駄目親父としっかり娘の珍道中
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第78話 コンテニューは計画的に
前書き
相当間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
ってな訳で今回のお話しをどうぞ。
高杉派の陣営の居る偽装船内にある船内では、現在新八、神楽両名によるエリザベスの扮していた桂の凄惨な大虐殺が行われていた。
全く抵抗出来ずにいる桂に対して襲い掛かってくる木刀、仕込み傘、拳、蹴り、嘔吐、罵声、その他諸々……
とにかく、思わず目を背けたくなるような程の凄惨な光景が其処に展開されているのであった。
「ちょっ、ちょっと待って二人とも! 今こんな事してる場合じゃないんだってば! 前回の話でかなり修羅場な話になってたじゃん! だから今こんな事してる場合じゃないんだってばぁ!」
「うっせぇよ、人が必至に探し回ってたってのによりにもよってエリザベスの中に扮していやがって。しかもあれか? あん時人の事ぱしりにしやがって」
「おめぇのせいで私たちどんだけ苦労したか分かってないアルかぁ? お前がバカやってるせいでこっちは今回マジで大変な思いしまくりだったアルよ! どう責任とるつもりアルか?」
桂の必至の便宜も怒りのボルテージMAX120%沸騰中なこの二人には全く届かない言葉であり、二人の怒りの猛攻を止めるには至らない状況となり果てていた。
返って二人の猛攻に更に拍車を掛けるだけであった。より一層激しい怒りの連打が降り注ぐ。気がつけば桂の顔は既にボコボコにまで腫れ上がっており、全身ズタボロ状態になり果てていた。
既に桂のHPは既に0を下回り、すっかりオーバーキルになってしまっていた。
「た……頼む! こ、これ以上は勘弁して……も、もう俺のHPは0になってしまったんだ」
「知るかボケェ、HPがゼロになってんならいっその事残機も全部絞り出せや!」
「残機も無いってんならコンテニューも全部差し出せやゴラァ! そんでもってクレジット全部使い切っても一回1面からやり直せやゴラァ!」
新八、神楽の二人にとって桂のHP等心底どうでも良かったらしい。いや、正確にはHPのみならず桂の残機も、そしてコンテニューすらも搾り取ろうとしている。
このまま桂の虐殺劇だけで1話分まるまるやりきるのは正直大変なのでこの辺で話の進展をして欲しいのだが―――
「あぁ、貴方たち……そろそろその辺にしておいた方が良いんじゃないんですか?」
あぁ、天の助け也。この惨状を目の当たりにして止めに入ろうと心優しい誰かが声を掛けてきてくれたのだろう。
有り難い、実に有り難い。これで助かる。
桂はそう思っていた。実際、今現在残機0でコンテニューも底をついており、現在残っているHPが無くなったら本当に1面からやり直しになる所であった。
「んだよ。こりゃ私たちの問題アルよ。他人が口出しすんじゃねぇよ」
「そうですよ。これは僕達の問題なんです。悪いですけど他所に行って貰えますか?」
そんな心優しい声の主に対して、新八と神楽の血走った視線が突き刺さる。相当なまでに殺気立ってること山の如しであった。
声を掛けたであろう男はそんな顔をする二人、と言うよりも神楽の方をまじまじと眺め、さも悲しげに首を左右に振った後に悲しそうに、とても悲しそうに一言呟きだした。もう、本当に悲しそうに。
「いけませんねぇ、年頃の女の子がそんな血走った眼をしちゃうなんて。折角の可愛い顔が台無しですよぉ」
「また変態発言ですかぁ? いい加減にして下さいよ先輩」
「変態じゃありません。フェミニストですってば。何度言ったら分かるんですかあなたは」
殺気立ってる二人を止めようとする声の他にもう一人別の声が聞こえてきた。先ほどは男の声で今度は女の声であった。その女はと言えば、変態と罵られた男をまるで蔑むかの様に睨みつけていた。鋭い眼光で氷の様に冷たい視線を飛ばす。世の中の男性陣にとってはご褒美と言われる場面であろうが、生憎この男には何ら嬉しく感じてはいない。
だってこの男にとってこの女は好みじゃないのだから。
「だ、誰だか知らんが……助かった。後少しでまた1面からやり直す所だった」
「いえいえ、こんなご時世ですからお互い力を合わせないといけませんからねぇ」
「確かに、こんな殺伐とした時代こそ人と人とが互いに力を合わせて行くべきだ。どうだろう、共に攘夷の優しさを世に広めようではないか」
「素晴らしいですねぇ。では一緒にフェミニストの優しさを世に広めましょうぞ」
すっかり意気投合しあう桂と優しき心を持つ男。互いに仲良く肩を叩きながら全く噛み合ってない会話を楽しんでいたりする。
そもそも攘夷にもフェミニストにも優しさは必要ないようにも思われるのだが。
そんな全く噛み合わない会話を目の前で見せられてる新八、神楽、そして男と共にやってきた女。
「何? 何であんな全く噛み合ってない会話であんなに仲良くなれるの?」
「所詮ヅラはヅラアル。どうせ頭ん中までヅラかぶってるから仕方ないアルよ」
「先輩も先輩っすねぇ。相変わらず頭ん中変態でロリコンで凝り固まってるだけみたいっすよ。マジで気持ち悪いっすわ」
すっかりこっちでもある意味で意気投合しちゃってたりする。だが、喧嘩の仲裁が入ったお陰で二人の沸騰しまくりだった脳は熱が冷めだし、次第に冷静な判断が取れるようになっていく。
熱々の料理が時間を置いて冷めていくような感じで沸騰していた頭がようやくクールダウンし、色々と考える余裕が出てきた。その時点で二人はある重要な事に気づく。
……此処って、敵地じゃなかったっけ? ……と。
「って! あんたら一体誰ですか!?」
「そうネ! さっきまで頭熱々おでん状態だったから気づかなかったけど、お前ら誰よ!?」
今更な発言であった。敵地に不法侵入しといて敵に向かって「お前誰だ」など非常識極まりない事でもある。しかし、所詮此処は銀魂。常識なんて食後の口回りについた汚れをふき取るナプキンの様に丸め込んでゴミ箱へポイするのが当たり前の世界。そんな世界で常識などを求めてはいけない。
「今更それ聞くっすか? ってか、それを言うならあんたらこそ誰っすか? 人ん家に土足で入り込んでおいて名を名乗れなんて非常識じゃないんすかぁ?」
「あぁん? 何言ってんだこのビッチが! 常識なんてこの銀魂ワールドには必要ないネ! そんなの便所でう○こした後でケツ拭いた便所紙並に必要ないアル!」
「其処まで言うっすかぁ? あんた常識って言葉に何処まで憎しみ持ってるんすか? 普通は鼻紙程度に抑えておくべきっすよ!」
「おいおい、此処は鼻紙で抑えて綺麗を気取ろうって魂胆が見え見えアルよ。表だけ綺麗に着飾ってる女は結局中身真っ黒ネ! 世の中上っ面だけを見て生きていける程甘くないんだよボケがぁ!」
「何知った口聞いとるんやクソガキィ!」
「やんのかぁ年増ぁ!」
すっかり論点がずれだし、仕舞には女と神楽の醜い争いが其処で展開される事になってしまった。互いに髪や服を掴みあい激しい罵倒を浴びせたり、顔を醜くしようとあちこち引っ張り回したり、とにかく見てるこっちのSAN値がゴリゴリ削り落とされそうな程醜く無意味な争いを展開し始めてしまったのだ。
そんな無意味な争いを止めもせずにただじっと見つめる男性陣。はっきり言って下手に止めに入ると返って危ないので近づけないのである。
「ちょっとちょっとまた子さぁん、いい加減にして下さいよ。今はそんな事してる場合じゃないんですからねぇ」
「神楽ちゃんも止めなよ。今はこんな事してる場合じゃないでしょ」
だが、止めないと話が進まない。しかし怪我はしたくない。そんな感じで脆弱な男性陣は激しい喧嘩を続ける女性陣を外から必死に止めようと説得を試みる。が、所詮は言葉での説得なので相当気が立ってる二人には全く届かないのであり。
「落ち着くのだ二人とも。今はこんな事をしている場合ではないだろう! 今は目の前の事に集中するのではなく、もっと広く視野を持つべきではないか? そう、今後の江戸をどのように変えていくか、それを今此処にいる我らで夜通しで語り合おうではないか!」
何時でも何処でもフリーダムな桂の発言。本人からしてみれば本気の説得のつもりだったのだろうが、本人以外からしてみれば全く空気を読んでない発言にしか聞こえない。
その証拠にさっきまで喧嘩していた二人の怒りの矛先がお互いから桂へとシフトしだした。
あれ? これ、もしかして地雷踏んだんじゃね?
新八の本能が危険信号を告げる。が、それを直感した頃には時既に遅く、完全にプッツン状態になった女二人にボッコボコにされる男性陣が数分後のこの場所で展開されるのであった。
***
岡田は歓喜の極みを感じていた。体中の血液が勢いよく体中を駆け巡っていくのを自分自身の体を通して感じていた。脳内のアドレナリンが大量に吹き出し、気が狂いそうになった。それほどまでに今岡田の目の前で起こった光景は彼を歓喜させるに十分たる物だったのだ。
目の前で起こる衝撃と金属同士のぶつかり合う音。刀と刀がぶつかり合った際に飛び散る火花が額に掠りほのかに熱さを感じる。
が、それすらも稀有に思える程、今の二人は互いの殺気をぶつけ合っていた。
坂田銀時と岡田似蔵。二人がそれぞれ自身の得物を用いての切り合いを演じていたのだ。
その光景は今まで見たことのない凄まじい物だった。互いの剣は鋭く、そして力強く相手の命を刈り取ろうと迫りくる。それを時にかわし、時に受け流し、時にその力を利用して攻撃に持っていくなどの激しい攻防が目の前で展開していた。
「良いねぇ、やっぱあんたは最高だよ。あんたほど殺り甲斐のある男は今まで見たことないねぇ」
「さっきから喧しい奴だな。その五月蠅い口縫い合わせてやろうかぁ?」
「おぉ、怖い怖い」
不気味に微笑みつつ岡田が後ろに下がった。回避に転じた訳ではない。一歩引いた距離であっても岡田の剣は届くのだ。下がり際に横凪に紅桜を振るう。狙うは銀時の胴体。あの細見の剣では幾ら防げてもそれなりのダメージは負わせる事が出来る。かわすにしても上に飛ぶか下に避けるかの二つしかない。少なくとも相手の行動を二種類に制限する事は出来る。そうなれば後は予測するのは容易い。
勘の鋭い岡田なら避けた後の行動を予測する事など安易に行える。ましてや先の攻撃で相手は防御に転じた筈。
そう思っていた矢先だった。
「さっき、てめぇは殺し合いがしたいって言ってたな?」
声が聞こえた。だが、それは意外な方向からだった。目の前からじゃない。そう、岡田の丁度真後ろだ。
振り返ろうとする岡田だったが、それよりも前に腕に激痛が走った。銀時が白夜を岡田のコード類で絡まった腕に突き刺していたのだ。
「冗談じゃねぇ。てめぇなんかとじゃれ合うのなんざ今回限りだ!」
「なにぃ!」
振り返った岡田の目の前では、無数のコード類を切断し、その中から拘束されていたなのはを引きずり出している銀時の姿があった。
完全にしてやられた。
戦いに夢中になりすぎていたが為にみすみすなのはを逃がす事になってしまったのだ。
岡田の額に青筋が浮かび出した。どうやら本気でキレたのだろう。怒りの勢いのままに銀時目掛けて紅桜を頭上から振り下ろす。
うなりを挙げて化け物刀が空を切り地面目がけて猛進する。その刹那、岡田の腕が急に軽くなるのを感じた。
さっきまで感じていた重みを全く感じない。
何故? 一体何がどうしたと言うんだ?
疑問に戸惑う岡田を前にして銀時が白夜を肩に担ぎながら目の前に立つ。
「悪党ってなぁ皆学習をしねぇんだな。気づかねぇのか?」
「なんだと……!!!」
銀時に言われてようやく理解した。無いのだ。岡田の手にあった筈の紅桜の刀身が丸々なくなっていたのだ。どうやら先の攻撃の際に銀時は紅桜の刀身目がけて白夜を切り上げたのだ。
これにより紅桜は刀身ごと丸々岡田の手元を離れて遠く離れた地面へと突き刺さった。
完全に丸腰となってしまった岡田を前にして銀時が見下ろす。
その表情はとても鋭く、そしてどこか恐ろしくもあった。幸いな事と言えば岡田がその表情を見る事が出来なかった事位であろう。
突然、空を切る音が響いた。かと思ったら岡田の側頭部に激痛が走った。銀時が白夜を叩きつけたのだ。だが、それは刃ではなく背の部分でであった。
「三下の癖に一丁前な真似するからこうなるんだよ。これに懲りたらもう二度と人斬りなんてしねぇこったな」
締めの一撃を見舞い、最期に一言言葉を添える。が、その言葉に相手は言葉を返す事はない。側頭部への一撃、如何に鍛え上げた人間であろうと其処へ強い一撃を食らえば意識を失うか最悪後遺症が残る危険性すらある。が、銀時にそんな配慮などする気はなかった。いっその事このまま一生目覚めないで欲しいとさえ思えてしまった。それでも白夜の刃ではなく背で殴って気絶させたのは何故であろうか?
考えても答えがでない以上考えるだけ時間の無駄でしかない。そう判断し、銀時は考えるのを止め、吹き飛ばした岡田に再度視線を向けた。
吹き飛ばされた岡田は大の字になり微動だにしていない。それを見て銀時は安心し、白夜を鞘に納めようとする。
しかし、白夜の刀身を半分まで納めた所で、ピタリと銀時の手は止まった。
≪まだだ。まだ終わっていない!≫
銀時の本能がそう囁く。戦いはまだ終わっていない。
どう言う事だ?
本能に従うがまま、銀時は再度倒れた岡田を見た。岡田はその場からピクリとも動いていない。
では、一体何が―――
疑問に思い、銀時が折れた紅桜を見た途端、銀時は自身の目に映った光景を疑った。
心臓が凍り付く錯覚を覚えた。それほどまでに衝撃的な光景であったからだ。
紅桜が一人でに震えているのだ。地面に突き刺さり、刀身だけになった筈の紅桜が一人でに震えだし、その刃を地面から抜き放った。
ゆらゆらと宙を漂う折れた紅桜を見て、銀時は戦慄を覚えた。
前に破壊した紅桜は折った時点ですべて機能を停止していた。
だが、これだけは違う。
この紅桜だけは折っても機能停止にはならなかったようだ。
再度、白夜を抜き放ち、臨戦態勢を執る。
突如、紅桜が突進してきた。銀時は応戦の構えを取った。
だが、弾丸の如き勢いで突進してきた紅桜は銀時の横を素通りし、そのまま動かなくなっていた岡田の胸板に深く突き刺さったのだ。
辺りに鮮血が飛び散り、岡田の苦痛の声が響く。
「何っ!」
突然の光景に銀時は驚かされた。が、彼が驚くのはこれからだった。
突き刺さったかと思った紅桜の刃が今度は岡田の体の中へと吸い込まれていくのだ。あの巨大な刃がついには完全に岡田の体の中へと消えてしまった。するとどうだろうか?
先ほどまで痛々しく見えた傷跡が見事に消え去り、切断された右腕が再生し、その再生した右腕に初期状態の紅桜が持たれていた。
岡田の両目が開き、何事もなかったかの様に立ち上がった。
「ふん、こいつとは上手くやれそうだったんだが、所詮この程度か?」
「てめぇ……一体何をしやがったんだ?」
戻った右腕を適当に動かしながら呟いている岡田に対し、銀時は言葉を放った。その声を耳にし、岡田は銀時の方を顔半分だけ向けて、不気味に笑みを浮かべて見せた。
「なに、簡単な事だ。この男の体を宿り木にしただけの事だ。この男の体は中々気に入ってたんでな。そうそう手放すには惜しかっただけの事だ」
岡田の口が開き、そう告げる。だが、何処か違う。目の前に立っているのは岡田だろうが、まるで岡田じゃない別の人間と話している気分だった。
外見だけは岡田なのは間違いない。だが、中身が完全に別人のそれに近かった。
「お前、岡田じゃねぇな?」
「その通りだ白夜叉」
白夜叉。何故その名を知っている?
少なくとも高杉一派と吊るんでいる岡田ならば知っていて当たり前に思える。
だが、それは目の前に居るのが岡田ならば何ら疑問に思う事はない。
そう、今目の前に居るのはあの岡田似蔵では断じてないのだ。
あるとすれば、あの時銀時が破壊した紅桜の中にその秘密があるとしか思えない。
そう思った時、銀時の中で答えが導き出された。
「お前まさか……桜月か?」
「その通りだ。久しぶりだな、白夜叉」
不気味に微笑みながら岡田の体と一体化した桜月は笑みを浮かべた。完全に岡田の体を支配してしまっている。まさか、桜月はこんな事が出来たってのか?
正直白夜と桜月については銀時自身余り良く知らなかった。ただ、こいつらには意思と呼ばれる物があるとだけは聞いた事はあるが、まさか元の持ち主を殺してその肉体を奪うなんて、正直背筋の凍る話だった。
「まさかなぁ、物だった筈のてめぇが一端の意思を持っちまったなんてよぉ」
「お前のおかげでこっちは飢えに苦しむ羽目になっちまったんだ。こいつの時はまぁそれなりだったが何せ強い奴しか切らないんでなぁ。腹八文目にもなりゃしなかったぜ」
「だろうな。それじゃ何か? 今度はそいつの体を乗っ取っててめぇ自身で飢えを満たそうって腹か?」
「その通りだ。もうこの際この男は用済みだ。後はこの船内にいる奴ら手当たり次第に切り殺して、そいつらの血肉を食らう。それでも足りねぇだろうから、そん時ぁ江戸の町の奴らを片っ端から食らい尽してやらぁ」
最早、この場所に岡田似蔵は存在していない。今、銀時の目の前にいるのは凶器と化した桜月その物であった。
***
痛みで意識が朦朧とする。景色がぼやけて余り良く見えない。それでも、目の前に誰か居る事は認識できた。それが誰なのかは―――
徐々に視界が鮮明さを取り戻していく。目の前にいたのは妹の鉄子だった。目いっぱいに涙を浮かべて、こちらを見ている。何故、何故泣いているのだ。誰がお前を泣かせたんだ。
訪ねようとしたが、声が上手くでなかった。そして、腹の辺りを触れた時点で、鉄矢は思い出した。
そうだ、自分はあの時、自分自身が作り出した紅桜に刺されてしまったのだ。
何とも情けない事か。刀鍛冶が刀に斬られて死ぬなど笑い話にもならない。
思えば自分は何て愚かな行為をしてしまったのだろうか。偉大な父、村田仁鉄を越えようと一心不乱に刀を打ち続けてきたが、結局出来たのは人を食らう化け物刀であった。無論、そんな物を作るつもりなどなかった。鉄矢はただ、最強の刀を作りたかったのだ。その為に鉄矢は利用出来る物は全て利用した。からくりにも手を出し、資金繰りの為に裏世界に手を伸ばした。すべてはたった一振りの剣の為だけである。
その結果がこれとは―――
「兄者、兄者ぁ!」
必至に泣き叫ぶ妹の姿が浮かぶ。兄の身を案じ、必至になっているのだ。
鉄矢は、ふと思い出していた。あの時、鉄子と共にいた銀時の持っていた刀。一流の刀鍛冶であれば一目見ただけでそれがどんな状態か見分ける事が出来る。
震える手で、鉄矢は鉄子の手を掴んだ。だが、その力はとても弱弱しく、まるで虫の息の状態だった。
「あ、兄者!」
「て、鉄子……白夜を……お前の手で、白夜を……完成させるんだ!」
「な、なに言ってるんだ兄者!?」
「すまない、お前に後始末を頼むなんて……私は、ダメな兄貴だった。あの刀は、紅桜は私の想像を遥かに超えた化け物に育ってしまった。あれを壊せるのはお前が打った白夜しかない。だが、今の白夜じゃダメなんだ……今の白夜のままではダメなんだ」
「一体どう言う事なんだ兄者? 言ってる意味が全然分からないよ」
「あの時、お前の打った白夜を一目だが見た。一見それは見事な刀に仕上がっている。だが、今の白夜は輝きを失っている。あれでは……あれでは桜月には勝てない!」
息も絶え絶えな状態でありながらも、兄鉄矢は語る。すべてを妹に託す思いで、自分が握りしめた希望の一粒に至るまで妹に託そうと思っていたのだ。
その為にも、今の鉄矢には語り続ける事しかできなかった。
「今の桜月は多くの人間の血肉を貪り、その力を増大させてる……それに比べて、白夜は逆に力を失っている。今のままではあの男ともども白夜は負ける」
「あの男……それって、銀時の事か?」
鉄子の問いに鉄矢は頷いた。そして、鉄矢は鉄子に告白した。鉄矢が打った紅桜の中の一つ。岡田が持っていたそれの中には、かつて攘夷戦争で使われていた桜月の欠片が埋め込まれていたのだ。
紅桜に組み込まれた桜月は岡田の手の中で大勢の人を斬り、その血肉を食らい続けた。そのお陰か桜月の力はかつての力に相違ないほどにまでに至っていたと言える。
だが、それに対して白夜は酷く衰えていた。白夜は人の血肉を食らう行為をしない。その為に刀は痩せ衰え、その切れ味では恐らく桜月を斬るには至らないであろう。
今、白夜と桜月の二本のパワーバランスは圧倒的に桜月が優っている状態であった。
「恐らく、他の紅桜はあの男が破壊してくれただろう。だが、残る一本は今のままではだめだ。桜月は例え欠片だけになってもその力は凄まじい。他の武器に寄生し、その武器で人の血肉を食らい続ける。そうする事で桜月はより強く進化しようとしているんだ」
「だが、どうやって……どうやって白夜を完成させれば良いんだ? 私には分からない」
「鉄子、昔親父が俺達に言った事を思い出せ」
「親父が?」
「言っていたじゃないか……刀は魂で打つと……桜月は人の血肉で成長する。だが、白夜は人の魂を注いで成長するんだ。だから、お前の魂で打ち、あの男の魂を注ぎ込む事で、白夜は完成する! そうすれば、桜月を破壊出来る筈だ!」
「魂で……成長させる」
「幸いな事に……まだ桜月は完全な姿にはなっていない。今此処に居るのは桜月のひと欠片に過ぎない。だが、あの男は白夜の本当の使い方を知らない……今、此処で白夜とあの男を失う訳にはいかないのだ!」
突如として鉄矢は起き上がり、鉄子の肩を掴んだ。力こそ弱ってはいたが激しく震えているその腕から、彼が今必至だと言うのが容易に伺う事が出来た。
「もし、白夜が折れ、あの男が倒れるような事があれば……すべての命は、桜月に食い尽くされる……何としても止めなければならないんだ!」
「兄者……だけど、白夜の使い方なんて私も知らない! 一体どうすれば良いんだ?」
「………」
「兄者? 兄者!! っっ―――」
鉄子はその場に泣き崩れた。もう、兄の声を聴く事はない。あのバカみたいに大きな声で、何時も人の話を聞かず、一直線に突っ走っていた鍛冶屋バカの兄の声を、もう聴く事はないのだ。
その事実を知り、鉄子は涙した。張り裂けんばかりの大声で、鉄子は泣き叫んだ。泣いて泣いて、声が枯れるまでひたすらに泣き続けた。
どれだけ泣いただろうか。ひたすらに泣いた後、其処には涙を拭い動かなくなった兄を見下ろす妹の姿があった。
兄の意思を受け継ぐ。兄の託した思いを引き継ぐ。そして、兄が遺した忌わしき存在をこの世から完全に消し去る。
その思いを胸に鉄子は前へと進む。例え、その先に待つのが地獄であろうと修羅場であろうと関係ない。ただひたすらに歩き続けるだけ。
それが、今の村田鉄子の姿であった。
つづく
後書き
何故だろう。どんどん話がややこしくなってる気がしてならない。これ、ちゃんと上手く終わらせられるか不安になってきた(;'∀')
そんな風に思いつつも執筆頑張ります。えぇ、頑張りますとも。
それでは、また次回って事で。
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