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寄生捕喰者とツインテール

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押し寄せしモノ
  ダークグラスパー

 
前書き
この小説の更新は、久しぶりというべきですね。

では……第三巻部分、とあるアイドルの誕生と、眼鏡騒動から始まる物語、スタートです。 

 
 
 
「さて話をするとしようか、ツインテイルズに獣の童女。そして……フフ、合いたかったぞ? 妾の盟友……トゥアール」


 空間の揺らぎから現れた少女は、ゆっくりとテイルレッド達の方を振り向き、怪しげな微笑を顔に浮かべる。

 黒い―――彼女を見て、彼等ツインテイルズが、寝転がったグラトニーが一番に思った事がそれだった。
 テイルレッド等が着ている近未来的鎧……否、近未来的コスチュームに似た装備も、髪の毛も、全てが漆黒だ。

 その様相だけでも十分興味を、疑念を抱くには十分だが、何より彼女が最初に口走った『この世界のツインテール戦士』という言葉が、よりそれらの感情をそそらせていた。

 もしや別世界のツインテール戦士なのだろうか?

 しかしそれならば……トゥアールは味方でありサポート対象である、テイルレッド達に真っ先に話している筈であり、ツインテールズが気圧される形で警戒する理由が無い。
 と、なると話していない事になるのだが、それはそれで “何故伝えていないのか” という疑問が生じる。

 伏せていた事情…………事と次第によっては、洒落にならない人物である可能性も首を擡げてくる。

 誰が問いかけるのか、言葉を発するのか。
 そう言った緊張感走る中、最初にその均衡を破ったのは―――


『お前、ツインテール戦士じゃあねェナ?』


 グラトニーの 体内(なか) より響く男の声……ラースだった。


「「「「えっ!?」」」」
「ほう……見抜いたか」


 姿は見えないのに確かに耳へと届いた声に驚愕しあたりを見回すツインテイルズとは違い、ダークグラスパーは声の発信源を察したのかそれとも単なる余裕からか、胸を若干反らして堂々立ち尽くしたままだ。

 されど、この声に一番驚いているのは……実はグラトニーであった。


「声……外に、出せる……?」
『どうも状態が不安定らしくテヨ。それに再生率も高くなった事が合わさッテ、声出しが可能になってるみてぇダゼ』


 互いに交わしている会話の内容が分からない外野の者達は首を傾げるばかりだが、本人らは納得したか其処で黒衣の少女へと意識を向けた。


『見抜けた理由だガナ、お前からは【ツインテール属性】の他ニモ、より強い【眼鏡属性(グラス)】を感ジル……それが答エダ』
「ふふふ……当たりだ、童女の協力者よ。妾のこの【グラスギア】は【眼鏡属性】を核ともしておる。これはトゥアール、ソナタへのあこがれが故に生み出せたものなのじゃぞ?」


 言いながら視線を向ける先に居るのは、トゥアール扮した仮面ツインテールではなく、総二の変身したテイルレッド。
 どうも黒衣の少女はレッドの事をトゥアールだと誤解しているらしく、気味の悪さが漂う薄い頬笑みを絶えず向けていた。

 当然、テイルレッドこと総二には彼女に覚えなど、それこそ微塵もない。


「おっと、そう言えば自己紹介がまだであったな……妾はダークグラスパー、アルティメギル首領直属の執行官じゃ」
「「「「!?」」」」

「……アルティメギル……か」
『みてぇダナ』


 明らかに何の幻獣も混ざっていない純粋な “人間” である筈の少女が、有ろう事かアルティメギルに所属している事を告げたのだから、テイルレッド達の中に生まれた驚愕の度合いは決して小さくはなかろう。

 そして恐らく姿が似ても似つかないテイルレッドをトゥアールを勘違いしているのも、コアとなっている属性力がトゥアールの物だからに違いない。
 その判断基準から……ますます、ペテンにかけていると判断しづらくなっている。

 まだ単純感情種のエレメリアンだと言われた方が、テイルレッド等も納得が出来ていたというのに。


「一体……一体君は、何者なんだ?」


 狼狽を必死に隠しながらテイルレッドは聞き、対するダークグラスパーは笑みながらも瞳を伏せた。


「……やはり妾が余りに美しく成長し過ぎ、嘗ての姿と記憶が重ならぬか……喜ぶべきか悲しむべきか、しかし寂しいものよ」

「そんな事誰も言ってない」
『テメェは頭蓋骨ん中グミ詰めのアホんだラカ。自画自賛すンナ、気持ち悪ィ』

「な、何じゃとこの無礼者共めっ!」

「『知るか』」


 辛辣なグラトニーとラースの突っ込みにより、ダークグラスパーが纏っていた威厳と数秒前までの深刻な空気が、物の見事に霧散してしまった。

 あんまりな物言いに対し続けて追求しようとするのだが、場の空気が乱された事に気が付いたか、ダークグラスパーは一度大きく咳払いをする。


「ん゛んっ! ……トゥアールよ、ソナタとの思い出を語れば、妾が誰なのか思い出してくれるかのぅ?」
「いや……」


 思い出すも出さないも端から面識などない。

 誤解だと如何伝えるべきか、それとも隠し通すために行動を起こすべきか。

 悩むテイルレッド……その彼女の耳に、通信が届く。


『総二さま、総二さま……此処は私に任せてください。まずは後ろにお手を』
「……」


 言われるがままに気づかれぬよう後ろに手を回せば、音もなく置かれたのはトゥアルフォンと呼ばれる携帯型通信機器。

 これを介して、ダークグラスパーにどのような策を講じるのだろうか。


「イースナ、なぜあなたがこの世界に?」
「……!?」

「おぉ……おぉ! 思い出してくれたのか! そうじゃ、そなた一番の信奉者(ファン)であったイースナじゃ!」


 瞬間、テイルレッドの身体は驚愕で跳ね上がりそうになる。

 何せ『自分の声』が背後から響いて来たのだから。それもトゥアルフォンを介して声を変えているのだと瞬時に看破し、己の心を落ち着かせる。
 ……何をする為に編成機能を搭載させたか、そこを深くは考えないでおいた。


「……“ファン” のルビ振られた漢字、何か変だと思う……」
『其処に対するツッコミは無しダゼ……』


 またグラトニー達がボソボソ言っている事も、彼女はなるたけ耳に入れないようにしていた。

 兎も角……なんとか挙動を残しそうになるのを抑え、テイルレッドは深刻さを演出するのと、不自然な口元を見られないようにと、探偵の良くやる手の形を取って口元を隠す。

 表情も変わらぬよう、険しいままで固定していた。


「依然と随分性格が変わったようですが……それも【グラスギア】とやらのお陰で?」
「いかにも。この【グラスギア】を纏いダークグラスパーへと変貌を遂げた時、妾は本当の自分と成れる。貴女の隣に並び立てる一流の戦士にな」

「……」
『ハ、一流も何モ……んな力使って誤魔化す時点デ、力だけなら未だしもその性格ハ、真にテメェのもんじゃあねぇンダヨ……』


 聞こえぬよう呟かれたラースの言葉に、グラトニーは同意したかのように軽くうなずき、目を細めていた。

 当然イースナと呼ばれた少女や、テイルレッド達には届いていない。


「あなたは属性力を奪われる事無く健在……と、言う事は侵略が終わるその前に、アルティメギルへ下った訳ですか」


 其処に対してはやはり同法相手という事もあり、加えて見捨てた事実からの罪の意識が拭い去れないか、笑みも見せずバツが悪そうに頷くイースナ。


「しかし……基礎の技術ならまだ分からなくもないですが、【テイルギア】のシステムなら私のオリジナルの筈……何故、アルティメギルが保有しているのですか?」
「妾の心の力のお陰じゃな。そなたにずっとずっとずっと憧れ、そなたをずっとずっとずっとずとずっと見続けているうちに、妾の眼鏡へ不思議な力が宿っておったのじゃ。これとテイルギアの記憶を元に返信ツールへ改良したこの眼鏡を、妾は【神眼鏡(ゴッドめがね)】と呼んでおる」

(『うーわダッセェ……』)


 誇らしげにメガネのフレームをつまみ、意気揚々と説明していたイースナであったが、グラトニーとラースのコンビからの感想は酷くド直球なモノだった。

 恐らく二人とも絶妙的に微妙なネーミングセンスに、外側へ出す方は堪え切れても、内心でのツッコミの抑えが利かなかったのであろう。

 ……ちなみに話を聞いていたツインテイルズ三人は、同じ気持ちなのか目も口も横一文字で、何とも言えない表情となっている。
 トゥアールだけは残念センスが共通しているのか、いまいちよく分からない表情をしていたが。


 しかしそんな事などつゆ知らず、次はイースナからトゥールに扮するテイルレッドへ質問を投げかけてきた。


「妾にも教えて欲しいのだ、トゥアール。御主は何故にそのような幼子の姿へ変わっておる? 御主が幼女ばかり愛する戦士である事など、世界全土で知る事実ではあったが……」


 つまるところ、トゥアールは自身の暮らしてきた元の世界でも、ロリコンぶりをいかんなく発揮しさらけ出していたらしい。

 テイルレッドはまだ耐えたモノの、テイルブルーにテイルイエロー、そしてグラトニーの顔は何とも遣る瀬無い物となっていた。
 特にテイルブルーには、軽く殺意が混じっている。

 そんな本来なら自分にとって本心とはいえ、顔に思い切り泥をつけて石灰つけて、生ゴミぶちまけてもまだ足りない不快な情報を流されて尚、戦い続けたという女戦士は……流石というべきか、出まかせを次から次へと口に出してきた。


「贖罪のつもりだったのです……初めの内は、ですが。自分の身体をあえて捨て、己の愛した幼女(者達)の姿へ敢えて変身する事で、そしてこの世界を守る事で罪滅ぼしをしようと。しかし……子の身体に代わる事を拒みはしなかった、寧ろこの身体は悦んでさえいました。」


 好きなモノに変わるだけでは、確かに罰とは言えないだろう。その内容が如何せんトンデモないのは、まあこの際余所へとおいて。


「やがて完全にこの身体を受け入れてしまった時には、もう私は以前の姿には戻れなくなっていました……貴女の知るトゥアールは、もうこの世界には存在しないのです」


 その言葉にイースナは眼鏡の奥の瞳をいっぱいに見開き、恐ろしげな異形でも見たかのごとく震え始める。


「そんな……一時的なものではない……? ……ではおっぱいは! そなたの聳え立つおっぱいはいったいどうしてしまったと言うのじゃ!」
「身体に拒絶されたのはおっぱいの方です。次元のかなたへ消え去ったおっぱいは、今何処とも知れぬ空間でむなしく二つ、聳え立っている事でしょう……」
「な、なんじゃとおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」

「『…………っ!』」」


 ギリリリッ!! と回転ノコギリを鋼鉄に充てたと聞き紛わん、そんな不快な音が連鎖的に鳴り響く。
 発信源はグラトニー―――会話を邪魔する訳にはいかないと分かっていて……だからこそ耐えるしかない状況の為、このような音を立てる事態になっているのだろうか……。


「幻滅したでしょう? では、新たな出会いを探してください」
「何の! 貴女のおっぱい、この妾が必ずや取り戻して見せる! なんなら妾の膨らみかけのおっぱいをやろう!」
「膨らんでいない方が好きだと、私は言った筈でしょう? イースナ」
「うぬぬぬぬ……」


 悔しげに唸るイースナだが、トゥアール……もといテイルレッドは涼しげな顔。

 実際はそれも表面的なもので、視線が余計な場所へ行って話を脱線させないよう、内心は結構必死だった。


「そこまで可愛くなったのならば、どの世界でも引く手数多……私の事など諦めなさい」
「むぅ……いいやっ!」


 何処からともなくイースナは、年季の入っていると見える擦り傷やくすみ後の目立つ、彼女の様に黒い携帯電話を取りだした。


「この携帯電話に登録されたアドレス……貴方は元の世界を離れた際、それを捨ててしまったのじゃな……だが、妾のアドレスはあの時と変わらぬ。如何かもう一度、交換してはくれぬか?」


 数多の世界を渡ってきて、時に世界まで滅ぼして……なのにその主な理由の一つが、たった一人と携帯電話のアドレスを交換する為だけだったと知られれば、灰色となった世界の住人はどれだけ絶望するだろうか……バカバカしさゆえに見当もつかない。

 だがそれでも思い人を追いかけ、もう一度つながりを持ちたいと言うのは本気。
 此処でパイプを作っておけば、何かしら有利になるので、裏心を持って接する事も出来る。


 幾つもの世界を超えてきた、自分を慕う少女の頼みに、仮面ツインテールであるトゥアール本人は長い長い沈黙を挟み―――――







「―――――ワタシ、イマ、ケイタイ、モッテマセン、ヨ」


 安易すぎて何も言えなくなる、幸先不安な嘯きを口にした。

 オマケにかなりの片言文句。
 不自然にも程がある。


「ケイタイを持っていない!? 何故じゃ、あれほどいつも持ち歩いておったではないか! 肌身離さず持ち歩き、幼い女児達へメールアドレスを配り写メを送るよう頼んでおったではないか!! 皆が皆トゥアールに気に入られようと必死になり躍起になり、そのアピールが段々とエスカレートした揚句―――」
「んんんんふうううぅぅぅぅうぅぅんのおおおふんぐふああああああんっふ!」


 咳払いなのか言葉にならに悲鳴なのか、怪生物の鳴き声なのか判別の付かない咳払いの果て、トゥアールは急き切った様子でまくしたて始めた。


「ほら! それはアレですアレ! エレメリアンに襲撃された子供達の心身状態が不安定にならぬよう、アフターケアをしていた為です! 頼もしいお姉ちゃんが何時でも貴女の傍に居るからね、と! 心配しないでいいからね、と!!」

「……言い訳がましい……とか、そういうレベルじゃあ、無い」
『寧ろ盛大に墓穴掘ってるヨナ。日本からブラジル近くまで届くぐらい深っけぇレベルデ』

「んんふぐおおおおふんんああああんんっふ!!」


 再び発せられる怪音声。

 どうもトゥアールは、観束総二の返信するテイルレッドさえ誤魔化せればいい……と思っているようだ。
 が、実際の所グラトニー達の発言や、トゥアールがイースナではなく自分へ言い訳している様な発言だった事もあり、疑いの心はMaxで広がって弁明しても既に手遅れなのだが。


 ただ自分の中では水に流せたと思っているらしく、トゥアールの声は先までの嫌に真剣味を帯びた、シリアスモードなモノへと戻る。


「……今は、ただ戦うだけの日々……誰かのケアなどおこがましい事はできません」
「遠慮はしないでほしいのじゃ! 今まで妾達のアフターケアを担ってきたというのなら、今度は妾がそなたのアフターケアをして見せよう! 二十四時間何時如何なる時も、メールを貰えれば三分以内に返信する! 約束しよう!!」

(……なんとなく、トゥアールが避けようとしている理由が見えてきた……)


 イースナの気迫たるや、それこそ食事中でもテレビの大事な場面でも、熟睡していても飛び起きて形態を握る……と、そう思っても不思議ではないオーラが放たれていた。

 そして注意深く見れば分かる、きれいとは言えない目の色と必死さ……如何に鈍感な人間でも、何が起こるかが想像できる。


「無駄ですよ。貴女にアルティメギルを抜けるようにと、そう説得しお願いしても変わらないように」
「! ……くうっ」


 否定できる事ではなかったようで、目の端に涙を溜めたまま、イースナはマントを翻してテイルレッド達に背を向ける。

 同時に極色彩の膜状を持つゲートが現れた。


「其処まで固い決意ならば仕方無い、今日の所は引き揚げる……だがトゥアール! 妾は決して諦めはせぬ! 幾つもの世界を渡り歩き、ようやく出会ったのじゃ!」
「……」
「そして、これだけは覚えて置いて欲しい……妾は何も仇なす為に軍門に下った訳ではなく、妾の大切なモノを守る為に与したのだと!」


 その言葉は今までの無駄に次ぐ無駄な会話と違い身のある物で、何よりテイルレッドが一番聞きたかったものであったのだが……もうそれを聞く時間は残されていない。


「最後に言っておこう…………妾のメールアドレスは、あれから変更しておらんからなっ!」

「『最後にそれかよ』」


 捨て台詞に重なるツッコミを受けながら、イースナは光膜の中へと消えていった。

 そこでトゥアールは仮面を脱ぎ棄てると、軽く頭を振って髪を整え、静かに青い空を見上げた。
 テイルレッドも緊張感から解放されたとばかりに、肩の力を抜いて行く。


「えーと、お前の世界の人間だってのは分かったけどさ。どうも話してるだけで齟齬があると言うか……何なんだ、あの子?」
「総二さまも分かる筈です、多くのファンを持つリスクを。御行儀が悪いだけなら未だしも、度を越した悪質なファンだったんです。……別格というべきでしょうね、凶悪かつ悪質なストーカーでしたから」


 尤もな言葉ではあるが、世界まで超えてきたとなれば……もしかするとトゥアールの表現でも足りないかもしれない。

 衣裳だけでなく、イースナは内面まである意味 “黒い” らしい。


『だからってリスク管理ぐらい出来るだろウガ。見境なくメールアドレス渡してたノカ、譲ちゃんはヨォ?』
「俺もアドレス握らされることはあるけどさ……流石に自分から教えたりはしないと言うか……」


 ラースのコレもまた的確な発言に、まずはグラトニーの詳細よりもトゥアールの詳細を暴くべきだと判断したか、テイルレッドは追求せず彼の言葉に乗る。


「あの頃のイースナはとっても(かわい)かったので、つい贔屓してしまってですね……ですがご安心を、もうストライクゾーンから外れてます。あの頃の少女って、少し見ない内に行き成り成長しやがりどおおおぅっはあああああぁぁぁぁ!?」
「うえっ!?」


 刹那、言い訳をしていたトゥアールが派手に打ち上げられた。行き成り地面が長方形に切りぬかれて跳ね上がった事に、テイルレッドは驚きを隠せない。

 発生源をさぐれば……其処に居たのはグラトニーだった。


「……言い訳がましいにも程がある。普通に……ムカついた」


 ジト目なのだが目が険しい。
 トゥアールの《自分に非は一切ございません》的な発言に、今まで耐えていた分が上乗せされ爆発したのだろうと推測できる。

 ガツン、と洒落にならない音を立てて大地に激突したトゥアールだが、衝撃そのものは少ないのかよろけながらも立ち上がった。


「こ、こんな言葉を発するのにも訳があってですね……イースナはひどい時には一時間に六十通、それぞれ文面の違うメールを送ってくる人間メールサーバーと化してたんです……」
「うーわ、エレメリアンより怖いし……」

「……でも自業自得」
『ダナ。事実は変わらネエ』


 確かにイースナの兇悪ぶりはトゥアールの語気が荒くなっても仕方ないと思える物だったが、もとはと言えばリスクの管理を怠って幼女にメルアドを送りまくった、他ならぬ本人にも非がある。

 グラトニーとラースはその事を誤魔化させも、否定させもしなかった。


「うおっほん! ……兎に角、あの調子ならしばらく来訪は無いと考えて良いでしょう。その間にゆっくり対策を立てればよい事です。総二様には後でより詳しく御教えするので、私の部屋に来てもらえますか? 愛香さんには内緒で一人で。すぐに鍵を閉めますが機密保持の為ですのでご安心を―――」




「随分マナーの悪い、困ったちゃんなファンがいたものねぇ……信望相手の、悪いとこばっかり真似しほうだいなんて……ねぇ?」
「ひぃぃぃぃいい! 存在を忘れていた!!」


 何時の間にかトゥアールの傍へにじり寄っていたテイルブルーが、頭をがっしりと掴んで何度もぐるぐる振り回し始める。


「グラトニー、パス!!」
「……OK、アタック……!」


 繰り出されたテイルブルーの投げ技によるトス。
 斜め上へ軽やかに上昇していくトゥアールをグラトニーが追撃。


「ふぎゃらがあああぁぁん!!!」


 地面が拳によりぶっ叩かれ、サーカスのブランコの如く一回転してきた岩板が、トゥアールの顔面をアタックした。

 見事な息の合いようだった。


「今はそんな事やってる場合じゃないでしょ! あいつがまだ寝てるんだから!」


 テイルブルーの指差す先には、未だ動きを見是無いウージの姿がある。

 とんでもない展開続きで頭から吹き飛んでいたのか、テイルレッドもトゥアールもしまったといった表情になった。
 グラトニーに後始末を任せる事にはなっているが、だからと言って放っておいても良い相手だと言う訳ではない。


「ほら、さっさと片付けるわよ。起き上がらない内に対応しとかないと、やばい事になるんだから」
「テ、テイルブルー……それはフラグですわ―――」



「Fuー……」


 此方もまた近寄っていたイエローが言い切る前に…………何と間の悪い事か。


「Vai bija zaudēja samaņu……」


 ウージが、起き上がってしまっていた。


「―――よ」
「し、しまったぁぁぁっ!?」
「ちょちょちょ、どうすんのよ!?」
「そんな事私へ言わてもっ……!」


 頼みの綱のグラトニーは、先の様な妨害目的の力の行使が出来るぐらいで、戦闘など無理難題。

 微妙な空気から一転して、何と絶体絶命な状況が出来上がってしまっていた。


「どうすんのよあんたホントに!! ふざけた事ばっかりやったり、アホな会話長々続けるからこうなったんでしょうが!」
「私に責任を押し付けないでください! 寧ろ、此度の戦闘で蛮族ぶりを発揮しきれていない愛香さんにも非がありま……せんね、あの人超強いですし……」
「クールダウンしないで! 現実が突き付けられる!」


 責任の追及先や、矛先すらブレブレな言葉を交わす間にも、ウージはふら付きながら起き上って来ている。


 ゆっくりと右手をあげ、その僅かな炎の宿る掌をテイルレッド達へと向けてくる。
 防ぐだけならばできるかと、グラトニーは左手を掲げて―――


「Otrs es atstāt šeit. ……Tā zaudēja jau priekšrocības」
「……え?」


 不意に相手は後ろを向くと、中央の空間が真っ黒な炎の円環を作り出し……無言のままに消えて言った。


「はい?」
「た、助かりました、の?」
「みたいだけど……」


 予想外な場所から降ってわいた幸運を信じ切れず、四人は辺りを警戒しながらも一斉にグラトニーの方を向く。


「……説明する。だから、まずは傷を癒したい……」
「あ、悪い!」
「まってて……すぐ運ぶからさ」


 言いながら近づこうとしたテイルブルーだが、ルパンダイブでグラトニーに飛び込んでいくトゥアールをぶちのめすのに忙しく、結果テイルレッドとイエローで運ぶ事となる。


 ……こうして単純感情主の乱入と、ダークグラスパーという新たな敵の登場劇は、消化不良のままに終わったのだった。

 
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