手のなる方へ
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3部分:第三章
第三章
「だって誰も来てるんだから」
「そうよね、確かに」
「けれどよ」
しかし疑念がここでまた出て来た。
「それで何で皆知らないの?」
「うちのお姉ちゃんも覚えてないっていうし」
「あんたのお姉ちゃんも?」
「ええ」
また一人の女の子が言うのだった。
「この前聞いたけれど覚えてないんだって」
「三年前だったわよね」
「ええ、そうよ」
つまり彼女の姉は今高校三年ということになる。少なくとも記憶力が衰える歳ではない。ましてやこうした村の行事をそう簡単に忘れるとは思えなかった。
「三年前よ」
「それで覚えていないなんて」
「三年前どころか」
話がさらに詰められていく。
「先輩達だって一年前なのに全然覚えていなかったりするし」
「ああ、聞いても誰も答えてくれないのよね」
恭子と須美がしたことと同じ結果が返って来ていたのである。皆に。
「こんなこと有り得るのかしら」
「誰も覚えていないって」
考えれば考える程奇怪なことであった。最早何が何なのかわからなかった。
「おかしいなんてものじゃないわ」
「どうなってるのよ」
口々に言い合う。しかし謎が晴れることがない。
「村じゃそれこそ何百年も続いてるんだって?」
「そうらしいわ」
この集まりの年月も彼女達は聞いてはいたのだ。
「村がはじまってからね」
「この村のはじまりって」
「それこそ」
歴史の古い村である。それこそ江戸時代、いや室町より以前からある村だ。そんな村がはじまってからというから相当に古いこともわかった。
「無茶苦茶古いなんてものじゃないわね」
「余計におかしいわね。記録にもないんでしょ」
「だから誰も覚えていないから」
記録にもないというのだ。
「ただ。毎年行われるってだけで」
「それだけだからなのね」
「ちょっと待って」
また一人が気付いた。
「何かおかしいわ」
「どうかしたの?」
「記録に残っていないのよね」
「ええ、そうよ」
「それは確かにね」
「私思うんだけれど」
この女の子は怪訝な顔になりつつ他の女の子達に語った。
「記録に残っていないってことは」
「何?」
「見方によっては残せないってこと?」
こうした意見も出て来た。
「ひょっとして」
「まさか」
「そんな筈ないじゃない」
しかしこの言葉はすぐに笑って皆から否定されたのだった。
「こんな小さな村に何があるのよ」
「そうそう」
皆笑いながらその意見を否定していく。
「ただ古いだけじゃない」
「それで何を隠す必要があるのよ」
「それもそうかしら」
「そうよ」
「考え過ぎよ、考え過ぎ」
「そうよね」
言い出したその娘も笑って自分の言葉を打ち消してしまった。
「よく考えたら。そんなこと有り得ないわよね」
「当たり前でしょ。どうせお菓子か何かが出て終わりでしょ」
「だから皆覚えてないのよ」
こういうことに話が向かっていくのだった。
「些細なことだしいつものことだから」
「お菓子っていってもあれでしょ?」
神社ということから皆がこうした場でもらえるお菓子といえば一つしかないのであった。
「紅白饅頭」
「あれよ」
「あれね」
「あれしかないじゃない」
こうまで言う女の子がいた。
「こうした時に貰えるお菓子って」
「神社だしね」
田舎ということや神社であるということを差し引いてもやはり考えられるのはこの紅白饅頭しかなかった。皆これが出て終わりだと考えるようになってきていた。
「それで終わりでしょ」
「お菓子食べてね」
「あとお茶ね」
お菓子にお茶は欠かせないのであった。お茶はこの村でも作られている。田舎だが栽培しているものはわりかし多いのである。だから小さくてもそれなりに豊かな村でもあるのだ。
「お茶も出て飲んで食べて」
「それで解散よ」
「そうなんだ」
どうにもこんな話で終わるのだった。
「じゃあお饅頭期待して待つのね」
「そんなところね」
「ゆっくりしていましょう」
こう言い合って今度はそれぞれ座ったり立ったりしてお喋りに入るのだった。恭子と須美もその中にいてやはりお饅頭が貰えると思っていたのだった。
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