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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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才人-ジ・アース-part2/異世界へ

「く!」
 サイトはハルナの手を掴んだまま、水中を泳ぐように入口の方へと移動し始める。だがこの部屋は無重力空間で、外はきっと重力の効いている場所だ。扉を開けたりしたら、一気に台風の暴風域に入ったように空気がどっと流れ込んでしまう。そうなったらここにいる人たちが壁にぶつかった衝撃で大怪我を負うか最悪命を落としてしまう。自分とハルナだってただでは済まされない。ここで待つしかないのか。手遅れになる前に、GUYSの人たちが来てくれることを祈るしかない。
「誰かいるか!」
 おお!噂すれば何とやら!サイトの心に希望の光が灯る。この声、テレビで聞き覚えがある。確かGUYSの隊長であるアイハラ・リュウという男の声だ。
「こっちです!助けてください!」
 サイトは外にいるであろうGUYSのクルーたちに向かってSOSを呼びかける。足音が聞こえてきた。次第に大きくなっている辺り、近づいてきているようだ。扉はガラス張りの扉のごとく透明なので、彼らが来たのはすぐにわかった。
「待っててください!今助けます!」
 扉のすぐ近くの壁に、この無重力室の操作盤がかけられているのを見つけたカナタが、内部で捕まっている人たちに呼びかけるように告げた。
 だが、その時フェニックスネストのオペレーターから通信がリュウたちの通信端末『メモリーディスプレイ』に入ってきた。
『隊長!謎の発光体が、それも巨大なものが、クール星人の宇宙船に近づいています!それもかなり高速で!』
「何!?」
 この状況でまた更なる危機が!あまりにもキツいダブルパンチにリュウは苦虫を噛み潰したような顔をする。
『急いで脱出してください!』
「わかってる!カナタ、全員連れて脱出するぞ!」
「はい!」
 カナタは操作盤を、トライガーショットを撃ちこんで破壊した。その影響で、無重力室はその効力を失いさらわれた人たちは床に落下する。落下の衝撃を予期し、サイトはハルナをお姫様抱っこし、自分は体を動かして床の方に何とか足を傾けさせていたおかげでけがはなかった。ハルナの顔がほんのり赤かったのは言うまでもない。
 扉を開けたリュウはすぐに浚われた人たちに向けて避難勧告を出した。
「もう安心してください!皆さんを必ず連れて帰ります!我々の指示に従ってください!」
 それからリュウたちは被害にあった人たちを守り脱出すべく奮闘した。途中でせっかくの標本を逃すまいと現れたクール星人だが、彼らは個体だと全然大したことのない異星人だった。歴戦の勇士であるリュウの敵ではなかったので、時間稼ぎにもならない。リュウと彼が手塩にかけて鍛えた隊員カナタのおかげもあって、被害者の人たちは宇宙船から脱出していった。




 謎の発光体の飛来は、宇宙船の操縦室にいるクール星人たちにも伝わっていた。
「船長!このエネルギー反応、おそらく『奴ら』です!」
 クール星人の一人の下っ端が、船長と呼ばれた同種族の個体に報告した。
「おのれ、また奴らが邪魔をしに来たか…!
すぐにこの船を出せ!地球から脱出するぞ!全滅を避けるため、小型円盤にもクルーと標本を移し、各自で脱出するのだ!急げ!」
 発光体の正体については彼らはすでに看破していたらしく、それも彼らにとってとても危険な存在らしい。船長の指示に従い、下っ端のクール星人たちは直ちに宇宙船の操作盤を動かし、地球からの脱出を図った。



 リュウたちの活躍で、浚われた人たちは次々と宇宙船から降りて行った。だが、結構な数の人たちが浚われたのだ。まだこの船に残っているかもしれない。まだリュウたちは宇宙船から降りていなかった。降りていなかったのは彼らだけじゃない。なんとサイトもリュウたちと同行していたのだ。
「平賀才人君、だったか。まさか被害者の身でありながら避難誘導を手伝ってくれるなんて助かったよ」
「いえ、俺はあなたたちに命を救われた身ですから、少しでも恩返しができて嬉しいです」
 宇宙船の入り口際にて、互いの活躍を検討し合っていたカナタとサイト。
「けど、無茶すんなよ。お前はあくまで一般人だからな」
「…はい」
 リュウの一言にすごい重みを感じたサイトは、ゆっくり頷いた。やはり隊長としての威厳を彼から感じたのか、「大丈夫ですから気にしないでください」の言葉も出そうで出なかった。
 ガタン!その時、クール星人の宇宙船が激しく揺れ始めた。
「まずい!こいつら逃げる気か!」
 クール星人の船長の指示通り、そしてリュウの予想通り、宇宙船は地球からの脱出のために再稼働し始めたのだ。しかも、他の星人たちを乗せた小型の円盤が次々と母艦であるこの宇宙船から排出され、直ちに逃げ出していく。
個の宇宙船も少しずつだが、地面から離れ始めていた。まだ地上とも距離が近い今のうちに行かなければ。
「平賀君、早く降りてきて!!」
 地上から先に避難させられたハルナの悲鳴に近い声が聞こえてきた。早く降りなければ。そう思ったサイトだったが、ここで彼の足を止めてしまうものが、彼の視界に映ってしまった。まだ避難を追えていなかったためか、小さな子供が一人宇宙船の廊下に突っ立っていたのだ。その原因はすぐにわかった。
 その子供の目の前に、白くて丸い鏡のような発光体が浮いているのだ。これはクール星人の罠なのか?
「あれが例の発光体か…?」
 そう思ったカナタだったが、すぐに違うものと、次に入ってきた通信でわかった。
『隊長、ハルザキ隊員!もうじき星人の宇宙船に向けて発光体が飛来します。このままでは衝突してしまいます!』
「発光体が飛来?」
 カナタは首を傾げる。今、オペレーターが話していた飛来している発光体、それはどう見て今クール星人の船内にあるあれではない。きっと何かしらの別物だ。
 一方でサイトは逃げ遅れた子供の元へ駆けつけた。
「君、何してるんだ!早く脱出するんだ!」
 脱出を呼びかけたサイトだったが、その時またクール星人の宇宙船が激しく揺れて、サイトは発光体に手を突っ込んでしまう。それだけだったらまだよかった。だが、この状況でもっと最悪なことがその時起こったのだ。
「な、なんだこれ…手が抜けない!!?」
 なんと、発光体に突っ込まれたサイトの左腕が抜けなくなってしまったのだ。
すると、同じように逃げ遅れた子供とサイトを助けに来たリュウが駆けつけてきた。子供を抱えたリュウはすぐサイトに呼びかける。
「お前も早く脱出しろ!」
 さっきから腕が抜けない。地面に埋まった大きな株を抜こうとするように、サイトは無理やりにでも自分の腕を引っこ抜こうとした。だがさっきからちっとも左腕は抜ける気配はない。それどころか、何かに引っ張られているように彼の腕はずぶずぶと引きずり込まれていった。
「アイハラ隊長!俺に構わずその子を連れて行ってください!」
「何言ってんだ!お前も…」
 お前も一緒に脱出しろと怒鳴り散らすリュウだったが、地上と宇宙船の距離がもう限界に達しようとしていた。それはサイトも時間の経過と勘によって既に察知していた。
「もう時間がありません!早く!高凪さんのこと、頼みます!!」
「…く!」
 もう限界だ。これ以上留まったら自分も、今自分が抱きかかえているこの子供もこの宇宙船から出られなくなってしまう。やむを得ず、リュウは子供を抱えたまま入口から地上へ飛び降りた。装備もなしに人が飛び降りるにはかなりの高さだ。飛び降りて地面に着地した時のリュウは足を痛めてしまった。
「っぐ…!」
「隊長!」
 すぐにカナタとハルナの二人が、リュウたちの元に駆け付けた。
「カナタ、俺よりもその子を…」
「…はい!」
 リュウから託された子供を抱え、カナタは解放された被害者たちの元へ子どもを連れて行った。
「あの、平賀君は…」
 ハルナは恐る恐るリュウに、サイトが今どうしてるのかを訪ねる。今のリュウにとって、その質問はまさに、自分を呪いたい気持ちを強めてしまう猛毒だった。地面の土を握り締めるリュウの姿は、痛々しかった。
 嫌な予感というものほどよく当たってしまう。ハルナは空を見上げると、彼方へ消えようとするクール星人の宇宙船と小型円盤の群れが見える。サイトは、まだあの宇宙船にただ一人取り残されていた。
「隊長さん!早く平賀君を助けて!まだ間に合うはずです!」
 悲鳴に近い声でハルナは声を上げた。このままではサイトが悪い星人たちのモルモットにされて殺されてしまう。そんなのはハルナにとって地獄の炎に焼かれること以上の苦痛だった。
「それは、無理だよ」
 そう答えたのはカナタだった。
「今あの宇宙船には謎の発光体が宇宙から接近している。もうすぐクール星人の宇宙船と衝突するはずだ。そうなったら誰も助けられないし、助けに行った人も二の舞になる」
 残酷な答えだった。カナタは遠回しに言っているのだ、もうサイトは助からないと。ハルナは絶望し、その場に膝をついて崩れ落ちた。ボロボロと、涙を流しながら。




 地上がどんどん小さくなっていく。もうこうなってしまった今、サイトは地上に戻ることなど不可能だった。飛び降りたところで死ぬのは目に見えているくらい、地上は遠すぎた。
「…」
 この変な丸い鏡のような発光体はなんなのだ。さっきから腕を引き抜こうとしても、全然腕が出てきてくれない。この発光体さえなかったら、こんな場所からさっさと抜け出せたのに!サイトはこの白い発光体が憎くなった。
と、その時だった。遠くからギラリと、一筋の青い光がサイトの目に映った。まだ今は昼の時刻だ。なのにあそこまで光るものなんて見たこともない。流れ星…とは言い難い。しかもその光は消えもせず、段々を大きくなっているように見えた。
「!」
 まさか、こっちに近づいてきているのか!
「何をしている!早くこいつを回収しろ!」
 何者かの奇怪な声が聞こえてきた。発光体の向こう側から聞こえたようだ。サイトはその方へ目を向けると、そこには数十体ものクール星人たちが集まっていたのだ。
こいつら、俺だけでも浚う気か!早くしなければ!たとえ地球に帰れない結末が待っていたとしてもこんなところで死ねるか!
 サイトは何度も、何度も発光体から腕を引っこ抜こうとするが、蚊のようにしつこく、発光体はサイトを離してくれなかった。
「まずい!もう発光体が!」
「あともうちょっとでせっかくの標本が手に入る所だったのに!」
「くそ!こうなったらあの小僧は捨てて脱出するぞ!」
 クール星人の一体がそう言った時、サイトは後ろを振り返る。

その時、彼は見た。

その青い光の中にいた、自分たちの方へ突進してきた、ゴーグル付きマスクに隠れた金色の瞳を光らせ鎧をまとった

蒼い巨人を。

青い光は、無情にも一直線にサイトやクール星人の主力が乗っていた宇宙船に直撃し、爆発を引き起こした。




―――――うわああああああああああああああああああああああああ!!!




 すでに宇宙船から脱出していたクール星人の小型円盤は、母艦を破壊されたことで行き場を失い、どこかへと飛び去って行った。
「平賀くーーーーーーーーーーーん!!!!」
 涙ながらに、親しかったクラスメートの名を叫ぶハルナの声が、青い空を切り裂いた。





 そうだ。俺は光に包まれた鎧の巨人が宇宙船に激突する直前、あの白くて丸い鏡のようにも見える発光体に飲み込まれて…気が付いたらここの中庭にいたんだ。
 今自分の目の前にいる少女ルイズが使った魔法『サモン・サーヴァント』によって呼び出された使い魔として。
「…で、あんたはその『チキュウ』という星で生活していた、違う世界の人間とでも言いたいわけ?」
「…うん」
 サイトはこの世界、このルイズの部屋に来るまでに至る主な経緯をルイズに教えた。何一つ嘘もつかず、正直に簡潔に教えた。他にも地球とは、サイトが呼び寄せられたこの『ハルケギニア』と呼ばれる世界とは違って魔法が存在しないこと、何度も怪獣・異星人と呼ばれる脅威と人間は戦い続け、そのたびにウルトラマンと呼ばれる正義の宇宙人が助けに来てくれたと。自分はついさっきまで、そのウルトラマンの敵でもあった侵略者『クール星人』の宇宙船に浚われたものの、あと一歩のところで脱出しようとしたところで白くて丸い発光体(ルイズ曰く、それは自分が作り出した召喚のゲートなのだろうという)に飲み込まれてしまったと。
 しかしルイズから返ってきたのは、嘘をつくなという一方的な否定だった。
「あんた馬鹿じゃないの!?冗談ももっとまともなものを作りなさいよね!大体魔法もないのに、このハルケギニアより優れた世界があるわけないじゃない!」
「俺からすれば、魔法なんて科学的証明もできないものの方が信じられねえよ!」
 一応一通り、サイトはルイズからこの世界『ハルケギニア』のことを簡潔に説明してもらった。ここはトリステイン魔法学院で、ルイズたちは二年生に進級したことで、春の使い魔召喚の儀式という行事に参加、その結果ルイズはサイトを使い魔として召喚した。この世界では魔法が使える者をメイジでその大半は貴族、逆に使えない者は身分の低い平民に割り当てられているとか。
 もしこの世界が本当に、ファンタジーもの等に出てくる魔法の世界だったらルイズの言い分にも一理ある。その世界に住む人間にとって、その世界での知識・常識こそが真実なのだから。でもサイトからすれば、この世界の特徴はその逆だし、真実だって地球で得てきたそれだ。
 だが、異世界という十分すぎる証明というものはある。それは今、夜空に浮いている月だ。地球では一つだけ白い月がある。だが、この世界ではどうだろう。月がなんと、二つ。それも青と赤という相対する色同士で染まっているものだった。
「ふぅん…じゃあ証拠があるとでもいうわけ?」
「証拠ならあるよ。ほら」
 リュックには修理されたばかりのノートパソコンがある。サイトそれを開いて起動させてルイズに見せる。
「……綺麗ね、何の系統で動いてるの?」
「魔法じゃなくて科学だよ」
「カガク?」
 なんのこっちゃと首を傾げるルイズ。その後は、これは魔法じゃなくて電気で稼働しているとか、携帯電話を見せてこれは遠くの人と連絡が取れるものだとかいろいろ説明したが、科学という単語さえ知らない世界の人間であるルイズには到底理解できなかったようだ。
「そうね、まぁあんたの話、信じられないけれど一応信じてあげるわ」
「結局信じてないだろ…ちゃんと証拠もって説明したのに…」
 ルイズの対応に才人はうなだれたが、ルイズは無視した。パソコンや携帯を見せての説明をしたところで、それらも魔法だと断定されて逆効果だったかもしれない。
「なあ、ルイズ…だっけ?」
地球に帰してくれと頼もうと思い、ルイズの名前を呼ぶ。
「ルイズ『様』か、ご主人様と呼びなさいよ。あんたは私の使い魔なんだから」
 冷やかに言い放つルイズに、サイトは腹が立った。こいつ、俺のことをなんだと思っているんだ。まるで動物か奴隷のようにしか見てないんじゃないか。
「さっきからなんかムカつく物言いばっかしてるよなお前」
 そう言われたルイズは、逆にサイトの言葉にカチンとなる。
「なんですって!この由緒正しきラ・ヴァリエール公爵家の私に召喚されて、寧ろ感謝するべきじゃないの!なのにその態度、信じられない!」
 ルイズには、平民にとって貴族に従うことは何物にも代えがたい名誉だという高慢な思い込みがあった。感謝だなんてとんでもない!ルイズの厚顔無恥な発言は、異世界人とはいえ、平等性こそ重んじるべしと学校で学ばされたサイトの怒りをさらに煽った。
「知るか!お前こそ誘拐犯の癖に偉ぶるんじゃねえよ!」
 そうだ、こいつは地球から勝手に人を呼び出そうとした。あの時、召喚のゲートとやらに気を取られて逃げ遅れた子供があれに飲み込まれていたら、あの子供さえもこんな扱いをさせるつもりだったかと思うと、サイトはすごく腹が立った。
「だ、誰が誘拐犯よ!人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!誰があんたなんかを好きで召喚するなんて思ってるのよ!私たちは使い魔を選べないんだから!それに召喚の儀式がもし失敗してたりしたら危うく留年するところだったのよ!」
「だったら俺を今すぐ地球に帰せよ!さっきのその…サモンなんちゃらって魔法で!」
 今の自分にとって大事なことは使い魔だとかそんなことじゃない。自分がいた元の世界…地球のことだ。あそこには家族や友達がいる、強すぎる心残りがあるのだ。学校の行事だがなんだか知らないが、こんな奴の我儘に付き合ってられない。
 サイトはルイズが魔法で作り出したあの白くて丸い鏡のような発光体があれば地球に帰れるのではと思ったが、ルイズは首を横に振った。
「無理よ。サモン・サーヴァントは使い魔を呼び出すための魔法で、送り返すことなんてできないわ。それに…」
ルイズは一呼吸おいてから、今のサイトにとって最も残酷な言葉を発した。
「私かあんたのどちらか死なない限り、サモン・サーヴァントは二度と唱えられないわ。そのルーンは消えないままで、あんたは私の使い魔で居続けるのよ」
「は…?」
 俺か、こいつが死なないと、解約できないってこと?あまりの衝撃にサイトは目が点になった。
「あんた、一度死んでみる?」
「それは無理…」
命あっての物種だ。サイトは即答した。
「それじゃ、使い魔が何をするべきか教えてあげるわ」
 まだ使い魔をやるとサイトがはっきり言ったわけではないのに、ルイズは彼が使い魔をやる前提で話を進め始めた。
「まずは感覚の共有ね。使い魔が見たもの聞いたものがご主人様にも見たり聞こえたりできるってわけ。でもこれは無理ね、私何も見えないんだもの」
 大まかに言えばサイトが見たものがルイズには見えるはず、ということなのだろう。だがルイズ曰く、何の効果もない。それは逆にサイトも同じだった。
「次に使い魔は主人の望むものを見つけてくるの。例えば薬に使う秘薬、コケとか硫黄とか」
「秘薬のこと知らないから無理だ。はっきり言って専門外」
 サイトの発言にルイズは苛立った。なんて役に立たない使い魔なのかしら、と。だがサイトから言わせてもらえば、いきなりできもしない仕事を押し付けてくるブラック企業の上司も同然だ。
「そして最後に……コレが一番大事なんだけれど使い魔はその能力で主人を守る存在なの。………でもあんた達じゃ無理ね、人間だもの」
 ルイズは落胆した。どう見ても目の前の平民は頼りになるとは思えない。
「喧嘩は、まあできる方だけど…?」
「なんで疑問形なのよ!」
 喧嘩ができるからなんだというのだ。貴族が平民に勝てるわけがない。これまでの歴史、平民は貴族に買ったこともなければそもそも戦いを挑んだと言う試もない。それは貴族の使う魔法が、神から与えられた神聖且つ絶対的な力だという認知が根付いていたためだ。ルイズもそれが当然だと思っていた。
「まあいいわ。とりあえずあんた達には私の身の周りの世話、雑用をやってもらうことにするから」
 そこまで言った時、サイトはルイズを見てギョッとする。明かりは確かに消して部屋が暗くなっていたとはいえ、なんといきなり彼女は服を男の前で脱ぎ始めたのだ。
「お、お前何やってんだよ!」
「何って着替えよ」
目を手で塞ぐサイトに、ルイズはなんともな下げに言う。
「バッバカ、平然と言うな! 男の前で堂々と着替える女があるか!!」
 サイトのもっともな意見に対して、ルイズは呆れたように答えた。
「男?あんた達は使い魔でしょ。別に使い魔に見られたって気にもならないわ」
 いや、使い魔だろうが平民だろうが、それでも男性の前でいきなり服を脱ぐなどどうかしているとしか思えない。他の生徒にこのことがばれたりしたら、ルイズが平民相手に欲情したなんてアホな言いがかりを付けられて後悔するに違いないと言うのに、この時のルイズはそこまで頭が回っていなかったのである。おまけにサイトの顔に自分の脱ぎ捨てた下着を投げつけてきたのだ。
「それ明日の朝洗っておいてね。あとちゃんと起こしなさいよ。じゃなきゃご飯抜きだから」
 ぬ、脱ぎたてパンティーですか!?…ってそんなことじゃなくて!思わぬシチュエーションに自分の男が高ぶったことを恥じたサイト。
「ちょっと待て! 俺たちは何処で寝んだよ!!」
「うるさいわね〜、そこに敷いてある藁の上よ!!」
 そう言いベット近くにある藁の束を指さし、ルイズは夢の世界へと旅立っていった。
 ルイズの対応に才人は一瞬呆然とする。平民のくせに貴族をなめるなとかいうが、こいつだって人のことを馬鹿にしすぎじゃないか。一寸の虫にも五分の魂という諺を教えてやりたい。
「ちっ…ああもう!言いたいことがありすぎて俺までくたびれた…」
 こいつの言っていることは何もかもが人としておかしいし、ずれすぎている。いくら違う世界だからってこいつの行動は異常としかサイトには思えないことだらけだった。 
(…)
 サイトは藁に腰掛け、窓の外を眺める。
 結果的に、自分はクール星人の魔の手から助かったと言えば助かった。だがそれは、ルイズの余計な魔法のせいで思わぬ形のものとなってしまった。
 あの時一緒にクール星人の宇宙船から脱出しようとしたハルナは無事だろうか。前の両親にも負けず自分のことを愛してくれていた母アンヌ。地上も奴らに攻撃された時に母に何事もなければいいのだが。それに心配もしているはずだ。いや、リュウ隊長たちGUYSの面々があの時自分たちのために頑張ってくれた、その後もきっとぬかりなく。
でも、それにしてもこいつは俺から大事な日常を奪ったって言う自覚あんのかよ。これじゃあのクール星人たちと変わらないじゃないか。一言謝ってくれたり、ちゃんと人扱いしてくれるなら少しは使い魔ってのになってやってもいいとは思うが、サイトは今のルイズを見て全然そんな気は起らなかった。
ルイズの寝顔を見て、サイトは思う。
(黙ってたらかわいいのに…もったいない奴) 
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