モラ
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第三章
「これからね」
「まあ服の仕立てもな」
「俺達出来るしな」
本業はあくまでホテルであるがだ。
「昔からこの店ちょくちょく手伝ってるしな」
「ガキの頃からな」
「だからそういうことも出来るからな」
「それなりに自信はあるさ」
「じゃあそれをか」
「今からか」
「やってもらうよ、じゃあ頼んだよ」
婆さんは至って明るい調子で二人に言った。
「これからね」
「それでどんな服なんだよ」
フランコが婆さんに尋ねた。
「スカートかい?それともブラウスかい?」
「モラだよ」
婆さんはフランコに一言で返した。
「それだよ」
「モラか」
「ああ、こっちの服だよ」
このサンブラス諸島のというのだ。
「クナ族のね」
「そうか、あの人達の服か」
「クナ族の服か」
「まああたし達もね」
クリオーニョの婆さんもメスティーソの二人もというのだ。
「昔からこっちに住んでてね」
「クナ族の血が入ってるからな」
「普通にな」
「そのことは否定出来ないしな」
「実際のことだしな」
「そうだろ、それであたしの親戚筋の娘がね」
そのクナ族のだ。
「きてね」
「モラを立ててくれ」
「そう言ったんだな」
「それでそうするんだけれど」
仕立てるというのだ、そのモラを。
「手伝ってもらうよ」
「モラか、ちょっとな」
「そういえば前に作ったな」
「じゃあやるか」
「知ってはいるしな」
「頼むよ、さっきも言ったけれど昼飯も出すしね」
婆さんは二人にこのことを言うことも忘れていなかった。
「頼んだよ」
「ああ、やるか」
「今からな」
こうしてだった、兄弟は婆さんの仕事を手伝いだした。そのモラを仕立てていると。
ルイスはフランコにだ、手を動かしながらこんなことを言った。
「しかいな」
「どうした、兄貴」
「モラってな」
彼等が仕立てているその服はというのだ。
「何度見ても面白いな」
「面白い、そうか?」
「ああ、アップリケや刺繍がな」
そうしたものがというのだ。
「面白いな」
「そうか、そういえばな」
「そうだろ、婆さんもモラだけれどな」
見ると婆さんもモラだ、そのモラは下は丈の長い緑のスカートでだ。ウミガメとココナッツの二つが小さく無数に飾られている。
上は黄色の地に緑や青、白の花のアップリケがある。そして頭には赤のバンダナを巻くのではなく被っている。
その服を見てだ、ルイスはまた言った。
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