エターナルトラベラー
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六十一話
アスナは加入したギルド『血盟騎士団(KoB)』でそれは一生懸命アインクラッド攻略に明け暮れているらしい。
KoBメンバーのレベル上げを支援しつつ、たまに休暇を貰うと俺達のところに押しかけてレベリング。
マジでレベリングの鬼と化しているとは流れてきた噂から検証した結果だが、俺と一緒に居たときもたいして変わらないよね。
さて、最近はじまりの街を拠点に『Aincrad Liberation Force』と言うギルドが出来上がり、幅を利かせ始めた。
後に『アインクラッド解放軍』もしくはもっと略して『軍』と言われるギルドである。
アインクラッドからの解放を旗印に経験値ソースの均等化とか、はっきり言ってソロプレイヤーとの間の軋轢を生むとしか思えない理念を掲げているが、逆に自分での攻略はしたくないプレイヤー達には受け入れられている。
しかしそれを嫌ったプレイヤー達ははじまりの街から続々と出奔しているようだった。
レベル上げも今の階層ではそろそろ打ち止めとなった頃、今日はオフ日にしようとシリカに伝えると、日々の心身的な疲れリフレッシュしようと第五層主街区に降り立つ。
以前貰ったアイテム『バークの紹介状』を使うと馬のレンタルがタダで出来るのを思い出し、散策がてら厩舎を探す。
今日は遠乗りでもするかな。
探すと厩舎は意外とフィールドへと続く門の近くに設置してあった。
俺は『バークの紹介状』を見せて馬を一頭借りる。
鹿毛のサラブレッド。
一般的な馬のと言った感じのオーソドックスな馬だ。
良かった、この辺はゲームの常識が偏っていて。
ポニーとかだったらどうしようかと思った。
「アオさーーーーん。まってくださーーーーい」
手綱を引きフィールドに出ようと門へと向かうと、後ろからシリカの声が聞こえた。
振り返るとこちらに向かって駆けてくるシリカの姿が。
俺の側まで来て立ち止まると、肩で息をするように呼吸を整えている。
「はぁっはぁっ…あのっ!あたしも一緒に行って良いですか?」
うん?別に構わないけれど…
「今日は遠乗りの予定だったんだけど、シリカ乗れたっけ?」
「いえ、だから教えて貰おうと思ったんですが…迷惑ですね…」
俺の予定を聞いてシュンとうなだれるシリカ。
「いや、いいよ。確かに誰かに教えて貰わないと幾らゲームとは言え乗馬は難しいかも知れないしね」
「良いんですか!」
「もちろん」
「ありがとうございます」
そのままシリカを連れ、馬を引きフィールドへと出ると、手綱を俺が持ちつつ、まずシリカに馬への乗り方、乗馬姿勢などを教えると、取り合えずそのまま歩かせる。
半日付きっ切りでシリカに付き合った俺だが、シリカの上達具合には舌を巻く。
すでに俺の介添えの必要は無く、自在にとは言えないまでも遠乗りするに問題が無いレベルまで上達している。
そうなると、この美しいアインクラッドの景色を楽しむべく、遠乗りに出かけようともう一頭の馬をレンタルしたのだが、そのお金が予想以上に高かった。
アインクラッド内の相場はプレイヤー達の取得コルによって変動するので、高くなりこそすれ安くは成らない。
つまり、馬のレンタルは予想を上回る出費だった。
しかし、シリカと二人草原を走らせているとそんな事は些細な事だと感じさせるには十分だった。
「今ならあたし、バークさんのイベントをクリア出来るような気がします」
確かに、練習の甲斐あって、手綱さばきは中々の物だ。
馬に乗るのもかなりのコルが掛かるので、出来ればバークの紹介状が欲しい所だ。
「そうだね、街に帰ったらバークさんのクエストが何処かで発生していないか調べてみよう」
「はいっ!」
バークさんは行商人であるようなので、一度クリアされるか、一定期間クエストがクリアされないと何処か別の場所に行ってしまって、クエスト受注が安定しないのが難点だ。
とは言え、イベントのクリアは殆ど出来ないらしいが…
後日、何とかバークさんのクエストを受注できたシリカが、得意げに馬を操り、無事『バークの紹介状』をゲットしたのは別の話だ。
めまぐるしく移り行く景色、風を裂く音。
今までにためたストレスが吹き飛ぶには十分だ。
第五層の端にあるノーチェの森の入り口まで走り、馬の手綱を木の枝へと巻きつけ固定する。
こうしないと馬は直ぐにレンタルした厩舎へと自動で走り去って行ってしまうからだ。
馬から降りると、そこは気持ちの良いハイキングコースのような森林の入り口が見えた。
「気持ちのいいところですね」
「そうだね。今までの必死のレベル上げで、ステータス的には安全だからしばらくここで休憩しようか」
「良いですねっ!」
そう言ってシリカは林の中に駆けていく。
万が一の事も有ると俺も直ぐに追いかける。
ピクッ
クゥがキョロキョロとあたりを見渡している。
「クゥ?」
クゥの行動に直ぐに索敵画面に視線を移す。
すると敵対するモンスターの光点が一つ。
ガサッ
「きゃっ!」
何かが草むらを掻き分けて出現してきた。
「シリカっ!」
「大丈夫です」
俺の声にシリカは戸惑いから素早く立ち直り、しっかりと自分のダガーを構えている。
視線をモンスターに移すと、そこには水色の体色をした、小型犬ほどの大きさの小さなドラゴンが出現した。
「きゅる」
ドラゴンはひと鳴きしたが、こちらを見つめるだけで襲ってくる事は無い。
「アオさん、これは…」
「クゥの時と一緒じゃないかな?」
「ですよねっ!って事は何か食べ物系のアイテムを…って!ドラゴンって何を食べるのっ!?」
想像上の生き物が何を食うか何て普通は知らないよ。
ハルケギニアの時に見たドラゴンは肉食と言うか雑食だったし。
「取り合えずそれっぽい物を…」
あうあう言いながらもアイテムストレージからポイポイそれっぽい物を取り出しては差し出しているシリカの慌てっぷりがかなり可愛い。
いくつも取り出したアイテムのうちで、その小竜が反応した物があった。
「きゅるー」
「あ、食べましたよっ!アオさん、見てください」
はいはい、見てますよ。(シリカを)
「コレで索敵画面の光点の色が変わればテイミング成功…っと、どうやら大丈夫なようだね」
光点の色が変化したのを確認すると同時に、小竜がシリカの方へと駆け寄りシリカはその小竜を抱き上げた。
「わっ!ふわふわです。クゥもふわふわだけど、この子もかなりふわふわです!」
それは良かった。
「よろしくね、ピナ」
「ピナ?」
「この子の名前です」
なるほど。
「よろしく、ピナ」
俺は新しく仲間になったピナにそう言うと、ピナもよろしくとばかりにきゅるきゅる鳴いた。
現在ホームタウンにしている第八層主街区にピナを連れて戻ると、モンスターをテイミングしてきたシリカから情報を得ようと集まったプレイヤーに囲まれて動けなくなると言う俺も経験した事態を何とか収束させると日はとうに傾いていた。
もみくちゃにされて人酔いしたのか、ふらふら千鳥足気味に何とか宿屋に戻り個室に篭り一息ついたシリカがそんな風な愚痴を漏らした。
「それで?ピナは何が出来るんだ?」
ついでに言うとクゥはウィンドブレスと連れ歩くだけで索敵と隠蔽能力にプラス補正が掛かる。
「さあ?ピナ、何が出来るの?」
「きゅる」
ひと鳴きすると口から泡のようなブレス攻撃が宿屋の壁に向かって放たれた。
破壊不能オブジェクトだし、弁償の心配はないのだが、やるならやると言って欲しい。…無理だろうけど。
「凄いよピナっ!他には?」
「きゅるーる」
先ほどとは違う柔らかなシャボン玉のようなブレスがシリカに当たり、シリカを包み込む。
「コレは?」
その時は分からなかったけれど、どうやらテイマーへのヒール補助らしかった。
魔法のないこのSAOでは珍しい部類の能力だろう。
「きゅるー」
「なーぅ」
じゃれ始めたピナとクゥを見ながら、頼もしい仲間が増えたと再認識したのだった。
◇英雄になりたかったとある転生者の話
皆さんは転生と言う言葉はご存知だろうか。
二次小説でよくあるアレである。
何故そんな事を聞いたかと言えば、俺がそのよくある転生者だからだ。
生前は良くあるオタクの一種だった俺だが、転生したからといって特に何か特殊能力がついたと言うわけでは無い。
しかも転生先は特に生前と代わり映えの無い日本。
魔法も無ければ超能力…は有るか?
なんか女性特有の病気にそんな事があるとか何とか。
…確かHGSだったっけ?
まぁいい。
そんな世界で、もしかしたら何かの漫画の世界なのかもしれないと考えはしたが、この世界が何の世界か分からなかった。
…ナーヴギアが開発され、ソードアート・オンラインが発売されるまでは。
なんとまさかのソードアート。
デスゲームで有名なあの作品だ。
これは、やるしか無いっ!
何の超能力も持たない俺も、掛ける代償は自分の命だが、あの世界ならば英雄になれるっ!
そう思った俺に幸運は舞い降りる。
なんとβテスト参加者に選ばれたのだ。
確実にデスゲームと化すであろう製品版ではなくβテストに参加できるのはかなりのアドバンテージになるだろう。
主人公のキリトだってβテスターだったしね。
βテストで実際に体験したSAOは本当にすばらしく、デスゲームになる事を忘れるくらい俺を魅了した。
仲間と一緒にダンジョンを駆け、ボスを打倒し、自己を強化する。
だんだん強くなっていく自分のステータスを見るのは凄く楽しかったし、他者を見下す優越感も得られた。
βテストが終わるのを本当に寂しく思ったほどだ。
そして始まった正式サービス。
デスゲームの始まり。
俺はβテストの知識を生かしてまずはじまりの街を直ぐに脱出、ホルンカの村へと走る。
そこでイベントをこなすと手に入れられる片手直剣の『アニールブレイド』をゲットできればしばらく武器の心配をしなくていい。
俺はレベル1で埋めれるスキルスロット二つを『片手用直剣』と『隠蔽』で埋め、フィールドをひたすらに走る。
ホルンカの村に着くと直ぐに『森の秘薬』クエを受注するために病気の娘が居るNPCの家へと向かいお涙頂戴の話を聞き流す。
森に入ってリトルネペントと言う植物型のモンスターの中に偶に出てくる『花つき』を倒せば出てくる胚珠をNPCに届けるクエストだ。
早速森に入ると既に先客がいた。
14、5歳の男だ。
その動きは流麗で、今この時間にここに居る事が彼をβテスターだと確信させる。
ズバンっと目の前のリトルネペントのHPを全損させてポリゴンが爆散する。
どうしようかと考えて取り合えずレベルアップエフェクトが見えた彼に拍手を送る。
パンパン
俺の拍手に誰だ!と勢い良く振り返る彼。
デスゲームが開始してからはそういった物音にも過剰な反応を示すだろうことを失念していた。
振り返った彼がこちらに向かい、臨戦態勢を取っている。
それを確認したが、俺は剣を抜かず、敵ではないと示す。
どうやら彼も森の秘薬クエストを受けているらしい。
このクエストは一人用クエストではあるが、先着ではない。
つまり胚珠が手に入れば二番目でもアニールブレイドはゲット出来るのだ。
そこで俺は彼に最初の一個を譲るから二つ目が出るまで付き合ってくれと交渉する。
勿論、これは彼にとってもメリットのあることだ。
花つきの出現率はノーマル種を狩るほどに確率がブーストされるのだから、2人で狩った方が効率がよいのだ。
確率ブーストされているならば二つ目も時間を掛けずにゲット出来るだろうから。
そんな考えも目の前の少年の名前を聞いて一変する事になる。
「……よろしく。俺はキリト」
「……キリト……あれ?どこかで……」
キリト…だと?
もしかして主人公か!?
戸惑いを隠してリトルネペントの討伐にあたる。
もしかしてこいつをここで殺ってしまえば、アインクラッドを解放する英雄は自分になるのでは?
アスナやシリカ、リズベットを自分のものに出来るのでは?
そんな疑問がエンドレスで脳内を巡る。
そんな時現れたリトルネペントの『花つき』と、その奥に現れた『実つき』
『実つき』は所謂トラップモンスターだ。
吊り下げられている実に少しでも衝撃を与えるとその実からくさい煙を撒き散らす。
その匂いに引き寄せられるように何匹ものリトルネペントが現れてしまい、俺達では到底対処できる物ではなくなってしまう。
しかし、そこで俺は閃いた。
『花つき』を先に倒して胚珠をドロップさせた後、『実つき』に攻撃すれば集まってきたリトルネペントでモンスタープレイヤーキル(MPK)が出来るだろう。
そして、隠蔽スキルで敵が散るまで待てば胚珠もゲットできるはずだ。
勿論、俺をターゲットしてくる者もいるだろうが、隠蔽スキルを取ってある俺ならばターゲットにされることも無い。
冷静になって危険は冒さずに引き返そうとするキリトを俺が『実つき』のタゲを取っている間に『花つき』を倒してくれと説得する。
キリトもせっかく目の前に現れたチャンスを不意にはしたくないようだったので俺の意見に同意してくれた。
よし、まずは第一段階だ。
細心の注意を払って実を傷つけないようにキリトが『花つき』を倒すまで『実つき』のターゲットを取る。
そしてその時が訪れた。
キリトが『花つき』を倒したようだ。
それを確認した俺の口角が上がる。
俺は直ぐに手に持ったショートソードでソードスキル、『バーチカルストライク』を繰り出すとその攻撃はシステムアシストもあり一直線に『実つき』の実の部分へとヒットし、その実が割れる。
すると直ぐに俺はその場から離れるように走り出し、隠蔽スキルを行使する。
やってしまった。
俺は物語の完全ブレイクをしてしまった。
幾ら主人公であるキリトでも、押し寄せた三十を超えるリトルネペントに囲まれてはひとたまりも無いだろう。
前方からも押し寄せるリトルネペントを茂みに隠れてやり過ごそうとし、俺は最大の過ちに気づく。
俺は知らなかったのだ。
目の前のリトルネペントみたいに目以外の感覚器を持っているようなモンスターは隠蔽の効果が薄いと言う事を…
十数匹のリトルネペントに囲まれ、俺の心を絶望が支配する
くそっくそっくそうっ!
やはり主人公を殺そうとした事がいけなかったのか?
いやだ…
こんな所で終わるなんて嫌だ…
こんなデスゲーム開始数時間で死ぬのだけはいやだぁぁぁぁぁぁ
コレじゃ俺はタダのモブじゃ無いかっ!
せっかく英雄になれると思ったのにっ!
ちくしょおおおおおおぉぉぉぉぉ
ついに囲まれたリトルネペントの攻撃が俺のHPを全損させる。
ここで…終わりか。
俺は何のためにこの世界に生まれ…
無常にも俺の思考はそこで永遠に闇に飲まれた。
◇
後書き
後半のもはや恒例?になった転生者の悲劇。
有る意味今回のコレがこの作品の中で一番二次小説らしいかも?
本編の裏側で、原作を1ミリも変えてないとことかね。
原作を読んだ方は知っていると思いますが、番外編の『はじまりの日』に出てきた彼がもし転生者ならと言う話です。
彼はきっと『はじまりの日』を読んだ事が無かったのでしょう…南無
突っ込んじゃいけない所だけど、原作の彼は隠蔽スキルの弱点を何故知らなかったのでしょうね?使う使わないに限らず、βテストに応募するほどのネットゲーマーならば、自分が使わないスキルも詳細を知ろうとするんじゃないかな…
ページ上へ戻る