エターナルトラベラー
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第六十二話
出会いは必然と言うけれど、俺と彼らの出会いはどうであろうか。
アインクラッドの攻略も20層超えたある日、俺とシリカは現在の攻略層より5層ほど下だが、最近発見されたばかりのエリア、『ヴェレーノ湿原』へと来ている。
この湿原、発見されたは良いが、その地形効果ゆえに物凄く人気が無い場所だった。
辺りは日中でも視界をさえぎるスモッグが覆い、一歩でも湿原に踏み入れればたちどころに毒、麻痺、ブラインと言った状態異常をランダムで食らう。
解毒ポーションで回復してもインターバル10秒で再度状態異常状態になるので、このマップの中央にあると言う『不死者の洞窟』をクリアした者は居ない。
クリアと言うか、洞窟までたどり着いたプレイヤーすら居ないと言うべきだった。
耐毒ポーションを使用すれば、短い時間だが状態異常になる事は無い、しかし、洞窟へたどり着くにどれだけのコルが掛かる事か。
迷宮区では無いし、お金の問題で誰もここを無理に攻略しようとは思わないのだ。
ならば何故ここに俺達が来ているのか?
それはスキル上げをするためだ。
まず、慎重に沼地との境界でモンスターのPOP場所を見極める。
その後アクティブかノンアクティブかを入念にチェック。
ここなら何も無ければ絶対に襲ってこないスポットを見つけるまでに掛かった時間がおよそ半日。
しかし、苦労に見合う物であると信じて頑張った甲斐はある。
俺は耐毒ポーションを飲み、クゥを連れて一歩沼地へと踏み入れる。
「クッ…クゥ…」
たちまち毒、麻痺の二つの状態異常に陥るクゥ。
「ゴメンね、クゥ…」
しかし、心を鬼にしてアイテムストレージから解毒ポーションを取り出して使用する。
状態異常から回復するが、すぐさま今度はブラインと麻痺の再度状態異常へと陥るクゥ。
それをまた解毒ポーションで回復。
これをコルが尽きるまでひたすら頑張る。
もはや気が遠くなるような作業だが、アイテムを使用しなければ「アイテムの知識」スキルは上昇しない。
HPがマックスだと使用しても熟練度が上がらない事は考察済みだったので、今回の毒湿地帯はかなりの好条件ではある。
「鬼だ…鬼が居るよピナ…」
「きゅーる」
そう言うシリカは3回目にして運良く『状態異常・毒』の単品異常を引き当てた後沼地を出て毒状態を維持しつつ、最近スロットに入れた『バトルヒーリング』のスキルを上げている。
このスキルは失ったダメージを秒数に応じて回復させるスキルだが、これを上げるためにはHPを減らさなければならない。
ならば下層で凹られれば良いのではともおもうが、レベル制MMOでは高レベルになると、ザコ敵にいくら殴られようがダメージは極端に下がってしまう。
ほぼ受け付けないと言ってもいい。
これではHPは減らない。
必然的に適正レベルより少し下のMobとなるのだが、それは死の恐怖が付きまとうので、普通の精神の持ち主ならば選ばない。
ならば、と毒属性もちの剣は無いのかと言えば、ある事はあるそうだ。
しかし、結構レアドロップ品らしく、普通のプレイヤーには出回らない。
さらに貫通継続ダメージもHPは減少するのだが、ジクジクとした痛みを四六時中受け付ける精神的な強さがあればの話だ。
そんな中で光明が射したのが今回の毒湿地帯。
毒も多少の酔いのような感覚はあるが、痛覚よりははるかにマシだった。
とは言っても、ここは最前線より低いが、それなりに高レベルな階層で、ここまで来れるプレイヤーはまだ少ないために試行錯誤が殆ど行なわれていない。
有る意味俺達が一番乗りか。
現段階ではバトルヒーリングで回復するHPよりも毒で受けるダメージの方が大きく、戦闘を伴えば命の危険性すらある。
シリカは時折自分でポーションを使用してHPを回復させつつスキル上げを行なっているが、気を利かせたピナのヒール効果も上乗せされるので実際はノーコストではなかろうか?
数日、そんな地味な作業を続けていると、索敵範囲内に大量のMobを引きつれこちらへと走ってくるPTを感知する。
「おいおい、なんかやばそうだよ」
「何があった…あれ?これは」
シリカも自分の索敵マップを見たのだろう。そこに現れる大量のMobの光点。
「ちょっ!やばくないですか!?」
「こっち来てるのがやばいな」
モンスターをトレインしてくるPTがこちらへ駆けて来るのが目視で確認できる。
このままではMPKもありえる話だ。
俺は直ぐにスキル上げを中断すると、アイテムを使ってクゥの状態異常とHPを全回復させると同時に耐毒ポーションをシリカ、ピナ、クゥに使用し、再度自分に重ねがけをする。
この辺りのモンスターは状態異常攻撃がデフォルトなので、安全に戦いたかったらどうしても耐毒ポーションの服用は免れない。
遠くの方でこちらに向かうPTの怒声が聞こえる。
「っあ!」
こちらに向かって一生懸命に先頭を走ってくる痩身の長剣使いの男。
「何だよ!今は忙しい、死ぬ気で走れよっ!」
そう言うのは少し低めの身長で小太りなハンマー使いの男だ。
「だが、見ろっ!前方に誰か居るぞ。俺らしっかりとトレインしているし、このままではMPKになりかねん。」
「おおっ!これはまずいな」
「ああ、だから、俺はこいつらを連れて行くわけには行かないっ!」
「っなんと!その男気溢れるセリフに痺れる!憧れる!ただし、こんな状況じゃなかったらなっ!」
明らかに2人では対応できないようなモンスターの数だ。
長剣使いの男は走るのをやめて振り返ると、長剣を抜刀し、肩に担ぐようにして水平に構えて停止する。
刀身にライトエフェクトが発動してソードスキル特有の溜めの動作だ。
「いくぜっ!ゼノンウィンザードっ!」
…
…
…
なんかアレな言葉を発していたが、あれは長剣スキルの『ジャンプスラッシュ』じゃなかろうか…
しかし、それでも食らわせたゾンビウルフは一刀の元斬り伏せられる。
「おおっ!それじゃオレも行くぜ!」
今度は小太りの男がハンマーを振り回す。
「ラケーテン」
そして肩に担いだ所でライトエフェクトが発光する。
……最初の回転、無駄じゃない?
「ハンマーーーーーーー」
気合と共に振り下ろされるハンマー。
もう一匹のゾンビウルフが押しつぶされて爆散する。
しかし、今のは『ポールクラッシュ』だよね?
うん?
そういえばなんか今気になる言葉があったような?
って、そんな事を言ってる場合ではなかった!
30体を超える数のゾンビウルフの大群がスキル硬直をした彼らに迫る。
「あーっ!危ないですよっ!アオさん、あたし達なら行けますよねっ!」
安全マージンは十分稼いでいる。
この階層での戦闘なら十分やれるはずだ。
「大丈夫だ。だけど、もしもの時は転移結晶を躊躇い無く使うよ」
転移結晶は、使うと宣言した街までテレポートできる代物だ。
死ぬことが許されないこの世界での緊急脱出方法として攻略組みならば必ず一つは持っている物だが、店で買うととてつもなく高価だし、レアドロップ故にドロップでの入手も難しいとても貴重なアイテムだ。
今の俺達でも一つ常備しているのがやっとの状況。
使用するのはもったいないが、とは言っても自分の命には代えられない。
「はいっ!」
目の前の彼らは転移結晶を持っていないのか出し惜しみしているのか分からないが逃げ出せずに居るようだ。
AGIの許す限りの速度で2人に駆けつけて手に持った曲刀で手近にいる一匹をしとめる。
シリカも目の前の敵を両手に持ったダガーで切り伏せた。
半年も戦い続けの日々で実践を繰り返してきたシリカは、その努力もあって御神の技を身に付けつつある。
その成果が目の前の二本のダガーを持ったシリカだ。
彼女はその小さな体を生かし少ない動きで確実に敵の攻撃をさけ、攻撃を入れている。
「クゥ!ウィンドブレス!」
「にゃうっ!」
「ピナっ!バブルブレス」
「きゅる!」
クゥとピナが放ったブレス攻撃が長剣使いとハンマー使いの2人へと襲い掛かろうとしていたゾンビウルフを吹き飛ばした。
「すまない、助かる」
「助太刀感謝する」
「感謝は後で受け付けます。今はこの状況を何とかしないとっ!」
「お、おう。そうだった!」
「でも正直俺らの出番無くね?」
俺とシリカが迫りくるゾンビウルフをちぎっては投げちぎっては投げ。
最後は片方の武器を納刀してシリカと2人でソードスキルで蹴散らした。
数が多いので何発か攻撃を食らってしまったが、事前に服用していた耐毒ポーションのおかげで追加効果の状態異常は無し。
被ダメージも問題ないレベル。
少々強引な戦いでも殲滅できるだろう。
五分もしないうちにゾンビウルフの大群を掃討し、一息つく。
「いや、助かったよ」
「本当にありがとう。もう少しで死んじゃう所だった」
改めて2人が感謝の意を述べた。
「いいですよ。あたし達が勝手にやった事ですから」
シリカが謙遜する。
「いや、助かったのは事実だ。何かお礼がしたいのだが…」
その時遠方から声が聞こえた。
「おーーーーい、ゼノン、ヴィータ」
やって来たのはこれまた小太りの男性。
装備は斧剣のようだ。
「おう、フェイト、こっちだ」
斧剣使いが合流する。
「なぜ2人ともいざと言う時の退却予定コースの逆に逃げるかな!?あわてて追いかけてきたけれど、大丈夫だったのか?」
「おめぇのAGIが高くて俺達にタゲが集中したから仕方が無かったの!だいたい小太りが速いとかやはりおかしいだろ!」
「そこはゲームなんだからしょうがないだろ!」
まあひと段落した所で話を纏めると、ここの狩場はコル的にはそこそこおいしいようだ。
そのため、毒沼地のギリギリのところでタゲを取り、誘導して戦っていたらしい。
しかし、そこでこの辺のモンスターのトラップが発動した。
どうやら同じ場所で戦い続けると打倒したゾンビ系の腐臭がMobを呼び寄せるようで、気が付いたときには30を超えるゾンビウルフに囲まれていたようだ。
何とか後方へと穴をあけ、逃亡したのだが、そこはやはり狼。なかなか逃亡を許してくれなかったらしい。
その内にAGIの関係で距離が開き、タゲを外れた斧剣使いはあわてて追いかけてきたそうだ。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はゼノンって言う。見ての通り長剣使いだな」
「オレはヴィータ。槌使いだよ。よろしく」
「フェイト・T(ティー)・ハラオウン。武器は斧剣」
なん…だと…?
「あたしはシリカって言います。メイン武器はダガーですね。そして…アオさん?」
様子のおかしい俺をみて戸惑うシリカ。
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン?」
呟いた俺の声も、VRシステムでは距離が近ければ聞き逃す事は無い。
「っ!」
「何っ!」
「もしかしてっ!あんたっ!」
「っ!いや、何でもないっ!」
あわてて誤魔化すがとき既に遅し。
「なあ、あんたもアレなんだろう?」
ゼノンがアレと暈かして俺に転生者だろうと問うた。
フェイト・T・ハラオウンはこの世界では誕生していない。
彼女は今は御神フェイトだ。
しかし目の前の小太りの彼のアバター名は原作の彼女の名前だ。
それを名乗った辺り、彼が転生者であるとうかがえる。
まあ、その横のヴィータとラケーテンハンマーの掛け声も考慮してだが。
俺は観念して認める。
「…ああ、ご察しの通りだ、ご同輩。俺の名前はアイオリア。武器は曲刀だな」
さて、どういったりアクションが返ってくるだろうか。
「なるほど、獅子座か」
「獅子座だな」
「うん、獅子座」
なかなかいい趣味だなと、頷かれるが…こいつら何を言っている?
「っあの!話が分からないんですが」
訳が分からないと言った感じでシリカが言葉を発した。
「っ、まて、俺らと一緒だと言う事はアレ(オタク)だったと言う事だろう」
「ああ、そうだゼノン、そのはずだぜ」
「なん…だと、ならば何故ここにこんなかわいいおにゃのこがっ!」
その時彼ら3人の心が重なった。
「「「リア充爆発しろっ!」」」
…
…
…
取り乱した三人も何とか冷静さを取り戻す。
「しかし、リアルじゃないのにリア充とはコレいかに」
「ヴィータよ、今はそんな事はいいだろう。それよりも助けて貰ったお礼の話だ」
ゼノンがたしなめる。
「そうだったな。お礼と言っても余り出来ないが、一度俺達のギルドハウスへと招待しないか?獅子座さんの話も聞いてみたい」
獅子座言うな!
どうにも俺の記憶は劣化していて、前世関連のなんかのネタなのだろうが訳が分かんないのだ。
しかし、転生者との接触は今まで散々だったからなぁ…どうした物か。
「どうします?アオさん」
どうしようか…
…
…
第十八層主街区のメインストリートから一歩小道に入りると迷路のように枝分かれする小道を3人の案内で進んでいく。
「うわぁ…こんなに入り組んでいると迷子になったら外にたどり着けずに…なんて事もあるかもしれませんね」
シリカがキョロキョロと振り仰ぎ見て一生懸命に道を覚えようとして諦めかけ、そう愚痴をもらした。
「それは大丈夫だ。NPCに頼めばいくらかのコルで道案内してくれると団長が言っていた」
試した事は無いけどと、ゼノン。
「へえ、そうだったんですか。…でもさっきからNPCを見かけませんよ?」
「………」
そんなこんなで到着したのは、入り組んだ奥の奥にある一つの建物。
「ここだ。ここが我らSOS団のギルドハウスだ」
「へぇ」
そう紹介するとゼノンはギルドハウスの中へと入っていく。
SOS団
ソードアート・オンラインの世界を精一杯楽しく生き残るための団、だそうだ。
ギルドハウスは基本、許可が出ないとギルドメンバー以外の入室は出来ないようになっているために、許可を貰いに行ったのだろう。
許可を貰い中へと入ると中はそう、所謂酒場の雰囲気で、階段を上がった二階にはいくつもの部屋があり、そうだな…酒場を営んでいる宿屋と言ったほうが分かりやすいか。
周りを見ると俺達をここに招待した3人以外におよそ4人のプレイヤーが見受けられる。
そのいずれも男だった。
彼らはものめずらしそうに俺達を伺っている。
一階の片隅に受付を改造したようなテーブルがあり、その奥に一人の男性が座っていた。
彼ははおもむろに立ち上がると宣言するかのごとく声を発した。
「ようこそSOS団へ。団長のルイだ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者、転生者がいたら、あたしのところに来なさい。以上。」
ここ、笑うとこ?
俺とシリカがあっけに取られていると、彼はそんなに心が強くないようで…
「やっぱり滑ったじゃないかっ!誰だ、今このタイミングならやるべきと言った奴はっ!」
残りの3人の内2人が残りの一人を指をさす。
「え?俺のせいか?団長だってノリノリだったじゃん!」
「お前のせいか!キュアムーンライト」
「俺の名前はツキだ!その名前で呼ぶんじゃねぇ!大体団長も『確かに、この状況では言うしかないな』って言ってたよっ!それに何だよルイって!団長の名前はルイズだろっ!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!気合入れてフルネームじゃねぇかっ!」
「ガフゥっ…」
あ、かなりのダメージに倒れた…
「やばい団長が倒れたっ!誰か衛生兵!」
ゼノンが駆けつける。
「………」
声にならない声に耳を近づけるゼノン。
「最後に、このナース服を着ている美幼女の姿を見たかっ…た…がくっ」
「団長っ!だんちょーーーー」
何このカオス…
倒れた団長の手元にはアイテムストレージから取り出したと思しきナース服が…
って、よくそんな物があるよな。
後で聞いた話だが、このギルドの発足の切欠は、団長であるルイズが死の恐怖に取り付かれ、何の気も無しにはじまりの街にある一万人分のアバター名を刻む生命の碑を一日中読んで過ごしていた時に、明らかにこの世界には無い二次元キャラクターの名前を発見したのが切欠だったのだそうだ。
発見した彼は空いていたスキルスロットに『拡声』のスキル…有る意味死にスキル…を入れて、ボリュームの上がった声で前世で覚えたアニソンをはじまりの街で熱唱して回ったとか。
それで集まったのが彼らギルメンらしい。
誰も彼も殆どが元ネカマの痛ネームらしいが、気はいい奴らばかりだそうだ。
…
…
…
ようやく皆が平静をとりもどすと、団長で有るルイズ…本人いわくルイとの事だが…彼が本題を話し始めた。
「今日は内のギルメンを助けてくれてありがとう。彼らがもし死んでいたらと思うとゾッとするよ」
そう言って頭を下げる彼は、若干厨二病を患っているが、根は優しい常識人なのだろう。
「お礼、と言うわけでは無いが、獅子座君は馴染みの鍛冶スキル持ちの知り合いは居るかい?」
おいこらこの野郎っ!獅子座で固定か?俺の名前は!
「アオでいいです」
とりあえず略称で念を押す。
「鍛冶スキル持ちの知り合いは居ませんね。今までは店売りかドロップ品で賄ってました」
「ならばうちのギルドを贔屓にしないか?俺らのギルドで鍛冶スキルや裁縫スキルなどの生産系のスキルを取ってる奴が居るんだがな、その…分かるだろ?」
「何がですか?」
シリカが純粋に分からないと言った表情で聞き返す。
「……アオは分かるだろうが、俺達はな、大体の奴が初期アバターを女性にしたんだ」
「ネカマさんって奴ですか」
「ぐっ…美少女に言われるとダメージがでかい」
しばらく心臓を押さえた格好で悶絶した後再び話を続けた。
「つまり、俺らのアバター名は女性っぽい名前でここらでは生きずらい。だから寄り固まってギルドなんか作ったんだが…フィールドに出たくないギルメンは当然生産職を選択して鋳造したんだが、武器や防具を売る事が難しい」
「作った武器や防具は基本的に分からないとは言え、鑑定スキル持ちが診れば製作者の名前が分かるからな。俺達のギルドは男だけだ、そんな中、売り出しても気づかれたらいい笑いものだ」
確かにそうかもしれない。
こんな状況でもそう言った事をする人は大勢居るだろう。
さらに言えばそんな事をする彼らに罪の意識はこれっぽっちも無いかも知れない。
ただ、面白そうな事を風潮しただけ。
「まあ反骨精神で結局生産職取った奴もフィールドに出ているんだが」
出てるのかよっ!
「ああ、ヴィータがそうだ。あのハンマー使ってる奴な」
「だが、ヴィータという名前ならば別に偏見なんて無いんじゃないか?」
「……彼のフルネームは『ヴィータ・エターナルロリータ』だ」
小太りの男がエターナルロリータ…
「………」
「………」
沈黙がその場を支配した。
「っまあ!製作者名なんて殆どの場合気にする事は無いと思うよ!実際俺達が使う武器もオーダーメイドだ」
「……結構必死ですね?」
「ああ、鍛冶スキル持ちは貴重だろう?高熟練度ともなればなおさらだ。このまま彼がフィールドで命を落とせばどうなる?」
それは…なかなか厳しいな。
「だから出来ればフィールドに出なくてもいいような稼ぎが欲しい。最悪俺達が全滅してしまっても生活できるような、な」
他人のことを考えられるリーダーは本当にすばらしいと思う。
まあ、いいか。
製作者名を気にしなければオーダーメイドの武具職人と知り合えるのだから。
「よろしくお願いします」
「そうか、良かった。とりあえず、後でヴィータに素材を渡すといい。今の店売りよりは高品質の武具が出来るだろう」
「はい」
「それと…」
今度は少し雰囲気が変わる。
「すまないなシリカ嬢。男同士の話がある。少し外してくれないか?」
「え?」
「ツキの奴が君にあげたい物があるそうだ。向こうの部屋に居るから行ってくれると助かる」
「アオさん?」
どうしたらいいでしょう?と目線が訴えている。
「行ってきて」
街はアンチクリミナルコードに守られているから、よほどの事が無ければ安全だ。
よほどの事と言うのも『回廊結晶』と言う、かなりレアなアイテムを使わない限りと言う事になるが…
記録した地点までのワープゲートを作り出すアイテムで、このレア度は転移結晶をはるかに上回る。
そんな高価なものを使ってまでなにかを仕掛けてくる事はまぁ、まず無いだろ。
退席するシリカを見送るとルイが話を続ける。
「話と言うのは他でもない、この世界についてだ」
「この世界?」
「ああ、皆前世の記憶があるし、こんな非常識な事が起こるんだ。この世界はこのデスゲームを題材とした漫画やアニメの世界ではないのか?と皆考えているんだ」
ふむ。
「それで?もしそうならどうするんだ?」
「っ!アオはここが何の物語の世界だと知っているのか?」
ちょっと落ち着け。
冷静になるのを待ってから話しかける。
「いえいえ、さすがにこんな展開の話は記憶に無いですね」
「そっか、そうだよな…わりぃ興奮しちまった」
結局どう言う確認なのか。
「それはな、俺達の意見としては、もし、ここが物語の世界で、もし皆ハッピーエンドになるのが約束されているのなら、攻略はやめ、安全第一で低層での狩りのみで生活しようと思ってね」
物語は原作が一番良い様になっているのだから、改変する事もあるまいと言うのが彼らの意見らしい。
改変して現実回帰が叶わなくなったりしたら目も当てられないからね。
その意見には俺も賛成だ…けれど…
「昔、知り合いに言われた」
「何て?」
「自分の行動に責任を持って生きれば良いんじゃないかって。例えそれによって何か定まった運命から外れるとしても、行動しなければそれはそこに居て、でも生きてはいないって」
ソラの言葉だ。
「なるほど…なるほどな。確かにそうだ」
そう言って笑った彼は何処か安心したようだった。
後書き
偶にはまとも?な転生者がアオと仲良くなっても良いかなと思っての展開。
前話で死んだ彼みたいな原作知識もちの転生者はもう居ない予定。…多分ですが。
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