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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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悪夢-ナイトメア-part2/新たな強敵

その頃、変身を解いたサイトは城の近くの建物の間からひょっこりと姿を見せた。
「くそ…逃げられた…!」
悔しげに建物の壁を拳で殴る。ゼロもまた敵をみすみす取り逃がしてしまったことに難色を示していたが、冷静さをなるべく保とうと、先ほど戦った謎の鏡の戦士の戦法を思い返した。
『それにしても、なんてトリッキーな技を使ってくる奴なんだ。鏡の中に潜んで攻撃してくる上、俺たちが来たときにはとっくに自分のテリトリーを作り出していたなんて…』
そのくせ光線に対する反射性の高い鏡を作るとは。用意周到というか、とにかく強敵だったことには違いない。
「サイト!」
声をかけられ、聞こえてきた方へと顔を向ける。そこには、夜風対策のためローブを着込んでいたルイズがいた。
「る、ルイ…」
「この馬鹿あ!!」
「うごあ!!?」
サイトが返事をする前に、ルイズの一発の蹴りがサイトの股間にクリーンヒットした。悶絶するサイトをゲシゲシと踏みつけながら、ルイズはとにかくその日の鬱憤を吐きだした。
「せっかくご主人様がお店であんたのためにいろいろ用意してあげたのに…あんたってやつはまた勝手に!!」
「わ、悪かったって…でも、スカロンさんにちゃんと言っておいたし…」
「それ以前に一言私にいっておくものでしょうが!!…また一人で…勝手に…ぐず」
言葉をつづるうちに、親と逸れていじけた子供のように、ルイズは目じりに涙をためる。
ああ、心配してくれてたのか…。こうしてべそをかく彼女は不謹慎だとわかっていても魅力的でかわいらしい、守ってやらねばと思ってしまう、どうしようもなく惹かれてしまうのを感じるサイトだった。
「ごめんな。シュウがどうしても俺の手を借りたいって言ってたから…」
「あいつが?」
ごしごしと、自分が泣いていたことを恥じて目をこすり、あたかも最初から泣いてないと言って誤魔化そうとしているルイズは、サイトの顔を見る。
「例のジャンバード…あの飛行機械を起動するには、どうしても俺のガンダールヴの力が必要になったんだって」
「あんな鉄の塊のために…私の苦労は水の泡となったわけね」
最初に会った時からやたら不遜な態度を示しているし、いつか痛い目に合わせてやる。知らない間にルイズに恨まれるシュウであった。
「それにしても、城が騒がしいわね」
ルイズは、城から騒ぎ声が聞こえてきているのに気付いた。城門の門番も、何やらあわただしい。たった今、銃士隊の隊員服を着た女性が門番に何かを伝えると、再び城の方へと向かっている。ルイズは悪い予感を抱く。
「もしかして、賊!?」
「え、お、おいルイズ!」
一人で勝手なのはどっちやら。ルイズは城の…それも姫に何か万が一のことがあったのではと予感し、城門に駆け出す。

城門の門番のもとに駆け寄ると、彼女は門番に止められる。
「今日は城を開けておらん。お引き取り願おう」
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。アンリエッタ姫殿下の女官よ」
いちいち前置きを置く暇はない。ルイズはアンリエッタからの許可証を門番に見せつけると、門番はすぐに気を付けした。
「し、失礼しました!公爵家のご息女だったとは…」
「いいわ。それより、城で一体何があったの?」
「そ、それは…」
門番の憂い顔を見れば、間違いなく何か悪いことが起こったのか一目瞭然だった。
「おお、ミス・ヴァリエール!ちょうどいいところに!」
城の方から、アニエスが現れルイズとサイトのもとに駆け寄ってきた。
「アニエス、いったい何があったの?なんで城がこんなにあわただしくなっているの?」
ルイズが真っ先に彼女に質問をぶつける。
「ミス・ヴァリエールなら、お伝えせねばなるまい…」
顔を悔しげに歪ませると、アニエスは二人に凶報を伝えた。
「アンリエッタ姫殿下が、姿を消されてしまった」
「なんですって!!?」
嫌な予感は、的中した。ここはトリステインの顔ともいえるトリスタニア城。国最高の警備体制が敷かれていたにもかかわらず…アンリエッタは誘拐されてしまった。ルイズの頭上に雷鳴が轟いた。




(こいつが、姫に悪夢を見せているということか)
ダークフィールド内、シュウが変身したネクサス・アンファンスはガルベロスと対峙していた。血に飢えた獣の如く、唸り声を上げながら、奴はこちらをじっと睨みつけている。
ガルベロスが吠えると、即座にジュネッスブラッドにチェンジしたネクサスは助走をつけ、空中回転も加えながらガルベロスに飛び蹴りを放つが、ガルベロスは右手で払うだけで彼を叩き落とした。地面に落下しすぐに立ち上がると、ガルベロスの右の頭の口に炎がたぎっていた。来る!ネクサスはすぐにガルベロスの頭上に飛び上がると、ガルベロスの口から火炎弾が放たれ、ネクサスが立っていた地面に着弾し燃え上がった。華麗に宙を舞いながらガルベロスの背後に立つネクサス。ガルベロスは後ろを取られると知ると、右の頭をぐるりと180度回転してネクサスの方を振り返ると、再び彼に向けて火炎弾を放つ。ネクサスは両腕のアームドネクサスを光らせ、高速移動技〈マッハムーヴ〉を発動、火炎弾を避けると同時にガルベロスの正面に立ち、ガルベロスの真ん中の頭に回転蹴りを入れた。蹴りを入れられ怯んだところ、さらにもう一発蹴りを入れるネクサスだが、ガルベロスは二度も食らうまいとネクサスが放ってきた左足の蹴りを払い、突進を試みてくる。正面から受け止めた彼は、右のアームドネクサスで思い切りガルベロスの真ん中の頭を切り付け、腹に蹴りを叩き込むと、お返しにガルベロスも両腕の爪を研ぎ澄ませ、ネクサスの体に斬撃を叩き込んできた。
「GRUAAA!!」
「ウワ!!?ヌアアアア!!」
アッパーカットに、背中にビンタ、そして胸部に蹴りを入れられ、ネクサスは吹っ飛ぶ。
数メートル先の地面に落下したところ、ガルベロスが再び火炎弾を、それも一発だけでなく何発も乱射してきた。ネクサスは立ち上がり、抜刀の構えのように左の腰に添えた両腕をスパークさせ、十字に組んで光線〈クロスレイ・シュトローム〉を発射、放たれていた火炎弾をすべて消し去り、ガルベロスにも被弾した。
だが、まだガルベロスはダメージこそ受けているものの、倒れるまでには至らなかった。寧ろ痛い一撃を食らって逆上したのか、さらに凶暴な雄叫びを上げながらかぎ爪をネクサスに向けて振う。アームドネクサスでガードするが、それと同時にガルベロスはネクサスの両腕をつかみ、彼を投げ飛ばす。地面にぶつかったところで立ち上がろうとした途端、更なる追撃に彼に掴み掛って動きを封じると、ガルベロスはその鋭い牙をむき出して、ネクサスの左の上腕に思い切りガブリついた。
「グアアアア!!」
今にも引きちぎってくるようなガルベロスの顎の力に牙が食い込み、腕の激痛が響いていく。このままでは腕が食い千切られてしまう。右腕のアームドネクサスを光らせると、ネクサスは右腕に強引に力を入れて右腕をガルベロスの手から引っこ抜くと、瞬時に〈シュトロームソード〉を発現させガルベロスの左の頭を切り付けた。
「ギウウウウオオオオ!!!」
悲鳴を上げながら、ガルベロスはついにネクサスを離してしまう。今のうちにとどめを刺してやる!ネクサスが剣の刀身を何十メートルにまで伸ばし、ガルベロスを一刀両断しようと剣を振り下ろした。
しかし…ガキン!!!!
「!!?」
剣が、ガルベロスに届く前に止まった…いや、止められた。ネクサスは思わぬ横槍によって邪魔をされるとは思ってもみなかった。
「デュ!!」
「ウワアアア!!?」
瞬間、ネクサスの腹に一発の光弾がゼロ距離で発射され、ネクサスを吹っ飛ばした。もろに食らった彼はよろよろと立ちあがり、邪魔をしてきた敵の姿を確認する。
その時、ネクサスは焦りに似た動揺を露わにせずにはいられなかった。
姿を現した『そいつ』は、ガルベロスと共にダークフィールドから姿を消す。支配者のいなくなったダークフィールドは、ポクポクと音を立てながら消滅していった。ネクサスは、ガルベロスに思い切り噛まれた左腕を苦しそうに押さえながら、城の廊下の真ん中にて膝をついた。
「ぐ…!!」
ガルベロスに噛まれた左腕が酷く負傷してしまっている。証拠に歯形が深々と残ってしまっている。城のあちこちから騒ぎ声が聞こえてくる。ここに留まると、自分が不審人物として捕まる可能性が高い。ネクサスは誰にも悟られないよう、城の外に出て変身を解いた。





屈辱。ただでさえこれまで出現した怪獣に一矢報いることさえもできず、その上グリフォン隊隊長であったワルドがトリステインを裏切ってレコンキスタに着いたことから、民衆から役立たずと無能・恥知らずの集まりというレッテルを張られつつあった魔法衛士隊の者たち頭の中には、その二文字が浮かんだ。上記の出来事が原因で、アンリエッタ姫は自分たちをほとんど宛てにしなくなっている。平民の女で構成された部隊を編成し、しまいにはその隊長に貴族の位を授けた。ヒポグリフ隊の隊長もまた貴族の一人で、自分たちが幼き日より培ってきた魔法の腕と貴族としての誇りを無下にされたようで悔しかった。ならば、自分たちが有能さを発揮すれば、ワルドの愚行や怪獣災害で苦汁をのまされた自分たちにも再び栄光が輝くことだろう。
なのにその矢先、城に属の侵入を許し、もうじき女王となる姫が誘拐された。直ちに姫を見つけて取り戻し、この屈辱を賊に何乗にも返してやる。
「皆の者、何としても姫殿下を取り戻し、我らの栄誉を取り戻し、賊に正義の鉄槌を下すのだ!」
ヒポグリフ隊隊長は、馬とグリフォンを足して二で割った幻獣『グリフォン』を引きながら、自分の十数名の部下たちを鼓舞すると、部下たちはいっせいにうおおお!!っと応えた。直ちに出発しようと彼らがヒポグリフにまたがった時だった。
「待たれよ!」
すると、彼らを引き留める声が響く。ヒポグリフ隊と似たような軍服を着込んだ一部隊とその隊長だった。
「これはこれは、マンティコア隊長の隊長ド・ゼッサール殿ではないか」
「姫殿下がここにおられぬ今、マザリーニ枢機卿が事実上この国の最高責任者だ。あの方はまだ我らに出撃命令は下されていない。勝手な真似は控えられよ」
ゼッサールはヒポグリフ隊隊長に、無断出撃をする前に引きとめに来たようだ。すると、ヒポグリフ隊隊長はゼッサールに言い返す。
「我らの主となる姫殿下が賊にかどわかされたのだぞ。万が一のことがあったらどうするのだ」
「確かに、姫殿下のお命は大事だ。だが、この城には国最高の厳重な警戒態勢を敷いていたにもかかわらず、賊の侵入を許した。その時点で、敵は只者ではない。迂闊に敵に突っ込んでも無駄死にするだけだ!」
それを聞いて、ヒポグリフ隊隊長は鼻で笑い飛ばした。
「かの『烈風』の右腕だった貴様とは思えぬ言葉だな。どうやら烈風殿が退役した際に貴様に残したのは『臆病風』だったらしい」
「貴様!隊長だけに飽き足らず、『烈風』様にまで侮辱の言葉を!」
ゼッサールの部下の一人の、少し老けた外見からして古参と思われるメイジがヒポグリフ隊隊長に対して激昂する。しかし構わずヒポグリフ隊隊長は続ける。
「貴様らにはわかるまい!我らトリステインの伝統と栄光のもとにあった魔法衛士隊が、怪獣とウルトラマンが現れてからどれほどの苦汁を飲まされてきたことか!!怪獣どもに一矢報いることもできずに一度は壊滅しかけ、恥知らずのワルドのおかげで内部からも白眼視され、挙句の果て我らに奉仕する平民どもは我らを『役立たず』と軽んじる屈辱が!!」
確かに、本来自分たちが守らなければならない人々から役立たずだのと言われるのは、地球の歴代の防衛チームにとっても屈辱的な言葉だった。今のヒポグリフ隊隊長は、まさに彼らの思いが人の形をとった存在そのものと言えた。他にも「ウルトラマンさえいれば貴族など不要だ」とか散々なことを言ってくる者だっている。だが悔しい話、仕方のないことだ。自分たちの脅威を相手に何一つ手柄を立てることもできない防人に対して、『頑張ったね』と慰みの言葉をかけることはできても、いつまでも役に立たなければただの犬死部隊でしかないのだ。だから焦ってしまう。自分たちの存在意義をウルトラマンたちに独占されたままであることが我慢ならなくなる。
「貴様らが何と言おうと、我らは姫殿下を取り戻す!そして魔法衛士隊に栄誉を取り戻す!出撃!」
「待たれよ!!待たぬか!!」
ヒポグリフ隊隊長が自分のまたがるヒポグリフを羽ばたかせると、彼に続いて部下たちも飛び立ち、結局ヒポグリフ隊は全員無断出撃してしまった。
「隊長…」
どうするのですか?と困り顔のマンティコア隊隊員の一人が、ゼッサール隊長に言う。すると、もう一人別の隊員が、ヒポグリフ隊に同調するように言った。
「隊長、我らも出撃しましょう!確かに彼らの言うことももっともです!」
しかし、ゼッサールは冷静に言う。
「…枢機卿にお伝えしよう。そして我らは命令があるまで準備だけは行う」
今ヒポグリフ隊隊長が言ったことも分からなくもない。でも、慎重さを欠いて功を焦って失敗を起こせば、それこそ余計に壊滅的な評価に落ちされている魔法衛士隊の栄誉も余計に地に落とし、部下たちを無駄死にさせる結果を導くこともあり得ないことではない。実際に、以前ディノゾールが出現した時、自分たち魔法衛士隊は全く歯が立たず、結果的に飛んで火にいる夏の虫となっただけだ。
その他にもモット伯爵の屋敷の謎の破壊、アルビオン王党派の滅亡、タルブを襲撃したレコンキスタの怪獣使役と、全く異なる破壊兵器となったレキシントン号…。
今回も、何か大きな意思が働いている。これまでの日常や常識を覆す事件の連続で、ゼッサールはそう思わされていた。
「『烈風』カリン…今の我らを見て、あなたはどう仰るだろうか…」



「姫様をみすみす賊の手に…一体あんたたちは何をしていたのよ!」
「ルイズ、落ち着けって!アニエスさんを責めたって何も変わらねえ!」
ルイズは、アニエスの口からアンリエッタが誘拐されたと聞くと、激しく激昂し彼女に罵声を浴びせた。サイトが激昂するルイズを押さえると、アニエスが申し訳なく二人に言う。
「いや…ミス・ヴァリエールがお怒りになるのも無理はない。これまでのトリステインで起き続けた超常的なことを体感しておきながら、賊の手に姫殿下を…我らの責任だ」
「……それで、姫様は?」
サイトの言葉でルイズは何とか落ち着きを取り戻し、アニエスに尋ねる。
「現在、先遣隊として魔法衛士隊ヒポグリフ隊が、続いて私の部下たちがあの方を追っています。ですが、犯人の足取りさえもつかめず今のところ犯人がどこに向かったのか見当がついておりません」
どうやらヒポグリフ隊は先遣隊として上層部は扱うことにしたようだ。だが、肝心の犯人の居所がわからないではお手上げだった。
「そんな、それじゃあどうしようもないじゃない!」
ルイズは声を上げる。賊がどこに消えたのかもわからないなんて…このまま手をこまねいていたら、最悪アンリエッタは自分を攫ってきた賊の手にかかってしまうことだって考えられる。
「もうじき女王となられる姫様が賊に誘拐されたと民衆に広まったら、トリステインは混乱するのは間違いないでしょう。表沙汰になる前に、なんとか我らの手で手を打ちます」
「私たちも探しに行くわ!」
「いえ、ミス・ヴァリエールは街に残っていてください」
自分も捜査に参加すると申し出たルイズだが、アニエスはそれを断った。いきなり捜査を断れては、ルイズは納得を示せない。
「なんでよ!?」
「姫殿下から、あなたが伝説の虚無に目覚めたとお聞きしております」
「…!」
どうやら、アンリエッタはアニエスが信用に足る存在と判断し、あらかじめルイズが虚無の担い手であることを伝えていたようだ。
「それほどの力を姫様のご友人であるあなたが手に入れた以上、姫様はあなたがその力を持つがゆえに危険が及ぶようなことを極力避けなくてはとおっしゃっておりました。その思いを無駄になさるのですか?」
「私だって姫様に忠誠を誓っているし、姫様を大事に思う気持ちは負けないと自負しているわ!お心遣いはありがたいけど、だからってそれに甘えるわけにはいかない!」
ルイズの決意は固かった。誰が何と言おうと、絶対にアンリエッタを助けなくてはならないと。
「アニエスさん。俺も捜査に参加させてください」
サイトも反対することはなく、自分も捜査への参加を願い出る。
「お前もか…」
「俺もルイズと同意見です。お姫様にはお世話になったことがありますし、ここで見捨てるのは嫌だ!」
何より、さっき自分を襲ってきた鏡の戦士のことも気になっていた。街中で突如自分を襲撃し、アンリエッタのいる城の中へわざわざ侵入して何かを企んできた。自分の正体判明にかかわるため、奴と戦ったことは敢えて言わなかったが、鏡の戦士が使ってきたあの能力…あの力があれば城に侵入することはたやすいはずだ。だとしたら、あいつが犯人である可能性が高い。
「しかし…賊の進行先も掴めてもいない今、迂闊に城下の外へ出るのは…」
「位置を…知りたいのか?」
聞き覚えのある声が三人の耳に入る。声の聞こえた方を見やると、負傷した左腕を抱えるシュウが三人のもとに歩いてきた。
「シュウ!その傷…何があったんだ!?」
「さっき…少しな」
彼ほどの男が傷を負っての出現だったため、何かただ事ではないことがあったのは間違いない。サイトがシュウの傷を見ながら尋ねると、シュウは左腕を握ったままそう答えた。
「おそらく今回の事件は…黒い巨人が関係している」
「黒い巨人…まさか!?」
声を上げるルイズ。真っ先に三人の脳裏に、これまで自分たちの前、そしてタルブの戦いで出現しトリステイン軍を混乱に陥れた巨人…ダークファウストの姿が浮かぶ。
(あの鏡の奴だけじゃなく、ファウストまで絡んでいたってことなのか…!?)
サイトが現状にさらなる危機感を抱く。
「それは本当か!?」
「痛っ…」
アニエスがシュウの肩を握って詰め寄ると、シュウは今のが傷に響いてしまったのか、うめき声をあげた。彼女は負傷者相手に詰め寄りすぎたことに気付き、手を離した。
「す、すまん…しかし、なぜ例の黒い巨人が姫様を?」
ウルトラマンという存在によって抑止力が働いているとはいえ、なぜファウストがアンリエッタを直接狙ってきたのだろうか。その気になればすぐに表立って現れ、街で散々暴れ周りトリスタニアを壊滅させることだってできるはずだ。それとも、生け捕りにすることで、トリステイン貴族を従わせるための人質とする気なのだろうか?
「奴らの目的などどうでもいいだろう。今は、姫を助けるのが先じゃないのか?」
「…そうだな」
そうだ、アニエスにとっても、敵の目的などどうだっていい。その考えに同意した。
「まずは、アカデミーのジャンバードに向かう」
アカデミーの方角を指さしながらシュウが言った。
「ジャンバードって、タルブで回収されたあの飛行兵器?あんなもので何ができるのよ?そんなことより、まずはあんたの傷を癒した方がいいんじゃないの?」
ルイズの口からシュウを気遣うような言葉を聞き、シュウは少し驚いた。
「ほう…心配してくれるのか?」
「べ、別に!!いざって時に足を引っ張れたら困るだけよ!」
ルイズらしいお決まりの言葉を吐き、顔を赤らめた彼女は視線を背けた。
ともあれ、彼らは直ちにアカデミーで保管されているジャンバードまで急いだ。サイトたちはアカデミーにたどり着き、急ぎジャンバードのコクピットに入った。
「これが、レコンキスタがタルブ戦役で使っていた兵器の中…」
アニエスは外装からしてそうだが、ジャンバードの内部を見た時も驚いている様子だった。こんな手の込んだつくりの鉄の塊のような乗り物がハルケギニアに存在し、タルブの戦いで武人の姿になったり、ハルケギニア中に従来使われている、空を飛ぶ船ともまるで違う作りに目を丸くしていた。
「本当に、姫様の居場所がわかるの?」
一方でルイズはシュウに大丈夫なのか問う。
「今回の犯人は、間違いなく人間じゃない。そういった存在は大概その特異的な生命反応を持っている。そして今の姫は犯人と同伴させられている。ジャンバードの索敵機能を使えば、一定の範囲内の特殊生物の位置を特定できるはずだ」
「すげえ…まるでGUYSのフェニックスネストみたいだ」
「もう一度借りるぞ」
シュウは感心しているサイトにそういうと、置いてあったサイトのノートPCを起動、ジャンバードとの接続を確認すると、すぐに索敵機能を起動させた。すると、ジャンバードのモニター上に画面が映し出される。
「大まかな地図も完成…予定通りだな」
シュウがポツリと呟く。ジャンバードに、周囲の地形を機体から放射した波動で調べ上げ、自動で簡易地図を設計できるようあらかじめ加えていたのだ。
現在位置…『トリスタニア』と表示された地点から遠く離れた位置に、赤い点…特殊振動波を発する生命体の反応がキャッチされた。方角は南方の、湖を示す場所の近辺。
「見つけたぞ。この位置は…ラグドリアン湖か」
「ラグドリアン湖!?」
三人にシュウがそういうと、三人は驚く。ここからラグドリアン湖までかなりの距離が開いている。まだアンリエッタが誘拐されて時間がそれほど経っていないのに、賊はもうそこまで逃げ延びたというのか。これなら犯人が人間ではないということに信憑性がある。サイトとルイズにとっては、思わぬ形でルイズにとっての汚点的な思い出の場であるあの湖を再度来訪するとは思っていなかった。
しかし、すぐにルイズとアニエスはいぶかしむような目でシュウを見る。
「本当に、その位置にいるの?」
「私もミス・ヴァリエールと同意見だ。直接見てもいないのに敵の位置を特定できるなどにわかには…」
ルイズがそう言うと、アニエスも同調した。機械の存在がまるで浸透していないハルケギニア人の彼女からすれば、偵察部隊も派遣せずに敵の居所を知る道具の存在なんてにわかには信じられないのも無理はない。
しかしシュウは淡々と二人に言う。
「直接見てもいないからこそ、このポイントを調べる価値があるんじゃないか?何せさっきまで、姫がどこに連れて行かれたなんて全く分からないほど足取りの掴みに困っていただろ?」
言われてみれば、確かに…一体どうやって一気にこの短時間でラグドリアン湖にたどり着くことができたのか、本当にシュウの利用した索敵がうまくいっているのか、それらを確かめるためにも、まずは暗闇の中の僅かな一点の光でもある場所、ラグドリアン湖へ向かう必要がある。
「よくわからんが、姫様の足取りがつかめない今は止むを得ん。協力感謝するぞ。私はこれから後続部隊の編制に当たる。後で合流しよう」
アニエスは三人に礼を言うと、いったんジャンバードから降りて行き、自分の率いる銃士隊の中から捜索部隊を急きょ編成するため城に戻って行った。
「ぐ…」
彼女が去った直後、シュウは左腕を押さえて壁に寄り掛かる。
「シュウ!」
「あんた、大丈夫!?」
サイトとルイズが彼のもとに寄る。
「…実は、城の中でダークフィールドに飲み込まれて、犯人の刺客と予測されるビーストと遭遇して戦っていてな…その時噛まれたんだ」
「ダークフィールド?……じゃあ!!」
サイトはタルブの戦いの当時を振り返る。トリステイン軍とレコンキスタの両軍による戦争から、怪獣とウルトラ戦士の戦いに変わってしまい、その最中にあの闇の巨人に塗り替えられてしまった暗黒の空が脳裏に蘇る。
「やっぱり、あのファウストって黒いウルトラマンが、姫様をさらって行ったのね!許せない…!!」
ルイズがファウストに対して怒りを抱くが、シュウは首を横に振った。
「違う…ファウストじゃなかった」
「「え?」」



サイトたちが一度アカデミーに保管されているジャンバードへ向かっている数十分の間、アンリエッタのいない上層部からの命令を待つことなく出撃したヒポグリフ隊は、何としてもアンリエッタを取り戻そうと躍起になって、彼女を攫った犯人を追った。
今度こそ失敗は許されない。怪獣たちに全く歯が立たず、ウルトラマンたちに命を救われはしたが結果として手柄をも奪われた自分たちにとって、彼女を取り戻すことは大きな意味がある。そもそも自分たちが命に代えても守らなくてはいけない姫を賊の手に渡すなど世間に広まれば、最悪解散宣告を通達されてしまいかねない。これまで国と民を守ることを新庄としてきた自分たちにとって存在意義を強奪されるも同義なことを耐えられるわけがない。
「一刻も早く姫様を連れ戻すのだ!」
「「はっ!!」」
ヒポグリフ隊は一丸となって韋駄天の如く駆け出す。すると、目の前に数十名もの集団がこちらを待ち構えている様子で集まっていた。格好も自分の素顔を隠すための黒いローブで包み込み、見るからに怪しい。あいつらが姫を攫って行った者たちか。一番向こうにいる屈強な黒ずくめの大男の隣に立つ人物の腕の中に、姫様抱っこされている状態のアンリエッタが眠りについていた。
「姫様には当てるなよ!」
決して許すまいと、ヒポグリフ隊隊長は日の魔法フレイムボールを放ち、続いて部下たちもあらゆる系統の攻撃魔法で彼らを攻撃した。
土の魔法で賊の向こう側に壁を作って逃げ場を消し去り、自分たちの放った魔法の格好の餌食とする。魔法はまっすぐ賊に裁きの一撃を与えようと迫って行く。魔法は、爆音を巻き起こしながら賊の集団に直撃した。煙が晴れると、標的とされた賊たちは全員倒れていた。体を切り裂かれ、肌を焼かれ、中には口に水を突っ込まれて陸地でありながらおぼれ死んだ者もいる。ヒポグリフ隊隊長は勝ち誇るように笑みを浮かべた。ヒポグリフ隊は全員降りてたった今倒した敵のもとに駆けつけ、すぐにでもアンリエッタを取り戻そうと近づいていく。
しかし…次の瞬間彼らの表情は一変する。非現実的な光景のあまり恐怖さえ覚えるほどに。
「…な…なん…だと…!?」
一番向こうにいた、大男とアンリエッタを抱きかかえていたもう一人がいない。そして、二人の傍にいた怪しい者たちが、間違いなく殺害したはずにも拘らず立ち上がってきたではないか。
一体どうなっている!?ヒポグリフ隊の隊員たちは全員冷静さを失い、どよめき始めた。倒した賊たちは、中には四肢を切断されたものもいる。だがそいつも含め全員が立ち上がっているのだ。それも、身の毛がよだつほどの冷たい邪悪な笑みを浮かべながら。
「ひ…!!く、来るな!来るなあああああ!!」
杖をぶんぶんと振り回す隊員の一人が恐怖のあまり叫ぶ。目の前にいる、切り裂かれた喉をむき出しにする賊に向け、風の刃が炸裂する。しかし、間違いなく心臓を風魔法〈エア・スピアー〉で貫いたはず。だが…更なる恐怖が彼を襲い、そしてその恐怖が仲間たちにも伝染する。
今風の魔法を撃ったヒポグリフ隊員は目の前の光景を疑った。確かに目の前にいた喉を切り裂かれた賊を風魔法で攻撃したはずだ。なのに今自分の目の前にいるのは…。
「な、ぜ…だ…?」
自分と同じヒポグリフ隊員の仲間だった。心臓を貫かれ、口から血をふきながら彼は絶命してしまった。
「う、ぅうううあああああ!!!!」
頭を抱えて、風魔法を使ったその隊員は絶叫した。どうして?間違いなく賊を…倒したはずなのに蘇った賊を貫いたはずだ。だが今自分の魔法を受けて倒されたのは、自分の仲間だった。つい昨日まで、もうすぐ恋人と結婚するんだぜっと、ちょっと憎いのろけ話を魅惑の妖精亭で語ってきた友を、他でもない自分の手で!!恐怖の上に罪悪感も重なり、押しつぶされそうになる。が、まだ終わらない。現実は容赦なく彼を苦しめる。
今、彼に殺されてしまったはずのその男が、今度は自分を誤って殺してきた仲間の首を締め上げてきたのだ。憎悪と絶望に満ちた顔を、相手に向けながら人間とは思えないほどの力でぎぎぎ…っと締め上げていく。
「が、ああ…あ…」
彼らだけではない。再び立ち上がってきた賊を今度こそ抹殺しようと魔法を撃ったのに、実際に殺したのは自分と同じヒポグリフ隊の仲間。そして誤って殺したはずの仲間が、賊たちと同様蘇って相手を殺傷力抜群の魔法で攻撃していく。それを止めようと他の仲間が魔法でそのものを殺害・または気絶を試みたが、それでも相手は立ち上がり、さらに堂々巡りの如く続いていく。
「何をしている!!やめろ!!やめないか!!」
ヒポグリフ隊隊長が隊員たちに叫ぶ。一体どうしてこうなった?同じ思いでここまで来てくれた大切な部下たちが、今はアンリエッタを攫った不埒な賊という共通の敵ではなく、仲間同士で殺し合っている。何が起きているのか、現実を受け入れがたく思う一方で、仁義も何もない、血なまぐさい同士討ちは続いていく。最終的に、隊長一人だけが残ってしまった。彼の周囲には、命を散らし、原因不明の蘇生を果たしたヒポグリフ隊の部下たちとアンリエッタ誘拐に加担した賊たちが集まっていた。
「う…」
さっきまで生気と活力にあふれていた自慢の部下たちの、青白くて不気味な笑みを見て、隊長は後ずさりした。出撃した時のやる気も消えてしまい、隊長はとにかく逃げなくてはと思った。だが、後ろも彼らに囲まれてしまっているため、逃げ場はない。
次の瞬間、彼の部下たちと賊たちが一斉に彼に飛びかかった。
「や、やめろ…やめ、うぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!」
闇に満ちた森の中、ぐしゃぐしゃと聞くだけで吐き出してしまいそうなほどの生々しい音と、ヒポグリフ隊隊長の最期の断末魔が響いた。
断末魔が消え失せてから、森の木々の影から、眠り姫となっているアンリエッタを抱きかかえる人物と大男の二人が現れる。木陰から顔を出した時には、彼らの引き連れている賊の集団と、ヒポグリフ隊の者たちは、血の色に染まった道の上をただ『あ゛~……』と人の声とは思えないうめき声を上げながらゆらゆらと揺れながら周囲を彷徨っていた。
「愛し合う二人の門出を邪魔するなんて、殺しの世界で生きてきた俺から見ても、野暮な連中としか思えんな」
大男が自身の顔を隠すフードの下で、不敵に笑って見せた。
「そう思わないか?なあ…」
後ろで姫を抱える人物と、さらにその向こうで二人を見下ろす一体の地獄の番犬…『ガルベロス』を見上げながら大男は言った。




「ファウストじゃないってどういうことだよ?闇の巨人って、あいつだけじゃなかったのか?」
一方、ジャンバードでシュウから話を聞いていたサイトは、今回の事件にはファウストではない謎の巨人が一枚噛んでいるとシュウから聞いて驚きを露わにしていた。
「俺はそんなことは一言も言っていない」
「じゃあ、あの黒いウルトラマンには仲間がいるということ?」
シュウはルイズからの問いに「そう言っている」と言って頷く。
「もしかして、そいつ鏡の中から攻撃してくるやつとか?」
サイトは、街の中で突然自分を襲ってきたあの鏡の戦士のことではないだろうかと勘繰ってシュウに聞いてみたが、シュウはそれを聞いてきょとんとしていた。
「鏡?なんのことだ?」
「へ?違うのか?」
「サイト、あんた一体何の話してるの?」
宛が外れた問いを投げかけてきたサイトに、ルイズは首をかしげた。事情を知らない彼女からすれば変なことを言っているようにしか聞こえなかった。
「…」
シュウは、なんとなくサイトもまた、自分たちの知らない敵の襲撃を受けたことだけは察知した。
「とにかく、ファウストとは別のもう一人の黒いウルトラマンも絡んでいることは間違いない。実際にこの目ではっきりと見たからな」
「…どんな奴なの?」
ルイズが再び尋ねる。
シュウは城の中でダークフィールドに飲まれ、あの暗黒の空の下でガルベロスと戦い、最後に止めの一太刀を浴びせようとしたときのことを思い返した。

一瞬だけ、二人と同様あの黒い体のせいでファウストかと思った。だがファウストではなかった。
ガルベロスを守るように立ちふさがり、ネクサスの剣を受け止めるほどの、右手に装備されたかぎ爪を持つその者は、ファウストと似てはいるが中性的な道化をイメージした彼女と異なり、体中の骨が露となったような模様と装飾を刻んだ体を持つ、まさに死神をイメージさせる姿をした黒いウルトラマンだった。その名は…。






「『ダークメフィスト』…」
 
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