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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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婚約者-ワルド-part2/ゼロの憤り

「そ、それは親同士がお決めになったことじゃないですか!」
二人を見て、婚約の話を持ち上げられたルイズはものすごく慌てていた。
「おや、僕のことが嫌いになったのかな?」
「そ、そうは申しておりません!」
ふと、ワルドはサイトに視線を向けた。
「君たちは、ルイズの使い魔君だったね。名を聞こう」
「えっと…平賀才人っす…」
「ギーシュ・ド・グラモンと申します。ワルド子爵」
「ヒラガサイト…変わった名だね」
「よく言われます…」
やっぱ異世界だとそんなに風変わりに聞こえるのか…。ちょっとしたカルチャーショックである…いや、使い方合ってたかな?一方で、サイトの方が注目されたことにギーシュはちょっぴりサイトを妬ましく思った。
「なに、親から名づけてもらった名前だ!きっと良い意味が込められた名前だろう。その名前に恥じないことを君はすでにやってのけているのだからそんなに落ち込むことはない。
先日、学院長から聞いたぞ。現に君は、ルイズたちと共にあのフーケから破壊の杖を取り戻したそうじゃないか!」
すでにフーケ事件のことはこの男も知っていたようだ。笑いながらワルドは、気さくにもサイトの肩をパンパン叩いて彼を励ましてきた。嬉しい反面、どこかサイトは悔しくなった。
(くしょ~…しかもこいつ見た目通りのいい奴じゃねえか~…)
ギーシュが美少年なのは確かだ。でも馬鹿でキザ。モグラを溺愛してるわ自分から薔薇を着飾ってカッコつけるあたり趣味も悪い。マニア受けするタイプに違いない。
でもこいつはギーシュとは大きく違う。目つきは鷹のようで、髭の形も整っていて、年を重ねても男らしいフェロモンを漂わせている映画俳優のようだ。怪獣や異星人という強大な存在を知っていること、自分がギーシュを圧倒しただけに、メイジはギーシュのようにひょろひょろで弱っちそう…なんて考えていたが、このワルドの場合だと秒殺されそうだ。全面的に男として勝てそうにない。元々モテなかったとはいえ、サイトはすごく落ち込んだ。
いや、もう一人イケてる顔の奴がいたのを思い出した。自分と同じウルトラマンの力を持った彼、シュウのことだ。あいつも自分やギーシュと年齢は変わってないように見えるが、あいつはその割にワルドに近いものを改めて感じた。
クールでストイックなイケメンウルトラマン。
…勝てねえよ。サイトは自分の周囲から、男として圧倒されているという事実に落ち込んだ。暗闇の中で四つん這いになって這いつくばる自分がスポットライトに照らされる姿が脳裏に浮かんだ。
「あの、ワルド様…そろそろ出発いたしませんか?」
あまりここで時間を食うわけにもいかないので、ルイズがワルドに出発を促した。
「おっと、そうだったね。さ、ルイズ。おいで」
「は、はい!」
ルイズはワルドに手を引っ張られ、ワルドの乗るグリフォンにまたがる。必然的にワルドの腕の中に抱かれる形になるものだから、ルイズは余計に恥ずかしくなった。出発を始めてからも、サイトはどこか心中穏やかではいられなかった。



「彼らにどうか祝福を…始祖ブリミル」
学院長室にて、窓から出発する四人を見届けたアンリエッタは彼らの無事を祈りながら見送っていた。振り返ると、ソファに添わるオスマンが落ち着いた様子でパイプをふかしていた。
「見送らないのですか?オールド・オスマン」
「ふぉっふぉ。見ての通りですじゃ」
あまりの落ち着きように、アンリエッタはため息を漏らした。
すると、学院長室へ飛び込むようにコルベールが入室した。
「いいいい一大事ですぞ学院長!」
「そんなに慌ててどうしたのじゃ。姫殿下の御前じゃぞ、ツルベール君」
「コルベールです学院長!い、いえ…それよりも!」
「落ち着いてください、ミスタ・コルベール。一体何があったのですか?」
あまりにも落ち着かない様子のコルベールに、アンリエッタが落ち着くように言葉をかける。
「も、もうしわけありません、姫殿下…。では…」
落ち着きを取り戻してこほんっと咳払いをすると、コルベールは学院に来たと言う使い物のからの知らせを伝えた。
「そ、それが…チェルノボーグの監獄から、収容されていた囚人が全員脱獄したとのことです!」
「そんな!あの牢獄が…」
「信じられないのはごもっともです姫殿下。門番の話ではさる貴族を名乗る怪しい人物に風の魔法で気絶させられたとのことです。しかもそれだけじゃありません…。その夜、チェルノボーグに謎の巨大な影が現れ、看守たちに壊滅的被害を与えたとの事!」
コルベールの報告を聞き、アンリエッタの顔がさらに蒼白になる。
「も、もしや…」
昨日、ルイズのアルビオン軍が怪獣を使役していると言う話をルイズにしたことをアンリエッタは思い出した。謎のメイジが現れ、囚人たちが怪獣の出現に紛れて脱獄。怪獣の出現については、これは考えてみると謎のメイジに都合がよすぎる。つまり…。
「そうです!城下に裏切者が、もしくはアルビオンの手の者がすでにトリステインに及んでいるということです!」
「!」
想像したくもなかった事実を聞いて、アンリエッタは思わず口元を覆い隠した。すでに、あの憎きアルビオンの…それも間違いなく貴族派の手の者がすでに徘徊していたという事実。衝撃を受けずにはいられないというのに、オスマンはどういうことか落ち着いた態度をとったままだった。というか、くつろぎ具合が全く持って抜けていない。彼の態度にアンリエッタは、遂に耐えきれなくなり、オスマンに怒鳴る。
「オールド・オスマン!先ほどからなぜそのような態度をとるのですか!このトリステインに危機が再び訪れようとしていると言うのに!!」
「まあまあ、落ち着きなされ。姫殿下」
オスマンは興奮するアンリエッタをたしなめると、先ほどとは打って変わって真剣な眼差しを姫に向けた。
「既に杖は振られたのですぞ。我々にできるのは待つだけ…違いますかな?」
「そ、それは確かにそうですが…」
何一つ心配に思わないのかこのご老人は。アンリエッタは疑惑の視線をオスマンに向け続ける。しかし、次にオスマンは落ち着いた笑みを向けて、サイトたちが校門をくぐって学院から去っていく光景を映し出した窓の外を眺めた。
「彼なら、どんな困難さえも打ち破る…無限の可能性を持っておるような気がしましてな」
「彼?グラモン元帥のご子息のことですか?それとも子爵のことですか?」
二人の名前を挙げたアンリエッタだが、オスマンは首を横に振る。彼…そういったから女の子であるルイズは除外される。つまり、残ったのはただ一人だけだ。
「まさか、ルイズの使い魔の少年…ミスタ・サイトのことですか!?彼はただの平民だと言う話ではありませんか!」
アンリエッタもまた、この世界の平民が魔法を操るメイジに勝てる見込みなどないと思っていた。しかし、オスマンはほほっと笑って見せた。
「先ほど、申し上げましたな?彼には無限の可能性があると」
「え、ええ…」
無限の可能性。聞くとどうも大げさな言い方に聞こえる。サイト本人も謙遜するだろう。しかしオスマンは、フーケ事件の時以来サイトのことについて強くそれを感じるようになっていた。
「ええ。姫殿下もご存じでしょう。わしらのために戦い、守ってくれた巨人…ウルトラマンのことを。彼、サイト君はウルトラマンと深い縁のある世界からこのハルケギニアに召喚されたのです」
ウルトラマンと、縁のある世界!?それを聞いてアンリエッタは目を見開く。
『俺は、地球と言う星からルイズに召喚された…いわゆる異星人です』
…あの少年は昨日ルイズと自分が会話した時、自分がそうだと話してくれた。宇宙へ進出した地球と違い、違う世界の存在を考えたこともないハルケギニア人であるアンリエッタは、自分が異星人と名乗ったサイトの言葉を理解できずにいた。しかし、あのオスマンがいかに老人と言えど、その分かなり聡明だ。こんな突拍子もない話を真実として受け止めている。
「もしや…彼が、噂のウルトラマンゼロと?」
憶測ながらも見事に事実を突いて見せたアンリエッタだが、残念ながらその確証と言える証拠がないし、そもそもあてずっぽうじみた話であるため、それに誰もサイトがウルトラマンゼロと同化している身であることを知らないので、オスマンはいやいや、とアンリエッタに言う。
「そうまでは申しておりません。ただ、彼の存在なくして、ウルトラマンの存在はこの世界の人間には受け入れられることはなかったでしょうな。
この魔法学院が謎の円盤に襲われたあの日、彼はウルトラマンが初めてその姿を見せるまで、平民のメイドに嫌がらせをする生徒との決闘を受けて見事打ち勝ったり、円盤の攻撃で逃げ遅れた者たちの誘導を率先してくれたりと、奮闘してくれました。きっと、ウルトラマンに救われた時の責任を強く受け止めたうえで、あのような勇敢な行動をとったのだとわしは思います。
彼の目を見る度、まさに彼こそ真に『ウルトラマン』と名乗るに相応しい心を持っていると、我々貴族が本来持たなくてはならない大切なものを持っていると、この老いぼれは確信しておるのです」
「…」
ウルトラマンと深い縁のある世界からルイズの魔法によって召喚された少年、平賀才人。アンリエッタは昨日のサイトとの会話を思い出す。
『俺、行かなくちゃならない理由があるんです』
『俺の星、地球はこの世界と同様、怪獣や侵略目的で侵攻してきた宇宙人たちの脅威に晒され続けてきたんです。その度に、ウルトラマンが俺たちを助けてくれました。
もしかしたら、この星にも怪獣だけじゃなく星人の脅威がこの先迫ることになるかもしれない、もしかしたらすでにこの世界に及び始めているかもしれない。
俺は、それを確かめたいんです。この星も地球と同じ危機に陥ってるなら、それを何とかしたいんです!』
あんなにまっすぐ、他人のために強い使命を請け負うことのできる人間は、貴族の腐敗が目立ち始める今の時代において珍しく、そしてとても眩しい。
「ならば祈りましょう。異世界から吹く風に」
もう窓の外から見える景色にルイズたちの姿はなかった。もうここから見えないくらい遠くへ旅立ったのだろう。
アンリエッタは微笑みながら、アルビオンへの旅路をゆくルイズたちの無事の帰還を祈った。



魔法学院を出発して以来、一行はほとんど休まずに走っていた。ワルドはルイズを膝の上に乗せ、今はグリフォンの背に乗って空を飛んでいる。
「ちょっとペースが速くないかしら?」
ルイズはワルドに言う。
「ラ・ロシェールの街まで休まずに行きたいんだが」
「無理よ!馬で二日はかかるのよ」
ルイズは地上を馬に乗って走り続けるサイトとギーシュの二人を見下ろす。出発してからかなりの超時間が経過している。表情を見る限り、疲れ切っているのが見え見えだ。特にギーシュの方が酷い疲労感を訴えている様子だ。
「やっぱり、へばってきてる。特にギーシュがひどいわね」
まるで砂漠のど真ん中を水の一滴も無しの状態で歩いているようにも見えるその疲れた表情。これは無視するには不憫すぎる。
「着いて来られないなら置いていけばいいさ」
その言葉に僅かに不機嫌になるルイズ。
「そんな、彼らは仲間なのよ。それに、使い魔を置いて行くのはメイジのすることじゃないわ」
これをその仲間たちが聞いていたら耳を疑っていたかもしれない。あのツンツンなルイズが素直に仲間を仲間と呼び、心配する言葉をかけることなどほとんどなかったからだ。
その様子にワルドは、地上を走る二人を見下ろす。
「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかが君の恋人かい?」
「ななななな、何言ってるの!?恋人なんかじゃないわよ!」
慌てて否定するルイズに、ワルドはおどけた調子で続けた。
「それは良かった!婚約者に恋人がいたらショックで死んでしまうからね!!」
「お、親同士が勝手に決めたことじゃない」
「おやおや、僕の小さなルイズ。そんなこと言わないでおくれ。僕のことが嫌いになったのかな」
言葉に反して、おどけた調子のワルド。しかし、ルイズは今の言葉を受け、すねた顔をした。
「もう小さくないわ。失礼ね!それに、…嫌いだなんて…」
「よかった!それじゃ僕の事が好きなんだね!」
「えっ!?そ、そそ…それは…」
いくらなんでもその考えは強引すぎやしないだろうか。ワルドは慌てふためくルイズの頭を撫でながら遠くを見つめる。
「ルイズ。父がランスの戦で戦死し後を継いだ後、家の事は執事にまかせ、僕は魔法衛士隊に入った。そこで僕は必死に頑張ったよ。頑張って出世し、立派な貴族になって君を迎えに行くという目的があったからね」
そう言いながら、ワルドは真剣な眼差しをルイズへと向けた。
「そんな…だってあなたモテるでしょ?」
だったらこんなちっぽけな婚約者に構うことなどなかったのではないか?
その視線に当てられたルイズは、自分がワルドをどう思っているのか考えた。
親に叱られたとか、そんな嫌なことがあった時、自分は決まって屋敷の中庭にある広大な池に浮かぶ小舟に乗って、一人で泣いていることが多かった。そんな時は決まってワルドが迎えに来てくれたものだ。年上で優しい、憧れの人。それが幼き日に抱いたワルドへの印象だった。
親同士の計らいでワルドが自分の婚約者になったと聞いた時は、幼さゆえにその意味が良く理解していなかった。ただ憧れの人とずっと一緒にいられるんだと、そんな風に嬉しく思っていた。しかし、なぜか自分は迷いを感じている。今はどうなのか、どうしたらいいのか、よく分からない。
「旅はいい機会だ。一緒に旅を続けていれば、きっとあの時のように懐かしい気持ちになるはずだよ」
ふっと笑って見せたワルドの視線に、ルイズは耐えきれず目を背けてしまう。ふと、地上で走っているサイトの姿が目に映った。ギーシュと比べると元気がある方だ。その点については特別に及第点を上げてもいいだろうと思った。しかし、表情に不機嫌さが垣間見える。どうしてだろう。
もしかして…自分とワルドがこうしていることに嫉妬でもしてくれている…いやいやいや!!ルイズは首を横に振った。なんであんな犬なんかのことを!!あくまであいつは使い魔じゃない!べ、別にそれだけでなんとも思っていないんだから!え?惚れ薬の時はべったりだったくせにって?あれは薬のせいなんだからし、仕方なくよ!別にそんなんじゃないんだからね!!
「ルイズ、さっきから百面相しているようだが、体調でも悪いのかい?」
「!」
頭の中でサイトのことで色々と考え込んでいたことが顔に出ていたところをワルドに見られたらしく、ルイズは余計に顔を真っ赤にした。



「まったく…君は疲れこそ見えているが…子爵といい君といい…体力馬鹿なのかな?」
ギーシュは頭上を飛ぶグリフォンと、自分と同じように隣を馬で走るを見上げながらぼんやり呟いた。自分がこれだけ疲れているのに、サイトは確かに疲労自体はしているが、ギーシュと比べると元気がある。これはおそらく、サイトとゼロが一体化している影響によるものだろう。
『へ、当然だろギーシュ。お前みたいに糸のように細くてヒョロヒョロの運動力皆無ボディと、5000年以上鍛えぬかられた俺の体を一緒にすんじゃねえよ』
サイトの中でゼロが、ばてばてのギーシュを鼻で笑う。…そもそも戦闘に関して突飛している種族のゼロがギーシュに勝つなんて当たり前の話。そのあたり大人げないゼロだった。しかし、サイトはギーシュの話もゼロのふざけ半分の声を無視していた。ルイズに婚約者がいると言う事実に、奇妙なもやもやが心の中でかかっていた。それを見かねたギーシュが、となりでぷぷっと笑い出した。
「もしや君、やきもちを妬いているのかな?」
「…」
「ご主人様に叶わぬ恋を抱くなど君も哀れだね。かわいそうに………身分違いな恋など不幸の元だよ。残念ながら…サイト?」
悟ったように口を開いて言って見せたのだが、サイトは全く返答してこなかった。
「ああ、すまないすまない。軽くからかったつもりだが、どうも度が過ぎてしまったようだね」
ギーシュは、サイトがあまりにも不愉快なことを言われてから自分を徹底的に無視したのだと思った。目立ちたがり屋であるために、かまってちゃんな性格のギーシュだ。話し相手が男子だろうと女子だろうと、こうして無視されるとたまったものじゃない。
「あ!あの二人キスしてるぞ!!」
「………」
ワルドたちの方を指さしてサイトが聞いたら悔しくなるような虚言を吐いてみた。その一言にピクッと肩を震わせたが、無言のままのサイト。実際は全部丸聞こえだった。俺がルイズを好きだって?んなわけあるかっての。
「相棒、そこのキザな坊ちゃんが寂しそうにしてんぜ。ワザとでもいいからなんか反応しとけよ?」
デルフも、期待通りの反応をサイトが示してこないから涙目になっているギーシュを不憫に思ったのか、声をかけてみたが無視された。何も言わずにいたのは、モンモランシーがいるくせに浮気ばかりやらかすギーシュと一緒にされたくなかったからである。
ルイズに婚約者…か。まあ、冷静に考えてみれば当たり前か。俺みたいなモグラ君なんかをあのはねっかえりが好きになるわけないし、あいつの実家はかなり偉いくらいの貴族だそうじゃないか。平民で使い魔で、異世界人の俺なんかとじゃ釣り合う相手じゃない。
って…なんで俺、ルイズのことをこんなに考えているんだ。いや…違う。
いずれ自分は地球へ帰らなくてはいけないんだ。ルイズに変な情愛を抱くなんて、いや、この世界の誰かと恋人になるとか…許されない。
だからルイズに婚約者がいるっていうことは、喜んでもいいはずだ。結構頼れそうな人で性格も決して悪くないワルド。この人なら自分がいなくてもルイズを守ってくれるだろう。
…考えると、この世界で知り合いを作ることさえ許されないようにしか思えなくなる。それは、あまりにも寂しくて、どこか悲しく感じた。
『なあ、ゼロ』
ふと、自分の中のゼロにサイトは話しかけた。
『あん?どうしたんだ』
『今まで地球を守ってきたウルトラマンたちって、地球を離れたときってどんな思いをしてきたんだろうな…』
これまでのウルトラマンたちは、きっと地球に強い愛着を抱いていたと思う。そうでもなければ、何十年間もの間、代替わりと言っても地球を守ってきてくれるわけがない。しかし、愛着が沸いたからこそ、地球から離れることがあった時は辛かったと思う。
『…俺が知るかよ。俺は光の国以外で長期間留まったことはないからな』
そっか…とサイトは呟くと、自然と上空を飛ぶグリフォンに乗る、ワルドとルイズの二人を見た。なんか、気に入らない。でも、どうしてか気にもなる。二人が何を話しているのか。
「僕は君を守るために、ずっと努力しここまで上り詰めた。無論もっと先へ行くつもりだよ。でもね、魔法衛士隊のグリフォン隊隊長に上り詰め続けた今日まで、僕は何度も見てきた。今の時代の貴族たちは腐敗し始めている。最近我々人間の前に現れ怪物を撃退した巨人…ウルトラマンが現れてから貴族の多くは『ウルトラマンに何もかもを任せてしまえ』と言っている者がいた。怪獣によって競争相手が減ったことをいいことに、貴族たちの多くはその権力と財産を盾に、以前より一層横暴さを極め始めている」
ゼロと一体化したおかげか、サイトは聴力も格段によくなっていた。盗み聞きはよくないとは思うが、おかげで会話するルイズとワルドの声が聞こえてくる。
「そんな混乱を招くウルトラマンのような、この世界において異端な存在に人間の運命をゆだねるべきかと思うと、僕はそうは思えない。というより、いてはならないと考えている」
『…!!』
今のワルドの言い分を、ゼロは聞き逃さなかった。今、こいつ何を言いやがった。
俺たちが…ウルトラマンが、要らない…いてはならないだと?
「ワルド、確かに私もウルトラマンにすべてをゆだねることは、貴族として恥を知るべきことだとは思うわ。でも、だからってそんな言い方までしなくても…」
流石に言い過ぎではないか?ワルドが何を言いたいのかわからなくもないが、自分たちはウルトラマンに大きな借りがあると言うことでもある。それをちゃんと返すのが自分たちの成すべきことの一つでもある。だから、何も邪魔者扱いまですることはないのではとルイズは思っていた。
「ウルトラマンの存在がなぜ、いてはならないのか。そう言った理由はある。
一つは、貴族をより調子づかせてしまうということだ。
人間の危機を察して、怪獣の魔の手から人々を救ったウルトラマン。まさに物語の英雄が実在のものとなった存在としても見られる。だが、中にはこんなことを考えた貴族がいたんだ。『ウルトラマンとは、我々のような選ばれし高潔な貴族のために始祖が遣わした存在だ』とね。これを言ったのは、裏で平民への重税を課して私腹を肥やしている評判最悪の貴族の意見だ。悪いことに、彼は戦争でもトリステインのためにウルトラマンは力を貸してくれるだろうと言う妄言まで吐いている」
「なんて都合のよすぎる解釈なのかしら…根拠がなさすぎるし、怠け具合がまるわかりじゃない」
ワルドが言っていたその評判最悪な貴族の話に、ルイズは不快感を覚える。
「二つ目に、平民たちからもよくない意味で英雄視されていることだ。先ほど話したような貴族が増える一方で、それに呼応して悪評のある貴族へ反感を抱く平民たちも増えている。彼らはウルトラマンを『この世界を変える救世主』と見ている。聞こえ自体はいいんだ。でも、それは同時に、平民たちは政を取り仕切る私たちを頼らなくなってしまう。しつこく言うが、今は悪評のある貴族が増えている。そんな中で、まともに政をやらず自分たちの事ばかりを考える貴族と、人間のために己が身が傷つくのを恐れず恐ろしい怪物と戦う勇敢な戦士、ウルトラマン。はたして皆はどちらを頼るだろうか?」
ルイズは答えなかった。いや、答えるまでもなかった。自分を敢えて平民側の立場に立たせて考えてみれば、どっちを選ぶかなんて決まっている。
「間違いなくウルトラマンを選ぶだろう。そうなれば、『だらしのない貴族なんか必要ない。ウルトラマンさえいれば俺たちは安泰だ』と考える者が一層、身分に関係なく現れるに違いない。それは同時に、私たち人類をウルトラマンになんでも任せてばかりの惰弱な存在に退化させてしまう可能性が大きい。
だから僕はね、指先一つで国を動かすことも、魔法でウルトラマンさえも凌駕することさえもできるような、立派な貴族になる。そしてトリステインを、そしてハルケギニアを改革したいんだ。そうすればこの国は、もう何者からの脅威におびえることはない」
『あの野郎!!!』
ゼロはワルドの言い分に凄まじく腹を立てていた。自分たちウルトラマンを目の上のたんこぶ並に見るような言い方をしてくれているのだ。自分たちだけじゃ、怪獣相手に何もできなかったくせに!!俺が戦わなかったら、とっくにこの国はディノゾールやクール星人のような奴らに滅ぼされていたに違いないくせに!!
『怪獣の一匹も倒せやしねえ奴が、国を指先一つで動かすだ?魔法で俺たちを凌駕するだ?は!!笑わせんじゃねえよこの髭!!そもそも俺は別に、権力豚な貴族共の救世主になりたかったわけじゃねえってのに、勝手なことぬかしやがって!』
『ゼロ、落ち着けって!』
『これが落ち着いていられっかよ!!お前も聞いただろ!俺たちウルトラマンの存在を否定しやがったんだぞ!!怪獣相手に何もできなかった分際で偉そうに!!』
頭の中でギャーギャーうるさいのもあったし、怒って騒ぎまくるゼロを、サイトは一言言ってなだめる。確かにワルドの言い分は全部間違ってない。ワルドの言っていた貴族たちの勝手な言い分、何から何までウルトラマン頼りにすることは決して許されることではない。最悪ウルトラマンをただの道具程度にしか見ていないともとれるからだ。でも、だからってワルドのウルトラマンは邪魔者みたいな言い方にも納得がいかない。魔法は間違いなく、この世界の人間が怪獣と立ち向かうのに必要な力なのは確かだが、ゼロの言う通り、この世界の人間はまだ怪獣に刃向えるだけの力や連携は確認されていない。
『ワルド…もしこの旅で怪獣が出てきたら、その節穴同然の目をこじ開けて見ていやがれ。俺とてめえの間には天と地以上の差があるって事実を教えてやる!』
でも、ウルトラマンさえも凌駕する。そんな高すぎる目標を自身持って言ってのけるあたり、ワルドはそれだけの実力と自信を持つ男なのだろう。それに引き換え、俺は…。ゼロの力を借りないと怪獣と戦うことができない、…ギーシュの使い魔じゃないが、男として特にこれといった取り柄もないモグラ君だ。サイトは、内心卑屈になっていった。


ちなみにその間、ギーシュは今日の目的地であるラ・ロシェールの街の解説をサイトにしてあげた。スクウェアクラスのメイジが街の岩を掘り返し、その掘った場所に石造りの建物を建てたとか、なぜ山の中なのにラ・ロシェールは港町なのか?それはアルビオンは空を飛ぶ大陸で、アルビオンへ行くには風の魔法の効力を持つ石『風石』の力で動く船で行くからさ!と力説してみるが、結局サイトは、ラ・ロシェールに着くまでは無言のままだった…と言うより、怒るゼロを頭の中で必死に鎮めるのに集中していた。

結果的に無視されたギーシュは、泣いた。
「どうせ僕なんて…」
 
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