米五郎左
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第二章
「見事に政をする」
「ですな、しかし」
「しかし?」
「いや、五郎左殿は」
前田が言う彼はというと。
「一見しますと地味で」
「そうじゃな、目立たぬ」
「あまりこれといって際立った方ではなく」
「そうじゃ、しかしじゃ」
「何でも出来て」
「その人柄もじゃ」
それもというのだ。
「悪口は言わぬ、また強くも言わぬ」
「穏やかな方ですな」
「わしはとかく言う」
柴田は自分のことも言った。
「殿にもな」
「ですな、言うべきと思われた時は」
「言う、どんな厳しいこともな」
柴田は信長に謹言をすることも憚らない、それは時として叱咤するかの様な厳しい口調になることもある。
だが、だ。丹羽はというと。
「五郎左は厳しいことは言わぬ」
「決して」
「殿にも誰にもな」
「しかし的確に」
「そうじゃ、言う」
「忠告されますな」
前田は確かな声で言った。
「誰にも」
「わしにもするしな」
「それがしにもです」
「穏やかに、しかし的を得て」
「そうしたことが出来るのもよいことじゃ」
「ですな、まことに」
柴田と前田も頷くのだった、丹羽は凄いとだ。
そして信長もだ、何かあるとだった。
まずは丹羽にだ、言うのだった。
「さて、武田じゃが」
「はい、またおかしな動きを見せていますな」
「どうすべきと思うか」
岐阜城の中でだ、彼は丹羽を自分の前に呼んで問うたのである。
「この度のことは」
「武田は信玄入道は死にました」
ここからだ、丹羽は答えた。
「しかしその家臣達は皆健在です」
「そうじゃな」
「そして今の主武田四郎勝頼もです」
その彼はというと。
「愚かではない、いえ政も戦もわかっております」
「虎の子は虎じゃな」
「まことに。しかも武田の国も兵もそのままです」
信玄の時からだ、全く衰えていないというのだ。
「非常に強いです」
「ここで我等が戦おうにもじゃな」
「苦しいものになるかと」
「今竹千代が攻められておる」
徳川家康、織田家の盟友である彼がというのだ。
「長篠城もな」
「高天神の城も抜かれました」
「このままでは危ういな」
「徳川殿もお強いですが」
しかしというのだ。
「やはり武田には敵いませぬ」
「敗れるか」
「このままでは」
丹羽は小さな声で信長に答えていく。
「そうなります」
「そうじゃな、しかし」
信長はここでその目を険しくさせた、そうして。
丹羽にだ、こう問うた。
「このまま竹千代を見捨てるべきか」
「それはなりませぬ」
丹羽の言葉の調子は変わらない、だが。
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