麦
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第一章
麦
ある教授がこんなことを言い出した。
「お米よりも麦を食べるべきだ」
「麦を?」
「御飯じゃなくてか」
「麦を食べるべきってか」
「どうしてなんだ?」
それを聞いた者達は皆その教授の言葉にまずは首を傾げさせた。
そしてだ、教授に対して怪訝な顔で問うた。
「あの、どうしてですか?」
「何で麦なんですか?」
「お米じゃなくて」
「どうしてなんですか?」
「お米を食べたら頭が悪くなるんだよ」
だからだとだ、教授は彼等に話した。
「それでだよ」
「えっ、そうなんですか」
「お米、つまり御飯を食べたらですか」
「頭が悪くなるんですか」
「そうなんですか」
「それよりも麦、つまりだね」
ここで教授が出す食べものはというと。
「パンだよ」
「パンですか」
「パンを食べるべきですか」
「これからは」
「そうするべきですか」
「そう、パンを食べると頭がよくなるんだよ」
教授は笑って言った。
「お米よりもね」
「じゃあこれからはですね」
「パンを食べるべきですね」
「御飯じゃなくて」
「そちらですね」
「僕もパンを食べているよ」
教授は自分もだと言った。
「それでだよ」
「教授になれた」
「そうなんですね」
「そうだよ、だからこれからはパンを食べよう」
こう周りにも世間にも言うのだった、そしてそれを論文としても出した。
教授の大学はこの国で最大の名門であり権威とされている大学なので余計にだった、彼の言葉は信用された。
それでだ、彼の言葉でだ。
誰もがパンを食べた、御飯ではなく。それで言うのだった。
「頭がよくなった気がするな」
「そうよね」
「パンを食べていると」
「我が国も先進国になれる?」
「そうよね、御飯なんかもう」
「食べていられるか」
こう忌々しげにだ、米を否定しだしたのだ。
「あんなもの二度と」
「食べていられるか」
「絶対にな」
「二度と」
こう言ってだ、国民達は誰もがパンを食べ米を邪険にしだした。だが。
この事態にだ、ある国会議員は首を傾げさせてだ、米作農家からの苦情を前にして自身の秘書に対して問うた。
「あの教授はああ言うが」
「実際はですね」
「先進国が何処もパンなのは」
「それは、ですよね」
秘書もまた言うのだった。
「普通に」
「うん、米が育たない気候の国ばかりで」
「そしてです」
「麦ならという国ばかりだからね」
「しかもどの国も実際は」
秘書はそのパンが主食という『先進国』諸国のことも話した。
「パンよりも」
「ジャガイモが主食だね」
「そうです、気候の関係で」
「ジャガイモは痩せている土壌でも育ちますから」
「寒冷地でも」
「だからですから」
「あの教授はそのことを知らないのかな」
「まさか、あの大学で教授をしているんですよ」
それならとだ、秘書は教授の大学が国でも最大の名門であり権威でもあることから言った。
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