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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第50話 預かる命、解放の時まで



 ユーリは、夜のラジールの街を歩いていた。

 街中には、所々戦闘の爪痕は有るものの、比較的素早く迅速に制圧出来たらしく、血腥い光景にはなっていなかった様だ。

「はぁ……、しかしまぁ 相も変わらず あいつは面倒くさいな。……確かに、変に反故にしたら、マリアの言うようにヘソを曲げられかねない。マリアは約束をした、とも言っていたから、突っぱねるのも、筋違いと言った所だろうし、……それに、多分アイツの事だから、マリアだけじゃないだろうしな……」

 ランスの指名。ぱっと 思い浮かぶのは、志津香、マリア、ラン、ミリ、トマト、真知子、今日子、香澄……、この場にはいないが、チサ。と言うかカスタムの少女なら 全員とか言いそうだ。例外としてロゼは指名するとは思えないが。後 ミリも疑わしい。

「今は酷だろ、絶対。……まぁ 違う可能性もあるし」

 ユーリは、万が一と言う事もあると、ランスが泊まっているであろう宿へと向かっていった。

「あ、ユーリさん。お疲れ様です」
「ああ、かなみ。お疲れ様。本当によく頑張ったな」
「いえ、ユーリさん程では……」

 かなみは、照れている様で、頭を掻いていた。彼女は、志津香との共闘然り、その後の戦いにも尽力を尽くしてくれた。間違いなく町の解放立役者の1人だ。

「……それにまだ大切な仕事が残ってます」
「だな。……だが、今日は勝てたんだ。今は ゆっくりと休んでおけ。明日からもっと大変だぞ? ……ローラを まず探さないとな」
「あはは。そうですね。ローラさんの誤解も解かないと……」
「そうだな。一筋縄ではいかないと思うが、あの娘も。……さて、と オレは もうひと仕事してくる」
「あれ? ユーリさんはどちらに行かれるんですか?」

 かなみはユーリにそう聞いた。
 まだ、する事があっただろうか? とかなみは 思った様だ。そして、手伝えるなら自分もと。

「ああ。……ん、1人の大きな子供の世話だ。後々で、駄々こねられたら面倒くさいし、立役者という意味では、アイツも間違いなくその1人だ。リーザス軍を解放してくれたのも アイツだしな」
「あー……」

 かなみは納得したようだ。
 そもそも、この手の話はついさっき皆と話したときに話題に上がっていたのだ。

「……事情は判りましたが……どうするんですか?」
「ああ。大丈夫だ。ちゃんと 手は考えているよ」
「……私も手伝える事は……?」

 かなみは、表情を曇らせた。
 ランスが何を求めているのか、大体は判る。……そして、自分は絶対に嫌だ。だけど、ユーリの役には立ちたいって同じくらい思っているのだ。

――……だからこそ、その為なら……。

 かなみは、この時 不自然に拳に力を入れていた。そんな時だ。

「……馬鹿。何考えてるんだ?」
「あぅっ……」

 ユーリは大体かなみが何を考えているのか読めた様で、彼女の頭を軽くこついだ。

「自分も望んでするなら兎も角……強姦は女を殺すも同義、だろう? 変なこと考えるなって。オレに任せておけ」
「あ、あう……すみません」

 かなみは頭を下げた。
 きっと、顔は赤く染まっている筈だ。火照っているから……よく判る。こんなに良い人なのに、なんでそれに比例する様に鈍感なのかが判らないが……。

「そうだ。かなみ」
「うひゃいっ!? な、なんでしょう??」
「何慌ててるんだ? まあ良いけど、頼みがあってな。持ってたらでいいんだが」

 ユーリは、かなみに話をしていた。ある事を訊いて、そして、その後。
 


 ユーリはランスが泊まっている宿前へと到着した。


 あの男は基本的に羞恥心なんてものは無いから。きっと部屋の前まで行けば十中八九は……。

「がはは、オレ様の活躍で戦いは終わったな! まぁ、オレ様の力をもってすれば、ヘルマン軍くらい屁のようなものだ!」
「はい。そうですね。カスタムの皆さんもとても頑張ってくださいました。ユーリさんも」
「ふん。下僕なりに、まぁまぁの仕事はした様だな。まぁ 下僕・ガキなりにだが」
「あ……、でも 今回の勝利は、ユーリさんのおかげと言う声も……」
「馬鹿者、オレ様の活躍があればこそ、カスタムも取り返せたのだろう! それに、オレ様が町にいたら、ユーリの倍は仕留めてるわ。がはは!」
「ひんひん……、ランス様、痛いです……」

 ランスは、シィルの頭を叩きながら、豪語していた。そう、こんな感じで会話が聴こえてくるのだ。声が大きいし、羞恥心がないから、聞こえる事も厭わないから。

 それに、聞いているだけでよく判るというものだ。シィルが、ユーリの事を褒めたものだから、手が出るのが早い、と言う事だ。相変わらずなのである。

「さてさて、後は カスタムの女達がオレ様にお礼をする為に、偲んでくるのを待つだけだな。マリアは上手くやってくれただろう! うひひ……」

 そして、ランスの口からは、期待通りの答えが出てきた。万が一とも考えていたのだが露と消えた瞬間でもある。

「う~む、かなみの身体も要求しようと思ったのだがな。アイツとはまだヤってないからな。多分処女だろう! リーザスをサクッと救った暁には、美味しく頂くとしよう。がははは。うむ、実に選り取りみどりだな」

 どうやら、カスタム勢だけでなく、かなみの事もご所望の様だ。

「(はぁ……やっぱか)」

 ユーリは、ため息をしていた。
 ここまで 予想通りだったらもう笑うしかないだろう。仮にも戦争に近い戦いをしたばかりなのに、もう娼婦をご所望とはやはり、大物と言えば大物だろうとも思える。

「ランス様……あまり、皆さんにひどいことをするのは……」
「何を言う、シィル。オレ様は町を助ける為に戦ったのだ。なら、お礼を受け取るのは至極当然だろう! それに、オレ様の様な良い男に抱かれるのは、女として最高の幸せなのだからな。がははは!!」

 シィルは基本的に優しい。
 だが、この時は本心はランスが他の女の人と……それが嫌なのだろう。そして、町の事、女の子の事も恐らくは考えてくれている。

「(シィルちゃんは、本当にランスにはもったいない……。それに、かなみを連れてこないで良かった)」

 ユーリはそう思っていた。
 大したことはしないと言う事で、彼女を帰らせたのだ。かなみは、手伝いたい様な表情をしていたが……、明日から頑張ってもらうという旨を伝えて、別れたのだった。

「……さてと」

 ユーリは、黒い玉状の物体を懐から取り出した。それは、先ほどかなみに、所持しているかを訊き、そして 受け取ったものである。

「ん……」

 その玉を軽く引っ掻く。すると、亀裂からゆっくりと白い煙の様な物が出てきていた。それをランスの部屋の扉の隙間から流す。

「む? なんだ? 火事でも起きたのか?」

 ランスは、部屋に入ってきた白煙に気づき、シィルにそう言っていた。

「ですが、そんな匂いはしませんよ? お外も静かですし」

 シィルも気になっているようだ。
 確かに火事ならば、外で騒ぎになっておかしくない。それに、火事であれば物が焼ける匂い。焦げ臭さが有る筈だが一切ないのだ。だが、白煙は、止むことなくどんどん部屋中に溜まっていき。

「ごほっ! ごほっ!! おい、シィル! 何とかしないか!」
「あ、は、はい! えっと……窓窓……」

 シィルは、部屋の窓を手探りで探して手にかけた。
 今回の件で、彼女も消耗しているから、魔法はもう使えないようだ。魔人の使徒との戦いを経て、更に殆ど休んでいないのだから当然だろう。

 そして、その瞬間を狙って 1人の影が2人の前に立ちふさがった。

「スリープ」
「んぉっ……!? あ、ぁらぁ……? zzz……zzz……」
「だ、誰ですかっ!? あっ、ら、ランス様っ!!」

 煙に乗じて、ランスに近づいたのはユーリ。だが、シィルには影しか見えず。片方の煙に映ったシルエットが倒れるのを見て、驚き声を上げたのだ。

「あー、っとごめんごめん。驚かせたみたいだな。オレだよ、シィルちゃん」
「えっ?? ユーリさんですか??」

 シィルは思わず攻撃魔法を唱えようとしたが……、その声は間違いなくユーリのもの。それが判って、魔法を止めた。

「これには色々と事情があってな……、ちょっと手荒になってしまって済まない」
「え、っと……はい。ユーリさんなら、大丈夫ですよ。心配はしてません。ランス様は?」
「ああ、眠ってもらったよ。……あんな戦闘があった夜に皆に酷使させる訳にはいかないだろう? シィルちゃんもその方が良いって思うし」
「え……? ぁ……」

 シィルは、何のことか判らなかったが、直ぐに察した。さっき、ランスが話していた事だから。

「やれやれ……、マリアが約束をした以上は、いつものオレの手じゃ難しそうだからな」

 そもそも、ランスとマリアが直接約束した以上、『自分が~』みたいに言うのは、お門違いも良い所だろう。……他のメンバーについても同上だ。ユーリはそう言うと、ベッドで寝ているランスに手を翳した。
 その周囲には何やら光が集まっている。

「……ユーリさん、これは、幻覚魔法。ですか?」
「ん? ああ。そうだよ。ある程度の時間をかけて、更に夢の中であれば現実と錯覚するらしいんだ。短かったら、効果は乏しいからちょっと長めにかけないといけないからな」

 ユーリはそう言う。
 ハンティに教えてもらった事を思い返していた。短かったら、覚えておく事すら難しい。だけど、ある程度長ければ、覚えておけて……更にある一定を超えれば、錯覚をさせる事も可能なのだ。

「……それは、かなり高度な幻覚魔法です。ユーリさんは以前、魔法使いではないと言ってましたが……」
「あー……うん。まぁな、魔法使いじゃないのは正しい。それに、魔法使いは、あんな戦い方しないだろう?」
「あ、はい。それはそうなんですが……」

 一応自分の技能のことは隠しているユーリだったが、ここまで行くとちょっともう無理だろう。それに、シィルも大切な仲間なのだ。仲間であればもう問題はないだろう。

「ま、ここまで見せといてはぐらかすのは、ちょっと頂けないか」

 ユーリは、ランスに幻覚の魔法を使いつつ、続けた。

「これは、オレの技能の1つなんだ。……オレは魔法を実際に見て、解析して……。それだけである程度のレベルは体現する事が出来るんだ。そして、体現するだけじゃなく、攻撃魔法を解析出来たら、ある程度、身体に耐性もつく。カスタムでの戦いの時のあれは、そういった理由でなんだ。 後、これはオレ固有の技能だから、誰かに魔法を教えたりは出来ない。シィルちゃんは、オレに魔法を教わろうと思っていたんだろう?」
「え? あ、はい。確かにそうでした。納得出来ました。……でも、良いんですか? 私に教えても……」
「ん。シィルちゃんは仲間だからな。ここまで見せといて教えない、秘密だって言うのは流石に嫌だから。だけど、一応他言無用で頼むよ」
「あ、はい。判りました。信頼して下さってありがとうございます」

 シィルは頭を下げて礼を言った。

――……本当に素敵な人だ。……こんな人だからこそ、皆に慕われるのだと判る。自分も助けてくれたのが、ランスじゃなくユーリであれば……、生涯この身を捧げる事も厭わないって確信が出来るんだ。

 シィルは、魔法をかけ続けているユーリを見ながらそう感じていた。

 だけど、ランスが助けてくれたあの時から、ランスに惹かれている。だからこそ、それはIFでの事になるだろう。過去を変える事が出来ない以上、ありえたかもしれない、もう1つの世界であり、この世界ではありえない事だった。

「zzz……ぐへへへ……いい……から……ではない……。zzz」

 ランスはどうやら、上機嫌の様だ。
 幻覚、今回はスリープと併用している為、夢魔の魔法と言った所だろう。上手く掛かっているのが判る。

「……ユーリさん。幻覚とは言えランス様は実際にその……抱いたと言うふうに認識すると思いますが、大丈夫なのでしょうか? その……裏合わせや、今後の事なんかは……」

 ランスのことだ。一度抱いたから、『はい。終わり~』じゃない可能性だってあるだろう。それに、幻覚の中だから、最高に気持ちいい事になっている。現実として錯覚する以上、また 抱いてみたいと言う思いが出てもなんら不思議ではない。そして、町の人物を登場させる以上は、裏合わせもしておかないと矛盾も生まれてしまうだろう。だが、その辺はユーリもちゃんと考えているのだ。

「ああ、大丈夫大丈夫。あくまで別の女の人を登場させたよ。今回の戦いが終わって、その子は、ランスに抱かれたくて仕方がないって設定。その上で、別の町に友達とかがいる設定で、そこへ行くからここから離れる、最後に貴方にとことん抱かれたい~……ってな具合で後腐れなく。元々いない人物を創造するから、大丈夫だ。んー、ランスが探す可能性もあるが、飽きやすいだろう? コイツは」
「あっ……成る程。流石ですユーリさん」
「シィルちゃんもランスの幻覚の中に出すから軽く合わせておいてくれないか?」
「あ、はい。任せてください」

 シィルはぐっと拳を握った。
 夢の中であれば、他の人との行為に及んでも別に大丈夫だ。今までのと比べたら全然マシなのだ。

「ぐへへへ……、ヤル……ではないか…… フミカちゃんは……zzz 名器……だぞ…… zzz」

 ランスの口から出た名前。
 それはユーリが生み出した幻覚であり、完全なオリジナルの女性だった。それも1人ではない。

「がはは……、まぁ……zzz 順番だzzz ちゃん……と、レンカちゃんも……ホムラちゃんも……がははzzz ハーレム……ではないか……zzz」

 ランスの股間はみるみる内に膨張をしていっていた。ユーリはそれを間近で見てしまって……思わず顔を顰めた。一応夢見てる状態だから……間違いなく発射してしまうだろう。
 限りなく現実的な夢にしているんだから。

「あー、あと……ランスの、この後の処理も任せていいか? シィルちゃん。流石にそれは勘弁だから」
「あぅ……/// だ、大丈夫です……/// 出来たらユーリさんは……」
「勿論、出て行くよ」

 ユーリは手を上げてそういった。もう、十分にかかった様なので、これ以上は無用なのだ。そして、もう後少しで放たれるであろう 《アレ》の処理は 絶対に無理だ。

「それじゃあ、シィルちゃん。後は頼むよ。後……今日はお疲れさん。疲れてる時に、後始末なんか頼んで悪いな」
「いいえ、とんでもないですよ。ユーリさんもお疲れ様です。お休みなさい」

 シィルは、頭をすっと下げ、ユーリを見送った。そこから先、シィルは何をしたのか、ランスはどうなったのか……。

 まぁ大体は理解していただけると思うので、ここは割愛させて頂きます。


「やれやれ……、これで大体は大丈夫だな、無良があるのも考えもんだ……全く」

 ユーリは苦言を呈しながら帰っていった。

 今回の立役者はまず間違いなくランスだ。あの男が、敵側の洗脳魔法使いを止めてくれたおかげで、今皆が無事だといっても過言じゃないのだから。皆とは勿論リーザス軍のメンバーも入っている。意思のない彼らをも救ったのだ。

 確かに色々と面倒事を増やしてくれる男だが、ある意味では、信頼は出来るというものだった。だからこそ、ユーリは 彼と一緒に戦っているのだろう。……止める事は多々あるけれど。



 

「さてさて、オレもそろそろ帰るか……ん?」

 ユーリは、ふと前を見てみると……、そこに誰かが立っていた。

 そのシルエットはよく知っている人物のものだ。と言うかさっきまで一緒にいたからユーリは直ぐに判った。

「何か力を隠してる、って思ってたけど……、ユーリも魔法が使えたのね」

 立っていたのは、またまた志津香だった。
 もう、流石に戻って眠っただろう、と思っていたのだが……、そこに彼女はいたのだ。彼女は、凄まじい体力の持ち主だろうか? 『魔法使い(ソーサラー)なのに』 と言う一般的な周知は 彼女にも 最早 当てはまらないだろう。

「はぁ……、もう寝ろって言ったのに。志津香って、滅茶苦茶体力あるんだな? ほんとに魔法使い(ソーサラー)か? 下手な前衛戦士より体力があるじゃないか」

 ユーリは、ついついそう言ってしまっていた。勿論、志津香も反応する。

「う、うるさいわねっ! 私はただ、アンタがほんとにあの馬鹿を止められるかどうかが心配だったのよっ!! 後で、マリア達が 嫌な目に合うなんて、私だって嫌だから!」

 志津香は、めーいっぱい顔を赤くさせながらそう言っていた。
 そもそも、彼女はマリアが満更でもない事は知っているハズなんだけど……、とりあえず、作者(ナレーター)も言わなぬが花だろう。

 暫く興奮をしていた志津香だったけれど、ユーリが諌めつつ 話しをしていく内に、ユーリの力について話しを始めた。

「どうやって、アイツを止めるのかと思ったけど……ユーリも魔法が使えた事に私は驚いたわ。ずっと、内緒にしてたんだ?」
「そりゃそうだ。『能ある鷹は爪を隠す』『切り札は取っておく』……色々とあるだろう? 自分自身の情報っていうのは、思いのほか重要なんだ。特に冒険者業をしているとな。簡単に話せる様な事じゃないけど、シィルちゃんは、信用出来る仲間だし、大丈夫だって思ってな。カミングアウトした。あの状況で黙りは 流石に不自然だし」
「ふぅん……」

 志津香はブスっ!っと頬を膨らませた。

 ユーリは判ってないと思うが、シィルに話して自分には……と言う事で。

 まず間違いなく《嫉妬》だろう。『Oh shit!』

「誰が嫉妬よっ!!!」
「って、誰に言ってるんだよ!! そしてついでみたいに、オレの足踏むなっ!」

 志津香が突然暴走しちゃったから、ユーリも思いっきりツッコミを返していた。
 そして……、流石にもう寝てもらおうと思った為、志津香が泊まっている宿にまで送っていく事にした。反対されるかと思ったがどうやら、大丈夫だった様だ。

 そして、その道中の事。

「そういえば……ラギシスの時もユーリは、私の白色破壊光線を受けたし、その前にはアイツの黒色破壊光線も……。単純に魔法が使えるってだけの能力じゃなさそうね?」
「ああ。まぁ……一応これって言う名前がある技能じゃなさそうだからな」
「え……、技能名がないの? ただの魔法とかじゃなく?」
「そうだ。単純に魔法を使えるって訳じゃない。色々と制約だってあるんだ。細かには説明してられないがな。時間がかかって仕方ない」

 ユーリはため息を吐きながらそう言う。
 この技能は、彼固有の物であり、世界に同じ使い手は今のところ見たことがない。……母親曰く、父親から受け継いだ能力だと言う事は判った。戦闘能力もそうだろう。

 志津香は、腕を組んで考え込んでいた。その彼女を見て、ユーリはゆっくりと口を開く。

「リ・ラーニング」
「ん? 何?」
「魔法を読み取る力は、《リーディング》 そして そこから学んで使える様になる《ラーニング》 それを合わせた造語だ。便宜上、オレはそう呼んでいるよ。読み取ったら当然、魔法の仕組みが理解出来たって事だから、打ち消したり、軽減させたりも出来る。心構えの様に耐性もある程度出来るんだ。 以前に志津香の白色破壊光線も、それで何とかな。……まぁ、威力が威力だから、かなり きつかったが」
「読み取って自分の物にするね。際限なく出来たらそれは確かにずるいわ。私たち魔法使いが必死に使える様になったのに」
「……ま、そう思うのも無理は無いだろうな。だが当然、色々(リスク)とあるぞ? あの志津香の魔法だってやばかったんだから。大丈夫だって言った手前失敗しそうになったし」

 ユーリはそう言って苦笑いをした。

 以前マリアと戦った時もそう。彼女の魔法を読み取り(リーディング)し、学習(ラーニング)。そしてそこから打ち消した。かなりの練度が要求されるから一概には言えない、ただ、ユーリは魔法使いとの戦闘には慣れているから出来る芸当なのだ。

 そして、魔法を知る為には、それを見て学ぶ必要がある。受ける必要があるのだ。攻撃魔法であれば、そうしなければ体現する事は出来ないし、基本的に集中していなければならない。
 ……だから、戦闘中の相手の攻撃魔法を覚える為に、当たる。なんて事は実質不可能だ。ある程度の耐性と軽減、そして打ち消すくらいが関の山だろう。……これくらいでも十分すぎると思われるが。

「ここまでオレの技能を話したのは志津香だけだ。だから、妄りに他言しないでくれよ?」
「ふふ、人質の様に持っておくわ」

 志津香は、嫌な笑みをこぼしながらそう言う。……それをダシに何を要求するのやら、とユーリは思ってしまう。

「はぁ……」
「冗談よ。ユーリと私は仲間でしょ? 同じ志を持った」
「……ああ。勿論、忘れてないよ。……忘れる筈もない」

 ユーリは拳を突き出す。
 志津香もそれに倣って、拳をユーリに向け、互いに合わせた。全ては、亡き両親の為に。


 そして、志津香には、ランスの事を話、明日はちゃんと裏合わせをしてくれる事を約束した。


 そして、志津香は間違いなく部屋に入っており、直ぐに明かりが消えた。やはり疲れている様で、直ぐに就寝に入ったようだ。……今回は珍しく盗み見しているヤツはいなかった。……それに、いつもいつもいたら、ワンパター……じゃなく、超能力者の類と疑ってしまうだろう。ただでさえ、ここの住人には人外の様な技能を持ち合わせている者が多いんだから。

「さて……と。オレもそろそろ休むか」

 ユーリは、欠伸を1つすると……。ラジールの宿屋へと戻っていった。






~ラジールの町・リーザス解放軍司令部前~


 長い長い一夜が明けた。
 ユーリは、軍司令部へと向かう道中、かなみ、そして何処かやつれた様な表情をしているランスに合流した。傍にはシィルもいる。

「おは……って、なんだ? ランス。その顔」
「なんだ……ユーリか。いや、無敵のオレ様もあれだけヤれば、体力がなくなるのだと判ったのだ……が……はは……」

 明らかに覇気のない顔。いつもの調子じゃないようだ。だが、口調だけは変わらない様だ。

「はぁ、あの戦争で疲れなかった癖に、一晩でそんなに窶れるなんて。どーせ、祝勝記念とか言って、女の子を襲ってたんでしょうけど」
「がはは……何を言っておるのだ。皆合意の上……どころか、故郷へ帰る前に、オレ様にどうしても抱いて欲しいと頼まれた……だけだ。人助けってヤツだな がはは……」
「はぁ? そんな女の子いるw「ちょっとタンマ」むぐっ??」

 かなみの口を塞ぐユーリ。かなみはわけが判らなく、混乱をしていた。そして、ユーリはシィルに確認をする。

「シィルちゃん……ひょっとしてだが、ランスは……」
「はい……ランス様は起きる寸前まで色々とお楽しみ……を……、ふぁぁ……」

 シィルは眠たそうに目を擦っていた。
 どうやら、結構遅くまでランスの下の世話をしていたようだ……。献身的過ぎる…。と思ってしまうのは仕方がないだろう。

「はぁ……かなみ、かくかくじかじかでな。話を合わせてくれ」
「は、はい! ……っ(ユーリさんの手……手が……私の……)」

 思いっきり、掌にちゅー……じゃなく、ユーリの手の暖かさを朝イチから感じて……かなみはランスとは逆でツヤツヤになっていた。

「(一応、自分に都合が良い状況になるようにかけたからだが……、あんなになるまで ヤるとはな。まぁランスだからと言えば納得はするが)」

 ユーリは、ため息を吐き、底なしの体力……と言うより、精力を感じてある意味関心もしていたのだった。






~ラジールの町・リーザス解放軍指令本部~


 簡易的だが、ある程度の人数が入れる大部屋を改造して作られている様だ。
 
 この場所には、カスタム側ではマリア、ミリ、ラン、真知子、そして志津香。
 リーザス軍側では、バレス、ハウレーン、エクス。

 少数だが、中核を担う人物が集まっているようだ。

「がはは。マリア! 昨日はグッドだったぞ? 流石のオレ様も、あそこまで出すと、チャージしなければならないのな! また、マリアも抱いてやろうではないか。がはは!」
「へ? ……あー、うんうん。約束守ったんだから、最後まで手伝ってよー」

 ランスの突然の一声にマリアは呆けた表情をしていたが、ちゃんと志津香に聞いていた様だ。志津香は、マリアの横で呆れた顔をしていた。

「はぁ……ほんっと単純」
「がはは……! おっ? おい! 次は志津香だからな!」
「誰がよ! あれだけヤったんだから、もういいでしょ!」
「馬鹿言うな、全ての美女はオレ様の物だ! がはは」

 ランスはランスでいつもどおりのランス節を言っており。ユーリは、とりあえずこのままでは進まないので、さっさと本題に入る。

「あー、兎も角 ランスは一応は満足したんだろ? つーか、体力やばいって言ってたのに、早速盛るんじゃない。……それより今後の事だ」
「うむ……ま、オレ様も流石に昨日は疲れたからな。16発は最高記録だ。がはは」
「最低……」

 横にいたかなみも、流石にドン引きをしている様だ。夢の中でどれだけヤってるんだと。……シィルの気苦労も思いつつ。


「とりあえず、説明させてもらうわね? まずこの方から。この方は、リーザスの黒の軍の将軍、《バレスさん》 そして、こちらが白の軍の《エクスさん》、そして副将の《ハウレーンさん》です。洗脳されて、これまでは敵側だったんですが、これからはリーザス解放の為に一緒に闘ってくれます」

 マリアが説明すると、名を言うのに合わせて頭を下げた。隻眼のバレスとエクスに関しては 自我が無いとは言え、剣を交えた間柄だ。

「身体は大丈夫なのか? 不可抗力とは言え、手荒な真似を すまなかった。バレス将軍。エクス将軍」

 ユーリは、軽く頭を下げた。
 特にバレスに関しては致命傷とまではいかなくとも、相応の傷を負っていると思われる。神魔法を使える者がいて、薬品関係、物資も豊富なラジールとはいえ、早々と復帰出来るとも思えないのだ。

「いや、感謝こそしても謝られる様な事はされてはいない。寧ろ、操られていたとはいえ、リーザスの為にヘルマンと戦ってくれていた人たちに刃を向けていたとは、一生の不覚……かたじけない」
「僕も同じ気持ちです。民を守るのが軍人。それなのに守るどころか手先になるなどと……」
「申し訳ありませんでした。……カスタムの皆さん」

 3人の将は一糸乱れずに頭を下げた。

 そして、その後……バレスが前へと出てくる。

 他の2人は、まだ頭を下げたままであり、気付かなかった様だ。

「儂はリーザスの総大将。部下の、そして何よりも自身けじめは、儂自身が付けよう。……真に申し訳ない。この首を持って許していただきたい……」

 突然だった。血迷ったのかと思われても無理はないだろう。
 自らの剣を引抜き、そして切腹をするつもりなのだろう、腹に突き立てる様に添えた。恐らく、だが、マリアと、そして予想をしていたようで、エクスとハウレーンの2人もそれを直ぐに止めた。

「やめてください! そんな事するよりも生きてリーザスの為に戦わないといけないでしょう!」
「その通りです。このまま死ぬくらいなら、それこそ命を捨てる覚悟でヘルマンに立ち向かっていくべきです、父上!」
「僕も白の軍を統べる将です。……バレス将軍のお気持ちは痛いほど判ります。ですが、真に国を憂いているのなら、国を救う為にも、それだけはしてはいけません。……それは無駄死にと同義です」

 3人の言葉を聞いてバレスは、剣を握る手の力がやや抜けたようだ。

「しかし……っ」

 バレスは握っていた剣が全く動かなくなった事に気づいた。
 それはバレスの剣が止まったのを確認したユーリがその剣の刃を握りこんでいたからだ。万が一にでも、突き刺してしまうのを止める為に。掌に刃が食い込み……血を滴り落としていた。

「死ぬ事は、何もならない。……アンタのそれは、ただ逃げてるだけだ。主君(リア)の事も、(リーザス)の事も、……全て放り捨ててな、それも判らないのか? リーザスの総大将は」
「……っ」

 まっすぐなユーリの目を見て、思わず背けてしまうバレス。ユーリはそれを見て更に続けた。

「……それに、娘の方がよく判っているみたいじゃないか。死ぬくらいの覚悟があるのなら、その覚悟でヘルマンと戦え。死んで楽になろうとするな!」

 ユーリはそのまま、剣を奪い取った。そして、刃から手を離しその剣を構えて、バレスに添える。

「ちょ、ちょっと! ゆー……」

 志津香は突然の行動に驚きを見せるが、ユーリが手で牽制をする。それを見て、もう志津香は何も言えなかった。何も言えなくなる程、ユーリの表情は険しく、真剣だったからだ。

 それは、他の皆も同様で、この場の全員が彼の行動を見守っていた。

 圧倒されていたのかもしれない。あ、……訂正しよう。ランスだけは そんな風には思ってなさそうに、鼻をほじっていた。正直、どーでも良さそうだ。 

「リーザスの総大将、黒将バレス。アンタは戦場でオレに破れた。そして、今も生殺与奪はオレにある。……活かすも殺すもオレ次第だ。死ぬ覚悟があるなら、その覚悟のまま戦うんだ。刃を自分に向けるな。……この預かったアンタの命、リーザスを解放するまで返さないからそのつもりでな」

 そう言うと、バレスに剣を返した。それを訊いたバレスは、俯かせていた顔を上げ、ユーリの目を見る。

「……重ね重ね申し訳ない。……恥の上乗せをしてしまう所だった」

 そう言うと、バレスは改めて頭を下げた。

「預かってもらった命。必ず取りに行きます。ユーリ殿。リーザスを解放したその時に」

 その姿を見たユーリは、表情を和らげた。これでもう、馬鹿な真似はしないだろうと思えたからだ。
 
 そして、一部始終を見守っていた皆からも、声が飛ぶ。

「もうっ! バレスさんは この中で、1番歳上なんだから、もっとしっかりして下さいよ?」
「……かたじけない。これからは粉骨砕身。リーザスの為、リア様の為にこの身体を捧げよう」
「おっさんの身体を捧げられても誰も喜ばんぞ?」
「馬鹿っ! ランスは茶々いれないでよ!」

 色んな話が飛ぶ。ユーリはと言うと……マリアが歳の話題に触れてから一瞬冷やりとしたが、そんな話にはならないようだから、一先ず安心する。……勿論、その仕草はある人物には見抜かれていた。

「(ははっ、バレバレじゃん。気にしなくてもいいのになぁ? 別に)」
「(ふふ……それは間違いないですね)」

 それは勿論ミリと真知子であり、この場の一番鋭い女性、トップ2 となっていたのだった。

 ロゼは、現在この場にはいない、いたらいたらで、色々と面倒事になりそうだと、ユーリは安心していた。

 後、《ロゼ・センサー》を習得しつつあるトマトも、判るかもしれなかったのだが、トマトにとっては残念な事に、本業であるアイテム屋で物資を調達する方に追われており、この場にいなかったのだった。

「そう言えば、あのコは大丈夫なのか? リーザスの紫将……《アスカ》と言ったかな」

 ユーリはそれを思い出しながらそう聞いた。この場では、戦場で一際目立った者が揃っている。その中でも圧倒的なオーラをまとっていたのが、バレスとエクス。そしてアスカの魔法力だったのだ。

 だが、彼女は今ここにはいない。

 もしや負傷して状態が思わしくないのか?と思ったようだ。

「いえ、アスカ・チャカ殿はお休みになられてます。申し訳ありませんがまだ幼子ですので、それに消耗もされておりますから」
「まぁ……容姿……容姿から考えたらな」

 少し、自分から話題をふってしまったと一瞬後悔もしたが……後の祭りだろう。それよりも彼女の魔法力には目を見張るものがあったのも事実だった。志津香を上回っているかもしれない力を感じたからだ。

「あ、ユーリさん。アスカちゃんは、普通の女の子なんです。かぶっているあのチャカ様の力なんですよ。アスカちゃんの戦闘力……魔法力は」
「………え??」

 ユーリは、まさかのかなみの発言に少し動揺をしてしまっていた。確かに何か着ぐるみを装着しているのはわかっていたが……確かに軍の将とはいえ歳を考えたら、とあまり気にしてなかったからだ。

「あの着ぐるみこそが、彼女の祖父、チャカ様です。ユーリ殿、とある魔女の呪いによってあのような姿をされておられますが、元は人間であり、紫の軍の将軍だったのです」

 エクスが一歩前にでて説明をしてくれた。

「……成る程、つまりは身体能力面では幼子のそれと言う事、か。……なら、戦闘に出す事すら したくないな。乱戦が多いから危険だ」
「それは同感ですぞ。元々はチャカは反対していたのですが……何分お孫には甘く、押し切られたも同然でしたな」
「……確かに、子より孫が可愛く見えるのはわからんでもないが……、幾らなんでも限度があるだろ?」

 ユーリはため息をはいた。
 頼まれた、と言うが。何かをおねだりした。とかならまだしも、戦闘に出たいと言って許す方が呆れる。出たいと言う方も凄いと思うが。

「まぁ、あのコは確かにね。ウチにもミルがいるけど、消耗度からも考えたら待機が妥当よ。よしっ、さぁこれからの事を話すわ」

 マリアは前に立つとそう言う。まだまだ、すべきこと、やらなければならない事は沢山あるのだから。皆は、頷いて席に座った。

「これから私たちは、ヘルマン軍からリーザスの国を解放するために戦いを始めるわ。……これは正義の戦いよ!」

 マリアは高らかにそう宣言した。
 攻め込まれたこと、そして魔人と手を組んでいる。その事で相手は明確な悪だと認識しているのだ。その言葉を聴いてミリが勢いよく立ち上がる。

「へ、おもしれーじゃねえか、ここでヘルマン軍を叩いておかないといずれまた、カスタムの町にも攻めてきやがるからな? ……徹底的にやってやろうぜ」
「そうね。これ以上は好き勝手させないわ。これまでの事、それも全部まとめて返してやる」

 ミリの言葉に志津香も同調した様だ。

 傍にいたハウレーンは2人に頭を下げた。国の為に共に戦ってくれると再認識したからだ

「……ありがとうございます。ミリ殿、志津香殿」
「良いのよ。悪いのはヘルマン軍の方なんだから」

 志津香は笑ってそう答えていた。その後は、ハウレーンに続いてエクスとバレスも暫し頭を下げていた。そして。

「現在の私たちの軍勢はカスタムの軍約200。そしてバレスさん達が率いるリーザス軍4000。これなら何とかなるわ」

 マリアは白板に自軍の勢力を書き込んでいった。その数にユーリは少し驚きの表情を見せる。

「負傷したカスタムの防衛軍の皆はもう大丈夫なのか? 幾らロゼやシィルちゃん、2人の治癒術士(ヒーラー)がいたとしても、早すぎると感じるな……変に無理はさせるなよ? これは持久戦なんだからな」

 ユーリがそう忠告をする。
 この地域は奪還したが、まだまだリーザスまでの間、そして自由都市圏内もヘルマンの手が回っている可能性がある。……どの程度までかかるのかが、明確にならないのだ。

「その辺は大丈夫ですよ。ユーリさん」

 真知子がニコリと笑った。そして、ランも続ける。

「薬屋を営んでくれているミリさん、そしてアイテム屋のトマトさんも頑張って頂いたんです。そして、何よりもロゼさんですね」
「んん? ロゼがそんなに頑張ってるのか……? 後が怖いな」

 ユーリは若干表情を引きつらせながらそう言っていた。
 魔法を使うのは当然だが、精神力を持って行かれてしまうのだ。あの数を治癒するとなると……、当然だが、それ相応のものを持っていかれる。シィルが長時間ランスから離れて皆を治しに行くのはランスが許可する訳もないだろうから、ロゼの負担だって多いだろう。

「それがですね? ロゼさんがくすねておいてくれたんですよ。《全治全納の神》をね?」
「……マジか。あれって相当レアなアイテムな筈だぞ。一体どうなってるんだ、アイツのAL教団内での地位は……」

 くすねた、と簡単に言ってくれているが、貴重なアイテムは基本的に厳重に保管されている事だろう。AL教団ならなおさらだ。それを簡単にくすねられるなんて……と思ってしまうのは普通だ。ユーリは今度、クルックーに会ったら、ロゼについて聞いてみようか、と思っていた。

「とまぁ、ロゼの活躍もあって、オレ達は随分と回復したんだよ。ありゃ広範囲回復アイテムらしいな。薬屋の面目丸つぶれっていうくらいの効果だったぜ?」
「そりゃそうだな。あの光が降り注ぐ範囲が等しく平等に回復が得られる。集まったら大人数が回復するだろうな。回復アイテムの中では最大級クラスの代物だよ」

 ユーリはそう言って笑っていた。一歩間違えればバランスブレイカーとして登録されかねない代物だろうから。いや、だからこそ AL教が管理しているのだろうとも思えるのだ。

「……リーザスも、きっと……これならきっと……」

 かなみは、皆の話を聞いていて、全体の勢力を聞いていて……、希望が強くもてたと改めて思っていた。ユーリの助けを得られただけで、彼女にとっては希望そのものだった。

 その上、黒と白の将軍の2人、そして副将。彼女の心が綻んでしまうのも無理はないだろう。

「……かなみ」

 そんな彼女の頭に手を乗せた者がいた。

「本当によくやってくれた。お主がいてくれたから、この現状がある。心強い味方が得られている。……国をつなげてくれたのはお主だ」
「ば、バレス様……」

 かなみは涙目になったが、直ぐに首を振った。

「……いえ、わ、私はマリス様を……リア様を……みすみす」

 顔を俯かせるかなみ。彼女の脳裏には未だ焼き付いている。あのリアの部屋で何が起こっていたのかを。……扉は打ち破られ、そして怒声と共になだれ込んでくる無数の黒い影を。

 そして……冷酷な目でこちらを見てきたあの女兵士の表情を。

「違いますよ」

 バレスの傍にいたエクスは首を振った。

「それが最善の策だと、マリス殿も判断したハズです。あれ以上の布石はもう打てない。そして、その布石である貴女が齎したのですよ。この結果を」
「そうです。かなみさん、貴女のおかげで私たちも再び立ち上がる事が出来ました。貴女にも礼を言わせてください」

 合わせてハウレーンも頭を下げた。
 国を見捨ててしまったと自責の念にかられていた彼女にその行動は心に深く届いていた。……自然と涙が出てしまいそうになる。

「かなみ」
「っ……」

 そして、話をしていたユーリも、忍び足でかなみの傍へと来ていた。

「……悔やむどころか誇っていいさ。認めない者などここにはいないだろう?」
「っ……は、はい。でも、リア様を救い出すまでは……」
「ああ。もちろんだ」

 ユーリはニコリと笑ってかなみの頭に手を乗せた。それを見て、涙目になったかなみは、すっと目を拭っていた。
 涙も、その時の為に取っておこうと決めたのだ。

「心よりお礼申し上げます。ユーリ殿」
「返しきれぬ恩義。いつか必ず……」
「良いさ。かなみは、大切なオレの友人。……友人を見捨てる事は、オレには出来ないからな」

 バレス、そしてエクスとハウレーンはユーリに頭を下げてそれに答えるユーリ。その目は互いに信頼し合っている様にも見えたのだった。

 そして、話はヘルマン達の勢力数について。

「私が調べた結果によると。……リーザスの国を占領しているのは、ヘルマン第3軍。……人類最強と称されるヘルマンの英雄、《トーマ・リプトン》が率いている軍勢です。数にして1万。そして他にもリーザスの洗脳部隊も約1万、そして魔物によって構成されたモンスター部隊が2万となっています」

 真知子はよどみなく答えたが、流石に唖然とする数だった。
 このカスタムとリーザス軍の全員を合わせても一万の半分にも満たない数なのだから。何をするにしても数の規模が違いすぎるのだ。

「そりゃ、半端ねえじゃないか……真知子。こりゃマリア、ちょっと無理だぜ」

 流石の男勝りのミリも戸惑ってしまう数。数の暴力とは言ったものだ。だが、ユーリは首を横に振った。

「ミリ、大丈夫だ」
「何が大丈夫なんだよ。いくらユーリでも4万の敵相手に暴れられるのか? まさかだが、『オレ様は変身を後3段階残してるぜ!』的な感じで戦えたりするのか?」
「……なんでだよ。漫画の見すぎだ」

 ユーリは、ハリセンでミリを叩いた。
 いつもながら、何処から持ってきてるのだろう?と思ってしまうがそこはスルーだ。

「いえ、ユーリ殿の言うとおりです。恥ずかしながら我が軍のように、敵に洗脳されているリーザスが精鋭たちが各地に潜伏しております。それらと合流、解放できれば……」
「がーっはっはっは! 成る程な、サファイアちゃんのよーな、可愛コちゃんが操っているとなると、オレ様の出番だな!」
「なかなか話に加わらなかったと思えばそんな所だけ加わって! 真面目にしなさい!」
「馬鹿言え、面倒くさい話など、下僕のユーリが全てするのだ」
「だーから、誰か下僕だっての……」

 ユーリは呆れていた。
 下僕発言もそうだが、あの幻覚の中……相当ヤった筈なのに、もう精力が戻ってきているのか、という部分も強かった。ランスは1人で盛り上がっているようだから、ほっといて先に話を進める。

「リーザス解放軍はそれで強化出来る。強化しながら進軍を続ければ勝てる筈です。……正義は我らにあるのですから」
「そう! 其の通りです! そして何よりもっ!!」

 マリアは、奥から白板じゃなく、黒板を出してきた。そこには何かを貼り付けていた。……どうやら、何かの設計図の様だ。

「私たち、カスタム軍には最終兵器があります! その名もチューリップ3号っ!! これがあれば鬼に金棒よ!」
「ま、話半分に聞いちゃって。じゃないと延々と講義を聞かされるから」
「ちょっと! 酷いじゃない志津香っ! これは本当にすごいんだから!」

 志津香の突っ込みにマリアが過剰に反応した。そのやり取りもあってか、会場内での不穏な空気は更に和らいだ。数の差を聞いている以上、確かにリーザスの1万がこちらに向いているとはいえ、そこまで言って初めて約五分の数なのだから。

「……洗脳兵か。相手は、使徒だと言っていたな? ランス」
「ん? そんなんは、知らん。ただのトップレスの可愛いコちゃん。サファイアとイチャイチャしていただけだ」
「はぁ……はいはい。シィルちゃんは、どうだ? 覚えていないか?」

 ランスに訊いたのが間違いだったとユーリは思い、シィルの方を向いた。シィルは、こくりと頷いた。

「はい。……魔人アイゼルの使徒、と言っていました。使徒の1人、とも言ってましたので、彼女以外にも……」
「だろうな」

 魔人の名を聞いたユーリ。
 表情が強ばっていたが、皆は誰でも同じだろうと別に気にしなかった。特にそばにいたかなみは、以前別の魔人と戦った経緯もあるからと、思ったようだ。だが、ユーリが考えていた事は別にある。

「(……ここまでくると、裏の裏がありそうだな。……本当にカオスだけ、なのか? アイツ等の狙いは。……ホーネットは、この1件を、どう思っているんだ? 確定しているだけで仲間が2人も離反している。……彼女は、知っているのか? 人間界に魔人いて、そして 加担していると言う事実を)」

 その事だった。

 だが、それはこの場で話さなくてもいい事だ。だから、話を変える。

「あの数だ。以前ランから説明を受けていたが、魔人なら、その使徒なら、納得せざるを得ないだろうな」
「はい……。魔人の力によるものだと思えば……確かに」
「まぁ、確かに敵は強大なのは、最初から判っていたわ! だからこそ、ここは最終兵器、チューリップ3号に大船に乗ったつもりで乗っかっちゃって!」

 マリアは、相変わらず黒板を叩きながら宣言した。話半分に聞きつつも、ユーリは、期待はしていた。

「(あの時、ラギシスと戦っていた時のは、チューリップ2号、だったか? あれを進化させたとしたら相応の破壊力だろうからな)」

 ユーリはそう思っていたのだ。ラギシス戦を知っている者なら、皆が知っているだろう威力。だが、如何せんマリアの熱が入れば、その威力に比例して言動が多くなるから、性能のお披露目は戦場でとなりそうだ。
 そして、作戦も一段落着いた所で。

「さて、儂達は、駐屯所で待機している他の兵達に指示を出してきます」
「僕は、他の町の状態、情報を仕入れてきましょう。ここからなら、レッドの町が近しい位置。あの町も占領されている筈ですから」
「私も手伝います。エクス将軍」

 3人はそう言うと部屋を離れていった。

 そして、残ったメンバーも一時解散と言う旨を伝える。

「がはは。さぁ シィル! 腹が減ったぞ? 町の酒場へと行くのだ」
「あ、はい。ランス様」
「さて……オレも別件を調べないとな。かなみ」
「……はぃ。ユーリさんは覚えておいてくれていると信じてました」

 かなみは、ランスの言葉を聴いて、そしてユーリの言葉も聴いて、そう言った。勿論、解放の戦略と作戦は着々と進行中だが、最優先事項もあるのだ。それが、忘れ去られかけてた?聖剣と聖鎧の事。
 
 つまりは、ローラの行方だ。

 位置的にも時間的にも彼女の行動範囲的にもラジールの町にいる可能性が高いのだから。

「結果を見たら、ランスも酒場に行くんだ。……考えてない用だが、本能で大体は良い方向へ向かうんだアイツの場合」
「……信じられませんが、ユーリさんがいうのなら信じます」
「矛盾しそうだが……まぁ良いさ。気持ちは判る」

 ユーリは苦笑いをしていた。

 その時だ。

「ちょっとお待ちください。ユーリさん、かなみさん」
「ん?」
「はい?」
 
 真知子が2人を呼び止めたのだった。

「ランスさん、お2人と少しお話があるので、少々構いませんか?」
「む? 何の話だ? まさかオレ様に黙ってよからぬ事を話すのではないのか?」
「いえいえ、これからの戦いは情報戦もあります。白の軍も加わってくれて、情報収集能力は、更に極まって高くなりました。ですが、正直な所、私じゃ追いつかないので、お2人に頼みたい事がありまして……。ランスさんも手伝っていただけますか?」

 真知子はニコリと笑いながら、数枚、否、数10枚の紙の束を取り出した。それには、びっしりと字が書かれており、宛ら呪文の様だ。

 所々図はあるようだが、6,7割は文字。ランスはそれを見た0,2秒後に。

「それ、ユーリに任せる」
「早いな……」
「バカ言え、こう言う役目こそ、下僕がする事だ! がはは。オレ様はローラちゃんの情報をしっかりと掴んでおいてやる! ありがたく思え」
「はいはい。とっとと行ってこい。期待してないが」
「あ、すみません……ユーリさん」
「シィルちゃんは良いさ。期待してるよ」
「おいコラ! シィルだけとは何だ! それにシィルも軽々と頭を下げるんじゃない!」
「ひんひん……」
「やめなさいって、ランス……」

 かなみは、頭を何度もぽかぽか叩くランスに苦言を言っていた。苦言を呈つつも、ランスの頭の中にはローラの事が残ってくれた事に若干安堵もしていた。……聖武具の事はないと思えるが……、そこまでは期待していないので、もういいのである。


 こうして、ランスとシィルは町での情報収集。そして、ユーリとかなみはこの場に残って真知子の手伝いをする事になった。


――……だが 真知子が言っていた事は 殆どが嘘だったのである。


 2人を残したのは……別件だったのだったのだ。































〜人物紹介〜

□ フミカ、ホムラ、レンカ(ゲスト)

ランスの夢の中に出てきた女の子達。
青みがかかったショートヘアのフミカ。ボーイッシュな顔立ちであり 赤い髪のホムラ、そしてオレンジの髪に大きなリボンをつけたレンカの3名。
三位一体となって、ランスに迫って幻覚の中だが、ランスに最高記録を出させた性豪者達。
現実世界でいるかどうか……は疑問である。

名前は《フミカ》FLATソフト「シークレットゲーム」より
   《ホムラ》FLATソフト「うたてめぐり」より
   《レンカ》FLATソフト「うたてめぐり」より



〜技能紹介〜

□ リ・ラーニング(オリ技能)

もう殆ど性能は判っていた事だと思われるが……漸く判明したユーリの隠された技能の1つ。
Lv3なのは、今現在の時代において、使い手が彼しかいないからである。
魔法を見て学び自分の物にするのだが、制約として、覚えられるには限りがあり、勿論性能が高ければ高いほど、ストックは減っていく。
元々ユーリの攻撃手段は剣による戦闘の為、直接的な攻撃魔法は殆ど覚えず、特殊魔法を覚えている。(スリープや幻覚等)
その能力の真髄は覚えて使う事よりも、防御の方であり 一度見た魔法を身に覚えたら耐性がつき、且つ格下であれば、消去する事も出来る。(居合で打ち消したのもこの応用)
……が、勿論覚えるのには、受けてみなければならない為、結構しんどいのも事実である。

 
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