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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか

作者:海戦型
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38.煙は高々とのぼる

 
前書き
新しい復興参加者が『2人』加わり、参加者人数が『89人』に増えました!


すいません、大雑把にはストーリーが決まっていたんですが何となくしっくりこなくてBDFFやりなおしてました。あと公式のアンソロジー買ったり、BSELの方を改めてやりこんだりしてネタチャージしてました。 

 
 
 ファミリアというのは、所属する冒険者の数やレベルに応じてギルドへの納税みたいな義務があったりする。一つのファミリアが大きな力を持って独裁化するのを防ぐためなのか、それとも何かとお金が入用なのか……貧乏人のヘスティアとしては新参ファミリアにもう少し優しくして欲しいところだが………。

「い、いや違う!ボクは貧乏人じゃない、貧乏人じゃない。これからファミリアと一緒に大躍進するんだー………よぉしっ!」

 自己暗示で懐の貧しさを無理やり誤魔化すヘスティアだが、彼女は既にベルにプレゼントしたヘスティア・ナイフの代金として2億ヴァリスという膨大な借金を背負っているので手遅れである。しかもリングアベルの剣の修理も含めればさらにン億ヴァリス追加の可能性ありという絶望が後ろで神の心を折るタイミングを虎視眈々と狙っている。
 せっかくファミリア2人追加に加えてノルエンデ復興支援の補助で生活も楽になりつつあるとはいえ、2億という額を返すだけでも大変な道である。

 ……しかも、更に悪いことがもう一つ。
 しかもこっちは何かしらの事情ではなく、ヘスティアの悪癖に由来するものだが。

「それにしてもアニエスちゃんとティズくんにも何か冒険の手助けができる物をあげられないかなぁ?目的はどうあれ二人だって今はボクの家族な訳だし……これからもそうかもしれないし……あのナイフほどでないにしろ、折角あげるなら生存率が上がるような一級のアイテムをプレゼントしないとね!」

 この神、借金を背負っておいて根本的な部分では全く反省していない。何というか、子煩悩が過ぎてお金に糸目をつけなさすぎるのだ。もうあの二人の為に大金をはたく算段を始めている辺りに彼女の親馬鹿的な部分が如実に表れている。

 無論、お金のことを気にしていない訳ではない。それが証拠に、ヘスティアの私物の中にはアルバイトの募集以外にも内職のチラシなども置いてあり、本人なりにどうにかしようと足掻いている形跡が伺える。
 が、短期間で億クラスのお金が入るほどおいしい話がチラシに乗っている筈もなく、

「一番実入りが良さそうなのは、やっぱりこの『カプカプメーカー』か………やりようによっては数百万を短期間で稼げるみたいだね。でもなぁ、これをやると精神が麻痺するって巷ではもっぱらの噂だし………手を出すのが怖いなぁ………」

 カプカプメーカー。それは世界でも最も謎の多いと噂される不思議な魔物、水棲魔物のカプカプを模ったぬいぐるみを作成するキット。秘かに世界でブームが広まりつつあるカプカプぬいぐるみのフィーバーに乗るべきか否か………。

「悩むなぁ………っと!そろそろ皆が帰ってくる時間帯だ!」

 借金の存在を悟らせないためにチラシをせっせと隠したヘスティアは、次第に近づく心地よい喧噪と足音を迎え入れるためにホームの入口へと向かった。

「おかえりっ!!」
「ただいま戻ったぞ、女神ヘスティア!」
「ただいま神様!今日も大漁でしたよっ!」
「えっと……その、ただいま?」
「アニエス……まだ慣れてないんだね。ただいま、ヘスティア様!」
「ただいまっ!さあ、急いでゴハンにしましょ?エアリーもうおなかペコペコよ!」

 お前は何もしてないだろ……とぼやいたリングアベルに怒ったエアリーが体当たりをかまし、ベルが諫め、ティズが苦笑いし、アニエスがエアリーを回収する。そんなおかしなやりとりをした後、今日もファミリアは全員で食卓を囲んだ。



 ティズとアニエス、ついでにエアリーがファミリアを訪れてから、様々な変化が起きた。

 まず、ファミリア初の魔法使いが追加したことで戦略の幅が大きく広がり、前衛と後衛の変化や使い勝手の悪かった弓の出番が増加した。これにより、今までどうにもとっつきにくかった飛行モンスターへの対処が素早くなった。結果としてファミリアの稼ぎも当然のように増加する。
 更に、数日前には『幸運が重なって』ベルがファイアボルトという強力な魔法を発現。戦力が大幅に増強された。

 また、時を同じくしてベルが偶然出会ったという【ソーマ・ファミリア】のサポーター、リリルカがダンジョンでのパーティーに追加され、持ち運べるアイテムの量が大幅に増加した。これによってファミリアの収入は加速度的に増加したと言えるだろう。

 全ては順風満帆に見えた。
 ティズとアニエスも一朝一夕に目的が達成できるとは考えていなかったため、焦ってはいない。ベルコンビはいつも通りに実力を伸ばし、ヘスティアもいつも通りにバイトに明け暮れた。収入は増えてるし、復興も少しずつ進んだ。

 だが、光に照らされる者もいれば、陰に隠れる者もいる。

 オラリオにも(アングラ)はある。

 闇討ち、暗殺、暗躍……秩序に反することは大なり小なりこの街の懐の中で行われているものだ。

 『神』という善性も悪性も併せ持つ気まぐれな存在がいればこそ、その陰はより濃く、深く、重い。



「へへっ、見てくれよこいつを!」
「そいつは……『魔導書(グリモア)』か?」

 その日、『豊饒の女主人』に若い二人組の客が訪れていた。
 別段珍しいことではない。この店はおさわり厳禁ではあるものの、美人の従業員が多くて料理も旨いため評判がいい。何より女将のミアの人柄の良さからか常連客の足が絶えない。だからどこぞのファミリアが飲みにやってきても、それは何度も繰り返された光景でしかない。

 若い男は、黒塗りの書物を手に持って自慢げに友人らしき男に胸を張る。

「へへっ、なんか最近出回ってるらしくてさ!露店で安く買えたんだよ!」
「偽物じゃねえのか?『魔導書(グリモア)』なんて貴重品を安く売ってる時点で怪しいだろ」

 『魔導書(グリモア)』とは、それを最初に読んだ人に魔法を発現させる書物である。使い捨てで発現する魔法の内容は『魔導書』に記された内容に依存するものの、何の努力もなしに魔法を覚えられるとてつもない貴重品だ。『魔導』と『神秘』を極めた者にしか作成できないため、友人には男のそれが本物であるとは思えなかった。
 だが、友人の胡乱気な目線に気付いた彼はにやっと笑う。

「心配ご無用!念のために魔法使いの知り合いに鑑定してもらったから!こいつは、その効果のほどはさて置いて真っ赤な偽物ではないってお墨付きをもらったよ。内包された力は本物らしい」
「うーん………なんか納得いかねぇなあ。実はとてつもなくしょうもない魔法でも入ってんじゃねえの?」
「それは正直否定できないな……でもよぉ、この前だってホラ、あの白髪の新人がこの店で拾った『魔導書』で魔法を覚えたって噂になったじゃん?」
「まぁ確かにそんな噂はあったな。けどよぉ、噂は噂だ。それに奇跡ってのは二度と起こらないから奇跡なんだぜ?」
「おいおい、真っ向から否定してくれるなよ!誰だって必殺魔法には憧れるだろ!?」

 友人は疑り深く、そして彼は少々ロマンチスト。そんな凸凹の二人はいつでも一緒にいた。
 彼の出すぎなところを友人が諫め、友人の引っ込みすぎな所を彼が押す。二人は周囲から見ても相性のいいコンビだった。

「まったく……俺は知らんぞ?その魔導書に刻まれた魔法が全く使い道のない物で、3つしかない貴重なスロットを一つ潰しちまうとしてもな」
「ははっ、細かいこと気にすんなよ!どーせ俺には魔法の素養なんてないんだし?人生で一個でも覚えられれば儲けものってな!!」
「お気楽だねぇ………ま、いいさ!精々しょぼい魔法だって笑ってやるから」
「言ってろ!今に見てろ、大爆発の魔法とか習得してぎゃふんと言わせてやらぁ!!」

 とはいえ、彼も期待半分、不安半分だった。
 新しいことにチャレンジするにはいつだってなけなしの勇気をベットしなければならない。緊張で微かに手を震わせながら、彼はその黒塗りの『魔導書』をそっと開いて――その中身を覗いた。

「うおっ……!?」

 瞬間、灼熱のように熱い力が全身からこみ上げる。

「分かる……本の内容が分かるぜ。これは魘されるような熱……四大元素の一角、陽炎(サラマンダー)の息吹……原始的で美しい『火』を司る………!!」

 全身に熱が漲ってくる。彼は今、この書物には本当に素晴らしい力が宿っているのだと確信した。
 ああ、痛いほどに全身を滾らせるこの力を魔物にぶつけたら、どれほど美しい火柱が立ち上るのだろう。敵に魔法をぶつける自分の雄姿を想像した男は、喜びを共有する友人の方を振り向いた。

「はは、ははは!どうだよ、この力!本物だったぜ、『魔導書』は!!俺は炎の魔法を手に入れたッ!!」
「…………………」

 だが、友人は信じられないものを目にしたようにかちりと固まって微動だにせず、ただ眼を見開いて彼の方を見つめるばかりだった。

「おい、どうしたんだよ!!成功だぞ成功!!マジで大爆発の魔法を使えるかもしれないんだぜ!?」
「………お、お前、身体が――」
「身体ぁ?俺の漲る身体が一体どうしたっていうん――だ――?」

 不満をぶつけるように友人に指をさした彼は、そこで、致命的な事実に気付いた。


 腕が――燃えている。


 一瞬、彼は現実を受け入れられなかった。
 周囲もまた、何が起きているのか全く分からなかった。

 布を裂くような悲鳴が店内に響いて、やっと波紋という名の異常をその場の全員が認知した。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「な、なんだい!?これは……何事だい!?」
「わ、分かりません!お客さんが突然火に包まれて……!!」
「水だ!水を持ってこい!!大至急!!」

 腕だけではない。胴体、頭、足――体の全体が火に包まれ、皮膚がみるみるうちにぶくぶくとした気味の悪い水泡を作り、それがぶじゅりと弾け、爛れていく。服は炭化し、全身の穴という穴から噴き出すような炎が全身を真っ赤に照らした。

「いっ……ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!?ああ、ああああああああ!?!?熱い、あついあついアツイアツイアツイアツイィィィィィィッ!?」

 もしも、彼がその事態に気付かなければ――楽に死ねたろうに。魔法を覚えたせいで体が熱いのだと勘違いしたまま、幸せに逝けたろうに。事実を知ってしまったがゆえに――男は、全身を包む耐えがたい激痛に気付いてしまった。

 目が、耳が、喉が、鼻が、魂までもがその身を焼き尽くす業火に悶え苦しむ。
 悲鳴を上げてなお更に強くなるばかりの拷問のような熱さに立つこともままならず、熱で炭化したテーブルに倒れこむ。
 さっき頼んだばかりの料理がぐちゃくちゃになって床に投げ出され、安酒の入ったジョッキがテーブルから滑って割れる。それでも、痛みも熱さも収まらない。永遠に続くような地獄の責め苦は瞬く間に肉体と精神を破壊していく。

「うぅおおアアアアアアアアアアアアアアッ!!アアっ、ぎぎぎぎぎぎぎいいいいいいいいッ!?」
「駄目だ、火が強すぎる!?お客様、急いで店の外へ!!」
「女将さんも早くするニャ!このままじゃヤバイニャ!」
「ああ、アタシの店が――アタシの客が――!?」

 彼から立ち上る炎は既に床を焦がし、天井へと燃え移っていた。
 店の柱が炭化して、ミシミシと嫌な音を立てる。いよいよ危険を悟った店の人物たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に窓や出入り口から駆け出した。

 もがき苦しむ彼には見向きもせずに、我先にと。
 なぜ、こんなに苦しんでいる自分を置いていくのか。彼には理解できなかった。
 ただ、彼は一心不乱に爛れていく喉を振り絞って必死に懇願した。

「タ……助けて、助けテクレぇッ!!」
「――!!ま、待ってろ!!今そっちに……!」

 火達磨になった彼は、助けを求めるように手を伸ばした。
 状況を受け入れられずにいた友人は、咄嗟にそれを掴もうとした。
 しかしその手は結ばれることなく虚空を切った。
 後ろから来た男が友人を羽交い絞めにして、強引に彼から引きはがしたからだ。

「逃げろ!!そいつはもう助からんッ!!」
「ま、待ってくれよ!!友達なんだこいつは!!今すぐ火を消してポーションぶっかければ……!!」
「人間が中から燃えてるんだぞ!?エリクサー使ったってもう手遅れだよ!!」
「テ、オ、ク……れっ?」

 手遅れ――その言葉が、彼の熱に溶ける耳に辛うじて入ってきた

(助からない――俺が?俺は、こんなところで本を一冊読んだから燃えて死ぬのか?)

 地獄の責め苦を味わいながら、独りでここに取り残され、主神にも友にも何一つ残すことなく。
 惨めたらしく焼け爛れてここで死ねというのか。ただ苦しんで、焼かれて、醜く、惨めに。

 ――嫌だ。

「イヤだ!!ああ、あああああ!!イヤだぁ!!俺を見捨テナイでクレぇ!!俺ヲ助けてクレよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!おヤジぃ、オフクろぉぉぉおぉぉおおおおおッ!!!」

 独りで死ぬのは嫌だ。俺を見捨てていくなんて許せない。
 なんでだ。なんで俺は燃えているのに、お前たちは五体満足なんだ。

 おかしいだろ。不平等だろ。
 俺だけなんて許せない。許せない。許せない許せない許せない許せない――

「お前ラも、同ジ苦シミヲ抱けェ………!!」

 全てを失った彼に残されたただ一つの感情

 脳裏をよぎった最後の言葉は――『憎悪』の引金。


『――燃エロ(ファイア)――』


 その瞬間、『豊饒の女主人』は目を覆うほどの大爆発を起こして炎上した。

 ささやかな魔法を求めた彼を待ち受けていた余りにも残酷な結末だった。
 逃げ遅れた冒険者数名の命をも飲み込んで、炎は高く、美しく立ち上っていく。



「そうだ、燃えろ……僕のことを認めない世界なんか、全て燃やしてしまえばいいんだ――ヒヒッ」
 
 宣戦の狼煙のように立ち上る炎を遠くから眺めた男は、その瞳に濁った狂気をしたため、静かに哂った。
  
 

 
後書き
久しぶりに戻ってくるなり い き な り こ れ 。
しょっぱなから原作にない大事件勃発です。唐突な人死ににショックを覚えた方がいらしたらごめんなさい。BDFFってモブの方々には割と容赦ないのよ……。
 
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