲み込んだ事実を見落として…


ピッピ

メディカルルームのコンソールを叩く音が響く。

写し出されていたのは二人分のスキャン画像。

「まさか、あの実験が成功していようとはね」

二つの画像を見比べてその誰かはそう零した声は女性のもの。

「どうだ、二人の容態は」

突然の乱入者にその誰かが直ぐに一つの画像を閉じていた。

「体調は問題ないかなぁ。シンフォギアからのバックファイアによるダメージも驚くほど少なく抑えられているしね」

「そうか、それは良かった」

乱入してきた大柄の男は鷹揚に頷いた。

「それよりも気になるのはこれね」

ピっとコンソールを弄ると拡大される画像。

「これは?」

「何に見えるかしら?」

「悪いがこう言ったものは専門外なものでね。しいて言えば蜘蛛の巣と言ったところだな」

肩をすくめて見せた。

「これは響ちゃんの体のフォニックゲインを調べたものなのだけれど、胸のガンングニールが出力するそれを抑制、また拡散させている魔法が掛けられているわね」

「魔法だと?なんと非科学的な」

「魔法とは言ったけれど、私が知らないだけでそう言った技術、なのかも知れないわね。未知の技術は魔法と言って差し支えないと、私は思うのだけど?」

「論点がずれていっているぞ」

「そうね。ともかく彼女のガングニールに働きかけているものが有るのは確かな事。問題は誰がそんな事をしたのかと言う事だけど」

「だが、彼女は一般人だったはずだ」

「そうね。彼女の経歴を調べてもどこまで行っても一般人。シンフォギアシステムにすらテンパっている彼女がそんな事を出来ようはずもない。と言う事は…」

「施した誰かが居る、と言う事か…しかし、いったい誰が…」

議題を振る事で女は一番隠したいものを隠して見せていた。




「立花ともう少しちゃんと話し合ってみようと思うのだが…どうしたらいいだろうか」

と回復した翼は響との関係を見直すようにしたみたいだ。

それと前後して響と未来との関係がぎこちなくなった。

原因は未来の目の前で響がシンフォギアを纏ったからだが…

「未来にね…ウソを付いていたのはわたしが悪い事なんだけどね、もうどうしたら良いか、わからないよ…」

口頭で響に相談されつつ、電話口で未来のグチを聞く。

『まさか響があんな事になってるなんて、ミライは知っていたの?って知ってるわよね。同じ組織にいるんだろうからっ』








「うがーーーーーーーっ!」

二課のコンソールに突っ伏すミライ。

「どうしたの?ミライちゃん」

「あおいさーん」

泣きつくミライ。

「どいつもこいつもわたしに人間関係の相談をしてくるんですよ…」

「それがどうかしたかしら?」

「わたし、まだ二年分の記憶しかないって皆ちゃんとわかってるのかな?」

「あ…」

「あおいさんまで…」

「そ、それで、解決はしたのかしら?」

「面倒になったから三人纏めて出かけて来いとほっぽり出しました」

「あ、そう…」

いたたまれなくなったあおいは話題を変えた。

「それ、完成しそうなの?」

コンソールを眺めながらあおが問う。

コンソールに写るのはここに入ってからずっとミライが組み立てているものだ。

「何とかね。それよりも問題はこの子」

切り替わったスクリーンに映る少女の映像。

「雪音クリスちゃんね。紛失した第二号聖遺物イチイバルの装者の」

それは先日響を襲ったネフシュタンの少女が隠し持っていたシンフォギアだ。

彼女は途中でネフシュタンをパージ。イチイバルを纏い響と交戦したが途中に乱入した妙齢の女性がネフシュタンの鎧を回収。混乱の内に両者とも消えていたのだ。

「こっちもこっちで仲違いしてそうだよね。響たちからの報告と映像を見ると」

「そうね。だから風鳴指令たちが目下捜索しているわ。この娘、海外で戦火に巻き込まれ孤児になって失踪。それをようやく見つけて日本に移送されることになっていた所、やはりまたも失踪しているの」

「なるほどね…」

「どこへいくの?」

コンソールを止め立ち上がったミライに問いかけるあおい。

「ちょっと気晴らし」

そう言うと街へと繰り出した。

「ごっはん~ごっはん~、何食べようかな~」

ピロピロピロ

携帯のメール着信音。

「誰から?」

『手巻き寿司が食べたいです』

「おー…おばあちゃん…」

響のおばあちゃんからのリクエストだった。

そしてこれはたまには早く帰ってきなさいと言うコールでも有る。

響が家を出て寮で生活しているために寂しいのだろう。

『夕飯の食材を買って帰ります』

と返信。

しかし、それは夕食。とりあえずは昼食だ。

「響たちと鉢合わせしそうだけど、『ふらわー』にでも行こうかな」

最近見つけた裏道を通りお好み焼きやさんへと移動する。

狭いビルとビルの隙間。室外機が乱立して人一人歩くのがやっとのその道とも言えないそこを歩いていると、ミライはなにかにつまずいた。

「にょわっ!?」

「いったっ!」

振り返れば膝を抱えてしゃがみこんでいた少女の靴を踏んだらしい。

「ごめんごめん」

「てめー、前見て歩けよな」

と互いを確認した後間抜けな声が響く。

「「あっ……」」

互いにどうして良いか分らない。

なぜなら、ミライが踏みつけた彼女は今二課のメンバーが必死になって捜索している重要参考人で、ノイズを操り襲撃して来た雪音クリス本人だったからだ。

ぐーっ

クリスのお腹が可愛く鳴り二人の緊張を切り裂いた。

じー

「うっ…」

クリスの顔が真っ赤に染まっていく。

「なっなにか悪いかっ!」

ミライ本人にクリスに対する敵意は無いし、今はオフ。ノイズであればそうも言ってられないのだろうが…

「ご飯、食べに行こう」

「は?」

問いでは無く決定事項。

クリスの脳が理解をする前にミライはクリスの細い右手を掴むと立ち上がらせる。

「なっ…おいっ!」

ぐいぐいと引っ張りとりあえず、この汚い路地裏を抜ける。

「おいっ、お前とあたしは敵同士…」

「そうだっけ?それでも今わたしはオフだから~」

「そんなんで良いのかよっ!?」

「さあ?わたしまだ二年しか生きてないからねー」

分りませんとミライ。

「二年…?」

ガラリと引き戸を開けると店主がいらっしゃいと歓迎の声を上げた。

カウンターに座るとミライが適当に二玉注文する。

「いつまで…手を握ってるんだ…」

ぼそりとクリスが呟いた。

「あ、ごめんね」

と言いつつミライは離さない。

「離せって言ってるんだよっ」

「離すと逃げるかなーと思って。もうお好み焼き頼んじゃったし、二人分は…食べられるけど」

「食べられるのかよっ!見た目より大食いなのなっ!」

「いやぁ…」

「褒めてねーよ。良いから離せよ、逃げねーから」

「そう?」

それを聞いてようやく手を離した。

手を離されたクリスは自分の右手を胸の前に持ってきた見つめた後、後ろにやった。

「クリスは可愛いねぇ」

「かわっ…!?」

ジューと焼けるお好み焼きの音をBGMに会話が続く。

「さっき二年しか生きてないって言ってたけど、それってどう言う意味なんだ?」

「わたし、初音ミライは二年以上前の記憶がないのでした」

「なっ!?そんな…それじゃぁどうして装者なんてやってるんだ?」

「さあ?気が付いたら体の中にあったから、仕方なく、かな?後は突っ走る響には誰か付いてないとだしね」

「まさか…おまえ…」

「さて、ね?」

実験体であろうと察したのだろうクリスの表情が曇る。

「はいよ、お待ちどうさま」

絶妙なタイミングでお好み焼きが焼きあがったらしい。

「はふはふ…うん、相変わらず美味しいわ」

「あつ…うく…あっ」

おっかなびっくり食べたクリスは二口目からはすごい勢いで食べ始めた。

「そんなに急いで食べなくても」

「…っ!?」

「あー、もうソースでベタベタ…」

食べ終わったクリスの頬をお絞りでふき取る。

「うっうぐ…や、やめ…」

「鏡で自分の顔を見てから言いなさい」

文句を言われ抵抗されようとミライは止めない。

言われたクリスは真っ赤に染まった。

今の一件で完全にパワーバランスが決まったようだ。

クリスが何を言ってもミライは聞かず、ミライはクリスを振り回す。

ゲームセンターで今更時代錯誤のプリクラを取ってみたり、有名なジェラードショップに行ってみたりとクリスを連れまわし、最後は高級品の集まる総合ショッピングセンターへと立ち寄った。

「ちょっと、なんであたしが計ってんだよっ!」

とランジェリーショップで採寸してもらっているクリスの怒声。

「えー?だってサイズの合っているのじゃないと辛いでしょ?翼さんじゃあるまいし」

ブチとどこかで血管が切れる音が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

「だからーっ!?」

怒るクリスをなだめつつ何セットか下着を選ぶと日用品コーナーでお泊りセットを見繕う。

そして最後は食品コーナーで夕食の食材を買い込んで響宅に帰宅。

「ただいまー」

「お、おじゃま…します」

「あらあら、お帰りなさい。そちらはお友達?」

迎え入れたのは響のおばあちゃんだ。

「うん。クリスって言うの」

「雪音クリスだ…いえ、です…」

「あらあら、可愛い子ね」

とおばあちゃん。

「ね」

「かわっ…」

ミライは事有るごとに言うのだが、まだ慣れていなかったらしい。

「お母さんは少し遅れるらしいわ。先に食べてていいって」

「そっか。じゃあ夕食の準備始めるね」

と台所に移動しようとすると玄関のドアが開いた。

「たっだいまー」

「おじゃまします」

「お、おじゃま…します…」

「なってめーらっ!?」

後ろから現われたのは響、未来、翼の三人だった。


どうして三人が此処にいるのかと言えば数時間前に遡る。

ミライに呆れられつつも三人でデートに出かけていたのだが、その途中でミライとクリスが仲良く歩いているのを偶然に見かけたからだ。

「なっ!あいつら…」

翼がすぐさま本部に連絡しようと取り出した携帯電話を響が制する。

「まってくださいっ」

「だが…」

「ミライちゃんも居ますし、あんなに楽しそうなのをぶち壊すのは可愛そうですよ。それに今のクリスちゃんは何もしていないじゃないですか」

「それは…そうだが…」

「クリス?」

「え?未来ってクリスちゃんの事知っているの?」

「すこし前に、ちょっとね」

と未来にしても少し歯切れが悪かった。

「追いかけるぞ」

「ええっ!?」

「そうですね、追いかけましょう」

「えええっ!?」

尾行すると言う翼に驚いた響だが、未来の同意に更に驚愕されられた。



ランジェリーショップに入った二人。ミライの口から翼のちっぱいを責める発言。

「ほっほう…なるほどなるほど…」

ブチっと翼の血管が切れる音が聞こえそうなほどだった。

「くっあの浮気者がっ!」

「ええ、…ほんとうに…くすくす…私の唇を奪っておいて他の娘に粉をかけるなんて…」

激昂する翼と暗く笑う未来。

「く、唇…やっぱり…あれは…夢じゃ…ない、よね?」

響はそう呟くと赤面しながら自分の唇をなぞった。

「皆あいつの被害者だと言う事だな」

「ええ、そうですね」

「あああっでもでも…ううううっ」

ここに初音ミライ被害者同盟が設立したようだ。

目的が合致するとどうして人間の信頼関係は強化されるのか、いつの間に仲の良くなった3人。

話題はおもにミライに対するグチばかりだが、ミライも三人の仲を取り持てたのだから本望だろう。

「あれ?この道って…」

「響の家に向かってるね」

と響と未来が言う。

ピリリリリリピリリリ

「あれ?翼さんだ…」

「そう言えば居ないね」

「はい、もしもし」

着信ボタンを押して電話に出る。

『どうして二人ともいきなり居なくなったんだ?』

携帯電話越しの翼の声。

「え?どうしてって言われましても…そんなに複雑な道じゃないようなぁ…」

再び翼と合流して追いかけるが、やはり翼が迷子になってしまう。

「いったい、どうしたと言うのだ…私は…」

ここまで続くとどうやら変だと言う事がはっきりしたらしい。

「あっそう言えばっ!」

「響?」

「わたしの家、ちょっとあって周りから責められていた時があるんですよね…どうしてお前だけ生き残ったんだーとか…」

「響…」
「そ、それは…もしかして…」

ふるふると首を振る響。

「奏さんに…そして翼さんに助けてもらった事は感謝しているんです。…ただ、周りはそうじゃなかった。そんな時に現われたのがミライちゃんで、ミライちゃんが助けてくれたんです」

「助けてくれた?」

「翼さんだから言いますけど、絶対に内緒にしてくださいね」

「ああ。約束しよう」

「ミライちゃんって魔法使いなんですよ」

「は?何を言っている…」

「ミライちゃんは悪意を持ってわたしの家に近づく人間を迷子にさせる魔法でわたし達家族を守ってくれました。たぶん、それが働いているんだと思います」

「だがっ」

「実際、何度も翼さんは迷子になってるじゃないですか」

「そうだが…私が悪意など…」

「悪意…敵意と訳してもいいと思います。翼さん、完全にクリスちゃんの事を敵じゃないって思ってますか?」

と、未来。

「それは…」

「ううん、警戒するのは当たり前の事。ただ、その警戒心がその魔法に触れて惑わされてるんですね」

「だが…心の問題だ…どうすれば…」

「でも、実は簡単な解決策があるんですよ」

そう言って響はギュっと翼の手を握った。その反対側は未来がつないでいる。

「こうやって手をつないでわたしが招けば問題無し、なんです」

「それは本当に魔法のようだ。だけど…」

「だからそうだって言ってるじゃないですか。小さな敵意、隠し事はきっとだれの心の中にもあります…」

「響…」

響の言葉に未来の言葉が詰まる。

「行きましょう。二人とも」

響は翼の手を引きながら家へと急いだ。


ダイニングで剣呑な面持ちで対面に座っている翼とクリス。そのむすっとしたオーラに当てられている未来は若干顔が引きつっていた。

響はすぐさまミライの手伝いにと逃げていった。

「今日はお客さんがいっぱいね」

「すみません、突然お邪魔してしまって」

既知の未来がおばあちゃんに謝った。

「いいのよ。ミライちゃんは居るけれど響は家を出てしまってから家はしずかになっててね」

とおばあちゃん。

「で、なんであんたらが居るんだよ」

「聞いてなかったのか?ここは立花の家だ。立花に招待されたからに決まっていよう」

クリスと翼が剣呑な面持ちのまま会話する。

「そう言うことをいってんじゃねーんだよ」

「喧嘩はだめだよっクリスちゃんっ!」

響がお皿を持ちながら静止に入る。

「ちっ」

幾つものお皿がダイニングに並べられ、中央にはシャリの入ったおひつ。一人一人に海苔が配膳された。

「これは…?」

ピラリと海苔を摘みあげるクリス。

「ああ、クリスは手巻き寿司初めてなんだね」

「手巻き?」

「こうやって」

そう言うとミライは海苔にシャリを載せるとサニーレタスを敷き、適当に具材を乗っけてクルクルと撒いた。

「はい」

「…ありが…とう」

そう言って受け取った手巻き寿司をかじる。

「あ、…うまっ…」

「そ、じゃあ皆も食べましょう」

と言うが誰一人として手を動かさない。

むしろ配膳された海苔を持って立ち上がる響。

「あ、響、私のもお願い」

「了解しましたーっ」

「どうしたんだ、二人とも?」

響が未来の海苔を回収する。翼は何が何やら分らないようだ。

「おやおや、それじゃあ私のもお願いするわね」

と言っておばあちゃんまで海苔を渡してしまった。

「翼さんは…持って行きますね…」

とても不安だと有無を言わさずに回収された。

ズイとミライの前に海苔が置かれる。

「まったく…せっかくの手巻き寿司なのに…」

「手巻き寿司でも美味しいものが食べたいじゃないですか」

当然と答える響。

「いったい何を…」

「ミライが作ると自分で巻くよりも数段美味しく感じるんですよ。あれは一度食べたらはまっちゃうレベルです」

と未来が翼に答えていた。

「本当に手巻きの意味がなーいっ!」

文句を言いつつも手際よく寿司を巻いていくミライ。

全員にいきわたった頃、クリスが自分の海苔を真っ赤な顔で俯きながら渡してきた。

「…はいはい、おかわりね」

結局全員分の寿司を巻く羽目になったのだった。

腹を満たせば人間は幸福になるものだ。剣呑な雰囲気は薄れいつしか和やかなムードが漂っている。

しかし、そこに一石を投じる翼の言葉。

「雪音。君はなんの為に戦っている」

「はっそれがあんたらに何の関係が有るって言うんだ」

「有るよっ!クリスちゃんが何の為に戦っているのか分れば、わたし達が手伝える事が有るかも知れないじゃん」

と響の真剣な声。

「あたしは…皆が武器を取り合う世界をぶっ壊したい…それだけだ…」

「なるほどな…それだけ聞ければ今日のところは十分だ」

と言って翼は立ち上がった。

「立花、小日向、そろそろ門限だ。帰るとしよう」

「え?…あの、翼さん?」

「あとはミライに任せておけば良い。あれは最高で最悪の人たらしだ」

「…そうですね」

翼の言葉に同意して未来も立ち上がる。

「え、ええ、未来?」

「帰ろ、響」

「う、うん…で、でも…」

「いいから。後はミライに任せておきましょう」

そう言って未来は響を連れて退出、寮へと帰っていった。

「それじゃ、あたしも帰ろうかな…帰るところ無いけど」

「だったら泊まっていけばいいじゃん」

洗い物から帰ってきたミライは皆が帰ったリビングで寂しそうにしていたクリスに声を掛けた。

「どうせ、捨て猫みたいに帰る家が無いんでしょ?」

「お前っ…ちったー他人の迷惑考えろよっ!」

「あ、そうだね。ここわたしの家じゃなかった。おばーちゃんっ」

とミライは家主代理であるおばあちゃんに了承を得るべき離席、戻るとどうやら了承をつかみとってきたらしい。

「まさか最初からこうするつもりで…」

突きつけられたお泊りセット。下着も新しいものを新調済だ。

しかし、お風呂の誘惑には勝てず、クリスはなし崩し的に泊まっていく事に。

夜。

同じベッドで寝ているミライとクリス。

「お布団までは用意してなかった」

とはミライの言。

「ここからこっちにはぜってー入ってくんじゃねーぞっ」

と防衛線を張るクリス。

その後天井を見上げながらポツリと言葉を発した。

「お前は、あたしがしている事をどう思っているんだ?」

と、クリスが洩らす。

「わたしはさ、ここ二年くらいしか記憶が無いからさ、クリスが何を思って何をしたいのか、それの善悪を断ずる事は出来ないよ」

「…………」

「だからさ、やりたいようにやってみればいいじゃん」

「はぁっ!?お前何言って…」

クリスはバサリと上体を起こすくらい驚いたようだ。

「その先でもしわたしとクリスが戦う事になったのなら、その時はその時。今考えた所で何にもならないしね」

「おまえは…たくっ」

毒気を抜かれたクリスは再びベッドに収まった。

「わけわかんねーやつ」

「よく言われる」

それっきり会話は終了。クリスの寝息が聞こえ出した。

「ママ…パパ…」

時折、寂しいのか手が伸ばされ、自然とぬくもりを求めるかのように自身が決めた境界線を越えてミライに抱きついてきた。

「…あつい、けど、あったかい」

そう言ってミライも意識を手放した。

次の日ミライが起きるとクリスの姿は既になくなっていた。


ネコは家に着くと言うが…

次の日からクリスは夜中にガラリとミライの部屋の窓を開けると寝に帰ってくるようになった。

それが分ってからミライは夜食を部屋の机に置いておく。朝、食べ終わった皿を片付ける前にはクリスは出て行くの繰り返しだ。

アーティストである翼の復帰ステージの裏でノイズが動いたりしたが響の活躍でどうにかステージは成功。アーティストとしての二束のわらじを履きなおしたことになる。

そんな中、事件が急変する。

「カ・ディンギル?」

弦十郎がもたらした情報だ。

「どんな瑣末な事でも構わん、情報を集めろ」

「カ・ディンギル…ねぇ」

二課のコンソールを弄りながら呟くミライ。

「何か知っているのか?」

「カ・ディンギル。これは旧約聖書に出てくるバベルの塔と同義であると仮定する方が良いかな」

「バベルの塔、だと?」

「神に挑戦して神に破れ、統一言語を奪われることになった故事に出てくるバベルの塔。しかし、完成していると言うのはどう言うことでしょうね?聖遺物であるカ・ディンギルをシンフォギアシステムにしたと言うには少し違うような?」

「わからん、後はこちらで調べよう」

その後、出先に居た為に通信をつないだ了子も塔を示唆した。

それと前後して現われる巨大なノイズ。

「お約束的にスカイタワーに向かってますね」

今さっき塔と言うキーワードが出たばかりでタイミングが良すぎるばかりだ。

「更に一機大型飛行型ノイズを確認。東京タワーに向かっています」

とあおいさんが伝えた。

「ミライくんは東京タワーに急いでくれ」

「了解です」

東京タワーに到着。ノイズを殲滅に移るが…

「数、多すぎーっ!?」

殲滅させるスピードよりも増援の方が多い。

「ミライちゃん、今援軍にっ!」

と響からの通信。

「そっちはリディアンに急いでっ!さっきから通信が通らない、何かよくない事が起こってる」

「バカっ、それでも一人でなんて」

とクリスの声が響く。

「クリスも居たのか。悪いが響たちと一緒にリディアンを頼む。こっちに来るよりリディアンの方が近いだろ」

「だが、お前は…ミライはどうするんだ…」

と心配そうな翼の通信。

「わたし、魔法使いですからね。ちょっと本気を出してちゃっちゃと追いつきますよ」

「やれるのか?」

「当然ですっ!」

強気に言って宣言するミライ。

「無茶はしちゃだめだよ?」

そう言う響の通信を最後に響たちはリディアンに向かったのだろう。

「それじゃぁ…いっちょ派手に行こうか」







「はぁ…はぁ…はぁ…」

膝を付くミライ。

あたりは炭化した消し炭が残るだけ。ノイズの姿はどこにも無い。

「ちょっと…疲れた…」

ギアを解除。私服に戻った。

「行かないと…リディアンに…響たちの所に…」

ドドドと地が鳴り響き、何かが屹立していく。

「カ・ディンギル…」

それはリディアン音楽院が立っていた場所。そこからスカイタワーの三倍ほどもある塔が立ち上がった。

ミライはシンフォギアを部分展開させると空を駆けた。

「収束している?」

カ・ディンギルが高エネルギーを収束して発光していた。

「クリス?」

未だ遠いカ・ディンギルを見ればその直情にミサイルが飛び、それに誰かが…クリスが乗っていた。

未だ遠い空から歌が聞こえる。

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

「あれは…絶唱っ!?」

捨て身を覚悟したクリスの一撃。

その両腕から照射されたビームはカ・ディンギルから放たれた極光をわずかにそらした。

月を狙ったその一撃はわずかに反れ、月の一部を破壊しただけだった。

しかし、全力を出し切ったクリスは全てを出し切って落下していく。

どっちに…いやどっちもだよねっ

影分身を作り出すと落ちてくるクリスへもミライは飛んだ。

「まーた、黒くなってるじゃんか…響ーっ!」

目に写ったのはガングニールによって暴走した響の姿。

「ミライっ!?」

「初音ミライだとっ!ここにきてっ!」

翼と、もう一人、ネフシュタンの鎧を着込んだ女性。この事件の陰にいたフィーネと言う女性。

しかし、オーラを見ればあれは櫻井了子だろう。

「Aeternus Naglfar tron」

ギアを纏って着地すると同時に四肢を地面に付いた。

「ぐぅうううううううっ」

「まさかっ!ミライまで暴走っ!?」

ガシュ、ガシュと排気し、変形する。

「がぁああああっ!」

黒いオーラが掻き消えるとそこは獣性を増したミライが居た。

「制御した…だと?」

「があああっ!」

見境の無くなった響がミライへと突撃する。

尻尾を盾にして響の攻撃を受けた。

「すまない、ミライ、そのまま立花を抑えておいてくれ、その間に私はカ・ディンギルを破壊するっ!」

「させるものかーーーっ!」

翼とフィーネの戦いをBGMにしてミライは響と相対する。

「この戦いも二回目っ」

ガシンガシンと折れぬ尻尾に苛立つように響は乱打。

「デュランダルさえなければっ!」

一度離れ、再び突撃してきた響。

ガシュと響の右腕のギアが弾かれエネルギーが収束される。

「うううううっがぁああああっ!」

「ひびきーーーーーーーーっ!」

繰り出された響の攻撃は、流石に撃槍の異名を持つガングニール。

ミライの尻尾が打ち砕かれ体まで届いた。

その重い一撃を避けずに受けとめるミライ。

「たく…世話の焼ける」

一瞬動きの止まった響に渾身のデコピン。

「へっ…」

一瞬で響のギアが解除された。

「はは…なかなかに間抜けな顔だ…」

「ミライちゃん…?」

「いい?そんなに簡単に絶望に飲まれないで、ね?」

ズルっとミライは膝から崩れ落ちた。

先ほどのノイズとの戦いでの疲弊、そこに来て響との戦闘である。少々荷が勝ちすぎていたようだ。

ドゴーンッ

どうやら翼もカ・ディンギルの破壊に成功したようだ。

「ミライちゃん、ミライちゃん!?」

「ごめん、少し、寝る…」

そう言うと意識が闇に飲まれた。



……

………

歌だ…

歌が聞こえる…

暖かい歌が…

誰かの歌が確かに力をくれている…

立ち上がるための力を…だから…

胸の鼓動がシンフォギアが共鳴する。

瞳を開ける。

立ち上がるとシンフォギアが輝いた。

「シンフォギアーーーーーーっ!」

響の咆哮。

奇跡がシンフォギアのリミッターを解除した。

白色に染まったシンフォギア…それは…

「エクスドライブだとぉ!?」

フィーネの驚愕が響き渡る。

「奇跡だね…わたしの苦手な展開だぁ…」

「えええ?」

呆ける響。

「でも、たまには良いかな」

響、翼、クリス、そしてミライ。みなのギアが白く染まった限定解除モードだった。

重力制御すら可能にするそのエクスドライブモードは飛行が可能になっている。

「いまさら限定解除した所でっ!」

とフィーネがソロモンの杖を使ってノイズを大量に現せた。

彼女の説明によるとノイズとはバビロニアの宝物庫から呼び出される殺戮兵器らしい。

それをソロモンの杖で開き、操っていると。

「ゲート・オブ・バビロン…世界を超えても厄介なやつだ…ギルガメーーーーーシュっ!」

ミライは悪態をついて気合を入れると大量のノイズを倒しに掛かる。

「み、ミライちゃん?」

「私達も行くぞ」

「ちょせいっ!」

響、翼、クリスと続いた。

しかし、そのノイズの大軍すらフィーネには時間稼ぎでしかなかったらしい。

ソロモンの杖、そしてカ・ディンギルのエネルギー源にされていたデュランダルを持って大量のノイズを束ねて大きな紅い竜へと変貌していた。

キュイーンとその竜がエネルギーを収束する。

「さすがにやばいか…」

「ミライちゃん、何を?」

響の制止の声。

「Aeternus Hrymr tron」

「聖詠の二重詠唱だとっ!?」

翼は単純に驚いたらしい。

「そいつはいつかの…」

クリスには覚えがあった。

ギアが変形し、神々しさを増した。

背中から幾つものスフィアが飛ばされると合わさり、繋がってエネルギー障壁が展開される。

ドドドーン

バリアが形成さえるのと同時に爆発、轟音と共に爆炎が上がる。

「ミライちゃんっ!」

噴煙を切り裂いて響が駆けて来る。

「大丈夫、無事だよ」

「ミライ」
「おい、お前っ」

翼とクリスも駆け寄った。

「聖詠の二重詠唱、だと…しかもそれは…神そのものとでも言うのかっ!」

切れたフィーネの赤い竜。ベイバロンとでも呼称すればいいだろうか。その竜からの第二射。

「効かないっ!」

現われた盾がその砲撃を完全に防いだ。

「街はわたしが守る、だからっ」

コクと響達が頷いた。

響たちがベイバロンに攻撃を開始した。

大型の砲撃、小型の爆雷は全てミライが防いで見せた。

街にはこれっぽちの被害も出すものかと言う気迫を感じさせる。

それに鼓舞されるように響たちはベイバロンへと攻撃するが、ネフシュタンの鎧による再生力を上回れなかった。

だが、翼とクリスは何かを思いついたらしい。決死の覚悟で道を開き、ベイバロンの体内へと侵入するとその動力源であるデュランダルを奪って見せたのだった。

しかし、手にした響は再びシンフォギアの暴走で黒化してしまう。

「相性最悪だなぁ…まったく…」

仕方ない、と呟くとミライの右手に一振りの槍が現われた。

「響ーっ!」

響に向かって投擲するとデュランダルが弾かれた。

「ミライっ!?」

「お前、何をっ!」

槍はデュランダルを弾いてくるくる回ると響の手に収まった。

「これは…」

黒化が収まるどころの話ではなく神々しいばかりに輝く響。

槍が響のシンフォギアと共鳴しているのだ。

「何だそれは、何なんだっ!その強大なまでのアウフヴァッヘン波形はっ!」

フィーネが絶叫する。

「絶対必中の神槍」

「まさか、まさかまさかっ!?」

「やっちゃえ、響っ」

「神槍、ガングニールだあああぁぁぁぁぁぁぁああああっ!」

高まったフォニックゲイン。その全てを乗せて響はグングニールを投げ放つ。

「ここに来てガングニールだとぉおおおおおおおおおおっ!」

させるものかと収束されたビームが放たれる。

しかし、気合のこもったベイバロンのレーザーの咆哮を切り裂きグングニールは進む。

グングニールは咆哮を切り裂き、ベイバロンを両断。フィーネを貫くと赤い竜の体を消失させた。

爆発とその衝撃波はミライがどうにか防ぎきり、ビルの倒壊などは免れた。

響は爆発の中心に自らもぐりこむと人影を連れて現われる。

担がれていたのは全ての元凶、フィーネだった。

彼女の面影は計画の頓挫、さらに敗北に継ぐ敗北でどこか憑き物が取れたよう。

そこに二課の面々に未来達も合流した。どうやら無事だったらしい。

「いつもいつもいつもいつも、後一歩の所で計画が頓挫してしまう…これはもはや呪いと言うレベルね」

精も今も枯れ果てたとばかりに呟くフィーネ。

「世界は…人の生きる世界は、世界を存続させようとする力があります」

そミライ。

「世界を存続させようとする、ちから?」

「それは目に見える形であったり、そうでなかったりしますけど、人の存在が、その歴史の延命をさせるんです」

巨悪がかならずヒーローに倒されるのはそう言う事だった。

「なるほど…悪が巨大であればあるほど、その反発する力も強くなる…と言う事ね」

あなた達の様に、とフィーネ。

「次があるなら、それはきっともっと誰もがしあわせになれる方法を考えてください」

と響がフィーネに言う。

「そうね、この次は、きっと…」

そう言ったフィーネは聖遺物からのバックファイアに身を焼かれ、崩れ去っていった。


「まずいですっ!月の欠片が落下してきています」

パソコンを操作して情報を集めていた二課の藤尭(ふじたか)朔也(さくや)が焦ったようにぼやいた。

「なんだとっ!」

振り向く弦十郎。

「月が…」

「落ちる…」

その呟きは誰だったか。

落ちてきているつきの質量を考えれば世界の核兵器を撃ち上げたとして破壊できるかどうか。

「大丈夫っ!」

力強く宣言したのは響だ。

「人の営みは絶やさせない。人々の明日は、わたしがこの拳で守ってみせる」

「響っ!?」

未来が悲観そうな声を上げる。

「大丈夫だよ、未来」

何が大丈夫なものか。

響は自分の持てる力、その全てで月の破片を穿つつもりなのだ。

その出力を可能にするとすれば…

絶唱…

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl

飛び立った響が最後に歌う、終わりの歌。

「そう言えば、わたし、ミライちゃんに聞きたいことがあったんだっけ」

あの時、キスしていたのかどうか…

「でも、今更かな…」

「何を聞きたいって?」

巨大な戦艦を模したギアに乗って現われるミライ。尖塔に立つミライはまさに船頭のよう。

二重聖詠の効果で呼び出された魔船だ。

「ええっ!?ミライちゃん?」

「誰かを守る響を守るって言ってなかったっけ?」

とミライ。

「ミライだけか?」

「あたしらも居るんだけど?」

と翼とクリス。

「さて、絶唱なんて口にしちゃって」

ふっと乗ってきた船から飛んで響へと向かう。

「ミライちゃ…」

「制御補助術式でも限界があるかな…緊急時だし…ゴメンね?」

「ん!?うぐっ…んん…」

「わわわっ…」
「……っ!」

翼とクリスが自身の手で目を覆い、しかし手を開いて見ているその先でミライは響とキスをしていた。

「はい、おしまい」

「ミライちゃん…なにぉお…」

ドクン

息も絶え絶えの響だが、次の瞬間ギアが変形し始めた。

ヘッドギアはとんがり帽子の様に伸び、片目をバイザーが覆い、ギアも甲冑の様に変化している。

「これは…?」

「ガングニールの持ち主って誰か知ってる?」

「えっと…」

言葉に詰まる響。

「……それくらいは調べよう?」

「たはは…」

「北欧神話の主神オーディンが持つと言う槍の事だ」

と翼が注釈する。

「そうなんですか…でも、これは?」

「わたしがオーディンの力を分け与えた」

「ええええっ!?」
「はっ!?」
「いぃっ!?」

「わたしが聖詠の二重詠唱が出来るのは単純にナグルファルと関わりの深いフリュムの権能を持っているから。わたしが天羽々斬やガングニールを押さえつける事ができるのも一緒」

「スサノオやオーディンの力をもっていると?」

「正解です」

そう言うとミライは翼に近づいて不意打ちにその口を唇で塞いだ。

「んぐっ…やめっ…」

翼は抵抗し、唇が離れた。

「非常事態ですから」

と言って再びキス。

「わわわぁわわっ」
「……っ…」

今度は赤面しているのは響。そしてやはりクリスは押しだって真っ赤になっていた。

「はぁ…はぁ…はぁ…ミライ…君は…」

ドクン

翼のギアが変化する。

無事に権能が行き渡ったようだ。

「一つ聞いていいか?」

と、変化の終えた翼が質問する。

「何でしょう?」

「イチイバル…ウルの権能はどうなっている?」

「ない、無いよな?」

と言うクリスの懇願。

「残念ながら…」

と言う言葉に一瞬クリスは安堵するが、しかし…

「持ってますよ」

「なるほど…立花っ」

「はいっ!」

ススーと翼と響はクリスの左右を固めるとその腕を左右から二人で固定した。

「ここで私たちだけとは不公平だ」

「そうですよ、皆仲良くいきましょう」

「ちょ、まッ!お前ら…っ!」

「そう据え膳を並べられるとやりづらいんですけどね…」

「まて、まてまてまてまて…っ!あたし、こう言うのは初めてだからっ!」

「心配するな…私も初めてだった」

と、翼。

「ちょ、あっ…あの…んぐ…」

無事にクリスのギアも変化する。

「てめぇ…乙女の唇をなんだと思ってやがるっ!」

変化したアームドギアから一斉射。

「ちょ、ちょっと、緊急事態なんだからしょうがないでしょっ!?」

それをミライは持ち前のシールドで防御する。

「ああ、それは後で目いっぱいミライに問い詰めるとしよう。だが、今は…」

「そうだよ、クリスちゃん、いまはアレを破壊しないと…」

翼と響がたしなめる。

「ち、分ったよ。だが、後でぜってー覚えておけよっ」

「その時は私も一緒にミライをいじるとしよう」

「わたしもです」

「ええええ!?」

情けない声を上げるミライ。

「でもとりあえず。全力で」

「全開で」

「全てをぶつけてやるっ!」

と響、翼、クリスのアームドギアが変化、巨大化する。

「それじゃぁこっちもっ」

ミライは戦艦に再び着地すると砲門を開いていく。

「開放全開、いっちゃえっ!ハートの全部でーーーーーーっ!」

響の掛け声で全力全開、フルバースト。

余力も残さずぶっ放し月の破片を粉砕しつくした。

落ちていく破片のは大気圏での摩擦で燃え尽きるだろう。

地上からは季節はずれの流星群となっているはずだ。

「皆、無事かっ!?」

翼の声。

「大丈夫でーす」

「どうにか生き残ったみてーだ」

と響とクリス。

「任務完了かえりますか」

無事に月の欠片を破壊し終えたミライ達。いつの間にかギアは元のものに戻っていた。

「そうだな、帰ってミライに先ほどの事を追及するとしよう」

「ええっ!?」

「そうですね、今日は語り明かしますよっ!ね、クリスちゃん」

「ええ?あたしもかよっ」

後にルナアタックと呼ばれる事変はこうして終わった。
 
 

 
後書き
と言う事でやりすぎ感満載ですが、シンフォギアの無印編終了です。やりたい放題やっています。ウルの権能!?とかは考えてはいけません。スルーしてください。大一番でキスっ!はカンピオーネ編では出せなった要素ですね。主人格の入れ替えはスルースキルの多いアオでは難しかったからですね。
最後、了子さんの月落としがスルーされたのは…まぁいらないよね、と。きっと普通に落ちてくるでしょう…たぶんですが。
とりあえず、次回はG編です。 
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