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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第53話 ヒララ合金を求めて



~烈火鉱山 入口~


 一行は、ラジールを出て、カンラ、アイスを経由し烈火鉱山にまで到着した。道中のモンスターに関しては、ヘルマン軍達と比べたら断然弱い部類だから、全く問題ない、と 皆が思っていたのだが。

「……思ったより時間がかかったな」
「はぁ……、あんな所でハニーの大群が出てくるなんて思ってもいなかったわ。おかげで私はあまり手伝えなかったし……」

 志津香はため息を吐いていた。

 そう、志津香が言うように、アイスの町にまでは何も問題なかった。
 だが、そこから北部へと向かう道中で、大量のハニー軍団?に遭遇してしまったのだ。まるで、傍に《ハニーキング》がいるのか? と思える様な数であり、あの陶器(ハニー)は、何故か魔法が通用しないから、志津香には下がっていてもらったのだ。

「そうですね。私も何度かあの辺りに来た事はありましたが、あそこまでの数は初めてです。……ひょっとしたら、鉱山での件と関係があるのかもしれませんね?」
「……否定はできないな。気を引き締めて掛かろう」

 かなみの言葉にユーリも頷いた。
 アイスを拠点にしているユーリでも希に見る程の量だったのは間違いない。……所詮はハニーだ。と言ってしまえばそうだが、それは置いといて。

「そう言えば、道中でランス達は見なかったけど、大丈夫かしら?」
「ん? 志津香もアイツの事心配するんだな?」
「ば、バカ言わないで! 私はシィルちゃんのことを心配してんのよ! 同じ魔法使いなんだから!」
「……いてっ!いててっ!! 判った判った、だから足踏むな」

 地団駄を踏むかの様にユーリの足にめがけて何度も踏み抜く志津香。
 ……魔力が篭っているのか、これまた攻撃力が高い一撃が何度も……。やっぱり、魔法だけじゃなく、格闘の技能もってる? Lv2程?

「あ……ははは。でも私もシィルちゃんの事は心配ですね。……ランスは置いといて」

 かなみも同じ気持ちだった様だ。それは当然だろう。
 ラジールまで共に旅をしていて、色々と助けてくれたのだ。色んな意味でランスに覆い隠されている彼女だが、多大なる貢献をしていると言っても過言じゃないのだから。

「大丈夫だ」

 ユーリはただ言葉は少なめに……、だが、はっきりとそう言っていた。それは即答だったから、志津香もやや顔を顰めて聞く。

「本当に大丈夫って言える? ユーリって、ランスの事過剰評価してるんじゃないの? 前々から思ってたけど」
「ん……、まぁ感じる所は幾つかあるが、一応 アイツとは結構付き合いがあるしな? それも結構濃いし」

 ユーリは苦笑いをしていた。
 自分自身も色々と言われている。(……顔は置いといて)規格外と言う言葉ももらっているが、ランスもその言葉に相応しい技量を持っていると確信しているのだ。……確かに色んな意味でそうなのだが、事戦闘に置いても同じ事だ。そして、何よりも……。

「アイツは、天に好かれてる。天運のスキルをもってるって思うくらい、良い方向に向かってるんだよ。これまでの仕事でもな? 正直、志津香達の事件、カスタムの時だって、アイツがいたから、早期解決が出来たし、ラギシスの時も実際助かっただろう?」
「あ~……、ま、そうだけどね。……それは否定出来ないわね」
「はは、だろ? それに、確かに アイツは色んな女の子に手を出すが、間違いなくシィルちゃんは別格だ。だから大丈夫だ。何だかんだ言って、無理難題を吹っかけても、本当に大変だったら、あのコだけは守る筈だ」
「んー。ま、そうね。それも判るわ」

 志津香はあの時の事を思い出しながら頷いた。確かに、あの時ユーリが危なかった時、何も出来なかった。思わず叫んでいた。そんな時に入ってきたのがランスだったんだ。色々と受け入れられない人物であるから、記憶の奥底に追い込んでいたのだ。そして、シィルとランスの関係もそうだ。

 口では色々と言い、実際に理不尽に当たってる所もよく見る。だけど、それは幼い子供が好きな子に意地悪をしてやる!と言う子供の恋愛のそれに似ている。

 だって、自分が小さい時もそんな気持ちで、ユーリに接して……。

「って!! そんなの、な、ないわよっっ!!」
「ぐえぇっ!! な、なんだよっ! いきなり!!」

 いきなりの志津香のミドルキックがユーリの脇腹にクリーンヒット!突然の事でユーリも防御する事が出来なかった様だ。


「……(私の知らない話題だ……良いなぁ……)」

 そんな楽しそうに話をしてる2人を見て、会話に乗り損ねたかなみは、やや哀愁を漂わせてしまっていた。

 その後、志津香の見事な蹴り技で彼女のスカートが捲れ、その中の絶景(・・)を顕にしてしまった。それをユーリが見てしまったものだから、再び鉄拳制裁を受けてしまうと言う理不尽な結果となるのだった。




「……出鼻を挫かれたが、とりあえず行くぞ? ミリ達とランスを探しながらヒララ合金も探そう」
「あ、はい!」
「……ふんっ」

 かなみは、やや苦笑いをしつつ、志津香は、さっきの事があるのか、顔を赤らめながらそっぽ向いていた。それを見たユーリもかなみの様に苦笑いをすると、ユーリを先頭に、烈火鉱山の入っていった。

「やっぱり、鉱山ってだけあって、あまり空気が良くないわね。息苦しさも感じる」
「だな。……多分ランス辺りは此処で一言文句の一つや二つは言ってるな」
「あー……どーせ、『超英雄のオレ様には、こんな薄汚い場所はふさわしくない』とか何とか……って言いそうですね」
「実に的確な想像だな? かなみも、ランスの事をよくわかってきたか」
「……判りたくないです」
「はぁ……私から話しといてなんだけど、まだ入口。こんなとこで話していても始まらないし、さっさと奥に向かいましょう」

 志津香も実は同じように思い浮かべていたのだ。あの男が言いそうな言葉など、想像がつく。……かなみの様に判りたくないとも思っていた。

「ああ、そうだな。……よし、先頭はオレが立つ。かなみは背後から敵が来ないかを警戒してくれ。志津香を挟む布陣で進むぞ? 志津香は援護を頼む」
「はい」
「ええ」

 ユーリ達は、警戒をしつつ奥へと向かっていく。どうやら、入口付近にはモンスターの気配はまるで無いようだ。モンスターだけでなく、人の気配も無い。……どうやら、鉱山の奥で発生したのだと推察出来る。

「……誰か、いるわね」
「ああ」

 時間にして、数十分。それなりに奥へと進んだところで、漸く作業員らしき人物と出会った。

「すまない、ちょっといいか? あんた」
「む? あんたではない。オレはミッチェルと言うんだ! よく覚えておいてくれ」
「……そりゃ失礼した。だが、妙にピリピリしてないか?」

 名前を聞いて、咽せそうになったユーリだった。その風貌を見てしまったので、仕方ないだろう。それに、言いたい言葉が幾つかあるが、飲み込んでいたその時。

「えー……? どう見てもミッシェルって顔に見えないじゃない。五作や与太郎じゃない? 名前改変したんじゃないでしょうね?」

 直球ど・ストレート! そのど真ん中に 切り込んだのは志津香だった。
 それを聞いたユーリは、軽く吹き出してしまった。正に思っていた事をそのままトレースしているかのようだったからだ。

「あ……私もそう思うかも」
「思っても口に出すなって。……言わぬが花だろうに」

 同意したかなみに、ユーリも思わず苦言を呈したが……少しとは言え、噴いてしまった自分の為、あまり説得力が無い。

「ふんっ! この俗物め、オレの教養と栄華がわからんとはな! さっきのヤツと言い最近の若い奴らは情けない!」
「さっきのやつ? もしかして、全身が緑っぽくて、口の悪い冒険者風の男とピンクのもこもこ髪の女の子か?」

 そう聞いていたが、恐らくは間違いないだろう。ランスだったら、志津香同様に、いや、数段上の毒舌をプレゼントしてそうだ。

「あー、通ったよ通った! 『頭がおかしいオヤジ』だの、『名前負けしすぎ、コールド負け』だの散々言ってくれたよ! アイツ……、思いっきりシャベルでひっぱたいたら良かった」

 男は、イライラしているようで、ピリピリしていた原因がそれだったようだ。……だが、そのシャベルで~の件、それはしなくて正解だろう。

「命あってよかったな? アイツにんな事したら、即斬られてるぞ。手を出さなくて正解だ」
「う、うるさい!」

 何やら男は慌てていた様だ。
 ……恐らくは後一歩まではヤろうとしたんだけど……嫌な予感がして止めたのだろう。危険地帯で働く男にはそれなりに危機回避能力がある様だ。

「ところで、お前は何をしてるんだ? 鉱山でトラブルがあった、と聞いていたが」
「ふん、オレはスートンサンドムーバァーだ。それをしているに決まってるだろう?」
「………」

 これ以上話をしていても時間の無駄だろう。有益な情報も得られるとも思えなかった。

「すーとん……え?」
「はぁ……土石運搬の事よ」

 かなみは言っている言葉を理解できなくて、志津香はユーリと同じの様だ。意味を一応教えてあげて……、それでいてため息を吐いていた。

 そして、その自称? ミッチェルと別れて……、暫く進むと、《ミカエル》やら《アントニー》やら……、所謂外見と名前が一致していない土木屋達と出会って、意味のないやりとりをしていた。

「はぁ……、何だかどっと疲れました」
「気持ちは判るさ。兎に角先に進もう。話によればD層で何かがあったらしいからな。……正確な場所を知らんのがどうかと思うがな」
「そうよね……。全く同じ仲間の筈でしょう」

 そう……Dとから判るように、複数の発掘現場があり、それぞれの場所に配属をされている様だ。つまり、自分が所属している場所しか知らないし、興味も無いと言う事で……。でも、モンスターが現れた事は判ったらしい。

「さて、奥へ行ってみよう。……ミリ達が入って行ってるのは間違いないみたいだし」

 ユーリの一言で、とりあえ皆は奥へと脚を進めた。更に奥に進んだところで聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。

「がははは! ラインハルトだと? 何でココのむさ苦しい男共は面と名前が一致しておらんのだ? と言うか、似たような名前の変態がいた記憶があるなぁ!」
「ら、ランス様ぁ……」
「やかましいわ!!!」

 とのやり取りだ。
 誰が奥にいるのかは最早言うまでもないだろう。

「ほら、無事だろ?」
「……まあ そうね」
「はぁ……、相変わらず声も態度もでかい。……(ここの人の名前に関しては……私たちも色々言っちゃってる気がするけど)」

 3人とも判った様だ。
 志津香は、どうやら会いたくなかったと言った様子で、ため息をしていて、かなみはと言うとユーリ以外の2人はランスに負けないくらい?は突っ込んでしまっていたのだから、少し複雑な気分だったようだ。

 そして、奥へと進むと、間違いなくランス達がいた。

 どうやら、そこにいた|おっさん(ラインハルト?)を虐めてる?様だ。

「相変わらず、逆なでするのが得意なんだな? ランスは……」

 ユーリは、ランスの方に近づきながらそう言う。

「あ、ユーリさん!」

 シィルも気づいた様で、駆けつけてきた。

「ユーリさんも手伝っていただけるのですか?」
「ああ、オレだけじゃないけどな?」

 ユーリがそう言うと、かなみと志津香が少し遅れて姿を現した。

「おいコラ、ユーリ! 下僕の癖に遅れてくるとは何事だ! まぁ オレ様の女たちを連れてきた事だけは褒めてやろう!!」
「誰がランスの下僕よ!!」
「誰がランスの女よ!!」

 ユーリが思っていた言葉を代弁してくれるかなみ、そしてランスの『オレ様の女』発言をガン否定する志津香。おかげで、台詞を言う暇がなかった。

「はぁ、も、こいつには 怒る気も起きないな。……随分と慣れたもんだ」

 ランス達と楽しそうに言い合っているかなみや志津香を見て笑っているユーリだった。……慣れたとは言っても、下僕を認めたワケじゃないようだけど(当たり前だ)。と言うより、下僕はまだ許せるにしても、もう1つの暴言? は……。

「…………」

 はい、無理なようです。


 そして、話はD層の件になる。

「それで、あー……ラインハルト? D層現場で何があったんだ?」
「ケッ、事故だ事故。あそこの連中が、ヒララ鉱石や合金だけじゃなく、地底怪獣ちゃそばクイーンまで掘り当てやがったんだよ。おかげでモンスターが次から次へとうじゃうじゃ出没する様になって困ってるんだよ今」
「成る程、《ちゃそばクイーン》ね。と言うよりお前さんは困ってる風には見えないぞ?」
「うるせっ! オレァ……っと、私の気が立ってるのは、お前たちの連れが無礼な物言いだったからな。それに、私はB層の現場担当だから、関係ないのだ。D層の連中の事なんか知らん」

 その言葉を聞いたかなみは、ラインハルトの方を睨んでいた。ランスと言い合っていたのだが、彼女は元々諜報任務を数こなしてきたが故、聞き耳のスキルは高い。だから、話が耳に入ってきた様だ。

「なんて人なのっ! 同じ鉱山で働く仲間でしょっ!」
「知らん知らん! 金にならない事はなんも知らん!」

 聞く耳を持ってないスキルを持ってるラインハルト。かなみの言葉に何も感じない様で首をブンブンとふっていた。

「まぁ、相手はモンスターだ。言い分は、正直気に入らないが、一般人じゃ太刀打ち出来ない。無茶して犠牲者を増やすのは好ましくないだろ? だからあまり 言ってやるな、かなみ」
「うぅ……そうですが……」

 ユーリに諭されてかなみは一歩下がった。
 さっきもこの手の話はしており……大体同じようだったのだ。現場間での仲間意識はあまり持ち合わせていない様なのは理解していたから。

「がはは、おい ホラオヤジ」
「誰がホラだ! 私の名はラインハルトだ!」
「誰が認めると言ったのだ? そんなホラはどうでもいいから、教えろ。ここに、ミリとトマトと言う女たちが来なかったか? エロい鎧を来た2人組だ。ビキニアーマーの不感症娘と金ピカ鎧のエロ娘だ」

 ランスがそう聞くと、ラインハルトは何やら思い出した様で、ニヤリと笑っていた。

「あーああ、知ってるぜ? 確かに2人組がきたな。なんでも、ヒララ合金を取りに来たんだけど、怪物が邪魔してるらしいから倒してやるって。なかなかの女たちだったな。抱いてみてぇ」
「馬鹿言うな! オレ様の女を抱くなぞ、言語道断だぞ!!」
「言うくらいいいじゃねえか」
「話を戻せってランス。それで、ミリとトマトはどっちに行ったんだ?」
「ああ、あの2人なら、奥のトロッコに乗って言ったよ。その先が第8だ。そこに行ったきりだ。もう死んでるんじゃないか?あ~あ、もったいねえ」
「……最低」

 志津香は、安易にそんな事を言うラインハルトに侮蔑の表情を向けていた。
 ラインハルトはそう言うと、志津香の視線や言葉には気づかずに、若干表情を落としていた。どうやら、抱いてみたいと言っていたからだろう。

「一応止めたんだけどな~、あんな若い身空で無駄死になんて、もったいねえよ。実に……私と共に気持ちいいこ“ズバンっ!!”っっ!!!!」

 最後まで言うことはない。
 ラインハルトの後ろの壁、頭一個分上に真一文字に斬り込みが入っていたのだ

「……あまり、口を開かない事だ。彼女達はオレ達の仲間だ。……それ以上の侮辱は許さん」
「ひぃっ!?!?」

 剣を抜いたようには見えなかった。
 ただ、鞘に手を添えているだけ、初動が全く見えなかった、気づいたら後ろが斬られていたんだ。ありえない恐怖に襲われたラインハルトは、即座に頭を下げる。

「も、申し訳ありませんっ!! あ、あの……この先二手に分かれてる道の右手側その先がD層に続くトロッコが配置されてますっ!!!」
「ん。情報提供を感謝する。……死にたくなかったら、仲間達を連れて町にでも引き返してろ。ここにそいつらが来ないっていう保証は無い。命あっての物種と言うだろ? それとも 命よりも金が大切なのか?」
「い、いえっ! は、はいっそうさせてもらいます……!!」

 そう言うと、スタコラと逃げる様に出て行った。

 ユーリはその後ろ姿を少しだけ眺めた。
 この感じは、以前マルグリッドで遭遇したあの3人組によく似ている。

「ふん。オレ様なら、ずばーーっと斬ってやったと言うのに。逃がすんじゃない」
「馬鹿言うなって。そのくらいで殺すな。まぁ、あまりオレも一言いえないがな。もう少しで斬るところだったから」

 ユーリは苦笑いをしていた。正直、ミリ達の事をああも言われて頭に来たのは事実だが、それで殺してしまうのは些か酷いだろう。

「へー……」

 志津香は、ユーリの普段と少し違う一面を見て、少し微笑んだ。
 頭にきてたのは志津香も同様であり、同じカスタムに住んで付き合いだってユーリ達以上に長い。そんな彼女達の事をああ言うふうに言われたんだ。志津香の手にも炎が宿っててもおかしくない。
 そして、ユーリの様に威嚇するのが苦手?だから直撃をさせてしまうかもしれなかった。

「やっぱり……格好良い……」
「あはは……」

 かなみがポツリとそう呟いているのを横で聞いていたシィルは笑っていた。ランスの事を好きなシィルとしては、これはとても好ましい展開だろう。

「よーし、さっさとD層とやらに向かうぞ。これだけ人数が増えたらオレ様も楽ができそうだな。がははは!」
「よーし、ランスは休んでて良いぞ? 後はオレが全部ヤっとく。トマトとミリは任せろ」
「ムカぁぁ!! 誰が貴様に、ミルやトマトの身体をヤるか!!」
「……だから何度も言ってるだろ? オレに負けたくないんだったら、サボるなって事だ。オレに先を越されたくなかったらな?」

 ランスは、ユーリ達と合流したから休む気マンマンだったのだが……、久しぶりにユーリの誘導が聞いた様で、休む事をすっかりと忘れ 先頭を進んで歩いていった。

「おいコラ! シィル! さっさと来ないか!」
「あぅ、は、はいっランス様……」

 シィルは慌ててランスの方へと向かっていった。
 
「やれやれ……って いだぁっっ!?!?」

 ユーリはいつも通り、ランス・取扱説明書に則って、ランスを操作をして一息ついてたところにだった。何やら、足元に雷撃が落ちたかのような衝撃と激痛に見舞われた。

 その一撃は嘗て、ハンティから受けたあの雷撃の魔法。《重い》と感じた魔法に近しい攻撃力だった。勿論、その一撃を落としているその攻撃手は決まっている。いつもの炎の蹴りだけではない。炎の脚がまるで帯電でもしているのか? と思える様な雷? が纏っている。

「……ミリとトマトに一体ナニするつもりよ!!」

 その怒号と共に、更に魔力が脚に集中していく。流石に それを見て止めに入るユーリとかなみ。この場所はまだ危険であり、あまり騒いでモンスター達を呼び寄せるのは好ましくないのだ。

「ちょ……ちょっとまて! 志津香っ! まったまったって!!」
「わ、わぁ、し、志津香、落ち着いてっ!」

 その後は 右足に魔力、左手に魔力。
 器用に5:5の比率で、振り分けたその力の源の全てをユーリに向けようとしていたのだ。正直……幾ら魔法使いに慣れている、魔法攻撃にも慣れていると言っていたユーリだったが、こればかりは何故か慣れる気がしなかったのだった。志津香の後ろにあの時に見た悪鬼羅刹も見えるのだから……。

 その後は、かなみがこれまでの事を説明。(ユーリだと訊いてくれなさそうだから……)

 ランスのやる気を出させるのにはこれが一番最適だと言う事を掻い摘むのではなく、一から十まで隅々まで説明をしたのだ。その間、3,4度程は足に痛みが伴ったが何とか納得してくれた志津香。

『何でムキになるんだよ……』

 と、ユーリはいつも通りの超鈍感ぶりを、デリカシーの無い言葉を言ってしまい、それを聞いた志津香は。

『友人の2人をランスやあんたの毒牙にかけない為よっっ!』

 と力いっぱい力説していた。ユーリは、苦笑いをつつ、納得し……、かなみはそこまで強く嫉妬出来ないから、あの押しの強さが羨ましい事と、そして何より勘違いした時の可愛さを見て笑っていた。

「おいコラ! 遅いではないか! サボるな!」
「ああ、悪い悪い……ちょっと色々あってな?」

 ユーリはややげんなりしつつランスに謝っていた。大概はランスの方が理不尽な事を言うのだが、今回は遅いのが正しい為謝罪をする。……珍しい光景である

「ふ、ふんっ……!」
「あはは……」

 志津香は、まだ赤くなって怒ってる様なので、皆を直視しないようにしていた、そんな志津香を見てかなみは笑っているのだった。

「さて、トロッコは丁度2つ連結されてるな。帰りの人数を考えたら、速度は落ちたとしても2つとも動かした方が良さそうだ」
「ぐふふ、よし、このトロッコに乗り込んでずばずばと進むぞ? さぁ~、女3人はオレ様の前に来るのだ」
「イヤ!」
「ぜぇったい!!」

 志津香とかなみは勿論完全拒否。

「あ、ランス様、私は乗りますよ?」
「やれやれ、シィルちゃんランス、オレ……で、後ろはかなみと志津香で文句ないだろ?」
「ぐぬぬぬ……、この意地っ張りめ」
「なんで あんたと一緒にそんな狭い場所にいなきゃいけないのよ」
「そうよっ! どうせ、揺れに乗じて色々としてくるんでしょ!!」
「がははは、そんな筈ないじゃないか」

 間違いなくそのつもりだった様だが……、ランスは全くそういう気配は出さずにそう言っていた。ここまで清々しく偽るのは、ある意味演技力がずば抜けてる?とも思える。主にエロ要素だけだと思えるけど。


 そして、トロッコに乗り込む一行。

「ひゃんっ! ら、ランス様ぁ……」
「がははは、揺れなのだから仕方がないじゃあないか!」

 ランスはシィルでとりあえず満足をしているようだ。

「はぁ……昨日は滅茶苦茶ヤったって言ってたのに、どれだけ盛んなんだよ……」
「がははは、超英雄のオレ様をそんじょそこらのダメ男と一緒にするんじゃあない。がはは。いつでも発射可能! 常に備えておく事こそ、それが男の甲斐性と言うものだ」

 ランスは、シィルの胸を揉みながらそういうが……。

「……だとさ? そうだと思うのか? 男の甲斐性だって」
「そんなわけない!! そんなのどっかの馬鹿だけ」
「当然ですっっ!! 志津香に全面的に同意! どっかのバカだけ!」
「喧嘩売ってんのか、お前ら!」

 志津香とかなみが全否定してランスが不機嫌になってしまった様だ。

 だが、それも仕方がないだろう。だけど、忘れて欲しくないのがここは、トロッコの上だと言う事。
ランスの様に大きくわざとらしく揺れる訳ではないが……、確実に揺れているのは事実。だから、そんなに騒いでいると……?

「あんま騒いでると舌噛むぞ?」
「がはは、誰がそんなベタな事をするk あがっ!」

 ランスがこれまたお約束のよーに舌を噛んでいて。そして、ユーリは呆れながら『言わんこっちゃ無い』と言っていた。






~烈火鉱山 D層・入口~


 ランスの舌に多大なるダメージを負った所で、トロッコは終点である第8発掘場へと到着していた。そこには、もう一台のトロッコも来ている。

「多分、これがミリ達が乗ってきたものだろうな」

 ユーリがそれを調べながらそう言っていた。そして、志津香もある事に気が付く。

「これ……壊れてる。ブレーキ部分が破損してるみたいよ。このままじゃ 危なくて乗れないわ」
「流石はマリアの友達だな? がはは。志津香も機械馬鹿だったと言うことか?」
「なわけ無いでしょ!! こんなの見たら一目瞭然じゃない!」

 ブレーキレバーが、車輪部分につながっているワイヤーごと切れているのだ。志津香の言うとおり、これを見たら大体判ると思える。なのにそういうのはランスだからだろう。

「……見た所、トロッコも私たちが乗ってきたモノ以外ありませんし……、このせいで奥から退避出来なかったのかもしれませんね」

 かなみもそう言っていた。距離もかなりある上に、足場も非常に悪い。徒歩での移動は危険なのだ。

「……かもしれないな。奥に行ってみよう」

 ユーリ達はその言葉に従って、奥へと歩き出した。

「がははは、って、痛っ。おい、シィル。舌にヒーリングだ」
「あ、はい! いたいのいたいのとんでけー」

 ランスは、さっき思いっきり噛んだ舌が痛む様で……いまさらだと思うがシィルにヒーリングをしてもらっていた。

「そんなのに、必要なんてないわよ。自分の唾で治るでしょ?」
「がはは、オレ様のハイパー舌が不調だったら、お前たちをイカせる事が出来ないではないか。よし、治ったからイカせてやろう!志津香。脱げ」
「誰がよ! 粘着地面!」
「んがっっ!!!」
「遊んでないでさっさと行くぞ……お前ら」

 苦言を呈しているのはユーリ。
 ランスはお気楽だからなのか、ミリたちなら大丈夫と思っているのか判らないが……、ここまでいつも通りの自分を貫けるのは流石だろうか。

「ふん。判ったわよ」

 志津香はため息を1つしながらユーリの傍へと向かった。

「ふん、志津香のヤツめ、照れてるのだな? がはは、可愛いところもあるではないか」
「シィルちゃん。早く行くわよ? ああ、ちょっと私にもヒーリングを頼めるかしら?」
「あ、はい。判りました」

 志津香は、シィルを呼んでヒーリングをして貰った。ランスはというと……。

「照れ隠し、照れ隠し、がははは! ……ってコラっ!! 魔法を解かないか!! 動けんではないか!!」

 ランスの叫びが坑道内に木霊するが……。なかなか戻ってこない。

「えぇい!! さっさと解けっ!!」

 2度、3度、と叫んだ所で、『五月蝿い』と言う理由で志津香が魔法を解いた。勿論……ランスはシィルにお仕置きをするのだった。


 そして更に奥に行くと……。


「てりゃーー!! ですかねーー!!」
「ちっ……、次から次へと! このゴキブリちゃそばがっ!!」
「このぉっ!」

 聞き覚えのある声が響いてきたのだ。その声がする方へと向かっていくと、そこでは3人の女性がいた。

「ミリ、トマト!」
「ん? この声は……」
「おおーー! ユーリさんですかねー! トマトが間違える訳ないですよ~! これは百人力ですよねー!!」

 2人はこっちに気づいた様で、振り向いた。まだまだ、ちゃそばが多くいると言うのに。と言うより、迷惑な事に、引き連れてきてくれている。

「煉獄・斬光閃」

 とりあえず追いかけてくる モンスター達に、ユーリの放った飛ぶ斬撃、《斬光閃》が3~4匹のちゃそばの身体を、それぞれ2つに分けた。

「声をかけたのは間違いだったな。悪い」

 肩に剣を担ぎながらそういうユーリ。

「いや、良いさ。相変わらず凄い腕だな? 助かるぜ」
「よっしゃー! このまま一網打尽ですかねー!」

 トマトは更にやる気を出して、攻撃。その後にはユーリの斬撃に続いて、かなみのくない、そして志津香とシィルの炎が飛んできた。

「当たれっ! やぁっ!!」
「火爆破!」
「えいっ 炎の矢っ!」

 ちゃそば達はくないで頭を貫かれ、そして焼かれ、絶命していく。

「おお! 志津香さんに、かなみさん! そして、シィルさんまで! 嬉しいですよー!」
「おいコラ、不感症娘、オレ様もいるんだぞ!」
「ああー、本当でしたかねー?」
「そこだけ、《?》を付けるんじゃない!」
「遊ぶ前に手を動かせって」

 ランスも文句を言いつつも、剣を止める事は無かった。それだけの多さなのだ。これならば、ちゃそばクイーンが奥から現れたと言っても不思議ではないだろう。

「ちっ、へんてこな連中だが、厄介だ」

 ミリは、汗をぬぐいながら攻撃を仕掛ける。それを見たユーリは。

「ミリ、下がれ」
「んぉ!?」

 ミリの腕を引いて後ろに立たせた。

「……その子と一緒に守備体勢を取っててくれ。ミリはしばらく攻撃はやめろ。……攻撃は、オレに任せろ」

 それは、有無を言わさぬ迫力だった。
 その言葉と表情で……ミリは気づいた。ユーリが知っている(・・・・・)と言う事に。

「……ああ、任せてくれ。カーナは責任を持ってオレが守る」
「お、お姉様……」

 ミリの言葉に思わずうっとりとしてしまうカーナ。

「……ん? お姉様?」

 その単語にちょっと違和感を覚えていたユーリだったが……。

「コラ、ユーリも集中してっ!」
「ああ、すまない」

 志津香は詠唱を始めているが、前衛であるユーリが上の空だったのを見て激を飛ばした。ユーリも考えるのを辞めて、後10匹はいるであろうちゃそばに向かって突進していった。


 そして、その後目の前に積まれているのは、ちゃそばの残骸。ちゃそばタワーというべきだろうか?


「がはは、オレ様にかかれば、この程度の敵は正にゴミクズ! こんなのに手古摺ったのか? ミリ。お前の腕が落ちたんじゃないのか?」
「なにぃ??」
「トマトもミリさんも頑張ったですかねーー! 遅れてきてそれは無いですかねー!!」

 トマトもミリの事を言われてご立腹の様子だ。プンプンと頬を膨らませ、剣をぶんぶん! と振っていた。

「そうよっ! お姉様はとっても強いのよっ!」
「……やっぱし、空耳じゃなかったか。なんなんだ? その、お姉様ってのは」

 ユーリはその言葉を聞いて確信した様だ。空耳じゃないということを。そんなユーリに、トマトは説明をしてくれた。

「いやー、カーナさんは、恋人であるコーンさんの事を心配していたですかね。そんな時にミリさんに慰められてですかねー。そして、そしてーー! 禁断の愛に目覚めたんじゃないですかね? まぁ、トマトはユーリさんひと筋ですかねー!」
「……成る程」

 後半部分をまるで訊いて無い素振りのユーリを見て、やや意気消沈してしまうトマトだった。ミリはというと。

「ふふ、悪い子だよ。恋人がいるって言うのにさ? ……だが、ソコも良いもんだ。後で可愛がってやるからね」
「あ、あぅぅ……//」

 流石、どっちもイケると豪語しているミリ。

 舌なめずりをしながらミリは、カーナにそう言って、カーナは頬を赤く染めていた。

「馬鹿者、女の子は男と結ばれるべきなのだ。そんな道に行くくらいなら、オレ様とS○Xをするぞ!」
「なんで、貴方となのよ」
「がはは、可愛いコは全部オレ様のモノなのだ!」
「あ、あぅ~ランス様~」

 相変わらずのランス節を発言して……新たな女の子がランスに、って思ってしまったシィルは哀愁を漂わせていた。

「おいコラ、カーナはオレの女だ。手を出したら許さないぜ」
「まぁ、お姉様……恥ずかしいです」
「……おいコラ、流石のオレ様もおかしいと思うぞ! お前にはコーンと言う馬の骨が一応はいるのだろう? 何がお姉様だ!」
「コーンは大事な、ボーイフレンド! ミリお姉様は女性だから浮気にはならないのっ!」
「そういうこった」

 最終的にはミリたちに言い負かされてしまうランス。

「……そういうこった、ってどう言うこった? ……それに、一応ランスが正論を言ってるのを見て驚いた」
「ですね……」
「はぁ、そこは、ミリだから」
「しょーじき、トマト、ミリさんはランスさんの女ヴァージョンだって思えてますかねー。トマト・センサーがそう言ってるですかねー」

 そんなこんなで、なかなか先に進もうとしてなかったが、とりあえず話は止めて、先へと進んでいく。


 その道中の事。暫くモンスターも出てこなかった時の事。


「……ミリ」
 
 ユーリはミリに話しかけた。他の皆には聞こえない程の大きさの声で。

「なんだい? おおっ? ひょっとして、ついにオレとシたくなったか? まぁ~、ユーリもオレの身体をマッサージしたら流石に欲情w「茶化すな……」……」

 ユーリの静かだが、重い口調ににミリも押し黙った。
 いつもの彼女だったら、もっと大きな声で言うだろう。特にユーリがマッサージ?の件はミリ以外誰も知らないんだ。普段ならば、ここぞとばかりに大きな声で聞こえる様に言う筈。だが、彼女はしなかった。そして、表情も……。

「……それで、なんだ?」
「単刀直入に聞こう。……ミリ。調子が悪いのか?」
「ははっ、何言ってんだ? 悪いって訳あるかよ。いつも通りだ。なんなら、今からユーリと何回戦までイケるか、勝負するかい? ははっ、このオレ、だぜ?」
「そうだ。そのお前が、だ。……オレを見縊るな。今まで共に戦った仲間の力量を、見間違える筈無いだろう」
「……」

 ユーリがそう言うと、ミリはもう何も言わずに押し黙った。

 暫く沈黙した後。両手をあげるミリ。

「はぁ、判った。ここからラジールに帰ったら言うよ」
「……約束、だぞ? 後、ここでも絶対に無理はするな。何なら後衛でもいい。適当な理由はオレが言っておく。……寧ろそうしろ」
「はは、判ったよ。……カーナとヤルまでは頑張んないとな」

 ミリは軽く笑ってそう言う。
 動機は兎も角、無理をしない事は約束したんだ。ユーリは苦笑いをしつつ再び先頭へと向かっていった。

「……やっぱ、気づいちまったか。ったくよぉ、……アイツは、こう言う事に関しては鋭いな、やっぱり。その鋭さを、あのコらに向けてやれないのかねぇ」

 ミリはユーリの背中を見ながらつぶやく。
 その鋭さの1%でも、他の想ってる女達に向けたらいいのに……っと本気で思ったのだ。

「へ、それに オレはユーリともヤってみたいんだ。……それが最難関だし、何よりも一番燃える。勝負してみてぇし。……それまでは死ねないね」

 ミリはそう言い笑うと、少し離れた集団へと戻っていった。

「おい、ミリ。カーナは お前の事ならなんでも聞くんだってな?」
「ん?? ああ、まーな? 可愛がってやる代わりに、ってヤツだ」

 戻ったところでランスにそう聞かれた。どうやら、ランスはカーナに色々と聞いたようだ。そこで、物は試しだと言う事である事を頼む様だ。……何を頼むのかは火を見るより明らかだが。

「がはは、オレとミリの仲じゃないか。ちょっとだけ、カーナとやらせてくれ」
「そりゃ、聞けない相談だ。カーナの奴は処女。愛するコーンにやるんだって言ってたからな。オレだってさわるだけなんだぜ?」
「ケチケチするんじゃあない!」
「ダメだったら、オレもカーナに嫌われたくないからな。やりたかったら自分で口説きな。ま、無理だろうがな?」

 ランスとミリの会話は思いのほかでかい。さっき、ユーリと話していた大きさとは天と地の差だ。

「アホな話してないで。さっさと行くぞ……」
「全く……、ミリ! あんたも少しは自重しなさいよ」
「……ミリさんが、ほんとにランスの様に見えてきた……。トマトさんが言うように……」
「両刀使いとは流石ですかねー、トマトは魅力で積極的なミリさんだけはリスペクトするですよー?」
「あぅぅ……///」
「(ミリさん……断ってくれてありがとう……)」

 其々の呟きがあり……そして、ミリは一頻りそれを見てニヤリとすると。

「あー、でもユーリとだったら構わないぞ? 勿論、条件はオレも入れて3Pでするなら、だ。それなら全然OKだ。それだったらカーナに直談判してやろう!」

 腰に手を当てて堂々とそう言うミリ。
 恐らくは深刻であろう、身体の状態を吹き飛ばすかのように明るく振舞う彼女だった。ユーリはやや苦笑いしていた所だったが、ユーリの隣にいる彼女達はそうはいかなかった。軽く受け流すなんて 器用な真似ができる筈もなく。

「なんでそうなるのよっ!!!」
「だだ、ダメですっ! そんなのっ、そんなのダメですぅっっ!!」
「とと、トマトもそれだけはダメですかねっ!!?」

 志津香とかなみのダブル制裁を食らってしまったユーリ。トマトは、それには加わらず、剣をぶんぶんと振って否定をしていた。

 そんな光景を見ながらユーリは一体自分が何をしたのだろうか……、と考える。それは激痛が脳から信号として発信され、痛みを認識する刹那の時間帯。


「いったぁーーーーーっっっ!!!」


 そして、激痛は期待を裏切らない程の威力でユーリに襲いかかったのだった。正直 ここのモンスター達の攻撃の10倍以上の威力がありそうだ。

 ……百戦錬磨のユーリが悶絶してしまっているのだから。

「こらぁァ!!! なんで、そんなガキなら良いというのだ!! そんなガキより、ハイパー兵器を持った超英雄であるオレ様だろう!!」
「ま、ランスは体力は 中々だが テクがなぁ?」
「ムカムカぁぁ!! なら、今すぐアヘアヘさせてくれるわ!」
「それによ? オレは、ユーリの方がデカい気がするんだよなー。経験から言って」
「んなにぃぃ!! そんな訳ないだろう! ガキのがデカイ筈ない!! 何なら確認して証明くれるわ!!」

 ランスは、脚を抑えて悶絶しているユーリの装備を外そうと 手にかけた。ベルトを強引に引き抜くと、スピード重視にしているからか、その簡素とも言える装備に手がかかってしまい。

 ✖✖✖✖✖✖✖✖!!!

 当然ながら、傍にいた彼女達は大絶叫再び(リターンズ)

「っ!! ななな、何してんのよっっ!!」
「きゃあっ/// や、やめなさいよ! ランス!!」
「あわわっ/// さ、流石にこんなところでは イヤですかね……、もっとムードを考えて欲しいですかね!?」
「さ、流石に落ち着いてくださいっ! ランス様っ!! 普段なら絶対にやらない事でしょうっ!?」

 慌てて止める面々。

「わ、私はいやですよぉ……、初めてはコーンに……です」
「あははは! 冗談だ冗談。見てみろよ? あいつら」

 カーナが、ミリがノリ気だったのに凹んでいる所で、ミリは嘘だとバラした。ミリが見たかったのは、これだったのだ。ユーリを取り合っている女達を見る事。そして 楽しそうに絡んでいる姿。

「可愛いだろ? あんな状態なのに、ユーリの奴は気づいていないんだぜ?」
「うぇぇ!? う、嘘じゃ……? 気づかないフリじゃ……?」
「ん~、鈍感だからな? ま、本心かどうかは別としても、アイツは手はまるで出さないんだ」

 ミリはニヤニヤと笑いながら見ていた。
 カーナは信じられないと言った様子だったが、あの3人を見たら納得してしまった。



 そして、ユーリは悶絶していたのだが、ランスがナニをしようとしてるのが判ってすぐさま起き上がる!


「何すんだよっ!! このボケっ!! 人のズボンに手をかけやがって!! お前の方がホモじゃないか!!」
「誰がだぁぁ!! ミリの奴がおかしなことを言い出すからだ!! なら、ここで出せ!! 自分で出せ!!」
「ふざけんなぁぁ!! ミリに感化されてるんじゃないわ! ちったぁ落ち着け!! ボケっっ!!」

 今度は、ランスとユーリは楽しそう?にやり合っている。

 そんな2人を、そして まだ顔を赤くさせている乙女達を見て、ミリは心底思った。

「ふふ……、妹の成長を見届ける事以外にも……やりたい事があったな。そりゃ お前らの事だよ。今後どうなるんだ? ユーリとランス……それに 皆も」

 ミリはぎゃあぎゃあ騒いでいる皆を見てそう思っていた。この先もずっとずっと見ていたい。

 だけど……自分の抱えるモノがそれを拒んでしまうだろう。断ち切ってしまうだろう。だけど……最後の瞬間までやりたい事をし続ける。それが生きると言う事だから。



「さあさあ、バカ騒ぎするなって。ヒララ合金を取りに行かにゃならんだろ?」
「「「「お前が言うなっ!!」」」」



 ミリのその言葉とランス、ユーリ、志津香、かなみの台詞でこの騒動は幕を下ろしたのだった。




 ……ランスはと言うと、男の下半身を確認しようとしていたさっきまでの自分の事を悔いていた。反省と言う言葉は知らないと思われたランスだったが……。

「うぐぉぉ……売り言葉に買い言葉。買ってしまったのが大失態だぁぁ……。お、オレ様が ガキのモノを見ようと、晒そうとするなんて……」
「誰がガキだぁ!! ちっとは反省しろっ!! ガキが!」
「反省するわぁ!! あんなのはオレ様じゃなかったのだ!! そうだ、幻覚の魔法をかけられていたのだ!!!」

 と言う事で、初めてランスの口から反省と言う言葉が聞けた一行だった。


 女性陣はというと……。

「全くもう……(ゆーの……こんな場所でなんて……はぁ良かった……///)……っ」
「あ、あぅ……(だ、ダメ……想像するなんて、変態さんだよぉっ///)」
「ふぅ、何だか、更にどっと疲れたですかね……(帰ったらベッドの中でユーリさんのを見せて貰いたいって思っちゃったですかね~……//)」
「良かったですぅ……ランス様が元に戻ってくれて……」
「やっぱり、お姉様は素敵……」

 各々がそういった感想だった。









~烈火鉱山 D層 発掘現場・最新部~


 そして、奥へと更に進んだ先で異常な空間にたどり着いた。
 大量のちゃそばと、卵……そして、その中心にこれまたデカイちゃそばクイーンがいるのだ。

「アイツがボスキャラか!! 今までの鬱憤を晴らしてくれるわ!!」
「おーおー! 全くを持って気が合うなぁ! 珍しい事もあるもんだ! オレも全くの同感だよ!」

 ランスとユーリが先頭に立ち……沢山の卵に囲まれている巨大なピンク色の物体……ちゃそばクイーンに向かっていった。

「全く……何でこう落ち着きが無いのかね? 男共は」
「あんたのせいでしょ!」
「うぅ……ミリさん、止めてください。ユーリさんはそんな事しませんし……襲われそうになるユーリさんは見たくないですぅ」
「トマトも反対ですよ! 《ユーリさん争奪戦!》は お互いイーブンじゃないといけないですかねー!」
「あはは、マジで冗談だって。あいつら からかってたら止まらなくなってな?」

 ちゃそば達相手に無双状態のユーリとランスを見ながら笑う。手を出さなくても問題ないと思える状況だったから、思う存分笑っていたようだ。

「ったく、アンタと言いロゼと言い……」
「ま、志津香もトマトくらいに自分に素直になる事だな? ……真面目な話だ。いつ、誰がどうなるのかなんて、誰にも判らないんだからな」

 ミリは、そういうと一瞬、ほんの一瞬だけ表情を変えた。

「……絶対、それが絶対で、当たり前なんて事は、この世には無いんだからな。いつ、終わりがくるか、判らないんだからな」
「……うるさいわね」

 突然、真面目な顔をされてそう言われても普段のミリを見てきているから、志津香は素直にうなずけなかった。そんな志津香を見てミリは更に笑う。そして、次に。

「ははっ! かなみも頑張んな」
「うひゃい! わ、わたしですかっ!? ゆゆ、ユーリさんとなんて……お、恐れ多くて……で、でも……」

 かなみの方へと向かったのだ。彼女は 志津香よりは素直そうだ、と以前から感じていたから。

 そして、初々しくて美味しそうな所も皆 同じだと思っているから。。

「ふふ、これが終わったらかなみ。ユーリも含めてオレと3Pをs「コラっ! お前らさぼるんじゃない!!」へいへーい!」

 ランスが大声で呼んだ。
 一体一体は全く問題にならない強さだが、流石に四方八方に囲まれてしまえば鬱陶しいのだろう。

「わ、私も行きます!!」
「うりゃあ! アイテム屋兼冒険者・トマトの実力を見せてやるですかねー!! レンゴク~! ですかねーー!!」

 かなみとトマトは、ちゃそばに向かって突進していった。

「さっさと片付けるわよ!」

 志津香も無数の卵に、ちゃそばに囲まれている奥へと向かっていった。

「気持ち悪い連中だね! さっさと死ねっ!」

 ミリも剣でちゃそばを蹴散らしながら進んでいく。傍にはカーナもおり、彼女も複数ではなく、単体でならミリと一緒に問題なく戦える程の実力を持っている様だ。

「ふふ、背中は預けるぜ?」
「あ、はいっ! お姉様っ!」

 ミリの言葉にキュンときたようで、更に気合が入るカーナだった。……身体のキレがイマイチ悪いミリには本当に僥倖だろう。




 ちゃそばクイーンとの一戦。

「猛追なる焔を受けろ!! 業火炎破」

 志津香の両の腕から迸る業火。みるみる内に孵化する前のちゃそばの卵を焼き払う事に成功する。これで半分は減ったと思われる程だ。

「うぉぉ! 流石は志津香さんですかねー? トマトも負けないですよ!」
「凄い……志津香。うんっ私だって……ええぃ 火丼の術!」

 志津香に触発されたかなみは、以前リアに貰った火遁の術の巻物から独自に完成させてしまった炎の忍術を飛ばした。だが、如何せん魔法と比べたら寂しい威力だが、十分に相手をひるませる事は出来たのだった。

「やるね……!」

 ユーリは志津香を一瞬見てそう呟く。
 魔法の才能に関しては間違いなく志津香はこの世界でも上位に位置するだろう。以前ラギシスも言っていたが、ゼスの魔法使いにも引けを取らないのは間違いない。

「炎を使うアイツともひょっとしたらな……。それに、かなみの技も良い。初速が早い」

 ユーリが思ったのは、ゼスの将軍の1人。
 とある事があって、変に目をつけられている男であり、面識がある将軍の内の1人だ。あまり思い出したくない事でもあるが。かなみについては比べるのは酷だが、威力よりも技の出の速度が圧倒的に早い為有能な技術だと思っていた。……かなみが聞いたら どれだけ喜ぶ事か。


「死ねえ!! ランスアタック!!」

 ランスは、持ち前の剛剣で敵を吹き飛ばす。敵の一体一体は全く問題ないが、やはり問題があるのは物量だろう。ランスの攻撃は辺り一帯を巻き込む衝撃をうむから、この手の乱戦にはもってこいの一撃なのだ。

「これで終いだな。失せろ。二刀煉獄・斬光閃!」

 ユーリの飛ぶ斬撃は2つ、その斬撃が交差し、正確にちゃそばクイーンにヒットした。

「あはぁぁぁん!!!」

 ちゃそばクイーンは絶叫?を上げた交差している箇所は 2倍以上の切れ味と威力であり、その場が急所なのだ。

「おいこら! ボスのトドメをとるんじゃあない! オレ様、トドメ、ラーーンス・あたぁぁぁぁぁっく!!!」
「あひゃぁぁぁぁんっっ!!!」

 流石、鬼畜戦士ランス、と言えるだろう。
 もう殆ど致命傷だった一撃に加えて、ちゃそばクイーンに更に追撃を与えるランス。明らかにオーバーキルだと思えるが、兎に角ちゃそばクイーンはその巨体を沈めた。ユーリの一撃で、即死だった訳じゃないから、かなり酷そうだったが…… 有害モンスターだから、同情は誰もしなかった。


「がははは! オレ様、最強!」
「ランス様、格好いいですー! ぱちぱちぱち~」

 げしげし、っと蹴りを入れながら高らかにピースをするランス。
 
 そして、傍にいるのは当然シィルだ。
 ちゃんと声援と拍手を入れないと、ちょっと不機嫌になってしまうからシィルは律儀にそうしているのだ。それでも、シィルは苦ではなさそうだという事もいつも通りだ。

「はぁ……ユーリが決めてるんじゃない」
「ま、どうでも良いんじゃないかな? 変に文句言われても五月蝿いだけだし……」
「そうですかねー。あ~疲れたです~」
「流石ってな? ランスもユーリも戦いに関しちゃ間違いなくダントツだよ」
「ほ、本当ですね……」

 他の女性陣達も問題なさそうで、今回一番の戦闘は無事に終了した。

「お? あったぞ! このキラキラと輝いているのが、ヒララ合金だな?」
「あ、私もそう思いますよ」

 そして、ちゃそばクイーンが陣取っていた更に奥の方に薄暗い坑道内だと言うのに一際輝きを見せている鉱石をランスが発見した。シィルも頷き、そしてユーリもそれを見て間違いないだろうと思える。
 何故なら、以前にヒララ鉱石をピラミッド迷宮で見た事があるからだ。

「ああ、間違いないよ。これがマリアが必要としているヒララ合金だ。流石に実物を知らないのに、取りに行くなんてできないしな? マリアからちゃんと図鑑を見せてもらったんだ」
「ふ~ん」

 志津香は興味ない。と言った様子だった。

「おいおい。マリアは親友だろ? ちょっとは興味持っても罰は当たらないと思うぜ?」
「そのちょっとが問題なのよ。聞いたが最後、延々と講義されんのよ?」
「いや~、トマトは志津香さんなら、講義が始まっても強引に出てきそうな気がするですかねー」
「あ、私もそう思う」
「アンタ達ねぇ……」

 私をなんだと思ってんの!?っと言い返している志津香と、そのままの意味だと返している面々。
実に楽しそうなのだが、兎も角目的のモノを見つけたのだから。

「はぁ、早く行くぞ? 目的のヒララ合金は手に入ったんだ。後は取り残された人達だな。多分この先に居るはずだ」
「っ! コーンっ!?」

 ユーリのその言葉にいち早く反応したのがカーナだった。駆け出す様に奥へと進む。殆どちゃそば達は倒したのだが、まだいてもおかしくない為、ユーリ達は追いかけた所で……。

「ああ、コーンっコーンっ!!」
「ごめんな……心配をかけた。カーナ……」

 残された鉱夫達の中で恋人であるコーンと再開を果たし、抱擁をしているシーンがそこにあったのだ。

「……良かったな」

 ユーリはその姿を見て一先ず安心した。普通の人間であれば、あの数のモンスター相手に太刀打ち出来るはずもない。だから、もしかしたら殺られていた可能性だって十二分にあったのだ。だが、無事再開出来た事を安心していたのだ。

「ぐっ……オレ様の処女が」
「ダメだぞ? カーナの処女はコーンのモノだ」
「ふ、ふん!! どーせ、あんな男は直ぐに捨てられるに違いない! 処女じゃないとダメなんてガキ臭い事はオレ様は言わんのだ」
「何をどうしたら、アンタに靡くって言うのよ。馬鹿」
「はぁぁ……良かったです」
「そうよね……」
「感動的な再会ですかねー」

 一行はとりあえず全員を救出する事が出来たのだ。
 ランスはやや不満だった様だが、ミリ達とヤル約束をしたという理由で、やる気満々だったから、一先ずさっさと帰る事に同意した。

「ふふ、コーンと幸せにな?」
「あ、はい! ありがとうございました!ミリお姉様っ!」
「ん? お姉様??」
「あ、何でもないのっ! コーン、気にしないで!」

 別れ際にミリの事をお姉様と言うカーナ。当然だろうと思うが、疑問符をコーンは浮かべていたが、カーナは強引に話を反らせていた。

「いや、がまんならーーんっ! 殺して、オレ様がいただーく!」

 ラブラブなカーナとコーンを見せられ続けて、遂に我慢? の限界が来たのだろうか? ランスは剣を構えてしまった。……が、当然ながら、それが実行される事はない。

「炎の矢」

 志津香の炎がランスに直撃したからだ。

「うぎゃちゃぁぁ!」

 それも、結構強めにしかけた魔法だった。

「人の恋路を邪魔するひとは、うしに蹴られて死んでしまうですかねー」
「はぁ、ほんとに馬鹿なんだから!」

 とりあえず、火傷をしてしまったランスだったが、ギャグっぽかったので、問題なさそうだった。






~烈火鉱山 入口~



「がははは、とっとと帰って、やるぞ? ミリ、トマト!」
「トマトは絶対イヤですかねー。私はユーリさんじゃなきゃ、トマト、感じる自信ないですかねー」
「何をぅ! 今度こそはオレ様のハイパーテクとハイパー兵器でアヘアヘにしてやる!」
「やれやれ、体力は問題ないんだが、本当にテクがなぁ……?」
「哀愁漂わせながら言うんじゃあない!! お前が明らかに異常なのだ!」

 その後、燃やされたと言うのに、ギャグっぽいとは思ってもそれなりに燃えたと言うのに、いつも通りに戻ってしまっているランス。

 それは置いといて、ランスもさじを投げる程の不感症娘(トマト)両刀使い(ミリ)がここにいる事にも驚きだ。 カスタムの女性は逞しすぎる?と思える。

「あのランス相手にここまで言わせるとはな……。恐るべしはカスタムの女、といったところか?」
「カスタムって、……何だか、括られるのは釈然としないわ」

 志津香もため息を吐いていた。自分はまともな部類に入ってるのに、と言わんばかりだ。

「……事あるごとに、人の脚を踏む娘も此処に有りってか?」
「なんか言った!?」
「いてっ……。何でもないって……」

 ユーリも何されるか判っていたと言えるのに、言っちゃう所を見ると……Mなのだろうk「違うわ!!!」っと、ユーリが天の声に割り込み、そして否定しながら今回の烈火鉱山での冒険は幕を閉じたのだった。













~アイスの町~



 一行は、ラジールに帰る道中にある 《アイスの町》に一先ず寄る事にした。
 戦闘の連続だった事や、やや物資も減っている事、そしてラジールまでの距離がまだまだあるということ、等の理由が挙げられる。

「がははは、よし! シィル。オレ様の為に色々と調達してくるのだ」
「あ、はい! ……えっと、お金は……?」
「む? ご主人様から金を取るというのか?」
「あ、あぅ……で、でも 今回の冒険で得たお金は全部ランス様が……」
「えーい! 口答えをするんじゃあない!」
「ひんひん……」

 相変わらず理不尽な事を言いながら、シィルの頭をグリグリ~とするランス。どう見ても好きな女の子を苛めたい男の子だとミリも思ったようだ。

「やっぱし、ランスはシィルが特別なんだな? あからさまだ」
「そう言うと怒るから黙ってた方が良い。その方が早いしな。シィルちゃんも口ではああ言っても、そこまで嫌がってる訳でもないしな?」

 ユーリがそう言って笑っていた。
 世話をする事が好き。その相手がランスなら尚更だろう。

「だから、悪いがミリ達はシィルちゃんと一緒に買い出ししててくれないか? 金は 少ないが渡しておく。……オレは少し寄る所があるんでな」
「ん? 別に構わないぜ? ユーリは何処に行くんだ?」
「ちょっと、自分の家にな?」

 ユーリはそう言って笑った。
 どうやら、ミリはユーリの拠点は知らなかったようだ。

「OK。なら女同士で買い物でも楽しむとするか? シィル」
「あ、はい。ありがとうございます」
「トマトも行くですよー。アイテム屋であれば、ライバル店になるかもですからねー。偵察ですっ!」

 シィルとミリ、そしてトマトの3人でコリンが経営するアイテム屋へと向かっていった。

「がはは、オレ様は武器屋に行ってくるぞ!」
「はぁ……レンチに会いにだな? ま、多分無理だと思うが」

 ユーリはため息を吐きながら、自宅へと向かっていった。

「あ、……ヒトミちゃん、かな?」

 
 かなみは、ユーリを見て、そう思った。多分間違いないだろうと。

 アイスの町を出てまだ数日だけど……、彼女の事を、妹の様に接して、そして彼女から兄のように慕われているんだ。そして、何よりもヒトミは《幸福きゃんきゃん》だ。いつどの時代だったとしても、経験値が大量にもらえるからと狙われる存在。自分が住む町だったとしても、やっぱり心配なんだろう。

「…………」

 志津香は、ユーリの向かった方へと歩いて行った。後をつけている?

「……あれ、志津香? どこに行くの?」
「ちょっとね。気になって」
「ヒトミちゃんの事? 大丈夫よ。だって、ユーリさんの事信頼してる妹の様な存在だって」
「そう? なら、私も会ってみたいって思っても良いと思わない?」
「……」

 どうやら、自分の目で見ないと気がすまない様だ。かなみの事は信頼しているけど……、事、ユーリの事なら尚更なのだろう。

「う~ん……、なら私も一緒に行く!」
「ええ、良いわよ」

 最終的には志津香に迫力負けしてしまったかなみだった。
 











~アイスの町・ユーリ邸~


 ユーリは何だか、随分と久しぶりのような気がしていた。何故だろうか、期間を考えたらこれまででも長く空けた日は多い。なのに……今は強くそう思ってしまっていた。

「……多分そうだよな」

 ユーリは、ぽつりと呟いた。
 何故だろうか?と思っていても、間違いなくこれだと言う理由は思いついていたのだ。

「……帰りを待っててくれる存在があるからだろうな。間違いなく」

 ユーリはそう呟く。
 多分表には決して出さないけど、彼は人一倍、家族想い何だということが垣間見た瞬間でもあった。これまで、彼が経験してきた事を考えたら、仕方がないとも言えるだろう。

 そして、ユーリが家の扉の鍵を開け、扉を ぎぃぃ、と音を立てて開けたその時だ。


「お兄ちゃんっ! お帰りっっ!!」

 
 開いたと同時に、満面の笑みで、飛びつくように抱きついてきたのはヒトミ。
 ヒトミもやっぱり寂しく温もりを求めていたんだと思う……。彼女のこれまでの生を考えたら。そして、何よりもユーリが無事だった事が嬉しくて仕方がないんだろう。

「はは、……ただいま。ヒトミ」

 ユーリは、ヒトミの身体に手を回し……後ろ髪を撫でた。
 頭を、と思ったのだけど、ヒトミはまだあの帽子を身につけているのだ。

「はぁ。ほんとに、ハゲるぞ? ずっと、頭につけてたら」
「ぶーー! 帰ってくるなり、おにいちゃん酷いよっ! それに、だいじょーぶなのっ! 帽子は、しがいせん? を防いでくれるんだよっ! 髪にやさしいんだもんっ!」
「しがいせん?」

 何やらよくわからない単語が飛び出したが……軽くスルーをする事にしたユーリだった。

 そして、ヒトミはニコニコと笑顔を見せた。

「あ、それでね? お兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「えへへ。後ろのお姉ちゃんはだーれ?」
「……?」

 ヒトミが笑顔で指さす方向にユーリが振り向いた。
 そこには、間違いなく誰かがいた。……木影に人影有るのだ。人影と言うか間違いない。隠れたのは ユーリが振り向いたと同時だったから。

「はぁ、志津香……」
「っっ!!」

 志津香は、木の背後に慌てて隠れようとしたが……もう無駄だろう。
 ヒトミの感覚器官を、そして、勿論ユーリの動体視力も甘く見てはいけない。最初に気がついたのはヒトミ。……彼女も女の子モンスターなのだから。

「わ、私は、かなみから ヒトミって子の事が気になって見に来たのよっ! ゆ、ユーリが変な事してるなら、止めなきゃいけないでしょ!!」
「し、志津香……落ち着いて」
「あっ、かなみお姉ちゃんっ! お姉ちゃんもお帰り~!」
「あ、ははは。ただいま~ ヒトミちゃん」

 ユーリに抱きつきながら、かなみにも笑みを見せた。

「え~っと、しづか……お姉ちゃんだね? よろしくねっ! しづかお姉ちゃんっ」
「えっ? きゃっ……」

 ヒトミは、志津香にぴょんと飛びついた。志津香はたたらを踏んだが……、ヒトミの事は問題なく受け止めた。彼女は小柄であり、比較的に軽い。不意打ち気味だったのだが、別段問題ないのだ。

「はは……。よろしくね? ヒトミちゃん」
「うんっ! あっ お姉ちゃん! 私とお揃いの帽子だね~? ひょっとして、お兄ちゃんのプレゼントなの?」
「ん? これは違うわよ。私、魔法使いだから、その装備。確かに似てるけど…… 含有魔力は感じないから、全く同じってわけじゃなさそうよ?」
「へー、そうなんだ。えへへへ~」

 ヒトミは、ぴとっ! と志津香の頬に自身の頬を摺り寄せた。
 志津香自身、小さなコの面倒を見る事は苦手としている訳ではない。四魔女にはミルだっていたから、逆に慣れている、と言っていい。だけど、ここまで好意的に抱きつかれたり、《お姉ちゃん》と呼ばれた事も無いから、やや恥ずかしそうだ。

 だけど、この後 更に恥ずかしい想いをしてしまう。

「……しづかお姉ちゃんも、お兄ちゃんのこと……だよねっ♪」
「っっ!!?」

 あっという間に、ヒトミに見抜いてしまったのだから。


 それは当然だろう、かなみもそうだが、志津香だって、十分すぎる程、わかり易いから。


 ひょんな事から、アイスの街に戻って来て、、色々と騒がしかったが。ヒトミにとっても新たな友達が出来て最終的には良かったと思えていたユーリだった。

























〜人物紹介〜


□ カーナ・オオサカ

Lv6/10
技能 無し

烈火鉱山の入口でいつも、恋人を待っている女の子。
山登りが好きで水泳が嫌いである為か、鉱夫の恋人が出来たらしい。
大切なコーンが今回の一軒で閉じ込められてしまった為、後からやってきたミリ達にお願いして連れて行ってもらっている。
……が、そのおかげでミリの餌食となってしまった(本人も満更ではないが)。
尚、トマトは、ある人一筋だし、参加していない。

後日、この一件が恋人であるコーンも知られるがミリは女性だからと、別に気にしていない様子だとの事。


□ コーン・マーガリン

カーナの恋人であり、烈火鉱山で働く鉱夫。
カーナ曰く「優しくて、働き者で私にはもったいない」とまで言わせるほど。
これから判るように彼女がベタ惚れだけなのである。


□ ミッチェル、ミカエル(オリ)、アントニー、ラインハルト

烈火鉱山で働く鉱夫。
同じ現場同士のつながりはそれなりにあるが、現場が離れてしまえばまるっきり関係ないと言わんばかりの連中。
基本的に金儲けしか考えてないから仕方ないとも言える。
最終的には、ラインハルトが逃げ出すのを見て、皆それに続いて逃げ帰った。


〜モンスター紹介〜


□ ちゃそば

主に迷宮や鉱山内部に発生するカエル型の独立種族。
こいつらが多くいたら、クイーンがいる可能性が高い為対処が必要である。
何故なら、優れた繁殖力で爆発的に増え続けるからだ。そのおかげで営業を中断させられる鉱山も多いから。

□ ちゃそばクイーン

大量にちゃそばの卵を産み落とすちゃそば界の頂点に君臨する巨大の雌ちゃそば。
大きさは普通のちゃそばのゆうに倍は超えており、重さに至っては比較にならない程。
このモンスターに一貫している攻撃手段がからだを丸く膨らませてのスーパー体当たりだから、この大きさのを喰らったらたまったものじゃない。

実は、ドラゴンがメインプレイヤーだった時代に生み出された第二世代モンスターだったりする。


 さらにさらに言えば……、このちゃそば、ちゃそばクイーンは、りめいく?作品では、クビになってたのはこちらの世界(・・・・・・)での話。




〜魔法・技術 紹介〜


□ 業火炎破

使用者 魔想 志津香

火爆破よりも広範囲に同威力の炎を飛ばす広域殲滅魔法。
ファイヤーレーザーと違って、複数仕留める事が出来るが、ある程度の溜め、詠唱が必要の為、連発は出来ないが効果はかなり期待できる。
炎属性:中級魔法に分類


□ 火丼の術

使用者 見当 かなみ

巻物を咥えて発動。広範囲を「丼」の形の炎で包み込む術。
 以前、リアから貰った火遁の術の巻物を果奈美独自の解釈で別物の術として完成させてしまったオリジナル忍術である。
因みに、これはユーリと出会う以前に完成させてしまった為であり、今の彼女であれば、正しく使いこなせると思えるのだが、それなりに高威力に昇華させた為、直そうとは思ってないとの事。
炎属性:忍術に分類


 
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