古城の狼
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2部分:第二章
第二章
部屋の中も石造りの部屋であった。石の床の上に赤い絨毯が敷かれている。
そして壁には剣や紋章が飾られている。赤地に黒い狼が描かれている。
大きな窓はガラスである。もう日は落ち黄金色の月が見えている。
その明かりが窓から入ってきている。だがそれだけで足りる筈はなく部屋の中も廊下と同じく燭台で照らされている。
その奥には椅子があった。木で造られた古い椅子である。それから察するにこの部屋はかっては城主の間であったらしい。
その前に男はいた。赤い髪を後ろに撫で付け髪と同じ色の濃い髭を生やした背の高い中年の男である。目は黒く肌は白い。その色はあの執事と同じ色であった。そして着立てのいい絹の服に身を包んでいる。
(この人の肌も・・・・・・)
失礼だとは思ったが僕は目の前にいるこの男性の顔色に対しても疑念を抱いた。だが灯りのせいだとこの時は思うことにした。
「ようこそ、我が城へ」
その男性は僕へ声をかけてきた。先程入るように言ったあの低い声であった。
「私がこの屋敷の主です」
彼は微笑んで言った。だがその微笑みも何処かぎこちないように思った。
まるで人形のようだった。動きもほんの僅かであるがギクシャクしているように思えた。
しかしそれはこの時は不思議には思えなかった。肌の色のことがまだ頭に残りそこまでは考えが及ばなかったのだ。
「東洋からのお客人ですな」
彼は僕の顔を見て言った。
「はい。日本から来ました」
僕はドイツ語で正直に答えた。
「ほう、それは珍しい。この辺りに日本の方が来られるとは」
「一人旅をしておりまして。ところが予約をとっていた宿でトラブルがありまして」
「それはお聞きしております」
彼は再び微笑んで言った。
「宿の人に紹介されました。雨露をしのげる場所をお貸しして下さるそうで」
僕は畏まって言った。
「雨露などとはとんでもない」
赤髪のこの人は笑ってそう言った。
「我が家ではお客人には特別の部屋を用意しておりますよ」
そう言うと鈴を鳴らした。
暫くして先程の執事が入って来た。
「どのようなご用件でしょうか」
執事は一礼して主に問うた。
「この方を客人用の部屋へご案内してくれ」
彼はその低い声で言った。
「わかりました」
執事は頭を垂れて答えた。
僕は再び執事に案内され城の中を進んだ。広い城であった。結構距離があるように感じた。
「こちらです」
暫くしてある扉の前に案内された。執事はその扉を開いた。
その中は豪奢な造りであった。天幕のベッドに様々な装身具が部屋中に置かれていた。
「暫くしましたらお食事の時間なのでその時にまた御呼び致します」
彼はそう言うと姿を消した。それはまるで影のようであった。
「早いな」
僕はその執事の動きを見て再びそう思った。振り向いた時には扉は閉まり彼の気配は消え失せていた。
僕は荷物を置きベッドの上に寝転んだ。暗い部屋は窓から差し込める月明かりで照らされていた。
「これだけだと少し暗いな」
僕は起き上がり灯りを探した。見れば部屋の壁に幾つか燭台が置かれている。
そこに火を点けることにした。ライターを取り出しそこに置かれている蝋燭に火を点けようとした。
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