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咲きほこる花

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第一章

                       咲きほこる花に
 百花繚乱、よく聞く言葉。
 けれどこの言葉とは別に。私はこの言葉もよく聞く。その言葉を私は今少し自嘲めかした笑顔になって彼に言った。
「花の命は短い」
「ここでそう言う?」
 彼はその私に苦笑いで返した。
「植物園の中で」
「何となく思ったのよ」
「これだけ奇麗なお花が咲いてるのね」
「ええ、けれどね」
「幾ら奇麗なお花でも」
「そう、咲いている時は短いでしょ」
 また彼に言った、私の横にいる彼に。
「それは」
「まあね。そう言われるとね」
「咲いていても」
「すぐに枯れるね」
「そう思うと儚いわ」
 私は今度は残念そうに笑ってこう言った。
「お花は」
「世は無常?」
「高校、中学の時に習ったけれど」
 私が今度思い出した言葉はこれだった。
「沙羅双樹の花の色」
「盛者必衰だね」
「そう言うじゃない」
「君仏教に興味あるんだ」
「一応檀家ではあるけれど」
「特になんだ」
「関心がある訳でもないわ」
 宗教自体にあまり関心がない、神社やお寺にお参りはしても。
「ただ、思い出したから」
「言ったんだ」
「そうなの、とにかくそうでしょ」
「花の命は短い」
「ええ、どれだけ沢山咲いていても」
 それでもとだ、私は言いながらだ。
 そのうえで植物園の中の色々なお花を見て回った、そのお花も奇麗に咲いていてまさに百花繚乱だけれど。
 そのお花のどれもとだ、私はそう思ってだ。ついつい言ってしまった。
「本当にね」
「絶対に枯れて」
「人もね」
 そしてこうも言った。
「やっぱり」
「うん、さっきの言葉だけれど」
「平家物語のね」
「盛者必衰だからね」
「今は元気でもね」
「人は絶対に衰えて」
「死ぬわ」
 このことはどうしても逆らうことが出来ない、人は絶対に死ぬ。そしてお花も絶対に枯れる。そのことをついつい思ってしまって。
 それでだ、私は奇麗な植物園の中にいても。
 寂しく笑ってだ、彼に言うばかりだった。
「暗い考えね」
「奇麗なお花も枯れる」
「そんな風に思ってしまうなんて」
「残念って言えば残念だね」
「そうよね」
「けれどそんな気になる時もあるよ」
 彼はそんな私に優しく笑って言ってくれた。
「だからね」
「気にしないで、っていうのね」
「何か飲む?」
「植物園の中で」
「うん、そうしない?」
 こう私に誘いをかけてきた。
「これから」
「そうね、じゃあ」
 彼の誘いを受けてだ、私は少し考えてから答えた。 
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