父との絆
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第二章
「潜水艇でないとな」
「潜って行けない場所なんだ」
「とても無理だ、だからまだまだわかっていないことが多い」
「深海って謎が多いんだね」
「まだまだな。生きもののこともな」
「ううん、わかっていないことが多いんだ」
「だからこそ調べがいがあるんだ」
学者としてだ、久作は我が子に話した。ウイスキーはコップを手放さずチョコレートもどんどん食べ続けている。
「いい場所だぞ」
「僕も行きたいな」
「ははは、父さんみたいな海洋学者になりたいか」
「それで深海に行きたいよ」
父と同じ様にとだ、啓介は言った。
「絶対にね」
「じゃあ啓介が大人になったら父さんと一緒に深海に行こうな」
「うん、絶対にだよ」
「あらあら、また深海のお話してるのね」
久作の妻であり啓介の母である神優子がここで言って来た、奇麗な顔立ちをしている。
「全く、お父さんは」
「ああ母さんウイスキーボトルもう一本」
「駄目よ、今日もう一本空けたでしょ」
「好きだからな」
「好きでも駄目よ、ウイスキーは一日一本までよ」
「それでか」
「もう駄目よ、チョコレートもそれまでよ」
こちらも制限するのだった。
「さもないと身体壊すわよ」
「やれやれ、母さんは厳しいな」
「お酒と甘いものは過ぎたら毒よ」
それこそどちらもたというのだ。
「だからよ」
「仕方ないな、じゃあ今日はこれで止めておくか」
「深海のこともいいけれどお酒と甘いものには気をつけてね」
「わかったよ、母さん」
久作は妻の制止には仕方なく答えた、しかし。
家にいる時は啓介にいつも深海のことを話していた、啓介は父のその話を聞いて育っていた。それでだった。
彼は大学は生物学部に入ってだ、海洋生物学それも深海のものを専攻してだ。大学院にも進んでだった。
そしてだ、家で成長した長身で精悍な父の若い頃とよく似た顔で言うのだった。
「俺も行きたいな」
「深海にか?」
髪が白くなり太った久作が息子に応えた。
「行きたいか」
「是非な」
「そういえば御前にいつも言ってたな」
「覚えてるか、親父も」
「当たり前だろ」
これが父の返事だった。
「誰が話したと思ってるんだ」
「それじゃあな」
「御前も大学院で勉強してるだろ」
「ああ、学者になる為にな」
その海洋生物学者にだ。
「勉強中だよ」
「じゃあ頑張って勉強してな」
「学者になるから」
「いい論文書けよ」
「そうするさ」
「まずは論文を書け」
久作はこの時もウイスキーを飲んでいた、あてはバウムクーヘンだ。酒と甘いものを両方楽しみつつ息子に応えるのだった。
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