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戦国異伝

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第二百二十五話 馬揃えその五

「知りませぬ」
「公家の方の様じゃが」
「どうもですな」
「知らぬな」
「どうにも」
「うむ、珍しい」
 二人の言葉を聞いてだ、林はその公家を見てだった。そのうえでこう言った。
「あれは高田殿じゃ」
「高田殿?」
「高田殿といいますと」
「高田家の主高田久人殿じゃ」
 それがその公家の名だというのだ。
「代々陰陽道を司っておられる古い家でな」
「どれだけ古いのでしょうか」
「応神帝の頃にはあったとか」
「応神帝といいますと」
 羽柴は学にはいささか弱い、それでその帝のことを言われても首を傾げさせた。
「一体」
「かなり前の帝じゃ、大きな墓を建てていた頃のな」
「といいますと堺の辺りにある」
「ああした墓を建てていた頃の帝じゃ」
 それが応神帝だとだ、林は羽柴に話した。
「丁渡な」
「そうでしたか」
「その応神帝の頃から朝廷におられる」
「古い家のご当主ですか」
「そうなのじゃ」
「そしてですか」
「朝廷にも滅多にお顔を出されぬ方でな」
 朝廷とのやり取りを任せられることの多い立場からだ。林は話していった。
「ここにおられることもな」
「珍しいと」
「あの方も来られるとは思っておらんかった」
「左様でしたか」
「いやはや、まこと珍しい」
 林はこうも言った。
「馬揃えで思わぬ方に会えたわ」
「ですか」
「うむ、非常にな」
 こうも言った林だった、そして。
 そのうえでだ、こうも言った。
「しかし。お顔を久方ぶりに拝見したが」
「どうなのじゃ」
「相変わらず暗いお顔じゃな」
 こう柴田に答えたのだった。
「どうにもな」
「ああした暗いお顔か」
「そして着られている服もな」
「いつもか」
「そうなのじゃ、ああした色じゃ」
「そうなのか」
「うむ、まことにな」
 また言う林だった。
「あの方まで来られるとはのう」
「実に珍しい方なのじゃな」
「そうじゃ、しかしな」
「しかしとは」
「どう思うか」
 林は柴田だけでなく周囲にも問うた。
「あの方は」
「どうもな」
「暗いのう」
「それに人好きのしない」
「そうした感じが」
 織田家の主な家臣が言う、そして明智もだ。
 林の横に来てだ、こう言った。
「それがしも高田家については」
「知らぬか」
「名前は聞いた気もしますが」 
 しかしというのだ。 
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