SAO〜裏と 表と 猟犬と 鼠
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第5話 ビーターの誕生日
まぁ、味方が死んだとは言え、ボスはまだ残ってる訳で…。
呆気にとられている味方が2人、犠牲になった。
俺はお気に入りの武器をへし折られ、投げナイフも心許なくなってきた。
「やべ〜…短剣の変えも折れたし…こりゃ撤退するかぁ〜?」
………。
こりゃミスったな。
こいつは腰が立たねぇみてぇだし。
しゃーねぇか。とりあえずやる事やっとこ。
未だ周りで呆然としたプレイヤーを狙っているボスに向かって走る。
そして…俺はスキルでも何でもない。ただの…。
「どっせい!!!!」
「あ?」
「へ?」
「ナ?」
「「「「「「「「「ハァッッッ!?!?!?」」」」」」」」」
「はぁって…ドロップキックだぜ?」
「よしミネ、お前はバカだ。けどっ!せんきゅ!」
キリトに馬鹿認定されたのは癪に触るがOK、OK。1ドットもボスのHP減ってねぇけどな。
場の空気は少し変な方向へ行ったが結局はなんとか持ち直したか。
後は頼むぜ〜。
完全に戦意を削がれたアリーと、対抗する術を持たない俺、それを俺たちより数歩前方で守るシルバとカルテル。
最初は自分で勝手に判断して人と言うものは見なかった。ただ思った事を決めつけていた。
やれやれ。こんなアホと行動するようになってから一気に面倒事が迷いこむようになったし。ほんと、腹立つ。
俺の初めてのSAOフレンド。と、よーわからんローブの少女。
2人の剣技を目の当たりにしながら、改めて横の少女を見る。
悔しいのか。下を見る少女の横に、座る。
「やれやれ。何してんだ。それとも何か?初めて自分の目の前で消えた奴にビビったか?」
「んデ…なんデ…なんでそんな言い方しか出来ないんだヨ!」
「言い方?消えちまったもんは仕方ねぇだろ。別に俺は、どうしよーもねーもんはどうしよーもねー。それで括っちまってるからな。あの人が…いや、なんもねぇよ。」
「……」
お前、そんな奴だったのな。
《ガッカリだ》
と、以前の俺なら思っただろうな。
「すまん。言い方まずかったな。」
パシャーーン……。
ウォォォォォォォォォォッ!!
「勝った…勝ったんだ!」
「出来たんだっ!俺たちが!ボスを!」
様々な所で勝利の雄叫びを上げる中…。
「なんでや!…なんでティアベルはんを見殺しにしたんや!」
見殺し?は…あいつはベータテスターだった、情報が間違っていたことに気が付かなかっただけだろう?馬鹿馬鹿しい。
「見殺し?」
「キリト、構うな。オンライン特有の暴言厨だ。」
「お前らはボスの使う技知っとったやないかい!」
「あいつ…。あいつベータテスターだ!」
「あいつが率いてるローブの集団!あいつらもだ!」
知らぬうちにベータテスター認定されてしまった。っつかこれキリトのせいじゃね?
「っつーことで。元ベータテスターキリト君。あとよろしく。」
「よろしくちゃうやろが!お前ら何を言いよんねや!わいが聞きたいんはなんでティアベルはんを…」
「黙れ、俺はそもそもベータテスターじゃねぇからな。じゃそゆことで次の門のアクティベートしてくら。情報収集やらなんやらあるしな。」
まず、本当にボスの情報に関して言えば俺は無関係だ。
事前にアルゴの持つ情報しか聞いてない上、なんとなく危機感はあったもののあの状態で単騎で討って出たあいつのミスだ。
「以上。これ以上情報が欲しければ金で買え。俺たちゃ情報屋だ。重要な情報は、無償で渡したりはしない。」
俺は階段を登って行く。
「全ては情報…。何が何でも。ゲームをクリアさせてやる。」
するのではない…。そう。させる。
「何カ…言ったカ?」
「どうせじょーもない事でしょうよ。商長の言う事はそんな感じっす。」
「お前…今すぐ脱退させて沈めるぞ。」
「ひでぇっすねぇ〜…。でも、心の声聞こえてましたよ。」
「あたしにも聞こえたよ。全く、そんな面倒事やるならもう少しギルド選びゃよかったよ。」
「うるさい…。」
全く、あんまり俺をからかうと…怒っちゃうよ☆
「今寒気がしたんすけど気の所為ですかね。」
ぶっ殺す☆
「ハハハハハハハハハハッ…!」
そんな事でさっきまでの事を忘れたかの様に次の層に向かう俺たちを、笑い声が引き止めた。
「ハハハ…ベータテスター?俺をあんな素人連中と一緒にしないで貰えるか。」
何をするつもりだ…。
どうやらこれは誤算どころかアルゴもカルテルもシルバも…ボス部屋の全プレイヤーが、唖然としている。
かく言う俺も、突然すぎて静止しているのは…まぁ…内緒で。
「俺はベータテストの時、誰も登った事がないような層まで一人で登った…。ボスの刀スキルを知っていたのも上の層で、刀を使うモンスターと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ?情報屋なんかとは比べ物にならないくらいにな。」
ギロ…。
情報屋なんか…。
比べ物にならナイ…ネェ。
あれ…殺意湧いてきたっすね。
「あんたら…何張り合ってんのよ」
キリトの額に冷や汗?あるぇ?なんでぇ?
「そんなんもベータテスターどころやないやんけ!もうチートやチーターや!」
別に不正行為した訳でも改造データ使用者でもないだろうに。
「チーターでベータテスター…だからビーターだ!」
「ビーター?はは…いいな。そうだ、俺はビーターだ。これからはそこいらのベータテスター共と一緒にしないでくれ。」
そう言うと不意に、キリトの格好が皮メイルから黒のロングコートになっていた。
「アリー。あれレア泥だよな。明らかにあいつの着てるのレア泥だよな。」
「そうダナ。フム…確かアレハ〜…あぁ、思い出しタゾ!コートオブミッドナイトとか言うヤツダナ。」
「やっぱり副商長はスゲーっす!マジリスペクトっす!」
「なぁ〜にが凄いんだか。茶番は終わったろ?さっさと情報集めに行くぜ〜。」
「あ…おい…キリトてめぇ…後で覚えてろ」
聞こえたのか聞こえてないのか、いや、聞こえたんだろう。なんでだよ…と言う声が漏れている。
「誰かさんのお陰で金ねぇし武器もねぇし。買えねぇし。おいアリー、お前に預けたレアモブ泥の細剣返せ。」
「あれなら売っタゾ。結構イイ値ついたカラナ。」
「おい…マジか…。」
「この先大丈夫…だよな?」
そんな俺の呟きは…仲間の歩く音にかき消されていった。
《第2層 ウルバス 主街区》
転移門のアクティベートを終わらせ、街を見渡す。
殆ど全ての建物が木材で作られ、何処か大自然の田舎のような街並みが広がる。
ギルドの面々を呼び出し、早速ひと行動起こそうとギルドメンバーを転移門前で待ち構える。
「さてと…お前らは情報集め、俺はちょっくらやりたい事あるし、いいだろう?」
なんとかシルバに余っていたと貰った細剣(短剣くれよな)を同じように腰に斜めに携えると、自身の所持金を確認する。
《240コル》
コーヒー二本かよ。出て行った彼女の為に追いかけてあったかい飲み物でも買えってか。
「オマエ、また廃狩りカヨ。ここ1ヶ月狩ってばっかりじゃネェカ。オレっちらの仕事手伝エヨ。なんの為のツーマンセルだ?」
「そうっすよ!か弱き副商長を置いて一人でレベリングなんて…最悪っすね。」
「これをか弱い?フザケンナ。こいつがいたら2時間で100層突破出来るわ。」
「ホウ?」
「スマん。嘘。ごめん。言い過ぎた。許して。」
「まったく…あんたら仲が良いんだか悪いんだか。」
門の前で雑談していると、転移門が光り、残り四人の姿が見える。
「仕事…。」
「今から!?あたしもう一眠りしたいよ〜…」
「ういっす!やっと初仕事っすね!」
「あたしも待ちくたびれちゃったわ〜。まぁ、心配しなくても仕事はちゃんとするから安心してね〜。」
全く…一癖も二癖もある面子だなこれ。
俺じゃ絶対御しきれない。
「これから第二層のクエスト及びドロップ品
その他多数の情報全て集めてこーい。俺はボス部屋のマッピング担当すっから、後はよろしく。あ、アリー、お前も俺と一緒にこーい。」
「ヤダ。」
「氏ね」
「ホウ?」
「コイ」
「………表デロ。」
「ここはもう表だ、バーカ。」
「オレっち、怒っタ。」
この日、キリトの耳には知り合いの男の声に似た悲鳴が、聞こえたと言う。
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