ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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用心棒-グレンファイヤー-part2/浮遊大陸X迷入
一方でワルドは、ルイズを客船の部屋に招き入れて話をしていた。部屋の真ん中にはテーブルとソファーがあり、ルイズはそこに腰かけワルドが二つのグラスにワインを注ぐのを眺めていた。
「機嫌が悪そうだね、ルイズ」
「そんなことないわ」
そうは言っているが、彼女はサイトから受けた態度に、不満そうにしていたことは事実だった。顔に出てしまっているのがその証拠である。
「このアルビオンの特別な高級ワインを飲めば、少しは気がまぎれるはずだ。ルイズのために用意したんだよ」
ワルドは二つのグラスにワインを注ぎ終えると、一つのグラスをルイズに渡した。おいしそうな匂いがする。彼の言う通り、特別な高級ワインのようだ。きっと高かったに違いない。あまり嫌な顔をしたままではワルドに悪い。ルイズがワルドからワインを受け取った。
「君とこうして一緒にワインを飲める日が来たこと、僕は心から嬉しく思うよ。アルビオンと二人の未来に、乾杯だ」
「ええ、乾杯」
二人はチン、とグラスを軽く叩き合わせ、ワインを飲んだ。本当においしかった。ルイズが今まで飲んだワインの中で初めての味だった。ルイズが気に入ってくれたことに、ワルドも満足げに笑った。
「姫殿下から預かった手紙はきちんと持っているかい?」
「ええ、肌身離さず」
「こんなことを聞くのは野暮かもしれないが、一体どんな内容が書かれているんだろうね」
手紙の内容…それについてルイズはおおよその察しがついていた。手紙を渡した時、双月の空を、溢れる思いを押さえられずに顔を染めたときのアンリエッタ姫のあの顔を見たときから。きっと、アンリエッタのウェールズの仲は…。
「きっと大丈夫だ。この任務はうまくいく。僕が付いているのだからね」
「そうね、あなたがいればきっと大丈夫。あなたは昔から頼りがいのある人だったから」
「せっかくだ。この機会に大事な話をしよう」
「大事な話?」
ワルドは話を切り替えてきた。大事な話とはなんだろうか、ルイズは耳を傾けた。
「そうだね。僕らが始めて出会った時の事から話そうか。覚えてるかな?あの日の約束を」
昔を懐かしみながら、ワルドは幼き日のルイズとの思い出を辿った。
「君はいつもお姉さん達と魔法の才能を比べられて、あの小船の中でいじけてたね」
「もう…。変な事ばっかり覚えてるのね」
「君は二人のお姉さん…『ミス・エレオノール』と『ミス・カトレア』のお二人と魔法の才能を比べられ、出来が悪いことをご両親にしかられてたね。
だが、僕には君に才能がないだなんて思えなかった。君にしかない特別なオーラを感じていた」
「誰にもない、オーラ?」
「そう、君には君だけが持つ特別な力があるんだ」
「まさか、そんな力ないわ」
そうだ、そんな力があったら、魔法の才能がゼロ、ゼロのルイズだなんて言われるはずがない。
「私が学院でなんて呼ばれているか知ってる?魔法の才能も成功率もゼロ、ゼロのルイズって…」
本当のこととはいえ、自分で言ってて情けなくなってくる。だが、ワルドは彼女の言葉を否定した。
「それは違うよ。君の魔法が他のメイジと違いすぎるだけなんだ。例えば…そう、君の使い魔だ」
サイトのこと?意味がよくわからず、ルイズが首を傾げる。
「彼に刻まれたルーン、あれはかの始祖ブリミルが使役した伝説の使い魔の一人『ガンダールヴ』のルーンだ」
「で、伝説の使い魔…ガンダールヴ?」
怪訝そうにルイズは尋ねた。
「ガンダールヴは、あらゆる武器を使いこなし、自在に操ることができる。その力を用いて、かつて1000の兵をたった一人で撃破し始祖を守ったと言われているんだ。左手にあるあのルーン、文献に記された初代ガンダールヴのルーンと全く同じ形だった。間違いないと思う」
「そんな、信じられないわ」
いくらなんでも、冗談にしても持ち上げすぎじゃないか。確かにサイトはギーシュとの決闘の時も剣を持った時から驚異的な身体能力を発揮し(この辺りはゼロと同化していることもあるが、ルイズはまだ知らない)、ギーシュのワルキューレを殲滅した。フーケ事件の時は、破壊の杖ことMACバズーカを使いこなして、フーケのゴーレムどころか突如出現した怪獣に果敢に立ち向かった。これは、我が使い魔ながらすごいことだとは…まあ認めてあげている。でも、だからって伝説とまで行くと大げさすぎるじゃないか。
「第一、さっきも言ったでしょ。私は…ゼロのルイズよ」
そう言って否定するルイズだが、ワルドは彼女の手を握って、真正面から真剣な眼差しを向けてルイズに言った。
「そんなことはないよ。君は立派なメイジになる。始祖のように…いや、もしかしたら始祖さえも超える素晴らしいメイジになる。僕はそう予感している。君のために、その予感を確実なものとしたい。だから…この任務を果たしたら、僕と結婚してほしい」
「!」
いきなりのプロポーズに、ルイズは一気に顔が真っ赤になるのを感じた。
「昨日も言ったが、僕は魔法衛士隊グリフォン隊の隊長で終わりつもりはない。このハルケギニアを動かすような貴族になって見せる」
「でも、私まだ…」
胸が高鳴っていくのを感じるルイズ。ワルドに聞かれているのではと思うと恥ずかしくなり、余計に鼓動が高鳴る。
「君はもう16だ。子供じゃない。自分のことは自分で決められるし、君の父上、ヴァリエール公爵も奥方もお許しくださる。確かにぼくは10年もほったらかしてしまった。これについては幾重にも謝ろう。婚約者を名乗るのもおこがましいかもしれない。
だが、ルイズ。僕には君が必要なんだ」
顔を上げるルイズ。同時にその顎をワルドに優しく掴まれた。そして自らの顔をルイズへと近付ける。その意味を察し、ルイズは瞳を閉じた。二人の顔、唇が互いに近づいていく。
その途中でワルドは語りかけるように呟いた。
「君は僕が守ってあげるよ」
瞬間、ルイズの頭をある言葉がよぎった。
『俺は、お前の使い魔なんだろ』
夢の中でだが、サイトが自分に言った言葉だ。…あいつは、私が結婚しても一緒にいてくれるのかな…?
「サイト…」
「ルイズ?」
話しかけられたルイズは目を見開き、眼前まで迫ったワルドの胸を押し止めた。
「ご、ごめんなさいワルド。わたしまだ………」
「どうやら君の心に誰かが住み始めているみたいだね」
あまり怒っているようなそぶりもなく、やれやれと言った感じでワルドはため息をついていた。ルイズは慌てて弁解しようとする。
「ち、違うの!?そうじゃなくて!サイトは何にも知らずに異世界から来たから、わたしが呼び出してしまったからちゃんと帰す責任があるから…その…!」
その様子に、ワルドは身を起こすとやんわりとした表情で話し始めた。
「いや、僕の方も事を急ぎすぎたようだ。構わないよ、今すぐ返事をくれとは言わない。すまなかったね」
ルイズに詫びの言葉を述べると、取っていた帽子を被る。
「でも、この旅が終わる頃には君の心は僕に傾いているはずだしね」
と、その時船の船体が揺れた。地上に降りたのだろうか。ということは、もうアルビオンに到着したと言うことか?しかし、ルイズは奇妙に思う。アルビオン大陸へ着くには、まだ早い気がする。今日の夜は双月が重なる。その時間はアルビオン大陸がハルケギニア本土に最も近付く時間だ。予定だと半日は空の上、もし昨日の夜のうちに出発していたら、翌日の太陽が昇ってから数時間後、次の日の昼だ。けど、今日は朝のうちに出発したから、ちょうど夜に差し掛かる時間帯のはず。
何かおかしい、この日はアルビオン大陸がたまたま最接近したからなのだろうか。この奇妙な感覚は、ワルドも感じ取ったのか、部屋の扉の前に立つとルイズの方へ振り返って言った。
「ルイズ、君はここに残ってくれ。僕が外を見てくる。こんなに早くアルビオン大陸につくなんて…あまり思えなくてね」
「いいえ、私も…」
「だめだ。ここに残るんだ」
強く、念押しながらワルドはルイズに言った。かなり強く言ってきたワルドに、プレッシャーを感じたルイズは何も言えなくなった。ワルドが部屋を後にして、部屋の扉が閉ざされる。
確かに、今の自分には姫様からウェールズ皇太子宛に託された手紙を守ると言う使命がある。だから自分が命の危機にさらされることは避けなくてはならない。これまで何度も、自分が無謀な行動をとるたびにサイトからいさめられた。でも…だからこそもどかしかった。ここでじっとしていることが。やっぱり、こそっと行こう。ルイズは忍び足で部屋の扉に近づく。ゆっくりと、誰にも見つからないように部屋を出た。
その頃、桟橋に停まった船の甲板の上では船員たちが騒いでいた。
「おかしい、予定より早いが我らはアルビオン大陸に到着したはずだ」
操舵室から現れた船長も、予定よりずっと早くアルビオンに到着したと言うことに奇妙なものを覚えた。いや、この時ある疑いを船員たちは抱いていた。
――ここは本当にアルビオンなのか、と。
この大陸に立ち込める、怪しく不気味な雰囲気に違和感を覚えていたのだ。それになにより、到着先であるはずのアルビオンの港町『ロサイス』の姿が、どこにもないという話だった。桟橋のすぐ近くに、確かに港があるはずだったが、街の姿は影も形もなかった。あるのは、生い茂るだけの草木の群れだけ。
ハルケギニア人であるキュルケ・タバサ・ギーシュはもちろんだが、サイトもこの大陸に漂う雰囲気に違和感を覚えた。
「なんか…この大陸、静かすぎるんじゃない?」
キュルケが辺りの林を見まわしながら言った。街がないからそれは当然かもしれない。でも、とにかく『静かすぎる』と言う言葉を使わずにはいられないほど、この大陸は静かすぎた。
「小鳥たちの鳴き声も聞こえない」
タバサも周囲を見渡しながらそう言った。街と言うものには、目移りすれば街の建物の屋根の上に降りて羽休めする鳥たちを腐るほど見受けることだってあるだろう。だが、今彼らのいるこの場所には小鳥たちの気配さえもなかったのだ。
ただ、静寂さばかりが漂う林の生い茂る島。一体どうなっているのだろうか。すると、サイトたちの元にワルド子爵がやってきた。
「ワルドさん、ルイズは?」
「ルイズなら船室に置いてきた。彼女を危険な目に合わせるわけにはいかないからね」
サイトからの問いに、ワルドはそう答えた。確かに、彼女にはアンリエッタ姫から預かった手紙を守り、ウェールズへ送り届けると言う使命がある。彼女を守るための使い魔であるサイトとしても、この案には同意をさせられる。
「しかしどうもここは、アルビオンとは思えないな」
周囲を、目を凝らしながら眺めるワルド。今自分たちが立っている場所の怪しい空気を肌で感じ取っていた。
「アルビオンじゃない?では、ここは一体どこなんです?」
目に恐怖を浮かばせながらギーシュは尋ねるが、ワルドとしてもこの場所がどこだなんて答えられるはずもない。
「でも、アルビオン以外に浮遊大陸があったなんて話聞いたことないわよ」
今キュルケが言った通り、現在ハルケギニアにて確認されている浮遊大陸は、アルビオン大陸ただ一つだけだ。だが、到着予定の港町ロサイスは影も形もない。違う場所に停泊したのかと考えもしたが、それも否定されるだろう。港町以外で、桟橋の設置された町なんかないのだから。
森と草木でだけしかなく、街明かりはおろか、人がどこかで騒いでる感じもしない。
「近くに街がないか、数人ほどの船員たちが近くを散策し始めているが、非戦闘員だ。危険には対応しきれないだろう。サイト君、僕と一緒に周囲の偵察に行こう」
「はい」
「子爵、僕たちは何をすれば?」
何も言われていないことに、ギーシュはどうすればいいのかをワルドに問う。
「君たちは残って船員たちを見ていてくれ」
「ええ~?あたしはダーリンと一緒にいたいのに~…」
サイトたちに…正確にはサイトと一緒に行けないことに不満を覚えたキュルケがぶーたれた。タバサは表情に相変わらず変化がないが、特に文句はないようだ。
「子爵は僕よりサイトを頼るのか…」
ギーシュはワルドに頼られるサイトを羨ましく思う。彼は自分を上回る実力者だからとはいえ、貴族より平民を頼ると言った観点からすれば少々複雑だった。
「仕方ないでしょ。ダーリンはあたしを燃え上がらせる情熱の持ち主なんだから。精神的にも肉体的にもあなたよりもずっと頼れるわよ?」
「雲泥の差」
「ちょっとは僕を擁護したまえ!!」
全くフォローを入れてこない二人にギーシュは涙目になる。
「サイトーーーー!!…って、あら?」
その時船からルイズが降りてきた。
「ルイズ、部屋から出るなと言ったはずだが?」
ワルドが言うことを無視したルイズに言ってきた。
「ごめんなさい。任務が大切なのはわかってるつもり。だけど…どうしてもじっとしていられなくて…」
「そんなにダーリンが心配なの?」
「へ?」
いたずら心が見え隠れする笑みを見せてキュルケがルイズに言うと、サイトは目を丸くする。彼女はそっぽを向いてそれを否定した。
「べ、別にそんなんじゃないわよ!」
「ダーリンなら大丈夫よ。見た目以上にしぶといし、子爵もついていくんだから」
それは確かにそうだが、ルイズは自分でも不思議に思う。心配になるなら自分にはもったいない婚約者、あの素敵で強いワルドの方じゃないのか。なのに、どうしてこんなにサイトが気になってきたのだ。訳が分からない…。
「内乱に乗じて空賊の活動も活発化しているだろうからね。ここで船を守るのも僕らの義務「ああああああああ!!」っ!?」
森の奥から悲鳴が聞こえてきた。それも断末魔に近い甲高い声。サイトたち全員がそちらの方へ注目した、森の奥からすでに森に入っていた船員たちが戻ってきたのだ。それも恐怖に慌てふためいていた。とても正常とは言えない状態で。中には、重い病を発病したように苦しみ倒れる者まで多数いた。
真っ先にサイトが彼らに駆け寄り、倒れた船員の一人を抱き起した。
「どうしたんですか!?」
「ば…化け物が……蜘蛛みたいなの…と…」
恐怖に慄き震えているその船員はそこまで言い残した後、意識を手放してぐったりした。
「しっかりしてください!」
「この人、一体どうしたの?」
ルイズたちも駆け寄ってその男の顔色をうかがう。ひどく青ざめていて、しかも口から血が流れている。森の中で、何かが起こったに違いない。
「毒に侵されてる…水魔法をかけてみる」
タバサが身をかがめて、その男に水の治療魔法をかけた。しかし、男の症状は改善したとは言えず、青ざめきったままだった。
「…治療薬が要る」
「タバサの魔法じゃ、治らないの?」
トライアングルクラスの力を持つタバサなら傷等を癒す力も高い。キュルケがタバサに尋ねると、彼女は首を横に振った。
「私も知らない…『毒』」
いつも無表情で考えの読み辛いタバサだが、この時は妙に『毒』と言う単語を強調し、重苦しい表情を浮かべていた。この人を自分の力で助けられないことを悔やんでいるのだろうと、サイトたちは思った。
「とにかく、僕らでこの者たちを船に運ぼう。ただ、サイト君。あまり毒に侵された人に触らない方がいい。君も感染するかもしれない」
「す、すいません…」
いきなり飛び出したサイトが迂闊すぎることを指摘していた。それを悟ったサイトは申し訳なくワルドに頭を下げた。
「いいさ、他人が苦しむのを黙って見過ごせないその正義感は、今の時代の貴族に最も必要なことだと思う。寧ろ見習わせないくらいだ」
サイトの背中を軽く叩き、元気づけようとするワルド。サイトは彼をいい人だと思う反面、男として悔しく感じた。ルイズはやっぱりこの男と結ばれた方がきっと幸せなんだろう。異世界人の俺が、深く関わっていい相手じゃないんだ。より一層思い込んだ。
「ギーシュ君、ゴーレムで彼らを運ぶんだ」
「は、はい!僕でお役にたてるなら!」
あの栄誉ある魔法衛士隊グリフォン隊隊長が僕を頼ってくださるなんて!ワルドに頼られたことで、ギーシュは気持ちが舞い上がった。
「ギイィイイイ!!」
その時だった。突如茂みの奥から長い触手のようなものが飛び出し、サイトたちを襲った。
「きゃ!」
「「ルイズ!」」
その拍子にルイズの足に触手が巻きつき、足を取られて転んだ彼女を引きずり込もうとした。サイトはデルフを、ワルドはレイピア状の杖を引き抜き、自分たちにも迫るその触手を叩き落とした。サイトが間一髪、ルイズを引きずり込もうとした触手を切り落としたことでルイズは無事、ワルドによって回収された。
「大丈夫か、ルイズ!?怪我は?」
「え、ええ…」
危機的状況からの脱却のためとはいえ、いきなりワルドに抱き上げられたことに恥ずかしさと戸惑いを覚えながらも、ルイズは頷いた。サイトはちょっとムッとした表情を浮かべたものの、今はそれよりも注目すべき相手が茂みの中に居る。すぐに触手が伸びてきた方へ向き直り、
「相棒、気をつけな。俺っちは長い時間を生きてきたが、こいつははっきり言って見たことがねえぞ」
「そっか…それはそうかもな」
デルフは、自分たち以上の長いときを生きている。この錆だらけの骨董品同然の姿をしているなら不思議と納得がいきそうだ。もしかしたら単なる放置状態のせいだろうが。ともあれ長寿な彼さえ見たことがないという。しかしサイトは意外と驚かない。
なぜなら…サイトは見たことはなくても『知って』はいたからだ。たった今、彼らの前に姿を現した、ついさっき茂みから触手を伸ばしてルイズを引きずり込もうとしたその怪物……
『宇宙蜘蛛グモンガ』のことを。
「な、なに!?なんなの!?モンスター!?」
「なななななんだ!!?ここ、これは!?」
「二人とも落ち着け!隙を見せたらやられるだけだぞ!」
見たこともないモンスターの姿に激しく動揺しきるキュルケとギーシュに、ワルドが怒鳴った。さっきの船員たちは、間違いなくこいつに襲われたのだ。
「皆、背を低くして鼻と口を塞ぐんだ!」
驚く皆に、サイトがパーカーのフードをマスク代わりにして自分の口回りを塞いだ。ガスを吸ってしまったら、こいつに襲われた船員たちの二の舞になる。彼の思惑通り、グモンガは彼らに向けて鼻から毒ガスを噴出してきた。が、グモンガの攻撃手段が毒ガスとわかった以上恐れるものはなかった。ワルドがすでに風魔法の詠唱を完成、風を起こしてグモンガの毒ガスを押し返してしまった。
「ギィイウゥウゥ……!!」
ミツバチは自らの毒で死ぬ。それは怪獣にも通じる話だった。自分の毒ガスを押し返され、逆に自分が吸い込みすぎたグモンガは自らの毒でもだえ苦しみ始めた。
「さっきはやってくれたわね…フレイムボール!」
先ほどのお返しと言わんばかりに、キュルケが魔法で形成された炎の火球を数発、グモンガに放った。止めの攻撃を受け、グモンガは火だるまにされ、力尽きた。
「ぐ…げほ!」
「なんとかやっつけたか…」
呼吸をしばらく止めさせられる。これは呼吸しなければ生きていけない生物にとって苦痛。当然息を止めていたサイトたちはひどくせき込んだ。
「俺っち剣でよかったぜ。何せ呼吸しなくてもよかったからよ」
ワルドの風魔法で毒ガスが霧散したからよかったようなものの、皆が息苦しい思いをする中一人だけ鉄の塊であるのをいいことに楽をしていたデルフは安心しきった声を出す。
「こういうときは、悔しいけどあんたが羨ましいわね…」
そんなデルフを見てルイズは軽く睨み付ける。
「しかしサイト君、よく奴が毒を吐くと気付いたね?もしや、知っていたのか?」
「はい、こいつはグモンガ。俺の故郷に現れた怪物です。奴は鼻から毒ガスを吐いて獲物を襲うんです」
ワルドからの問いに、キュルケによって火だるまにされ焼け死んだグモンガの焼死体を見ながらサイトは頷いた。
「意外に物知り」
「以外は余計だぞ、タバサ」
褒められてるようで馬鹿にもされているような気がしたサイトは、タバサのさりげない一言にちょっぴり不快感を覚える。しかし、彼はここで一つ何かもう一つ大事なことがあったことに気が付く。
「まてよ…確かグモンガがいる場所って…」
だが、その大事な何かがなんなのか、まだよく思い出しきれなかった。
「ま、まだ何かあるのかい!?ぼ、僕はもうここから早く抜け出したいんだが…」
サイトの思わせぶりでは収まらない様子に、またすぐそばに危険な存在がいるのかと思ったギーシュはまたもおびえ始める。
―――――キィーーーーーーーーーン
「ぐ!!?」「きゃあ!!なん…何この…音…?」
その時、頭を叩き割るような怪音波がサイトたちを襲った。耳や頭に激痛が走り、彼らは思わず耳を塞ぐ。その際キュルケやギーシュは、杖を手から落としてしまう。
「な、なんだあの…化け物は…?」
うっすらと目を開けたワルドは、その時視界に巨大な何かがこちらに迫っているのを見つけた。体中に発光体が張り付いた、異形の巨大な怪人だ。もしや、奴がこの音を発しているのか?
「宇宙人……そう、か…あいつが…!」
サイトはこの時確信した。アルビオン大陸以外の浮遊大陸が確認されていないにもかかわらず、アルビオンではない別の浮遊大陸が存在しているという矛盾の意味。それは、あの星人がこの大陸を作り出していたからなのだ。
かつて地球の空にもこの疑似的な大陸…いや、『疑似空間』を作り出し、ウルトラ警備隊を苦しめた『音波怪人ベル星人』の仕業だったのだ。
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