戦国異伝
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第二百二十六話 徳川家の異変その一
第二百二十六話 徳川家の異変
徳川家は駿河、遠江、三河の三国併せて百六十万石を治める天下一の大身である、織田家を除いてはそう言っていい程になっている。
その主である家康は今は駿府に拠点を置き駿府城に住んでいる、今川館とは違い見事な堅城としそこに住んでいるが。
城の見事な天守閣を見つつだ、家康は傍にいる家臣達に言っていた。
「先日の馬揃えの時じゃが」
「はい、あの時のことですか」
「馬揃えの時のことで」
「妙に気になることがあった」
こう言うのだった。
「わしとしてはな」
「前右府様ですか」
「あの方のことで」
「吉法師殿にじゃ」
信長だけでなく、というのだ。
「公家の方で高田殿がおられたが」
「あの今川殿が言っておられた」
「あの方ですか」
「その高田殿ですか」
「陰陽道をされているという」
「あの方じゃ。わしもあの方は滅多に見たことがない」
家康もというのだ。
「実はな」
「殿も今では時折朝廷に出入りされますが」
「それでもですな」
「あの方とはですか」
「あまり」
「そうじゃ、お見かけしたのは稀じゃ」
家康もというのだ。
「それでわしもよく知らぬが」
「おられたのですな」
「そして我等の馬揃えを御覧になられていた」
「そうなのですな」
「そうじゃ、しかしな」
それでもだというのだ。
「妙に吉法師殿を御覧になられ暗い顔をされていた」
「言われてみれば」
「帝も皇族のどの方も頼もしいと喜んでおられ」
「公家衆の方々もそうでしたが」
「しかし高田殿だけは」
「そうではありませんでしたな」
「吉法師殿は二心なき方じゃ」
このことは家康もわかっていて言う。
「天下人になれれるおつもりでなられたが」
「それ以上のことはですな」
「望んでおられませぬな」
「やがて幕府を開かれるでしょうが」
「そして関白にもなられるかもですが」
「しかしじゃ」
家康はさらに言った。
「それ以上はというとな」
「決してですね」
「皇室を害されるおつもりもなく」
「ただ天下の泰平を望まれるのみ」
「左様ですな」
「そうじゃ。それはもう朝廷もおわかりの筈」
帝も皇室も公家衆もというのだ。
「それで何故高田殿だけがじゃ」
「ですな、確かに」
家康の知恵袋である本多正信も応えてきた。
「あの方はどうも謎が多い方ですし」
「御主も知らぬか」
「はい、全く」
「あの方にはあまりにも謎が多いです」
引き締まり逞しい痩せた顔の男が応えてきた、あらたに家康に仕える様になった柳生宗厳である。剣豪でもある。
「それがしも調べたのですが」
「わからぬか」
「何もかもが」
「古い家じゃがな」
高田家といえば、というのだ。
「しかしな」
「陰陽道をされているといいましても」
「どういった陰陽道かわからぬしのう」
「陰陽道といっても様々です」
「左道か」
ふとだ、家康は言った。
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