フリージング 新訳
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第34話 Goodspeed of the East2
前書き
お久しぶりです‼︎今回も遅くなって大変申し訳ありません‼︎テストが近づいて来ましたので、また更新が遅れるかもしれませんが……これからもよろしくお願いします‼︎
さて、今回はちょこっと伏線回収と次回以降の伏線を。それでは、どうぞ。
学園長に呼び出され、カズトはイーストの訓練場へと呼び出されていた。
他には数人の科学者のような風貌の男達が数人。それらが、上の階からカズトを見下ろしていた。
その目には、カズトは人としては写っておらず、単なる観察対象あるいは実験用のモルモット程度にしか見えていない。
ーまぁ、初めての経験ではないよな……
これまでにも、祖父のせいで何度かこういう場面になったことはある。慣れているわけではないので、いい気分ではない。
『アオイくん。聞こえていますか?』
耳につけられたインカムから、学園長の声が聞こえてきた。
「はい、大丈夫です。聞こえてます」
『そうてすか。それでは、アオイくん。貴方には今から模擬戦をしてもらいます』
「……え、いきなりですか?」
先日から薄々感づいてはいたが、もしかしたら学園長には伝達能力という物に難があるのかもしれない。
「わかりましたよ……はぁ……それで、相手は?」
「それは私です」
ふと別方向から聞こえた声に振り向く。その声は少し低くすれば少年と言ってもいいものだ。どっかの鎧の声とかやってそう。
「き、キャシーさん?」
「まさか、君がアオイ・カズトくんだったなんてね。びっくりしたわ」
苦笑いしながら近づいてくる。
なんだろう。昼間に会った時とは雰囲気が違う。これは……そう。カズハとの組手前のような、そんな感覚だ。
「驚いたのはこっちですよ。知ってたんですか?」
「アオイ・カズトという人物と模擬戦を行うのは知っていました。けど、それが君だなんてね」
「あはは……すいません、名乗りもせず」
「ううん。私も聞かなかったんだし」
朗らかに話をしているが、その佇まいからは油断など一切感じられない。
「それじゃ、そろそろ始めましょうか」
「あ、ああ。そうですね……でも、本当にやるんですか?」
「ええ。大丈夫よ。時間はそんなにかからないらしいし」
それに、とキャシーはスタスタとカズトに背を向けて少し離れた場所に歩いていく。
その顔には、何かを割り切ったような、そんな表情が浮かんでいる。その姿があの人と、毎日のように組手をした、最愛の人と重なった。
「「手加減してあげるから」」
周囲の景色が、何もない無機質な白から、荒廃した摩天楼へと姿を変えた。
『それでは、始めてください』
耳にその声が聞こえたのと同時に、キャシーの姿が掻き消えた。まるでこの前襲撃してきた4位の先輩と同じ、いやそれ以上のスピードだ。全く見ることができない。
背後から殺気を感じ取り、素早くアクセルで距離を取った。しかし、そのアクセルなとまるで児戯だと言うかのように、キャシーの影が再びカズトの背後を取った。
格が違いすぎる。それを理解するのに時間はかからなかった。
ーそれでも‼︎
無様に負けるわけにはいかない。グラディウスを展開し、気配のある方角へと叩きつける。腕力だけならばこちらが上のようだ。思わぬ反撃に対応しきれず、後方へと弾き飛ばされた。しかし、すぐさま体勢を立て直しカズトへと切り掛かっていく。片刃の大剣を軽々と振るいながら、一合二合と打ち合っていく。キャシーの得物はどうやら小ぶりな小回りの効くもの。つまりはパワーだけならカズトのグラディウスの方が上のはず。なのに攻めきれない。こちらが逆に押し込まれていく。
「クッソが‼︎」
グラディウスを上段に構え加減することなく振り下ろした。
ドガァン‼︎と派手な音が摩天楼に響く。
しかし、それは攻撃がキャシーに当たったものではなく地面を叩き割った音だ。グラディウスがぶち当たった地面だけにノイズが発生し、元の白い床が見え隠れしている。呆然とそれを視界に入れていると、眼前からキャシーが猛スピードで襲いかかってくる。どうしてこんなにも躊躇いが無いのか不思議だ。
「ハァッ‼︎」
「ゼアァッ‼︎」
迫り来るキャシーへとグラディウスを両手持ちに変え、再び全力だ振り抜く。
しかし、その剣尖は空を切りキャシーは再び目の前から消えた。殺気は周囲に充満して見切れたものでは無い。ならば、それが最も強くなった瞬間を狙う他ないのだ。
その思考に思い至った時、背筋に高密度な殺気が突き刺さった。
グラディウスを逆手に持ち替え、背後からの剣戟を防ぐ。
金属が砕ける音が聞こえるとともに、体が浮き上がった。それほどの一撃をもしも直撃したらと思うとゾッとする。
再びキャシーの姿が掻き消え、警戒心を張り巡らせる。
だが、そろそろ“合う”はずだ。
キャシーにはちょっとしたクセがある。この短い戦闘でカズトはそれをかすかに掴んでいた。それも、カズハに叩き込まれた戦闘スキルだ。対人戦闘の場合は、相手に必ずと言っていいほどに特有のクセがある。彼女の場合、攻撃を仕掛ける直前で加速するために特有のステップを踏むのだ。
だから、そのステップに合わせれば……
「そこだ‼︎」
斜め上から襲いかかるキャシーの刃に、ぶつけようとグラディウスを振るうが、
「っな⁉︎」
更に速度が跳ね上がり、振り抜いた刃がまたしても空を切った。
「想像以上の強さですね……」
「ありがとう。あ、そういえばお互いにちゃんと名乗っていなかったわね」
キャシーはそう言うと、再び構え直しその名と称号を口にした。
「イーストゼネティックス所属。
三学年“1位”別名イーストの神速。キャシー・ロックハートよ」
1位。その単語を聞いた瞬間に背筋が凍った。あの、シフォンと同じランクにいる人間だ。確実に自分よりも上位の世界を見ている存在を相手にして恐怖を覚えないのはただの馬鹿だ。格上と感じたのもうなづける。
「貴方の名前は?」
キャシーが微笑みながら聞いてくる。思い返せば、ゼネティックスに来てから何のわだかまりも無い戦闘をするのは始めてかもしれない。
グラディウスを握り直し、剣先を相対しているキャシーへと向けながら、名乗りを上げた。
「ウエストゼネティックス所属。一学年ランク外。アオイ・カズト」
まるで獣のような獰猛な笑みを浮かべて、剣を振り絞った。
「行くわよ。カズトくん」
「こい、イーストの神速」
それ以上の言葉などいらない。必要なのは、ここから先を決するのは、響きあう剣戟のみ。
走り出す二人の姿は、まるで夜空を舞う星屑のようだった……
***************
「ここに、俺様の嫁になる資格のある奴がいるのか?」
某所。とある青年がたった一人で誰かに話しかけていた。顔立ちは整っているが、どこか軽薄そうな雰囲気を纏っている。その装いも金髪にチャラチャラとしたチェーンがつけてある。
『ああ。王よ。ここにならば貴公の気にいる人間がいるだろう』
誰もいないと思った瞬間、何もなかった空間に大柄なシルエットが現れた。現代人が着ているとは思えないような、古くさいローブを纏った老人だ。
「はっ。まぁ、俺様のメガネに見合う奴がいたら、無理矢理にでも連れてってやるさ」
『……それに何かの意味があるのか?』
無理矢理という部分に何かが引っかかったのか、老人は眉をひそめてチンピラ風の青年へと問いかける。
「当たり前だろ?俺様の思い通りになるからこそ存在する価値があるんだよ。それ以外に価値なんてねえ。クソだ。俺様こそが至上で、俺様がこの世界に転生したのも運命。この世界は俺様の為にあるんだよ」
全く理にかなっていない子供の言い分。それを聞いて、老人は呆れ返るようにため息を吐く。
『貴公がそれで良いならそれでも構わん。だが、契約は守ってもらう。必ずや……』
「わかってるっつの。“もう一人の転生者”だろ?所詮は踏み台。特典も与えられなかったんだ。この俺様の……」
青年が言いかけたところで、その背後に無数の金色に輝くゲートが現れ、両眼が青と赤の螺旋状に輝く。
「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)と、直死の魔眼が負けるかよ」
そう言って、青年は姿を消した。一人取り残された老人は忌々しいと言うかのように鼻をフンッと鳴らした。
『せいぜい、借り物の力ではしゃいでいるといい。蒼城狼牙。貴様が使えなくなるまではな……』
そう呟き、老人も姿を消した。全てを見通すその目に写っていたのは、終始自らが転生させた物ではなく、忌まわしい女神の選んだ転生者の姿だった。
後書き
いつぞやの二人目の転生者の伏線回収……(今更かよ)名前は適当に厨二っぽいかな?と思って……
キャシーさんてこんな感じだったっけ?ひたすらいい人で純粋なイメージがあったからこんなにもバトル大好きではないのになぁ……なんでこうなった……キャシーファンの方、本当に申し訳ございません。
次回もどうぞよろしくお願いします。感想いただけるとありがたいです。
ページ上へ戻る