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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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九十一話 エントリー

 
前書き
どうもです!鳩麦です!

案外長くなってしまった。
しかしようやくBoB開幕までこぎつけました!

では、どうぞ! 

 
「サービスは良いけどよぉ……何だってこんなピーキーなもん渡すんだあのおっさん……」
「あははっ!それは確かにそうかも。でもほら。きっとリョウが使いこなせるって思うからくれたんだよおじさんも」
カラカラと笑いながら、アイリがリョウに返した。対し、リョウは苦笑しながら返す。

「だと良いがな」
リョウが話しているのは、アイリとようを済ませSteele arm を出る寸前にフリックが渡してきたある《サービス品》についてだった。

《六十九式脚部起動補助推進装置》

何故か日本語っぽい名前のこれは、足に取り付けておき、設定した音声ワードで起動。あらかじめ決めておいた角度に対し、爆発的な推進力を……まぁ所謂ブーストを行うという代物で、ジャンプの高さやスピードをサポートしてくれる便利ユニット……と、フリック本人は言っていたが、実際はどんなもんかは分からない。

まぁ確かに、ALOのようにプレイヤー本人の反応速度重視でダッシュのスピードを決めるのではなく、従来どうりAGIを基本にダッシュの速度を決めるこの世界に置いて、機動力はリョウの一番の不安材料だったのでジャンプだけでもありがたくはあるのだが……

「角度調整どうすっかね……」
「どうって?真下じゃないの?」
首をかしげたアイリに、リョウは苦笑しながら答える。

「ジャンプにも色々あんだよ。ま、詳しくはそのうちな。で……メインアームは戦闘直前に付けた方が良いんだっけか?」
「あ、うん。戦闘開始前に60秒の準備時間が──」
そんなことを話しながら歩いて行く二人の眼前には、ひときわ大きな構造物が見え始めていた……。

────

GGOにおける、イベントへのエントリーやゲームに関する手続きもろもろの諸事項は、全て総督府と呼ばれるゲーム内施設に置いて行われる。

SBCグロッケンの、新参者《ニュービー》達が初めに訪れる場所、《メモリアルホール》から見て、街の丁度反対側にその施設はある。
通称、《ブリッジ》。《橋》では無く、戦艦や空母における頭脳部であり、司令部である、《艦橋》を意味する言葉だ。
これはそもそも、グロッケンがSBC……すなわち宇宙戦闘巡洋艦《スペース・バトル・クルーザー》であった頃の名残として残されている名で、この街が異常に縦に長いのはそのためである。まぁ勿論、設定上の話なので実際のところは普通に《総督府》で構わないのだが。

その、総督府に入ってすぐ。円形の巨大ドームの端に、大会エントリー用の長方形型の立方体コンソールがあった。丁度、コンビニにあるATMやコンテンツペンだーを兼ねた街コンソールに近い形だ。
タッチパネル式らしいそれの前に立つと、リョウが聞いた。

「これに、打つのか?」
「そうそう。何か分からなかったら言って?私、隣でやってるから」
「おう、助かる」
そう言って、離れたアイリを横目に、リョウは目の前のコンソールに向き直る。

「えーと……?」
メニュー画面をスクロールしていくとすぐに、バレッド・オブ・バレッツ予選エントリーのロゴを見つける。タッチ。すると即座に、各種入力事項の画面に移行した。

「えー、名前……職業…………職業だぁ?」
はて、GGOに職業《ジョブ》性は無かった筈ではなかったか?確かに戦闘スタイルによって狙撃手《スナイパー》や運び屋(キャリー)等と言った呼称が有るなどと言うような事はwi●iで見たが……

「って……リアかよ……」
驚いた所で、ようやく一番上にある表示が目に付いた。曰く【以下のフォームには、現実世界におけるプレイヤー本人の氏名や住所などを入力してください。空欄や虚偽データでもイベントへの参加は可能ですが、上位入賞プライズを受け取ることはできません】だそうだ。

「む、ぅ……」
一瞬だけゲーマーとしての心がリョウの内心を揺らがせた。此処で入力したい。何しろそう言ったイベントで上位に入賞してもらえるものと言えば、それこそ優勝でもしようものならゲーム内では基本手に入らない超レア装備だったりする訳だ。だが……

「否……!」
ここはぐっとこらえる。どちらにせよこの調査が終われば自分はこのゲームからまた再コンバートするのだ。もらっても意味が無いと言う物だろう。

「っつーか、これ、誰か後ろから見てたりしたらバレバレじゃねぇ?」
まぁ流石に真後ろに誰か経っていたら丸わかりだし、だからと言って望遠鏡やらなんやら使ったらそれこそアカBAN物なのでそれは無いだろうが……

と、そうおもった。直後

「ったく……っ……!」
何となく周りに気を増した直後に、リョウはうなじが電撃で刺激されるような感覚を覚え、身を固くした。

『こりゃあ……見られてんのか……?何処から……?俺を……?それとも……』
思いながら、それはあり得ない筈だと思い直す。何故ならある一定以上の距離からこのコンソールは見えないようになっている筈だし、さっきも言ったが街中で……ましてこんな場所で望遠鏡など使おうものなら間違いなく誰かに見つかり、マナー云々の問題もあってアカウントをそれこそ消されかねないからだ。だが……

『なんだ、なんだよ、何なんですかってんだ、ったく……』
矢張り、此方を見ている気配と言うか……そんな何かを、リョウの勘が告げている。控えめだが……確かに此方を見ている……気がする……

『……』

スキル、《聞き耳》起動。

街中でこれを使うのはマナー違反であり不本意だが仕方ない……
一気に範囲を広げ、ホール全体の音が轟音となってリョウの聴覚を揺らす……

『くそ……』
しかし、余りにも周囲にある音が多すぎる。
雑踏の音や、話し声、天井に表示されているBoBのデモ映像等の音がうるさく耳に入ってくるだけで、とても気配を殺していそうな音を聞き分けられない……

『しょうがねぇ……』
「リョウ!終わった!?」
「ん!?あ、あぁ。おう」
結局、リョウは一つも事項を入力することなく、SUBMITのボタンを押した。すると、エントリー受付完了の旨と、予選一回戦の時間が表示される。
日付は今日、一時間後。ブロックは……

「リョウはブロックどこだった?私は、Cの22番!」
「ん?あー、おっ、別ブロックだなEの17だとさ」
言うと、アイリは嬉しそうにその顔にぱっと笑顔を咲かせる。

「よかった!なら一緒に本戦に上がれるね!」
さも当たり前のように言う彼女に、リョウは思わず苦笑する。

「おいおい、まだ予選始まってもねぇんだぜ?」
そう言うと、アイリは悪戯っぽく微笑み、首をかしげる。

「あれ?負ける気なの?」
「あぁ?冗談か?」
ニヤリと笑って返してやると、アイリもまた、楽しそうにコロコロと笑った。
しかし笑いながら、リョウはのどの奥に魚の小骨が引っ掛かった時のような、ほんの少しの息苦しさと、ピリピリとした痛みを感じている。

『こいつの情報も……もしかすっと……』
重い違いである事を祈るばかりだが……しかし……

『めんどくせぇ……』
なんとも言えない不快感がうなじを刺激し続けリョウは内心舌打ちする。
エレベーターに乗ると、即座にアイリがボタンを押す。ゴウン……と低い音を立てて下降し始める鉄の箱に乗りながら、リョウは内心思った。

『せめて見られたのがアバターだけなら良いがな……』
確信はない……否、もっと言うなら、自分の自意識過剰ならばむしろその方が良いくらいだ。だが……

『なーんかおっかねえのに狙われるみてえな……あー、ヤダヤダ』
辟易とした気分の彼を乗せながら、エレベーターは下へ下へと下り続ける。目指すは……地下二十階。

――――

ポーンと言う音と同時に、扉がガラッと音を立てて開く。
その向こうに広がる暗闇から、ピリピリとしたPvP《対人戦》特有の空気が薄く漂ってきて、リョウはそれまでの不快感を忘れて思わずニヤリと笑った。

広さは一階のホールとそうは変わらない半球型のドームだ。しかしあちらと比べるとかなり暗く、照明は精々そこら辺にある金網に覆われたアーク灯が適当な光を薄暗いオレンジ色の光を放っている程度だ。
壁際には無骨な鋼鉄の机が並び、それらに囲まれるように中央には巨大な多面型ホロパネルが天頂に設置されている。
低いメタル型のBGMが良い感じに重々しい雰囲気を増長させ……

「リョウ、緊張してる?」
突然、隣からこの空間には水と油位にミスマッチな少女らしい高さの少し心配したような声が聞こえた。
聞こえたらしく、誰かが嘲笑したのが聞こえたが、特に気にせずリョウはかえす。

「あぁ。かなり」
ニヤリと笑いながら言ったリョウに、ふふっ、と小さく笑った後、アイリは歩き出した。

既にそれぞれミリタリージャケット等を身に付けているリョウ達二人は、アイリにリョウが続く形でスタスタと歩く。

「ん〜……」
「おーい……」
アイリは何やら人を探している様子で、キョロキョロと辺りを見回しながらテクテクと人の間を縫うように歩いて行く。と……

「へぇ……」
ふとあることに気付いてリョウは関心したように小さく呟いた。

周囲から向けられてくる異常なほどに相手の情報を得ようとするような観察眼が、自分と比べ、前を歩く小柄な少女に対してかなり強く向けられて居るのだ。

もはやそれは観察眼を通り越して強い戦意を感じさせるそれで、中には膝の上の銃から、威嚇するようにわざと音を立てて排莢する者まで居る。まあ……

『それやってる時点でなぁ……』
それをしている男は詰まるところこの時点でメインアームないしサブアームを見せつけて居ることになるわけで、先程アイリから聞いた話からも分かるとおり、わざわざ自分の情報を相手に与えている事になる。

これは彼のそれがミスリードでない限り、おそらく彼の精神状態が浮ついて居る事を示している訳であり、また他の連中に関してもそれ程警戒する必要も無かろうとリョウは踏んでいた。

相手から異常なほど情報を得ようとするこれらの視線は、少し極端だが突き詰めて見れば、彼らが“そんな”情報に頼ろうとする程大会に対して内心緊迫していることを示しているとも取れる。
“そんな”と言うのはまあ……無駄だと言う意味だ。ベテランならば基本的にアイリの言う通り、外見だけで対策出来るようなへまはそもそも踏む訳が無いのだから。

『やれやれ……』
溜め息が出そうになるのを抑えつつ、リョウはアイリの後ろに続く。と……

「あ!」
目的の人物を見つけたらしいアイリが、タタタッ!と駆け足で何者かに近寄って行く。小走りでそれを追ったリョウの目の前で……

「シ〜〜ノ〜〜」
彼女は自分に背を向けて座る。水色の髪の誰かに……

「ノンッ!!」
「きゃぁっ!!?」
嬉しそうに抱きついた。

「おーいおい……」
何やら面倒な事になりそうな感じがして、嫌そうな顔をしながらリョウはアイリに近付く。と……

「あれ?兄貴?」
「あン?」
その水色髪の目の前、向かい側の位置に、見慣れ……てはいないものの見知った顔が居た。

「キリトじゃねぇか。お前もエントリー出来たみてぇだな。なによりだ」
「そっちこそ。ブロックは?俺、Fだけど……」
「おれはEだ。予選で当たるってのはとりあえずなさそうだな。で……」
リョウはキリトにニヤリと笑ってそう言うと、いまだに水色の髪の……恐らくは少女であろう人物に後ろから抱きついているアイリを見る。

「ちょっ……と……!アイリ……離れなさいってば……!」
「うーん、どうしよっかな~」
「何やってんだお前は」
「いたっ!?」
水色がブンブンと背中のアイリを振りまわすものの中々離れないため、リョウは彼女の頭に凸ピンを飛ばす。どうでもいいが、この場の雰囲気と余りにも合わなくて最早清々しいくらいだ。

ようやく離れたアイリに、水色髪の少女が言った。

「はぁ……アイリ、急に飛びつかないで」
「はーい!」
「…………」
「…………」
少女はあきれたようなジト目で、アイリはニコニコと屈託のない笑顔で、互いに向き合っている。

『あー……』
賭けても良い。次に同じ事が有れば間違いなく彼女はまた飛び付くだろう。
誰かリョウと逆に賭ける物は居るだろうか?まあリョウは賭けは強いが……

閑話休題(それはともかく)

シノノンと呼ばれた水色の少女にニコニコと笑いかけていた彼女はふとしたように、キリトの方へ視線を向けた。

「そう言えばその子は……?ハッ!?シノノン、遂に友達作る気になったの!?」
「はぁ?お前もう女引っ掛けてんのかよ!?」
「ち、違う違う!!」
アイリの言葉に反応してキリトに半ば怒鳴るように言ったリョウに、本人は首をブンブン振って否定する。
その様子をみて、シノノンがふんっと鼻を鳴らした。

「そうよ。コイツと友達なんて、冗談でもやめて」
「そ、其処まで言わなくても……」
「えー……?」
言われて落ち込んだようにキリトが肩を落としうなだれる。と同時に、何故かアイリまでがっかりしたようにシノノンを見る。
それらをサラリと無視しながら、シノノンは続けた。

「それに多分勘違いしてると思うから言っておくけど……コイツ、男よ」
「へ……」
シノノンの言葉に、アイリは唖然としたように口をポカーンと開ける。

「あはは……いや〜、どもども……」
お前は何で愛想笑いしながらペコペコ頭下げるんだ。しかもシノノンは何か半ギレな感じでキリトを睨んで……

『あー……』
キリトとシノノンの間に何があったのか、不意にリョウは分かりかけた。その時だった。

「え〜〜っ!?その人もなの!?」
「……“も”?」
アイリの言葉が複数形なのが気になったのだろう。一瞬首を傾げたシノノンはしかしすぐに気付いたようで、自然と視線をアイリとは別の場所へ視線を向ける。
そこにいたのは赤毛のショートカットによく似合うデザートカラーの防弾ジャケットを着て、快活そうな顔をした年上の女性……否、アイリの言うとおりならばこの人物は……

シノノンの視線に気づいたのか、赤毛のその人物が此方を向く。

「あぁ、言っといた方が良いな……俺は男だ。どうにも家の身内が迷惑かけたみてえで、すまねえな……まぁ、よろしく頼むぜ。シノノンさん」
ニヤリと笑ってそう言った。
どういう訳か、その笑い方に見覚えがあるような気がした。

一瞬そちらの感覚に気をとられたが、気のせいだと思い直し、彼女は少し不機嫌そうな顔で返す。

「今から大会なんだしよろしくするつもりも無いけど。一応名乗っておく。“シノン”よ。シノノンじゃないわ」
「ありゃ、そうなのか?」
「白々しい……」
今気付いた。と言わんばかりに首を傾げた男を、シノノン改めシノンは猫科の動物を思わせるその藍色の瞳で鋭く睨みつける。
ホールドアップするかのように両手を上げてプラプラと手のひらを振りながら、ニヤリと笑って男は言った。

「っはは。悪ぃ悪ぃ、そう睨むなって。俺はリョウコウだ。リョウとでも呼んでくれや、改めて宜しく頼むぜ“シノン”」
「っ……」
一瞬だけ、彼女は息を詰まらせた。ずけずけと名前を呼ばれたことに不快感を被ったから……ではない。
そのアバターの名前に、聞き覚えがあったからだ。

「……」
しかし、即座にその思考を振り切る。今目の前に居る男はこれからの大会で敵になるかもしれぬ相手だ。
仮に本人であったとしても、そんな思考は戦いの邪魔になる。
再び一つ息を吐くと、シノンは先程と同じくそっけなく答えた。

「……よろしくする気は無いって言ったでしょ。私の名前は……自分を殺すかも知れない相手だと思って覚えておく事ね」
「へぇ……殺す、ね……」
一見子供っぽく聞こえる、余りにも直線的で単純なその言葉。
しかして、彼女が決して冗談や格好つけでそれを言って居るわけではないことは、彼女がそう言った瞬間発された濃密な殺気から十分に理解出来た。
このフロアに来てから少しずつ感じていた感覚。久々のPvPに対する高揚感と、自分の中にあるスイッチの切り替わり。
彼女の言葉が、益々自分の中のそれを加速させてくれる。

まったく……そんな風に挑発されてしまっては、例え自分が戦闘狂のように熱くなりやすいたちでなくても、やはりワクワクしてしまうではないか……

「そいつぁ楽しみだ」
気がつけば彼は、普段の彼と比べても余りにも恐ろしげな笑みを浮かべていて、正面から向き合ったシノンが背筋が凍り付くような悪寒に襲われたことにも、隣にいたアイリの顔が強張ったのにも、キリトが苦笑しながらも冷や汗を流した事にも気付かなかった。

――――

「……ネカマじゃねえか」
「ちょっ!?兄貴それは酷いだろ!?」
「してる事はまさしくそうでしょ」
「いやだから悪かったって……」
キリトをはさんで、シノンとリョウが口々に彼を責め立てていた。
原因は単純。キリトとシノンが一緒に居る理由と、何故かやたらシノンがキリトにキレ気味な態度を取る理由をリョウが訪ねたからだ。
結論から言うと、シノンのキレようも無理はない事情だった。キリトは自分の容姿からシノンが自分を女だと勘違いしたのを良い事に、彼女にそのまま街の案内や、買い物のアドバイスをさせたのだ。

いくら勘違いしたのが彼女の方だとは言え、流石に怒られても文句は言えない。
ちなみにアイリは爆笑をこらえるように必死に口を押さえて体をくの字にしてぴくぴくと震え、話せそうにない。何やらつぼったらしい。
そしてその隣には……

「しゅ、シュピーゲルさん!助けてくれないか!!?」
「え、えぇーと、僕に言われても困ると言うか……正直、僕もシノンが怒るのは正当だと思います」
「当然よ」
「通理だな」
「うぐ……」
銀髪を流す感じに伸ばし、背の高い軽装のプレイヤーがそこに居た。
彼は名をシュピーゲルと言う。シノンとアイリの知り合いで、アイリ曰く、シノンはリアルでも知り合いらしい。
なお、何やらシノンとあるのか、少々キリトに警戒の色を含んだ視線を向けているが、安心しろと言いたいところだ。こいつはもう嫁まで決定しているようなものだし。

と、そんなことを話していた時だった。

それまで流れていた重々しいメタルのBGMが急速にフェードアウトし、代わりに荒々しく、猛々しいエレキギターのファンファーレが鳴り響いた。プレイヤー達が一斉に天井の巨大スクリーンに目を向ける中、女性タイプの合成音声の声が響く。

『大変長らくお待たせいたしました。只今より、第三回バレッド・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始いたします。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りいたします』


歓声と、拍手が鳴り響き、天井に向かって銃撃とレーザーが巻き起こる。音の嵐の中で、リョウはキリトに言った。

「負けんなよ?」
「あぁ、やってやるさ」
「ふぅーん……」
その様子を、シノンが腕を組んで立ちあがり眺めていた。明らかにキリトを睨んでいる。

「なら、決勝まで上がってくるのね。その頭すっ飛ばしてやるから」
シノンとキリトは互いにFブロック。それも決勝で当たる取り合わせだ。睨んだ視線に、キリトはさらりと返す。

「デートのお招きとあらば、参上しない訳にはいかないな」
「こっ、この……!」
「なーに格好付けてんだか」
顔を紅潮させたシノンと、二ヤッと笑うキリトの間に、アイリが割って入った。

「けーんかしないの!でも……シノンとキリトが上がってくるなら、皆で本戦だね!」
さも当然そうにいったアイリに周囲から一斉に睨みつけるような視線が飛んだが、彼女は気にした様子も無い。気づいていないだけか、あるいは取るに足らぬと言う意思の表れか……

「ま、そうなるか。そん時は、ま、良い勝負を期待するぜ御二人さん」
「……あぁ!」
「本戦じゃ気付いた時にはもう終ってるわよ。私が相手ならね」
「そりゃこえぇ」
ニヤリと笑うリョウを、警戒するようにシノンが睨みつけた。

そうして、40秒あったカウントがゼロになり、四人は光に包まれた。

────

少年は思う。
今日出会った少女の発した、濃密な殺気の意味と、その奥に垣間見えた人恋しさのような気配の、どちらが本当な彼女であるのかと。

一つの、顔も、名も知らぬある人物の気配を感じ取るために。
《死銃》へと辿りつくために。

────

少女は思う。
今日出会った一人の青年の事を。愉快で、型破りな、一風変わった男の事を。
良い友人に慣れればと思う。しかし彼の中に、自分の知る、靄のかかった別の青年の姿が見える。

否。たとえ彼があの姿の向こうにあったとしても、自分のすべきことは変わらぬと、彼女は自らの気合いを入れ直す。
友として、楽しき時を刻めることを、彼女は心から望んでいるから。

────

少女は思う。
今日出会った二人の男と、自分の友人を豪語する一人の少女の事を。

自らの上に立つ強者たちを、全てなぎ倒す。自らの記憶を、過去に埋めるために。
彼女の目的は、揺らいではいない。
そして彼ら三人の全てが、強者であることを、彼女は直感で理解している。

──ならば、撃滅するのみ──

三人の……そして自分に凄まじい悪寒と、恐怖を感じさせた男の顔を思い浮かべながら、彼女は瞳の奥に藍色の光を宿らせる。

────

青年は思う。
今日出会った二人の少女と、弟の事を。

これから、彼らや、幾多の敵の中に飛び込み、弾丸を交える。
そう思うだけで、自らの中の、普段とは違うスイッチが点滅を始める。

かつて、いくつもの者たちを葬った自らの力が、この猛者どもの前でどれだけ通用するか……高揚が高まる。

「久々だ……」

────

硝煙と、鉄の匂いの充満する世界。
存在するルールは、唯一つ。“殺るか殺られるか”のシンプルな世界。

その中で、四人の少年少女はそれぞれの武器を、各々の場所に構える。

小銃が、拳銃が、狙撃銃が、光剣が、鉄と機械の唸りを上げて、彼等の手と腰に収まった。

誰かが言った。

「イッツ・ショウ・タイム」

BoB(バレッド・オブ・バレッツ)
予選第一回戦 試合開始
 
 

 
後書き
はい!!いかがでしたか!?

シノンと仲ワリイw

ちなみに、リョウは別に戦闘狂ではないです。確かにPvPは嫌いではありませんが、何も自分からやたらやりたくなるほどではないです。
さて、次回は一回戦!

記念すべき一人目の犠牲……ゲフンゲフン……対戦相手との試合を、どうぞお楽しみに!

ではっ! 
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