戦国異伝

　頭を剃ってだ、今度は家臣達に言った。
「去りたい者は去るのじゃ」
「我等にもですか」
「そう言われますか」
「では」
「残りたい者だけ残れ」　
　あくまでこう言うのだった。
「よいな」
「ううむ、しかし」
「殿、お言葉ですが」
「謀反を起こされても」
「それでもです」
　それを起こしてもというのだ。
「到底です」
「敵いませぬが」
「それでもですか」
「兵を挙げられるのですか」
「答えるつもりはない」
　家臣達にもだ、荒木はこう返した。
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「奥方様やお子の方々だけでなく」
「我等にもですか」
「そう仰るのですか」
「わかったな」
　また言った荒木だった。
「それではじゃ」
「ううむ、では」
「それがしはです」
　まずはだ、何人がだった。荒木の前に出て。
　深々と頭を垂れてからだ、こう彼に言った。
「殿、これまでです」
「これまでお世話になりました」
「ですが我等は」
「これで」
「達者でな。妻子縁者は連れて行け」
　荒木は彼等にも答えた。
「よいな」
「はい、では」
「これで、です」
「おさらばです」
　こうしてだった、去る者は去った。そして信長の下に向かうのだった。荒木は彼等には何もしなかった。そして。
　残った者達にもだった、荒木は告げた。
「御主達も城から妻子を出せ」
「我等もですか」
「そうせよと仰いますか」
「この度は」
「そうせよと」
「そうじゃ、家族まで危険に晒すな」　
　そこは絶対にというのだ。
「この度のことは危ういことじゃからな」
「謀反だから」
「それで、ですな」
「ここはですか」
「妻子を城から出し」
「死なせるなといいますか」
「その通りじゃ、わかったな」
　家臣達にも告げてだった、荒木は残った者達にも家族を城から出させた。そのうえで高々と謀反を起こしたが。
　その話を聞いてだ、信玄は己の館で首を傾げさせて言った。
「わからぬ」
「この度のことですか」
「荒木殿の謀反のことは」
「また急に起こされましたが」
「それが、ですな」
「妻子縁者と縁を切り害が及ばぬ様にしたのはわかる」
　このことはとだ、信玄は己の家臣達に話した。
「それはな」
「ですな、荒木殿も妻子は大事にしたいですからな」
「危機が及ぶのは避けたい」
「左様ですな」
「そこは何としても」
「だからじゃ」
　それ故にというのだ。