ランス ~another story~
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第3章 リーザス陥落
第49話 リーザス解放軍結成
喋る寒天と言う奇妙な物体を超えた3人。そこから先にも、当然ながら モンスターもいる。《ブルーハニー》《ロンメル》《ミートボール》……etc
そして、何よりも、寒天壁を越えたからといって、直ぐに上にたどり着くわけも無い。いつまでも続く……と思ってしまう程の長さの大螺旋階段だ。落下防止の手摺りなどと言う気の利いた代物などは無く一歩踏み外しでもすれば、螺旋階段から真っ逆さま。ノンストップで1階のフロアまで落ちてしまうから、冗談抜きで死ぬだろう。
「…………」
そんな螺旋階段も4~5周回った所で、ランスは立ち止まった。
「ランス様? どうしたんですか、急に立ち止まって」
先頭を歩いていたランスが、突然立ち止まったから、シィルが必然的に追いつき、ランスにそう訊いていた。ランスはと言うと、首を何度か コキっ、コキっ と鳴らした後。
「飽きた」
と一言。
「へっ?」
シィルは、何を言っているのか、判っていなかった様だが……、恐らくユーリやかなみであれば、速攻で判っただろう。と言うより、『よくぞここまでもった方だ』 と言いそうだと思える程だ。
今は、ユーリがいない為、『も、良い。オレ やっとく』と言う必殺言語? も使えないから、ランスのやる気スイッチ? を押せる者がいないのだ。 だから いつも通りのランスに戻ってしまっていたのだ。
「メンドくさい。何でこのオレ様がこんな遺跡をぐるぐるぐると足で登らなきゃならんのだ!」
「え、ええと、でもそれは……」
シィルだけでは、ランスの背中を押すのは無理だろう。必死に何とか やる気を出してもらおうとしていたのだが、ランスはというと、この灯台の上を眺めつつ、笑う。
「がははは! おい、フェリス!」
「うっ……、この流れ、嫌な予感が……」
一番後ろに控えていたフェリスは、冷や汗をダラダラと流していた。
ランスが上を見た時から、察していた様だ。この螺旋階段は確かに足で登ろうとしたら、長いだろうが、《ヨコ》で見るより、《タテ》で見たら遥かに近いのだ。
そして、フェリスは その嫌な予感が完全に的中する事になる。
「オレ達を引っ張り上げろ! 空飛べるんだから、行けるだろ!」
空気を読み、期待を裏切らないランス?
フェリスは 抱えきれない、と言ったのだが、ランスはロープを取り出した。……拘束用のロープであれば、在庫は切らせていないのだ。
そして、何よりも今は ランスが主人である故に、断る事も出来ない。ここから フェリスの昼の肉体労働が始まるのだった。
~カスタムの町防衛戦~
戦塵が渦巻くカスタムの町周辺の荒野。
圧倒的に兵力の差があると言うのに、物ともしないのはカスタムの戦士達だった。
「いけーー! 幻獣さんっ!!」
幻獣魔法を得意とするミル。彼女の魔法の最大の利点は 幻獣には物理的攻撃は一切通じないと言う所にある。彼女の幻獣を使って、敵を攻撃する事も勿論出来るし、更に味方の窮地を救う事だって可能だ。
フィールの指輪を使用していた時、に比べると、圧倒的に少ないし、幻獣の力も小さいものなのだが、彼女の存在は十分すぎる程戦力になっているのだ。
「っへへ。流石オレの妹だ」
「ミリさ~ん! よそ見厳禁ですかねー!」
ミルの姿を見て笑みを見せるミリ。そして その隣で戦っているトマト。背中合わせで戦っているのが、カスタムの町 薬屋とアイテム屋。凄い組み合せだと思える。
「トマトっ、随分と気合入ってるなぁ!」
「勿論ですかねー! 特典がハンパなさすぎですからねー! あの特典は、トマトのアイテム屋で幾らサービスしたとしても、足元にも及ばないですかねー!」
剣をぶんぶんと振り回しているトマト。 その姿を見て、ミリもニヤリと笑う。
「あははは! 確かにな! 戦いを楽しめるってもんだ。もっともっと、楽しもうぜ! 終わった後を楽しみにしつつな!」
「とーぜんですかねー! 負けないですよー!」
「オレもな!」
次々とヘルマン兵達を屠っていく商人達。
「行くですよーー!!」
そんな時、トマトが何やらゴソゴソと、アイテム袋から取り出したかと思えば、裂帛の気合と共に繰り出される剣。
なんと! その剣は真っ黒に染まっていたのだ。
「レンゴク~・トマトスペシャルですかねーーー!!」
真っ黒に染まった剣。それはまるで、ユーリの必殺技の代名詞である《煉獄》と非常に酷似していた。
「と、トマトさんっ!?」
比較的、傍にいたランも、驚き、目を見開いていた。その漆黒を纏った剣。……その漆黒は相手にも伝染し……。
「あはははは!! イカまんの墨を擦りつけただけじゃん! でも、馬鹿らしくてグーよ!」
ダ・ゲイルに自身を護らさながら、トマトの剣技を拝見。
トマトが纏ったその漆黒。それはトマトが振るう度に周囲に撒き散らしているのだ。ヘルマン兵の顔面にも、べちゃり! と付着し 相手の視力をも奪っているから、厄介と言えば厄介。……味方にも当たりそうなのだが。
「きゃあっ! と、トマトさん! こっちにも 墨、墨飛んできてますよ!」
「ああっ、チューリップ隊の皆さんは、少し離れておいた方が良いですかねー!」
「オレらにも、被害被ってるんだから、クリーニング代はトマト持ちだな」
トマトのレンゴクの被害を受けてるのは、味方も同じだった。
「こらぁぁぁ! アンタ達! 遊んでないで、しっかり戦いなさい!!」
そんな中、怒号が飛ぶのは志津香の声だ。
リーザス屈指の魔法使いである《アスカ》を相手にしているから、志津香には余裕はまるでない。かなみと一緒に戦っているとは言え、相手は本当の敵じゃないのだから、怪我の1つもつけたくないのだ。その容姿的にもそうだ。
「し、志津香! 危ないよっ!」
かなみが、必死にフォローに回る。アスカの魔法は 水を中心に使っている。おまけに、広範囲の水魔法である迫撃水を撃ち放たれてしまっているのだ。
「大丈夫っ! 粘着地面・蒼引!」
勿論志津香も、この相手だ。油断などはサラサラしていない。彼女の放った粘着地面は 最近ではランスの足止め程度にしか使っていないのだが 勿論戦闘でも十分に使える魔法であり、事、足止めにおいてはかなり優秀な魔法である。
そして、志津香がこの時使った粘着地面は 流動する水をも、くっつけてしまい 広範囲に広がる迫撃水を完全に止めたのだ。
「マリアが得意だった魔法だったしね。……何度も見てるのよ」
カスタム四魔女の中で最強である志津香。その知識と魔力は リーザスの将軍にも引けを取らないのだ。
「……凄いっ」
かなみも、驚いている。広がる水をどう避ければ良いか、火を扱う忍術が中心のかなみには、ぶつけるには相性が悪すぎるから、ダメージを覚悟していたのだが、志津香が完全に止めてくれたのだ。
「志津香も気合入ってるわね~~。こりゃ、甲乙つけがたいわ~」
「むむむーー!! 負けないですよー!」
「だから、遊ぶな!! 真面目に戦いなさい!!」
「はははは! こんな大乱闘で、何で、こんなに笑えるんだ? すげーぜ。こんな安心出来る戦いって初めてってもんだ!」
「うぅ、私も頑張る!!」
「私も……」
和気藹々としている乙女達だが、勿論戦っている。
普段の防衛戦よりも 大規模な数。……確かに 完全に油断し 戦いにすらならないとまで思っていたヘルマン軍だったが、それでも 通常であれば徐々に地力の差が出てくるものだが、一切出てこない。
魔人の使徒であるサファイアが《ストロング》と認めた程のモノは、今 この戦場の中心で戦っている《彼》だけじゃなく、この乙女達の事でもあるのだった。
「ほんと、大したもんだよ。……アイツらは」
将軍2人相手に、捌ききっているユーリ。あの訳の判らないロゼの言葉はとりあえず置いとく、確かに 士気向上はした様だから。……その内容は深く考えていない様だった。それが 乙女達にとっては辛い出来事。
そして、操られている状態でとはいえ、将軍2人相手をしつつ、周囲に気を配れるこの男が、この場で一番人外であると言う事は 最早言うまでもない。
~地上灯台 最上階~
一方、同時刻のランス達はというと、とうとう最上階にまで到達する事が出来ていた。
最後の2階は 螺旋階段ではなかった為、フェリスの肉体労働は 終わっていたのだけど。
「ぜひっ、ぜひっ……」
盛大に肩で息をしているフェリス。その背中には哀愁が漂ってさえ見える。もしも、ランスとシィル以外にもメンバーがいたら……? と考えただけでも背筋が凍る思いだろう。
「だ、大丈夫ですか? いたいのいたいのとんでけー!」
シィルは、せめて 疲労を少しでもとろうと 回復魔法を掛ける。神魔法に分類される魔法だ。悪魔であるフェリスに効くのか? ひょっとしたら、ダメージになるのでは? と思っていたが それは問題なく、フェリスの身体にもヒーリングは効いた。
「あ、ありがと……。も、もう 無茶させないで……」
「がははは! 悪魔の癖に、体力がたらんぞー!」
ランスは、殆どをフェリスに運んで貰ったから 体力も十分に温存できているから元気だ。それを見たフェリスは、息を切らしながらも、反論をする。
「……む、無茶言わないでよ。私……、というか、悪魔は日光に弱いんだから」
「は? 日光?」
「そ。陽のあたる場所とか……、天使の影響がある聖なる場所とかも。通常の半分以下になっちゃうから……」
「おー、だから悪魔回廊の時に比べて、へっぽこになっているというわけか」
「へっぽこ言うな!! っ ぜー、ぜー……えふんっ」
息を切らせている+日光がばっちりあたっているのを忘れて盛大に反論してしまった為、むせてしまっていた様だ。 だが、ランスは追撃をやめる筈も無い。
「がははは、そもそも なんだ、その引きこもり設定は。調子の善し悪しく位は、気合で乗り切るものだ!」
「む、無茶を……げほっ」
「うーむ。マジできつそうだ。おい、シィル。しっかりとこの下僕を回復させてやれ。サファイアとやらが、男だった場合は、全面的に使う予定だからな」
「あ、はい。ランス様」
「………」
苦労悪魔フェリス。彼女の苦難はまだまだ、始まったばかりだった。
そして、更に数分後。階段が途切れているのを確認した。どうやら、この先のフロアが天辺の様だ。
「おっ、ついた様だな。さーて……おっ?」
ランスは、辺りを見渡すと、人影を発見した。……それも、ランスにとっては最高のモノ。
「トップレス女の子、発見! お前がサファイアか?」
「…………」
「おいこら、なんとか言え」
その上半身丸裸の女の子の豊満な胸をつついたりしてみるランス。だが、まるで反応は無かった。
「無視か? こら。訊け!」
「ランス様。……なにか、魔法の最中みたいです」
「魔法か。つまりは、こいつがここからあの兵隊共を操ってると言う訳だな? ……ぐふぐふ。仕様があるまい。ここはオレ様が人肌を脱ぐとしようではないか! がははは!!」
ランスのいやらしい顔、そして手つきを見たシィルは、悲しそうな顔をして、そしてランスに一時的とはいえ、解放されたフェリスは 今の内に息を整えなおす。
「(……こんなコが何でランスを慕ってるのか、意味不明だ。……もう片方の、ユーリなら、まだ兎も角)」
悪魔であるフェリスにまで、困惑されるシィル。フェリスは、少しの間 ランスとシィルの事を考えてはいたが……、己の状況を憂いだした為、直ぐに考えるのをやめるのだった。
そしてその後。
「ひゃあああああああぁぁぁぁっっ!?」
女の子の悲鳴が、地上灯台内に盛大に木霊するのだった。
~カスタムの町~
町ではまだまだ戦塵は立ち上っていた。
だが、乙女達の戦いに対するモチベーションはヘルマン軍達のモチベーションよりも遥かに優っていた為か……、乱戦では殆どありえないとさえ思える。
結果から言えば、カスタム側は、まさかの負傷者は1桁前半程。逆にヘルマン側の兵隊はその100倍以上はやられて倒れてしまっていた。
「……ランスの作戦、いらなかったかもしれないな。ああ、でも今後を考えたら必要か」
ユーリは、正直 やや唖然としながら周囲を見ていた。
圧倒的に多いヘルマンの軍勢をものともしないのはカスタムの防衛軍達。
中でも主力のメンバーが頼りになりすぎる。ミリは男顔負けの剣技で巨躯な身体でおまけに重装備のヘルマン兵をなぎ倒している。
それは、トマトも同じであり、ミリ程ではないが、それでも本当にパワーアップをしたかのようだ。ユーリは見ていなかったが、トマトの必殺技もなんとか決まっているらしい。
その隣では、ランも見事な魔法と剣の融合。魔法剣とも言える技量を見せており、あらゆる敵を翻弄しつつ 倒していった。
ミルもこの場では二番目に幼い様だが、これまでの疲れなど無かった。と言わんばかりだった。幻獣を使い時には攻撃、時には物資を運び、時には 移動手段ともする。まさしく万能とも言える魔法だ。
「とと、オレはオレの方で集中しないとな……。ふんっ!!」
ユーリは、抜刀術でエクスを吹き飛ばした。刃ではなく峰の部分の抜刀術。
刃を滑らせる事で、速度を出す抜刀術、居合なのだが、峰では鞘走りが悪く 通常よりも遅い速度になってしまうが……。
「……洗脳されているとは言え、疲労は蓄積されるだろう?」
撃ち放った場所は、エクスの水月の部位。
人体の急所の1つであり、強打されると一瞬だが息ができなくなってしまう。悶絶させる一撃なのだ。洗脳されているとは言え、息ができなければ立つ事もままらないだろう。
「ッ……!!」
エクスは、悶絶しながら、地に伏した。
「……もっと違った形で手合わせ願いたかった。すまないな」
倒れ伏すエクスにそう呟くとユーリは、背を向けた。
まだ、相手はいる。黒の軍の将であり、リーザス軍総大将バレス。所々傷は負っているものの、歴戦の強者だ。倒れる事を知らないかのようだった。
「………っ!!」
虚ろな目をしながらも、まるで魂が篭っているかの様な力で撃ち放ってくる。戦士としての戦う本能のみだけで戦っているようだ。
「ランス……まだか? こんな男を死なせる訳には……。いや……この武士は死んでも止まらない」
峰とは言え、何度も強烈な一撃を体中に入れている。
良くて骨折は免れないだろう一撃。目の眼帯も吹き飛び、その目の傷も顕になっていた。
一撃をかわし、そして交差越しに一撃を入れる。それが何度も続いているのに止まらないのだ。バレスは、何度でも向かってくる。
「………!!」
「……こいっ!」
ユーリは最速の動きで、最大の一撃を入れた。その一撃がバレスの脚を捉えた。一撃を受けたバレスは、体勢を保っていられなくなり地に伏してしまう。だが、それでも懸命に立ち上がろうとするバレス。
「……見事。それしか、言葉が見つからないな」
ユーリは決して侮ったりはしていない。傍から見れば圧倒的なのは明らかにユーリだった。だが、それでも何度倒しても向かってくるその姿は、正に怪物とも言えるだろう。リーザス軍のトップに相応しい。
「だが、これまでだ」
ユーリは手を翳した。
この状態で、そしてこれだけ体力を消耗していれば問題ないだろうと判断し、スタイルを変更したのだ。
「スリープ」
「……!」
ユーリのスリープでバレスは、上げていた顔を地面に落とした。決着が着いた瞬間だった。
「ふぅ……」
ユーリは一息ついた。バレスとエクス、そして他にも無数のヘルマンの兵達。流石に疲れてしまったようだ。その疲れの要因を作ったのがリーザスの将の2人。
「……休んでる暇はないな」
ユーリはすぐさま行動を再開した。
すぐ後ろで戦っていた志津香とかなみのペアもなんとか勝利を収めたようだ。相手は一人だったのだが、格上の使い手な上に成るべく傷つけずに制する事は、難しい事なのだ。
「はぁ……はぁ……お疲れ、かなみ。……正直、侮ったてたわ。白兵戦でも十分すぎる程、強力な力」
「志津香も……ふぅ、あ、アスカちゃん……は、普段は本当に良いコなのに……っ」
かなみは、倒れているアスカにとりあえず拘束を施した。
身に纏っている、着ぐるみ、チャカと彼女を引き離す事には成功したが、洗脳されている以上は、まだ危険なのだから。
「ば、ばかな……! リーザスの主力がこんな片田舎の防衛軍何かに負けたっていうのか!?」
スプルアンスは、目を見開き驚いていた。
何故なら 自身のとっておきであり、切り札でもあるリーザス洗脳軍のトップの殆どが尽く敗れ去ってしまったからだ。
その上、自軍も明らかに数が減った。相手の何十倍も……。
「う、うわああ!!」
「む、無理だぁぁ!!」
「こ、こらあ! 逃げるな!! 戦えッ! お前らも行け!! この能無しどもが!!」
スプルアンスは、激を飛ばしながら蹴りつける。その相手はリーザスの洗脳兵達だった。
「………」
「………」
何も言わず、ただただ只管に命令のままに戦い続けていたリーザス軍だったが……、ここで変化が訪れた。
「おらぁ!! あんな雑魚軍団に負けてんじゃねえ!! この能無しが! とっとといきやがれ!!」
「黙れ……ブタが」
「……は?」
スプルアンスは、耳を疑った。操り人形だった洗脳兵が、口を開いたのだ。その上……。
「な、なに!? ば、ばかな……」
「よくも……よくもやってくれたな。ヘルマン共……!!」
反旗を翻す様に、リーザス軍の面々が一斉に攻撃方向を変えた。
「やっとか……」
ユーリは、それをいち早く察知する事が出来ていた。当然だろう。今、カスタム軍とリーザス軍が中心で戦っているのだから。ヘルマン軍は基本的に後衛で待機が殆ど。つまりは完全に盾としていたのだ。その盾が、今……。
「……今度はこっちが蹂躙する番って奴だな? 彼らの尊厳を踏みにじった報いを受けろ!」
ユーリの言葉にまるで同調したかのように……、一斉に怒涛の如き速度でヘルマン軍を壊滅していった。
それはスプルアンスも例外ではない。何が起きたのかわからぬまま……、幾つもの剣を身に受け絶命していったのだった。
「よっしゃーー!! ですかねーー!!」
「お疲れ、トマト」
トマトの勝利の雄叫びが響き渡り、そして隣にいたミリが手をあげる。
「いや、お前はマジでアイテム屋にしておくには惜しすぎるな。もう、軽く一介の軍人より強いし」
「いやぁ、照れるですかねー。今回はすぅぱぁトマトをお見せ出来たですからねー!? レンゴク・トマトですよー!」
「そうだね……お姉ちゃん、私、何だか疲れちゃったよ」
「おいコラ、ミル! 変な死亡フラグを立てるんじゃあない」
にへへ、っと頭を掻きながらそう言うトマト、安堵感に包まれているラン。そして、恐らくは漫画の影響であろう台詞を口にしているミル。
そんな3人を見ながらミリも、やれやれと笑っていた。所々やはり疲労はあるようだから、肩で息をしているが、皆は問題はなさそうだ。
「はいはーい。ご利用は計画的に。疲れた人、けが人、まとめてここに来なさ~い。後払いサービスでヤってあげるわよ~」
ロゼはパンパンと手を叩きながらそう言う。
彼女自身は、召喚したダ・ゲイルが戦っていたから、負傷していない様子だ。ただ、流石に疲労感はあるようだ。所々で大きく息を吸い、吐いていた。丁度深呼吸をする様に。
「……お疲れさん。かなみ、志津香」
「あ……ユーリさんもお疲れ様です」
「……お互いにね。ユーリ」
かなみも志津香も大丈夫そうだ。
一先ず、カスタムは無事窮地を切り抜けた。
リーザス軍の4000もの兵士達はそのまま、敗走していったヘルマンを追いかけラジール方面へと向かっていった。どうやら、そちらも一気に解放する様だ。
「はぁ、攻めるのに夢中になったか? 少しくらいはオレ達を労っていってもいいだろうに……な?」
ユーリはため息を吐いていた。
リーザス兵達は、怒涛の勢いでヘルマン兵達を殲滅していった。4000対2000。数では圧倒的に優っている上に、兵達の士気も落ちているヘルマン。蹂躙するのは時間の問題だった様だ。
……だが、その勢いのままに、この場所から一気に消え去っていった。
「まぁ、洗脳が突然解けて その勢いで一気にって感じだったからね……。多分ここがカスタムだって事も判ってないと思うし……ぁっ」
志津香は、バランスを崩し倒れそうになった。疲労感は連日の無理が祟ったのだろう。そして、終わった事で緊張の糸も切れた様だ。倒れてしまう寸前で、ユーリは志津香を支えた。
ぽとり……と志津香の帽子だけが地面に落ちる。
「……よく、頑張ったな、オレ達の勝ちだ。町は救えたよ。……大切な場所を、な」
ユーリはそう言うと、志津香の頭を軽く抱きしめ、数度軽く叩いた。
「……うん」
志津香も涙目になり……、ユーリに身体を預けた。町も無事だった、そして皆も……。恐らくはラジールに向かったであろうマリア達も無事だろう。……ランスは知らないが、マリアは無事だと、何故か志津香の中では決めつけていた。
カスタムの一行は、とりあえずカスタムの町で休息を取る事にした。
ラジール方面はとりあえず、リーザス軍に任せると言う形でだ。それは、ユーリが皆の消耗を見てそう提案した。本来は、丸一日くらいはと思っていたのだが、ラジールにも大切な友人がいると言う者もいて、そしてマリアがまだ戻ってきていないと言う事もあり、少し休息を取ったら、そのままラジールへと行く算段にしたのだった。
「……申し訳ない。ワシらが不甲斐ないばかりに……」
洗脳から解けたリーザスの将軍、バレスもユーリの峰打ち、とは言え 相応の深手を負っていたが、ロゼの治癒、そしてヨークス姉妹の薬で、何とか快復は出来たようだ。……そんなに簡単に復活出来る様な傷じゃないと思えるが……、そこは年の功と言うヤツだろうか。
「相手は魔人だったんだ、無理もない事だ。……終わった事を悔いるより、これからの事を考えよう。ラジールには、バレス将軍。貴方も同行してもらいたい。その方があちらの兵達とのコンタクトも取り易いからな。その身体を酷使させるようで申し訳ないが」
「いや、老兵とは言え まだ終わってないのも事実です。もう落としたも同然の命。……この命の限り戦いましょう」
バレスはそう力強く頷いた。
そして、カスタムの軍勢も皆ラジールへと向かう事にした。町は物資が不足していると言う意味でもラジールの方が条件が良いのだ。……完全に解放出来ていればの話だが。
「恐らくは、全兵士をこちらに投入してきていたんだ。そして、あの勢いなら問題ないだろう。……一応警戒はしておくがな」
ユーリはそう言うと剣を鞘から少し引抜き……また収めた。
その姿は何度も見ている。何故だか判らない。……何か、凄く頼りになる仕草に見えていたのだ。それは、彼の癖である。その癖が出ていた時の仕事は全て完遂出来ているのだ。
それが皆にも伝わったのだろう。
そして、拠点をカスタムから、ラジールへと移動をした。
ユーリが言ったとおり、リーザス軍はラジールの解放を問題なく出来ていたようだ。町の入口に立っていた門番は、ヘルマン兵ではなくリーザス赤の軍の兵士。初めこそは、警戒をしていたが バレスの姿を見てその警戒は完全に解かれた。白と紫、そして黒の将軍の不在は軍の不安を煽っていたが、彼らが戻ってきた事で、更にリーザス軍に活力と活気を与える結果となったのだ。
それだけでも、ここに来た事で良かったと思えていた。
~ラジールの町・カスタム司令部~
「マリアっ!」
ラジールの町には簡易的なカスタムの司令部を作っており、そこにはマリアがいたのだ。
彼女の司令官としての実力は本物らしく、洗脳されている間でも その手腕はリーザス兵しの脳裏に残っていた様だ。ラジールの町を解放する際に、迅速且つ的確な指示を送って瞬く間にラジール解放軍の司令官に抜擢された程だった。
「し、志津香ぁぁ!! それに皆もっっ!! うわぁぁんっ よ、よかったよぉ~!!」
カスタムから駆けつけた皆は、一斉になだれ込んだ。もみくちゃになりながらも、互の無事を確かめ合い、喜び合っていた。
「……ふぅ。お疲れ様。マリア」
「ユーリさぁぁんっ!!」
マリアは、ユーリに思い切り抱きついた。
「あぁんっ! あ、ありがとう~!! 皆を救ってくれて~~!」
「ははは、落ち着け。まだまだこれからだ。……もう少し涙は取っておこう」
「う、うんっ……」
「あああっ!! マリアさん、ずるいですかねーー!! まだ、ユーリさんとのメイクラブ券は誰ももらってないはずですかねー!」
「へ? メイクラブ券?? 何それ?」
「馬鹿な事言わないの! ほら、ユーリも離れる! 収集がつかなくなるでしょっ!」
「ユーリさん……はぁ、トマトさんのよーに強気でいけたら……わたしだって……。それに、マリアも羨ましい……」
それは、ほんの少し前まで戦争をしていたとは思えない雰囲気だった。
志津香は、マリアとトマトを必死に抑えていて……、ランは一歩後ろで眺めていた。ミリとミルは話には加わらずニヤニヤしながら眺めていた。それは勿論ロゼも同様だった。
「カスタムを解放し、そしてラジールを解放した。幸先がいいな。……かなみ」
「あ、は、はいっ! そうですね」
かなみはどこか上の空だったようだ。ユーリの言葉で、気を取り戻したようだが、それでも。
「……大丈夫だ。皆救えるさ。リアもマリスも。かなみの大切な人だってな?」
ユーリはそう答えた。
かなみが、何故気落ちをしてしまったのか、ユーリはまるで判っていたかのような口ぶりだった。そして、それは事実だった。かなみは、ラジールの町に自分の親友がいると期待をしていたんだ。
だけど、《彼女》はここにはいなかった。
そして、リーザス軍の人に聞いてみたけれど、やはり洗脳状態ではそこまではっきりとした記憶は残っていなく……、今何処にいるのかも判らないのだ。
「は、はいっ!」
ユーリの言葉を聞いて……かなみの心は軽くなったのだった。
「マリア。本当に大丈夫? 変なこと、されたりしてない?」
志津香は心配そうに マリアに訊いていた。マリアが向かった先は、あの異常なまでの量のラブレターの送り主であり、更に同行者がランスとくれば、何もない筈がない、とさえ思えるからだ。
ランスであれば、如何に敵陣地であっても 迫ってくるだろうと容易に想像がつくから。
「あははは……。うん。ランス達も頑張ってくれて、その操ってる人を倒してくれた見たいだけど、私は、ユーリさん救われたよ」
「ゆー……ユーリが?」
「うん」
マリアは、胸元にぶら下がっている袋の様なものを取り出した。
「これがなかったら大変だったんだから……」
はぁぁぁ……、と深いため息をしながら、マリアは話し始める。
~ラジールの町 ヘルマン司令本部・ヘンダーソンの部屋~
「ランス様、ここがヘンダーソンの部屋のようです。マリアさんも、ここにいる筈ですよ」
「よし、とっとと入るぞ、シィル。マリアの事、忘れてたからな。あのオカマ馬鹿にマリアをヤられるなど、我慢ならん!」
ランスは扉を蹴開けた。その先には意外な光景が広がっている。
「あう……、こ、このっ、猪口才なっ!」
「へ、へ~んだっ!! あんた何かに好き勝手にされてたまるもんですか! 何度来たって、これですっとばしてやるんだから!」
マリアは、縛られているのにも関わらず、ヘンダーソンに蹴りを入れているシーンだった。ヘンダーソンはと言うと、何故か動けない様だ。
「これは、どういう事だ? オレ様はマリアが、ピンチになった所を格好よく助けて、あへあへにするつもりだったのだが」
「マリアさん、ご無事だったようですね」
「あ、ランス! シィルちゃんっ!」
マリアは、入口の方を向いたその時だった。
「ふんっ!!」
「きゃあっ!!」
ヘンダーソンは、マリアが手に持っていた袋の様な物を叩き落とした。
「ふ、ふん。《雷の護符》とは、流石はマリアと言った所ね。お守りのアイテムと違って、攻撃属性が付いてるとは侮っていたわ。 ただ、もう何も出来ないわよね~」
「く、くぅっ!」
ヘンダーソンに取り上げられてしまい、もうどうする事も出来ない。チューリップも無く、もう抗いようも無いだろう。
「ん? 何ですか、あなた達は……、ここは私の部屋ですよ」
「ふん。ピンチには違いなくなったが、もう少し遅く突入した方が良かったか? マリア」
「何でそうなるのよっ!! っというか遅いわよっ! さっさとしてよ! バカっ!」
「マリアさん。ご無事で良かったです」
ヘンダーソンを無視して話をする3人。勿論、ヘンダーソンも黙ってはいなかった。
「不愉快ね。さっきから私の事を無視するなんて……」
「がははは。悪いなぁ。醜い者はどうも視界に入れたくないのでな。ついつい、無視してしまうんだ。オレ様は。オカマで馬鹿は特にだ。がははは!」
「ぶ、無礼な……、この美しい私に、な、なんて事を……!! ……ヘルマン司令官である私を侮辱した罪、死を持って償いなさい!」
ヘンダーソンは、完全にランスに向き合った。相手は丸腰。何が出来るのか?とランスは余裕の表情だ。
「くっくっく、私の事を甘く見ているようですが、私は、変身する能力により、ストーン・ガーディアンになる事が出来るんですよ」
「ああ、志津香の屋敷で戦ったあれか。大したこと無さそうだな」
「ら、ランス様……大変でしたよ?」
「うるさい」
「ひんひん……」
変身能力を聞いたと言うのにランスはまるで変わらない。だから、業を煮やしたヘンダーソンは更に続けた。
「そんな減らず口をたたけるのも今のうちよ! さぁ、変身してひねり潰してくれるわ!」
「ふん。さっさとしろ」
「して欲しくないです……」
「そんな……」
ストーン・ガーディアンの厄介さを知っているマリアとシィルは、かなり動揺をしているが……、やっぱりランスは変わらなかった。
「……後悔させてやるよ」
それは、突然だった。先ほどまでの猫なで声が信じられない程の野太い声となり、低く室内に響き渡るのだ。
「おお?」
流石のランスも驚いたのか、目を見開いていた。
「てめぇらごとき、羽虫が邪魔して瓦解するほど、ヘルマンは脆弱じゃねぇ! さっきのオレに対する暴言の罪。ヘルマン第3軍大隊長直々に、裁いてやるよ!」
野太い声と共に、身体が変身しているようだが、それは足先が少し石化しただけだった。
「ハァァァァァァァッ!!」
気合と殺気が等しく入り混じっているのだが、肝心の変身が遅い。
「………」
「えーっと……」
シィルとマリアは、初めこそ怖がっていたのだが……途中から変わっていた。
この速度なら、一体いつになったら、ストーン・ガーディアンに変身出来るのか?と思っていたようだ。声もただの威嚇程度にしか聞こえない。
「おい、まだかかるのか?」
「ハァァァァァァァァァッ!!」
「無視するとは 死刑だ! このオカマ野郎!! 死ねーーーっ」
ランスは、一切躊躇せず、剣でヘンダーソンを斬りつけた。
「ぎゃあああっ!!」
当然だが、無防備にその一撃を受けてしまった為、盛大に血が流れる。血とともに、先ほどの威圧感もすっかり霧散してしまっていた。
「ちょっ、あんた……まだ、こっから……」
「長いわ! それにオレ様を無視しただろうが!」
「き、気合を入れてたら、声なんか聞えないわよ……」
「しるか!」
ヘンダーソンは、力尽き その場に崩れ落ちた。その真の力とやらを一切発揮すること無く。
「はぁ、気持ち悪い! 漸く死んだか。まったく、気持ち悪いだけでなく、変なオカマだったぜ」
ランスは、剣に付いた血を振り払いながら、一息ついていたその時だ。
「ぐぅぅぅぅっ!!」
「うおっ!? 生きてた!」
相応の手応えがあり、血溜まりも出来ていたのにも関わらず、ヘンダーソンが再び野太い唸り声を上げたのだ。だが、ランスの発言を訊き、首を左右に振っていた。
「ぐふっ……、いえ 最後の足掻き、この傷じゃ、もう ダメね……」
ヘンダーソンは、血まみれになりながらも、先ほどの突然の変貌、ヤクザじみた雰囲気も完全に消え去っており、何故か判らないが、ランスのほうを暖かい眼差しで見つめていた。
「取るに足らない、男、だと思ってた。……そ、そう、言うならば 紛れ込んだにゃんにゃん……。なのに、その実 獅子だったなんて……、惚れちゃいそう、ね。食べちゃいたいくらい……。せめて、最後は私を殺した胸で……」
死ぬ死ぬと言っている割には、随分と饒舌に回る口。ランスの方に擦り寄ってきていたので、ランスはすかさず。
「とっとと死ね」
男の、それもオカマの申し出など、受け入れる筈もなく 剣先をプレゼント。
「ぐええええっ!!」
流石のヘンダーソンも、全く動けない所に、深々と突き刺されてしまえば、もうどうする事も出来ない。ヘンダーソンは、そのまま大の字になって仰向けに倒れて動かなくなった。
ヘルマン軍 第3軍大隊長 ヘンダーソンの最後である。
「はぁ……、ほんっと気持ち悪かった」
「がはは。流石オレ様だ。……だが、不愉快極まりないオカマだったな。さぁ、マリア! オレ様と続きをするぞ? あんな醜いやつの事など、忘れさせてやろう! というより、オレ様もとっとと、忘却する!」
「馬鹿言わないで、今もカスタムの皆が必死で頑張ってくれてるのに。今はリーザス兵を操っている魔法使いを叩くのが先決でしょ!!」
「それなら、もう終わった」
「……えっ!」
マリアが驚愕するのも無理はない。時間が遅い、とは思っていたマリアだったが、まさか もう既にカスタム側が勝利していたとは夢にも思っていなかったのだ。
「がははは! オレ様にかかれば、ちょちょいのちょーいだ! さぁ、お礼のSE○だ!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! まだ、皆が無事かどうか……、先に確認させてよ!」
「む。……確認したら、ヤらせて貰うぞ」
「わ、判ってる。それは約束するから……」
マリアは、渋々、と言った表情を無理矢理作っていたのだが、明らかにまんざらでもない様子だった。
そして、シィルは マリアが落とした道具を返した。
「はい、マリアさん。これ……」
「あ、ありがとう。シィルちゃん」
返したのは、ヘンダーソンに取られていた雷の護符。
「これ……どうしたんですか? 私も見た事がありませんね。お守りのアイテムならあるんですが、攻撃作用のある物なんて……」
「ええ、これはユーリさんから渡されたの。万が一危なかったら使えって。……あの日の夜に渡されたのに、私ってば、直前まですっかり忘れちゃってて……」
マリアは苦笑いをしていた。
あの日の夜。
即ち、志津香をからかって遊んでいたあの日の夜だ。頬に響く痛みのせいで、すっかりと忘れてしまっていた様だ。
「何でも、高位の魔法使い、それもカラーの人から貰ったんだって。恩がどうとかって。こんなアイテムくれるなんて、流石はユーリさんって感じよね?人徳と言うか、誠実と言うか……、はぁ、ランスも見習って欲しいわ」
マリアはそう言ってため息をしていた。
ランスは、ヘンダーソンの部屋を物色していたようだ。媚薬を手に取って、ニヤニヤと笑っているのが判った。この後使われるかもしれない、というのに、マリアはやっぱりまんざらでもない様子。
「(うぅ……、マリアさんもランス様の事を……、かなみさん達の気持ち……私もよく判ります……。ひんひん……)」
シィルは、そう思うと 何処か悲しくなってしまっていた。
~ラジールの町~
そして、場面は元に戻るその後。
「さてっ…… ここで皆に伝えておかないといけない事があるわ」
マリアは、ある説明に入った。
それは、この解放軍のあり方についてだ。これまでは、カスタムの町を解放する為に《カスタム解放軍》そして、ラジールを解放するために《ラジール解放軍》と銘打っていた。
だが、今はリーザス軍とカスタム防衛軍が合流し、両方にとっての共通の敵、ヘルマン軍を打ち倒す為に、《リーザス解放軍》へと名前を改名する事にしたのだ。
つまり、今後はカスタムの防衛だけには留まらないと言う意味をも示している。
「1つの戦いが終わったばかりだけど、まだ敵の総本山は残っているの!」
マリアは力強く白板を叩いた。
「皆さん……お願いします。手を……手を貸してください」
かなみは、頭をすっと下げた。そのかなみを見て皆笑顔になる。
「当然だな! ヘルマンにヤられた借りは 倍以上にして返さなきゃ気がすまないってね」
「私もっ! お姉ちゃんについてくんだ!」
「ヘルマンなんて、ちょちょいのちょい~! っとやっつけるですかねー! ユーリさんがいるんですから、らっくしょー! ってヤツですかね!」
「私も異論はありません」
「かなみは、もう私たちの仲間なんだから。仲間を助けるのは当然でしょ?」
誰ひとりとして反対する者はおらず、この場にいる皆が笑顔で答えてくれた。
「み、皆さん……」
かなみはまた、目をうるわせた。こんなに暖かい人達に囲まれて……自分は幸せ者だって、思えたのだった。心を温めてくれる人たちがいて、強くさせてくれる好きな人が傍にいる。だから、自分は自分でいられる。かなみはそう強く思っていた。
「今後については、また明日の方が良くないか? バレス将軍も強制的に眠ってもらったし、他の主要の軍の人も同様。皆も今は疲れてるだろう?」
ユーリはそう提案をした。
休んでもらっている事もあり、この場所には、もうリーザス軍の人は誰もいない。主要人物として、バレスに関しては、まだまだ動けると、残ろう言っていたが、顔色を見て無理だと判断した。
だから、ユーリはあの時と同様の手段を使ったのだ。
体力が落ちている者には極めて効きやすい意識を奪う力、《スリープ》だ。ただ単純に眠らせる魔法だから、体力の快復にも使える力だ。無論それは安全地帯に限るが。
「きょ、強制的って……」
「ワイルドなユーリさんも良いですかね~!」
若干引いてしまっている者もいれば、変わらない者もいた……。
「ユーリ……あんた、怪我人に手荒な事したんじゃないでしょうね?」
「って、違う違う。本当に眠ってもらっただけだって。今後の仲間に 想像した様な無茶はしてないって。当然だろう……」
ユーリはため息をはいた。それは、自分の言い方が悪かった事もあるだろうが。
「それに、あの人たちは際限なく無理をし続ける。軍人だからと言えばそうだが……今は少しでも休んでもらう必要があるだろう? 他の将軍もそうだ。不本意だが、深手を負わせてしまったからな。エクス将軍とバレス将軍の2人は 特に。あの手練相手に、加減は出来なかった」
ユーリは思い返しながらそういった。
できる限りは、傷つけずと思っていたのだが、あの手練たち相手にそんな気遣いをしていたら、自分がやられてしまうと判断したのだ。その判断は間違っていないと思える。単純なレベルであれば、恐らくは優っていると思えるが、軍人としての歴戦の戦いの記憶が五体に刻まれている将軍だ。
それは、その力の真髄は、決してレベルだけじゃない。負ける可能性だって十分にありえた事だから。
「そうね……」
志津香も一応納得してくれたようだ。だが、ユーリが言っていた中には無論彼女たちもはいる。
「だから、だ。皆も休んでくれ。一先ず驚異は去ったんだから」
カスタムの皆にそう諭した。
ミル自体は、もう既に瞼が落ちかけているし、ミリも、元気いっぱいだと思えるトマトも明らかに疲労感は流石に出ている。志津香とランは言わずもがな。魔法を使う者は精神的に疲労も来るのだから。そして、前線で戦っていた戦士達も当然疲労は貯まる。
「そうね。ユーリさんの言うとおりだわ。今日のところは皆休んで。ラジールの屋敷を使わせてもらえるから」
ユーリとマリアの言葉を聴いて、皆頷いた。そして、皆は其々司令部から出て行った。
ただ、ユーリにはまだ聞きたい事はまだあった為残っていたのだ。それは、マリアと共にラジールへと向ったはずの男のこと。
「……マリア、ランスとシィルちゃんはどうしたんだ?」
「あ~……はは。ランスは面倒くさいって言って先に宿に戻ってるわ、シィルちゃんも今回は頑張ってくれたから、ランスと一緒に戻ってもらったの」
マリアは苦笑いをしていた。どうやら、忘れていた様だ。そして、もう1つのことも……。マリアの顔を見たら大体察すると言うものだ。
「はぁ……どーせ、ランスに『後でたっぷりお礼をしてもらおう! がはは~!』とか何とか言われたんじゃないのか?」
「う゛……」
マリアの表情が更に引きつった。どうやら、図星だったようだ。
「はぁ、……アイツの笑い方の真似なんて止めてよね」
志津香はユーリに苦言を言っていた。疲れている時にあの男を思い出すのは苦痛以外の何でもないからだ。
「やれやれ……、疲労回復に努めようとするのに、更に疲れに行ってどうするんだ」
「でも、蔑ろにしたらアイツ……ヘソ曲げそうで。それに一応助けてもらってるし。それに私は、約束もしちゃってるし………」
マリアは満更でも無い様な様子でそう言っていた。
心底嫌なのなら、間違ってもそんな事は言わないだろう。だが……。ランスは兎も角、マリアや他の女の子でも、今はあまり宜しくないだろう。1つの戦いが終わったばかりなのだから。
「……はぁ。オレが何とかする。だから、マリアも休んでてくれ」
「ええ?」
「一体何するつもりなの? ユーリ」
「ん、任せておいてくれ。一応アイツの操縦は もう随分と慣れてきたもんだから。ルーチンワークってもんだ」
ユーリは手をひらひらと上げて……出て行った。
「うーん……なんか怪しいわね。アイツ、何か隠してる気がする」
「あはは、やっぱり志津香はユーリさんのk「ふんっ!!」い、いふぁいっ!」
マリアが何かを言う前にさっさとその頬を抓る志津香。
「いふぁいっ! ふぃ、ふぃがふっ!」
「ん?何が違うのかしら~??」
志津香はマリアの言葉が判っているようだ。何度も同じやり取りをしてるから、翻訳できるようになったようだ。
とりあえず、志津香はマリアの頬を離した。妙なことを言おうものなら、もう一度、と狙いをつけつつ。
「いつつ……、もー、気になってるよねー、って思っただけよ……」
「同じことじゃないっ!」
「で、でも……やっぱり、心配だもん。付き合いも一番長いしね。……志津香には幸せになってもらいたいし」
「っっ!? な、何を……」
まさかの言葉に志津香は思わず言葉を詰まらせた。
「でもさ、ユーリさんって、すっごく 皆に慕われてて……ユーリさんを好きっていう人多いでしょ? ……自分に素直にならないと、志津香。取られちゃうよ」
少し真剣な表情のままにそう言うマリア。半分は真剣。半分は面白いから。だけど、半分は真剣なんだ。親友だから、幸せになって欲しい。カスタムの中で、一番古い付き合いだから。
それを訊いた志津香は、やや顔を俯かせた。
「(よしっ、もうちょっとかな……)」
マリアがしめしめと思っていたその時だ。いつの間にか、志津香の手が自分の顔の前に来てて……。
「あいたっ!?」
デコに思いっきりデコピンを喰らわせられた。
「……付き合いが長いのは私だって同じよ。マリアが真剣なのか面白がってるのかくらい分かるわよ」
ため息を吐く志津香。勿論、マリアだって半分は真剣だって言うのも判ってる。
「それに、全然人のこと、言えないでしょ……」
「っ!? な、なんのことかしら??」
やぶへびとはこの事であり、ブーメランの如く自分の方へと帰ってきたのだった。
~技紹介~
□ レンゴク・トマト(スペシャル?) (オリ)
使用者 トマト・ピューレ
ユーリの事を一生懸命見ていたトマトが編み出した? 剣技。その漆黒は 上手くいけば視界を奪う! 勿論、剣だから斬れるので それも注意。その暗黒の正体は彼女がユーリから学んだ煉獄、闘気・殺気なのだろうか!?
……因みに、仲間達も盛大に被害を被った模様。
~魔法紹介~
□ 粘着地面・蒼引(半オリ)
使用者 魔想 志津香
主にランスに使用している足止めの魔法の粘着地面の応用技。通常の粘着地面よりも広範囲であり、流動性のある液体をもくっつけてしまう。その分集中力と魔力を消費してしまうので、通常の粘着地面と違って、乱用は厳しい。
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