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ピウピウ

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第一章

                 ピウピウ
 ニュージーランドを代表したオペラ歌手キリ=テ=カナワはイギリス系とニュージーランドに昔から住むマオリ族のハーフである。その二つの血が合わさった美貌でも知られていた。
 そのキリ=テ=カナワの出身国ニュージーランドのクライストチャーチに住むトーマス=マオイも同じだ。母はスコットランド系で父はマオリ族である。今は大学生である。
 しかしだ、彼はこう言うのだった。
「別に僕は歌は歌手じゃないよ」
「またキリ=テ=カナワか」
「あの人とは違うってんだな」
「男だし歌も下手」
「そう言うんだな」
「というかディムはね」
 キリ=テ=カナワは歌手としての業績を評価されてニュージーランドの宗主国イギリスから騎士の女性名称であるディムを授かっている。それで彼は彼女をこう呼んだのだ。
「美人さんだよね」
「ああ、流石にもう年齢だけれどな」
「それでも気品ある人だよ」
「現役時代の映像なんてな」
「もう貴婦人だからな」
「モーツァルトとかリヒャルト=シュトラウスの作品でもな」
「貴族って感じでな」
 それが彼女の容姿の特徴だった、気品溢れる美女だったのだ。
「歌い方といいな」
「落ち着いた感じで」
「ドミンゴにも引けを取らない位の風格もあって」
 プラシド=ドミンゴだ。二十世紀を代表するテノールだ。
「流石は我が国を代表するオペラ歌手だな」
「その人と比べたらか」
「御前はっていうんだな」
「ただの大学生だよ」
 一介の、というのだ。
「何の変わりもないね」
「そうだよな、けれどな」
「御前ディムと一緒でハーフだからな」
「白人とマオリ人の」
「それも一緒のカップリングのな」 
 父親がマオリ族で母親がイギリス系のというのだ。
「だからどうしてもな」
「よく比べられるな」
「音楽もやってるしな」
「歌が下手でも」
「僕はヴォーカルじゃないよ」
 そこは断るのだった、トーマス自身も。
「音楽っていってもバンドでね」
「ジャンルも違うし」
「歌が下手なんで楽器はドラム」
「ヴォーカルじゃなくてな」
「そうだよ、同じハーフでも全然違うし」
 彼はさらに言った。
「顔もね」
「あの人は貴婦人って感じでな」
「御前は何かな」
「女の子だよな」
「男だってのにな」
「それ言われるからね」
 トーマスはその容姿のことを少し苦笑いになって言った。
「顔立ちがね」
「背は一七七あってもな」
「髪は黒で腰まであってな」
 自然に伸ばしている、そのうえで後ろで束ねている。
「その髪もさらさらでな」
「マオリ族の感じでな」
「それで目は黒くてきらきらしてて」
「大きくてしかも睫毛は長くてな」
 それも女の子のそれの様にだ。
「眉は細くて奇麗なカーブで」
「肌はきめ細かい」
「で、白くて面長でな」
「鼻の形もすっきりしてて」
「唇は紅で小さくで」
「しかもすらりとした身体で声も可愛くてな」
 こうしたことが全て揃っていてなのだ。 
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