ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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妖精亭-フェアリーズハウス- part6/ゼロVS蠍怪獣
蠍怪獣アンタレス。それはかつて、ウルトラマンレオが戦った怪獣の一体だ。当時の同族が、レオの人間体であるゲンが変身する前を狙い、自らも人間の姿、それもゲンが通っていた城南スポーツセンターの道場破りという形で彼に勝負を仕掛け殺害しようとしたのだ。今回の場合、街の平民…それも特に女性相手に好き放題やらかしているチュレンヌの横暴に手を貸すことで、街の治安を悪化させたのだ。最近街中で、チュレンヌに逆らった者たちが毒で倒れるというのも、奴の持つ蠍ならではの、尾の毒を受けてしまったことによるものに違いない。
アンリエッタは今回の任務をルイズたちに与えた際、敵はタルブ侵略に失敗したことで、今回は刺客を国の内部に潜り込ませると予測した。もしかしたら、このアンタレスもそのためにチュレンヌのもとに派遣された刺客の一体なのかもしれない。
「妖精さんたち、落ち着いて!あたしについてくるのよ!」
恐怖のあまり錯乱しかける店の女の子たちにスカロンが必死に落ち着かせようと、自ら避難誘導を買って出ていた。しかし、アンタレスが店のすぐ近くに出現している。店がこのままだと踏みつぶされてしまう。
「けどパパ、お店は…!」
「お店よりも、あなたと妖精さんたちの命の方が大事よ!命さえあればお店なんてすぐ建て直せるんだから!」
ジェシカが店を壊されてしまうことを懸念して父に言うと、スカロンは店をたやすく切り捨てて皆の命を優先した。オカマだから心まで女性のつもりでいるようだが、ルイズたちの素性に首を突っ込み過ぎることなく雇ったり、店よりも女の子たちの命を重んじるあたり、彼はそこらの男以上に男らしいところを持ち合わせていた。
「くっそぉ…」
けど、せっかく世話になった人たちのお店が潰されるのは気持ちがいいものじゃない。サイトは手に握りしめているゼロアイを見て、決意を固める。自ら囮となって街から怪獣を引き離し、その隙に変身するのだ。
「みんなは先に逃げるんだ!俺があいつをここから引き離す!」
「そ、そんなの無茶ですサイトさん!おじさんの言葉を聞いてたでしょう!お命を粗末にしないで!」
「シエスタさんの言うとおりだよ平賀君!無理をしないで、一緒に逃げよう!」
シエスタが反対し、ハルナもまた同調した。二人の言い分も分かるが、ここで自分が前に出なくて何の役に立てるというのか。
「大丈夫。俺は死なないから。シエスタがくれたこれもあるし、フルハシさんも見守ってくれている」
安心させるように言いながら、サイトはベルトからさらにウルトラガンを取り出し二人に見せる。
「それって…ウルトラガン!?どうして平賀君が…それにフルハシさんって…?」
タルブ村とホーク3号の事情についてまだ知らないハルナは、なぜウルトラガンをサイトが持っているのか、訳が分からずにいた。
それがいくらひいおじいちゃんの形だからって!と言おうとしたシエスタだが、思わず尾の言葉を喉の奥に引っ込めた。一瞬脳裏に、タルブ村の戦いでサイトがホーク3号を飛ばしている時、サイトの乗っているコクピット内の景色に、亡き曾祖父の姿が自分の目に映っていた。ここには彼の血を引く者がシエスタ・ジェシカ・そしてスカロンと三人もいる。
フルハシが見守ってくれている、という言葉にシエスタは強い重みを感じた。
「…サイト、私が避難しながら魔法であんたを援護するわ」
「!?」
ルイズがサイトのまなざしを正面から見据えると、杖を取り出してサイトの囮役を許可した。それについて信じられないといった様子でシエスタとハルナが彼女に注目する。
「どうして認めるんですか!平賀君を引き留めてください!」
「ルイズ、お前…」
サイトは行かせてくれることについてはうれしく思ってはいた。けど、他の二人が自分のこれからの行いを許してくれていない。それをわかったうえで彼女はサイトの次の行動に許可を下した。ルイズは貴族だ。貴族にとって民を守ることもまた重要な義務。その明治の使い魔にもその義務は課せられる。だから、サイトが自分の意思で決めた以上自分にそれを引き留める権利はないのだと理解していた。しかしルイズとてサイトを危険な目に合わせたいわけではない。彼女なりに悩んだ末で認めたのだ。その代り、彼女はサイトに対して念押しする。
「それと、忘れものよ」
さらにルイズは、サイトに鞘に仕舞い込まれたデルフを手渡した。
「いつの間にデルフを…」
「なんでぃ相棒。俺を置いてくたぁ酷ぇじゃねえか」
サイトは驚きながらもルイズからデルフを受け取ると、デルフは店の中に置いてかれたままだったことが気に入らなかったようで、鞘から顔を出すとそのことでの不満を漏らす。
「ごめんなデルフ…立て続けでいろいろあって…」
「けどサイト、必ず生きて帰ってくること!これを破ったら死体になったあんたを魂ごと踏みつけてやるんだからね!」
「そりゃ勘弁だな。こうなったら、何が何でも帰ってくるさ!」
頷いたサイトはデルフを担ぐと、銃を構えアンタレスに向かって走り出した。
「平賀君!」
「二人とも、こっちへいらっしゃい!」
それでも引き留めようとするハルナをスカロンが抑え、ルイズたちはサイトの向かった方角とは反対側へと避難していった。
サイトは走り込み、アンタレスの注意を引くためにガンモードのウルトラゼロアイによるビームとウルトラガンの二丁拳銃でアンタレスを攻撃する。閃光はアンタレスの体に火花を起こし、アンタレスはそれなりに痛みを感じるほどのダメージを負い、思惑通りサイトに注意を惹きつけられる。
(よし!)
奴がこっちに注目した。サイトは引き続きゼロアイを連射して攻撃し、注意を自分に引きつづける。アンタレスはサイトを追い回していく。しっかりと、サイトとアンタレスの進行方向は街の外に向かっていた。
「それにしても、シュウの奴どうしたんだ!?あいつはこういう時出てきてくれるような気がしたんだけど…」
サイトはふと、シュウの存在を思い出す。彼は怪獣の出現をあらかじめ先んじる不思議な特技を持ち合わせていた。怪獣が出現すると、必ずと言っていいほどその場に現れて力を貸してくれていた。けど、今回は彼の気配がない。一体どうしたというのだ。できれば彼のウルトラマンとしての最大の特徴にもとれる〈メタ・フィールド〉に誘い込めれば街の被害を心配しなくてもよかったのだが…。
『これ以上奴に暴れられると被害が拡大する!サイト、今はシュウのことは忘れろ!俺たちで奴を食い止めるんだ!』
そうだな…本来歴代の地球防衛軍は、メタ・フィールドのような被害を最小限に抑えることについてチートさを誇る技に頼ることなく、多くの人たちを救ってきたのだ。ならばゼロの言うとおり、自分も同じ世界の人間として、それに倣おうじゃないか。
「わかった!」
サイトはさらに走り続けて二丁の銃を用いてアンタレスを攻撃し続ける。しかしアンタレスも撃たれっぱなしではいられず、サイトに対してかぎ爪を振り下ろす。その拍子に街の建物がいくつか取り壊され、その破片がサイトに降りかかる。レンガ造りの家もある。その家の破片であるレンガが人に当たったりすると大変だ。すると、そのレンガがサイトに降りかかる。
「相棒!」
サイトがとっさにデルフを引き抜いてそれらの瓦礫を切り落とす。だがすべてを振り払うことはできず、アンタレスのさらなるかぎ爪攻撃がサイトを襲う。それを見越して、ルイズがとっさにエクスプロージョンを発動、タルブの時ほどの威力はやはり出なかったが、サイトの危機を救うには十分だった。ルイズの魔法による爆発が起こり、アンタレスが怯んだ。
すでに自分たちは町はずれのすぐ近くにいる。変身するなら今だ!
「デュワ!」
サイトは折りたたんでいたゼロアイを開くと、直ちにそれを目に装着、たちまち彼の姿はマスクと青・赤の体に包まれ、巨大化した。
「ウルトラマンゼロだ!!」
ウルトラマンゼロの登場である。彼の出現に、街の人たちは希望を見出した。
さあ、第二ラウンド開始だ!
ゼロは手始めにアンタレスに掴み掛り、巴投げによってアンタレスを街の外へと送り出した。これで街から外へと出ることができた。ただでさえ街の復興にも手間がかかるのは地球とも同じだ。街に被害を出さない場所で戦うのがずっといい。
ゼロに投げ飛ばされたアンタレスは立ち上がり、ゼロにかぎ爪を振り下ろすと、ゼロはバック転して距離を置く。アンタレスが尾を振り上げ、その尾の先にある牙でゼロを突き刺そうとしている。あの尾のせいで多くのトリスタニアの街の人たちが酷い目にあわされた。しかもチュレンヌという小悪党を調子着かせ、街の人たちの心さえも脅かした。許すわけにはいかない。
アンタレスの尾がゼロに迫りくると、ゼロは高く飛び上がってアンタレスの後ろに着地、尾を掴んで動きを封じ蹴りを加える。このまま切り落としてやる。ゼロが頭に着けていたゼロスラッガーを手に取りアンタレスの尾を切り裂こうとするが、アンタレスは危機を感じて乱暴に尾を振い、ゼロを振り払う。振り払われて地面に倒れるゼロは、もう一度距離を置いて、今度は中距離からゼロスラッガーを二本同時に投げ飛ばす。
「ジュア!」
空を切り裂きながら飛ぶ二本のブーメランが、アンタレスを襲う。しかし、驚く高名を目にした。アンタレスが尾を構えると、その尾がまるで達人の槍のように俊敏な動きで、切り落としにかかってきたゼロスラッガーを迎え撃った。
ガギン!ガギン!ガギン!
ゼロスラッガーが斬りかかるたびに、アンタレスの尾の先の牙がそれを跳ね返す。金属音が早送り再生されている映像のように連続で鳴り響き続けた。まるで達人級の剣士が高速で相手に斬りかかり、その相手もまた剣で防いで反撃を加える。そんな剣士同士の名勝負が展開されているようであった。
しかしゼロスラッガーの正面攻撃で、根性だけで切り落としにかかろうとしてもアンタレスが的確に防ぐことができるのであれば意味がない。こっちは時間制限だってあるのだ。
なら直接肉弾戦に持ち込んでみよう。まず、ゼロは二本のゼロスラッガーを宙に浮かせ、それをアンタレスに向けて蹴り飛ばす。〈ウルトラキック戦法〉だ。
蹴りを加えることで超高速の速度を身に着けたゼロスラッガーがアンタレスを襲う。アンタレスは思った通り二本のブーメランを、槍で着くように撃ち落とす。ゼロスラッガーに気を取られた間にゼロがアンタレスに急接近、かぎ爪を二本同時に掴み、残った足でアンタレスの腹に蹴りとパンチを入れた。しかし、想った以上に丈夫だったアンタレスは怯まない。両手のかぎ爪を交互に突き出しながらゼロに反撃する。ゼロはそれをバック転で再び回避する。
ルイズも魔法を用いてゼロに援護を加える。
「エクスプロージョン!」
アンタレスの顔に爆発が発生、顔にダメージを受けただけでなく、視界を一時潰されたアンタレスは怯んだ。
ゼロはルイズの魔法が終わると、直ちにアンタレスに接近して再度パンチのコンボを加える。繰り出されたパンチを受けて怯んだアンタレス。しかし、まだまだアンタレスは倒れる気配を見せない。やがてゼロの突き出すパンチを受け流していき、ゼロに掴み掛り彼を投げ倒した。
撒けるか!立ち上がったゼロはもう一度攻撃を加えようと拳を突き出す。しかし、右手のパンチはアンタレスの左腕の爪に、左手は右手の爪、さらに足を両方とも踏まれる。
(『し、しまった!!』)
ゼロは四肢の動きをすべて封殺されてしまった。しかもこちらに反撃させまいと力強く押さえつけていて、なんとか脱しようと試みるゼロは腕や足に力を入れるが振りほどくことができない。
こちらの四肢を押さえつけている以上、アンタレスもまた四肢を使うことはできないが、奴の残された自慢の武器である、たいていの蠍も持っている毒性入りの尾があるのだ。
「このままだとゼロが…!」
「ルイズさん!魔法を!」
ルイズたちはゼロのピンチに焦りはじめる。ハルナがルイズに魔法を使うように進言する。言われずともやってやる。この世界とは無関係のはずの巨人が戦ってくれているのだ。この街…いや、この国の人間である自分たちだって戦わなくてはならない。今のうちにもう一度呪文を唱えなくては…。
しかし、ルイズは唱えようとしたところで突如体の虚脱感を覚え、膝をついた。
「ど、どうしたんですか!?」
シエスタがルイズを、地面に倒れる前に受け止めた。
「力が…入らない」
ルイズはこの意味に気付いていた。魔法を使うために必要な精神力が切れていたのだ。デルフが言っていた通り、虚無は溜めた精神力を一気に放出するため、迂闊に連発しようとすればすぐに精神力切れを起こしてしまうのだ。
「肝心な時に役に立たないわね…!」
せっかく手にした…それも伝説の系統とはいえ使い勝手の悪さに毒をつくルイズ。
チュレンヌはみんながアンタレスとゼロの戦いに気を取られている間に、卑怯にも罪を免れるために逃げ出そうとしていた。
「あ!!」
それに気づいたジェシカたちだが、もう遅い。自身にフライの魔法をかけ、空を飛んで逃げ出そうとするチュレンヌ。空に浮かんでしまえば自分を捕まえる者などいない。
「ま、待ちなさいチュレンヌ!罪を犯した上に尻尾巻いて逃げるなんて、卑怯よ!」
ジェシカが怒りの声を上げるが、チュレンヌは見苦しく言い訳をかましてきた。
「う、うるさい!こうなったのも全部貴様ら平民が悪いのだ!貴様らは黙って大人しく我々に奉公しておればよかったのだ!おかげでこの国に私の居場所がなくなったわ!こうなれば…レコンキスタに身をやつしてでも生き残ってくれるわ!」
なんて自分勝手な奴だろう。これは貴族というより、我儘な貴族の坊ちゃんがそのまま大人になってしまった悪い例だ。貴族は平民たちにとって模範でなければならないというのに、ルイズは同じ貴族としてこの男の存在を許し難く思った。
「あんたみたいな面汚しがいるから貴族の権威が!王国の権威が地に落ちるのよ!降りてきなさい!」
「ふん、そこで這いつくばるしかできん小娘が吼え面をかいておれ!ではさら…ぐぼあ!!?」
バァン!!
ルイズたちを見下しながら、チュレンヌはフライの魔法でそのまま空に飛び去ろうとしたのだが、直後チュレンヌは悲鳴を上げて店の屋根に落下し、そのまま滑り落ちながら市街地の石畳の上に落ちた。
地面に激突した痛みで体が言うことを聞かないチュレンヌ。顔を上げると、そこにはここ最近頭角を露わにした部隊の隊長とその部下たちがチュレンヌを見下ろしていた。
アニエスたち銃士隊である。よく見るとアニエスの手には火を噴いたばかりの銃が煙を吹いていた。街に怪獣が出現したので、直ちに出動しルイズたちとチュレンヌの会話を聞きつけ、出現した怪獣と少なからず関係があると見たチュレンヌを逃げ出そうとしたところ、銃で撃ち落としたのだ。
「き、貴様…私を誰だと思っている…!!この区域の徴税官であるチュレンヌだぞ!」
「…これだから貴族は嫌いなのだ。陛下やミス・ヴァリエールのような方は別だがな」
チュレンヌは銃士隊のメンバー全員が平民出身であることを知っている。アンリエッタがなぜこんな下賤な平民の女ごときの部隊を結成させたのか理解できない者の一人だった。しかし、アニエスとしては…いや、たとえ彼女でなくても、見下ろされている側になって尚自分を見下しているチュレンヌの方こそ非難される側だ。
「チュレンヌ、貴様があの怪獣を使役しこの街で好き勝手やったことに目星がついている。貴様を逮捕および、屋敷の強制捜査を行わせてもらうぞ。
この恥知らずを縛につかせろ」
「はっ!」
「や、やめろ!!離さぬか!!私を誰だと思っているのだ!!」
アニエスの傍らに立っていたミシェルや他の銃士隊員が、チュレンヌを取り押さえ、彼の両腕を縄で縛りあげ、杖も取り上げた。
「チュレンヌ、いい加減見苦しいぞ。平民の女性を次々とかっさらって屋敷に監禁、そのためにあの怪獣を用いて平民たちに毒を盛るなどの被害をもたらし、はては姫殿下の女官であるミス・ヴァリエールを殺害しようとした。貴様も貴族の端くれをなのるのなら、大人しく罪を償うのだな。
ミシェル、そいつを連れていけ!!」
「はっ!!」
捕まったチュレンヌは、彼を取り押さえたミシェルや銃士隊員と共に、チュレンヌを連行したのだった。
「残ったものは銃撃にてウルトラマンを援護せよ!」
「はい!!各員、私に続け」
アニエスの命令にて、ミシェルは数人程度の部隊を連れてルイズたちの元へ、アニエスと残りの銃士隊の女性たちはゼロとアンタレスの戦いの場まで直ちに急行、街の外れまで来たところで一列に並び、銃を構える。
「奴の眼を狙え!」
発射命令が下され、銃士隊員たちによる銃撃が始まる。
「銃も馬鹿にできないわね…」
ルイズが呟く。現在の地球のもとと比べたら数十年以上前のモデルだから威力は劣る。が、急所さえねらえれば十分な効力を発揮することもある。目はあらゆる怪獣にとっても急所なのだ。魔法さえあればどうということのないという常識がルイズ自身にも根付いていたが。こうして怪獣にも痛手を与えている。それに詠唱が必要な魔法と異なる利点は、瞬間的に人を殺すことができる一撃さえ与えられるということだ。
次々と銃士隊隊員の銃から弾丸が、アンタレスの眼を狙って火を噴いていく。その弾丸の雨は、アンタレスの眼の網膜をたやすく貫いた。
「グゲエエエエ!!!」
銃士隊の援護によって、アンタレスのゼロを捕まえている両手足の力が緩まった。ゼロは直ちに両足を引っこ抜き、両手を掴んでいるアンタレスの腕も振ほどき、バック転して距離を置く。そして、ゼロスラッガーを再三投げつけ、アンタレスの尾を切り落とした。視界どころか、自慢の尾を失ってもだえ苦しむアンタレス。
今がチャンスだ、一気にとどめを刺す。ゼロは左腕を左方向にピンと伸ばすと、一瞬だけ左腕が光る。そのままL字型に両腕をくみ上げると、アンタレスに向けて破壊力抜群の必殺光線を放った。
〈ワイドゼロショット!!〉
ゼロの光線はアンタレスを貫き、アンタレスは粉々に砕け散って行った。再び彼の手によって脅威が消え去ったことで、街の人たちから歓声が上がった。
自らの勝利を悟ると、ゼロは空を見上げ、遥かな空へと飛び去って行った。
「ジュア!」
「ルイズちゃんすごかったわ!」
「あのエロガッパを懲らしめるどころか、ウルトラマンを助けるなんて!」
戦いが終わると、ルイズは女の子たちから囲まれ羨望と歓喜の眼差しを向けられていた。
「え、えっと…」
ルイズは驚いたり緊張したりでうまく言葉が出なかったが、なんとか言葉を紡ぐ。
「わ、私…そんな大したことしてないわ。銃士隊の方がうまく援護してたし…」
「そんなことないよ!私なんて怖くて動くことさえできなかったんだから!」
謙遜するルイズに、さらに他の女の子たちからルイズをほめたたえる声が上がる。
「でも、魔法使っちゃってよかったんですか…?」
「確かに、これじゃ任務を最初からやり直さないといけなくなりますよね?」
ハルナとシエスタのそれぞれの一言で、ルイズは我に返る。自分が彼女たちの前で魔法を使ってしまった。つまり自分がメイジであることがばれてしまったのだ。正当防衛とはいえ、本来自分の素性を隠した上での任務だったのにそんなことをしてしまえば、任務は結局位置からやり直しとなる。正体をあらかじめ知っていたシエスタにもなるべく黙るように言っていたし、ジェシカも黙っていてくれたとはいえ、彼女たち以外にも知られてしまった以上、この店も辞めなくてはならない。
すると、そんなルイズの様子を見かねてスカロンがルイズたちに言った。
「いいのよ。ルイズちゃんが貴族だなんて初めからわかってたから」
女の子の一人からそれを言われたルイズは、シエスタとジェシカを睨む。まさか他の連中にばらしていたのか?すると、二人は慌てて両手を振って何も話していないことをアピールする。
「大丈夫よ、二人は何も話してない。ただ、態度やしぐさを見てたら丸わかりだし」
ルイズはうぐ…と息を詰まらせる。そこまでバレバレだったとは思いもしなかった。
「何年もこの店やってるんだから、人を見る目は一流よ。けど安心なさい。ここには仲間の過去の秘密をばらすような子はいないから」
スカロンがウィンクしながら言うと、店の妖精さんたちが一斉に頷いて見せた。みんなジェシカ同様鋭かったのだ。
「そういえば、平賀君はどこに!?」
ハルナがふと周囲を見渡すと、サイトの姿がまだないことに気付いた。ルイズやシエスタ、そして妖精亭のみんなも彼がいないことに不安を覚えた。
「もしかして…さっきの戦いで怪獣に…!」
女の子たちの一人がそんなことを呟いてしまう。
「そ、そんなわけ…」
その一言にルイズが反論しようとすると、ゼロとアンタレスが戦っていた町はずれの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「サイト!」「平賀君!」「サイトさん!!」
ルイズたちの顔に笑みがこぼれた。が、ルイズは自分の顔がゆるんでいたことに気付くと、照れていつも通りのツンツンした表情に無理やり切り替える。何顔を緩ませてるのよ私ったら!べ、別にあんな使い魔が返ってきたところで、別にうれしくないんだから!
一方でハルナはサイトに飛びつきたかったのだが、今の自分は熱を出していた。怪獣が現れたから無理をして避難を試みていたから外に出ているのだが、迂闊に今の容体でサイトに近づくと病気を移しかねないのでぐっとこらえた。
「ご無事でよかったです!サイトさああ…」
しかしそんなルイズや、他の女の子たちに支えられているハルナを尻目に、真っ先にシエスタが駆け寄ろうとする。抜け駆けされた二人はシエスタを最初は驚いた眼で、そして瞬時に敵意丸出しのまなざしで睨んだ。次はおそらく、シエスタがサイトの胸にダイブする光景…のはずだった。
「「「サイトくうううん!!」」」
「うごぉ!?」
「へ?」
シエスタさえも跳ね飛ばし、妖精亭の女の子たちが一斉にサイトに駆け寄ってきたのだ。一方で、いきなり女の子たちから囲まれたサイトは突如の出来事に目が点になった。
「サイト君ありがとう!サイト君のおかげでお店が壊されなかったわ!」
「大丈夫、怪我はない!?」
「怪獣に立ち向かってた時のサイト君、すごくかっこよかったよ!!」
「ウルトラマンもかっこよかったけど、まるでイーヴァルディの勇者みたいだった!」
「あ、あはは…」
サイトは思わず顔を緩ませていた。これまで女の子にモテたためしなんて全くなかった。地球にいた頃だって、ハルナとは確かに仲のいいクラスメートだったとはいえ、一緒のクラスにいる女子と男子がたまたま仲良くなっただけの話で、決して自分がモテるはずがないとばかり思っていた。けど…はっきり
このときのサイトは悟った。
(モテ期キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!)
本当なら、活躍したのはゼロであって自分じゃないから、そんなかっこいいもんじゃない…と謙遜して言葉を言うつもりだったが…。
「でへへ…」
すっかり浮かれてしまったサイトはそんな言葉を浮かべていたことさえ忘れてしまっていた。…っというか、すでに彼のモテ期は地球にいた時から始まっていたのに、とんだ鈍感野郎である。
『サイト、おーい』
すると、そんなサイトの頭の中で、ゼロの声が聞こえてきた。しかし、サイトは女の子たちからキャッキャ言われ続けてへらへら笑ったままで、彼の声に気付かない。
『サイトーーー。聞こえてるかーーー?』
「銃をすばっ!と取り出して撃ち抜いたときの姿もすごかったわよね!」
『サイト!!返事しやがれ!!』
「そういえば、銃の形もすごく変わってたけど、どこで手に入れたものなの?」
「え、あ…ああこれはね……」
だめだ、全然聞こえちゃいない。すでにサイトと彼を囲む女の子たちの向こうでは、とある三美姫たちがサイトを今にも睨み殺して競おうな目で睨みつけているのに、よほど妖精亭の女の子たちからちやほやされているのが嬉しかったようだ。
「平賀君……最低…」
「何よあいつ!せっかくご主人様が直々に労いの言葉をげようって思ってた矢先にデレデレしちゃって!」
「全くです!ご褒美なら私が何でもして差し上げてもよろしかったのに…!!」
「ま、まあまあ…」
これ以上彼女たちの怒りの炎が地獄の業火にも匹敵するほど燃え上げると、近づいた途端にサイトが燃えカスと化してしまいかねない。ジェシカは従姉であるシエスタも含め、三人を何とかなだめようとしたが、勢いはまずばかりだった。
しかしそんな、自分を一途に想ってくれているというのにその想いに気付かない愚かな鈍感サイトに、ある種の天罰が下されるのだった。
「いやああんもおおサイトちゃんったらああああ!!」
「ぐおおおおおおお!!?」
スカロンがサイトに飛びついてきたのだ。さすがボディビルのような肉体なだけあって力もすごく、サイトは押し倒されることとなった。
オカマに飛びつかれて喜ぶ平常男子なんているわけがない。当然スカロンに飛びつかれたと知った時のサイトは真っ青になった。
「全くひとりで怪獣に立ち向かうなんて、なんてかっこいいことしてくれたのかしら!おかげであたしは惚れちゃいそうよ!
ご褒美のキスしちゃう!」
「ちょお、スカロンさんそれはやめ…!!あ、ああああああああああああ!!!!」
その後、サイトはスカロンのキスの嵐を受け、とあるボクサー漫画の主人公の如く真っ白な灰となって椅子に座り込んだという。嫉妬のまなざしから一変し、あまりにもサイトが拷問以上の酷い目にあったものだから、さすがのルイズ・ハルナ・シエスタも怒る気が失せ、何としても再起不能となったサイトを目覚めさせようと四苦八苦することになった。
その後、チュレンヌは銃士隊によって逮捕され、拷問のごとき尋問を受けることになった。なぜ彼がアンタレスを部下として雇っていたのかも、これから知ることとなるのだろう。
屋敷の家宅捜索も銃士隊の手によって強制的に行われ、彼がアンタレスの力で脅し従わされていた平民の女たちも全員解放された。その中には妖精亭の従業員だった女の子もおり、再び仕事仲間たちと再会できたことを、仲間たちと喜び合ったのだった。
……まただ。
ウエストウッド村にて、子供たちがそろそろ寝始めた頃になってもシュウが戻ってこないままの時、テファはまだ起きてシュウの帰りを待っていた。
彼を迎えに行こうか迷ったが、またひと騒がせしてしまう恐れがあったし、マチルダがある種の監視役になっているのでそれが許されなかった。
もう遅いし、そろそろ寝ときな。姉からそういわれて寝床に入ったとき、また妙なヴィジョンを見た。今度は…見るからに不気味な雰囲気を漂わせる黒い巨人と以前自分を助けてくれたりヤマワラワを止めてくれたウルトラマンが対峙する姿。なぜこんなものが見えるのだろう。とてもリアルで鮮明で、とても恐ろしくて痛々しい。そして、どこなのかも想像できない真っ暗な世界の中で二人が争い合っている。
なぜこんなものが自分に見えるのだろう。思えば、見えていたのはあの時もだった。シュウが盗賊たちからたった一人で自分を助け手に来てくれた時、彼が自分を逃がすためにあの化け物たちの気を引きながら森の中へ消えた後、化け物たちが一つに集まって、初めて銀色の巨人…ウルトラマンを見て、彼が突然光で自分もろとも化け物を包み込んで姿を消した。姿はもう見えない。そのはずだったのに…。
(どうして、ウルトラマンが見えていたんだろう…)
不思議な光に満ちた荒野の中で、あの化け物とウルトラマンが戦う姿が、自分の目にはっきりと見えていた。理由はわからない。
……いや、確かシュウを召喚した後、思い当たることをマチルダが教えてくれたはずだ。
――――使い魔は主の眼となり耳となる。
思えば、マチルダについてもテファにとっても不審な点があった。
以前、村にサイトたちが偶然にも訪れてきたときのことだ。
このウエストウッド村にとって客が来訪することは珍しいことだった。ルイズがハルケギニアにすっかり根付いてしまった、エルフは始祖の敵であるという認識のせいで一時は大ごとになりかけたものの、最後にルイズはテファのことを責めなくなった。その後は特に積極性のあるキュルケが率先して、テファにとって初めての、同年代の子たちとのガールズトークを楽しむことができた。
でも、そうなる前…。サイトたちはマチルダの姿を見た途端、まるで親の仇を見るような目で彼女に武器を構えてきた。マチルダも杖を構えてそれに応じようとした。マチルダは自分の知る限り決して誰かを手にかけようとするような人じゃなかったはずだ。ましてや、年下の少年少女に向けてそんなことを…。
姉はこれまでどんな仕事をしているのかテファに一度も話してあげたことがなかった。今回シュウもマチルダに代わって新たな仕事を請け負ったというらしいが…。
見たこともない街で今より幼い容姿だったシュウが悪魔の放つ光に飲み込まれていった夢、時折見るウルトラマンの戦う姿のヴィジョン、マチルダとサイトたちの一触即発な対峙。
(もしかして…!)
テファは、シュウとマチルダのことについて薄々気づき始めていた…。
何も知らされないままのテファ、盗賊であることを隠し続けるマチルダ、そして自分がウルトラマンであることを明かさないシュウ。
隠しているつもりでも、いずれはボロが出てしまい、こうなる運命だったのかもしれない。召喚されたものとした者。二人が孤児たちや姉と共に暮らす以上、互いのことを知ることになるのは。
アルビオンの首都ロンディニウムの宮殿にて、シェフィールドは月明かりが差し込むバルコニーから外を眺めていた。遥か遠く、アルビオンより南の方角にある遥かな大地をただじっと見つめていた。
すると、彼女のもとに別の人物が訪れてきた。その素顔はバルコニーの入り口の部屋の暗闇に包まれていてよく見えなかった。
「人の背後に立つなんて感心しないわね」
「申し訳ありません。ミス・シェフィールド。ただ、お尋ねしたいことがございます」
シェフィールドがその人物に対して冷たく言うと、その人物は謝罪を入れた。尋ねたいことがある、と言われた彼女は振り向いてきて逆にそれを聞き返す。
「何かしら」
「トリステインへ派遣したあの者たちについてですが…あの二人は信用できるのですか?奴らは、正確には我々とはあくまで利害が一致しているだけの間柄で、正式に我らの傘下に入っているわけではない。しかも、王党派との戦争で手に入れた『例の人形』までも持ち出し、味方につけるには少々不安があるかと…」
その人物はどうも、トリステインに向かった例の二人組について疑念がぬぐえなかったらしい。しかし、シェフィールドはさして気に留めている様子ではなかった。
「一方は探し求めているものを殺すこと、一方は自分からすべてを奪った国への復讐…なんにせよ我が主を満足させてくれるなら、たとえ最後に裏切るつもりの者でもかまわないわ。もっとも、我が主に逆らう場合、死刑は確定だけどね」
再びバルコニーから見える夜景を見渡しながら、シェフィールドはニヤリと笑みを浮かべる。
「さて、あなたにも役目を果たしてもらうわよ。『クロムウェル閣下』」
その人物は月明かりに照らされると同時にその素顔を露わにした。それは、アルビオンの新皇帝としてシェフィールドに利用された挙句、彼女に捨石の如く見捨てられ死んでいったはずのクロムウェルだった。
「『クロムウェル』の役目…あなた様とその主様のために、精一杯努めます」
「お願いね。あの方の『半身』たる彼を時期に我らの前に迎えるのだから…」
空をかけるストーンフリューゲルの中で、シュウは眠りについていた。眠りについている間の彼の額は酷く汗ばんでおり、その脳裏には、再びトリスタニアの街で遭遇したファウストとの熾烈な戦いのときの映像が流れていた。アンタレスとの戦いで、彼が現れなかった理由は、やはりファウストとの戦いで消耗していたことが原因だったようだ。
街への被害がないようにジュネッスブラッドにチェンジしメタ・フィールドを展開しその中へファウストを誘ったが、予想通りファウストはメタ・フィールドをダークフィールドへと塗り替えてしまう。だが、どんな状況下にあろうとこいつを倒さなくてはならないことに変わりなかった。
「デエヤアアアア!!」
「ダアアアアア!!」
強烈なクロスカウンターが互いにヒットし、ネクサスとファウストは互いに膝をつく。その一発は猛烈に効いたようで、立ち上がる際もふら付き具合が普通じゃなかった。しかし、一足先に体勢を整えたファウストが、ネクサスの腹に豪快なアッパーを打ち込み、ネクサスを空中へと放り出す。宙へ舞い上げられたネクサスはすぐに身を仰け反らせて空中で急停車、上空よりパーティクルフェザーよりも巨大な光刃〈ボートレイフェザー〉を乱射した。地上に落下してく巨大な光刃をファウストは側転しながらよけていくものの、連射速度がすさまじく回避が間に合わなくなり、ついに三発ほどの光刃が奴の体に直撃し火花を起こした。
「ちぃ…やってくれる」
口を拭いながら、ファウストは闇の立ちこめる空中に浮いているネクサスに向け、光弾〈ダークフェザー〉を連射する。ネクサスは光弾を手で叩き落としたりよけたりしながら接近、ある程度距離が縮まったところで高速移動〈マッハムーヴ〉を発動、一機にファウストの眼前にまで移動し、ファウストの腕をつかんで豪快に背負い投げた。宙へと放り上げられたファウストは難なく着地したが、直後にネクサスの手から光刃〈パーティクルフェザー〉が乱射され、ファウストはそれをバック転しながら避けると、お返しにもう一度ダークフェザーを撃ち込んでネクサスに反撃する。その一発の光弾は、ネクサスが左腕のアームドネクサスを盾代わりにしたことで防がれる。
さらなるカウンターとして、ネクサスはさらにもう一発の〈パーティクルフェザー〉を発射し、それはファウストの右手にクリーンヒットした。
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
「!?」
ネクサスは今の一撃を受けたファウストが、たった一発の低威力の光刃を受けただけで強烈なダメージを受けていたことに疑問を覚えた。ボートレイフェザーの方が、威力が上のはずなのに、今の一撃の方がかなり効いていた。
いや、これは偶然にも弱点を突いたと捉えておこう。今はこいつを倒すことに専念だ。
「シュア!」
ジャブストレートを叩き込んでファウストを怯ませると、彼はファウストに掴み掛る。ファウストはその手を振りほどこうとするも、ネクサスが右のアームドネクサスから生えたエルボーカッターでファウストの左腕を切り付け、胸に蹴りを叩き込んで二人の間に距離が開く。
「グゥ…!」
二人の巨人はしばらく身構えたままにらみ合う。
「今度こそ…くたばるがいい!」
すると数秒の間の後、ファウストは両腕の拳に闇のエネルギーをスパークさせていく。
(くたばれて言われて、大人しくくたばる馬鹿がいるか…!)
ネクサスもそれに倣うかのように、クロスさせた両腕のアームドネクサスに光エネルギーを充填し稲妻の如く迸らせる。
〈ダークレイ・ジャビローム!〉
〈オーバーレイ・シュトローム!〉
ファウストが両拳を打ち付けあう様に合わせると暗黒の必殺光弾が、ネクサスがL字型に両腕を組んだと同時に必殺の破壊光線が発射され、ぶつかり合った。二つの必殺技が着弾し合おうと同時に、ダークフィールド内に光と闇のぶつかり合いによるすさまじいエネルギーの拡散が起こり、周囲を包み込んだ。
その現象は、ダークフィールドと彼ら二人の変身さえも解いた。ダークフィールドが消え去ったことで、シュウと黒マントの少女はチクトンネ街の路地裏に戻された。
「強くなったじゃないか…?ふふ…これだけの光があれば…あとは…」
かなり息を切らしているようだが、寧ろその少女はフードの下でせせら笑っていた。敵であるシュウが強くなったら自分の存在が危険に陥るはずなのに、寧ろ彼が強くなることが望みどおりのような言い方だった。
「なぜ、それほど俺たちとの戦いを求めようとする」
彼は思う。こいつは一体なぜ、何のために俺たちと戦うのか?なぜビーストを操って世界に混乱をもたらそうとするのか。
「私は…影。光がある限り、私が消えることは決してない」
またそれか…いや、こいつにどんな理由があろうが関係ない。こいつは倒すべき敵。それ以上でもそれ以下でもない。たとえこの女の言うとおり決して消えない存在だったとしても、シュウはその影と戦う覚悟を決めていた。少女はフードの下で笑みを浮かべると、闇に溶け込むように姿を消していった。
「舞台は、始まったばかりだよ。この国を闇に導く、死の喜劇(デスゲーム)がね…」
最後に、不穏な言葉を残しながら…。
夢はそこで終わり、ストーンフリューゲル内の光の波の中で、シュウは目を覚まし、体を起こした。
「死の喜劇(デスゲーム)、か…」
あの少女が言い残した言葉を復唱し、シュウはエボルトラスターを握りながら、まだ疲労までは回復していなかったのか苦しそうに顔を歪めた。
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