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俺と乞食とその他諸々の日常

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三十四話:答えと日常

「お買い上げありがとうございました」
「今月の出費が……いや、祭りみたいなものだから仕方ないよな、うん」

 少し軽くなったサイフに虚しさを感じながら1年B組のスポーツバーから出て行く俺。
 次にどこに行こうかと考えて取りあえずジークとエルスと合流しようと思いどこにいるのかとメールを送ると返事はすぐに帰って来た。

「ヴィヴィオちゃん達のクラス……4年A組か」

 案内図に従い東棟2階へと足を運ぶ。しかし名門だけあって設備がどれをとっても立派だ。
 俺の学校もこんな感じだったらもっと楽しかったのにな。
 まあ、バカ騒ぎはやれそうにないから俺には合わないだろうがな。
 そんな事を考えているといつの間にか目的地に到着していた。

『ようこそ、いらっしゃいませ』
「これはまたファンタジーな喫茶店だな」

 フワフワと宙に浮かぶ大量のウサギのぬいぐるみに出迎えられて思わずそう口走る。
 一瞬全部クリスのようなデバイスかと思ったが多分ゴーレム操作の一部なんだろうな。
 と、なるとコロナちゃんが一枚かんでそうだな。

「いらっしゃいませ~。あ、リヒターさん! 来てくれたんですか」
「頑張っているな、ヴィヴィオちゃん。それにリオちゃんにコロナちゃんも」
『ありがとうございます』

 ぬいぐるみに案内された先に居たのは可愛らしいメイド服に身を包んだ仲良し三人組だった。
 そう言えばこうして顔を合わせるのはヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんの試合の時以来か。
 随分と久しぶりのような気がするな。

「今日はお一人ですか?」
「ジークとエルスと待ち合わせをしているんだが、居るかい?」
「はい、あちらの方に」

 三人の指さす方を見てみると手を振っているジークとエルスの姿があった。
 三人にお礼を言ってジークとエルスの元に行く。

「すまないな、待たせたか?」
「いやー、(ウチ)らも楽しんどったから別にええよー」
「こういうところはちゃんとしているんですね」
「エルス、開口一番にそれは酷くないか」

 笑顔で対応してくれるジークと反対に失礼な台詞をノータイムで投げかけてくるエルス。
 俺が何をしたと言うんだ。
 それに俺だった女性を待たすのは良くないということぐらい知っている。

「それにしてもリヒターさんが一人で行動するなんて珍しいですね」
「そうか? 別にそれぐらいあるだろう」
「うん、(ウチ)もそう思うわ。……いっつも女の子と一緒におってホンマに」

 何故か訝しげな目線を向けられる俺。
 おまけにジークはブツブツと呟き始めている。
 若干黒いオーラを纏っているのは気のせいだと思いたい。
 そんな中リオちゃんが注文を取りに来た勇気は素直に賞賛したい。

「アップルジュースを頼むよ、リオちゃん。それと一番一緒に居るのは間違いなくお前だと思うぞ、ジーク」
「そういう問題やないんよ」
「そう言われてもな……。そう言えば、格闘技ファンの子からお前のサインをねだられたんだが、書いてやってくれないか」
「う、(ウチ)のサインなんてそないな価値ないよ」

 案の定と言うべきか恐縮というか恥ずかしがって手をブンブンと振るジーク。
 これでさっきの話の流れも断てただろうな。そう考えていた時期が俺にもあった。

「そのファンの子というのはいつ会ったんですか?」
「ん、ついさっきアインハルトちゃんの出し物を見に行った時だが」
「女の子ですね」
「確かにそうだが、なぜ確信をもっている…ん…だ」

 エルスの問いにそこまで言って自分の失態に気づく。だがもう既に遅い。
 若干じゃすまなくなった黒いオーラを纏うジークが目に映った。
 あ、これダメなやつだな。

「ふーん。ハルにゃんのとこでかー。(ウチ)に用があるって言っとったのはそのせいかー。しかも、また女の子と出会ったんやね」
「……いや、そのだな。俺はただ単に頼まれただけで」
(ウチ)よりもハルにゃんに会う方が大事なんやね。しかもそのついでに新しい子にフラグを立てるなんて大忙しいやね」
「あれは、行かないとやばそうだったん…だ……」
「ふーん?」

 ジト目で睨みつけてくるジーク。
 エルスに助けを求めるように目を向けるが知らん顔で別の席に移動していた。
 誰でもいいから助けてくれと周りに目線を投げかけるが修羅場だと思っているのか目を輝かせている女の子達としか目が合わない。
 子どもが修羅場に憧れるものじゃない。今すぐ俺を救出してください。

「まあ、ええわ」
「なに?」

 驚いたことにジークは軽く溜息を吐くと俺を無視してジュースをすすり始めた。
 周りの視線が早く謝れと俺に突き刺さる。
 正直に言って物凄く居心地が悪い。

「その…だな、ジーク」
「いいんちょ、他のクラスの出し物見に行こうや」
「そうですね」
「分かった! 謝る! 謝るから待ってくれ!」

 ツンとした態度で立ち上がるジークの手を掴んで引き止める。
 傍から見たらどうしようもなく情けない男に見えるが背に腹は代えられない。

「悪かった。妹よりもお前を優先するべきだった」
「うん」
「そのだ……お詫びとして今度美味い物でも食べに行かないか?」
「……そこまで言うなら許してあげてもえーよ」

 何とか許して貰えたのか再び席に着くジークに胸を撫で下ろす。
 それにしても、今日のジークはいつもと違っていたような……。
 まさか、嫌われたとでもいうのか!?

(おおきにや、いいんちょ! いいんちょの『押して駄目なら引いてみろ作戦』大成功や! これで休日はデートや!)
(ありがとうございます。でもチャンピオンの演技も素晴らしかったですよ。恐らく今のリヒターさんの頭の中では『あれ? 俺もしかして嫌われた!?』という不安が襲っているはずです)

 ば、バカな。あの単純思考のジークが養い主である俺を嫌うなどあるのか?
 いや、あいつはその気になればヴィクターの所に転がり込める。
 というか、何もしなくてもヴィクターが連れて行きそうだ。
 何とかして阻止しなければ……いや、待て。どうして俺は阻止するなんて考えているんだ。
 あいつが家から居なくなっても別に何の問題は無いはずだ。

(おお、ホンマに悩んどる。なんかこんなリヒターを見るのは新鮮やな)
(普段人をからかっているのですから偶にはこのぐらいは悩んでもらわないといけませんよね)

 寧ろ食費が浮いて生活がより楽になるはずだ。
 ……何だ良いこと尽くめじゃないか。
 そう結論づけることは容易いのにどうしてジークの顔を見るたびに心が締め付けられるように痛くなるんだろうか。

(……なぁ、いいんちょ。想像以上に苦しんどるように見えるんやけど、やりすぎたんちゃう?)
(わ、私に言われましても……やったのはチャンピオンですし)
(提案したのはいいんちょやろ!)
(私に何かリヒターさんを振り向かせるいい方法がないかを聞いてきたのはチャンピオンでしょう!)

 思えば行き倒れていたのを拾った時からあいつの正体には気づいていた。
 ご先祖様の仇であるエレミアの子孫。
 別にご先祖様も恨んでもないし、俺も仇を討とうなんて欠片も思っていない。
 ただ……あの青い目が怖かった。
 リッドと同じように純粋な殺意を持って見てくるんじゃないかと怖かった。
 あの鉄腕が俺の心臓を貫いてくるんじゃないかと怖かった。

(な、なんか遠い眼をして(ウチ)を見つめ始めたんやけど、どういうことなん!?)
(そんなこと私に言われても分かりませんよ!)
(謝るからいつものリヒターに戻ってーや!)

 でも、そんなものは俺の杞憂だった。
 ジークは戦闘以外はからっきしの手のかかる奴だった。
 因縁すらある相手なのに何故か世話を焼いてしまった。
 勝手に懐かれたなんて言ったが俺にも原因がある。
 ついつい甘やかしてしまったのは嫌われたくないからだ。
 最初は怖かった青色の瞳が好きになったのは気づいたら見つめていたからだ。

「ジーク」
「ひゃ、ひゃい!」
「……何を噛んでいるんだ?」
「う、うぅぅ……」

 短い返事であるにもかかわらず舌を噛んでしまい軽く涙目になるジークに柔らかな笑みを浮かべる。
 それに気づいて馬鹿にされたと思ったのか今度は頬を膨らませるジーク。
 相も変わらず戦闘以外はからっきしだな。でも、それでこそジークだ。

「その服似合っているぞ」
「へ? お、おおきに」
「ああ、凄く可愛いぞ」

 突如褒められたことに目を白黒させ顔を真っ赤にするジーク。
 そんな様子に再び笑いながら心の中で呟く。
 答えは初めから得ていた。後は……俺の心次第だ。




「あの……私の存在忘れていませんか?」

 頼んだアップルジュースを手に持ったリオちゃんが居心地が悪そうにそう呟くのだった。
 
 

 
後書き
そろそろ原作に追いつきそうなので一応のENDを作ろうかなと思っての今回です。
次々回からオリジナル展開に入ると思います。

そして今回はおまけというかいつになるかは分からない予告みたいなものをします。


「リヒター! なんかすんごいゲームが出たらしいんやってー!」
「お前は人に飛びつきながら話すな、ジーク。それで何なんだ、そのゲームは?」
「うん『BRAVE DUEL(ブレイブ・デュエル)!』」

「ようこそ、八神堂へー!」
「うちはベルカスタイルのオーナーやで」
「ジーク、ベルカスタイルにしよう」(アインスのおっぱいを見ながら)
(ウチ)もベルカの方がええけどどこ見て言っとるん!?」

「君達が私の後輩か。うんうん、楽しくなりそうだ」
「ミカさん、よろしくな」
「このチーム近距離しか居なくないか? いや、ジークがオールラウンダーか」

「ふ、またつまらぬものを斬ってしまった」
「女の子の服ばっか斬るのやめーや!」
「ほほう、リヒターくんやるやないか」
「主も感心しないで下さい」

「うそ! あの距離からなのはの砲撃を避けた!?」
「俺には君たちみたいな属性はないが最強の目があるんだ」
「かっこつけているけど今のはまぐれだから気にしなくていいよ」

「あはははは! 踊ろう! 死の舞踏を! さあ―――死ぬまで踊り狂おうではないかッ!!」
「にゃはは……あの人凄いね」
「ホント、ゲームっていうより戦場で戦ってるみたい」
(……言えない。あれが自分の姉だなんて言えない)
「ぬ、我が弟ではないか。姉の応援に来たのか?」
「ワァーーーッ!」

「リヒター・ニョーマンってのに会いに来たんだけど、どこ?」
「……ノーマンだ」
「ニョーマン…ぷぷっ! あははっ!」
「ミカさん笑いすぎ!」

「王様は料理が得意だな。家の姉とは大違いだ」
「お前が作るのだから問題なかろう」
「うぬ……意外と苦労しておるのだな」
「言うな……」

「唸れ双牙、鳴り響くは悪しき者の断末魔―――グレンジェンダ・スチュアート!」
「頑張れ、リヒター!」
「これが終わったら王様のカレーを食べるんだ」
「勝手にフラグ立てんといてレヴィ!」



【俺と乞食とその他諸々のイノセントな日常】


完結したら書く予定です。 
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