フリージング 新訳
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第33話 Goodspeed of the East 1
前書き
皆様、二重の意味でお待たせしました‼︎一つ目は時間的な意味合いで。何しろ文化祭と体育祭のダブルパンチだったので……本当に申し訳ございませんでした!
そして二つ目は、皆様お待ちかねのあの人の登場です‼︎感想で何人の方にヒロインに!と要望があったこと…そして、そこまでの道のりの長かったこと……
それでは、お望み通りになっているかはわかりませんが、どうぞ。
子供の頃、流れ星を見たことがある。
それはとても綺麗で、すぐにお願い事をしなければならないと子供ながらに考え、その時は確か「カズハに組手で勝てますように」とお願いしたのだ。
そして、今俺は再び流れ星を目にしている。それは本物ではないけれど、速度そのものは流れ星のソレと同レベルだ。
「ハァッ‼︎」
「ゼアァッ‼︎」
眼前に迫り来る刃に合わせて、グラディウスを振るう。しかし、その剣尖が届くことはなく、再び相手の刃が見えなくなる。
ーどこだ、どこに消えた⁉︎
周囲を見渡しても、相手の姿は見当たらない。度々どこかを通る音が聞こえてくるが、きっとそれすらもアテにはならないのだろう。アーネットも、サテラも、ましてや自分でさえ届かない、速度の領域に彼女はいるのだ。
「っ!後ろか⁉︎」
グラディウスを逆手に持ち、背中へと回すと神速の攻撃がぶつかり、体を宙に浮かせた。態勢は悪いが、今のを防がなかったらもっと酷いことになっていただろう。その証拠に、グラディウスに亀裂が入っている。
再びその姿が消え、殺気が周囲に充満する。それが一箇所ならば問題ないのだが、全体に広がればどこにいるかも分からない。
どうしてこうなったのかは、順を追って話していこう。
***************
「え、イーストジェネティックス…ですか?」
先日の戦闘から数日が経ち、カズトの体のサイズも元通りに戻った頃のこと。つまりはほんの数日前だ。
学園長に呼び出されて言われたのは、イーストジェネティックスに行け。端的に言えばそういうことだった。
「あの、いきなりどういう?」
「先日の身体的な問題を解消、または解析するために、イーストジェネティックスにいる、ある科学者に協力を仰ぐためです。」
もっともらしい理由を並べているが、おそらくは国同士の政治的な問題だろう。
世界でただ一人の男のパンドラ。それを独占されるのは、面白くはないだろう。
だからカズトを解析の名目で解剖しようと言うわけだ。
だが、ここで行かないわけにもいかない。自分のことを一番知りたいのは、自分自身なのだから。
「わかりました。そういうことなら。いつ行くんですか?」
「今からです」
「……今からですか?」
ということで、カズトはイーストへと向かったのだ。
イーストはカズトのホームであるウェストとは違い、どちらかと言えばアウェイのような場所だ。だから、知り合いもいないので、どうしてようかと手持ち無沙汰になっていると学園長がこちらのお偉いさんと話している間、イーストを探索していてもいいと言われ、フラフラと園内を歩き回っている。ウェストも豪勢というか、やはり恵まれた人の来る場所といった雰囲気である。自分がいるのは場違いなのではと思ってしまう。
「いや、それを言うならラナもかな…」
あの子はどちらかと言うとお嬢様ではなく、お転婆娘といったところだ。
自分よりはマシだとは思うが、それでも普通の学園でなら恐らくリーダーになれる素質の持ち主だろう。
ゼネティックスではシフォンがいるから難しいが、それでも彼女には素晴らしい素質がある。自分とは違い……
「……あれ?」
そこで気がついた。気がついてしまった。自分の周りにいる人たちは、全員が全員自分とは違って、行動原理がある。
ラナには、一族の掟が。シフォンには、恐らく最強としての自負が。イングリットさんには、秩序が。アーネットさん達には上級生としての誇りが。
そしてサテラには、負けないという信念がある。
では自分にはなにがある?
今までの戦いも、女神の電話で行かされて、成り行き的にその場に流されてやってきたにすぎない。
自分にはアオイ・カズトには、自分が何もない。
「……俺は、がらんどうなんだ」
転生してからというもの、原作通りに動かされ、自分で選んだ道は殆どない。これではまるで人形だ。今回のことだって、学園長に言われなければ来なかっただろう。
どうして急にこんなことを思ったのだろう。あの小鬼は出てきていない。これは自分が気づいたことだ。
ふらふらと歩いていると、中央に噴水のある庭園へと辿り着いた。
「はぁ〜、やっぱりこの人の書く文章は素晴らしいわ〜」
ぼんやりとしていると、控えめながら、情熱の篭った声で何かを絶賛している人が目に入った。
薄い緑色の髪をポニーテールにした美しい、と言うよりも可愛らしいが似合うであろ女子生徒。
ベンチに座って、本を抱きしめている。
声をかけるべきなのだろうか。
そう迷っていると、逆に相手の方がカズトに気がついた。
「あ、ど、どうも……」
「こ、こんにちは…」
場に沈黙が走る。それは殺気立ったものではなく、お互いに困惑してなにも言えないと言うものだった。
「えっと……」
「ひっ……!」
「………………」
一歩近づこうとすると、怯えるように引かれてしまう。怯えさせる要素などないはずなのだが、恐らくは男性そのものが苦手なのかもしれない。
どうしよう……と、悩んでいると女性の手にある1冊の本が目にとまる。
「そ、その本って面白いんですか?」
「え?」
すると、女性の警戒心が一瞬だけ薄れた気がした。自分の興味のあるものの話ならば、もしかしたら聞いてもらえるかもしれない。
「さっき、その本を大絶賛してたので、面白いのかなぁ〜なんて……」
「……ええ、これは、私が一番好きな作家さんの最新作で、何度読み返しても感動してしまうんです」
警戒心が解けてからは、意外にも打ち解けることができた。
彼女はキャシー・ロックハートといい、ここの三年生に属していると言った。正直に言えば、彼女からはこれまでにあった三年生とは違い、なんと言うかオーラというものが無かった。
「あはは、先輩にもよく言われます。覇気が足りないって」
「あ、気を悪くしたのなら……」
「いえ、自分でもそう思ってるんです。少し前にあった事件でそれを思い知らされて……色々と悟ってしまったんです」
何があったんですか、とは聞けなかった。ついさっき会ったばかりの人にそこまで踏み込むことはできない。
「それに、他になりたいものがあるんです」
「へぇ、そうなんですか。それって…」
「あ、えっと…………せつかに……」
「え?」
聞こえなくて思わず聞き返してしまった。
「小説家になりたいんです!」
カズトが乗り出して聴いていると、キャシーが大声で言ってくる。その目は真剣そのもので、冗談などではないことがよく分かる。
ーこの人には、自分の夢があるんだ……
それが、何よりも羨ましかった。
「すごいですね……自分があつて……」
「え?」
カズトの台詞が以外だったのか、キャシーは惚けたような表情をした。今まで誰からも、親ですらも肯定しなかった自分の夢を、初めて肯定してくれたからだ。
「俺には、何にもありませんから……」
「…………!」
自嘲気味に笑うカズトを見て、キャシーはかつての自分を重ねた。その姿は、儚く、寂しげで、どこか、惹かれた。
「あ、あの……」
キャシーがそうたずねようとした時だ。二人のポケットに入っていた携帯端末が振動した。どうやら時間が来てしまったらしい
「それじゃ、そろそろ自分は行きますね。ありがとうございました」
カズトは一礼してもと来た道を歩いていった。その後ろ姿に、キャシーは問いかけた。
「あ、あの!」
「はい?」
「貴方の、お名前は?」
一瞬の沈黙。その時のキャシーには、それがとても長く感じた。
そして、ニッコリと微笑んで端的に答えた。
「アオイ・カズトです。まて会う機会があれば、どうぞよろしく」
そう言って今度こそ歩いていった。
「アオイ……カズト……」
キャシーは、反芻するようにカズトの名前を呟いた。たった数分話すだけで、彼のことが頭から離れなくなっていることに、彼女はまだ気がついていない。
後書き
今回も、作者の駄文にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。最近、感想が来なくて見てくれているのか心配になってきたコロモガエシです。
感想ください‼︎本当に、よろしくお願いします‼︎
そして、次回もお楽しみに‼︎
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