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塔の美女

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5部分:第五章


第五章

「だからのう。時として身代わりになっておったのよ」
「だから噂になっているだけでその存在が」
「そういうことじゃ。しかし姉君が亡くなられ用済みとなったわらわは」
「ここに閉じ込められたと」
「若いながら話がわかるの。左様じゃ」
 ダルタニャンの返事に満足そうに応える。
「そしてここに死ぬまで幽閉されておったのじゃ。この恨み」
「どうされるのおつもりで」
「晴らしてくれよう。しかしまだ力が足りぬ」
 顔が変わった。それまでの美しい顔の目が吊り上がり口は耳まで裂けた。眼球は大きく出て顔には血管が浮き出ている。まさに悪鬼の顔だった。
「一人でも多くの魂を喰らい力を蓄え」
「では今までの犠牲者も」
「その通りよ」
 これもまたダルタニャンの予想通りだった。
「そうして力を蓄えいづれはブルボンの者達を一人残らず取り殺してくれる。一人残らずな」
「そんなことはさせません」
 ダルタニャンは毅然としてディアナに言葉を返した。剣はそのまま構えている。
「私はブルボン家に仕える者。決してその様なことは」
「わらわを倒すというのか」
「如何にも」
 やはり毅然とした言葉だった。
「貴女様のことはわかりました。しかしブルボンに害をなすというのなら」
「左様か。ではぬしもその魂喰らうてやろう」
 その恐ろしい形相のまま彼に迫る。
「ここでな。死ぬがいい」
「そうさせると思われますか?」
「剣ではわらわは倒せぬぞ」
 ダルタニャンが構えているその白銀の光を放つ剣を見てもその余裕は変わらない。
「決してな」
「さて、それはどうでしょうか」
 しかしこう言われてもダルタニャンは退きはしなかった。臆することもない。
「確かにこれはただの剣です」
「ならば何の意味もなかろうて」
「しかし。私自身は違います」
「ぬしは違うと?」
「その通りです。日本では剣に心を込めるというもの」
 このことをディアナに対して告げる。ここに来るまでにジャンに対して言ったことを。今ここでも毅然とした顔で言うのだった。
「だからこそ。恐れはしません」
「面白い。心でわらわを斬るというのか」
「気とも言いますが」
「気ですか」
「その通り。では」
 足を前に出した。まるで滑るように進む。そうしてそのまま襲い来るディアナに対して剣を突き出したのだった。それは一度や二度ではなかった。
「!?まさか」
「どうやら私が正しかったようですね」
 剣は確かにディアナを捉えていた。その腕や足を傷つけていく。気で斬っているのは明らかだった。
「剣は。確かに貴女様に効いています」
「くっ、おのれ」
 たまりかねたように爪を繰り出す。しかしダルタニャンによってそれをかわされる。
「早い、何と」
「貴女様を止めます」
 のけぞらせた身体を元に戻しつつ述べる。
「何があろうとも」
「わらわは諦めぬ」
 目に込められている怒りがさらに強められる。
「決してな。何があろうとも」
「どのとうにしてもブルボン家を害されるというのですか」
「それ以外に何があるか」
 牙の様になった歯を幾多も見せての言葉だった。
「今のわらわには。それ以外の何が」
「貴女様のことは確かにわかりました」
 それがわからないダルタニャンではなかった。
「その悲しみもお怒りも」
「ならば大人しくわらわの糧となれ」
「いえ、そういうわけにはいきません」
 しかしそれでも彼は言うのだった。
「例え何があろうとも」
「何故だ、忠誠か」
「無論それもあります」
 まずはそれを認めて答えた。
「ですがそれだけではありません」
「それだけではないと」
「そうです」
 ここでも毅然とした返答であった。ディアナの爪をかわし剣を出しつつ応える。
「貴女様は既に多くの者を殺めていますね」
「それがどうかしたか」
「尚且つさらに多くの者を殺めようという」
「ブルボンに復讐を果たすのならば当然のことじゃ」
 ここでも憎悪に満ちたどす黒い言葉を吐き出した。
「それならばな」
「だからこそです」
 ここでもディアナの爪をかわす。頭を狙って横薙ぎに来たものを屈んで。
「私は貴女様を倒さなくてはならないのです」
「わらわをというのじゃな」
「そう、どうしても」
 ディアナは今度は爪を突き出したがそれは左に跳んでかわした。それと共に剣を一閃させたがその一撃が彼女の突き出した腕を斬り落とした。
「ぬうっ」
「今のは効いた筈です」
 冷静に彼女の憤怒で歪んだ顔を見つつ述べる。
「腕を斬られのなら」
「まだじゃ」
 斬られた右腕は完全に消えた。しかしそれでもディアナは憎悪の炎を弱めてはいなかった。それどころかその炎をさらに燃え上がらせてさえいた。
「この程度でわらわを倒せると思うてか」
「くっ、まだだというのですか」
「その通りじゃ」
 憎悪は最早頂点に達していた。
「何としても。ブルボンの者達を」
「それはなりません」
 ダルタニャンはそれは何としても許そうとはしなかった。
 
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