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戦国異伝

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第二百二十六話 徳川家の異変その五

「その様なこと出来るものか」
「左様です」
「この徳川百六十万石の土台を築く時」
「それで謀反なぞ」
「どうして有り得るのか」
「そうじゃ、しかもな」
 それにというのだ。
「竹千代とな」
「はい、五徳様が不仲という噂も」
「それもありませぬ」
「お二人はとても仲睦まじいです」
「岡崎で穏やかに過ごしておられます」
「しかもその竹千代様も殿に叛心を抱いておられる」
「全く以ておかしな噂ばかりで」
 家臣達も首を傾げるばかりだ。
「一体どうしてその様な噂が流れたか」
「何処からか急に出て来ましたな」
「これは面妖な」
「訳がわかりませぬ」
「全くじゃ。しかし」 
 家康は苦い顔で袖の中で腕を組みつつ述べた。
「このままではいかぬ」
「謀反の噂までありますし」
「築山様、竹千代様の噂も」
「この駿府も不穏な噂で満ちています」
「そして岡崎も」
「放っておけば天下の逆臣と思われます」
「何とかしなければ」
 家臣達もここで考える、そしてだった。
 家康は彼等とじっくりと話をしてからだった、一つの断を下した。
「竹千代をこの城に呼ぶのじゃ」
「駿府にですか」
「そうされますか」
「思えば竹千代が駿府におらぬことも大きい」
 彼が岡崎にいることがというのだ。
「親子が離れておっては確かにな」
「家に頭が二つあることになり」
「それで、ですな」
「そこに噂の出る余地がある」
「まずその噂が出ぬ様にしますか」
「そしてじゃ」
 家康はさらに言った。
「奥のことじゃが」
「当家にそもそも明からの医師がおらぬことをはっきりさせ」
「そして根も葉もない噂は断ちますか」
「何故築山様が五徳様をおいじめになるのか」
「共に同じ城に住んですらおられなかったのに」
 離れていて会うこともない、それで何故というのだ。
「そもそも同じ城にいても住む場所は違います」
「それで何故」
「この様な噂が立つのか」
「このこともわかりませぬ」
「無論駿府でもわしは本丸に住むがな」
 竹千代は別だというのだ、だから築山と五徳が顔を合わせることもないというのだ。そして家康はさらに言った。
「しかしわしと竹千代が同じ新譜にいればな」
「頭は一つになる」
「竹千代様謀反の噂も」
「他の怪しい噂は全て根拠を出して明らかにしたいが」
 ここでだ、家康は言った。
「しかし根も葉もない噂はな」
「中々消えぬもの」
「それが厄介ですな」
「そうじゃ、どうしたものか」
 家康もこのことは考えあぐねていた。
「何か怪しい言葉に満ちておってな」
「考えても怪しいことばかりというのに」
「民達は信じ」
「旗本達までもがです」
「あれこれと噂します」
「それが止まりませぬ」
「人の口に戸口は立てられぬ」
 家康はこの言葉も出した。 
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