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第2部
第7話 甲鉄の雛
前書き
お久しぶりでござんす。
久々の更新ですが、今後も少しばかり遅れるかもしれません。
どうぞご容赦くださいm(._.)m
10月1日
日本帝国 首都 京都
京都戦略技術研究所
私には悩みがある。
大凡、一般的な人々が1度はぶつかるであろう悩みが……。
私、フィカーツィア・ラトロワは悩んでいた。
蝉の大合唱が鳴りを潜め、すっかり肌寒くなり始めた。
もうすぐ紅葉シーズン到来を目前にした京都は、肌寒い風が吹いていた。
「やっと着いたか。
あ〜あ、ったく…かっ怠いったらありゃしねぇ」
「またお前は…いい機会だ、この視察が終わったら徹底的に鍛えてやる」
「やめてください死んでしまいます」
腐れ縁の我らが艦隊指揮官を脅しながら、滑走路の上に降り立つ。
護衛のリゼル2機と共に滑走路へ進入した小型旅客機から地に足をつけながら、肌を刺す寒さに私はほんの少し身震いした。
京都戦略技術研究所。
深海棲艦に対抗する為の技術・兵器・戦術を開発する為の施設であり、米軍のグルームレイク、アラスカのユーコン、ロシアの嘗てのミグ設計局やスホーイ設計局に並ぶ、世界水準レベルの研究所らしい。
大きさとしては宇宙世紀の大型艦艇を5隻分楽に整備可能な広さはあるだろう。
「にしても……随分とまぁ、お祭り騒ぎになってやがんのな。
あれ、ロシア海軍の太平洋方面艦隊司令長官だろ」
「その隣はアメリカ海軍太平洋方面艦隊の第1艦隊総司令官、その奥が中華統一戦線の陸軍参謀総長に中華統一連合海軍第2艦隊司令長官、あっちは欧州連合海軍の大西洋艦隊統合打撃航空戦隊作戦司令長官」
「より取り見取り、って訳だ」
視線の先……レッドカーペットの敷かれた研究所入り口に整列した各国軍の高級将校が見守る中、仕方なしに歩を進める。
「お待ちしておりました、日本帝国陸軍太平洋沿岸防衛軍総司令官、彩峰萩閣中将であります。
それと……」
「当研究所の警備・警護を命ぜられました、日本帝国陸軍太平洋沿岸防衛軍第1航空旅団、第1航空連隊所属、沙霧尚哉大尉でありますッ‼︎」
「地球連邦宇宙軍、第8軌道艦隊麾下、特別即応艦隊エインヘリアルを指揮しています、神宮司一葉准将であります。
こっちは副官で、私の座乗艦であるアーガマ級1番艦リンドヴルムの艦長、フィカーツィア・ラトロワ大佐です」
「リンドヴルムの指揮をしております、フィカーツィア・ラトロワ大佐であります」
互いに挨拶を交わし、主要な将校とのみ握手を交わす。
それが終わると彩峰中将の先導で研究所内へと足を向けた。
途中、彩峰中将と沙霧大尉、カズハと私の4人は他の将校と別れ、応接室へ案内された。
控えめな調度品が飾られた部屋だ。
『……帝国放送の時間です。
本日午後1時より、帝都の戦略技術研究所にて、国連主導の新型機動兵器、〝戦術歩行戦闘機〟の一般公開を含めた式典が行われます。
同兵器…戦術機は人類初の二足歩行兵器であり、一定の飛行能力を有し、且つ従来のジェット戦闘機や戦車の火力を凌ぐ攻撃力を持つ兵器であると発表されています。
また同式典には、横須賀沖海戦の英雄である、地球連邦宇宙軍第8軌道艦隊麾下、エインヘリアル艦隊の艦隊司令である神宮司一葉准将閣下も参列されるとの事で、世界各国の報道局も注目しております。
では、軍事評論家の今泉氏にお話を伺いしましょう』
『え〜、今泉です。
今回正式採用される戦術機ですが、開発期間は異様の僅か1ヶ月であると政府より発表されました』
『兵器開発の期間としては随分短い期間ですね』
『元々戦術機の開発は10年前には既に始まっており、1ヶ月前には70%が完成していました。
ですが姿勢制御用のオートバランサーやOSの開発に難航し、一時は開発中止の噂もある程でした。
然し、神宮司准将閣下とエインヘリアル艦隊の齎したMSの技術を持って、大幅なブレイクスルーを果たし、遂に完成と相まったわけです』
『モビルスーツとは、エインヘリアル艦隊の配備している人型機動兵器ですね?』
『はい、彼らの扱うこのMSの能力の高さにより、深海棲艦に対する人型機動兵器の有用性が実証され、計画反対派を押し留め、更にはその汎用性の高さから、艦娘との併用による戦果向上が望める算段が付いた、という訳です。
また、全国沿岸部に出現する深海棲艦の陸上侵攻ユニット、〝陸戦棲艦〟との戦闘による被害の縮小も見込めるでしょう』
『有難うございます。
ではつづいてのニュースです。
オーストラリア、旧シドニーにて、大型の人型深海棲が確認されたと言う情報について、政府側は『未だ確固たる情報が無い為、存在自体不明である』と言う見方を示し、……』
「とんだお祭り騒ぎですな」
「戦意向上の為のデモンストレーションですよ、未だ内陸部に被害が無いとは言え、戦線は膠着状態。
その上、戦力比は圧倒的に此方が劣っていますから」
深海大戦勃発から早10数年、通常戦力では足止めが精々な人類側とは違い、駆逐艦クラスでも沿岸に甚大な被害をもたらす深海棲艦側は圧倒的な浸透力を持っていた。
対して人類側は、撃破どころか撃退出来れば御の字程度。
幾ら艦娘の登場により戦線を持ち直せたとは言え、未だ劣勢なのは火を見るよりも明らかだ。
そうなれば民衆の批判の声も大きくなる。
国民あっての国、民衆あっての軍隊である。
民衆の支持や支援がなければ軍隊は成り立たない。
何せ、国民の血税で軍隊は養われているのだから。
「南シナ海方面の国連軍が持ち堪えているとは言え、沖縄の泊地を始めとした深海棲艦の侵攻は徐々に強まっています。
いずれ沖縄本島の本隊が動き出すのも時間の問題でしょう。
横須賀沖で接敵した空母棲姫の動きも気掛かりです」
「……此方の分析でも同様の結論に達しています。
貴方方日本帝国は、アジアの……いえ、ユーラシア大陸防衛の要と言ってもいいでしょう。
ですが、未だ大規模な上陸侵攻を許していないとは言え、現行兵器のみで陸戦棲艦を相手取るには戦力差は歴然だ。
幾ら艦娘という唯一無二の戦力があろうと、敵の優勢は崩れない。
……そういう意味では、戦術機の登場は光明となるに違いありません」
戦術機は艦娘と違い、生身の人間が操縦する。
そして深海棲艦に太刀打ち出来るのは現行で艦娘だけ。
当たり前ではあるが、事日本帝国の軍人にとっては煮え切らない事実である事は否めない。
日本帝国は現在、陸軍と海軍の二軍体制を敷いているが、両軍共に訓練過程から〝士道〟を叩き込まれる。
士道とはつまり、武士道だ。
明確な違いはさておき、日本帝国の軍人の根底を築き上げている思想である事に変わりはない。
国や国土、天皇や国民、家族や恋人、そういった〝モノ〟を自分の命に代えても護りぬく。
日本古来より積み上げられた一種の〝文化〟であり、日本帝国を支える柱の一つである。
まぁ、目の前に居る古い付き合いの腐れ縁の幼馴染の請負ではあるが……。
そんな自分の命さえ惜しまず戦場へ臨む意志を持った兵隊が、うら若い、年端もいかない少女達の後ろで唯見ているだけ、という状況に納得する訳がない。
「これで前線で燻っている兵の士気は上がるでしょう。
……その結果、兵が死ぬ状況も増えるでしょうが……」
「うちのMSの技術を使ってるんです。
全て……とは行かないまでも被害自体は抑えられるでしょう」
カズハは帽子を脱いで膝に置き、窓の外に広がる京都の景色を眺めた。
「22年ぶりの景色ですが、やはりいいものです。
生まれ故郷は……」
「ああ、そう言えば貴官は神宮司中将の……」
「父をご存知で?」
「艦娘との愛瀬の果てに家庭を持った、ある意味で有名人ですからね、彼は。
それに、…………出自も……」
「……?」
不思議そうに頭を傾げる一葉を他所に、彩峰中将は静かに微笑んだ。
◉◉◉
結果的に言えば、式典は大成功に終わった。
順調にプログラムは消化され、各国要人の理解も得た形だ。
それもあってか、既にアメリカ、ロシア、中華統一戦線では近日中にロールアウトと配備が始まるようだ。
「さて、ラトロワ。
今現状の説明を求む」
「京都帝国ホテルのレストランで食事し、その直後の街中だが?」
「そっちを聞いてんじゃねぇよ、なんで俺がその街中でお前の買い物の荷物持ちをやらされとるんだと聞いている」
「ふむふむ、この〝ヤツハシ〟とやら…っん…意外に、イケるな…むぐっ…」
「生八つ橋買い食いしてんじゃねぇよッ‼︎
ってか俺の分はッ⁉︎」
「ある訳無かろう」
「畜生めぇぇぇええッ‼︎ 」
両手にぶら下げた大量の甘味や土産物の入った紙袋を器用に持ちながら一葉は絶叫した。
その様子を尻目に、街中を流れる河に掛かった朱塗りの木橋の上で、私は静かに笑った。
「懐かしいだろ、こういうのは」
カズハは数秒程呆気に取られたような顔をし、気付いたように苦笑いした。
私がサイド6のリーアコロニーに越して来てから少し経った頃。
まだジュニアスクールに通っていた時、私がジオン出身という理由で周りに馴染めなかった頃だ。
家が隣で、ジャンク屋を営んでいた両親の代わりに私を迎えてくれたのがカズハ一家だった。
「変わらないな、お前は」
「それはカズハもだろう?」
気心の知れた仲、多くを言葉にしなくても何を考えているか分かってしまう。
まぁ、〝カズハは私の想いなど気付きもしないだろうが〟。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「へ? あ、おいラトロワッ‼︎」
内に秘めた想いを告げるにはまだ早い。
そう自分を〝偽り〟、私は踵を返して歩き出した。
「私だ、〝雛鳥〟の積込みは?
……そうか、急げ」
「おいッ‼︎ 聞いてんのかッ‼︎ラトロワッ‼︎」
また忙しくなる。
無線機を仕舞いながら、荷物持ちを引き連れ、一路九州へと戻る。
私達の日常へ。
私には悩みがある。
大凡、一般の人々が持つであろう、〝恋〟という悩みが。
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