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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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闇王

 
前書き
最近、この作品について思う事。
続編にならないとヒロインの選びようが無いです。

マテ娘勢ぞろいと、過去独自解釈回。 

 
~~Side of ディアーチェ~~

我から未完成の制御ワクチンを送り込まれた教主殿は、エグザミアの暴走を抑える事で受ける反発ダメージのせいで、無数の傷が身体に刻まれていく。元々12月まで待って完成した制御プログラムであれば、彼にこのような苦痛を与えずに暴走を止められたはずなのだ。しかし……たった今、教主殿は実行してしまった。それによって先程送った制御プログラムが教主殿を介して“U-D”の全身に行き渡るまでの間、教主殿はダメージを肩代わりし続ける。そしてここに来た我らの役目は……無限に魔力を発生させるエグザミアから制御プログラムの効果が及ばずに切り離されてしまった、“闇の欠片”の始末である。

「よいしょぉっ!! これで……45体目!!」

「ルべライト! からの……機神菩薩黒掌!!」

「ひかえよ塵芥ども、教主殿には決して手出しさせんぞ!! アロンダイト!!」

“U-D”の周りに発生している澱みのような場所から続々と現れる、教主殿の記憶にある人物やアンデッドを色彩も特徴も含めて模した欠片を、レヴィが片っ端から切り裂き、シュテルが捕らえてから何故か掌底で吹き飛ばし、我が一網打尽の砲撃を放つ。我らの本懐ともいえる連携で教主殿に害成す雑魚どもを殲滅していく事で、継続ダメージ以外の障害を減らそうと尽力しておる。
それと我の力はダークマターとは異なるが、教主殿に近い性質を持つ暗黒の力だ。これを利用して我は、倒した欠片の魔力をろ過し、教主殿にも効果がある回復魔法として変換、継続ダメージの負担を軽減している。制御プログラムのワクチンを打ち込んだ後、我に出来るのはこれぐらいしかないので腹が立つが、かと言って役目を放棄するなどあり得ぬ。
制御プログラムが行き渡るまでの時間が不明な以上、あとは教主殿を含む我ら全員の気力次第で、作戦の成否が決まる。焦燥感に支配されそうな気持ちを奮い立たせ、我らはひたすら欠片を駆逐していくしかない。そんな時、これまでとは異なってひときわ大きな欠片が姿を形作り、我らの前に君臨した。

「うわ、なんか大きい人っぽいのが出て来たよ!? でもコイツが持ってる銃って、どこかで見たような……?」

「服装は古ぼけたコートに、色あせたボウシ、すり切れたブーツ……ぐらいしか識別できませんね。あとグローブを付けてるのはわかるんですが、ちょっとあせくさそうです」

「恐らくこれは教主殿の記憶にあるヴァンパイア、何かしらのイモータルを模したものだろう。だが我らの為すべき事は変わらん!」

「だね、欠片は倒すだけだもん。って事でおっさき~!!」

先制攻撃を仕掛けるべくレヴィが突貫、バルニフィカスで斬りかかる。だがその瞬間、奴は卓越した動きで回避、反撃でレヴィがいる位置にショットを放ってくる。慌てて攻撃した勢いを利用して真っ直ぐ飛んでかわし、レヴィは事無きを得た。だがそのタイミングでシュテルがシューターを放ち、奴の不意を突く。いや……突いたつもりであった。しかし奴はレヴィの時と同様に、容易く回避と同時に反撃……咄嗟にシュテルはプロテクションを張って防いだものの、今の不意打ちすらかわしきるとはコイツ、かなりの強敵かもしれん。

「シュテル、レヴィ、臆するな! 相手は一人、我らが勝てない道理はない!!」

「クッ……これも因果か……! 待て、ディアーチェ。いいか、よく聞け! そいつには生半可な攻撃は通じない、ブラックホールで動きを封じ込めろ!」

「教主殿!? だがブラックホールは暗黒物質を扱える教主殿の術……ダークマターを扱えない我には出来んぞ!?」

「いや、おまえなら出来る、いいか! ディアーチェのエナジーは俺が使える戦術をほとんど模倣する事が可能だ。それにおまえが持っている銃は、かつて俺が使ってきた暗黒銃ガン・デル・ヘルと瓜二つ……願掛けならこれ以上の物は無い!」

「この銃が……!? 我に出来るのか……?」

「大丈夫、やるんだ。おまえなら出来る!! おまえにしか出来ないんだ!! ……ッ!」

我に言葉を届けた教主殿の声に反応し、欠片が彼に向けて大量の剣を飛ばす。“U-D”の負担を肩代わりしている事で動けない今、その剣が教主殿の身体に突き刺さる危機に我は寒気を抱く。飛来してくる剣から目をそらさずに見通す教主殿……それが目前まで迫った瞬間、炎熱を纏う砲撃が全ての剣を弾いた。

「教主には指一本触れさせません!」

「ナイス、シュテるん!」

「よし、シュテルはそのまま教主殿を守れ! レヴィ、奴の注意を引き付けろ! その間に我が……ブラックホールを生成する!!」

「わかりました、王! お気を付けて!」

「オッケー! お兄さんは任せたよ、シュテるん! それじゃあ王様を守るのは、ボクの役目だ!」

役割分担が決まった事で、二人もそれぞれ動き出した。そして我は……エルシニアクロイツと柴天の書を格納し、この疑似暗黒銃を構えて体内を流れるエナジーを銃口に集中させる。やがて銃口に小さな重力場が発生、ブラックホールの種が現れた。
だがここからが大変だ。教主殿は割と簡単に為し遂げるが、ブラックホールの巨大化には制御の部分でかなりの神経を用いる。わかりやすく言うと、ピンポン玉を乗せたスプーンを持ったまま、ピンポン玉を落とさずに縄の上を100メートル綱渡りするようなものだ。しくじればせっかく大きくしたブラックホールはあっという間に縮小、消滅してしまうし、制御が狂えば逆に自分が吸い込まれる可能性もある。まさに一つのミスも許されない技術なのだ。

「だがここで成功させてこそ、我が闇統べる王である証! 自らの闇も制御できずに、王を名乗れるか!! ぬぅぉおおおおおおおッ!!!!」

重力場が我の手の中で暴れ出そうとするが、片っ端からベクトルを修正していき、中心に集まるように誘導する。正直に申すと、我の必殺技であるジャガーノートよりも制御が大変だが、その分威力も見返りも大きい。何より……、

「せっかく我だけが使える、教主殿の技を継承できるのだ! 絶対に使いこなして見せようぞ!!」

エンチャント・ルナ、ゼロシフト、自爆分身、火炎弾、氷柱……全て教主殿から学んだエナジーを用いる技。これらと暗殺用近接格闘術、CQC、ホドリゲス新陰流を我らは教主殿のおかげで身に付けられた。
戦闘スタイルに適している事でシュテルは火炎弾や自爆分身を、レヴィはゼロシフトと剣術をよく用いる。まぁ、シュテルは暗殺用近接格闘術を好んで使っているが、クロスレンジの弱点を補う意味ではむしろ好都合だろう。そして今、我は教主殿から直々にブラックホールという特別な術を受け継ごうとしている。ならばその期待に応えてこそ、我の威厳を真に示せるというものだ。

全神経を集中させて重力場をコントロールしながらエナジーを加えていき、ブラックホールは徐々に大きくなる。その間、レヴィは欠片へ牽制攻撃しながら、欠片から繰り出されるヴァンパイアソードを弾いたり、ヴァンパイアクローやウィザードショットを回避して時間を稼いでくれている。おかげでブラックホールは無事に完成、欠片のヴァンパイアを吸収し始める!

「今だ、レヴィ! そやつをこの中へ押し込むのだ!!」

「うぃっす! 我慢してた分、倍返しだよ!!」

「返事、軽いですね。それより私も援護します。その欠片は塵も残さず滅却しましょう!」

という訳で、マテリアルズが一斉攻撃。我が生み出したブラックホールに欠片の身体が押し込まれた瞬間、それぞれ最も威力のある魔法……必殺技を放つ!

「奔れ赤星、全てを焼き消す炎と変われ! 真・ルシフェリオンブレイカー!!」

「行くぞぉ! パワー極限! 雷刃封殺爆滅剣!!」

「柴天に吼えよ、我が鼓動! 出でよ巨重! ジャガーノート!!」

我ら全員の攻撃を受け、オーバーキルも良い所の激しい爆発がブラックホール内で集束する。もろに喰らった欠片のヴァンパイアは、耐久限界を超えてブラックホールが爆散した事で解放はされるが、その場で胸を抑えてうずくまった。まだ形を保っている事には驚いたが、もはや動く力も残ってはおらん。消滅するのは時間の問題だろう。

「………さらばだ………親父の影よ……。その姿、もう二度と俺に見せるな……。見るだけで、かつての古傷が痛む……」

呪詛のように教主殿が呟くと、欠片のヴァンパイアはなぜか笑みを浮かべて消滅していった。教主殿があの欠片の元となった者にどういう感情を抱いているのかはさておき、今の台詞や様子から鑑みるに、あまり気持ちのいい出来事では無かっただろう。だから誰かの姿を模倣して精神に傷をつける欠片は気に入らぬのだ。

「……逝ったか……。さて……おまえ達、朗報だ。この瞬間から、もう欠片が現れる事は無い」

「という事は……終わったんですね、教主!」

「ああ、制御プログラムは無事にエグザミアの暴走を止めてくれた。意味の無い破壊を招き続けた哀しき因果はたった今、終わりを告げた」

「イ~ヤッホゥー! ボク達の完ッ全しょ~りっ! 強いぞ凄いぞカッコイイ!」

「それで……早速だがこの子に挨拶してもらおうと思う。ほら、せっかくなんだから堂々と胸を張れ」

そうやって教主殿は暴走する危険が無くなって自由を得た“U-D”を、軽めの力で背中を押す事で我らの前に立たせた。しばらくモジモジと指を絡ませていた彼女は、やがて意を決した表情で我らを見据えてきた。

「改めまして……柴天の盟主、ユーリ・エーベルヴァインです。皆のおかげで無限連環が招く悲劇に終止符を打つ事が出来ました。本当に……ありがとうございました!!」

「彼女の名前はシュテルが思い出して、俺に伝えてくれた。これからはシステムU-Dという何の魅力も飾り気も無い呼び方ではなく、“ユーリ”と名前で呼んでやる事だ」

「うむ。ではユーリ、たった今より、もうお前を一人にはせぬ。望まぬ破壊の力を振るわせたりもせぬ。安心して我が下に……我らと共に来るが良い」

「ディアーチェ……はい、喜んで!」

「………フッ」

嬉しさのあまりに抱き着いてきたユーリの頭を、我はよしよしと撫でた。シュテルもレヴィもこの輪の中に加わり、至極暖かな空気に包み込まれる。我らの様子を見て、やれやれと言いたげに手を上げて一息ついた教主殿は、「いつまでここにいるつもりだ? 続きは外でやってくれ」と言ってきた。確かにここは教主殿の精神世界の最深部、あまり長居されても嬉しい場所ではないだろう。

そういう訳なので感覚的には水面に浮上するかのごとく、意識を集中させて我らも現実世界へと帰還していく。ユーリはここから現実世界へ意識を戻す感覚がわからないため、案内として教主殿が手を引いていってくれた。こうして精神世界での戦いは、綺麗に丸く収まったのである。
戻ったら帰還祝いでもユーリの歓迎会でも開こうかと考えながら、我らは現実世界へ召喚の手続き無しで再び実体化した。ユーリが解放された事で、我らの実体化に月の力を消費する必要が無くなり、常時顕現していられるようになったのだ。

教主殿との同化は今でも可能なのだが……急速で月の力を補給しなければならない時や、同化せざるを得ない状況にならない限り、わざわざせずとも良いだろう。意味も無く同化した所で、それはただ教主殿の負担になるだけだ。そのような事は誰も望まん。

「ふぃ~疲れた~。おかげですっごくお腹空いたよ~」

「後で教主がとびっきりの美味しいカレーを作ってくれますよ、レヴィ」

「カレー……美味しそうな響き、私も食べたいです~♪」

「うぬら……戻ってきて早々、飯の話しかせぬのか。……すまぬな、教主殿。今、うぬの“拘束”を解放する」

労わるように呟いた我は、まだ目覚めぬ教主殿の身体を縛る器具を取り外していく。エグザミアの暴走が我らの想定をはるかに超えた場合、現実世界の教主殿の身体が暴れ出す危険性があったため、止む無く彼の身体をこうして拘束ベッドに括り付けていたのだ。我らとしても不本意であったのだが、万全を期して教主殿がそうするように進言したのである。

「……ん、俺だけ目覚めが少し遅かったか? もう器具を外したようだな……」

「もう終わったんだし、いつまでもそうしとく意味は無いからね~」

「教主、お身体は大丈夫ですか?」

「いくらダメージを負ったとはいえ、精神世界での出来事だ。現実の肉体に傷は無…………ヌグッ! ゴホッ、ゴホッ!」

ベッドから起き上がりながら話していた教主殿は、途中でいきなり胸を押さえて咳き込みだす。音的にも痛々しい咳で、傍にいたシュテルが彼の背中をさする。しばらくして落ち着いた教主殿が、「大丈夫だ、もう心配いらない」と言って立ち上がろうとした。

だが途中で、目眩を起こしたように我の方にもたれかかってきた。

「おい教主殿!? 本当に大丈夫か!?」

「すまん……なんか身体が重い……。いきなり力が抜けて支えきれなかった……」

「やはり精神世界で受けたダメージが影響しているのだろう。現実に傷は無くとも、精神体が大量に傷を負ったのは事実だから、影響が何も出ないなんて事は考えられぬ」

「そうか……言われてみればその通りだろうな。悪いなディアーチェ、少しの間……身体を預ける」

「む、むう……良かろう、安心して我に委ねるがいい」

そう言うと大人しく身体を預けてきた教主殿だが……冷静に考えれば十分想定しえた事であった。精神体の耐久力はそのまま心の強さに通じる。それゆえ精神体が受けたダメージは、即ち心の衰弱に繋がる。一言で言えば、今の教主殿は疲れ切っている訳だ。親しい者の状態ぐらい把握できなくて、何が王か。これぐらいの慧眼は持っておるし、対応も出来て当然だ。

「……言っておくが、変な邪推はするでないぞ?」

「別に何も言ってませんよ? 羨ましい気持ちはありますけど、私は皆よりちびですから、支えきれずに押し倒されてしまいますからね」

「あ、ボクの方が力持ちだから代わってあげようか、王様?」

「待ちなさい、レヴィ。あれは王に対する一種のご褒美イベントというものですよ。ここは大人しく見守るのが臣下の役目です」

「な~んだ、シュテるんがそう言うんなら、きっとその通りなんだろうね。じゃあボクもひっついちゃお~♪」

「なんと、その手がありましたか……! では僭越ながら私もご一緒させていただきます。……だきっ」

「な、仲間外れは嫌ですぅ~! 私もぎゅ~っとしたいです!」

「コラ! 皆一斉に引っ付くな! 動けんだろうが!!」

……ま……まあ、そんなこんなでユーリも現実世界で正式に我らの仲に加わったのであった。そのためまだ記入されていない社員証に、教主殿のカメラをしばし拝借してユーリ・エーベルヴァインの名前と顔写真をインプット、正式にアウターヘブン社の同僚となった。

さて、ようやく現実世界に実体化できるようになったユーリを、共に暮らすマキナとシャロンに紹介すべく、我らの住む部屋の扉を開ける。教主殿には参考書の自習でもしていれば早く済むと言われていたが、それに限らず時間の潰し方は色々ある。それゆえ我らが帰ってきた時、案の定マキナはハンドガンのクイックドロウの練習をしていて、シャロンは何処かに入っていたのを見つけたカセットテープから音楽を聞いていた。

「……あ、おかえり、皆。その様子だと……無事に迎えられたんだね。でもサバタさん、さっきと比べてかなり顔色悪いけど大丈夫なの?」

「ああ、気にするな。少し疲れただけだ……」

『サバタ様がそう言うなら、私達は何も言わないけど……。それで初見のその子には……ようこそ、天国の外側へ。私達は君を歓迎するよ』

「は、はい! よろしくお願いします!」

「うぬら……早速ユーリを受け入れてくれたのは構わないが、語学の自習はどうした?」

「それなら一応やってるよ。そこのテーブルに置いてある参考書でマキナはロシア語のを、それに加えて私はドイツ語の二つをやってみたから」

『あくまで一人でやれる範囲しか出来ていないけどね。感覚や文法、発音とかは実際に使える人からじゃないと、どうしようもないし。あと外見てみて、もう夜の8時だよ? 流石にお腹が空いて集中できないって』

「空腹ならそこらへんの店で、適当に軽いものを何か買って食えばよかろう?」

「最初はそう思って、近くのバーガーショップに行ってみたんだけど……そこで売ってた“ケミカルバーガー”を見た瞬間、二人して食欲が失せちゃったんだよね……」

『いやホント、お腹が空いてるのに食欲がわかなくなる程のインパクトがありましたな、あのハンバーガー。ああいう何か道を外れた食べ物じゃなくて、真っ当な料理……もう素直にサバタ様の手料理が早く食べたい!』

「そうか……なら少し遅いが夕食にしよう。それで何だが……頼みたい事がある」

その台詞の次に伝えてきた言葉を聞くと、我らは苦笑しながらも快く引き受けた。此度の件で教主殿がレヴィに作ると約束したカレーだが、先程のように今の彼は衰弱してしまっている。そのため教主殿は、我らに手伝いを求めてきたのだ。そういうのは本来シュテル達臣下がやるべき事かもしれぬが、逆に王だからこそ臣下の面倒を見なければならないと、我は思っておる。それにレヴィ辺りはつまみ食いとかしそうで不安だ。ゆえに我らは和気藹々とまるで合宿のような楽しい雰囲気の中、皆でカレーを作り上げたのだった。

で、味は……まあ、語るまでも無いだろう? 皆で作ったカレーとは、そういう料理なのだから。でもちゃんと美味かったとだけは言っておく。

それにしても料理か……今はまだレシピを覚える段階だが、臣下を養っていくためには覚えておくべき技能であろう。これから言語習得の合間に暇があれば、教主殿に教わろうと思った。

「知りませんでした……」

「む? 急にどうした?」

「皆で一緒に食べるごはんって、こんなに楽しくて……とても美味しかったんですね……」

「まあ、確かにその通りだな。我らもつい最近までは知らなかった感情だ」

「へ? ディアーチェ達も?」

「そうだ、我らも教主殿と共に生きる事で心を培った。ユーリ、知らない事はこれから知っていけばよい。我らはもう自由なのだから、もっと多くの出来事がお前を待っておる」

「はい……その時を楽しみにしています!」

「とはいえ、今は当面の問題をどうにかせねばならぬが……教主殿と我らがそろえば向かう所敵無しだ。絶対存在であろうと、我らの前に立ちはだかるならば打ち倒していくだけである!」

「わぁ、頼もしいです~! 私も頑張ります! ……頑張りますよ?」

「いや、その台詞は別の者のだし、二度も言わんでいいのだが……まあ良いか」

テーブルを挟んでレヴィが目をキラキラさせながら猛スピードでカレーを口にほおばり、シュテルが頬に付いたごはん粒を教主殿に取ってもらおうとほくそ笑んでいたりする光景を傍目に、我はこの小さな幸せをじんわりと胸に染み渡らせていた。


周波数140.80からCALL。

『食糧を食べたな』

「ああ……」

『まさか、LIFEが回復するとは思っていないだろうな?』

「は? まさか回復……しないのか?」

『当たり前だ。食べものを食べただけで傷が治るわけがない。食糧を食べることで回復出来るのはスタミナだけだ』

「ば、馬鹿な……! 俺は干し肉やトマトジュースやらで回復した事があるぞ!? ここにはいないが弟も同様に……!」

『ふっはっはっは! 普段クールなくせして中々面白い冗談を言うじゃないか、サバタ。この俺様をも笑わせるとは、意外な才能も持っていたのだな』

「いや、冗談ではないんだが」

『おいおい、冷静に考えてみろ。ただの干し肉やジュースなんかで傷が治る訳が無いだろう? 新型軍用レーションでも食っていれば話は別だが』

「俺は逆に、その新型軍用レーションの成分が気になってきた……」

『今の内に言っておくが、アメリカ産のレーションに味は期待するな。どうしても気になるというなら、おまえ達なりに改善しても構わないぞ』

「そうか。わかった、暇があれば検討しておく」

通信切断。何というか……うん、教主殿がやるなら我も参加してみようかのう? ただ、先程の通信の間から教主殿が納得のいかない表情でむすっとしているのが、あまりに珍しい光景で傍から見てて面白く思えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of はやて~~

“追憶の門”を通った先にあった書庫。なのはちゃんやユーノ君達が本来のルートを探索している中、私と騎士達はそこをしばらく重点的に調べた。その結果、大きな収穫を手に入れる事が出来た。

「……ん? この本、もしかして……」

「何か見つけたのですか、主?」

「う~ん、多分ヒットかもしれへん。でもこれは……ちょっと聖王教会のカリム達の所へ相談しに行ってくる」

「待った、あたしもはやてと一緒に行く。一人で行かせるのは不安だしな」

「わかったわ。じゃあヴィータちゃんははやてちゃんと聖王教会へ、私達はこの辺りにある資料を重点的に調べておくわ」

「道中危険は無いだろうが、念のため注意しておいてくれ」

皆からそう言われながら、私とヴィータはユーノ君達へ一報を送ってから聖王教会へと向かった。例の件でリーゼ姉妹と話す機会が欲しいんやけど、どうもお互いにタイミングが合わないのか、その機会が訪れないままやった。こういうのって、なんかもどかしいな……。

「あ、シスター・シャッハ。こんにちは」

「こんにちは、はやてさん、ヴィータさん。もしかしてカリムに用事でしょうか?」

「はい。無限書庫で見つけた資料について、少し話したい事があるので」

「わかりました。ではご案内しますね」

という訳で都合よく聖王教会の領地の入り口で会えたシャッハの案内で、私達はカリム達とよく話した事がある部屋へと立ち入った。そこではカリムが紅茶を楽しみながら、何かの報告書を読んでいた。

「あら……いらっしゃい、はやてさん。怪我の具合は大丈夫かしら?」

「もう全然平気、全くもってピンピンしてま~す」

「そう、それは安心ね……。急に来られたから何のおもてなしもできないけど、ゆっくりしていくといいわ」

「それはええんやけど、カリム。さっき見つけたこの資料を読んでほしいんよ」

「この本を? この報告書はまだ読み終えてないんだけど、あなたの様子から察するに、何やら重要な内容が書かれているようね」

姿勢を正したカリムに無限書庫で見つけた書物を渡し、早速彼女は言われるまま読み始める。最初は普通の様子だったが、しばらく読み進めていく内に段々彼女の表情が真剣なものへと変化していく。

「はやてさん……この本に書かれている事は真実だと思う?」

「確証はあらへんけど……こんな所に嘘を書いても何の意味もないだろうから、多分全て真実やと思う」

「だとすれば……これは由々しき事態よ。それもとんでもない意味で……」

カリムと私が悩んでいる内容を知らないヴィータとシャッハは首を傾げているが、むしろ知らない方がある意味幸せかもしれない。だってここに書かれている内容は……いや、それは二人も読んでから話すとして、今は書物の内容を説明しておこうと思う。

ファーヴニルを打ち倒したのは覇王クラウス・G・S・イングヴァルト。だけど彼一人で封印を成し遂げたわけやあらへん。ニダヴェリールに住む人達の、命を賭けた協力があってようやく封印できたものやった。そこまではユーノ君からの情報で既に判明しとる。せやけどこれまでの間、封印の方法がわからんかった。だから私達は総出でその方法を探していたのだ。それでこの文献はファーヴニルを封印した重要人物である覇王と、彼に最も協力した名も無き二人の女性……彼らが何をしたのか、簡潔にだが記されていた。

かつて聖王オリヴィエを失い武者修行に明け暮れていた覇王クラウスは、修行中に彼が治めるシュトゥラを狙う某国の放った刺客に襲われ、返り討ちにこそしたものの、毒針を打たれたせいで身体中に毒が回ってしまい満足に動けなくなってしまう。それで死の瀬戸際に立たされた彼だったが、幸運にも近くに来ていたある女性に命懸けで毒を抽出してもらい、更に体内に残留している毒が完全に排出するまで献身的に介抱してもらった事で、何とか一命を取り留める。見も知らぬ他人なのに命を救ってくれたその人こそ、彼に最も協力した女性の片割れ……ニダヴェリールの集落に住む心優しき娘、ルア。

やがてクラウスは集落の長の善意もあって、体調が完全に回復するまでの間、そこで厄介になる事を承諾する。すると外の世界から来た彼に興味津々な様子で、長の娘が様々な話題を持ちかけてきた。クラウスにとっては当たり前でも、少女にとっては新鮮なもので、いつの間にかクラウスも会話を楽しむようになっていた。察しの通り、彼女こそもう一人の協力者……広い世界に憧れて夢を持つ少女、クレス。

そうしてクラウスは集落で穏やかな生活を堪能し、ルアやクレス、村の人達との仲を深めていく。ルアとクレスがクラウスの修業を見学したり、ルアの案内で集落の近くにある秘境に行ってみたり、クレスの趣味である作詞作曲を一緒にしたり……長い戦乱ですさんでいたクラウスはいつしか、この暮らしが自分の心を癒している事に気付く。だがこういった日々が続くのは、彼の体調が治るまでの間だけ……やがてその時が訪れてしまう。集落の人達との別れを名残惜しみながら、クラウスはやるべき事を果たすべく再び修行の旅に出た。

だが道中、自分に刺客を放ってきた某国が、ニダヴェリールのどこかに“聖王のゆりかご”をも凌駕する“絶大な力”が眠っている、という情報を下に侵略行為を行っている事を耳にする。それともう一つ、某国軍の進攻先には……世話になった彼女達が住む集落があるという事も。治療の恩を返すため、急ぎ集落に駆け戻ったクラウスは予想通り進軍していた某国の軍と交戦、覇王の意地を賭けて撃退する。ルア達からの感謝の言葉を耳にしながら、今度は自分が助ける番だ、と決意した彼は某国の企みを阻止すべく、集落を守るために再び滞在を決める。なりふり構ってもいられない事もあり、自分が王である事を明かしたクラウスはシュトゥラにも軍の派遣を要請、某国との全面対決に備える。

覇王一人でも十分撃退に成功していたが、その時の敵は小競り合い程度の戦力だった。そして……シュトゥラ軍が到着するまでの間に、捜索に人数を注いでいた某国はとうとう“絶大な力”を発見してしまう。その正体こそ、絶対存在……静寂の獣ファーヴニルであった。

当時のファーヴニルは深い眠りについていて害を及ぼす事はしなかったため、割と軽めの封印で十分問題は無かった。しかし某国が欲望のままその封印を解除し、愚かにもファーヴニルを目覚めさせてしまう。触らぬ神に祟りなし、という言葉通りに眠らせていれば良かったものを、敵を殺すための力を求める彼らの殺意に当てられたファーヴニルは、目覚めるなり近くにいた某国の軍を本能のまま蹂躙、壊滅的被害を与える。だがそれだけに留まらず、ファーヴニルは地上に出て破壊の限りを尽くそうと暴れ出す。その光景を目の当たりにした人はすべからく、常人では到底太刀打ちできない圧倒的な絶望を前に打ちひしがれていた。

だがここで彼が立ち上がる。覇王と謳われる実力を持つクラウスは、ファーヴニルを相手に一騎打ちを挑んだのだ。地上を破壊されないため、これ以上の被害を出さないため、そして今度こそ守りたい人を守るため……。彼とファーヴニルの熾烈な死闘は想像を絶する程で、日をまたいでも続いていたという。しかし彼一人ではあくまで足止めしか出来ず、根本的な解決を果たす事は出来そうになかった。それでもクラウスは戦い続けた、力及ばず聖王を救えなかった後悔を、二度と味わいたくなかったから。

彼の戦いを見た某国の首脳陣は恐れをなして逃走、生き残った某国軍は祖国から置き去りにされてしまう。また、派遣されてきたシュトゥラ軍は、自分達の王があんな化け物を相手に立ち向かっているにも関わらず尻込みしてしまって戦力にならなかった。そんな彼らを見て、ルアとクレスは動き出す。

ルアは怖気づいたシュトゥラ軍や、祖国に見捨てられて行き場を失った某国軍の生き残りに、ニダヴェリールを守るために力を貸してくれるように必死に嘆願したのだ。彼女や彼女の故郷を襲ったのに、どうして自分達にそんな事が言えたのかわからず、某国軍は困惑した。シュトゥラ軍の方も、王に匹敵する実力が無ければ意味が無いと諦めに近い言い訳をしてきた。それでもルアはクラウスが戦っているのに、自分達は何もせず逃げる事だけはしたくないと、戦う力が無くても応援する事は出来ると、逃げ腰の彼らに頑張って説得していた。

そしてクレスは動揺でパニックを起こしかけていた彼らの心を落ち着かせるべく、安らぎの歌を歌った。鎮魂歌とも子守歌とも言える歌詞だったらしいが、その旋律は彼らの不安を取り除くのに一役買い、ルアの言葉が彼らの心に届く手助けをした。その後はクラウスに応援する気持ちを込めて、彼と共に作り上げた曲をせいいっぱい歌う。彼女はルアのように説得などの交渉は出来ないと自覚していたものの、それでも自分達を守ってくれている彼に想いを伝える事は出来ると、彼を信じて私達もここで自分の恐怖と戦っていると、ひたすら伝え続けていたのだ。そうやって一人で戦っている訳じゃないと教え続ける事で、長い戦いで疲労してきていたクラウスの心をずっと支えていた。

やがて二人の純粋でひたむきな想いが伝わったのか、元某国軍とシュトゥラ軍、ニダヴェリールの人間が奇跡的に絶望から立ち直ってくれた。当然、様々なしがらみや因縁、罪悪感などでそれぞれ思う所はあったのだが、それでも……この時だけは恨みつらみを心の底にしまって、初めて手を取り合ったのだ。皆……ルアと想いを一つにして、クレスの歌を歌った。言語、国境、次元、幾多の壁も乗り越えて、一緒に歌い続けた。

ここで重要なのは、この歌が届いた相手が実はクラウスだけでは無かった所だ。驚いた事に……ファーヴニルも聞いていた。歌を聞いて……反応を示していた。真正面で戦っているクラウスが野生の勘とも言い表せる観察眼でそれに気付き、ジェスチャーでルアに伝え、アイデアがひらめいたルアがクレスにその方法を教える。彼と彼女達が全ての命運を賭けて挑んだ方法……戦いを終わらせるために選んだ方法が、安らぎの歌だった。この歌の心安らぐ旋律を聞き続けたファーヴニルは、記憶に刻み付けるようにクラウスとルア、クレスの姿を複数の眼に焼き付けた後、次第に子供が眠るように大人しくなり、やがて星からあふれ出した光に包まれて封印を施され、卵の状態になりながら地中深くへと潜って行った。そして……世界の命運を賭けた戦いが終わったのだ。

その後は戦後処理として、封印で開いた大穴を塞ぐようにシュトゥラが責任を持って遺跡を作って、封印が解けないように無数の仕掛けも施した。また、元某国軍が自国に戻って腐った首脳陣を追い払うべく抵抗運動を行ったり、今度は守り切れた事でどこか吹っ切れたクラウスが、近い内に武者修行の旅を終わらせる事を復興に力を貸すシュトゥラ軍に伝える。それで彼はしばらく集落の復興を手伝った後、静かに姿を消した。しかし……旅立っていった彼の後姿を見た者は言う。彼の旅はもう孤独では無かった、と。

「あのね……ミッドには覇王の子孫が今も残っているんだけど、これって要するに……そういう事よね……?」

「でしょうね、カリム。正直……私も驚きのあまり反応すら出来ず、色んな意味で変な感覚になっています」

「なんつーか……こういう時って確か、おめでたって言うんだっけか?」

「ヴィータ、それちょぉ~っと言うタイミングちゃうよ」

「まあとにかく、私達が驚いている理由の一つとして……知られている史実では聖王オリヴィエの事ばかり考えていた覇王クラウスが一体誰と子をもうけたのか、詳細はどこにも残っていなかった点が挙げられます。なのでこの文献は聖王教会には、もといベルカ人にはとてつもなく価値のある歴史的資料になります」

「フラグ的にはルアとクレスのどっちかが立ったんやろうな~、んで旅も一緒にしたと……。まあ、この三角関係でどっちに軍配が上がったのか、私もむっちゃ気になるんやけど、今やるべき論点はそこやない」

「私の女子としての本音はもっと語り合いたい気持ちでいっぱいなんだけど、確かにはやてさんの言う通りだわ。それで……決戦でクレスさんが歌っていた安らぎの歌こそが、私達が探していたファーヴニル封印のカギみたいね」

「つぅかフツーさ、まさか歌がカギだなんて思い付かねぇだろ……。あたしの想像じゃあ滅茶苦茶強力な封印魔法を使って、ひたすらボコって大人しくさせるしかないと思ってたのによぉ」

「力技一択やね、ヴィータ。私の騎士達って実は皆脳筋なんやろか? っと、話を戻して……この安らぎの歌、曲名は“月詠幻歌”って言うらしいで。文献によればもっと前からニダヴェリールに伝わる歌だったみたいやけど……そんな昔の歌が今も残っているか、正直に言って可能性はゼロにも等しいと思う。だって……なあ……?」

「あ……そう、でした……。ニダヴェリールはもう、跡形も無く滅びていました……。もしあの世界に書物が残っていたとしても、世界が崩壊してしまっては流石に見つけようがありません……。ハッ、もしやラタトスクはこれすらも読んでいて……!」

シャッハの思った通りだとしたら、ラタトスクの計画は私達に出来得る、あらゆる対策を徹底的に潰しに来ている事になる。流石にあのイモータルでもここまで知っている訳では無いと思いたいから、多分こういう対策法があっても問題が起きないように、万全を期してニダヴェリールを滅ぼしたのだと考えられる。ものすごく癪だが、今の私達は奴の思惑通りに手の平の上で踊らされている……ただの道化に過ぎなかった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! じゃあファーヴニルを封印する方法はとっくに失われた後だから、二度とあの化け物を封印出来ないって事か!? いくら文献や資料、書物を探しても意味が無いって事なのか!? いや……どこかに……絶対どこかに何か方法が残ってるはずだ! そうだ、そうに違いない! じゃないと皆の努力が浮かばれない……皆の希望がまやかしになっちゃうじゃないか……!」

「ヴィータ……」

「そ、そうだ! 確か先代の娘のマキナはニダヴェリールの出身だ! アイツなら何か知っているかも……!」

「残念ですがヴィータさん、あの子は……マキナはニダヴェリールの生き残りではあっても、歌を継承していません。それに……声の喪失や記憶の欠落、更にせっかく帰れた故郷が敵に操られていたとはいえ管理局に燃やされてしまった。その上、彼女を救ったサバタさんを管理局が指名手配した件も含めると、もうマキナは私達に協力する気にならないと考えられます……」

「私も……正直に言うとシャッハと同じ意見よ。SEEDの件で助けられた後、あの子には身の預かりから流れで聖王教会に入らないかって誘ってみたんだけど、当時は保留という事にしていたの。でもこうなってしまった以上、可能性は望み薄ね……」

「いや……私は、マキナちゃんには誠心誠意話せば、きっとわかってくれると思う。歌は歌えなくとも、彼女の力を貸してもらう事は出来るはずや。まぁ、月詠幻歌を歌える人間がおらんという問題が解決する訳でもあらへんけどなぁ……」

「じゃ、じゃあさ! さっき言ってた覇王の子孫の家はどうなんだ!? 血を継いでいるんなら、月詠幻歌だって伝わっているかもしれないじゃないか!?」

「こちらも残念ながら……イングヴァルト家は伝統的武術として覇王流こそ継いでいるものの、それ以外の文化は一切伝わっていないの。血筋と覇王流……家の意向で家柄と威厳を最も示せるそれら残す事を特に重視したため、それ以外のモノを伝える価値を見出せず、結果……途中で余計なモノとして切り捨てたらしいわ」

「そ、そんな……何やってるんだよチクショウ!」

ファーヴニルを封印できる唯一の方法である月詠幻歌を、マキナちゃんが知っている可能性も、現代のイングヴァルト家に残っている可能性も潰えた現実を前にして、悔し気な顔でヴィータが俯く。リンクなしでも、彼女のそのやるせない気持ちは私も痛いほどわかる……。

「自分達の力と威厳を周囲に示せる武術だけを伝え、過去の人達が培った想いと歴史を形作れる文化を捨てた。だから希望も闇の中に消えてしまった……哀しい皮肉やね」

「ひとまず月詠幻歌の事は頭の片隅に置いておくとして、諦めずに探し続けていれば、もしかしたら他の方法が見つかるかもしれないわ。第一、今も捜索している皆さんの希望を消したくないもの……」

「やっぱり、もっと探すしかねぇのか……。……クソッ! 力でどうにかなるなら、とっくの昔に覇王が何とかしている。だけど力だけじゃあ足止めしか出来なかった……! もっぱら力づくの方法しか思いつかないあたしらには、ルアとクレスのような解決法は真似出来ねぇよ……」

「今後の探索ポイントを簡単にまとめると……月詠幻歌を歌うだけで封印できるなら、ファーヴニルには特定音波を届けるだけで眠りにつくという事になります。ただ、明らかにそんな簡単に済む相手ではないと思うので、恐らく月詠幻歌には……何か特別な能力が含まれているのか、もしくは歌い手のクレスさんに特別な力があった可能性が考えられます。なに、月詠幻歌だけが解決法とは限りません、まだ全てを諦めるには早すぎますよ」

シャッハの言った事は、確かに一考の余地はあると思う。月詠幻歌そのものに特別な力があったら、その力をどうにかして解析して他で代用、再現できるかもしれへん。それに特別な力を持っている歌い手がカギなら、時間が許す限りその歌い手を探せばいい。確かに月詠幻歌の喪失は痛手だったが、まだ打つ手が全て無くなった訳ではない。

とりあえず今後の方針が定まった事で、他の皆にどう伝えるかをカリム達が連絡事項に報告書としてまとめてくれるそうなので、まだ書類作りの技能を持っていない私達は部屋から退散させてもらった。停留中のアースラへ戻る道中、ヴィータはせっかく見つけた封印方法が既に消失していた事に落胆を隠せずにいた。

「なぁ、地球でいつも見せてくれた、あの元気なヴィータはどこに行ったん? 元気を分けてくれた、あの笑顔はどこに消えたん?」

「だってさぁ……皆が……はやてがようやく封印方法を見つけてくれたってのに、それがもう無いだなんて辛すぎるんだよ。希望がもう無いなんて、認めたくないんだよ……。大体……カリムはああ言ったけど、考えてもみろよ? 実際に使われた封印方法を見つけているのに、それ以外の封印方法がどこかに記されてるなんて、冷静に考えておかしいじゃないか」

「まぁ……あの場では言えんかったけど、正直にぶっちゃけるとその通りやね。成功した方法を残す理由は普通にわかるけど、試したことがない方法を残す理由なんて、普通は無いもんな。現実から目を逸らしている、事実から逃避している、周りから見てそう思われても不思議じゃない考え方やし。でもさ……ここで諦めたら、これまでやって来た事が何もかも無駄になってしまう。それなら最後の最後まで、諦めずに足掻いてもええやん。そのためなら例え屈折した考え方でも……諦めないための原動力になるなら、前に進む力になるんなら、否定せず自由に受け入れてもええと思うんよ」

「まあ……その考え方はあたしも目から鱗が落ちるぐらい前向きだけど、そもそもはやてはどうしてそう考えたんだ?」

「やっぱ……サバタ兄ちゃんの教え、かな? 世紀末世界は私達が今いる世界よりはるかに衰退していて、世界が滅ぶ程の絶望的な状況に何度も陥った。それこそ、私達が直面している脅威と同じぐらいの危機に……。でもあの世界はサバタ兄ちゃんやジャンゴさん……世紀末世界の生きとし生ける人が諦めなかったからこそ、滅びの危機を何度も乗り越えてきた。何があろうと決して諦めない心こそが、最大の武器になる。それを私は……いや、私だけやない。フェイトちゃんやなのはちゃん、クロノ君にリインフォース、まだ私達が知らないどこかの誰かも皆……サバタ兄ちゃんから教わった。一番近くで見てきたからこそ、私はサバタ兄ちゃんの教えを違えたくないんや」

「ん~、確かに兄ちゃんは色んな事を教えてくれたよなぁ。でもちょっと難しい話もあったから、あたしちゃんと理解できてるのか不安だよ……」

「大丈夫、私も大体似たようなもんや。でもサバタ兄ちゃんが教えてきた言葉は、どんな言い方でも伝えたい部分はいつも同じやった。それさえ見失わなければ、結局どういう覚え方でも大丈夫なんやと思うで」

「そんなもんなのか?」

「そんなもんや」

難しい言い方だけど、その内容自体は割と簡単だ。その事でヴィータは頭の中を整理してうんうん唸っているけど、ここから先は彼女自身の答えを見つけるしかない。まあ、私も通った道だから、これ以上は何か言う必要は無いだろう。

「お? あれは……グレアムおじさん?」

地上からアースラへと繋がる連絡橋の入り口に、彼が入っていくのが見えた。察するにリンディさんへ何か用事があると考えられるけど……リーゼさん達に訊くつもりだった例の事は、彼女達の主である彼も知っているはずだ。そうと決まったら……。

「グレアムおじさ~ん!!」

「ん? ああ、はやて君と……ヴィータ君か」

「こんな所で会うなんて奇遇ですね、今日はどうしたんです?」

「ああ、本局内部からちょっと妙な反応が検知されてね。今の所何か実害がある訳でもないけど、リンディ提督と念のために相談しておこうと思ったんだ」

「妙な反応ですか? 一体どんな?」

「とても小さい生命反応と微々たる消費エネルギーがそこで検知されている。ファーヴニルの吸収で本局内部のエネルギーがほとんど消失したからこそ、ようやく見つけられたぐらい小さな反応だった」

「はぁ……そんなものがあったんですか。…………ところで話は変わるんですけど、単刀直入に訊きたい事があります。グレアムおじさん、私に何か隠している事はありませんか?」

「……む、どうして私が何かを隠していると思うのかね?」

「ある人に言われたんです、私が……サバタ兄ちゃんの命を蝕む魔導師だって。教えてください、私はサバタ兄ちゃんに何をしてしまったんですか? グレアムおじさんなら知っていると思って、直接訪ねています。お願いです……私も真実を知りたいんです」

「なるほど…………しかし駄目だ、はやて君。アリアとロッテ、そして私が君に真実を話さないのはちゃんとした理由がある。すまない、どうしても今は話せないんだ」

「な、何故ですか!?」

「真実を知る事が君達のためになるとは限らない。ファーヴニルの件も含めて、全てが片付いて……時が来るまで教える訳にはいかないのだ。だから……待っていてほしい。無論、納得がいかない感情はわかる。だが我々にも意地がある、過ちを正してくれた彼に報いるためにも、これだけは破りたくないのだ」

「意地……報いる? もしかして私、また蚊帳の外ですか? まだ……籠の中の鳥なんですか? 真実を知る事が、そんなにいけないんですか?」

「いけないとは言っていない。この真実を君達が知るには、少々早すぎるだけだ。それが我々の決定でもあるし、何より彼の意向でもある。……っと、そろそろリンディ提督との会談の時間が迫っている、私は行かせてもらうよ」

「…………」

すまなそうにグレアムおじさんはこの場を後にして、アースラの中へと入って行った。だけど私は真実を知る事を拒絶されて、自分の何がサバタ兄ちゃんの命に関わってしまったのかわからず混乱してしまう。隣でヴィータが心配そうに見つめてくるけど、しばらく考える時間が欲しかった。答えが私に関わる何かなのは間違いないから、ゆっくりでも徐々に分析していくしかない。こうして捜索の傍ら、私は密かに真実を探る決意を新たに抱いたのだった。

 
 

 
後書き
闇の欠片ヴァンパイア戦:ゾクタイでサバタとジャンゴの父親リンゴがヴァンパイア化した姿……を模したもの。実はここをヘル戦やダーイン戦にする事も考えたのですが、最終的にはこの形に落ち着きました。なお、ディアーチェの戦い方は本来の彼女の戦法に加えて、暗黒銃を使うサバタの戦術が追加されているイメージです。
マキナのクイックドロウ:だが早撃ちは見事だった、いいセンスだ。
シャロンが聴いていたカセットテープ:恋の抑止力。何だかんだで、継承しています。
ケミカルバーガー:MGSVのミラーが作った、化学調味料たっぷりな食べ物。どういう訳か店はこの時代まで残っています。
イングヴァルト家:子孫が残っている訳だから、まあそういう事ですよね。
月詠幻歌:察しの良い読者はお気づきでしょう。

はやて「緊急事態や、話せばわかってくれる」
マキナ『もう次元世界の人間は信じられない』
すれ違いの始まりです。

 
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