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少女の黒歴史を乱すは人外(ブルーチェ)

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第六話:嵐の前の、長い静寂

 
前書き
この話で、プロローグ部分は終わりです。
次から原作と同時間軸の、本編に入っていきます。


……原作と比べなくても、主人公が見た目から全然違いますし、性格だって原作の主人公である『英二』と本編主人公である『麟斗』では、これからかなり違いが出てきます。


向こうの『英二』は、ツンデレ気味で舞子コンプレックス(略してマイコン)、且つ嫌がりながらも「やれやれだぜ」といいながら女の我がままを聞いちゃう、ラブコメにふさわしい……のかどうかは疑問ですが、普通にラノベな主人公です。

……が、こっちの『麟斗』は、考え方から雰囲気から違う上に、良くも悪くも普通(?)の感性をもっているので、やり過ぎな言動にはそれ相応で返し、わがままも無言で放置すると言った羽目になりそうです。
……ラブコメディ―じゃないよそれ……。


そして話の流れも、謎の激痛の事もあるので、二次創作なので当たり前ですけど、原作通りとはいかないでしょうが……。


では、本編をどうぞ。 

 
 
 あの身体の痛みから始まった、味覚や嗅覚の異変から早くも半年近く経った。


 無事に高校入学試験も突破し、小うるさい教師を撥ね退けて漸く少しは平穏を手に入れられる。少なくとも、俺はそう思っていた。
 だが……現実は非情だ。


 俺に襲いかかった不運を大きく分けるなら、まず一つ目は高校の選択を間違えた事にあるだろう。


 自分の身の丈に合った物だけを選べば最後まで後ろ指を指され、あの煩わしい教師(バカ)どもに最後の最後で嗤われると思い、俺は自分の実力で付いて行けるという条件を入れて、しかしそれでもなるたけレベルの高い高校を選んだ。

 結果はもう話したとおり受かる事が出来たし、勉強にもそれなりに付いてけているので、この選択は間違いではなかったんだろうが…………それとは別に、俺にとっては大きく、そしてハタ迷惑な “問題” がひっついてきた。


 俺の通える範囲中で、そして前世でもそうだった為迷く事無く選んだその進学校は、あろう事か兄貴が通っていた学校で、結局兄と比較される事から逃れられなかったのだ。


 そもそも俺は、兄の嫌がらせはとことんイライラさせられたし、それなりにに反抗してこそいたものの、だからと言って彼の通っていた学校や行った行動すべてが記憶に残っているかと言えば話は別。
 ただ普通に時の流れの中過ごして来た人間ならまだしも、こっちは大学まで行ったのに、何時の間にやら別世界で別の人間になっていたという、フィクションまっしぐらな有り得ぬタイプの人間なのだ。

 オマケにイライラしていた理由の大半は、本来年下である筈の男に反撃できない事と、相手のやり口が一々用意周到かつ―――歳が歳なのだから仕方ないが―――子供染みていたからであり、小学校ごろの歳によくある負けず嫌いとは……また少しだけ違う。


 また、調べてみればこの学校を大丈夫だと誤解した理由の一つに、『最近できた』学校に抜かれてしまっていた事もあるだろう。数年前……つまり出来る前なのだから、兄貴がそこへ入学していよう筈もない。


 入学して兄が居た場所なのだと分かってしまった時、今更転校するのも逃げた様で嫌だし、何より嫌味に我慢すればいいので逃げる必要もないだろうと、俺は普通にこの学校へとどまった。
 ……中学校よりもストレートなモノばかりで、普通にイラついたが。



 二つ目は、幼馴染である “山本理子” が付いて来てしまった事にある。


 隠し事や嘘でぶっ叩いてくる事は少し減ったが、かと言って無くなった訳でもなく、また少し前から読み出した“少年マンデー”という、何処かで聞いた事のある漫画雑誌に連載中の『海のオリオン』と言う漫画をいたく気に入り、少しでも貶すと(俺にその意思が有る無いに関わらず)暴力を入れてこようとする。


 漫画に対する価値観や、その話の内容に抱く感想などは、個人個人で極論大きく違ってくると言っても過言ではないのに、反対意見が口から出たのを聞くや否や力で訴える事に走る。

 普通に考えれば暴言がいい所だろうに、幼馴染の思考回路は貶される=手を動かすに直結しているのかもしれない。


 そんな奴とは、ハッキリ言って別々の学校に分かれるのが良かった。

 が、結果はご覧の通り……俺もくらってばかりは癪なので、避けたり受け止めたりもしょっちゅうしているが、それでも仮のサンドバッグが居なくなったら困るのか、俺の入学した方へ着いて来てしまったのだ。



 三つ目―――それは味覚障害が酷くなってきた事だ。


 以前は不味くてもまだ食べられるレベルだったのが、今ではそれが少しばかり悪化している状態になっている。
 何が悲しくて、家族が美味しそうに飯を食べいてるその傍ら、塊を呑み込むように飯を腹へ落として行かねばならないのか。

 幸いなのは不味くとも吐き戻す事は無い事、そして栄養にはなっている事ぐらいだ。

 何故分かるのかと疑問を投げつけた奴は、ちまちま買い食いしている《食べられる物》の量が少ないと言えば、それも納得できる筈だ。

 ……あの激痛が体に及ぼした影響は味覚の、しかも負の方面ばかり。オマケに理由は分からず、健康そのもので風邪もひかない。
 じゃあ原因不明で仕方が無いからと、誤魔化し続けるにも限界はある。本当に原因が分からないと言うのに余計に騒がれて、これ以上の厄介事を引き込むのは御免だ。

 あの両親に相談だけはしたくない。したら最後、喧しい程取り乱すか、優子さんのご飯がうんたらカンタラ~と喚いて親父が拳をお見舞いするか、この二つに一つなのだから。
 まるで一歩進むごとに一発に殴られる様な事態は、兎に角鬱陶しいとしか言いようがないだろう。



 が……殴られるならまだしも、取り乱す方ならまだ良いのではないか?

 そう思った人は―――幼い頃に夜唐突に熱が出た際、医者を呼ぶのではなく枕元で太鼓をドコドコ叩きまくり、よく分からない呪文を一心不乱に唱え、利かないとくればあらゆる祈祷方法を試す。
 ……そんな《医者呼べば済むだろうが》な事態に直面した俺の経験を聞けば、考えも変わるだろう。
 また巻き込まれるのは御免だ。
 ストレスの要因は確実に増えていたからな。



 まあ、一方で最近良い事はあった。

 もうすぐ、と言うか明日から夏休みに入るのだ。
 即ち小うるさい教師人とは、暫くおさらば出来る。宿題も当然の如く出たが、チラと見た限りでは難易度はそこそこ。
 確りコツコツやっていけば、泣きを見る事態にはならないだろう。


 ホームルームが終わり担任が教室を出て行き、周りで楽しげに響くクラスメイト達の声をしり目に、俺は用も無いのでさっさと教室を出て校門まで歩く。


「おー、りんとー」
「……」


 校門付近までさしかかったその時、後ろから小さく聞こえて来る、間延びした少女の声を無視して歩く。


「りんとこのやろー、シカトすんなー」
「……」


 関わった所で碌な事が無い、俺はこの十五年間でそれを覚えた。身に染みるほどに、覚えさせられた。

 だから、無視を続けてただ歩く。


「シカトすんなっていってんだろー、おらー」
「……チッ」


 鈍い風切り音が耳を突き、俺は後ろに肘を伸ばして、その音を生み出す元を止める。小さなうめき声と共に、その “元” は止まった。

 僅かに顔を傾けてみれば、幼馴染その1である山本(やまもと)理子(さとこ)が、掌を抑えて痛がっていた。


「何すんだりんとー。無視したそっちが悪いだろー」
「今までの自分の行いに鑑みろ」
「何だそれー。訳わかんねーこと言うなー」


 気分が乗っている時に邪魔をされた為か、ついやり過ぎたかという思いも浮かんだ。

 が、自分の行いを記憶から吹き飛ばしている、この彼女のアホウな言葉……やはりそんな事考えるんじゃなかった。


 極論になるが、今まで自分が行ってきた理不尽は、全て正しい事なのだと言いたげ。もしそれを本当に考えているなら……酷く癇に障りそうだ。


「一緒に帰ろうぜー。途中までは一緒だろー」
「……勝手にしろ」


 払っても払ってもひっついてくるのは承知の事、なら放っておくのが一番だ。理不尽な行為を此方へ振るってきたのなら、それ相応の態度で対処すればいいだけだろう。


 そもそも何故俺なんかに引っ付いてくるのかが分からない。これまでの態度を考慮すれば、寧ろ離れて行く方が妥当だ。


 そんなに他人をボコるのが好きなのか……いや、正しくは『俺』をボコるのが好きなのか? か。


 まあ理由が何であろうと、単に腹が立つだけなのが、こいつの珍しい所だが……普通なら、何かしら良心を刺激したり、納得できるに足るものが存在する筈なのに。


「明日から夏休みだなー。りんとは予定あるのかー?」
「……」
「って無いよなー。オジさんもオバさんも忙しいし、旅行できる筈ないよなー」
「……」
「何か喋れよー、りんとー」
「……」


 聞くまでもない事を態々聞いてきておいて、なら一体如何いった反応を返せばいいと言うんだ?

 下手に返せば平手を打ち込もうとする……そんな鬱陶しい事態は無言で回避するに限る。


 ちなみにこいつは、東京に居る両親の元へ行くのだと、数日前からずっと聞かされたため、今更聞く必要はない―――――否、そもそも聞く気もない。

 理子と彼女の妹である舞子の親はファッション関係の仕事をしており(詳細は知らん)、しかもそこのお偉いさんな為に、ここにはおらず東京での本社勤務。
 彼女等の家には雇われた使用人―――もっと簡単に言って《お手伝いさん》に近い人が居り、その人らが世話をしている。


 そして、この夏休みを利用して東京へ行き、観光がてら両親へあってくる予定なのだとか。


 ……俺には心底どうでもいいことだ。


「そういやー暫くあってねーけど、デコちゃん元気にしてるかー?」
「口に出す事じゃねぇ」
「って事は、元気なんだなーデコちゃん」


 デコちゃんとは楓子のあだ名であり、理子はこの名でよく呼んでいる。


 寧ろあいつが元気では無い時を見たいぐらいだ。一番最後に風を引いたのは、確か小1の頃だった筈。
 そこから先はまるで覚えが無い。ただ単に、まず覚える事でもないので、俺が忘れているだけかもしれない……。


 だが、思い出す事でもない。


 幾歩も歩みを進める内に俺達は、山本家自宅がうっすらと見える場所まで来た。
 よく見てみると家の前には、今帰宅したらしき舞子と、矢鱈テンションの高い様子の楓子がいる。


 距離の事もある為当然俺達には気が付いていないらしく、会話自体は聞こえずとも喋っている事は分かるほどの、此方にまで聞こえる大音量で何やら談義に花を咲かせている。


 大方ラノベかアニメ、もしくは宿題か山本家の旅行か何かの話だろう。もし勉強の事だったとしても、肯定的ではなく接受するでもなく、意味もない否定をしているに違いない。



 近付いて行くにつれ、段々と会話内容を聞き取れるようになってきた。



「……っぱそうだよねー、宿題なんてあるだけ無駄って言うかさ、別に遊ばせてもいいと思うんだけどなぁ」
「そうね、楓子(メープル)の言うとおり。何であんなものがあるのか分からないわ」


 ほらな、やはり否定的だった。

 舞子が会話の中で、今し方奇妙なルビを振った気がするのは、恐らく気の所為では無い。
 自分の名前が気に食わないと言うのは前から聞いていた。

 だが、まさか友人の珍妙な名で呼ばせる程だったとは……。


 そうやって呆れる俺を通り越し、理子が二人に駆け寄っていった。


「おー舞子にデコちゃん、今帰りかー」
「あ、お姉ちゃん」
「理子さん!? その名で呼ばないでってば!」


 この文句から分かる様に、楓子は “デコ” と言う単語に敏感に反応する。

 名前も区切ると《かえ()()》となるし、最近母親に似て額の面積が広がってきたのが気になるのだとか。

 ソレを隠すために、前髪を伸ばし続けている。


「ゴメンゴメン、つい気にしてる事忘れちゃうんだよなー」
「忘れないでくださいよ! ……ってあ! 兄ちゃんだぁ!」
「……チッ」


 コッソリ傍を通り抜けようとしたが、目敏く気付かれ指差される。
 その声は迷惑だと思えるな程デカく、此処に居る四人だけでなく歩行者の視線まで集めてしまった。

 ……コイツは何時も大なり小なり、何かしら迷惑やトラブルを引き起こさねば、気がすまない質なのか。


「あ、麟斗さん……えっと、こんにちは」
「おう」
「兄ちゃん兄ちゃん♡ 妹へお帰りなさいのチュばっ!?」


 無言で阿呆を殴り飛ばす。

 お帰りなさいも何もまだ家へは帰っていないし、こんな道端で恥辱を味あわせようとする奴相手に、容赦する気など毛頭無い。

 もし酷いと思った人は、この馬鹿げた行為を四六時中のしていると言えば、どれだけウザったいか分かるだろうか。


 実の妹からチューやら何やら受けたくは無い。というよりも……こいつの行為は行き過ぎていて、単純に気色悪い。


「む~う、なによぉ? そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃなぁい♡」
「……衝撃が足りなかったか……」
「すいません勘弁してください本当に頭クラクラしてますから止めてくださいお願いします」


 美しいとまで形容しても良い、見事なまでのジャンピング土下座を、楓子は即行で決めてきた。溜飲が下がった訳でもないし、腹が立つのは何時もの事。

 ……だが、皆慣れているとはいえ公共の場でこれ以上は良く無かろうと、背を向けて帰路へ着く。


「あ、ちょっとまってよ兄ちゃん! ゴメン! また今度、電話してね舞子ちゃん! それじゃっ」
「うん、じゃあね楓子」
「またなー、楓子ちゃーん」


 後ろ手別れのあいさつを済ませる声が聞こえてから数秒後、楓子が走り寄り俺の隣にならんできた。

 さり気に腕を組もうとしてきたのを、肩への肘打ちで阻害する。


「あだっ!? ちょ、ひどっ……てか兄ちゃんが全然デレてくれない~!」
「……」
「何時も何時もアピールしてるし、デレ度メーターが少しは上がってると思うのにぃ」
「……」


 コイツは見た目だけなら美少女だ。寸胴体系ではあるが、脚は長くスラリとしていて腰の位置が高い。


 だが……中二病気味な上、それだけならまだしも兄貴と似たり寄ったりな妄想癖があり、更には現実とフィクションをごちゃ混ぜにしたり、言語は “日本語” の筈なのに、会話内容が意味不明になったりもする。


 早い話が 『残念な美少女』 の良い一例である。


 通訳が必要な日本語を話す者など、コイツを置いて他に例が無かろう。
 いや、これまでも、これからも、コイツ一人で充分だ。



 何時も通りな妹の残念ぶりに呆れ、何時も通りな長い階段を上り、何時も通り神社の裏手にある自宅の扉の前に立ち、何時も通り中へ入って何時も通り階段を上がる。


 そして何時も通り張り付いてくる妹をはっ倒し、窓の外に広がる何時も通りな景色を見た。


「……」


 そこで俺は、とある一つの疑問を抱いていた。


 何故、俺は生き返ったのか? 何故、あの激痛が起こったのか? 何故、味覚が激変してしまったのか?

 そして最近分かった事―――――何故、俺はあのベランダに居る時の事から前の記憶が、大雑把にしか思い出せないのか……?


「そもそも……俺は何で『赤ん坊の時から』意識がハッキリしていた……?」


 何時も通り流れて行く時間、何時も通り徐々に日が落ちて行くその風景に、俺は帰ってこないだろう疑問をぶつけた。






 その何時も通りは、三日後に脆くも崩れ去る事となる。

 
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