鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
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37.獅子身中
前書き
ノルエンデ復興計画報告書
新しい復興参加者が『1人』加わり、参加者人数が『87人』に増えました!
アンケートの意見で、『道具屋』と『防具屋』両方の開発を行うという意見が出ました。
ティズ「ええっと、今の復興参加者が『87人』で……既に役職に就いている人が『51人』だから、自由に動かせる人は『36人』か………」
エイナ「次の品、閃光魔帽の作成には『41人』の動員が必要だから、両方同時は無理みたいね……」
ティズ「安息香の開発なら『25人』だから足りるんだけど……段々と人数がシビアになってきたなぁ」
ティズは悩んでいるようだ。
意見を反映して安息香だけでも作成するか……
すこしでも参加者を集って閃光魔帽を先に作成するか……
或いは、二つとも作成できる人数になるまで粘り強く待つか……
ティズは悩んだ結果、もうすこしアンケートの様子を見ることにした。
= 先日 =
ステイタス――それは冒険者の能力を如実に表す数値。
そして、特殊技能たるスキルもまた、そのステイタスに文字として現れる。
ティズとアニエスがファミリア入りを正式に決めた日の夜、背中に神聖文字を刻まれた二人は、自らの主神となったヘスティアから説明を受けていた。(なお、アニエスは宗教上の理由もあってあくまでファミリア内の上下関係は曖昧になっている)
「ティズくんもアニエスちゃんも、ステイタスは初期値にしては高い。きっとティズくんは野良魔物との戦闘経験のおかげだろうね。アニエスちゃんも、部分的にはステイタスが高い。魔法を学んでいた関係だろうね」
ティズのステイタスは魔力以外がバランスよく高めだ。……とはいえ、それは最低ランクよりは高めというだけであり、能力値はFとG辺りを彷徨っている程度だ。同じくアニエスも、器用と魔力はEランクに届いているが他はまさに駆け出し冒険者に相応しい最低位だ。
「スタート地点が人よりちょっと早い程度だから過信は出来ないけれど、長所があるのはいいことだよ。自分に合った戦闘スタイルで戦うことが隙を減らすことにも繋がるだろうからね。それと……スキルも説明しておくよ」
君たちにもいくつかあるみたいだ、と苦笑いしながら、ヘスティアはさらっと説明した。
同時に、二人とも『レアスキル』だったために「他者にはバラさないように」と念を押した。
そう、二人に秘められた見たこともないレアスキルの一部を敢えて伏せたまま。
(うちのファミリアには……本当に想像を越える子ばかりやってくる……)
ファミリア達を送り出したヘスティアは、スキルの内容を思い出して盛大な溜息をついた。
ティズ・オーリアのスキル
『敵者誘遠』
・ダンジョンや敵地などの限定条件下で、敵対する人間及び魔物との偶発的遭遇率を操作できる。
・避けられない敵や、自分から接触する場合は効果はない。
・敵意を持たない相手には効果がない。
・????????
『希望一途』
・早熟する。
・希望を守ろうとする限り効果継続。
・希望の数が多いほどに効果が高まる。
『神界霊魂』
・????????
・????????
・????????
『主従契約』
・????????
・????????
・????????
アニエス・オブリージュのスキル
『祝風巫女』
・風の系統を司る魔法が強化される。
・早熟する。
・使命感などの意識の強さで効果が増減する。
『大特異点』
・????????
・????????
『聖人祈願』
・異世界の冒険者の力を借りることが出来る。
・媒介のペンダントが必要不可欠である。
・????????
「レアスキルのバーゲンセールだよ、まったく………しかも『?』って何さ、『?』って。神聖文字を以てしても理解不能って事!?」
スキルとして現れている筈のものが解析不能など、ヘスティアは聞いたこともない。というか、この世界の理を知り尽くした神でさえ解析不能というのがあり得ない。クリスタルの理に生きるアニエスならともかく、ティズは特に説明がつかない。
おまけに、スキルの名前がどれもこれも意味深すぎて嫌な予感しかしないのだ。
ティズには『希望一途』と『敵者誘遠』を説明し、他二つは口をつぐんだ。
『敵者誘遠』に関しても使い方を間違えないように『敵を遠ざけるためのもの』と念押しした。
アニエスには『祝風巫女』と、『聖人祈願』の一部だけを説明しておいた。それでも『聖人祈願』に関しては余りにも突拍子がなさ過ぎるので、使い方が分かるまで使用しないようにと念押しした。
だが、ここまで来ると流石のヘスティアも覚悟を極めなければいけない。
これだけ特殊な人間が一堂にこのヘスティア・ファミリアに入ったのは、間違いなく何かしらの時代の流れや運命がここに集積しているという事を意味しているのだ。神としての直感が、そう告げている。運命の女神が手を触れることを止めた濁流のように激しいうねりが、ここに注ぎ込まれようとしている。
「まるで台風の目だね………できればみんな平穏な暮らしを送って欲しいんだけどなぁ。せめてその荒波が押し寄せてくるまでは、ボクがその平穏を守らないとね!」
今日もヘスティアはバイトでお金を稼ぎつつ、家族の帰りを待ちわびる。
せめて、この日常が一日でも長く続きますように……と、願いながら。
= =
いまだ見たことのないキミたち。
どこにいるかもわからないキミたち。
ボクの声が、届いているかな?
もしも届いているなら……これから言う事をよく聞いて欲しい。
このメッセージは、異世界にいるかもしれないキミたちへ向けて送っているものなんだ。
『聖人祈願』によって現れる助っ人は、『異世界の誰か』……この世界の存在ではない。
そしてきっと助っ人になってくれる人というのは、どこかで生まれ、何かの為に戦い、人を助けるだけの正義感がある人だと思う。まぁ、これはボクの希望的観測だけどね。
たとえばある世界では魔法で空を飛んでビームを撃つかもしれない。
ある世界では神の力を振るう人間がいるかもしれない。
見たこともない機械を使って戦うかもしれないし、超能力と呼べる力を振るうかもしれない。
あるいは、非力で戦う事は出来ないけど、想いだけは誰にも負けないかもしれないね。
そんな、本来この世界に存在しないような存在でも、アニエスちゃんのペンダントを通して一瞬だけこちらの世界に力を貸すことが出来るんだ……と思う。推測だけで確かなことは言えないけどね。
……ええと、つまり何が言いたいのかというとだねぇ。
本当にもし万が一この声が届いていたらなんだけど、あの子たちに力を貸してくれないか?
ホント、こっちからは頼む事しか出来ないし、向こうにいるキミに返せるものなんて何もないんだけどさ………今じゃなくてもいい。いつかその時が来たらでいいから……助けてあげておくれ。
……本当にこのペンダントって異世界に声が届いてるのかなぁ?
まぁいいや、気休めでもやっておいたほうがいいし。
悪かったね、アニエスちゃん。呼び止めてさ。
= =
ヘスティア・ファミリアは変わった。
戦い方、メンバー構成、収入、生活スタイル、あらゆる面が変わった。
その変化の切っ掛けになった1人――ティズは、ベルとアイコンタクトを取って、同時に目の前の魔物――キラーアントの方へと突っ込んだ。
キラーアントは名前の通り蟻型の魔物で、硬い甲羅と凄まじい顎の力が相まって面倒な相手だ。
それまでの上層魔物と一線を画した手ごわさから、新米冒険者ほどこれに殺されやすい「新米殺し」だ。しかし、ティズは新米だがキラーアントとの戦い方は知っている。
ティズは剣を素早くキラーアントの触覚を斬り飛ばし、動きが緩んだ瞬間に横に回り込んでからの隙間を正確に剣の切先で貫いた。
「はぁぁぁぁぁッ!!」
「ギギギッ!?」
腹部に侵入した刃がキラーアントを瞬時に絶命させる。
触覚は虫と同様、魔物にとっても重要な器官らしい。だから触覚を斬ることでキラーアントは一時的なパニックに陥る。そして身体の甲羅に反して、触覚を斬るのはその的の小ささを度外視すれば容易な事だ。
ティズはその弱点を的確に突くことで、キラーアントを確実に仕留めていく。
時には複数のキラーアントをパニック状態にさせて同士討ちを誘い、その隙をついて更に魔物を仕留めるという技巧派の戦い方さえしてみせていた。
対し、ナイフの性能とぐんぐん伸びるステイタスを持ったベルは、速度任せに素早くキラーアントの攻撃を躱し、構造的に最も斬りやすい首元や腹の継ぎ目を一撃で斬り飛ばす。ティズよりもステイタスが高いが故に出来る芸当だ。
「次っ!!お前だ!!」
「ギイイイイイッ!?」
ダンジョン内を撥ねるように駆け回る姿はまるで兎だが、決して考え無しに動いている訳ではない能力的に劣るティズのカバーと撹乱を兼ねているのだ。そう、後方に控える『3人』が動きやすくなるように。
後方には――槍を構えたリングアベルと、杖を翳したアニエスの姿があった。
「虫相手には余り効果が望めませんが……エアロ!!」
アニエスが使える数少ない魔法のひとつ、烈風を巻き起こす『エアロ』がキラーアントを襲い、その動きが大きく鈍る。学術魔法の利点の一つ、詠唱破棄と自由度の高さによって、エアロは広範囲の敵の足止めを行っている。
その隙に――キラン!と目を光らせたリングアベルが槍を腰だめに深く引いた。
「なんとなくではあるが、こういう奥義も覚えているんだよな……クレセントムーンッ!!」
ダンッ!!と地面に深く踏み込み、遠心力と重量をたっぷり乗せた槍を横薙ぎに振るう。
長いリーチを活かした薙ぎ払いは、その破壊力を存分に発揮して複数のキラーアントを粉砕した。
周囲の魔物の全滅を確認したら、後は最後の一人の仕事が始まる。
いつの間にかパーティリーダーになっていたティズが声を上げた。
「よし、魔石を回収しよう!リリ、お願い!」
「皆さまお強~~い!!いやぁ、こんなに力強いパーティにご一緒出来るなんてサポーター冥利に尽きますぅ!!」
最後の一人――最近サポーターとして雇うことになった犬人族の冒険者、リリルカ・アーデだ。
彼女は今までベルたちが慢性的に困っていた事態を一気に解決に導いた。……その背に背負う大きすぎるほど巨大なバックパックによって。
「いやぁ、本当に助かるよリリ!……俺達では持って帰れる魔石やアイテムの量に限りがあるからな」
「いつもありがとうね!はいコレ、向こうに落ちてた魔石!」
「あ、ベル様ったら!拾うのはリリの仕事ですってばぁ~!!」
「あはは、まあいいじゃないか。皆で集めれば早く終わるんだし……苦労を分かち合えば、後の喜びも分かち合えるだろ?」
「ティズの言うとおりです。リリだけに負担をかける訳にはいきません」
「もう~……しょうがない雇い主さんですね?ティズさん!さっき切り落とした『虫の触覚』は調合アイテムとして売れるのでちゃんと回収しておいてください!」
リリは率先して物拾いを手伝うお人よしたちに苦笑いしながら、自分も荷物持ちの仕事を優先させた。
その内心に、捨てられない冒険者への侮蔑と、いくばくかの心地よさを感じながら。
後書き
ちなみに祝風だと本当は風を鎮める巫女なんですが、アニエスはどっちかというと起こす側です。
おまけ:もしもリリの魔法が背中の人だったら
「リリの切り札を見せる時が来たようですね……!!行きますよ、『TRANS-AM』!!」
その言葉を唱えた瞬間、なんとリリのバックパックの中から異様なまでにメカメカしいパーツが生えてきて、リリの肩より上に覆いかぶさるように展開されたではないか!しかもその巨大なユニットからは淡い赤の粒子が放出され、彼女の全身を覆っている!
「これがリリの本当の姿!戦争根絶のために戦うガンダムマイスターの切り札、リリエルガンダムです!!ちなみにこの身体も実は作り物で、本体は妖精です!!」
「うっそぉぉぉぉぉ~~~~!?!?」
「NG粒子最大出力!!吹き飛べぇぇぇーーーーッ!!」
対話(物理)。
(ガンダムOOシリーズより、ティエリア・アーデ操るセラフィムガンダムが元ネタ)
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