ランス ~another story~
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第3章 リーザス陥落
第54話 レッドの町を解放せよ
~アイスの町・ユーリ邸~
「はぁー……お姉ちゃん達も大変だね~?」
「う、うん……」
「わ、私は別に……」
経緯は 何だかよく判らない(ユーリが) ユーリの家だというのに、男子禁制、女子会? とやらが開催された様子だった。でも、確かにユーリは家に寄るつもりだったのだが、今の状況を考えると、そんなにゆっくりもしてられないんだ。
「おーい、あまり長居はできないぞ? ヒララ合金をマリアに届けなきゃならないんだからな?」
だから、その旨を女子会をしている皆さんに伝えるのだが。
「ダメだよーっ! お兄ちゃんっ!」
「こらっ! 入ってくるな!! ユーリっ!」
「もうちょっと、もうちょっとですからっ」
中々の剣幕と声量だ。勿論、その力比は《7:2:1》 そして、勿論、勿論、《志津香:かなみ:ヒトミ》の順である。
「……はぁ。はいはい、少しだけだぞ?」
中へと入ったユーリだったが、まるで、言葉が壁となって押し寄せてきたかのように、言霊だけで、外へと押し出されてしまった。凄まじい力?の持ち主達のようだ。……最初から判っていた部分もあるけれど。
「まぁ、ヒトミも随分と楽しそうだし……もう少しくらいは良いか……」
ユーリは、そう思う。ヒトミには色々と心配をかけてしまったと言う事も勿論あるから。
そして、ユーリは3人に、指定時間を言い、3人は とりあえず納得をした様であり、返答は直ぐに返ってきたのだった。
女子会は、まだまだ終わる様子はない。
「お兄ちゃんって、お顔の事……すっごく気にしてるから。……やっぱり、同じような人同士じゃないと、共感しあえないんじゃないかな? だから、同じような人とだったら……信頼から、愛情に……えへへ~」
「同じような……人、でも 私も年齢が年齢だし……。ユーリさんの様に そんな風に言われたこと無いし……」
「はぁ 全く、本当にどこまで気にしてんのよ。アイツは……」
ユーリが、今 ヒトミの姿を見たら、絶対『マセガキだー!』と、思わずにはいられない筈だが、ここにいる2人は そんな事を口に出さなかった。でも、次の言葉だけは別だ。
「えへへ! だからさっ 私、お兄ちゃんの好みなのかなっ! って思っちゃうんだ~! もっともっと、あたっく! してみようかなっ?」
ヒトミがそういったその瞬間だった。
「わぁ! だ、ダメだよっ! そんなのっ! ヒトミちゃん!!」
「まだ、早すぎるわよっ!! そんなの 後10年は早いっ!」
「えへへ、冗談だよー、お姉ちゃん達! 落ち着いてー」
確かに歳? ではかなみや志津香の方が上だと思われるけど……、暫くはヒトミに手玉に取られちゃうのだった。
~アイスの町・コリンのアイテム屋前~
ユーリは、とりあえず家で話を聞いていたら怒られてしまう為、外へと出てきていた。アイテムも烈火鉱山でそれなりに使用したから、補充に来たのだ。
「ん……、世色癌2と竜角惨は余分に補充していても良いな。メンバーの中には魔法使いである 志津香もいるし。体力面を考えたら……。ま、たまに魔法使いとは思えないけど。一応」
アイテム袋の中身を確認しながらそう呟くユーリ。
切らせている訳ではないが、今は普段の単独の依頼ではない。規模も嘗てない程までに大きい。常に全体を見なければならないだろう。……人の上に立つ様な器ではないとか何とか言ってる割にはやっぱりしっかりとしているのである。
「……何だか失礼な事、また言われた様な気がするが……、まあ良いか」
これも恒例行事なのである。
そして、コリンの経営する店の中へと向かおうとした時。
「おっ? ユーリじゃねえか」
後ろから声がしたのだ。その声の主はよく知っている人物だ。
「ミリ、か」
「ああ。アイテムの補充かい? だけど、もう余分に買ってるぜ。ユーリから借りたが、もち、これは リーザスにつけとくつもりだがな? ユーリもちゃんと請求しておけよ?」
ミリはにやっと笑ってそう言っていた。両手に持っている袋は結構膨らんでいる。言葉通り、大分購入している様だ。そして、有言実行すると言う事も容易に想像出来る。
「……しっかりしてるな」
ユーリは苦笑いをしつつ、そう言っていた。
だが、ユーリのその目は、決して笑っていなかった。
ミリとは話したい事があるから。
本来であれば、ラジールの町に帰って、なるべく誰にも聞かれないように話をするつもりだったのだ。だが、それが早まっただけだ。都合が良い事に、どうやら此処には トマトはいないみたいだから。あまり、訊かれたくない話題でもあるのだ。
そして、ユーリは、念のための確認はしておく事にした。
「……ところで、トマトはどうしたんだ? まだ、アイテム屋か?」
「あー、アイツは先に戻ったよ。暫くはここのアイテム屋を偵察! とか意気揚々と言っていたけど、途中でコリンと色々と話しだしてな? 長くなりそうだったから、オレは色々と品物買って揃えてたんだ。ふふ、2人の話の中にお前さんの話題も出てたぜ?」
「……そりゃ、何の話題かは想像したくないな。ハニワ信者と宝箱幸運の持ち主。どんなことを話したのやら」
ユーリは、ため息を吐きながらそう言っていた。
比較的、コリンは別に自分のことで何か言った、言われた記憶は無いけど……トマトとなら判らないのだから。言わないだけで、頭の中だけは判らないのだから。
「はは、悪口は言ってねえって」
「どーだか。まあ良いか……それより」
ユーリの表情は更に険しさを増した。それを見たミリは苦笑いをしていた。
それでも、ミリもユーリ同様に、もう笑ってはいない。
「それで、なんだいユーリ? ひょっとして、オレを口説くつもりなのか? なら歓迎だぜ」
「これ以上茶化すな、ミリ。オレの要件は 判っている筈だろう? ……このまま、ミリが何も言わないんなら、リーザスの彼らに言って、ミリを戦線から外すぞ」
「……判った判った。……それだけは止めてくれ。オレのいない所で全部終わっちまうのは嫌だ。……例えオレが死ぬとしても、何もしないのは嫌だ。……絶対にな」
両手を上げて降参するポーズを取るミリ。その口調からユーリは察する。ミリ自身の身に起きている事は、そんな生易しいものじゃないのだと。
そして……ミリの口から説明された。
彼女の身体のキレが悪いのは……、彼女の身体を蝕んでいるものが存在しているとの事だ。
「……ゲンフルエンザ」
「ああ、この戦争が始まる数日前からだ。何だか身体が気だるくてな。……普段はてきとうに済ませる所だが、店をやってる時、ミルにも心配されちまって。だからちゃんとした病院で診てもらったんだ。……それで不治の病の兆候が出てたみたいだ。最もまだ初期症状だし、短期間で100%悪化するわけでもない。ま、ここ数年後でどうなるかは、五分五分ってやつさ」
内容は果てしなく重い。だが、それでも自分を崩さずに、極めて明るく振舞うミリ。
ゲンフルエンザは発症してしまえば、完治する事は今現在の医学、そして魔法でも確立されていない不治の病となっているのだ。塞ぎ込むミリは見たくはないと思う。だが まだ、大丈夫とは言え、明らかに身体に影響が出てきているのだ。だからこそ、以前までのミリなら、ちゃそば程度で手古摺るとは思えないから。
「………ミリ」
「嫌だよ」
ミリは、ユーリが何を言おうとしたのかを、いち早く察し 直ぐに牽制をした。
「これは 売られた喧嘩なんだ。……それに、戦線から離れて療養した所で治す方法がない。これ以上悪化しない事を、病院のベッドの上で祈るくらいしか出来ないんだ。……そんな姿、皆には見せられないさ。……そして、ミルの前では絶対に」
「……そうか」
ユーリは、そう言うと立ち上がった。こうなったミリは 誰にもとめられないと言う事は、ユーリも判る。信念を持っている者の、それを捻じ曲げる事は、他人にはできる事ではない。
「悪かったな。変に心配をかけちまって。だが、大丈夫だ。なんたってオレ だぜ? こんな病気なんざ気合でねじ伏せてやる。そんでもって、人間で克服した世界初の女になってやるよ。だからよ。……そん時は、ユーリの事、抱かせてくれよ?」
ミリはそう言って笑みを見せた。ユーリはそれを見ると同じく軽く笑う。
「……はは、流石はミリだな。じゃあ、オレも約束をさせてもらおうか」
「ん? 約束?」
「ああ、約束をだ。……ミリ、絶対に無理はするな。それが 守れたなら。この件が終わった後、オレが ミリを何とかしてやる。その 残された時間内で必ず……な」
ユーリは力強くそう言っていた。
誰に言われても気休めだとミリはこれまで思っていたんだ。だけど……
「『何とかしてやる』 か。ははは。なんでだろうな? 医者じゃないのに。お前さんなら、本当に何でもやっちまう気がするよ」
「ああ。絶対にしてやるさ。……だから、絶対に無理をするんじゃないぞ? 死ぬのは絶対に許さんからな」
「OKOK。成立だ。だから、オレの方の約束も忘れるなよ?」
「ん?」
「ほれ、オレが治ったら、ユーリを抱かせてくれって事だよ」
それを聞いたユーリは、ガクッと腰から崩れ落ちそうになるのを堪えた。
どうやら、さっき言ったのは冗談と言った類じゃないようなのだ。それに、その言葉……普通なら逆だろう。女から、ではなく 男から、だと思える。
「へへーん。オレは冗談ってヤツが嫌いなんでね。……それに、まさか、嫌~なんて言わないよな? ユーリ。はぁ……、オレは 気休めでもいいから、明るい話題を持っておきたいんだけどなぁ……」
ミリは、これまたわざとらしく表情を落としていた。わざとらしい、とは思えても、今の現状を踏まえた上でも、流石に、無理に拒む様な真似などはしたくない。病は気からとも言う。
「はぁ…… だが なんで、オレとなんだ?」
「そりゃ、相手がユーリだからだよ」
「……全然理由になってないって。……判った判った。オレも約束するよ」
「よっしゃあ! 萌えてきたぜ?」
「……その漢字、合ってるのか?」
傍から見たらバカ話だ。だけど、それでも良いと思える。
だが、ミリはこの時ある意味快挙なのである。
「さて、さっさと戻りますか。ヒララ合金をマリアのヤツに持って行ってやらねえとな?」
「ああ。そうだな」
ミリとユーリはそのまま、全員の集合場所であるアイスの町、入口へと向かっていた。
「……オレはな、ユーリ。……最後の瞬間が 例え来たとしても、その最後の瞬間まで、自由に生きたいんだ。……オレがオレである為にも。……いよいよとなったら、ミルと一緒に最後の冒険ってヤツに出るか……。ああ、それを口実に ユーリに迫るのも良いな。オレの本当の最後は、あの男の上で、腹上死ってのもオレらしいかも……な」
ミリは、前を行く男の背中を見ながら、誰にも聞こえない大きさで、そう呟いていた。
~アイスの町・入口~
ユーリは、皆の帰りを待っていた時だ。
まず初めに帰ってきたのが志津香とかなみ。何を話していたのかを聞こうものならば、鉄拳か鉄の足の踏み抜きが返答として帰ってきそうだったから、何も聞かないが……。
「……なんで、ここにヒトミがいるんだ? 今から前線に帰るんだぞ」
驚いたことに、2人と一緒にいるのはよく見知った娘がいた。……そう、ヒトミも一緒に来ていたのだ。……見送りだろうか? と ユーリは 思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
「もう、1人は嫌なんだって。……こんな可愛い妹をずっと1人になんてしておくべきじゃないわよ? ユーリ」
ユーリの言葉に 志津香がそう答えた。心なしか、ヒトミの目も一段階真剣身を帯びている。
「『家を守って』 って、お兄ちゃんに言われた時……、私もね。がんばろーって思ったよ。でも……やっぱり、傍にお兄ちゃんがいないのが怖いの……。本当に たった数日だったけど、凄く心配で……怖かった。1日が本当に長かったの。お兄ちゃんと、出会う前よりもずっと、ずっと。…………お兄ちゃん。お願い」
ヒトミは、涙を目に貯めていた。そして、涙を一筋流すと、ユーリの目を見た。
「……お兄ちゃんの、皆の、邪魔は、しないから、……だから、お姉ちゃんや、お兄ちゃんの傍にいさせて……? 私も 今から行く場所が、とっても 危険だって判ってる。でも、それでも お兄ちゃんの傍にいられない方がもっと嫌っ、離れる方がもっと……嫌なのっ」
「はぁ……」
それを聞いたユーリはため息を1つした。
そこまで言われて拒否をするのは 出来なかった。それに、これまで、やや過保護だったのかもしれない。彼女の様子、言動から 忘れやすいのだが、ヒトミは、女の子モンスターであり生を受けてから今日まで生き延びてきたんだから。
それに、ヒトミが自分と出会う前の話を聞いた。
彼女はずっと、1人だったんだ。そんな時に、自分と出会ったのに……。
「……判った」
ユーリは、そういうと 帽子越しにヒトミの頭を撫でた。そして、指先で涙を拭ってやる。
「その代わり、絶対に皆から離れるなよ? それと本当の危険地帯にはついてこない事、……それを約束できるか?」
「う、うんっ……!」
ヒトミは、目に溜まった涙を零しながら、本当の笑顔を見せた。それを見たかなみも志津香もニコリと笑う。2人はヒトミのこれまでの事も知っている。その小さな姿からは考えられない程の事をこの小さなコは体験をしてきたと言う事を。
「そうよね……。これは、あまり言いたくは無いけど、このアイスの町だって絶対に安全か? って言われれば頷けないし、ずっと1人にしておくよりは、私たちと一緒の方が安全かもしれない。拠点にする所は味方しかいないんだし」
「私も頑張りますよ。ヒトミちゃんには助けられましたからっ!」
志津香とかなみも頷いていた。
そして、ヒトミを同行する事になったが……よくよく考えてみたら問題もあるのだ。
「だが、説明が大変だな……ヒトミの事ちゃんと言っておかないと、その味方に何かされる可能性だってあるぞ?」
ユーリは今後の問題点についてもそう言っていた。
何故なら、この感情豊かであるヒトミを見ていると忘れそうになるが、彼女は女の子モンスターである。それも幸福きゃんきゃんだ。
一度倒せば、膨大な経験値を受け取れる為、誰であっても、攻撃を仕掛けてくるだろう。それはヘルマンだろうが、リーザスだろうが関係ないと思えるのだ。
「あ、お兄ちゃん! それは大丈夫なんだっ!」
ヒトミはぴょこんとユーリの前に飛ぶように来た。そして、志津香やかなみとも見合わせて笑った。
「何が大丈夫なんだ? ずーっと その帽子かぶってるのか? ……それでも、バレた時が怖いぞ? 四六時中一緒にいられるわけじゃないし」
ヒトミは女の子だ。
だから、一緒にいるとしても限界は当然ながらある。その限界を超えようモノなら、異種族間での恋愛?に発展するかもしれない。あのリスとローラの様に?
……そんなの、ユーリには無いだろ!とも思うが、間違いなく強烈にそれに反応する人たちがいる事をお忘れなく……、そして足に痛みが走る事もお忘れなく。
「えへへ、私ね? 色々と試してみて、判ったんだっ! 認識を逸らせる事が出来るって事は~……えーいっ!」
ヒトミがニコリと笑顔のままで、手をかざしたその時、ある変化が起きた。
ユーリは、ヒトミの方を目を凝らしてみる。2度、確認する。……そして、漸く、何が起こったのかを理解する事が出来た。ヒトミが『大丈夫』と言った意味を理解する事ができた。
「なるほど……、認識の種類を変えたか。……即ち、『自分が、女の子モンスターであると言う他人の認識を逸らす』って事か。自分は 普通の女の子だって。……姿を消したりする、存在の認識を逸らす事よりは確かに 難易度が低そうだ」
そうなのだ。
今の彼女を女の子モンスター、幸福きゃんきゃんであるとは思えない。帽子を取っている姿を見ても、そこにある筈の大きな耳を認識する事が出来ないんだから。 完全に自分の姿を目に映らない様にするよりは遥かに楽だろう。ヒトミの正体を知っているユーリ自身をも、その大きな耳を認識する事ができなくなってしまったのだから。そして、ヒトミも笑顔だ。辛そうにしている様子も感じられない。
「うんっ! 隠れたりする時はどうしても、存在そのものの認識を頑張って逸らせるんだけど、この方が確実だしっ! 全然問題ないみたいなのっ! 何度か試したんだけど間違いなかったよー!」
ヒトミは 笑顔のまま得意気になってそう言うけれど……、それを聞いたユーリは、素早くヒトミの頭に軽くげんこつを落とした。
「あうっ!」
「……馬鹿、万が一があったらどうするんだ? これからは、そんな危ない実験みたいな事は1人で絶対にするなよ?」
「あ……うんっ! 心配かけて、ごめんね? お兄ちゃんっ!」
ヒトミは心配して怒ってくれたユーリに笑顔で謝っていた。それだけ、自分のことを考えてくれているんだから。
「……ヒトミちゃん、良いな……」
ユーリとのやり取りを見て、兄弟姉妹のいないから、と 少しだけ羨ましく思えてしまっているのはかなみだ。でも、ユーリと兄と妹の関係になるのは、複雑だけど、それでも、親愛の眼差しを向けてくれるユーリを見てしまえば……やっぱりそう思ってしまうのだろう。
「本当の兄妹みたいね? ふふ……」
志津香は逆に笑っていた。
……失った事も多いけれど、こんなふうに得る事だって出来る。ユーリと再開して、それも強く思った志津香だった。そして、家族の事を 家族の温もりを人一倍欲していたのも、志津香かもしれなかったのだから。
「お姉ちゃん達も宜しくねっ!」
「わっ! あ、あははは。うん、こちらこそ」
「ええ。宜しくね。ヒトミちゃん」
ニコリと笑いながら、ヒトミは志津香やかなみに抱きついていった。
こうして、ヒトミはユーリ達についてくると言う事になったのだった。勿論、危険予知は確実にする事を念入りに約束をさせて。
その後、全員合流した。
全員が集まった所で ユーリはヒトミについては、色々と説明をした。勿論 志津香とかなみも交えて。
このコは、ユーリの妹の様な存在だと言う事をだ。ミリは、何やら妖艶な笑みでこちらを見ていたけど……それは軽くスルーする。
「おおー、ユーリさんの妹さんですかぁ! トマト、てっきりまたまたライバルが出現したのかと思いましたですかねー!」
「あ、あはは……。お兄ちゃんってばっ♪」
ヒトミは、トマトの言葉を聴いて1発で判る。トマトも、ユーリに好意を寄せていると言う事を。
「うむ、後5年……いや、6年くらいか? その後であれば 相手をしてやるぞ? がははは!」
「……はぁ、お前はそればっかだな」
「???」
ランスは当然こういう反応だ。
ヒトミの年齢はモンスターであるが故に、人間の見た目と歳、それとは違う。ユーリにとっては嫌な話題となりそうだから、さっさと掻い摘んで説明をすると、ヒトミは外見上から10歳だと言う事を言わせた。
ランスの許容範囲は15~29歳らしい。(別にユーリは知りたくもないが、勝手に言ってた)
だから、ヒトミが襲われる事はない。……妹の様に想っていると言うのは、嘘偽り無い事だから、ユーリは、正直安心出来たと言えばそれは本音だdった。
「はぁー可愛らいいですねっ! 宜しくね? ヒトミちゃんっ」
「うんっ、シィルお姉ちゃん!」
ヒトミの愛らしい姿に胸を打たれたシィルは、悶えそうになりながら、そう言っていた。ヒトミもシィルの事は直ぐに気に入った様だ。
こうして、初対面は終了し、一行はラジールの町へと向かっていった。
~ラジールの町・工場入口~
ラジールの町に到着した一行は、一先ず先に工場へと向かった。
ランスは、道中色々とウロウロしていた(女目掛けて……)が、兎も角真面目に動けと言う周囲の罵倒があり、いつも通りのユーリのランス取扱説明書に従った為、何とか限りなく最速でたどり着く事が出来たのだ。
「長かったです……、なんで 烈火鉱山での冒険よりも長く感じたんだろう……」
かなみは、ため息を吐いていた。これは何度目だろうか……、街の外、街道から ラジールの町が見え始めた時からだったと記憶してる。
「まぁ……ランスだからな? これでも十分早い方だろう」
「あはは……私、ランスお兄ちゃんがどんな人なのかは、もう判ったよ。とっても愉快な人だね~」
「ヒトミちゃん。……ランスを見るのもう止めなさい。悪影響しかないから。それに、妊娠するかもしれないわ」
「あはははっ。まっさか~♪」
ランスの事を見て、大体……と言うか殆ど理解したヒトミ。
そして、そのランスを見る事は、教育上?よくない事だと、注意をする志津香。……まるで、母親の様だ。そのランスはと言うと、シィルをいぢめて遊んでいる様だ。
「えへへ……シィルお姉ちゃんはランスお兄ちゃんが好きなんだね~」
勿論、ヒトミはその心の機微もよく判っていたのだ。でも、ランスはシィルの胸を揉みしだいているから……。
「だから、見ないのっ。めっ!」
「あぅっ」
志津香は、ヒトミの目を両手で塞いでいた。今ランスが繰り広げているのはR-18なのだから。Z指定だ。
「やれやれ……」
「ランスさんは、シィルさんだけ見てれば良いって思うですかねー、お似合いですよ? 寧ろ結婚を進めますですかねー!」
「だぁ、コイツはただの奴隷だ! そんなんじゃないっ!!」
「ひんひん……、痛いです。ランス様……」
工場の前で非常に賑やかだ。
これなら、中のマリア達も 帰ってきた事に気づくのではないか? と思えるのだが、それは無い、とはっきり言い切れる。……判るかと思うが、ランスが以前形容したモノ、『ゴールデンハニーがタップダンスを踊る音』が辺りに、まだ響いているのだから。
「さっさと入ろう。マリアも心配してるだろ?」
「ま、そうだな」
ユーリの苦言に皆同意した。いや、ランスは微妙だったが、とりあえず 中には入っていった。
~ラジールの町・工場~
忙しなく動き回る作業員(女性)達、そして外とは比べ物にならないくらい響き渡る騒音。ここはいつも大忙しだ。そんな時、マリアと香澄は皆が帰って来た事に気がついた様だ。
「ミリっ! トマトっ! それに皆も無事だったのねっ!」
パタパタと、安全靴で床を響かせながら駆け寄ってくるマリア。そのマリアにニコリと笑い、ピース、ビクトリーサインをするのはトマトだ。
「勿論ですかねー! ユーリさん達のおかげで、無事、戻ってきたですよー! これで トマトも更にレベルアップですかねー!」
「それに、ヒララ合金もちゃんと手に入れてきたぞ。この通り」
ミリも袋に詰められたヒララ合金をまるごとマリアに差し出した。
それを確認したマリアは、笑顔の質を更に上げる。それを見ただけでも大体判るなぁ……こういうのが好きだと言う事が。
「本当にありがとう、皆っ これでチューリップ3号も完成するわ」
そう言って、マリアはヒララ合金を香澄に渡した。早速作業に取り掛かるマリア。
「おいコラ! 俺様への労いが少ないではないか! オレ様の活躍により、それを入手する事が出来たのだぞ!」
「はいはい。お疲れさん」
「だぁ! 男の貴様に言われても嬉しくないわ!」
すぐ隣でいたユーリがランスの肩を叩きながらそういうが……、基本的に男不要!と思ってるランスには逆効果。でも、狙って遊んでいる感があるユーリだった。
「あはは、ありがとう、ランス」
「うむ、それでいい。さて、約束は大丈夫だろうな?」
「ええ、今日からランスがリーザス解放軍の司令官よ。バレスさん達にも話はしてる。ユーリさんからの信頼もあるって伝えたら二つ返事でOKが出たわ」
「がはは、流石はオレ様だ」
ランスはふんぞり返って笑うが、苦言を呈するのはかなみだ。
「それは、ランスのじゃなくて、ユーリさんの人徳のおかげでしょ!」
「ほんっと、ガキなんだから……」
志津香も、ため息を吐いていた。恒例だと思えるのだが、何度でもしてしまいそうだ。
「それで! ミリ達との約束の件は、どーなってるのだ!?」
「どーもこーも、ランスが言ってOKが出たら良いんじゃない? って私は言ったわよ? 別に本人が良いのならって。ランスだって、『同意くらいオレ様にかかれば余裕だ、がはは!』って言ってたじゃない」
マリアは冷静にそう言う。
ランスの性格上は……確かに、女をオトすのは楽勝だ、と言いそうだ。だから、その条件でOKが出た様だが、生憎トマトには一貫として断られ続けているのだ。
「ぐむ、司令官権限を使うぞ!」
「そんな権限ある訳ないじゃない! 個人を少しも尊重しないヤツがトップに入ったら、あっという間に崩れるわよ、馬鹿」
志津香は、そう突っ込む。確かにそれもそうだ。押さえつけるだけじゃあ、なんにもならない。それで従わせているのだったら、ヘルマン側と何ら変わらないと、不満が募ってしまうだろう。
「つまり、ミリ達を抱きたいって言うのなら、正々堂々と口説けって事でしょ? あ~んなに普段言ってるのに、自信がないっての?」
「誰がだ、コラ! このオレ様にかかれば、昼過ぎだが、朝前し前なのだ!」
志津香の挑発件誘導も板が付いてきたのだろうか?
司令官権限を実際に使われでもしたら、後々面倒に成りかねないから、正々堂々と言う方向へと誘導した様だ。
「お、そうだランス。こういうのはどうだ?」
ミリが一歩前に出た。
「む? 早速抱かれたい、と自分から思ったようだな? ミリ。がはは」
ミリに関しては、ランスよりも性技が上だ。手玉に取られてしまうのが判る筈なのだが、ランスは大笑いをしていた。先ほど志津香に言われた事を色々と引きずっているのだろう。
だけど、ミリの考えは、全くを持って違う。
「ユーリとオレで3P! なら、即決だ! 今直ぐでも、オールオッケー!」
「ふざけんな!!!」
「ふざけないでっっ!!」
「ダメですかねーーー!!」
「やめてください!!!」
四方八方取り囲まれてしまったミリ。だが、これは勿論 ミリ自身が狙っていた事であり、してやったり、とニヤニヤ笑っていた。
「はは、冗談だ冗談。オレは、まずはレッドの町を解放したらだ。無事できたら、先着順なんて狡いことオレは言わないぜ? ユーリだろうがランスだろうが」
「……む」
「さっきから、オレをダシにしないでくれ……、足がマジで痛いんだから。ああ……痺れてきた」
ユーリはそう言っていた。
その足にはさっきから、志津香の踏み抜きを受け続けているんだ。……ここの騒音のせいで、悲鳴?はかき消されてしまっているが。
「お兄ちゃん、思ったよりも 大変なんだね~? モテる男は辛いな~とか、よく言うけど、まさにそんな感じだね?」
「……次に楽しそうに言ったらデコピンだからな? ヒトミ」
「あはははっ」
このやり取りも久しぶりで、ヒトミは嬉しくて笑っていた。家に、1人で。たった1人で いた時よりも、ずっと楽しいから。
「よぉーし、ミリの相手は正直疲れる! だが、まあとりあえず良いだろう。次は志津香とかなみだからな」
「絶対に」「いやっ!!!」
本当に、何度断られてもめげない男だと思える……。
この手のやり取りも一体何度目だろうか……、だが、塵も積もれば山となり、失敗は成功の母……何れは2人も落ちる日が来るかもしれない。
「「そんな日、来ないわよ!!」」
「だぁ! うるさい!!」
天の声に盛大に突っ込みを入れている2人の声をまともに受けたランス。今日もいつも通り、皆元気だった。
「それで、マリア。チューリップ3号はいつできそうだ?」
「えっとね、後は燃料で試運転をしてから、ある程度のメンテも入れて、明日までには絶対に完成するわ」
マリアの言葉に頷くユーリ。
解放が遅ければ遅いほど、対策が打たれる可能性も高く、本軍からの増援も有りかねない。情報では、かの町にはリーザスの中でも最強との呼び声が高い赤い軍がいる。
……恐らくその中心では、あの死神もいるはずだ。叩くのなら早い方が間違いなく良い。
「よし! それでは明朝からレッドの町を攻めるぞ!」
突然ランスが割り込んでくる。
この男は肝心な所ではしっかりしている所もあるからこそ、面白い。それは何度もユーリは想っていた事だ。だが、マリアは納得したわけではなかった。
「えっ、そんな直ぐに……、もう少し準備をしたほうがいいわよ?」
「いや、ランスの言う事も最もだ」
ユーリがマリアの言葉を遮る。
「なんでよ、ユーリ。レッドの町の軍の規模、知らないワケじゃないでしょ? これがそれの初陣なんだし、もうちょっと慎重になった方が良いんじゃない?」
志津香もマリアに賛成だった。
チューリップがあれば大丈夫だと豪語しているのを見てるが……イマイチ賛同しかねる所もあるからだ。以前の戦いで、チューリップ2号・マレスケの威力は知っているけれど、あの時と今回じゃ敵の規模が違うのだから。
「……ここの情報はとっくにバレてると言っていいだろ? だが、さっさと進撃に来ないのは、戦力、兵力が圧倒的に向こうに分があるからだ。つまり、いつでも潰せるってな。そんな時に強大? な戦力? のチューリップが加わって五分以上になれるのなら、変に時間をかけて 警戒させるより、一気に仕留めた方が良い」
ユーリの言葉に志津香は、考える。
確かに、以前真知子にも聞いたが、敵側にも情報を扱っている者は絶対にいると言っている。幻覚の魔法を使うものも居たんだから、情報魔法も使う者がいたって不思議ではないだろう。でも、流石にこのチューリップ3号の事はまだ知らない筈だ。これもバレたりして、警戒を強められるよりは……。
「それもそうね……」
「私もユーリさんの言葉なら信じられます」
「はは、オレはいつだって良いぜ。叩き潰してやるさ」
「トマト、頑張りますよー!」
「おいコラ! オレ様の発案だぞ! そっちに群がるんじゃない!」
ランスはまた置いてきぼりを食らわされそうになっていたから、ユーリが素早く反応。
「そうだろ? ランスは最高司令官。個人関係ならまだしも軍部関係なら、文句は言えない。そうだろ? 皆」
ユーリの言葉に頷く皆。ランスもそれを見たら……。
「がはは! そのとおりだ。最高司令官である、オレ様に付いてこれば万事解決なのだ!」
と言っていつもの調子を取り戻していたのだった。
「それじゃ、明日、攻撃ができるように、全軍に指示をして貰えるように、バレスさん達にも言っておくわ」
「がはは、軽く蹴散らしてくれるわ!」
「……意気込みは結構だが、まだ 明日までには時間があるだろ? 一先ず休息をしておこう」
ランスは今すぐにでも行きかねなかったから……一先ずユーリはそう言った。それくらいい判ってるわ!と一言残すと、ランスはシィルを連れて宿へと戻っていった。
「はぁ。相変わらずランスの操縦が上手いわ」
志津香は、ランスをノせるユーリを見て、軽く笑いながらそう言っていた。
とあるランス取扱説明書に基づいた言動を言ったら、直ぐに怒るのに、こういう類のはまるで問題ない様子だった。
「…………」
志津香は、ぷいっ と顔を背けた。
どうやら、色々と反省はしている様だ。あまりに、あからさまな行動を取りすぎてしまったから。マリアやミリ、ここにはいないがロゼの前で あまり無防備な姿はみせられないから。
~ラジールの町・宿~
その日の夜。
ランスは、ベッドの上で寝転んでいた。そこに心配そうな表情で、シィルがランスの顔を覗き込む。
「ランス様、明日はいよいよ……戦争なんですよね……」
「ああ、そうだ。まぁ心配する必要は無いぞ。なにせ、オレ様は最強だからな? がはは」
「はい……」
シィルは、ランスの言葉を疑う訳ではないが……、それでも心配なのは仕方がないだろう。戦争と言う単語を聞いて安心出来る者などいないだろう。
「ふん。シィル。お前は あれこれ考えずにただ、オレ様についてきたら良いのだ!」
「あぅっ……はいっ」
シィルは頭を叩かれた。ちょっと痛かったけれど……安心出来たんだ。
「さぁ、そんな事よりも……」
「あっ……」
そのランスの目つきもいつも通りだった。
「さぁ、可愛がってやるぜ! こい、シィル」
「……はいっ!」
こうして、ランスとシィルはいつも通りの展開を繰り広げていた。
~ラジールの町・司令部~
その司令部では、リーザスの将全員と部下の数名が集まっていた。明日への戦いに向けて、策を練っているのだ。
「おお、ユーリ殿。ありがとうございました」
「ああ、ヒララ鉱石は手に入れてきた。明日には完成する、そして決戦は……」
「明日ですね、大丈夫です。話は聞いて各部隊にも通知をしています」
時期が早いのではないかといわれるかと思ったが、杞憂だったようだ。状況の逐一把握している将だからこそ、それが適切かどうかの判断は問題ないのだろう。
「いよいよ、ですね。……相手は リック殿の軍。赤の軍も加わってます。洗脳されているとは言え、その力は本物。……気を引き締めていきましょう」
ハウレーンも表情を険しくさせながらそう言う。自軍でもある赤の軍の強さはよく知っている。だからこ、その言葉が出たのだった。それは、エクスもバレスも同じだ。
ハウレーンの言葉に 2人は深く頷く。そして、ユーリも同じく。
「ところで、以前に話していたローラの恋人の件だが……」
「手は尽くしています。《転生の壺》の情報も、同時進行で合わせて行なっています。……流石に、AL教団が認定しているバランスブレイカーと言われているだけの事はありますね。……残念ながら 集まる情報は少なすぎと言うのが現状です。リスの件も同様で、まだ……」
「ああ。……判った」
最悪は、ローラを手にかける必要が出てくる可能性が高くなる。
だが、まだ今は目の前の戦いに集中する事が先決だろう。猶予は決して多くないが……、今は進むしかないのだ。
「……クルックー」
ユーリが、この時に思ったのは、AL教団の司祭見習いのクルックーの事。
あのリスのウーと、殆ど同時にあそこから出て行ったのだ。彼女だったら、ウーの行方を知ってる可能性が高い。だが、彼女もAL教の神官としての使命があるのだからそれは希望的観測だとユーリは胸の内にしまい込んだ。
「失礼します」
そこに入ってきたのは、真知子だった。彼女も休息を貰っている筈だが……情報収集に力を入れてくれているのだ。
「レッドの町への街道に配置されている敵軍の規模の正確な情報が入りました」
「流石ですね、仕事が早い」
エクスも舌を巻く程の技量を持っている真知子。それを見て、ユーリはつくづく思う。カスタムの人材はハンパないと言う事を。
「ヘルマン側の司令官、フレッチャー司令官が率いる2,000の部隊、そして洗脳されたリーザスの赤の軍4,000、大型モンスターを含むモンスター部隊も5,000程、配置されています。故にレッドの町に侵入するには彼らを何とかしないといけません」
真知子は、持ってきた書類に目を通しながらそう伝える。
それが簡単じゃない事は重々承知だ。単純に門番として配置された様な部隊だと思えるがその数は圧倒的にコチラより上なのだから。だが……、コチラには切り札がある。
「チューリップ3号には活躍して貰わなければならないな」
ユーリはそう言っていた。
倍の差はある兵力だ。それを補ってもらわなければ正直勝つことが難しくなるのだから。
「後、もう1つ情報が入ってます。レッドの町についてです」
「む、他にも何かあるのですか?」
ハウレーンが少し表情を強ばらしながら聞いた。これ以上はあまり悪い情報は遠慮したいと思うのが心情だろうが、聞いておかなければ万が一の時に身体が動かない可能性があるのだから。
「いえ、驚異とは違います。寧ろ吉報です。レッドの町でも抵抗軍がいると言う情報です」
「おお!」
その言葉に、僅かながら歓喜の声を上げる。敵の情報だけではなく、味方とも言える者達の情報が入ったのだから。
「抵抗軍か……、だが、洗脳はまだ活きているんだろう? リーザス軍じゃなければ一体誰が?」
「こちらは未確認情報ですが、リーザス戦では、敗れてしまったリーザス・コロシアムに登録していた戦士の人達が、各地で少しずつ勢力を増やして、レッドの町に侵入したとの事です」
「リーザスコロシアム……!! ユランか!?」
「それは、嬉しい情報です。彼女が無事であり、手を貸して貰えれば、大きな戦力になります」
エクスもバレスもそう言う。
《ユラン・ミラージュ》
彼女はコロシアムの前チャンピオンであり、一度ランスに敗れて王座から陥落したものの、不屈の精神力もあってか、またチャンピオンに上り詰めたとの事だった。その実力は折り紙つきであり、将軍達の間では、リーザス親衛隊隊長レイラに匹敵すると言われているのだ。
「はい。可能性は高いですね。人数が少ないのにも関わらず、殲滅されずにゲリラ戦をまだ仕掛けているとの事ですから」
少人数精鋭で、少しずつ中から攻めているらしい。
規模が大きい相手なのに、奮戦するのは恐れ入るというものだ。だが、相手が相手……ユラン1人とは到底思えない。
「……コロシアムの戦士。なら、アイツもいる可能性があるな」
ユーリの頭に浮かんだのは1人の異国風の剣士の姿。
その実力は、ユランにも匹敵するどころか、勝ってると言ってもいいだろう程の腕前だ。
あの戦いの後、更に研鑽を積んでいるとしたら、あの時より更に強くなってるはずだから。
「よし、チューリップをはじめ、光明も見え始めている。我らに追い風が吹いている事は間違いない。……士気を高め、明日の明朝、一気にリーザスを解放する」
「「「はッ!」」」
バレスのその一声で軍議は終了となった。
「お疲れ様、真知子さん」
終了後に、ユーリは真知子に声を賭けた。彼女も不眠不休と言っていいくらいに働いている筈だ。
「いえいえ、ユーリさん達も同じでしょう? 結局皆さん、リーザス軍の人たちの計らいでもある休暇を受け取らずに働いたんですから。皆さん目を丸くさせてましたよ?」
「……カスタムの皆はスペックが高いからな。嬉しい誤算だったんだろう」
ユーリはそう言って苦笑いをした。
それは、間違いないと思えるからだ。今回の作戦にしても、マリアのチューリップが要であり、ミリとトマト、まぁランスも入れて 皆でその準備を整えた。更に真知子は、新たな情報を仕入れてくれている。ロゼは……、まあ色々と難はあれど、数少ない治癒術士として重宝をされている。でも、その裏では、悪魔とウハウハだとか。後者は まるで興味無し。
「それに、私たちはきっと英気は十分養えられたと思うんです」
「……ん? なんでだ?殆ど活動しっぱなしだろう?」
真知子の言葉に疑問を上げるユーリ。だけど、真知子はニコリと笑う。
「だって、ユーリさんとのあのイベントがあったんですよ? ランさんはお気の毒だと思いますが、他の皆さんは絶対にそうですよ。私もユーリさんを膝枕して……そのお耳を掃除したことは一生の思い出の1つにしてますから」
「……はぁ、オレとしては忘れてくれていいって思ってるんだが……」
ユーリは表情を強ばらせつつ、ため息をついた。
あの時は……正直恥ずかしかった思い出しかない。真知子の膝に頭をおいて、両の耳をた~~っぷりと掃除させられたのだから。何をするか直前までわかってなかったユーリだから、突然言われて戸惑うばかりだったのだ。
「うふふ、とっても、胸がきゅんっ! としちゃいましたよ? また、お願いしますね」
「はぁ、……そりゃ良かったな。だが断る」
「それは残念です。では、第2回に期待をしましょうか」
「………」
確かにユーリは恥ずかしそうにしていたが……それくらいで、休息になるのなら、安い?だろう。第2という言葉を聴いて……更にため息をするユーリ。あの段幕にあった第1という言葉を意識していなかったと言えば嘘になるのだから。……彼女たちが多大な貢献をしてくれてるんだから、無下にするのはあんまりだろう。
「明日は期待してますよ? ユーリさん」
「明日に早速するって言うのか……」
「ふふ、違いますよ。レッドの町です。お願いします、救ってください」
今度は真知子は真剣な表情でそう言う。
彼女はこの時……何だかある予感がしたのだ。……あの町に彼女がいるかもしれない、と言う予感が。
「……ああ、任せておけ」
ユーリは強く頷いた。
心強い皆が一緒なのだ。そして、想いの強さならば、コチラが上だと思える。洗脳兵の上にあぐらをかいている、連中に負けるはずがない。故に負ける方が難しいんだ。
こうして、明日に備えて、皆は休息に入っていった。
~レッドの町・ヘルマン軍司令部~
情報戦においては引けを取っていないヘルマン軍。ラジールの町のリーザス解放軍の不穏な動きを察知していたのだ。
「フレッチャー司令、ラジールでのリーザス軍の残党が明日にも攻撃してくると言う情報を得ました」
「ぶーぶー。馬鹿ばかりぶー。兵力の差も計算できないのかぶー?」
笑いながら、顔の贅肉を揺らすフレッチャー。コチラとリーザス残党の兵力の差など誰がどう見ても一目瞭然なのだ。
「どうしましょう? 先手を打ちましょうか?」
「ぶーぶー、泳がせておけばいいぶー。迎え撃って、力の差を思い知らせてあげるんだぶー。皆にはそう伝えておくぶー」
「はっ、了解しました!」
敬礼をし、部屋から出ていくヘルマン兵を見送り、フレッチャーは自身の横に控えている弟子であるボウとリョクに笑いかける。
「ここの戦力、兵力を判ってないのかぶー?」
「そうでしょう。所詮は残党。正確な情報が出回っているのか怪しいものです」
「そんな連中よりも、レッドの町の何処かに潜伏しているであろう残党達の連中の方が驚異かと中でも、あのユランと言う女、そして金髪の男。間違いなく強者かと」
「ぶーぶー。そいつらは、まだ放っておくぶー。……ラジールの連中を仕留めたら、その首を全部晒しておくんだぶー。それを見て、勝目がないと悟れば諦めるぶー。それでも諦めない馬鹿は、直々に相手にしてやっても良いぶー」
「ふふ、それは可哀想ですね。世界最強の格闘家であるフレッチャー様が相手では……」
談笑が続く部屋。そこにいる影は3つではない。背後に控えているのはボク・リョクだけでなく……。
「リーザスの死神はリーザスにとっても死神になるのも面白い結末ぶー」
部屋に控えているのは、虚ろな目をしている騎士。洗脳されている兵であり、リーザスの主力だと言ってもいい存在。
《リック・アディスン》
そして、もう1人、控えていた。
「この小娘も侮っておりましたが、肉体の強さは相当なものですね。伊達に副将軍の地位にはいないと思えるかと」
リョクがそう答えた。
リック・アディスンのとなりに控えているのは……、かなみの親友であり、心から身を案じている存在。
かなみの親友である、《メナド・シセイ》だった。
これから待ち受けているのは、仲間を、親友を殺してしまうと言う残酷な運命か、もしくは、反撃の狼煙か……。
この場で高笑いを続けているフレッチャーは前者しか考えていないようだった。
〜人物紹介〜
□ ユラン・ミラージュ(3)
Lv18/27
技能 剣戦闘Lv2
リーザスでは知らぬ者はいないとも言われるコロシアムの元チャンプ。
今回の侵略戦では流石に突然の襲撃だった為、成す術が無かったが、その後もレジスタンスとして、戦い続けている。
現在はレッドの町で潜伏中
□ フレッチャー・モーデル
Lv5/100
技能 格闘Lv3
リーザス侵略における、ヘルマン第3軍の司令官の1人。
嘗ては大陸に並ぶ者無き、人類史上最強の呼び声が高い伝説級の格闘家なのだが……今の見た目は……。
□ ボウ、リョク
第3軍所属の司令官フレッチャー・モーデルの直弟子。
常に師匠であるフレッチャーの事は尊敬しており、絶対だと信じている。
……盲信していると言ってもよく、普通に彼を見ていれば判るはずなのだが……。
つまり、盲信とは怖いと言う事。
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